2025年3月2日日曜日

2025年3月2日(日) 明治安田J2リーグ第3節 レノファ山口vs北海道コンサドーレ札幌 〜直面する「文化」の正体〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

J2 10年目の山口:

  • 前回の山口との顔合わせはコンサがJ2で優勝した2016年にまで遡ります。当時J3から昇格直後で、上野展裕監督の下、庄司、島屋、話題の三幸、小池龍太、福満といったまだ無名の選手たちが、ハマると相手をカラーコーン化してしまうような綺麗な崩しを時に見せるサッカーで旋風を巻き起こしましたが、その後は年間20位が2回、22位が1回(2020シーズンのため降格は逃れる)。2016シーズンの対戦時はいずれもジュリーニョ(スペースがあるオープンな展開が得意)の活躍でコンサが2勝しましたが、その時の印象もあってジュリーニョは後に山口でプレーすることになったのでしょうか。
  • 2018シーズンには久々に現場復帰した霜田監督の下オナイウ、小野瀬、前貴之といった選手を操り山口史上最高の8位でシーズンを終えましたが、志垣良監督1年目の24シーズンの11位はこれに次ぐ成績。こうした数字を追うと、印象としては小規模クラブでも3〜4年に1回くらいチャンスとなるシーズンが来るので、何とかその時に勝負できるよう経営的には踏ん張っているという点では後発クラブの中では優秀なのかもしれません。


レノファ山口 雑感:

  • 開幕戦はアウェイで甲府と対戦。1-3-4-2-1(1-5-2-3)のよくあるスタイルの甲府に対し、1-4-4-2であまりポジションチェンジを行わない山口はあまり中央を経由せずサイドのSBとSHにボールを当てて動かしながらも、最終的には前線へのロングボールが多かったのですがそのセカンドボールを何度も拾うことに成功し、甲府が自陣に下がって対応する局面も多かったと感じます。
  • これは、山口は人というよりスペースを意識していて、特定のターゲットに蹴って収めるというよりは甲府の人の間に蹴って大きくクリアすることを難しくさせる狙いというか前提があるので、その間に最終ラインを押し上げてコンパクトにすることができているのでしょう。

  • 雪の維新みらいふスタジアムでの対戦となった第2節は、長崎は左ウイングに松澤というスピードと突破力のある選手がいるので、山口は対面の右サイドで松澤を2人で守ることから設計されていたと思います。
  • また相手のシステムが1-4-1-2-3ということで、1-4-4-2をベースにしつつも2トップが前に出て長崎のCBにpressingを仕掛ける時は、山口は中盤2人のうち1人が前に出て1-4-◇-2に近い形を作って、優先順位としてはあくまで中央から簡単に展開させないという姿勢を見せていました。
  • しかしこうしてサイドも中央も丁寧に守るとなると守備に割くエネルギーが多くなりがちで、また前線にすごく強烈なカウンターアタックができる選手を有しているとも言えない。そのため山口が仕掛けるタイミングはセットプレーやそこから続く展開以外だと、相手がかなりバランスを崩している局面などになってきますが、我慢強くそのチャンスを待ち続けて優勝候補の長崎を後一歩のところまで追い詰めた印象です。

  • ここまでJ2全チーム見たわけではないですが、私が見た長崎、熊本、ジェフ、山形、仙台、徳島、大分、甲府、磐田、の中では1-4-4-2でボール非保持の陣形を組むチームはジェフ、仙台、山口で徳島は1-5-2-3と1-4-4-2の中間のような感じ、磐田は2トップのタスクとかキャラクターを見ると1-4-4-1-1のような感じでした。
  • よく「pressing」と言いますが、文字通り相手に対して組織的に圧をかけてボールを持つとか、ボールを動かすことを阻害することを言います。単にたくさん走ればいいわけでもなく、また高い位置から走らなくても良いのですが、その意味では「pressing」はこれらのチームの中でも山口が一番上手い印象で、ジェフや仙台はどちらかというとブロックを作って相手のミスを待つ、一種の我慢強さが生命線なのですが、山口はより能動的にプレーして相手のミスを誘う構造を作れている印象です。

スターティングメンバー:



  • 山口はスタメンは前節と同じ。サブは峰田→キムボムヨン、田邉→小澤で2人入れ替わっています。
  • コンサはスタメンが西野→髙尾、パクミンギュ→中村桐耶、田中克幸→木戸。サブに岡田、青木、ジョルディ→原、バカヨコ。
  • なお試合前に田中克幸が左膝外側側副靭帯損傷、フランシス カンが左ハムストリング肉離れで離脱が発表されています。


