2016年8月23日火曜日

2016年8月21日(日)19:00 明治安田生命J2リーグ第30節 京都サンガF.C.vs北海道コンサドーレ札幌 ~外外に意図はあったか~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MF荒野拓馬、宮澤裕樹、深井一希、堀米悠斗、ジュリーニョ、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF櫛引一紀、MFマセード、河合竜二、小野伸二、上里一将、FW上原慎也。
 出場停止明けの増川と、前節休養させた深井がスタメン復帰。同じく出場停止明けのマセードはベンチスタートで、サイドは好調の荒野と堀米。U23韓国代表はリオ五輪で準々決勝敗退に終わり、メダルと兵役免除を勝ち取ることはできなかった。ク ソンユンはこの試合から合流している。
 京都サンガF.C.のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK菅野孝憲、DF菅沼駿哉、染谷悠太、本多勇喜、MF下畠翔吾、吉野恭平、佐藤健太郎、岩沼俊介、FW堀米勇輝、エスクデロ競飛王、イ ヨンジェ。サブメンバーはGK清水圭介、DF内田恭兵、MF山瀬功治、アンドレイ、FW有田光希、キロス、ダニエル ロビーニョ。試合前の段階では、勝ち点50で5位につけている。レギュラーとして出続けていたアンドレイが2試合続けてベンチスタートとなっている理由はよくわからない。石櫃は7/31の第26節以降出場していないが、8/19に左膝外側半月板損傷の手術を行ったとのリリースがあった。

1.前半

1.1 マインドゲームとミラーゲーム


 今期、ほぼ一貫して4-4-2で戦ってきた京都だが、この試合での選択は驚きの3バック、所謂ミラーゲーム。札幌の3-4-1-2に対して各ポジションでの枚数を揃えることでミスマッチを解消させようとする。
 恐らく京都としては、4-4-2のまま戦うと最も問題になるのが自陣ゴール前、札幌の都倉・内村の2トップにジュリーニョも前残りで攻撃に参加するので、4バックシステムによる2枚のセンターバックだけでは守り切れないと判断したと思われる。この試合の序盤を見ても、札幌のロングボールに都倉と染谷や本多が競った際、優勢なのは都倉であったことをみても、3バック(という名の実質5バック)で中央の枚数を確保することで失点のリスクは確実に減少させることができる。
 一方、3バックにすることで4-4-2の場合と比べ、京都は攻撃の枚数を1枚削らなくてはならない。犠牲になったのは山瀬で、堀米・エスクデロ・イ ヨンジェの3トップ気味の布陣を採用しているが、普通に考えれば4バックで山瀬がいる状態よりも攻撃力は落ちている。京都が札幌に合わせてミラーゲームを選択したことで自らの攻撃力を低下させることになったという点では、札幌としては、試合前の一種のマインドゲームに勝利した上で迎えたキックオフだとも言えるかもしれない。

1.2 京都の3-4-2-1の運用と札幌の探り

1)左右非対称の3-4-2-1?


 立ち上がりは両チームとも様子見の姿勢を見せるが、特に京都の慎重さが目についた。札幌がボールを保持すると一端は全選手が自陣に撤退し、まずは守備から入るという意識を徹底する。
京都は5バックで撤退 エスクデロと堀米の位置に注目

 この時、注目したいのは京都のエスクデロと堀米のポジショニング。通常の3-4-2-1(守備時5-2-3または5-4-1)ならばこの両者は同じ高さのポジションを取るが、序盤から京都のセット守備の場面を何度見返しても、エスクデロのポジションは堀米のそれよりも明確に数メートル高い。もしくは堀米のポジションが低く、ダブルボランチの吉野と佐藤に近い高さを取っている。選手特性等から普通に考えれば、5-2-3で堀米は最前線ということになるのだが、堀米のポジションは3センターのインサイドハーフのようにも見える。
 おそらくこの左右非対称のポジショニングは、エスクデロを高い位置に張らせて守備の負担を軽減させると共に、札幌に対してカウンターの圧力を与えることを意図していたと考えられる。

