2016年6月7日火曜日

2016年6月4日(土)19:00 明治安田生命J2リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vsジェフユナイテッド千葉 ~長所と短所は紙一重~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GK金山、DF進藤、河合、福森、MFマセード、稲本、堀米、石井、ジュリーニョ、FW都倉、内村。前節退場処分の深井、韓国代表招集のク・ソンユン、前節負傷交代した宮澤に加え、増川が欠場。サブはGK阿波加、DF櫛引、上原、MF上里、イルファン、中原、FWヘイスで小野はベンチ外。
 ジェフユナイテッド千葉のスタメンは4-2-3-1、GK佐藤優也、DF多々良、イ・ジュヨン、近藤、阿部、MFアランダ、長澤、山本、町田、船山、FWエブソン。サブはGK藤嶋、DF比嘉、大久保、若狭、MF吉田、FWオナイウ、菅嶋。前節まで2試合連続得点中の井出と、富澤、小池らがベンチ外。

0.千葉のプレーモデルや戦術コンセプト等

 2016年シーズンの千葉の基本形は4-4-2。この試合で採用された4-2-3-1は採用頻度から考えるとオプションという位置づけだと思われる。どちらかというと走れる、戦える選手が起用されている印象で、攻撃はあまりポジションチェンジなどを行わず、比較的シンプルにFWのエウトンや船山を使ってボールを運ぼうとする。このスタイルはよく言えばオーソドックス、バランス重視、言い換えれば、相手を崩すところで工夫が求められる。
 主力選手の中で異彩を放っているのが左SBの阿部翔平と10番の長澤で、阿部は錆びつかない技術とキックでプレッシャーの薄い後方から攻撃を組み立てる。長澤はシーズン当初は左MFとして起用されていた。ここ数試合はスカッドのやりくりもあると思うが、恐らく中央で起用してビルドアップを改善したいのだと考えられる。

1.前半

1.1 千葉による札幌のキーマン対策

1)山本の右サイド起用:福森のケア


 千葉は今シーズンこれまでボランチで起用されてきた山本真希を4-2-3-1の2列目右サイドに配す。この理由は試合前インタビューでも関塚監督が指摘していた通り、札幌の最終ラインで攻撃の起点となる福森対策であった。
 札幌がボールを保持しているときの千葉のシステムは4-4-2で、札幌の3バックとのマッチアップでは3vs2で札幌が数的優位となる。この数的優位を活かして、4-4-2では浮きやすいサイドのCB・進藤や福森がボールを運ぶ形が基本形となっている札幌に対し、千葉は福森にボールが渡ると→SHの山本が福森に対して出てプレッシャーをかけ、ボールを持つ時間を作らせないようにする。
福森からの展開を阻害

<福森封じは一定の効果>


 試合が落ち着いて札幌の最初のポゼッションプレーとなった7:08頃からの展開で、千葉は早速この形を見せているが、実はこの時は福森が山本に寄せられる前に素早く縦パスをジュリーニョへ送ることに成功している。山本がボールに寄せた際に隣のエリアを担当するアランダのスライドがいまいちで、ジュリーニョがバイタルエリアで受けてターンすることに成功している。
07:13 最初のセットオフェンス
福森のグラウンダーパスがジュリーニョへ渡る

 また上記の次にこの形が見られたのは12:28頃で、この時も山本が寄せ切る前に福森が前方の内村に楔のパスを出すことに成功している。ただこの時は札幌が内村から石井、都倉と繋いで石井が中央突破を図る間に、MFがプレスバックして人数を確保しつつプレッシャーをかけ、石井のコントロールが乱れたところでボールの回収に成功している。
 このように、山本を福森番としてもボールを蹴らせないことは簡単ではないが、時間を与えずに蹴らせれば、今度は札幌の受け手となる前線の選手の時間やプレーの選択肢が限定される。プレーを限定させた上でDFとMFのハードワークによりボールを回収するという狙いが序盤の千葉は定まっており、札幌としては後方でも前方でもボールを落ち着かせることができない展開となる。
福森の縦パスが内村に通る
内村がダイレクトで石井へ
中央突破を図る石井に対し、MFがプレスバックして人数を確保
最後は長澤(写真では審判の隣)がボールを回収

