2025年3月27日木曜日

2025年3月26日(水)JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 第1回戦 福島ユナイテッドFCvs北海道コンサドーレ札幌 〜悪意も嘘もないが〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 公式戦では初対戦となるカード。福島については殆ど予備知識がない状態でこの試合を見ています(調べるまでかつての福島FCとの関連もわかっていませんでいた)。
  • 一応、寺田周平氏が監督を務め、川崎フロンターレから若手選手を受け入れている程度は知っていましたが、どんなプレーをするのかはほぼ初見ということでご容赦ください。リーグ戦のメンバーからはFW樋口、前線(ウイングというかシャドーか?)の清水、中盤の城定、針谷、狩野、DFの藤谷、山田、鈴、GK吉丸…といった選手が軒並みベンチスタートまたはメンバー外で、コンサと同じくらいメンバーは落としているようです。
  • コンサは3日前のリーグ戦から中村桐耶以外のスタメンは入れ替え。右SBができる選手が現状髙尾しかいないので、必然と3バックっぽいメンバー、配置になります(岩政監督はこれについて明確に3とか4とかではないから無意味な話、としている感がありますが)。負傷等で離脱していたパクミンギュ、中島、菅野はこの試合から公式戦復帰で、来シーズンからの正式加入が発表された佐藤が公式戦初スタメン(天皇杯では途中出場経験あり)。

2.試合展開

最低限のスペック:

  • 立ち上がりから、お互いに自陣ゴール付近でロングボールをすぐに使わず、GKとDF、中盤の選手を使って相手の前線守備を剥がそうとするプレーを敢行する意識が強かったと思いますし、それに対して高い位置からのpressingで対抗するスタンスも一緒でした。
  • しかしその成果は対照的で、コンサが20分で2ゴールを奪って先行することとなりました。

  • 福島がボールを持っている時は主に↓のような配置でスタートします。福島はあまりポジションチェンジがなく、インサイドハーフの宮崎がポジションを上下に調節する程度で他はほぼ定位置でした。
  • 特徴としては前線の3選手が幅を取らないで中央に集まっていることです。
  • 一般にはサッカーのセオリーと逆行するというか、ボールを持っている時はピッチ横幅に広がるようにポジションをとり、それに対してついてくる相手のDFを横に広げてスペースを作るという考え方が世界的に見ても主流な気がしますが、森と粟野は中央付近にいることが多い。
  • ただしロングボールを前線に当てる際は、センターFWの石井や粟野がサイドのスペースに流れてボールを受けようとする場面も少なくはなかったので、表現としては横幅を全く使ってないというよりも、「あえて中央に集まって相手のDFを集めた状態を作っている」みたいな捉え方もできるかもしれません。

  • コンサがこの形から2点を奪いますが、

  • リーグ戦のvs熊本ではハイプレスをする際に↓のような構図になって、サイドの選手がボールを持った時にFWの中島と反対サイドのシャドーの田中克幸がボールサイドに寄せるのか、対面の選手や近い選手を見るのかが明確にならずコンサのpressingは空転していましたが、

  • この試合は↓のように、ボールと反対サイドのシャドー(図では出間)が絞って横方向の展開をケアする役割に、ボールサイドのシャドー(佐藤)は縦を切りながら寄せていく、中島はアンカーをケアしながら中央方向のパスを制限する…という具合に前線3選手の役割分担が明確になりました。


  • 加えてこの中島、佐藤、出間の若い3選手はこうした仕事を連続で行えるだけの身体的資質と戦術理解があり、2点目の佐藤や出間の相手選手への寄せ方(相手に突っ込むのではなく相手が左右に動いた際に対応できるように準備しステップを踏む、2方向へのパスを読み中間ポジションを取る、制限をかけられている選手にパスが出たら一気に寄せる)…を見ればこの点はトレーニングで改善してきたことが伝わります。
  • 2得点の場面以外を含めても、前半だけで4回か5回、コンサはゾーン3(ピッチを縦に3分割した時に相手ゴールに近い30mのエリア)でボールを奪うことに成功します。
  • 現代サッカーでハイプレスを武器とするなら彼らくらいの能力が必要であることは、68分に三上サポーター(もうGMじゃなくてこれからはコンサのサポーターになるらしいので一旦はこう呼びましょうか)の置き土産でもあるキングが出間と交代で投入され、特にアクションの連続性や適切なポジションに戻るまでのスピードで課題を露呈したことでより明確になったでしょうか。
  • キングのせいだけではなく福島が出方を変えたこともありますが、ともかくこのコンサのハイプレスは後半あまり機能しなくなります。