2)アジアの重戦車


 札幌としてはエスクデロが守備しないなら、エスクデロの担当する、札幌から見た右サイドから攻めればいいじゃないか、と思うかもしれないが、仮に右サイドからボールを運び、京都に奪われた際には京都左サイド…韓国や中国でのプレーを経て怪物FWと化したエスクデロの重戦車ドリブルによるカウンターのリスクが一気に露わになる。よって慎重に入るならば、エスクデロのいる右は避けて、札幌から見て左サイドからボールを運ぶという選択が現実的である。結果、序盤はボールを持たせて様子を見る京都vsリスクを避けて左の福森から運ぶという札幌、という構図で試合が進む。
エスクデロは前に残って札幌を牽制する

 上の図は札幌左サイドから運んだ際の対応で、京都の堀米が2列目に近い位置にいるので、福森はフリーでボールを保持することができるが、福森に渡ると堀米は一気に距離を詰めてくる。プレッシャーを受けた福森としても、序盤はリスクを避け、都倉へのロングボール主体で(様子見と共に)攻撃を組み立てていく。

 18:30頃、スカパー!中継解説の長谷川治久氏が「手前側、京都の右-札幌の左サイドの攻防で札幌が押している」と発言していたが、この要因も上記…京都が5-3-2状態になっていて、福森に対して有効にプレッシャーをかけられない、福森はどんどん上がってくるので堀米も高い位置をとれる、という現象によると説明できる。

1.3 急造3バックへの圧力

1)京都の3バックシステムの練度


 札幌対策として3バックの3-4-2-1を採用した京都だが、やはりその練度や機能性は、シーズンを通じて3バックで戦っている札幌と比べると攻守ともに劣る。序盤、ミラーゲームを有効に活用できていたのはむしろ札幌の側であった。
 その最たる例は、京都が3バックで行うビルドアップに対する前線からのプレッシング。札幌は通常高い位置からのプレッシングは行わず、自陣に撤退して中央を封鎖する守り方をとっているが、この日は京都の3枚のビルドアップに対し、前線3人…都倉、ジュリーニョ、内村で数的同数である点を活かし、高い位置から圧力をかけていく。
 真夏の西京極というと、当時背番号9だった石井がドリブルから決勝点を挙げた2007年8月の対戦が記憶に残っている。道民からすると、とにかく夏の西京極は高温多湿で厳しい気候という印象であるが、この試合時刻の京都は気温30℃、湿度53%と、思ったほどの劣悪なコンディションではない。そのこともあり、前半は札幌が高い位置から積極的に走力を活かして京都のDF陣に襲い掛かっていく。
 すると京都は3vs3の構図を崩すようなメカニズムを特に用意しておらず、GKの菅野へのバックパス⇒ロングフィードで回避するという選択をとる。
3バックに3枚でプレッシングを行うと、京都はGKまで戻すことが多い

2)蹴り合う展開なら札幌に軍配


 ロングボールを蹴らせる状況が作れれば、札幌としては増川を中心とする高さに強いDF陣が跳ね返し、またボランチが素早く戻ってセカンドボールを回収するという役割が整理できているため、蹴らせた段階でボール争奪戦は札幌に軍配が上がる。
 下の写真を見ても、京都は最前線で増川と競るイ ヨンジェ、前残り気味のエスクデロは攻撃に参加できている(結果的にヨンジェの落としはエスクデロに渡った。エスクデロ⇒ヨンジェのスルーパスからの攻撃は失敗。)が、もう1人のアタッカーの堀米や両ボランチは上がりきれず、攻撃に参加できていない。3-4-2-1のボランチやウイングバックは、攻守の切り替わり時にポジションを上下させるため非常に運動量が要求されるが、京都の選手はそうした3-4-2-1の性質に慣れていない印象を受ける。
札幌はロングボールに対しては、CBが競る&カバーリング、
ボランチがセカンドボール回収と役割が整理できており、ボール周辺の人数で上回ることができる

3)札幌の前プレが決まる


 そして京都が各ポジションでの数的同数を解消できず、かつ札幌のプレッシングを剥がす仕組みを持たずに繋ぐ選択をすれば、それはボールに襲い掛かる札幌のFW~MF陣の餌食となる。6:30にはハイプレスの成功から札幌がビッグチャンスを得る。京都が札幌のプレッシングに対し、ロングボールで逃げずにつなぐ選択をしたところ、右ウイングバックの下畠vs堀米のところで堀米が引っ掛けて奪う。すぐに前線に走りこんだ深井に堀米からパスが渡り、深井がシュートを放つが染谷のカバーリングに惜しくも阻まれる。
6:30頃
堀米が奪って深井がシュート

