2020年8月15日土曜日

2020年8月15日(土)明治安田生命J1リーグ第10節 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~イノベーションの死~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果

  • 札幌は特別指定選手の小柏が、今の戦術的なニーズにピンズドでマッチする選手ではあるものの、いきなりはないんじゃないか…と思っていたところでジェイを押しのけてスタメンを飾りました。
  • 川崎は登里、小林、田中碧が休養でベンチスタート。両ワイドは若い2人が起用され、左には車屋が入りました。

1.基本構造

1.1 札幌の狙いと川崎の札幌対策①

  • 札幌はマリノス戦以来、リーグ戦では4試合連続で同じコンセプトです。相手とかみ合わせの良いシステムにして1on1でマンマークできるようにセットし、ハーフウェーライン付近で待ちつつパスの受け手を潰して奪ってカウンター。ルーカス フェルナンデスのいる右サイドに何らか展開して、時間をかけてスペースが消失するまえにその個人技で決定機を創出してもらいます。
  • なので札幌は明確に、右サイドを使いたい、かつそれは相手のDFの枚数が揃った状態ではなくて、守備ブロックが整っていない状態でルーカスに展開したいとの思惑があります。札幌にはアラーノはいますがメッシもトッティもフィルミーノもいません。その意味では、トップの選手に意味がある(トップが引いてボールに触ることでマークを持たない相手のCBを無力化するとされている)0トップシステムというより、厳密にはルーカスシステムのようなものだと言っても過言ではないでしょう。
  • 守備で穴にならず、カウンターの際にゴール前に入ってくれる選手なら0トップは荒野でも中野でもいいし、この試合はチャナティップでしたが、それは小柏をトップで起用したためチャナティップがスライドしただけで、普段のチャナティップの選手特性がもたらす役割以上の意味はそこまでなかったと思います。
  • 一方の川崎。21世紀の世の中にはインターネットという非常に便利なテクノロジーがあるので、その場にいなくても打ち合わせができたりサッカー観戦ができたりします。なので川崎はここ最近の札幌の特徴を把握していたと考えて当然で、①札幌は右サイドから崩してくる、②守備で穴にならず前線に顔を出せる”FW”は、札幌には小さい選手しかいない(オルンガのような、パワーと速さを兼備する選手は武蔵以外にいない…武蔵も空中戦は強くない)ということは当然頭に入っていたはずです。
  • 川崎の具体的な対策はボール保持時に現れており、ジェジエウ、谷口に加えて車屋を最終ライン左側に残してボールを動かします。タッチライン付近に開く山根と比較すると、車屋は常にそれよりも10mほど低く、かつ内側にポジショニングし、谷口と近い距離でセーフティにボールを動かす。そして、左の大外には下田が流れてくることが何度かあり、これはどの程度意図があったかは微妙ですが、もしルーカスが下田に釣られてくれたら儲けもの、ぐらいだったのかもしれません。

川崎の札幌対策:車屋による右サイドの封鎖

  • 車屋がここにいるので、札幌は奪ってからルーカスや駒井が右サイドになだれ込む、ここ数試合の攻撃の生命線となっている形を簡単に発動できなくなります。スペースに走れるなら走ればいいですが、川崎は谷口とジェジエウを中央に残した状態で車屋を動かすことができる安心感があります。
  • そして、仮にルーカスに札幌のゾーン3(相手ゴールからのラスト30m)で渡った時は、旗手がプレスバックして車屋とのダブルチーム。車屋が縦を切って、旗手が内を切る関係で対抗します。
  • 車屋の戦術的な意味合いはこの札幌の右サイドの封鎖だったと思いますが、加えて結果的には、彼が中央寄りにポジショニングし、かつ下田も動くことでルーカスはあまり強くプレスに行けなかった印象があります。ただ、これは札幌がどこでボールを回収したいかにもよるので、車屋は関係がないのかもしれません。最終的には、札幌は宮澤や深井のいる中央でボールを回収することが多く、ある程度ここに誘導していたとみることもできるでしょう。

1.2 川崎の札幌対策②

  • 繰り返しますが札幌の前線はスピードがあるが高さはない。サッカーでは、これに対する明確な策は、引いてスペースを消して守ることです。ルーカスが突破した際にDFの枚数が揃っていれば、クロスを上げられても札幌の前線にはボックス内で強い選手がいないので怖くない
  • なので、川崎はボール喪失時のリトリートの優先度が高めで、すぐにプレスで奪い返すよりも、まずボールホルダーの前に正対して縦突破を食い止め、迂回させてからその間にリトリートで枚数を確保する。ここがマリノスのようなチームとの相違点で(神戸とは似ていますね)、札幌は前線で起用した小柏の強みが殆ど活きない展開になってしまいました。
  • 前半、時に進藤やルーカスがこの状態から頭を狙ったクロスを放り込むことがありましたが、これは明らかな悪手で、相手にボールを与えているのと何ら変わりません。一旦DFやGKまでボールを戻してやり直すべきでした。