2)ジュリーニョ番はアランダ


 またもう一人の札幌の重要人物、ジュリーニョに対しては、4-4-2の陣形を敷きながら、中央やや左寄りが得意なジュリーニョが間受けを狙おうとすると、右ボランチのアランダが2列目の「4」のラインを崩してジュリーニョを視界に入れる位置まで下がって受けられないようにする。
 ただ先に挙げた7:13の写真もそうだが、前半はこのアランダのポジショニングが不十分で、ジュリーニョに間受けを何度か許していて、後半は下の写真のようにかなり極端にジュリーニョを意識した、ほぼマンマークのようなポジショニングで対応する状態になっていた(余談だが、千葉の3ラインは終始このような距離感…)。
(後半の局面から)アランダがジュリーニョを視界に入れるため
4-4のラインを崩したポジションをとる
千葉はライン間がかなり空いていて
手前側広大なスペースでヘイスがボールを待っている

1.2 関塚千葉による札幌1列目守備の突破…「3」の無力化

1)札幌の5-2-3守備


 千葉がボールを持っているときの札幌の守備陣形は、"いつも通りの"5-2-3。
 多くのチームは、3バックだろうと4バックだろうとポゼッションプレーの開始時にピッチの横幅いっぱいに後方の選手を拡げ、プレッシャーの薄いサイドからボールを運ぶことを試みる。これに対して札幌の5-2-3の守備は、相手のサイドの選手へのプレッシングは通常「3」の両端、FWの選手が担う。
「いつもの」5-2-3でセットしてからの守備
FWがサイドで追い込みWBやボランチとサンドして奪う

2)札幌トリデンテに混乱を与えるポジショニング


 この試合でいえば、千葉の4バックのSBに対しマッチアップするのは、主に札幌から見た右サイドで都倉、左に内村となるが、千葉の最初のポゼッションプレー、10:14頃の展開で、千葉はボランチのアランダと長澤を自陣に降ろし、4人で"ボックス"を構成する。このボックスに対し、札幌は1人2人で対応することが難しいため、前線の内村-ジュリーニョ-都倉の3人はこのボックスに釘付けになる。するとサイドに大きく開いた千葉のSB、多々良と阿部翔平が下の図のように浮く状態になり、図のように都倉が中央を見ている…と言えばいいが、実質守備に参加できない、札幌の前3人の守備が無力化される…どうしていいかわからない状態となる。
 このとき阿部に対応できる選手はマセードしかいない。マセードと阿部のスタートポジションがかなり離れているため、阿部はここでボールを保持してルックアップする時間を得られる。
「3」の無力化:千葉の中央の4枚に対し
ジュリーニョは誰に当たればいいかわからない
都倉は開いたポジションをとれず、阿部を放してしまう
3トップがどう守備していいかわからずズルズル下がるだけ
結果「3」を突破されボールを運ばれる

3)ボランチ脇を突かれる


 またサイドからのボール運びを見せておくことで、札幌にサイドを意識させると、次は中央が空きやすくなる。
 千葉が中央から「3」を突破した典型的なシーンが32:30頃で、千葉はCBの近くに長澤が降りて受けると、札幌の3トップの頂点にいるジュリーニョがファーストディフェンスを決められない。CBから長澤に渡ると、誰も寄せてこないのを見て長澤はドリブルで運びながら、ジュリーニョと内村の間を通して降りてきた船山へパス。船山からアランダ、エウトン、町田、山本と中央、札幌のボランチの周辺で繋ぎ、河合、福森とCBが釣りだされ、最後は山本から福森の背後のスペースに出た町田にラストパス。
ファーストディフェンスが決まらない
長澤がノープレッシャーで前を向くとジュリーニョ-内村間にパスコース

 なぜこれだけ中央でパスを繋げた、繋がれたかというと、この時千葉はサイドハーフの船山と山本が中央、ボランチの上里と堀米の脇に絞っていて、アンカーのアランダと合わせて中央では3vs2の数的優位ができている。5-2-3で守る札幌に対してこのボランチの脇は狙いどころで、これまでの試合では3トップが中央を塞いでサイドに迂回させ、簡単に使わせないようにしていたが、千葉の長澤らによって前線の守備の基準を曖昧にされたこの試合では簡単にこのエリアを明け渡すことになっていた。
32:30頃
サイドハーフが中央に絞ってボランチの脇を使う

