2020年1月7日火曜日

北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(3) ~選手個別雑感その1~

北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(1) ~偽りの2人と偽れぬ要~

北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(2) ~失速の背景~

前目の選手編。感じたことのメモ。
公式戦で目にする機会がない(少ない)選手は割愛。


・FW9 鈴木武蔵


 リーグ戦では32試合にスタメン出場し、リーグ5位タイの13ゴール(うちPK2)、カップ戦でも6試合で7ゴールと得点王に輝き、クラブ史上2人目の日本代表に選出された。主要なスタッツのうちほぼ全てがポジティブなものが並ぶ。V・ファーレン長崎から24歳の”近未来の日本代表”の一本釣りに成功したことで、野々村社長はしてやったりだし、(恐らくは)それなりの違約金を支払っての獲得だったと考えると、三上GM及び強化担当はほっと胸をなでおろしていることだろう。
 
 プレーの内訳について掘り下げると、特にポジティブな点として①得点パターンを複数持っている、②ボール非保持時に穴にならない戦術理解力がある、③右シャドーでもプレー可能、なことが挙げられる。
 ①については、ボックス内で味方のパスに合わせるだけでなく、自陣からのロングカウンターのシチュエーションで長い距離を走ってシュートに持ち込む能力は、札幌にはダヴィ以来の能力でチームに大きな戦術的な冗長性をもたらしている。また、オープンな展開では右足を切られても、切り返して左足で枠内にシュートを飛ばすことができる。埼玉での2ゴールや、大勝した日本平での一撃はいずれも見事なものだった。
 ③のシャドーでのプレーも特筆に値する。左利きが望ましいとされるミシャチームの右シャドーで武蔵が定着したのは、上記のベースとなる能力に加え、徐々にシャドーとしてのプレーを習得し、後方のビルドアップ部隊と前線5トップとをリンクさせていた。オフに各チームが前線の計算できる選手の補強に奔走している中、札幌は手を付ける必要がまったくない状況なのは、チャナティップ-ジェイ-武蔵のトリデンテ(3本の槍)の補完性・完成度が非常に高いためだ。

 もっとも、より上に上り詰めるための課題も明白で、DFラインを抜け出してGKと1on1になった後のアクションには改善の余地がある。裏に抜け出す瞬間まではワールドクラスなだけに、それができればもう札幌にいる選手ではなくなるかもしれない。

 memo:無回転シュートを練習しているようで、福森を差し置いてFKから直接狙ったことも1度あった。清水戦のミドルシュートでのゴールなどを見ると、やはり本来の適正はゴールからやや離れたポジションなのかもしれない。

・FW11 アンデルソン・ロペス


 ホーム開幕戦での笑撃の4得点は、1夜にして「サンフレッチェ広島にいたパスを出さない自己中心的なブラジル人」を「めんこいて頼りになるアンロペちゃん」に変えた。4月末に左膝靭帯損傷の重傷を負うまでは、前線のポイントゲッターとして無双状態が続いていたが、負傷から復帰(あの大怪我から1ヶ月半で戻ってくるだけでも特別な選手だが)後は、様々な問題が影響してだと思うが「広島のアンロペ」に戻ってしまい、シーズン終わりまで再び目を覚ますことはなかった。

 一つは武蔵の好調、ジェイの復帰によりシャドーのポジションを失い、出場機会が減少したことによる焦りもあってか、シャドーのポジションを捨てて最初からゴール前に張るようになってしまったこと。開幕当初はよりチーム戦術に忠実で、シャドーのポジション(ハーフスペースのやや下がり目)からスタートし、一度相手DFから消えつつも味方のクロスに合わせてゴール前に飛び出すことができていた。中央に入った先に、武蔵ではなくジェイがいるシチュエーションだとアンロペには最悪(シュートレンジがもろ被り)だ。
 ただ、本質的にはアンロペは味方にスペースを作る選手ではなく、広いスペースを得て暴れる選手であり、その意味で遅攻主体のミシャチームに最適な選手かというと信じきれない面もある。第2節浦和戦で、引いて速攻主体のチームで武蔵と2トップを組み躍動したが、あのような使い方が本来ベストだろう。マタドールというより彼はゴールに飢えた牛だ。

・FW13 岩崎悠人


 年代別代表ではここ数年常にメインキャストとして名を連ねており、鳴り物入りで加入したが、この1年だけを見るとシンプルに「チームの選択ミス」。そのプレースタイルはアンロペ以上に”オープンなスペースで爆走してなんぼ”であり、ミシャチームとの相性は最悪。特にルヴァンカップで、チャナティップが普段遂行している仕事を求められた際は全くのミスキャストで、本人にもチームにも不幸な時間となってしまった。
 何故そこまでフィットしない選手を獲得したのかと考えると、幾分かはポスト・チャナティップも見据え、若くて有望な選手が欲しかったからに尽きるだろう。ただ、遡って考えると岩崎の特徴はいかにも札幌のフロントが好きそうなタイプ(速くてオープンな展開での殴り合いに強い。ダヴィ、キリノ、都倉、ジュリーニョetc…)。湘南ベルマーレへの期限付き移籍を決めた本人以上に、フロントが今後の戦略を再考する契機とすべき1軒だったと思う。

 「CLUB CONSADOLE」から送られてきたパンフレットに掲載されていたインタビューでは、プロになるまでの経緯などが語られていたが、岩崎のそれは「まぁそうだろうな」と思った通りの内容だった(戦術的にどう、とかはプロになるまで殆どなく、とにかくゴールに突っ込んでいくスタイルだったらしい)。この手の選手が年齢を重ね、プレースタイルをチームのオーダー通りに順応させている例も数多くあるが、岩崎の場合は幾分か時間が必要そうな印象で、個人的には湘南ベルマーレで活躍し、似たスタイルのステップアップ先を考えた方が本人にも札幌にも良さそうだと思っている。

