0.スターティングメンバー&試合結果
スターティングメンバー&試合結果 |
- 1-4-4-2をベースとしていた鳥栖は、金明輝監督曰く「守備を特段意識したわけでもない」1-3-1-4-2に変更し、またスタメン11人を入れ替えています。
- 鳥栖が1-4-4-2だとしたら札幌は1-3-1-4-2でマッチアップを合わせるのがここ数試合の傾向ですが、慣れ親しんだ?システムに戻してきました。
1.ゲームの基本的な構造
1.1 鳥栖の狙い
- 鳥栖のシステム選択の意図は、札幌の5トップ攻撃への備えとしてもありますが、加えて、マンマークで人を捕まえて守る札幌に対してミスマッチを作って、「前から捕まえに行ってるけど捕まえきれてないので、ボールにプレッシャーが十分かからないしフリーの選手がいる、スペースもできている」状態を作って攻撃したかったのだと推察します。
- 1-3-1-4-2の鳥栖に対する、札幌のマッチアップは概ね以下の通りでした。3バックを前3枚でそのまま捕まえる。中盤の枚数が異なり、鳥栖は3枚、札幌は2枚。こうなると普通は人を捕まえるだけだと相手3枚のうち誰かが余ってしまうので、簡単に食いつかずにポジションを守る(≒スペースを守る)対応が多いですが、札幌は人を捕まえて守ることのプライオリティが極めて高い。鳥栖はこれを利用します。
マッチアップ |
- アンカーの高橋秀人がボールを受けようと動くと、札幌は荒野か高嶺のどちらかが必ずついていきます。そして、2人目の高橋義希も動くと荒野もこれについていく。そうすると、中盤3人目の本田が余ることになります。これは、札幌は福森が動いて解決すればいいじゃん、とする考え方でした。
札幌のミスマッチ解消の仕方 |
- 確かに数合わせ的にはそれでいいのですが、サッカーには人以外にスペースの概念があります。荒野と高嶺が動くとスペース管理の観点では、DFのすぐ前の中央の、非常に影響力のあるスペースががら空きになります。
- 鳥栖の中盤の3人目、本田はこのスペースでボールを確保して展開するのが役割です。
高嶺と荒野は動きやすく背後が空きやすい |
- ただ札幌がマンマークで守ると、まず鳥栖はこの1on1を解決する必要があるのも事実で、最終ラインと札幌前線の3on3、中央には荒野と高嶺という非常に守備範囲が広い(その分、良くも悪くも動く傾向がありますが)ユニットを攻略する必要があるのも事実です。
- なので、鳥栖は得意のロングボールによる回避策も多用し、前線のチョドンゴンvsキムミンテのエアバトルが頻発します。この結果は以下の通り(だから毎試合使っとけって)。
85.7% - キム・ミンテは鳥栖戦で両チーム最多の空中戦を記録し、その勝率は85.7%だった(12/14)。空中戦、同勝利数ともにJ1では自身最多。また、今季12回以上の空中戦を記録した選手の中ではリーグベストの勝率を記録した。撃退。
— OptaJiro (@OptaJiro) September 16, 2020
1.2 押し込むことに意義はない
- 札幌が1-3-4-2-1に戻したことでプラスに働いたのは、ボール保持⇔非保持の切り替えがゼロトップレボリューション下と比べるとスムーズになる。これについては何度か書きましたが、直近では浦和戦の記事を参照してください。
- ボールを保持した時に3バック+高嶺でまず形を作れます。加えて、鳥栖がそんなに圧力をかけてこないのでボールは握れる展開になりました。
- ただ、問題は鳥栖があまり前に出てこない、ゴール前を固めている状況で、札幌は全般に縦への意識が強すぎたことです。そうなるとどうなるかというと、簡単に言うと鳥栖が5バックと3枚のDFでゴール前で待ち構えているところにボールを送り込んで攻撃することになりますが、当然スペースがない。
- スペースがない中で、チャナティップ、アンロペ、駒井といった選手の個人技や、ミシャが本来得意としていた(はずの)ワンタッチプレーによる崩しを狙いますが、総じて言えるのはどのような攻撃であってもスペースがある状態の方が成功しやすいです。スペースがなくてもプレーできるのは、この世でメッシとイニエスタだけです。