4)戸田和幸氏の指摘


 恐らくこの試合の札幌にとってベストな対策は、スカパー!!解説の戸田和幸氏が指摘していた、前線3枚を逆三角形にする形で、これならば千葉の最終ラインとアンカーのアランダに対する対応が明確になる。ただ、長澤が降りてきた際にはFWの選手による対応が必要になるが、長澤はこの試合でも何度かフリーになってからドリブルでボールを運ぶプレーを見せており、それを考慮するとこの対応でも完璧でなかった可能性もある。
戸田和幸氏の指摘する対策
前3人を逆3角形にするとCBとアンカー、サイドバックに対して明確になる
長澤には注意が必要

5)"縦ポン"一発で運ばれる


 加えてもう一つ、千葉が札幌の「3」を突破するうえで効果的に働いていたのが、主に右寄りの位置で構えるエウトンへの、後方の選手(主に近藤)からのロングボールで、特にこの試合だと応対する札幌の左サイドが福森や堀米といった、あまり強さが売りではない選手であることもあり、中盤~前線のあらゆるエリアで競り勝ち、そのセカンドボールを拾うことで千葉はボールを前進させることに成功していた。
最終ラインからのロングパスでの1列目突破の例
:近藤からの縦のボール(後半)
長澤に渡った瞬間、「5-2」になっており2の脇が大きく空いている
前の3人は基本的に戻ってこない

1.3 露見される問題点①:大外が空く…その1


 そして千葉が札幌の1列目守備の「3」を無力化して最終ライン~サイドの部分を支配し、高精度の左足を持つ阿部に時間を与えたとき、札幌が5人で守っていたはずの最終ラインはマセードに加え、進藤がサイドに流れた船山に釣りだされているので3枚しか残っていない。ここで阿部から手薄になった中央のエウトンや町田に楔を打ち込むと、札幌は河合や福森が迎撃対応するが、ここを中盤の長澤やアランダがサポートしてボールを受けると、右サイドでは多々良が完全にフリーという非常に危険な状態になる。
「3」を無力化して最終ライン~サイドで自由に動かせる
マセードの裏を狙う船山…進藤を釣りだす
マセードと進藤が釣りだされて3枚しか残らない最終ライン
ボランチ経由でフリーの右へ

1.4 先制点献上よりも痛かった稲本の負傷


 立ち上がりに、得意とする福森からのビルドアップを封じられてボールが落ち着かない札幌にとって追い打ちとなったのが、13分に稲本を負傷交代で失った(上里と交代した)こと。守備時に5-2-3・攻撃時に3-4-1-2の陣形を敷く札幌のボランチは、攻守両面において中盤全域を2人で担当するためボランチには運動量、1vs1でボールをキープできる強さといったフィジカル的要素に加えて、危険なエリアを察知するバランス感覚が必要で、攻守両面の仕事量が多くややタスクオーバー気味。現在のスカッドでは宮澤、深井であれば何とか務まるとった状況で、バルバリッチ体制下の2015シーズンレギュラーで、経験値は抜けているが運動量、体力に不安のある稲本は終盤のクローザー、広いエリアをカバーできない上里はボランチの4番手以下という序列に変わっていった。
 今週の練習では中原もボランチで試されていたそうだが、恐らくこの日のスタメンの稲本-堀米という、運動量で不安の稲本に若い堀米を組ませるものが戦力低下が最小になる組み合わせであり、それすらも開始13分で瓦解し、3ヶ月間ベンチ入りもしていなかった上里を早い時間から起用することは完全に想定外であった。

 そして稲本がいなくなって上里が入るまでの2分間程度、千葉のリスタートで再開された一連のプレーを札幌は都倉と内村を下げた5-3-1の陣形で応戦する。千葉は札幌が1人少ないこともあって、5-3のブロックでカバーしにくいサイドを起点にボールを動かすが、この時札幌はサイドでボールを持つ千葉の選手に対し、中盤に降りている都倉や内村とWBの選手で対応するが、5-3で撤退しておけば千葉が勝手にミスして切り抜けられると思っていたのか、ボールに殆どアプローチできない時間となる。
サイドを起点に支配する千葉に対し
札幌は選手間の距離が開いてサイドに寄せ切れていない