 16:58にも同じような形で札幌の前プレが成功する。この時は札幌は前3枚+宮澤の4枚で京都に圧力をかけていくが、京都は3バック+2ボランチで一応5枚を確保できている。写真の局面、吉野→菅沼と渡った時に内村がチェイスすると、菅沼はGK菅野へのバックパスを選択する。3バックの左・本多が開くなどすれば十分回避できると思うが、京都はそうしたメカニズムが未整備であることを感じさせる(加えて選手個々のビルドアップ能力の問題もある)。
 結果この時も菅野からショートパスでやり直そうとするが、札幌のプレッシングに引っかかっている。
5vs4で枚数は確保できているが、パスコースを上手く作れていない

 翻って札幌のビルドアップに対する京都の守備対応を改めて見ると、下の写真、5:38の局面では札幌は深井が最終ラインに落ちて、京都が5-2-3で前から来た時に3vs3の数的同数で困らないような"工夫"を仕込んでいる。ただ、そもそもこの時、京都は堀米が下がった5-3-2のような陣形になっており、3vs3の数的同数を利用したプレッシングを行う意図はないことがわかる。いずれにせよ重要な点は、札幌のビルドアップ部隊の複数の選手…この際は深井と福森に対してかなり緩い対応をしているため、ここを札幌は容易に起点にすることができる。こうした局面を見ても、似た布陣のミラーゲームと言いつつ、その運用は札幌に一日の長があるため、序盤は札幌がやや優勢だったとの印象である。
深井が落ちて4バック化 京都が緩いのもあり起点を簡単に作れる

1.4 変幻自在の左

1)エスクデロの守備免除と札幌の4バック化


 スカパー!解説の長谷川氏は「京都の右・札幌の左が共にストロングポイントでありポイントになる」としていたが、このサイドでの前半の攻防は札幌が圧倒する。この要因を順を追って考えていく。
 まず下の写真、27:21でも見られるように、前半途中から京都は最前列で①エスクデロが守備に加担せず、5-3-1のような陣形で守っており、イ ヨンジェが一人で守備を担っている。この時、札幌は深井が最終ラインに落ちて4バック化し、増川と深井の2CBのような形で、イ ヨンジェはこの2人を1人で見ないといけない。一方、札幌としては深井と増川でボールを運べるので、菊池と福森、特に福森は(増川に近い位置にいてサポートする必要がないため)サイドに張り出し、高い位置をとることができる。
傍観するエスクデロとハードワークするイ ヨンジェ

2)福森の攻撃参加


 ②福森が高い位置でタッチライン際に張っているので、堀米がサイドに張る仕事から解放され、より中央のレーンを狙う。すると京都の右CB、菅沼は堀米と内村の両方を見なくてはならなくなる。更に内村は最前線に張らず、京都のライン間を浮遊するよう半端なポジションをとる。菅沼としては裏を狙う堀米と、引いた位置の内村、両方を見ることは困難になる。
福森が大外を担うと、堀米が外の仕事から解放されて中央へ
菅沼は内村と堀米を見なくてはならなくなるが、この時は堀米しか見れていない
(結果的に福森のクロスが引っかかって攻撃終了)

 図で示すと以下のようになるが、まず最前線でエスクデロが守備をしないところから、京都の守備の歪みは生じている。そして深井や福森がボールを運ぶ、大外に張ってのアタックといった、一般的なボランチやDFよりも攻撃面で+αの働きができる選手が左にいるため、札幌は左サイドでは厚みのある攻撃を繰り出すことができている。これが深井ではなく上里だったら、ここまでドリブルで運べないので、京都の守備を引き付けることができず、福森に展開したところで詰まってしまったと思われる。
最後方での2vs1から生じたアドバンテージをそのまま活かし、前線に運ぶ

1.5 5バックの崩し方:徐々に5-3-2化する京都の綻び

1)5-3気味のブロックで中央を固める京都と左偏重の札幌


 ただ札幌としてもずっと同じサイド…左で展開していても京都の守備を崩すことは難しい。時間を経るごとに5-3-2守備の色が濃くなる京都は、札幌があまりにお約束のように中央から左に展開するので、ボールサイドに5-3ブロックでがっつり寄せ、ボールを受ける福森や堀米がプレーする空間を奪いにくる。サイドでタッチラインを背にして寄せられると、堀米としてはバックパスか、対面の下畠をぶち抜くかという選択肢しかなく、追い詰められた状況では1vs1の勝率も下がってしまう。
お約束のように左ばかり展開するので、京都も一気に左に寄せて圧迫する

