1.ゲームの戦略的論点とポイント
時は来た のか?:
- 愛媛FCの2024シーズンは、38試合で勝ち点40を確保し17位でフィニッシュ。自動降格の憂き目にあった18位の栃木SCが勝ち点34でしたので、数字上は差があったように思えますが、愛媛は8/18の第27節で大分に勝ってからは11試合勝ちなしと、特に主力選手が抜けたわけでもないのに大きく失速してシーズンを終えます。
- 6月末に22節を消化した時点では勝ち点31で、当時6位のジェフと勝ち点5差につけていたことを踏まえて石丸監督との契約更新に至ったかと思いますが、25シーズンも開幕5節で唯一の勝ちなしと苦しい状況が続きます。
- オフの選手のin/outではスタメンCBの森下と小川が揃って鳥栖へ。FWで一番出場していた松田力がフリートランスファーで富山へ移籍したのは、クラブ側に更新の意思があったかはわからないですが、年間売り上げが8.6億円、トップチーム人件費2.2億円(23年J3での数値)のクラブとしては、数字が下がったベテランにはシビアにならざるを得ないかもしれません。
- 一方で期限付き移籍を利用してJ1のクラブから計7人の選手を迎え入れており、特にここまでスタメンで多く起用されている左SBの森山(←福岡)、右SBの福島(←湘南)、右ウイングの甲田(←名古屋)といった面々を見ると、戦術的にキーになるサイドバックやウイングは期限付き移籍で補ってでも指向するスタイルで勝負するという意図は見受けられます。その意味では割と監督へのサポート体制みたいなのは資金面以外では整っているのかもしれません。
https://aboutj.jleague.jp/corporate/assets/pdf/club_info/j_kessan-2023.pdf
スターティングメンバー:
- 5節を消化して未勝利ということで愛媛はシステムもメンバーは変えてきてました。一応、4節のvs今治では相手と同じ1-3-1-4-2のシステムを採用しましたが、直近2シーズンも含めほぼ4バックベースのシステムでした。この日は3バックというよりも両ワイドが黒石と森山なので5バックの1-5-2-3と表すのが実態に近いでしょうか。
- その5バックの中央に名古屋から期限付き移籍の吉田温紀。CB左には同志社大学から加入した金沢。中盤センターは中京大学3年生の武藤を残して、ここまで5試合連続スタメンの深澤に変えて谷本。前線の3選手はそのままスタメンに名を連ねています。窪田と甲田はウイングのプレーが得意かというと微妙なので、シャドーの役割としたのは適切かと感じました。
- 対照的に、コンサは「勝っているチームは変えない」を実践して、スタメンは代表招集中のスパチョークを除けば前節と同じ。長谷川をスパチョークのところに入れ、サブに初のメンバー入りとなる白井が入っています。
2.試合展開
CBとGPへのサポート不足:
- コンサがボールを持っている時の愛媛は1-5-2-3のブロックを作ります。
- 特にシャドーの甲田と窪田は、後方のWBと連携してコンサのサイドの選手やスペースを封鎖するというよりも、1トップの田口と近い位置にいて連携しながらコンサのDFに対して寄せていきボールを自由に持たせない、ボールを蹴らせて回収、といったタスクが主であることが特徴的でした。
- 1トップの田口はコンサのGP小次郎にバックパスがされると寄せたり、シャドーがコンサのSBに出た時に空いたCBをケアするといった仕事を担います。
- CB2人とGPに早い段階から寄せられてコンサはボールが落ち着かなくなります。前節、秋田相手にはCBの家泉や中村桐耶に早めのサイドチェンジや縦パスなどの選択肢を用意して、彼らが早く判断し実行することを助けていましたが、愛媛の前3人による高い位置からの対応によってコンサのCBやGPは誰にボールを預けたら良いか解を見つけられず、とりあえずSBに預けるも、そのSBもシャドーの選手の二度追いで時間とスペースを失い、とりあえず前方に蹴る、といった選択しかできなかったと思います。
- 愛媛のように前に3人を置いての高い位置からのマンツーマン気味のプレッシングと、後方に5バックを置いてスペースを埋める対応を両立してくる相手には、例えば↓のようにCBの選手がもっと低い位置からスタートし愛媛の前3枚を引きつけて、その背後で中盤センターの選手やCBの選手がスペースを使う…このような対応が考えられるかと思います。