 上里の準備が遅れ、10人で凌ぐ局面が2分ほど続いた15:30頃、やはり阿部から斜めに入れられた楔のパスを町田がスルーしてエウトンが受ける。札幌は福森がスライディングで対応するがボールはエウトンがキープし、長澤から右の多々良に展開される。この時の札幌の守備陣形は、稲本がアウト、都倉と内村が下がった5-3だが基本構造は変わらず(加えて都倉内村ともに中盤としての守備はできない)のため、やはり先述のメカニズムで大外が空くようになっている。更に福森が出て行ったスペースを石井が絞って対応するのではなく、内村が下がって埋めているが、これによって1ボランチとなっている堀米の脇が完全に空いてしまう。
 多々良に対しては石井がスライドして対応するが、中央からサイドに流れてきたアランダが深い位置でクロスを上げると、内村に当たったこぼれ球を町田が後退しながらの難度の高いボレーシュートを決めて千葉が先制する。
画面外の阿部からエウトンへの斜めのパス
福森が潰しに出たところを内村がカバーすると中盤が空く
外→中→外と中央を一度使い収縮させ大外で勝負

1.5 露見される問題点②:スペースが管理できない最終ライン


 上記のように1列目の守備が無力化された状況で露呈された問題の一つが、札幌の選手個々のスペース管理能力の問題で、例えば千葉の先制直後の18:30頃のプレーでは、やはりマセードが釣りだされた状況で、千葉の左サイドに船山とエウトンが流れると、進藤と河合がゴール前を放棄してこの2選手について行ってしまう。特に進藤は、この試合で左サイドに流れたり下がって受けようとする船山にマンマーク然として着いていく場面が再三見られたが、千葉の左サイドには阿部がいるので、進藤が明けたスペースに流れた町田やエウトンに向けて同サイドの阿部からパスが供給されると、札幌は河合と福森で3vs2、2vs2といった状況を簡単に作られてしまう。
18:30頃 ゴール前にいるべき選手がいなくなる

1.6 大外が空く…その2


 そして先制点を献上してからまだ札幌がゲームのリズムを掴めない19:38、千葉は右サイドのスローインをエウトンが福森を背負ってキープ。強引なドリブルから右足でクロスを上げると、千葉の選手には合わないが絞っていたマセードのクリアが小さく、逆サイドから上がってきた阿部の前に転がる。阿部がフリーで強烈なミドルシュートを突き刺して千葉が追加点。
 この状況で、札幌は河合が福森のサポートで中央を離れているが、これはエウトンvs福森というマッチアップを考えるとOK。
スローインを入れてエウトンがクロス
ファーサイドに流れて阿部がミドルシュート

 ただ目につくのが、一つはボランチの堀米がボールウォッチャーになっていて、河井の空けたスペースを守ろうとしない危機管理能力の低さで、一連のプレーで一体何を守っているのかわからないような状態になっている。またもう一つの問題として、上の写真の左側に黄色の円で示した箇所、札幌の2ボランチの脇が結果的に阿部にシュートを許すスペースだが、札幌は5-2-3で守るので、このボランチの「2」の脇はどうしても人数が足りなくなる。そしてサイド攻撃を受けて全体がボールサイドにスライドしている場合、「2」の脇も中央寄りのゾーンとなるので、中央のゾーンにも拘らず誰も対応できる選手がいない、という状況を誘発している。

河合のあけたスペースが放置されたまま
 ゴール裏から撮影された映像を見ても、札幌は一度跳ね返した後、このエリアにこぼれてくるボールを拾える陣形になっていないことがわかる。


1.7 大外が空きまくる理由


 札幌の守備は5-2-3で、最終ラインは5人で横幅を守ることになっている。それなのになぜこれだけ反対サイドのスペースが空くかというと、これも1列目の守備の問題が大きく関係している。札幌は前線に攻撃的な選手を3人(都倉、内村、ジュリーニョ)を配しており、この3人が「3」のラインを突破されると後方の守備ブロックにほとんど関与しなくなる(第9節セレッソ大阪戦の記事などでも触れている)。
 ただこのポジションにそうした選手を起用し、守備貢献を求めない、守備に関与しない代わりに、ボールを奪った際にカウンターを仕掛けやすい状況を作りやすくし、決定力を補完するというのが今の札幌のチームコンセプトの一つであって、四方田監督としては目を瞑っていると言うか、少なくともJ2を勝ち抜くならばこの方が効果的だと考えた末のやり方と思われる。特に3-4-1-2の布陣でFWに都倉や内村を起用していると、あまり都倉に守備貢献を求めると、サイドから攻め込まれた時に都倉がサイドバックのような状態になってしまって本末転倒ということにもなりかねない(前監督のバルバリッチは対照的な考え方で、攻め込まれた時にサイドの選手を下がらせて「5-4」を作って守ることを重視していて、砂川や小野をシャドーで使わなかった)。
 結果「5-2」で守ることになるが、この時サイドにできる、ボランチの脇のスペースが空いている。そしてここをカバーするためにマセードや石井といったウイングバックが前に出て、その分を最終ラインの残りの4人の選手は埋めるように動く。こうして「3」がいないと、「5-2」部分が実際は「4-3」気味、実質4バックのチームのようなやり方で対応することになる。
 更に4枚になった最終ラインの選手も、バイタルエリアで引いて受けようとする選手に対して河合や進藤が食いついてしまいがちなため、ここでさらに枚数が減る。すると残された選手は中央を管理することで精いっぱいとなり、大外をケアすることは不可能になる。
①FWの選手(この場合都倉)がドリブルで運ばれたりパスを通されると
それ以降守備に関与しなくなる
ウイングバック(マセード)が早い段階で出るため、後ろは4枚に
②CB(図では河合)が食いつくと更に枚数が減り大外が見れなくなる