2)右の解禁による攻撃の幅


 札幌がようやく右を使いだしたのは12分過ぎ(厳密には、序盤にも一度菊池が自陣からドリブルで持ち込む局面があったが、この時はGKからのリスタートの隙を突いたプレーなので例外とした)。この時の京都の守備対応を見ると、やはり札幌の右サイドに対する守り方も5-3ブロックで守っており、エスクデロは守備に参加しない。
エスクデロはブロックに参加しない、5-3-2のような陣形
中盤は3枚でサイドに寄せる

 中盤3枚で守る5-3ブロックならば、ワントップを残した5-4ブロックとは話は全く異なる。現代サッカーではピッチの横幅を3枚で守ることは不可能なため、ボールを左右に振りつつ「3」の脇にできるスペースを活用することで引いたブロックを攻略する道筋が見えてくる。
 そして札幌は上記の写真の局面で、右の菊池に振ってから、菊池が持ち前の組み立て能力を発揮し中央の福森へサイドを変えるパス。下の写真、福森に渡った時には京都の中盤3枚は左右に振られた直後で、また堀米の脇にスペースができている。ここに都倉が降りてくる。
菊池から中央の福森に振る
京都の5-3ブロックの「3」の脇に都倉が降りてくる

 都倉が福森からのパスを受けると、ややトラップがばたつく(この辺りが、あのフィジカルがありながらJ1では目立った実績を残せていない要因でもある)が、キープしてサイドに張る堀米に渡す。この一連のプレーで再び京都の3センターは右への移動を強いられる。
都倉がサイドに流れながらキープするので、京都の3センターもスライドする

 堀米がマイナス方向に切り込んだ時、下の写真のように京都の3センターは堀米-吉野の間が空いており、ブロック内で待ち構えるジュリーニョへのパスコースができている。ジュリーニョにもCBの菅沼が付いていてスペースはわずかだが、強引にターンして右足シュートに持ち込んでいる。
サイドに振った結果、京都の3人のMFの間が空く

 このように5-3ブロックの攻略は、サイドを変えることで3人のMFを移動させ、ユニットとして綻びを見せたところで選手間やブロックの脇を使うことが重要となるが、札幌は菊池や福森のような選手の存在もあり、かつてに比べるとこうした意図のあるプレーの展開力や精度が見るからに向上している。この日の京都に限らず、引いて待ち構えるだけでは札幌からボールを回収することは難しくなっている。

1.6 外→外攻撃に意図はあったか

1)運ぶことはできるのだけど…


 前半の札幌は左サイドを中心に、ある程度高い位置までボールを運ぶことはできていた。しかしそれでも得点を奪うことができなかったのは、札幌の攻撃は京都の守備を破綻させるには至らないもの…端的に言うと、中央で脅威を与えることができなかったことが大きいと考える。
 一つの局面をみていくと、下の30:46の局面は右サイドから菊池がドリブルで(エスクデロの緩い守備もあり難なく)運ぶところ。ただ菊池がある程度まで侵入すると、京都は3センターがサイドに押し寄せて中央へのパスコースを切る。この時、都倉は(おそらく菊池をサポートしようと思って)ボールサイドに降りてくると、都倉のマーカーの本多もついてくる。
 写真中に白い円で2つ示したが、5-3で守る京都に対する狙いどころは①ニアゾーン、②DF-MFのライン間だが、札幌はボールホルダーの菊池に近い選手がここを使う意図がない。
菊池がドリブルで持ち上がると、京都は中央を切りながらサイドに寄せる

 菊池はサイドに張る荒野に預けて、自分がニアゾーンに走る。一方都倉は更に低いポジションまで下がっていて、全く攻撃に関与することができていない。菊池はこの状況で当然のごとくニアゾーンにインナーラップしているが、この戦術センスは流石である。
 荒野はクロスを上げるが、ゴール前では札幌の内村・ジュリーニョに対し、京都は染谷、菅沼と絞ってきた下畠の3枚で待ち構える。都倉がいればこの空中戦でも札幌がより優位だったが、的がジュリーニョと内村では、ピンポイントのボールが上がらない限り難しい。結果京都に跳ね返される。
菊池のインナーラップがあるが使われず、クロス勝負
完全に中央を固めているのでピンポイントでなければ勝ち目なし