- 極端な話、サッカーはゴールを奪うことが目的なので、押し込むこと自体に意味はありません。押し込んでも相手を打開できないなら無意味です。それなら押し込むよりも、相手に前に出てきてもらって、ディフェンダーにゴール前から動いてもらった方が有利です。昨今のトランジションを巡る攻防の高度化はまさにこの点を先鋭化した現象だとも言えるでしょう。
- なので、鳥栖が引いて守るなら、その状態ですぐに前にボールを送るのではなく、スペースを作るようなプレーが必要です。それはどうするの?というと、これも一度記事に書いているのでそっちを見てほしいです(こういうお約束はどっかに整理した方がいいんですかね)。
- が、いきなりそんなことを言ってもできるわけではありません。札幌はミシャ監督就任後もこの点がずっと課題ではありますが、これまでなんで問題にならなかったかというと、スペースがなくても点を取れる形を持っていたから。それは武蔵のカウンターであり、サイドアタックからのクロスボールによるフィニッシュ、そしてセットプレー。相手を完全に押し込んだ状態で攻撃をしてお釣りがくるチームだったからです。例外はチャナティップで、相手2~3人に囲まれてもボールを失わずに展開できる彼の存在は、それ自体がスペーシングに繋がります(相手選手を引き付けられるので、必ず次にスペースができる)。
- この試合、札幌の前半のシュートはほぼ全てがペナルティエリア外からのミドルシュートか、クロスボールからのヘディング。全てゴール前にスペースがなくても繰り出すことはできるアタックで、しかしゴールの期待値は高くない。頭よりも足の方がコントロールできますし、DFがゴール前から動いている方がGKにとって難しいシュートが撃てるためです
2.ミシャチルドレンの性
- 6分の鳥栖の攻撃は狙い通りだったと思います。GK守田がロングフィードと見せかけて、小林とアイコンタクトで短いパスでの攻撃を開始。これは仕込んでいるプレーだと思います。
- 小林がチャナティップを引き付けながら、岩下とのパス交換でチャナティップを剥がす。これに菅も乗ってきてくれたのは、スペースを作りたい鳥栖としては好都合です。菅を引き付けて、本田にボールを渡せば、先輩方が作ってくれたスペースを新人なのにルーキーな本田は存分に使うことができる。最後は左に展開して、アンヨンウがフリーでシュートも枠外(アンなら決めてたξ*`∀´>)。
6分の鳥栖のチャンス |
- 後は大体札幌がボールを持ちます。鳥栖のこの時の対応は罠?というか、2列目の高橋義希と本田は割と動いて進藤と福森に対して出てくる。そうすると、アンカーの高橋秀人の周囲には割とスペースができていました。この中盤3枚で守るやり方だと、必死になってスライドしまくると結局ボールを奪えないまま左右に動かされてバテてしまう、というのを3年前に書きました(今思うと、いかにも真面目な四方田監督らしい戦術だったなと思います)。
- 鳥栖は中盤で奪うというのはそんなに想定していなさそうで、高橋はそこまで頑張ってスライドしない。そして最終ラインもステイ主体で、札幌は駒井とチャナティップのシャドー、そしてアンカーに入っていた荒野がこのスペースでフリーで受けられていました。
高橋秀人の脇にできるスペース |
- 罠でもなんでもないのかもしれないですが、これだけフリーで持てると、どんどん前に展開したくなるのがフットボーラーの性なのか、札幌はそこからシンプルにトップのアンロペ、両ワイドの菅と白井に渡してのサイドアタック発動、を狙っていました。ただ、得意なエリア以外では沈黙しやすいアンロペ。頼みは白井の右の突破で、大畑が決定的な仕事をさせなければ膠着状態に陥ります。
3.数撃てば
- 後半頭から鳥栖は中野→森下。札幌はチャナティップ→金子。駒井が左シャドーに回ります。
- 三好康児以来の左利きシャドーとして期待が高かった、新人なのにルーキーな金子ですが、実はシャドーというか中央でプレーする選手じゃなくて、あくまでサイドアタッカーないしスペースに突っ込むタイプのドリブラーなのでは?という疑念はこの日も弱まるどころか深くなる一方でした。