 そのため札幌相手には、まず1列目のラインを手っ取り早く突破することで守備の人数を10枚から7枚に減らすことができるため、この手段を複数用意していた(中央に人を集めて基準をぼかしてのビルドアップ、エウトンへのロングボール)千葉が序盤から優勢になるのは必然だったといえる。

1.8 いつもの形に近づく


 札幌は2点を失った後、前半25分頃からようやく攻守ともにバランスが改善され、落ち着きを少しずつ取り戻す。守備では、2点を失って前からいかざるを得ない展開となったことで、前線の3枚が千葉の最終ラインに当たり、ボランチのアランダや長澤には札幌もボランチが当たるという、いつもの形に少しずつ近づく。
 攻撃では、解説の戸田和幸氏が「上里が入って後ろの役割、配給役が決まった」と表現していたが、上里が札幌の3バック、河合の前方でボールを受けるようになる。このボランチが最終ラインの選手の近くまで下がってパスを捌く形は、以前は足元に不安のある河合をボランチの選手がフォローする形として札幌でよく見られたが、増川や深井がレギュラーに定着してからのここ数試合あまりやっていないかった形で、この試合では福森を警戒していた千葉に対し、左で上里が第二の供給源となったことで、千葉も対応に戸惑う様子が見られた。特に上里が、対応が曖昧な千葉のFW脇から、SH-ボランチ間を狙う縦パスが何度か決まっていた。
千葉のFW脇で受けてからのSH-ボランチ間を狙う縦パスが決まる

1.9 千葉のFW脇のスペース管理

1)船山の前のスペースは誰が守るのか


 また2点を先行してリトリートの意識が高まった千葉の守備の問題点をもう一つ上げると、4-4-2で守るFW脇のスペース、特に千葉から見て左サイドでの対応で、図のように札幌の上里がこの位置で受けると、初めはボールに近い町田やエウトンが近づいて守備をする姿勢を見せるが、ここで上里が近くのDFを使ってボールを逃がすと千葉はSHの選手やもう一人のFWと連動して守備ができない(右サイドでは基本的に山本が出るという約束事があるので、山本がハードワークできている限り、こうしたずれが生じる場面は少なかった)。恐らくチームとしてここをどう守るのかという意思統一が図られていないように思える。
町田がサイドに追い込む守備をしても連動がない
堀米の周りに広大なスペース、長澤が食いつく
反対サイドのFW脇が空いたところで福森が待っている

2)長澤がつり出される


 すると前線の守備がハマらず、1列目の守備という防波堤がなくなった状況で、この位置でボールを受ける札幌のボランチに対して、千葉はボランチの長澤が食いついてしまう。恐らく長澤のこうした動きは、まず人を捕まえる(後ろが連動してカバーしてくれる)という、丸岡満がかつて語っていたドイツ式の守備のエッセンス(というか、日本以外ではそれが普通)なのだと思われるが、ここで長澤が奪えないと、千葉は回りの選手が連動していないため、長澤が裏のスペースを大きく空けてしまい、縦パスを入れられてジュリーニョや都倉など前線の選手の間受けを許してしまう。特に、札幌はおそらく上里がこのエリアでの千葉の対応の曖昧さに気づいていて、前半途中、30分過ぎ頃から右サイドでボールを持つ機会が増えている。
長澤が出たためラインが崩れる
サイドを変えてから長澤の背後に斜めのパスが入り都倉が間受け