2)崩しには中央に起点が必要


 ブロックの外からボールを動かしていくメリットとしては、中央でのボールロストが発生しにくいのでカウンターを受けるリスクが低下するということがある。ただ、他の試合の記事で何度も書いているが、引いてブロックを築くチームを崩すにはやはり中央(ライン間)のギャップで受けて起点を作り、相手の守備を動かしていくことが不可欠(何度も言うが、中央で起点になれるヘイスは文字通り「モノが違う」)。
 もっとも下の写真の局面を見ても、受け手となる前線の選手の問題だけでなく、出し手…プレッシャーを受けながらも縦パスを出せる選手は、札幌では菊池など限られた選手であり、ヘイスがいないこと以外にも問題点はある。
都倉が3センター脇で受けられる位置にいるが、増川の選択はサイド

 前半の札幌が、外→外のアタックを意図的に繰り出していたかというと、この局面の都倉の動き(一番のターゲットが中央にいない)や、菊池のインナーラップ(崩すうえでは効果的だがポジションを放棄するリスク)を考えると、意図的というより、中央を固める京都によって外に押し出されたと考えるのが妥当かと思われる。

1.7 札幌以上に攻めあぐねる京都


 ここまで札幌の攻撃ばかり書いているが、前半の京都は京都はエスクデロに起因する守備の問題が予想以上に大きく、後方にボールを回せる選手が揃っている札幌からボールを回収することができず、攻撃の機会は札幌がたまにミスをした際の速攻くらいしかない。
 勿論札幌の攻撃が失敗した後のゴールキック等でセットオフェンスの機会はあるのだが、序盤は先に記載した通り、札幌のプレッシングを回避できずボールをまともに運べない。30分過ぎから札幌の前への圧力は徐々に弱まっていくが、京都は最終ラインからの展開に問題を抱えている印象で、京都も札幌と同様にボランチの吉野を落として4バック化し、サイドのDF(下の図では本多)から運ぼうとするが、それこそ福森のような選手と異なり、本多ではそう高い位置まで持ち上がることは難しい。
 結果、エスクデロや堀米が低い位置まで降りてボールに触る展開が京都は多くなるが、前線の3人…エスクデロ、イ ヨンジェ、堀米の距離が開いてしまい、また低い位置まで降りても札幌は菊池や福森が迎撃し、着いていくので、DFを背負い、ゴールに背を向けた状態でしかボールに触れない。前半エスクデロや堀米がカウンター以外で前を向いて仕掛けられた機会はほとんどなかった。 
後方が運べないのでエスクデロや堀米が降りてくるが
選手間の距離が空いてしまう

 特にエスクデロへの、主に菊池によるマンマーク気味の対応は徹底しており、中央から追い出し、かつ前を向かせないように細心の注意が払われていた。
後方から供給されないのでエスクデロが降りて触る
この位置でも菊池が迎撃する
選手間の距離が空いており、エスクデロの周りに出せる選手がいない

2.後半

2.1 マセードの個の力


 後半頭から札幌は堀米→マセード。荒野が右に回り、左右両サイドの選手が変わることになるが、右についてはサイドの専門家・マセードに独力で何とかしてもらう、との意図は明確に読み取れる。マセード投入からの15分程度は、札幌の攻撃のバランスは明確に右にシフトし、54分にはマセードのクロスからジュリーニョのヘディングシュートなど、個の力で惜しい局面を作る。
46分~ 堀米→マセード、荒野が左へ

2.2 徐々に押し返す京都


 一方、前半あまりいいところがなかった京都も後半に入り、攻撃に活路を見出す。京都の改善点は主に、①前線の3選手の距離を近づける、②エスクデロに入った時にレシーバーを確保する、であった。
 ①については、例えば下の写真、55:25~の局面では、サイドの低い位置からやや強引ではあるが、前線3選手が密集したところに浮き球のパス。ただ、こうした浮き球のボールでもエスクデロやイ ヨンジェなら強さを発揮してマイボールにしてくれる可能性がある。結果この時はエスクデロが胸で落とし、札幌の最終ライン(福森が堀米を迎撃しようと出ていた)にできたギャップの裏に堀米が走り込み、サイドの深い位置からクロスを上げている。
前線の選手を近づけたところに、とにかくボールを入れる
エスクデロの落としに堀米が反応