ゴール前のスペースを消せばルーカスのクロスからは得点は生まれない
  • 個人で1人名前を挙げるなら、田中碧に代わって起用された守田。守田は田中碧ほどあまり活発に動かないので、トランジションの際に中央にCB2人と共に残っており、”初動”を守田が対応することが多く、札幌にとってはここでスピードダウンさせられてしまいました。
  • 川崎が撤退することにポジティブな要因として、レアンドロ ダミアンの存在が挙げられます。前線でボールキープしてくれる選手がいないと、一度下がるとそのまま押し込まれがちになってしまう時がありますが、ダミアンは宮澤程度なら余裕で抑え込みながらボールキープできるので、ダミアンに蹴れば大丈夫、との意識はあったと思います。
  • 両チームで最もファウルを受けていたのは、札幌はルーカス、川崎はダミアン。ただ、この意味合いは異なり、川崎はルーカスがスピードに乗って仕掛ける前に車屋がファウル覚悟で対応。札幌は、ダミアンが宮澤を背負ってブロックするとボールを隠されて殆ど無抵抗で、ファウルじゃないと止められない、というくらいのクオリティの差があったと感じます。
  • それでもブロックされる前に、宮澤が持ち前の読みでパスを予測してダミアンの前に出てカットすることも何度かあり、この点ではミンテではなく宮澤起用の利点が出ていたのも事実ではあります。

2.急造0トップの不協和音

2.1 互いに慎重に

  • 最初のチャンス(定義は、枠内シュート)は11分、川崎が札幌陣内で、ルーカスのドリブルに旗手がファウル覚悟のタックルでボールを奪い、宮代の突破にダミアンがヒールでシュート。これは菅野が手に当ててストップします。
  • 10分過ぎくらいの攻防から、川崎ボール保持時の札幌のスタンスが明確になってきます。川崎が横パスや、ボールを下げた時はラインを押し上げるチャンスですが、札幌は殆ど押し上げません。やはり川崎をある程度引き込んでの速い攻撃を狙っていたのと、やはり川崎相手には自陣では5バックで守るオプションも不可欠なので、菅とルーカスの両ウイングバックは、川崎のSBを見ながらも、いつでも最終ラインに帰れるようなポジションを取っていたのだと思います。この根拠を挙げると42分の攻防で、札幌が川崎陣内でボールを失って攻守が切り替わる。この時、進藤が自陣に帰るのは当然として、ルーカスも車屋がかなり前方にいたにもかかわらず一度戻ろうとします(その後、促されて再び前へ出る)。前だけでなく後ろのスペースを埋める意識の高さがこのような点で表れていたと感じます。
  • そして川崎もこれに付き合わず横にボールを動かして様子を窺うことが多かったです。川崎は意外とダイレクトな選択が多く、これは自陣をあまり上手く使えるチームではない(GKのチョン ソンリョンに戻しても放り込みしかない)ことが大きいと思いますが、札幌があまり川崎DFに圧力をかけないので、川崎のDFはセーフティにボールを持て、動かしながら様子を窺える状況でした。
  • 川崎も15分前後からはプレスの圧力を弱めて、1列目をハーフウェーライン付近に設定し、ペースダウンするようになります。ダミアンと、2列目から脇坂か下田がダミアンに並んで札幌のDFを牽制する時はありますが、これは蹴らせてDFが競って回収(空中戦ならほぼ確実に勝てる)の意図があったと思います。

