2020年2月17日月曜日

2020年2月16日(日)YBCルヴァンカップ グループステージ第1節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 ~リクウvsベジータ~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 人生には避けられないものが3つあると言われる。死と、納税と、ルヴァンカップだけのためにスカパーに3,000円を支払うことだ。
 U21枠は札幌は檀崎、鳥栖はユースから昇格1年目にあたる松岡と本田。札幌は候補者が檀崎と藤村だが、代替しても機能性を大きく損なわない”育成枠”は、基本的にはサイドのプレイヤーであることが多い。センターラインはなかなか変えられない。その意味ではアウトサイドに挑戦している檀崎の方が有利だろう。鳥栖の、インサイドハーフ2人が18歳というのはなかなかチャレンジングだが、それだけ下部組織に力を入れていると言えるのかもしれない。
 他会場もそうだが、リーグ戦開幕1週間前のゲームということで、ほぼベストメンバーをどのチームも揃えている。オフに小野、三丸、クエンカと主力の流出が相次いだ鳥栖は、金監督曰く「これがベストメンバー」(パク ジョンスのアンカーはジェイ ボスロイド様対策かと思ったが、そういうわけでもないらしい)。

1.基本構造

1.1 左利きの優位性


 「キャンプではこれまでとは違う守備のやり方の、ハイプレスに挑んでいます!結果、川崎フロンターレに大敗しました!」札幌のキャンプ報道を三行で示すとこんな感じだった。が、この試合での札幌は所謂「ハイプレス」はやっていなかった。プレスとは、相手のプレーの選択肢を限定させて、選択肢が乏しい状況に追い込み、文字通り圧力をかけていくやり方だが、それは普通のことだ。「ハイプレス」というと響きがいい。日本人はキャッチーな言葉に弱い。どこからか知らないが、これまでとそう変わらない現象が、そのような解釈になったのだろう。

 どっちかというと「ハイプレス」っぽかったのは鳥栖の側。トップに金崎、その脇に小屋松と安庸佑を並べ、金崎が中央を切って札幌の左右の選手…基本形は右に宮澤、左に高嶺で、どちらかに出されるとコースを切りながらプレス開始。場合によっては、松岡と本田とで選手を受け渡して対応するが、この両選手はボールサイドに寄ってくる荒野を見るのが本来の仕事だ。

 ここで、小屋松は比較的自由に動けたが、安庸佑は二正面作戦気味だった。というのは、福森が進藤以上に高めの位置取りをする(これは前からそうだ)ので、高嶺と福森を両方、守備範囲に入れるのが難しくなる。
 どっちを捨てていいかというと、普通に考えれば高嶺。なので高嶺が比較的、ボールを受けられるシチュエーションが多かった。

安庸佑は二正面作戦気味

 といってもそれは一瞬で、10秒も20秒もフリーでボールを持たせてくれることはない。安庸佑が行けなければ松岡が高嶺を監視する。
 ここで際立っていたのは左利きの優位性。左サイドでは体の左側でボールをキープするのが基本。右…というか中央側は、相手選手がいるためだ。高嶺は左足で持ちながら、持ち替えることなくそのまま左足でロングフィードを蹴れる。鳥栖のようなハイプレスで時間を与えてこないチームには、持ち替える手間がないのは非常に大きな優位性だ。
 肉離れで欠場の深井は、右で持つ場合と左で持つ場合を切り替える。ただ、左で持った時に右足に持ち替えないと長いパスは蹴れないし、右足だと、右サイドに展開する際には体を開いて蹴らないといけない。
持ち替えずにスムーズにフィードできる

 高嶺にこの役割が務まるとするなら、福森が下がらなくていいメリットがある。福森の左足は、ビルドアップからフィニッシュに至るまでどこでも武器になる。後方においておけば、得意のサイドチェンジで相手数人を飛び越えて敵陣に侵入できるが、攻撃の崩しの局面に福森を投入することは難しくなる。
 2019シーズンから、ミシャは福森を前目で運用したいように見える。この試合、ソンユンからタッチラインに張る福森へのフィードが何回かあったが、これは進藤と異なる役割でもある。進藤は後方の選手と近いポジションを取ってボールの逃がしどころを作りながら、ゴール前を守る役割。福森はより前で動き、攻撃を組み立てるフリーマンだ。左利きで、後ろから組み立てられる高嶺の存在は、この構想に一役買っていた。

1.2 鳥栖の狙い


 鳥栖のボール保持時は、まず右の安、左の小屋松の両ウイングがタッチライン際に開くポジショニングが目に付く。一般にこれは相手のDFを横に広げたいとの意図がある。サイドにオトリを置いておくことで、中央を手薄にできるが、中央に比べてサイドがしょぼいと、結局サイドは捨ててればいいじゃん、になるのが後期のペップバルサ(ウイングはカンテラーノのイサック クエンカらが起用されていたが、クエンカを捨てて中央のメッシ包囲が定石だった)。
ウイングが張る

 シャビもイニエスタもいない鳥栖はサイドから前進を企図していた。札幌の檀崎と菅が高い位置取りを命じられているのとは違い、小屋松と安は、SBからグラウンダーでパスを受けられるよう、縦に離れすぎないポジションからスタートしていた。
 すると、札幌の対面の檀崎や菅は、小屋松と安を捕まえるために前進してくるので、その背後は空きやすい。ここに人を走らせてスペースを占有しようというのが一つの狙いだったと思う。
ウイングは引き気味で札幌WBの背後を狙う