 ②については、後半開始早々に2度ほど見られた形で、エスクデロがサイドに流れて受け、札幌の守備をボールサイドに寄せた状況で、逆サイドを駆け上がる下畠へのサイドチェンジ。セオリー通り手薄なエリアに展開し、札幌の守備が整わないうちに勝負する。
ボールサイドに寄せて逆サイドを使う

 少しずつ京都のパスが繋がり、札幌が簡単にボールを回収できなくなると、"試合の重心"は前半よりも札幌ゴールに近づく。するとやはり札幌は"いつも通り"、DFとMFはゴール前に下がり、前3人が残る形での、前後分断気味の陣形を強いられる。
 もしかしたら、京都としては札幌がこれだけ高い位置からプレッシングを仕掛けてくることは予想外だったかもしれない。前半は札幌のプレッシングを回避しようとして手を焼いたが、後半は割り切ってロングボール中心に切り替え、とにかくボールを前線の選手に届けることを優先した結果、すこしずつ京都が押し返す展開となった。
後半10分を経過しても数的同数でのハイプレスを狙っていく
(菅野は繋がずロングフィードを選択した)

2.3 依然として悩ましい前線の守備


 一方、守備面では後半の京都は堀米を前に出すとともに、全体をやや高い位置にセットした、明確な5-2-3の陣形に変えてきている。京都は前半、札幌の数的同数プレッシングに苦しんだが、京都も5-2-3にしたことで札幌と同じやり方…前3人でのプレッシングができるようになるが、札幌は3バックに加えてボランチの深井と宮澤もボール周辺に配し、必ずパスコースを作ることを徹底する。加えて、京都の前3人によるプレッシングも札幌のそれと比べると連動性を欠き、上手くパスコースを切ることができないうえ、やはりエスクデロの寄せの甘さが気になる。
 結果、後半の京都は前半よりも全体の陣形を高い位置に保っていて、ボールを回収して得点を奪いに行くという気持ちは感じるが、実際にボールを回収できたかというと、前半と同様に悩ましい状況になっている。
フリーの選手を作ってしまい、前3人のプレッシングが機能しない

 また5-2-3にすると、京都は普段の札幌と同じ現象…前線の「3」を突破されると5-2ブロックで対応しなくてはならなくなるという問題に直面している。68分の荒野のミドルシュート(京都DFにブロックされた)も、不慣れな京都の5-2ブロックがサイドに寄せきれず、深井をフリーにしてしまい、札幌はサイドチェンジから荒野がフリーで仕掛ける状況を作れている。
サイドから運ばれると5-2ブロックで対応しなくてはならないが
不慣れな形であり、バランスが悪く寄せきれていない

 むしろ5-2-3にして前に3枚を張らせたことによる効果は、札幌のミス等で自陣でボールを回収した際に素早くサイドの裏のスペースに展開し、エスクデロや堀米を使ってカウンターのチャンスを作りやすくなったことにあると言えるかもしれない。
奪った後は前に残っているFW(&札幌のDFが上がった裏のスペース)を使ってカウンター

2.4 求められる役割の整理


 一方、後半頭からマセードを入れて点を取りに出た札幌だが、マセードは投入直後に2度ほど個人技での突破を見せた後は沈黙する。
 札幌の機能しない攻撃の象徴的な局面を一つ切り出すと、70:05、増川の縦パスをボランチ脇でマセードが受ける。なぜマセードが中で、ジュリーニョが外なのか、直前の場面を見てみると、マセードが流れの中で(恐らく誰もこのスペースを使わないので)中に入り、それを見てジュリーニョが外に張り出したように見える。
京都のボランチ脇をマセードが使おうとする、ジュリーニョはこれを見て外に張る
(京都は札幌のピッチ縦幅を使うビルドアップでFW~MF間が引き伸ばされている)

 マセードが中央の宮澤に落とし、宮澤から深井→荒野と展開する。荒野にわたった段階で、ジュリーニョは荒野からのクロスを期待し、大外から中に入っていく。
荒野からのクロスを期待してジュリーニョはゴール前へ