あえて配置しない:

  • コンサがボールを持っている時の構図は↓からスタートします。これもリーグ戦のvs熊本で似た形をとっていましたが、DFが左右非対称になるというか、左はパクミンギュがSB、右は誰も配置していませんでした(熊本ではパクがCBで、西野が右に出る、左に誰も置かない形)。
  • 福島は前線3人とインサイドハーフは人を決めてマンツーマンに近い形で、アンカーの由井と4人のDFは都度近い選手を捕まえるという対応。

  • ここからコンサはボールを持った時に、右に木戸が出てきたり、原が下がったり、場合によっては出間が落ちてきたりしてこのスペースを使う形になります。
  • 主に木戸が最初にいることが多くて、木戸に対しては福島は中村がマークするという関係性はあまり変わらず、これ単体では木戸がサイドでボールを持てる(中村がそこまでついてこない)ということ以上には意味は見出せないかもしれませんが、木戸が右に登場する配置が印象付けられた後で原が出てくると
  • 福島の左SBの松長根は、原だけを見ている役割では本来はないと思うのですが、原とのマッチアップを意識させられている状態でこれが生じるので、下がった原に対してもついていくことが多くなります。そうすると福島の左にスペースができ、かつ他の選手によってカバーリングがされていない状態になるので、そこに出間や中島が飛び出す形に繋がっていたと思います。


「圧倒」の片鱗:

  • コンサの右サイドはbuild-upの際に特徴を発揮していたとして、パクミンギュがオリジナルポジションをとりがちな左サイドはより福島陣内に入った後のプレーで特徴が発揮されていたと思います。
  • コンサは田中宏武がワイドに張って、4バック+インサイドハーフ3人でかつあまり撤退してスペースを消す意識が強くない福島に対してはSB-SB間に「ポケット」を作ることは容易でした。
  • この形から、シャドーの佐藤や中盤センターの荒野がオーバーラップしたりポケットに侵入する姿勢を見せると、福島がここをケアする対応としては、前線から粟野が長い距離を走って頑張って戻ってくることがほぼ全てで、宮崎や由井はどちらかというと中央を守っていることが多かったと思います。
  • 仮にチャネル侵入を粟野で対処されたとしても、コンサはそこから低い位置(元々粟野がいた位置)に別の選手が出てくることで簡単にフリーの選手を作れていましたし、そこから荒野や右利きの選手のインスイングクロスを、大外の中島や出間に届けることであわや、という形を前半から見せていました。

悪意はないのだが…

  • しかしながら荒野と木戸いずれも前線の相手ゴール前で何らかの仕事に関与しようとすると、コンサがボールを失った時には後方に残っている西野と中村桐耶が、福島の前線の選手が前を向いた状態での局面に晒されるリスクは構造的に必然となります。これはコンサがボールを失った時もそうですが、ハイプレスでボールを奪いきれなかった時も似た現象が生じます。

  • 26分の福島の1点目は、コンサが高い位置でボールを奪って田中宏武がカットインからロングシュート→味方の佐藤に当たったボールを福島DF松長根がヘディングでクリア→木戸がチャレンジするも失敗し福島のMF中村がフリーで前を向く…というところから始まっています。
  • 田中宏武のシュートから、木戸がチャレンジした判断に関しては、おそらくこのチームが目指しているのはこうした状況(相手を押し込んでいる)で仕掛けて、相手ボールになってもまたすぐにボールにアタックして迅速にボールを回収し、自分たちがボールを握っており相手に渡さない、相手が後手に回る状況を強いる…というのがおそらく、岩政監督のいう「圧倒するサッカー」だと思うので、宏武や木戸の判断自体はこれに照らし合わせるとおかしくはないかと思います。
  • ただ本来攻撃的MFで、「守備は元々あんまり…」と自ら語る木戸と、この場面でも相手ボールになってからゆったり戻っている荒野のユニットだと、中盤にもう少しリスクヘッジというか前がかりになりすぎない選手がいれば、コンサのDFが簡単に晒される局面はもう少し減るでしょうし、荒野くらいのスピードでしか戻れないなら、「圧倒するサッカー」においてはシンプルにスペック不足を指摘できるかと思います。