- しかし現状コンサにそこまでピッチ上で判断して行うだけの力はなく、秋田のようなリトリートからの対応がメインの相手ならば露呈されなかったかもしれませんが、CBに対してマンツーマン気味に対応してくるチームを相手にすると、依然としてbuild-upの不安定さは課題となっていたと思います。
- 馬場と高嶺が愛媛の1列目と2列目の間でプレーできないコンサは、必然とDFがFWに向けて長めのパスを蹴る展開になります。4分には岡田が左から長谷川にグラウンダーのスルーパスで抜け出しかけましたが、DF→FWの展開で可能性がありそうだったのはその程度。スタジアムの風を有効に使う考え方もあったのかもしれませんが、全体としてはとりあえず前に蹴る展開が続いていました。
誰がどこを見るのか問題:
- 愛媛がボールを捨てて5バックで守る展開でしたが、9分に愛媛はこの試合最初のシュートから先制に成功します。
狙いすましたボレーシュート✨️
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) March 23, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第6節
🆚 愛媛vs札幌
🔢 1-0
⌚️ 9分
⚽️ 森山 公弥(愛媛)#Jリーグ pic.twitter.com/FoIAAluMF9
- 映像ではクロスが入った後に誰か選手が声を上げているのが確認でき、おそらくGPが「キーパー!」とか自分が処理すると言っていたのではないかと思いますが、それが聞こえなかったのか家泉がGP小次郎の邪魔をする形になってしまい、更に中村桐耶のクリアが不十分になって森山の見事なシュートをアシストとしてしまいました。
- シンプルにDFとGPの連携ミスですが、これでコンサはクロスボールから6試合連続での失点。
- 前節もそうでしたが頭を狙ったボールに対して、CBの選手のボディアングルを見ると見切りが早いというか、早い段階で相手選手を見れない体の向きになっていて、その守り方(大外SBに任せる?)が意図するものなのか怪しいところかと感じますし、この様子だと今後もサイドからの放り込みに対しては暫くは脆弱さを露呈し続けるかもしれません。
「ポケットをとる」に至るまで:
- コンサは依然としてCBがプレッシャーを受けて余裕がない状況で、それよりも前にいる選手…青木、長谷川、高嶺あたりが下がってボールを受けようとします。
- しかしこれらの選手が下がることで、その選手自体は一時的にマークを外した状態になるのですが、前を向いた状態で受けるには至らないと結局DFの選手にリターンを出す程度の仕事しかできず、前にボールを運ぶタスクは依然としてCBの選手が担うとする状況はあまり変わらなかったと思います。
- 次第にコンサは下がるだけじゃなく前方向へのポジションチェンジが増えていきます。コンサはCBがボールを運ぶというよりは、愛媛のDF-MFの間、もしくはMF2人の脇でボールを受ける選手を確保する。受け手のところで変化を出していこうとする発想に感じました。
- 20分には初めて愛媛のディフェンスを剥がしてシュート(近藤の右クロスにファーに飛び込んだ岡田がヘッド)に持ち込むことに成功しますが、右の髙尾から中央で愛媛のMF2人の間に降りてきた長谷川への斜めのパスがスイッチになった形でした。
- 愛媛は依然としてブロックを作ってボールを捨てる展開が主でした。
- 特筆するとしたら、2度似たような形が見られたのは、家泉が持ち出そうと右に開いて前進したところで窪田がプレッシャーをかけてそのフィードの精度に影響を与え、愛媛が回収してすぐに左に開いた窪田に展開して家泉を中央から釣り出した状態で1v1…を作りかけていました。作りかけとしたのは、2度ともタイミングが合わずオフサイドになったためです。
- 窪田は寄せ方(寄せる速さと距離の調節)がうまく、家泉が油断すると怪しくなっていたと思います。
- 25分にコンサは右からのスローインを近藤がクイックに行って、スローワーの近藤の近くに立っていた森山の背後に髙尾が抜け出し右クロスを長谷川がシュート(ブロックされCKに)。