2.理不尽な晩冬

2.1 必然の選択肢


 「ロングボールによるビルドアップが多かったので内容には不満!!!」ミシャおじいちゃんの(開幕後)初ぼやきが記録された。もっとも鳥栖相手だとロングフィードが多くなるのは仕方ないというか、選択自体は間違っていない。
 鳥栖の前線守備は1列目の3人で限定させ、2列目以降は人を捕まえる意識が強くなる。札幌は、チャナティップがいる左サイドでの地上戦が得意だが、それこそ左で高嶺が持った時に、鳥栖は落ちてくるチャナティップを宮がマーク、大外の菅はSBの森下、残り2人のDFもボールサイドにスライドしてジェイと武蔵を捕まえる。なので、ここで勝負するのは非効率だ。人がいないところに選手を置いて、そこにボールを蹴ったほうがいい。高嶺は反対サイドの檀崎だけでなく、ジェイにもDFラインの裏に走らせるボールを蹴っていたが、これはまったくもって正しい。
 寧ろ、おじいちゃんにうるさく言われ続けて3年目のソンユンが頑張ろうとして(=ボールを大切にしようとして)パスミスからの中央でカウンターを招いていたが、どちらがチームを助ける便益があるかは明白だ。
鳥栖の守備からエスケープするパス

2.2 ジェイと金崎


 端的に言うと、この試合で札幌と鳥栖の差を決定づけていた存在はジェイ ボスロイド様だ。ジェイと金崎に共通した役割は、最前線でフィードを競って味方に時間を与えること。先述の通り、鳥栖はウイングがワイドに開く3トップで金崎は孤立気味、中央に札幌はDF3枚がいるので普通に考えると分が悪い。
 金崎は工夫する。札幌のDFではなく、高嶺と競っていたのはその一環だ。しかし高嶺は簡単に怯まないので、これはアディショナルタイムが長くなる以外の意味はなかった。
 一方のジェイ。ジェイが競ったボールが100%札幌にこぼれるまではいかないが、ジェイがDFに体をぶつけると、蹴ったボールがすぐに返ってくることはない。クリアできなければ、その時間を使って札幌は押し上げ、鳥栖は後退を余儀なくされる。他にも菅や白井(後半頭から投入された)がサイドで詰まった時もとりあえずジェイに蹴る、で解決を図っていた。
エドゥアルドに圧勝

 そのジェイが14分に福森の左CKに合わせて札幌が先制。ゾーンで守る鳥栖相手に完璧なクロスとヘッド。理不尽な得点だった。前半の枠内シュートは両チーム合わせて、この1本だった。

3.リクウvsベジータ


 前半のラスト15分頃から鳥栖のウイングの仕掛けが増える。ポジショニングは相変わらず低い。攻撃の選手は前で張らせてもらって、ボールが来たら好きなタイミングで仕掛けられるのが、楽にプレーしたいなら一番楽だ。小屋松や安のように、スタートポジションが低いと、低い位置で突破に成功しても、最後の肝心なところでエネルギーが残っているか?という問題がある。ハンス・オフトが下がって受けたいキングカズに「カズ、ダメヨ!!」と度々叱っていたのは有名な話だ。

 小屋松は難しいミッションを何度か成功させる。檀崎と対峙した段階で、こいつならいけるなというのがわかるのか、普通に考えれば無理もないがこのサイドでのパワーバランスは鳥栖が優勢だった。
 それは札幌も織り込み済みで、檀崎が突破されると進藤がスライドしてカバー。突破されなくても、檀崎が前線と連動して高い位置をとり、SBの内田にアタックした時は同じ構図(進藤がサイドに出張)になる。鳥栖は進藤を誘い出して、札幌が中央2枚…キャプ飯コンビになるとクロスで対抗。36分頃には、本田のクロスに松岡が飛び込んでボールに触るまではできていた。
低い位置から小屋松が単騎で突っ込んでくる

 後半は小屋松の対面が檀崎から別の金髪(白井)に代わる。61分に小屋松が見せた、ハーフウェーライン付近からの突破が典型だが、低いポジションを取ればとるほど、最終ラインの大外を守る仕事を持っている札幌のWBは捕まえにくい。正直なところセオリーには反しているが、スピードに乗った時のアクションは進藤もカバーしきれない破壊力だった。
 71分にも小屋松-進藤のマッチアップから鳥栖にシュートチャンス。直後の72分が鳥栖の最大のチャンスで、ソンユンのミスパスから回収、小屋松の大外を内田がオーバーラップしてしてクロス。安のシュートは駒井がライン上でブロック。
 鳥栖の攻勢が続くが、81分のFKで福森が右サイド、角度がないところから虚を突いたキックで高丘のニアを破って2-0。これで勝負は決まった。

4.雑感


 勝敗に直接影響したのは、理不尽なウェポンを持っているか否か。このあたりは水物で、3発も炸裂する時もあれば沈黙する時もある。
 それでも、新しい選手を起用して、課題も残しながら、3-0で勝つというのはある意味で一番いいシチュエーションかもしれない。競争意識が芽生え、メンバー外の選手にポジティブな影響を与えるだろう。
 個人的には攻撃面で良かったと思う選手はジェイ、守備面では宮澤。攻守両面で高嶺。

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