2.2 左シャドー小柏の問題点

  • ルーカスは開始15分で3回ほどのタックルを受けます(ファウルも、そうでないものも含めて)。そのあたりの”雲行き”を感じ取ったのかは定かではないですが、札幌はプランBを徐々に発動します。
  • すなわち、ルーカスへの警戒が非常に強いので、それ以外の前線の選手…駒井や小柏に預けて打開を図りたい、というものです。この時、駒井は基本的に右サイドでプレーするので、右だとルーカスを警戒する川崎の守備を完全に外したとは言えない。なので、右ではなく左に展開したいということで、小柏がプランBだったと言えると思います。
  • この小柏は初めて左シャドーで起用、というか札幌でまだ2戦目なんですが、強烈な存在感を示した3日前のルヴァンカップ横浜FC戦では、小柏の右のスペースへの飛び出しが非常にチームを助けていましたが、この日の小柏は殆どスペースに飛び出すことができませんでした。
  • ↓の図は、自陣で奪ってから素早く小柏に渡したシチュエーションをイメージしているのですが、右利きの小柏は受けて反転してから右足でコントロールするので、殆どの場合に左から中央付近にドリブルします。要は川崎のCBが残っている中央に向かって突っ込んでしまうので、ここで谷口やジェジエウをぶち抜けるクオリティがあるならプラスなのですが、流石に大学4年生にこの2人との正攻法での勝負で勝つことを期待するのは間違っている(私は就職活動に失敗して昼寝ばかりしていましたし)と言えます。

右利きの左シャドーは中央に入ってきてしまうのでDFに捕まりやすい

  • 恐らく小柏は”速いだけ”の選手ではないのですが、例えばサイドでジェジエウか山根と1on1とかならまた違った評価になったかもしれません。川崎のトランジション時の設計というか選手配置的にも、中央に人を用意しているので谷口とジェジエウだけでなく、複数用意されているところに突っ込むような状態にもなっていました。小柏に3日前と同じような活躍を期待するなら、絶対に右サイド(シャドー)で起用すべきでした。

3.高さ不足の死角

3.1 川崎の2トップ移行

  • 飲水タイム前後で川崎はスタンスと形をやや変えてきます。それまでダミアンが1人でトップでしたが、脇坂を上げてダミアンと並べる形で守備を展開します。また、宮代と旗手が入れ替わったのもこのタイミングでした。
  • ↓の図は札幌のGKと最終ラインでのボール保持に対して圧力をかける時の初期配置で、札幌が攻撃のサイドを決めたらダミアンがプレス発動。脇坂がアンカー(この時は荒野)を消しながら連携してボールホルダーを限定していきますが、札幌は菅野からサイドの福森や菅へのフィードが意外と悪くなく、川崎としては中央は跳ね返せるけどサイドは100%ケアできないので、少し前からもスイッチを入れていこうとの考えだったと思います。
脇坂を前に出す川崎

  • そして脇坂がトップに入ると、撤退時にダミアンの不確実性をある程度カバーできます。ダミアンはボールを追うのが好きなのか、撤退時に結構ボールや人に釣られてしまって、中央から動き、結果宮澤がダミアンが動いたスペースから縦パスや攻撃参加、というのが前半何度かありました。
  • これが、脇坂をダミアンのお供に置いておくと、ダミアンが動いた後のスペースを脇坂がカバーしてくれるので、簡単に中央から縦パス、というシチュエーションは減ったと思います。

撤退時は脇坂が中央のスペースを埋める

  • そして宮代と旗手を入れ替え、より仕掛ける役割の旗手が右に回ると、明らかにボールをこのサイドに集めるようになります。これは最初からこうしなかった理由は何とも言えないのですが、不安定な札幌の左サイド(福森の対人能力の問題や、ポジション移動が多いので人がいるべき位置にいないことが多い)に突破力のある選手をぶつけるというのは元々考えていたはずです。

3.2 不安が現実に

  • 飲水タイム直後に旗手の抜け出しからチャンスがありましたが、それ以外はあまり川崎も明確にクリティカルな形を提示できなかった(札幌もそうですが)30数分間だったと思います。
  • しかし35分、旗手が左サイドでファウルを受けて川崎にFK。脇坂の右クロスに、ゾーン主体で守っていた札幌の進藤の頭を越えたボールを車屋がフリーで押し込んで先制。札幌はこれまでトップにジェイ、シャドーに武蔵がおり高さが武器だったのですが、このメンバーだと明確にサイズダウンしており(ミンテもですね)、不安が的中してしまった格好となりました。
  • 37分に札幌の前半最大のチャンス。菅野のゴールキックを札幌右、川崎左サイドで競り、下田の横パスを車屋の眼前でルーカスがひっかけてそのままドリブル。スピードに乗ったルーカスには谷口も後ずさりしかできません。中央のチャナティップへのラストパスを回転をかけてダイレクトでシュートしますが、クロスバー直撃で同点のチャンスを逃してしまいました。

4.イノベーションが死ぬとき

  • 札幌は前半で小柏を諦めてジェイを投入し、懐かしの1トップ2シャドーにシフト。川崎は田中碧と三苫を投入します。スペーシングができないならこの前線の構成では全く打つ手なしなので、ジェイの投入は理解できます。
46分~