2.試合展開

インプットの変更と変わらなかったアウトプット:

  • 冒頭で山口について色々備忘録的に書きましたが、改めてコンサとのマッチアップで山口がどのような対応をしていたか見ていきます。

  • コンサは熊本戦では大﨑とパクミンギュの2CBでスタートし、右DFの西野がDAZN中継画面から消えるくらいまで大胆にポジションチェンジしていましたが、この日はそうした”流動性”はほぼなく、1-3-4-2-1のオーソドックスなポジショニングからでした。熊本相手には、相手が3トップなので枚数調節をしていたという扱いなのでしょう。
  • 対する山口は、予習した通り1-4-4-2のミドルブロックを作って中央を切ります。この際、山口の2トップがあまりコンサのDFに寄せすぎると、1列目(山口のFW)と2列目(山口のMF)との間が空いてしまうのもあるし、枚数的にコンサの3DF+GKに対し山口は2人ということもあって、山口のFWは中央にステイしているところから始まることが多かったと思います。

  • つまりコンサとしては、vs大分やvs熊本のように、コンサのDFが相手のFWにがっつり寄せられて、ボールを受けた時に前を向く余裕もない、考える時間もない…といった厳しい状況では、この試合はあまり該当しなかったと感じます。
  • この点では、コンサがまず考えるべきというか認識すべきは、DFの選手から中央にボールを運ぶアクション(パスまたはドリブル:conducción)が殆ど有効なものがなかった、ということが挙げられます。

  • 時折、馬場や高嶺が大﨑の隣に落ちてくることもあり、私には維新百年記念公園の丘のふもとに飴玉を握りしめたブラボーな高齢男性が降臨した幻覚が見えました。
  • この馬場や高嶺のアクションも、本来中央でパスを受けるべき選手がそこを捨てて降りてくるということなので、チームとして中央を全然使えてないという結果だけでなく、中央を使って展開することの重要性が共有されていないということの証明でもあったかと思います。


急がば回れの重要性:

  • そして長崎の左ウイング松澤に対してそうだったように、コンサ相手となると、やはり近藤には山口は2人で対応してくるのは流石にプロチームとして想定しておくべき戦術的な重要ポイントだったでしょう。近藤だけでなく左の田中宏武にもそうでしたが。
  • 改めてですが、山口はコンサのWBにSBとSHで挟み込むように対応し、SBが出て空いたスペースは中央の成岡と三沢が埋めます。ワイドに強力な選手を逆足配置することが多い昨今の戦術トレンドを踏まえたオーソドックスな対応だと感じます。
  • ボール周辺ではコンサのWBは2人に挟まれていて、また岩政監督がキーワードとしていた「ポケット」も山口の選手が埋めている。
  • ですのでコンサとしてはこの状況から崩せるならいいのですけど、それが難しいなら(近藤や宏武が2人相手だと難しいなら)まずはバックパスなりでやり直して空いている反対サイドを使う、というのが一つの考え方。山口がこのサイドに寄っているということは、反対サイドは空いていて、バランスは崩れかけている状態でもあるためです。
  • しかしコンサはそうした意識が薄く、ワイドにボールが入ったらそのサイドで無理に突破しようとしたり、1人がやり直してもその次にボールを受けた選手が素早く反対サイドを狙う…といった場面もわずかで、山口の選手が密集しているところでプレーしようとする(山口の人数が揃っているのに、そこから突破やクロスを狙う)ことが多かったと感じます。

  • 先ほどのDFがすぐにサイドに渡す、という話の続きにもなるのですが、例えばコンサのDFがすぐにサイドではなくて中央方向にconducción(ゆっくり相手を見ながら、相手が出てくるギリギリまでドリブルしてパスコースを残しておく)すれば、↓のように山口のSHの選手を引きつけて、WBが1v1になる形を作りやすかったかもしれませんし、WBに渡さなくてもシャドーや中盤センターの選手に渡してそこから展開(サイドチェンジやスルーパス)をしやすい。
  • 最終的にサイドが武器だとするならいきなりサイドじゃなくてまず中央を使わないと、山口のようにクレバーかつタフに守ってくるチームを崩すことは難しいでしょう。

丁寧なロングパス:

  • これも開幕戦と前節から予習したように、山口はボールを持ったら最終的には前線に長めのパスを送り込んで何らか攻撃機会を作ろうとする場合が多いチームです。
  • ただこの手のチームは「とりあえず放り込む」という雑さがあったり、もしくは前線に運動能力が優れた選手がいてその能力にかなり依存していたり…がありがちですが、山口はこの点においてかなり丁寧にロングパスを使うチームだと思います。