- このプレー以降コンサは何度か右サイドで「ポケットをとる」ことに成功し、バカヨコの同点ゴールにも繋がります。
- このプレーはスローインからでしたが、直近の試合を見ても、どうやらこのポケット(SB-CBの間)に誰かが飛び出して背後を取ることに関しては既にチーム内に浸透しているようです。
- ただし、それが発動するには現状はワイドで前を向いてボールを受け、2人目の選手が高い位置にいてスペースにフリーランできる状態であることが発動条件になっている。
- コンサの左サイドでは、青木があまり大外に張らないでいたためまず出し手(よくいう起点)になる選手が定まっておらず、途中から近藤が右に張ることが増えた反対サイドと比べると、左サイドではこうした前提条件を満たしていなかったと思います。
- また32分のプレー(近藤が馬場に戻してフリーの状態から右クロス→長谷川のヘッド)に特徴が表れているかもしれませんが、コンサの場合、配置上右サイドに集まりやすい選手(近藤、髙尾、馬場)がそれぞれ、ワイドで相手と1v2の形を作りやすい近藤、タイミングを見て長い距離を走って飛び出すのが得意な髙尾、走る役割も出し手にもなれる(なれそうな)馬場、と特徴が異なっており、近藤がワイドに張って相手のDFの意識をワイドに向けるところからスタートして、右利きの選手が何らかスペースに飛び出す形が今のところ最も有効というかスムーズに繰り出せる攻撃になっていると思います。
- 馬場が中央から動いてこうした局面に関与することが増えると、高嶺はより中央に残る意識が強くなるでしょうし、左利きの高嶺があまり登場することができなかった左サイドは、先の青木の役割設定の問題もあり右サイドのように何度もスペースに選手が飛び出すような展開に至らなかったことは必然だと思います。
- そして36分にこの試合4度目くらいの右サイドアタック。近藤のスローインと彼の頑張りでボールを残して、愛媛のクリアミスを拾った馬場が浮き玉をうまく処理して再び近藤へ。バカヨコにタイミングを合わせた見事なアシストで追いつきます。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) March 23, 2025
🏆 明治安田J2リーグ 第6節
🆚 愛媛vs札幌
🔢 1-1
⌚️ 36分
⚽️ アマドゥ バカヨコ(札幌)#Jリーグ pic.twitter.com/86UaAhASRv
- 近藤はこのプレー以外でも、スローインの際に小さいモーションで飛距離を出せる点はチームとして組み込めるとより面白いかもしれません。あとは馬場に入った瞬間に、サイドでのビルドアップのフェーズが終わったと察知してスピードを上げて中央に走り込んだバカヨコはよく集中していたと思います。
気持ちだけでは空回り:
- 後半最初の10分間ほどで愛媛は3回ほどシュートチャンスを得ますが、いずれもコンサが高い位置からpressingを仕掛けようとして空転したところで愛媛がひっくり返して…というものでした。
- コンサは長谷川が頑張って前線で長い距離を走る場面が目立ちました。長谷川は1人では剥がされるのも想定内といった感じで二度追いしたりもしますが、押し上げて高い位置で奪い切るのか、あくまで前線は誘導するのみで奪う位置は低めなのか等、他にもこの局面で全体としてコンサは不明瞭な対応に見えました。
- 加えて、愛媛はこの試合はシステム1-3-4-2-1に変えてきましたが、普段は1-4-2-3-1のシステムベースながら1-3-2-5に変形(SBどちらかが中央に絞って、中盤センターの選手1人が前に出ていく等)する形でボール保持の際はプレーしている。
- ですのでコンサが1-4-4-2の噛み合わせが悪い状態で中途半端に前に出てくる状態を剥がすのは、愛媛にとって容易いシチュエーションだったでしょう。前半はリスクを避けて前に蹴っていた体と思いますが、この辺の愛媛の実力をコンサは甘く見ていたのかもしれません。
- 56分にコンサは2トップを同時に交代(バカヨコ・長谷川→ゴニ・白井)。噛み合わせが悪い状態で愛媛に突っ込んでいく状況が続きますが、そこから奪ってのショートカウンターで59分には青木がボックス外からシュート(GK辻が横っ飛びセーブ)。長谷川よりは白井の方がタイミングを見て寄せる、ステイの判断が効く印象はありました。