・MF17 檀崎竜孔


 青森山田高校で[1-4-4-2]の左MFとして出場していた昨年の高校選手権での数試合を見て、仮説的に思っていたが、現状はサイドアタッカーというよりシャドー。右のバスケス・バイロン選手が突っ込んで混乱を生じさせたところで、中央に入って仕留めるのが檀崎の役割で、この点ではシャドーのポジションがある札幌を選んだ(他にオファーがなかったらしいが)ことは(岩崎とは対照的に)悪くないキャリアのスタートだったと思う。仮にサイドアタッカーとしての看板でのスタートだったら、主にフィジカル面が問題となってプロ1年目のシーズンはより厳しいものだっただろう。

 檀崎は相手がブロックを作って守っている局面で、相手DFとMFの中間ポジションでプレーする資質を持っている。ボールを受けるまでは成立しているので、後はアクションの量を増やしつつジェイのような選手と組ませてもらえれば、2年目はより結果を残せそうな期待感がある。個人的には15年前の桑原剛選手を彷彿とさせる檀崎のギラギラ感(死語)が気に入っており、そこをスポイルしてしまわないためにはより公式戦に近い環境に身を置けるとよいが、現状J2でやるにはまだ線が細いかもしれない。2020シーズンも札幌はスカッドの量的にはそこまで充実していないので(特にルヴァンカップではU21枠から岩崎が抜ける)、チャンスを活かして欲しいところだ。

・MF18 チャナティップ


 数字的には得点数は半減しているが、チームにおける存在感は過去2シーズンよりも更に高まっており、ク ソンユン、キム ミンテらと共に現状のスカッドでは替えのきかない選手だと言える。
 札幌がビルドアップであまり困らないのは、前線にジェイ、ミドルゾーンにチャナティップというクオリティを有している。本来ビルドアップの目的は、敵陣でプレーする選手にいい形(フリーで、前を向け、ゴールに近く、視野を確保し、スペースを享受している状態で)でボールを渡すことにあるが、好調時のジェイとチャナティップはDFを背負っていても仕事ができるので、この2人に預けるだけで札幌は攻撃の形が作れてしまう
 そして相手がアンカーを置く(いわゆる逆三角形型の中盤の)システムを採用している場合、中盤の枚数を合わせてマンマーク基調の守備を展開したいミシャにとって、唯一トップ下が務まるクオリティを備えているのがチャナティップ。敵陣ゴール前で決定的な仕事ができることに加え、守備時には相手のアンカーをマークする、後方のビルドアップを助けることができる、ピッチ全域で機能するマルチな能力を持っているので、ゲームの中で消えている時間が非常に少ない。「ミシャにシステムを変えさせた男」として、その監督キャリアを後年振り返った時に特別な選手として挙げられるだろう。
 2019シーズンの敵はコンディションで、1月にタイ代表としてAFCアジアカップ2019に参戦(グループステージを突破し決勝トーナメント1回戦敗退)、その後も国際Aマッチウィークの度に招集され、また日本とタイ両国のメディアに引っ張りだこだったことで、特に代表活動と無縁な札幌の選手がAマッチウィーク明けにリフレッシュしているのと比較すると、チャナティップは明らかに身体の切れが落ちていた。変則日程となる2020シーズンも断続的に代表活動への招集が想定される。クラブとしてはバックアッパーのより本格的な検討も必要になるかもしれない。

・FW48 ジェイ


 出場23試合(うち先発15試合)で9ゴール。稼働率は来日後、一貫してシーズンの2/3程度で、残りの1/3は故障やコンディション不良で欠場する、この点では”いつものジェイ”だった。それでも9ゴールと2割近いシュート決定率、そしてFWとしてはリーグ最高の空中戦勝率(71.3%)を残しているのは流石で、(恐らく)チーム最高年俸ながら契約延長は当然の判断だと言えるだろう。これだけ計算できる選手を新たに見つけてくるとなると、今ジェイ(とハリー通訳)に支払っている以上のコストが必要になるはずだ。特に同数守備…5バックで守るチームの中央のDFに対し、その背中で相手を抑え込んで起点を作るプレーは健在で、後方の選手のビルドアップにおける負担をかなり軽減していたと言える。
 また、中盤戦以降に右シャドーに定着した武蔵との補完性が優れており、ジェイに当てる→チャナティップが前を向く→裏に走る武蔵へ、の3人だけで決定機を作れてしまう攻撃パターンは相手にとって脅威でしかない。

 ただ、これは印象論だが、磐田でプレーしていた15~16年、そして札幌に加入した17年のようなゴール前での圧倒的な決定力や、ジェイなら試合を決めてくれる、という神通力のようなものは年々弱まっていて、夏場の勝ちきれなかったゲームのいくつかは、好調を維持していた白井他アシスト役の選手ではなく、フィニッシャーのジェイに責任のあるものだった。2017シーズンはでき過ぎにせよ、「点の取り方を知っているから外せない選手」から「必ず起点を作ってくれる(≒ゲームメイクしてくれる)選手」に役割は微妙に変わっていたともいえる。

 なお筆者が2019シーズンで最も印象的だったのは、ルヴァンカップの決勝、川崎の小林に得点を許して1-2となってから、アディショナルタイムに深井のゴールが決まるまでの様子。ベンチの菅野、石川、早坂は立ち上がって仲間に檄を送っていたが、ジェイはベンチに寄りかかって手で顔を覆っていた(ピッチを見たくない?見れない?)。常に自信を持て、とボーイ達を鼓舞するジェイ様でもそんな状態になってしまう特別なゲームだった。

※選手個別雑感その2に(たぶん)続く。

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