  • 山口の2トップは有田が185センチ、奥山が173センチで、中継でも有田が競ると実況アナウンサーから「ターゲットの有田…」と言われますが、有田はずっとコンサのDFとぶつかりながら身体を張っているかというとそうではない。山口は”人”にボールを蹴るというかはスペースにボールを蹴ることが多く、そのスペースというのは相手のDFの間で、2人の選手のうちどちらがクリアするか判断が遅れたり、もしくはDFにとって移動しながらクリアや対処を強いられることになる(→体勢十分ではないのでクリアの飛距離が出ない、ミスキックを誘発できる など)スペースにボールを蹴ってきます。
  • ですので山口の2トップは蹴られたボールを競るとか身体を張ってキープするだけでなく、相手が先に触ったり処理しかけたところでプレスをかけてクリアボールやセカンドボールを味方が拾えるようにするという仕事の方がむしろメインかもしれません。


与えられた時間を有効に使えたのはホームチーム:

  • そんな山口に対して、コンサはこの日、1-5-2-3でボール非保持の際にブロックを組むことになっていました。これまで大分、熊本相手には少なくとも前線ではマンツーマンというか数的同数になって、同数関係を活かしてpressingを仕掛ける狙いがあったと思いますが、この日のコンサは中島を中央に置いた前線3枚はほぼステイして、山口のDFやGKに距離を寄せたりすることが殆どなかったと思います。
  • 個人的にはここはかなり慎重になっているというか、前節の振り返りで岩政監督は「守備の文化がない」と言ったらしいですが、これは全くその通りだと思うので、まず失点を減らすために有効だと思うやり方に変えたというか、試行錯誤したというところかと思います。


  • しかしコンサの1列目の選手が山口のDFにプレッシャーを与えるような対応をほぼ見せなかったことで、山口のDFもコンサのDF同様、「ボールを持った時に落ち着いて前を向いて周りを見て、自分の得意なところにボールを置いて、かつ相手選手から制限をかけられない状態でパスまたはドリブルを選択・遂行できる…」という状況、サッカー用語?戦術用語?では”時間を与えられた状態”とか言いますが、とにかく山口のDFの選手もプレッシャーを感じずプレーできる状況になっていました。

  • そうすると先に書いたように、山口はロングパスを丁寧に使って攻撃してきますが、ボールの出所となるDFの選手がフリーな状態なので、前線の受け手の選手はコンサのDFラインを見てオフサイドにならないようにしていれば背後を取ることは難しくないし、逆にコンサのDFとしてはロングパスの出所が抑えられていないので、(本来は)常に背後へのパスを警戒していなければならない状況だったと思います。


  • (本来は)と書きましたが…山口の先制点を見た感じだと、コンサはまず簡単に縦パス1本で背後を取られて、10人で作っているブロックを無力化されるのがあまりにもイージーすぎますし、CB中央(将棋でいうと玉の位置、GK、あ、GPか は除く)大﨑の対応が槍玉に上がるのもわからなくはないけど、そもそもCB中央の選手が簡単に露出、露見されすぎていることが組織として強度がなさすぎるのでは?と感じます。
  • あとはゴール前でDFが捕まえられていないのは、熊本戦での失点にも酷似していますが、そのDFだけの問題というか、そもそも簡単に縦を割られすぎて個人以前の問題かなと感じます。

  • 逆に山口の視点から見ると、有田が単なるターゲットではなくて、スペースに蹴るところからチャンスを作るのはこれまでの試合でも繰り返してきた通りでした。
  • 余談っぽくなりますがこの日、山口や岡山への飛行機が一部、着陸できない場合があったりで西日本では天気が芳しくなく、維新スタのピッチも雨が溜まっていて、ボールが滑るというよりも水たまりでパスが止まるくらいのコンディションだったのは、山口のロングパスを使った攻撃に一部プラスに作用したのはあったかもしれません。


決まっているから見る必要もない:

  • 後半頭から山口は奥山→古川。コンサは大﨑→家泉、田中宏武→スパチョークで長谷川を左WBに。お互いに狙いやアクションがそんなに変わる交代ではないはずです。
  • キーとなるCB中央を家泉に変えたのは、ボールの出し手としては大﨑の方が優秀なはずですけど、3試合目ということで荒療治的な手段に踏み切った印象を受けます。


  • 山口は前節ATに失点してホームでの勝ち点2を失っている状況。山口の選手交代は前線4人からカードが切られますが、中盤センターの成岡と三沢のところも体力的には終盤難しくなるはずの役割で、そこはどうするのか?と思って見ていましたが、2点目が入るまで山口は我慢することになります。