1.10 1点を返し、反撃ムードで後半へ


 札幌が1点を返したのは前半37分、自陣深くでボールを回収すると、右で張っているマセードに渡す。マセードがオープンスペースで長い距離をドリブルで運ぶが、この時千葉はマセードに一番近い選手は船山だったがボールにアプローチせず、ずるずると自陣に交代する。マセードが顔を上げながらドリブルで運ぶ間に都倉と内村がペナルティエリアに侵入し、千葉やマセードに対してペナルティエリア角付近でようやくSBの阿部が付くが、阿部が寄せ切らない状態でマセードが(恐らくニアの都倉を狙った)クロス。ドンピシャとはいかないボールだったが、イ・ジュヨンのヘディングがクリアミスとなったところを内村が拾い、佐藤優也をかわして1点を返す。
 千葉はこの直前のプレー(札幌のセット攻撃)でも、トランジションの発生後、なかなか4-4-2の陣形を回復させるのが遅く、前半頭から飛ばし気味に入った疲労による影響が出てきたか、と感じられたところで、もしかしたら札幌がボールを回収した瞬間からサイドでボールを要求していたマセードも、その辺は感じていたのかとの印象も受けた。

2.後半

2.1 仕切り直しと微調整


 後半立ち上がりは、千葉が再び積極的に前から当たる展開。ただ札幌は前半のように慌てずロングボールを織り交ぜることでこのプレッシングを回避してボールを前進させる。
 52分、千葉は町田→吉田。町田は交代時に足を引きずっていた。吉田が右サイドに入り、山本がトップ下にスライドする。右サイドに入った吉田は攻撃面での役割に加え、守備時に山本が担っていた福森番も引き継ぐ。
52:00~ トップ下に山本がスライド

 一方の札幌は、後半スタートから上里と堀米の左右のポジションを入れ替えている。これにより上里が左サイドに入ったことで、左サイドで福森-石井-上里(-ジュリーニョ)のユニットができる。どちらかというと前半は攻撃時に両サイドのマセードと石井がワイドに大きく開いてプレーしていたが、中盤をフラフラと移動しながらボールに触る上里が入ったことで、サイドでの石井やマセードによる単騎突破だけでなく、下の写真のように近い距離でパスを繋いでボールを前進させる局面も徐々に見えてくる。
左CB福森、WB石井、ボランチ上里によるトライアングルに
ジュリーニョが絡む

2.2 前線に供給されない


 しかし後半55分~65分頃の時間帯は、札幌が再び前線に有効なボールを供給できなくなり、攻め手を失っていく時間帯で、ボールを前進させる手段はほとんど上里のロングパスのような飛び道具頼みになってしまっている。
 典型的な局面を挙げると、下の60:14の状況では最終ラインに堀米と上里の両ボランチが落ちているが、宮澤や深井が出場している時の札幌は中央のスペース(写真左側の赤い円)に必ずボランチの片方がポジショニングし、FWをピン止めしつつコースが空けば中央からの展開を狙っているが、この時は堀米も深井もここにいないため、また恐らくアランダのマンマーク気味の対応を逆手にとる意図もあり、トップ下のジュリーニョがこのポジションまで下がってきている。ジュリーニョは写真右側の赤い円、FWとMFの間にいてほしい選手だが、ボールが供給されないために下がってきてしまい、結果前線で都倉が孤立している。
後ろが重くなり、ジュリーニョが下がってきてしまう

 前半にもあったが、千葉は長澤が自分の担当するエリアの前方にいる選手を気にするあまり、4-4のラインを崩してディフェンスしようとすることでその背後を空ける場面が散見されたので、札幌としてはこのスペースに間受けの巧いジュリーニョを配させる状況を作りたいところ。千葉は長澤が前に出て守備をしたがる一方、アランダはDF-MF間のスペースで受けるジュリーニョや内村をケアすべく深めのポジションをとっているので、前半からこの両ボランチの距離感、密度がかなり緩く、上里や福森が何度か縦パスを狙っていた。
長澤が一度堀米をチェックに出ると、中盤の4人のラインが大きく乱れる
(ジュリーニョは画面下で靴ひもを縛っている)