- 後半も、そこそこ鳥栖はスペースを与えてくれます。要因を一つ挙げると、鳥栖は岩下やGK守田はアンロペに追われると、リスクを嫌がって簡単にフィードで逃げる選択が多い。その時、毎回中盤の高橋秀人が下がってボール保持しようとしていたので、本来高橋秀人がいるアンカーポジションががら空きのまま、空中戦で負けてここにボールが落ちることが何度かありました。高橋秀人はクレバーで料理がうまい印象があるのですが、ここは個人と言うよりチームで意思疎通があまり上手くいっていなかったのだと思います。
高橋秀人が動くとスペース管理が問題に |
- またスペースが得られるということで、アンロペや金子、高嶺が突っ込みます。金子はチャナティップや駒井以上にスペースに突っ込みたい欲求が強そうなのですが、ペースチェンジが個人的な課題なのかもしれません。ボールを持つと縦方向へのドリブルが大半で、特に中央にスペースがないとサイドに逃げてしまう。アウトサイドは金子がぶち抜けるならいいんですけど、最大のストロングポイントである白井とルーカスが使うエリアなので、あまり効果的ではないアクションに使える余裕はない状況です。
- そんな状況で65分に男・駒井の目の覚めるようなミドルシュートで札幌が先制。これも、アンカー高橋がややポジションを下げた状態で蹴ったフィードを進藤がエアバトルに勝利して跳ね返して、駒井ががら空きのスペースで受けて右足一閃。結局ミドルじゃん!崩してないじゃん!と言われそうですけど、数を撃てば確率は高まる、と言ったところでしょうか。
- 直後に、この日も金子がいまいちフィットしないまま、65分に菅→ドウグラスオリベイラに交代。金子が右WB、白井が左WB、駒井が再び右シャドーに戻ります。やはりミシャの中でも金子がワイドの選手、という認識が強まっているんじゃないかと思います。
- ドグちんが投入1分で仕事をします。66分、この時は鳥栖左サイドでのスローインで、札幌は金子が奪ってクリア、アンロペと高橋秀人が中央で競ることになりますが、この時、左CBの宮はスローインの流れで押し上げている。これはいいとして、右の小林祐三もかなり押し上げていたので、結果的には、鳥栖は私がかつて名付けたTバックシステム(3バックの両サイドがガッツリ上がってて中央のDFしか残ってない現象)状態になっていて、ロペスが高嶺からんのパスを受けて再び高橋秀人を背負った状態で、左右に広大なスペースがありました。
- その隙を見てアンロペからのパスを受けたドウグラスオリベイラがスペースを突いたところからカウンターで2点目が決まりました。
- 引く前提の鳥栖相手に2点が決まってかなり楽になります。鳥栖は豊田を投入してロングボール比率を高めたり、4バックに変更しますが、札幌はペースダウンし、ロングボールは相変わらずミンテが跳ね返します。チャンスらしいチャンスもなく、そのまま2-0で終了しました。
4.雑感
- 鳥栖のメンバーは、新人ですらルーキーですらない二種登録の選手も混じっていたりで、彼らのストロングポイントだった空中戦もミンテを筆頭にDF陣がほぼ完勝と、個の力量差を感じる状況で、勝たなければならない試合だったと思います。
- 札幌はまだ(というかこれから本格的に?)メンバーも戦術も試している状況とみられ、この日は明らかにマンマークハイプレスは控えめ、慣れ親しんだ1-3-4-2-1で攻守を切り替えながら戦う意図が見られました。
- これはハイプレスを捨てるのではなく、マンマークで人を明確に捕まえていくやり方を捨てることを意味します。元々マンマークで相手が呼吸できないくらいタイトにいこう!というアイディアは、ボール保持が得意な川崎のようなチーム相手の策だったので、やはり短期的にはこのやり方がバランスの面で最良だと確認できました。中長期ではどうなるのかは、やってみないと何とも言えませんが。
- 鳥栖の1-3-1-4-2で札幌の盲点を突く(札幌が前線を1-3の枚数関係…1-4-2-1-3のようなシステムにしない限りマンマークでマッチアップを合わせられない)やり方は興味深いものでした。次節、ガンバもこのシステムを基本とするので、対策を考える必要があります。
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