4.1 そもそものミスマッチ

  • ジェイのポストプレーから糸口を見つけたい札幌。が、50分、菅野へのバックパスを三苫がチェイス。ダミアンは完全にプレーを切っていましたが、この判断が結果的に大きかったです。菅野はボールを生かそうとして左の菅にフィードしますが、菅→深井→菅→チャナティップと左サイドの狭いところで繋いだところで川崎は田中碧、守田、山根がプレス。山根がチャナティップから奪った瞬間、福森は大きくサイドに開いていたので勝負あり、でした。ラストパスを三苫が流し込んでリードは2点に広がります。ゲームを通じて、川崎相手に果敢にチャレンジしていた菅野ですが、菅野の判断というよりプレスを受けた際の優先順位というかディティールはもう少し整理した方が良さそうにも思えます。
  • 札幌は反撃のためにまずボールを回収しなくてはならない。それは↓の図の形から始まります。

MFの動きにはジェイはマンマークで対応できない

  • が、ここでジェイが川崎の中盤の選手を消すところから始まるのですが、何度か書いていますがジェイはアンカーの”スペース”を守るのは意外と不得意ではないという印象です。しかし連続した展開の中で、連続性を持ってアクションするのが攻守両面であまり得意ではないので、基本的に中央に置いておく以外の役割を持たせずらく、ジェイを起用するとこの選手特性をある程度勘案して設計しなくてはならない。
  • これが札幌の0トップ開発の動機の一つなんじゃないかと思っていますが、ゴールが欲しい状況で再びジェイを中央に置いて、追いかける展開だと、ジェイが川崎のMFの選手をマンマークするという根本的なミスマッチと向き合う必要があります
  • というのは、田中碧ってよく動く選手だよね。という話題がちらほら出てきますが、田中に限らずサッカーは自由にポジションを取ることができるので常にどこかにいるとは限らない。マンマーク基調のディフェンスだと、田中碧のムーブにある程度ついていく必要があるのですが、ジェイが彼のような若くて俊敏な選手をマークするのは無理。ジェイがマンマーク可能なのはジェイのようなタイプの選手だけだと思います。この点で、0トップ+ミドルゾーンからのマンマーク主体のプレス前提で考えていたチームに、ジェイを組み込むと明らかにギャップが生じやすくなってしまいます。

4.2 イノベーションの終わり

  • 川崎の3点目は55分。これはジェイはあまり関係なく、札幌は自陣で5-4ブロックで守っていましたが、左に開く選手に進藤が釣り出されてできたスぺースに三苫が侵入。川崎得意のパターンの至近距離でレイオフを使って抜け出し、最後はこぼれ球をダミアンが押し込みます。「進藤が釣り出され」と言いますがこれはマンマークなら当たり前の話で、ここでどうこう言うのは割愛します(典型的な失点で面倒なので図も割愛します)。
  • この失点でミシャはアンロペと中野を用意します。交代は…まさかのDF2人を下げてアタッカー2人を投入という選択でした。

59分~

  • 福森、高嶺、石川がいずれもコンディションに問題を抱えており、菅に白羽の矢が立つのはわかるといえばわかります。ただ、駒井、宮澤と並べるのは…これも深く言及するのはやめておきます。
  • どちらかというと、ジェイにアンロペを並べ、両翼ももっと仕掛けろ!となると、前半志向していたコンパクトに守って速攻、から大きく乖離したモデル(もっとも、それが本来の姿なんですど)というか、札幌はがっつり間延びした状態でプレーします。そしてルーカス、進藤、菅(ウイングバックでプレーしている時と変わらず滅茶苦茶上がってくる。画面に駒井と菅が移っている=後ろは宮澤ひとり。)らがクロスを連射する展開になります。この瞬間、 0トップという(一瞬だけの)未来は完全に終焉しました。
  • 川崎相手にスペースを与えるとどうなるか。63分、旗手が右サイドで中野を背負ってから反転し縦に突進。中野がついてはいたんですが、中野が1on1で突破されると菅が必死に戻りますが間に合わない。旗手が加速するスペースを与えてしまった時点で(しかもカバーするのは足が速くない宮澤…よく見た光景ですね)勝負はついています。