 しかし荒野はクロスを上げられず、深井に戻して攻撃をやり直す。深井は再び中央のマセードへ。
荒野→深井→マセード

 マセードは中央で詰まったので再びサイドに振ろうとする(京都の守備を動かす)が、サイドは誰もいない。結果攻撃がノッキングしてしまう。ゴール前に札幌の選手が何人も固まっている。
マセードがターンしてサイドを見たところ

 そもそも何でマセードがサイドにいないんだよ、という指摘もあるだろうが、前半の展開で説明した通り、札幌は中央で受けて崩しの起点になる働きをする選手がいないため、攻撃がサイドに偏っている。監督の指示でなければ、こうした状況を見て問題解決のためにマセードが中に入ってきたと思われるが、こうした即興的な動きはなかなか味方と連動しない。崩しの精度を高めるには、やはりチームとしてポジショニングや役割の整理が必要だが、まだまだ不十分さを感じさせる。

2.5 小野は切り札になりうるか?


 両チームとも決定打を欠き、また暑さによる消耗が目に見えてオープンな展開となってきた79分に札幌は内村→小野を投入。
 何度も書いている通り、札幌が点を奪うために必要なことは、中央で前を向いて受けること。ガチガチに中央を固めていてスペースがなく、圧力がきつい状況だと、今年で37歳になる今の小野では厳しいかもしれないが、オープンな展開でまた5-2-3という中盤が薄い陣形を採用している京都相手ならば、必ず小野が仕事をするチャンスはあるだろう、という予想はあった。
 小野は投入直後の79:44、ジュリーニョからのパスを受けて都倉のシュートチャンスを演出するが、その後はロングボールをけりあう展開となったこともあり、枠内へのミドルシュートが1本あったものの、中央で受けて決定的なパスを通す局面はこの1度だけだった。やはり足元の技術やキックの精度は高く、中央でボールが入れば何かやってくれる期待感はあるが、小野のパスを感じられる受け手を同時にピッチに置いておく必要がある。この試合は内村を下げて小野を投入したが、裏への動きが巧く、かつて砂川と絶妙なコンビネーションを見せていた内村は小野を活かすためにも残しておきたかった。
ジュリーニョから中央へのパスが入り、ダイレクトで裏の都倉に流す

 終了間際は両チームともオープンな蹴りあう展開になり、京都は途中投入のダニエル ロビーニョ
やエスクデロが前を向いて仕掛ける状況も偶発的に生まれるが、札幌も体を張り防ぐ。一方札幌は85分に深井が膝の違和感を訴え上里と交代。これがなければ、最後のカードは上原を前線に投入していたかもしれない。

京都サンガF.C. 0-0 北海道コンサドーレ札幌
マッチデータ


3.雑感


 順位や状況から、より勝ち点3が欲しかったのはホームの京都のはずだが、試合内容からは何としても勝ち点3を奪うという姿勢が見られず、むしろ札幌の方がリスクを冒して攻めの姿勢を打ち出していたように思える。Twitter等で「京都はミラーにしたことで苦しくなったのでは」というコメントが見られたが、この意見に同意する。京都は予想以上にCBの展開力に問題があり、最終ライン~中盤でスムースにボールを循環させて札幌の5-2-3の「2」と「3」を分断させることができなくなっていた。札幌としてはプレッシングも機能し、終始押し気味だったが、最後のところでパンチ力に欠けた。ヘイスがいないことで、都倉・内村・ジュリーニョを同時起用するとサブのFWを置けない(大作戦要員の上原のみ)という点もこうした1点を争う試合展開だと軽視できない問題である。

2 件のコメント:

  1. いつも楽しみにしております。後半の頭にマセードが交代で入りましたが、この時そのまま右サイドの荒野ではなく、堀米と代えて荒野を左サイドに持っていったのにはどのような意図があったと思われますか?

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    1. >シャコさん
      コメントありがとうございます。私もこの交代の意図を考えておりましたが、明確にこれ、という意図が私には読み取れませんでした。堀米のコンディションの問題かなと思いましたが違うみたいですね。
      どっちかというと守備面、右マセードで攻撃的に行くので、バランスを考えて、より守備が計算できる選手を残したという気がします。攻撃を重視するならば、効き足でクロスを上げやすい堀米の方が良かったと思います。

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