2.3 前二人でフィニッシュまで持ち込み同点に


 こうしてやや膠着状況になったのを見て、札幌は70分に内村に代えてヘイスを投入。ヘイスはファーストプレーでの動き出しを見ても、明らかにコンディションが上がっている印象を受ける。そして投入直後の71分、札幌は自陣深くでボールを回収してから、石井がほぼハーフウェーライン上で待ち構えるヘイスへ浮き球のパス。ヘイスが多々良を背中でブロックしてキープしつつターンすると、都倉が多々良の空けた背後のスペースに動き出す。都倉が縦に運び左サイドから千葉のDFとGKの間に低いクロスを上げると、ゴール前に突っ込んできたヘイスに対応した阿部翔平の足に当たってゴールに入る(記録はヘイスのゴール)。ヘイスが投入後1分で決定的な仕事をやってのけ、札幌が同点に追いつく。

2.4 終盤の展開


 札幌が同点に追い付いた後の千葉は、MFのラインを下げてDF-MF間を狭くし、守備意識を高め、引き分けの勝ち点1でも致し方なし、といった姿勢にシフトする。また77分にはFWのエウトンに代えてDFの大久保を投入し、阿部を左SH、船山をFWに上げることで守りを固める。ベンチがこうしたメッセージを込めた交代策を打ったことで、ピッチ上の選手もリスタートに時間をかけるなど、2-2のスコアを維持しようとした様子がみられた。
77分~
エウトン→大久保に交代

 これに対して札幌は前線の都倉、ヘイスの強さを活かしたロングボールを増やして圧力をかけていく。ただ都倉・ヘイスと9番タイプの選手2人を並べる形は、都倉が左サイドで強引に打開を狙うが得点の雰囲気を感じさせず、なかなか良い形でフィニッシュまで持ちこむことができない。
 84分に千葉は山本→オナイウ、86分に札幌は石井→上原の交代カードを切り、両チームともワンチャンスでの得点を狙うが、互いに守り切り2-2で試合終了。

北海道コンサドーレ札幌 2-2 ジェフユナイテッド千葉
・16分:町田 也真人
・20分:阿部 翔平
・38分:内村 圭宏
・72分:ヘイス


3.雑感

3.1 不動のボランチコンビの有難み


 「3-4-1-2」を機能させるに不可欠な宮澤や深井(=個人で奪うことができ、攻撃時に前に出ていく運動量がある)を欠いたことが大きかった。2ボランチが務まる選手がいないなら、序盤戦で2度披露した3-5-2(3センター)の復活もありでは?と思ったが、2点を返してドローに持ち込んだのは攻撃の選手を3人確保していたことが大きい。またロジカルな要素ではないが、恐らく現在首位に立っている事実や、四方田監督のマネジメント、千葉との相性の良さ等により、選手にはホームで2点先行されてもまだいけるという自信のようなものもあったのかもしれない。

3.2 上里

1)深井がやってきた仕事


 試合後の反応を見ると、上里に関する議論が盛り上がっていた。個人的には、3バックの中央に河合を起用するならば上里が活きると考える。
 今期の札幌のポゼッションは後方の3バック+ボランチの1枚によるダイヤモンド形成を基盤にしており、2トップのチームに対しては中央で4vs2をつくることで相手の前線守備を無力化し、また中央を意識させることでサイドの福森や進藤が空きやすくなり、福森の運ぶ能力が活きる。こうして1列目守備を突破した後は、中央では間受けを狙うジュリーニョや、間受けも飛び出しもできる宮澤を使うか、サイドをウイングバックと福森の2枚で攻略する(第10節の徳島ヴォルティス戦の前半などが好例)。
 これを可能にしたのは、基点になれるだけの能力(足元の技術など)がある増川、中央でシンプルにプレーできる深井の存在が大きい。この試合は増川に対する河合の組み立て能力もそうだが、中央で(深井の役割で)プレーできるボランチの稲本を早い時間に失ったことが大きかった。

2)河合+上里=?


 ただ、変わって入った上里は深井とは全く別のプレースタイルながら、増川がいない最終ライン(河合)のビルドアップを得意のロングパスによる展開でサポートしていたように思える。この上里のプレースタイルは、プレッシャーを受けない低い位置に移動してボールに触ることが多いので、後ろが重く、攻撃が遅くなる面も見られたが、3バックの中央に河合のような選手を据えるならば、攻撃面でそれなりのサポートができる選手が必要で、河合を今後も中央で起用するならば、河合-上里という組み合わせがまた観られるかもしれないと予想する。

1 件のコメント:

  1. にゃんむる2016年6月8日 2:44

    読んだ!(`・ω・´)次回もよろしこー もう毎週の楽しみになってるぞー

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