  • なおスコア2-3となった後の65分に、福島が自陣からのbuild-upを成功させ、松長根→上畑(途中交代)→森…と縦パスが入り、コンサはこの過程で4人ほどがチャレンジして失敗から一気に剥がされて5v1の数的関係で福島が速攻!という場面がありましたが(菅野がセーブ)、この時はマンツーマンの関係性で考えると馬場が上畑に寄せる判断を迷って前を向かれたのと、中島が少し疲れて中央で絞る仕事ができなくなっていたというところが大きいかと思います。
  • いずれにせよコンサの対応はマンツーマンの比重がかなり大きく、そこでズレるとカバーリングやリカバリーがきかないというのは(この試合の中でたびたび)証明されたことかと思います。

師匠は誰が見ても明らか:

  • ハイプレスにはまっての2失点を受けて、という側面もあるのでしょうけど、福島は徐々に自陣では長いパスやロングフィードを使ってコンサ陣内に入ろうとします。
  • そして何らか前線の選手がポストプレーやマイボールにするプレーが成功し、福島の選手がコンサ陣内に入る局面になると、おそらく風間八宏監督の影響を大いに受けていると思われる寺田監督の福島が強みを発揮する展開となります。
  • 久々にこのスタイルを見たのですが、やっていることとしては横幅は基本的にとらない、中央というか相手のDF-MF間に人を集めて、DFから縦パスのコースが空いたら足元に速いパスを当てる…という感じで、
  • 横幅は取らないと言いつつ、最後の崩しの場面ではスピードに乗った選手がサイドにできているスペースを駆け上がったことが決定打になることも少なくなく、この試合の福島の最初の3得点はいずれもクロスボールから生まれています。この辺りは本音建前というか二面生みたいなものでしょうか(本流の風間氏は最近YouTubeで「ゴールが真ん中にあるからわざわざサイドに行く必要がない」みたいなことを言っていました)。

  • コンサはリーグ戦で6試合連続でクロスボール(ロングスローも便宜上含める)から失点しており、それらはCBの選手が相手のターゲットとなる選手を捕まえる能力の問題がまず大きいと感じていますが、この福島の2失点は、まずサイドでのマークのギャップがあったと思います。
  • もしかすると、田中宏武が右サイドを駆け上がってきた福島の右SB安在を見るべきか判断迷ったように見えるのは、福島はあまりワイドを使ってこない(ということになっている)とする情報もあって、「サイドはある程度捨てて良いみたいな」話があったのかもしれません。ただ上記の福島(というか風間監督的なサッカー)の二面生を踏まえるとこれは裏目になってしまいました。
  • あとはCBは相手のターゲットを見ているのはいいとして、ここでも荒野と木戸の中央のところでの強度不足というか、走り込んでくる選手はノーマークでいいのか?クロスが入ってくるタイミングで彼らのタスクをもう少し整理したほうが良いように思えます。

スペックと制御方法の不足:

  • 60分で出場時間コントロールの観点もあってか互いに選手交代を行います。コンサは中村・パク・佐藤→家泉・岡田・馬場。この3人を投入した直後、福島としては2人を変える直前のCKで中島が中央にうまく走りこんで頭で合わせて2-3。
  • 福島はスコアが動いた直後の61分で宮崎・粟野→城定・上畑の交代。
  • そしてコンサは68分に出間→三上サポーターの置き土産ことキング。先に述べましたがキングの前線でのセカンドアクションの物足りなさ(相手に1度しか寄せられない、ボールを持って仕掛けるのはいいがその次のプレーへの移行が遅い)はこの試合の水準だと穴になってしまう印象で、徐々にボールを持てるようになる福島を勢いづける交代だったかもしれません。
  • またボールを持った時に動く範囲が大きくポジションチェンジを伴うと、前線で中島や木戸と並んで相手のマークを決める時にキングが右に行くのか中央に残るのかで時間がかかり、福島としてはその時間は自らを整える時間になります。

  • そうしてコンサの前線守備というかマンツーマン基調の対応が更にハマらなくなっていく中で、福島が得意の中央縦パス→クロスボールというパターンで途中出場の上畑が決めて追いつきます。
  • ぜひ無料で見られるleminoで(「ひななり」と共に)この得点シーンの1分前くらいから見ていただきたいのですが、前線でうまくプレッシャーがかからない中で中島が頑張っていますが福島は縦パスを通してくる。一度コンサが引っかけますが、キングがロストしたところから福島が2度目の縦パスチャレンジをして、上畑が馬場と荒野の間でターンに成功。ここを見ると上畑は技術に自信を持っているとも言えますし、コンサ相手なら一見狭いスペースではあるけど実はたいしたプレッシャーになっていない(マンツーマンだけどそこまでタイトな対応をしていない)とも捉えることができるでしょう。それはコンサの選手のマンマークの能力もそうですが、そもそも誰をマークするか決まってないので対応が難しいということも言えます。