- 69分に愛媛が3選手(谷本・窪田・田口→深澤・藤原・村上)、72分にコンサが2選手(岡田・馬場→木戸・宮澤)を交代。
- 愛媛は60分前後からやや1列目と2列目、2列目と3列目の間にスペースが空いてくるようにも見えましたが、それは愛媛のボール非保持のやり方(5バックはステイして前の5人が積極的に前に出てくる)だと自然とそうなるという面もあって、疲労の影響で…とは言えないかもしれません。交代に関してはスピードがあり1人で突っ込める甲田を残す判断があったと思います。
- コンサは監督のコメントからも「ボールを取りにいく交代」だったと思います。白井&ゴニのユニットはバカヨコ&長谷川よりはコミュニケーションがとれているというか、2人の判断基準が割と近い感じはしましたが、ゴニは1stDFとしてはアクションにばらつきが生じるのもあって「ボールを取りにいく」が実現できたかというとそこまでではありませんでした。
- そして愛媛に剥がされると、73分は↓のような構図になり甲田がコンサのSB-CB間に侵入しますが、コンサの遅れて人を捕まえるマンツーマン(なぜかゾーンディフェンスとか言ってますが基本的には人を捕まえる作用の方が明らかに大きい)では、しかもミスマッチができやすい愛媛に対してコンサゴール前で後手に回りやすい構造だったと思います。
- 79分にも愛媛がコンサの前線守備を剥がしてチャンスを作ります。
- コンサのCKをGKがキャッチしてのリスタートからCBに出して、吉田の縦パスを深澤がうまくワンタッチで流して藤原がターンしチャンスになります(最後は森山のシュートが枠外)。
- 深澤に木戸が遅れて藤原に渡ったところで岩政監督が「なんでだよ」みたいなリアクションをベンチで見せているところが抜かれましたが、木戸が寄せ切るには完全にマンツーマンで割り切る(DFは余らせていますが同数にするとか)か、ボールと反対サイドの白井や近藤のところをもっと絞って、かつサイドチェンジを許さないようにするとか整理が必要なように思えますが、そこまでは未整備でとりあえずマンツーマンで対応している状況なのでしょう。
- その後80分にも自陣ボックス付近で髙尾→宮澤の不用意なパスを奪われて愛媛がチャンス(藤原シュートは枠外)、は詳細は割愛し…82分に右クロスをゴニがうまく合わせて勝点3を拾ったコンサでした。
試合終盤の逆転ゴールで札幌2連勝!
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) March 23, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第6節
🆚 愛媛vs札幌
🔢 1-2
⌚️ 82分
⚽️ キム ゴンヒ(札幌)#Jリーグ pic.twitter.com/7Enb9Lux9J
雑感
- まず愛媛の5バックは岩政監督のコメントを参照してもおそらく想定外だったのかと思います。ただ、5バックのチームを崩せないのはこれまでもコンサの傾向としてありましたが、寧ろ敵陣のラスト1/3に入った時にサイドでポケットをとるプレーに関してはこの試合に限らず少なくともこのカテゴリでは十分に武器になっている。
- 寧ろ、これもこの試合に限った話ではないですが、相手が5バックとか4バックとか関係なくボールを運ぶ役割のDFに対してマンツーマンでマークされたり、受け手を消されてどうボールを動かしたら良いか迷う状況からだいたいのトラブルは始まっている。
- あとは、ボールを持っていない局面ではとりあえずマンツーマンベースで対応という感じですが、捕まえる/捕まえないでステイする の判断がその都度、人によって異なるという感じでユニットとして見た時の強度不足はそこに起因している印象は引き続き変わりません。
- こうした試合を勝てたのは大きいですが、愛媛の決定力不足に助けられた感はかなりあります。また今後はCB、特に家泉にボールを誘導しようとするチームが登場してくるのではないかと予想します。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
0 件のコメント:
コメントを投稿