  • この山口が我慢する展開になると、山口のブロックが徐々に下がって、コンサはよりDFがボールを持てるようになる。
  • コンサは後半、左右のDFの選手が高い位置を取ることが増え、これは山口が徐々に疲れて下がったからというよりは、HTの段階でそうしようと決めていたのではないかと思いますが、コンサが前線に人を増やしたことで山口としては更に押し上げることが難しくなったのはあったかと思います。


  • ただ人が増えても結局コンサは中央を使わずにサイドに展開して、最終的に大外から放り込むプレーに終始します。山口はCBが強靭というよりは、GKマルスマンが、そうした単調なプレーでは簡単にミスしてくれる雰囲気がないことがこうした展開では大きかったと思います。

  • 71分にコンサがバカヨコを投入して、雑に放り込む展開だと(疲れている)大嘉よりもバカヨコの方が脅威になるのか?と思わせるプレーを徐々に見せてますが、79分に山口がゴールキックからの展開から追加点。

  • 左サイドハーフの小林がFWの山本駿亮とうまくスイッチして家泉に身体を当てて、拾った成岡→山本駿亮と渡って、山本駿亮は裏へのパスの時に殆ど味方を見ていない。ゴールキックというセットプレーですが、前線でマイボールになったらすぐにゴールに向かってプレーするというのはおそらくこのチームのプレー原則なのでしょう。
  • 最初古川が抜け出しかけてこのタイミングだとオフサイドなのですが、すぐ後で遅れて出てきたのはGKのフィードを競った小林。素晴らしいプレーの切り替えというか連続性を発揮して抜け出し、最後のフィニッシュも完璧なボールでした。


  • 最後は山口は板倉をCBに入れて5バックで対応します。5枚にしたからといって堅くなるとは限らないし、むしろ中央のフィルターが弱くなったことでバカヨコにダイレクトにボールが入りやすくなっていた感がありますが、それでもコンサのやることが本質的にあまり変わらなかったと言えるでしょう。


  • バカヨコの背後に飛び出した原のダイビングヘッド(クロスバー直撃)が最大の決定機でしたが、やはりこうした放り込み攻撃主体で「ポケットを取る」意識はあまりかんじられませんでした。


雑感

  • 明確に「やっていることや目指していることが悪い」とか「間違っている」なら、そのチームの監督やスタッフはふさわしくないということが言えるかもしれませんけど、今の時点では正しいか正しくない以前にまずチームとして共通理解がなくて機能していないという状況かなと思います。

  • 前節、岩政監督から「文化」という言葉が出てきましたが、人によってはこういうサッカー用語的なニュアンスでの「文化」は「共通理解」とニアリーイコールに捉える人もいるかもしれません。別にそれでもいいのですけど、日本語本来の意味合いでいうと、「共通理解」を生むための基盤が「文化」といった位置付けでしょうか。
  • ただそうした位置付けの話というか重要なのは、個人的には岩政監督のいうところの「コンサには守備の文化がない」とする表現に補足させてもらうと、コンサはオープンなサッカーしか知らないというか「サッカーとはオープンに蹴り合うものである」と考えて実践しつつづけてきたのがコンサの「文化」なのかなと感じます。
  • 要は相手がどういう狙いをもって何をしてくるか考えなくても、勝手にそのうちバランスが崩れてオープンになるのであればビルドアップとか考えなくても前にボールは運べるし、それならば互いのゴール前の攻防に自然とフォーカスされることになる。「あとは決めるだけ」のような発言もこうした文化が根底にあるとするなら背景を理解しやすいかもしれません。
  • アウェイでの3連戦、大分、熊本、山口と3連敗で札幌に帰ることになりましたが、熊本は幾分かオープンになることもあってコンサでも多少は話が通じそうな雰囲気もありましたが、山口や大分にはコンサの文化は通じなかった。結果露見されたのは、妙に自信満々でボールを持ちたがる割にクオリティが伴っていないチームの惨状でした。

  • 岩政監督は「文化」を変容させるという大変難しいミッションに直面したことを改めて認識したかもしれませんが、「文化」は1人で変容させることはできません。監督のミッションはフロントのミッションでもあるし、選手に課されたミッションでもある。山口とコンサでプレーしたある偉大な選手の引退セレモニーのスピーチの言葉を勝手に借りると、とにかく自らへの要求水準を高く保てるか。「文化」を皆で変容させるのはそれくらい難しいことだと思いますが、せっかく経営陣も新たになったこのタイミングで、短期の成果に目が向きがちなところも含めてなんとか変わってほしいと思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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