  • あとは選手交代と得点経過だけサクッと追っていきますが、75分に福島は中村→清水。城定をインサイドハーフに下げて清水は前線の右に。
  • コンサは84分に田中宏武→新加入の林田でそのまま右に。
  • 延長戦に入って、コンサは中島→ジョルディ、福島は森→矢島。

  • 延長線に入って40秒で福島がリードを奪います。

  • 左に流れた上畑が林田のところで股抜きに成功。馬場はカバーに入った判断は悪くないと思いますが結果的には林田との間を簡単に割られて、中央で荒野も石井が潰れたことで無力化され、またもチャレンジしかない(チャレンジ&カバーがきかない)コンサのシンプルすぎる対応が露わになって城定がボックスの外から落ち着いてコースに流しこみました。


  • 95分のゴールは福島のGK上田のフィードを家泉が跳ね返したところから。これは↓の切り取り映像だけ見れば良いかと思います。 


  • 延長後半から福島は清水が右に入る1-5-3-2の形でコンサのサイドを封鎖します。コンサはキングと林田の役割を入れ替え。


  •  最後は福島がセットプレーから6点目。



雑感

  • この週コンサは三上GMの退任とサポーターへの就任が正式に発表されました。
  • 個人的には最後までGMという役職が具体的に何をやっているのかわからないままですが、少なくともミシャと岩政監督が「継続路線」だと安易に考え発言するような人は、フットボールに関わる役職よりもサポーターという役職が適任な気はします(なおセレッソサポーターの友人曰く、モリシ社長以前のセレッソだと社長が親会社から出向でビジネスサイドの責任者、GMがフットボール部分の責任者という位置付けだったそうです)。

  • そうした前GMのフィルターを通じた岩政監督評は全く当てにならないということで、我々としては毎試合の中身を見ること、本人の言葉などから判断するしかないのですが、岩政監督が言っていたのは「圧倒して勝つ」という表現。
  • これは私はボールを握る、ボールを握って相手が後手に回るプレーをする、相手がボールを握ったら強烈なプレッシャーをかけてすぐに奪うとか簡単に前進させないようにする、結果として相手を自陣に押し込む…とか、なんとなくそんな感じのイメージをしているのですが、であればこの試合において、たとえば試合序盤から高い位置でプレッシャーをかけてボールを奪うということは確かに見せていました。

  • ただ文中にも書きましたが、それを貫くのはいいとして、1度のミスが失点につながってしまう傾向というか、ハイプレスが失敗した後どうするか、または敵陣でボールを持っている時にボールを失った後どうリカバリーするかまで考えて敵陣でプレー(ポケットをとるとか)できているか、「等々」が備わって初めて「圧倒して勝つ」に近づくことになる。
  • 私の印象としては、部分的に監督の指向するプレーが見えているのは間違いないが、それ以外の勝敗に直結する部分のクオリティがかなり物足りないというのが現状かなと思います。
  • 監督や選手としては「圧倒して勝つ」を素直に目指しており、そこには悪意や嘘偽りのようなものはない。ただシンプルに諸々のクオリティが足りないから勝てないという状況かと思います。私の印象としては、「圧倒して勝つ」には根本的に変わらないと厳しい選手が何人かいるように見受けられます。

  • となると、選手起用に関してはある程度、見極めができたとするなら、そうした勝敗に直結する部分でクオリティを発揮できる選手がいるならそうした選手中心になっていくのは必然ですし、そうした選手が不足するならどこかで方針転換する(「圧倒して勝つ」ではなくなる)か、それとも勝ち負けにこだわらず文字通りこのシーズンが捨てシーズンになるのか。そうした可能性も早くも見えてきた感じがしますが、どういう方向性でいくのか、新社長と監督とのコミュニケーションも重要になってくるでしょう。

  • あとは、部分的には「圧倒して勝つ」の片鱗が見えた試合ではありますが、相手チームの特徴…J2のリーグ戦で直面しているような両ゴール前にフォーカスしてスペースを埋めたりキープレイヤーにタイトなマークをしたり、といった緻密さがそこまでなく、ボールに素直に食いついてくる相手ということもあって、コンサとしては相手を1人剥がせばわりかしイージーにチャンスになるということは考慮しておく必要があるでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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