  • この後、川崎は途中交代の小林が2得点。札幌はジェイが1得点。スコアは1-6となって終了します。後は戦術的な視点ではあまり意味がないので雑感扱いとします。

雑感

  • まず、自己保身でもなんでもないですが、私はプレビューのタイトル通り、ミシャチームの0トップは”実験”段階にすぎないと思っていました。というのは、サッカーはゴールから逆算して考える競技であり、その意味では、極端にラインを上げて裏を狙い放題のマリノス相手には結果を出しましたが、神戸や清水に引いて守られると全然ゴールの匂いがしなかったこのスタイルは信頼度としては「?」でした(神戸からは2点取りましたが、イニエスタさんがが中盤センターをやっているようなチームなので…)。「ちっこいFWしかいないからスペースを消す」。川崎のロジカルな対応に全く打開策が見えませんでしたので、この点では評価は非常に低くなります。
  • 一方で、「前半はそんなに悪くなかった」。

  • としたのは、サッカーはミスがつきものですが、勝利に近づくには排除可能なリスクを排除することが不可欠であるという観点でみると、互いにそうですがリスクを回避しながらプレーすることはできていたと思います。それが、ジェイ、アンデルソン ロペスといった、野々村社長が言うところの「クオリティがある選手」を投入すると、一気に前半よかった部分を捨て去ってしまいました。
  • 戦術的な観点で分析すると、これまで、札幌は「ビルドアップのしょぼさをタレントによる速攻とクロス攻撃の破壊力で補っているチーム」でした。日本のサッカーにおける「ビルドアップ」という言葉の定義は非常に不安定ですが、ここでいうビルドアップとは、「敵陣で有利な状況で攻撃を仕掛けるためにボールを自陣から敵陣へ送り込む一連のプレー」とします。
  • これは清水戦のプレビューでも整理しましたが、最近なんでゴールキーパーにバックパスしたりプレーに関与させるかというと、ピッチの自陣を使うことで敵陣にスペースができて前線の選手がプレーしやすくなるからです。いい素材が見つけられなくて申し訳ないですが、↓の動画は「ビルドアップに成功してアタッカー(白井)がスペースを得て有利な状態からプレーできた」典型的な例です(ビルドアップの場面が映っていませんが札幌サポーター得意の回顧能力で補ってください)。

  • 実は、ここ2年ほどの札幌の得点パターンはあまりこの形(ビルドアップでスペースを作って…)がなくて、それよりも、「サイド突破から、中央の強力なターゲットがクロスボールにDFと競り合いながら合わせる」とか、「スルーパスが得意な選手やスピードがある選手、1人で突進できる選手の個人能力を活かしてカウンター」が多い。
  • 要は、ジェイはスペースがない、相手に体をぶつけられた状態でもゴール前のクロスで勝負できるのと、福森、ルーカスといった優秀なクロッサーの存在が攻撃面では大きいです。
  • このように得点パターンがカウンター以外ではサイドアタック主体なので、前線に大きいFWを置かない、ビルドアップで前線にスペースを作れないからグラウンダーのクロスは無理、となると得点パターンが全く用意できなくなるのが現状です。
  • そしてシャドーの候補者が逆足でプレーする選手が多いこと等も含め、この2020シーズンに揃えた選手は、実はゼロトップとあまり相性が良くない選手がかなり含まれている(相手を押し込んでからのサイドチェンジからのサイド突破してクロス!ヘディングバーン!が前提)ので、0トップ採用ならスタメンで使いづらい選手もたくさん生じてしまう。小野、ナザリト、前田俊介etc選手をベンチに置いたことで野々村社長の逆鱗に触れて解任されたバルバリッチという監督がかつていましたが、似たような現象が実は起きているとも言えます(これは監督・スタッフのキャラやマネジメント能力にもよりますが)。
  • というように、マリノス相手にうまくいったのは相手がマリノスだったからで、他のチーム相手にその”焼き増し”を続けているうちに、イノベーションとして持て囃された0トップは陳腐化しつつあります。これはチームや監督に向けて言っているのではなく、1試合うまくいっただけで持て囃していた一部のメディアや記事を書いた人(こうやってうまくいかなかったら札幌のことなんてポイ捨てするんでしょう)向けのメッセージです。表現の自由の範囲内だとは思いますが。
※これまでコメントは全て承認してきましたが、今後は「一定の基準」に達していないコメントは削除または非承認とします。議論のためにコメント欄を設置しているので、皆さんの意見や見解は今後も歓迎します。なお、最近「匿名」の方が多くて、どなたがどの意見を述べているのか判別しがたい場合があるので、何らか名乗っていただけると反応がしやすいです。

8 件のコメント:

  1. 0トップといわれてたやり方は開幕から挑戦してきた無謀なハイプレスと従来のリトリート守備の間の妥協点だった気がします。

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    1. 表層的に、やっていることというか、選手の配置の仕方は妥協点であり中間的な性質ではあると思います。
      一方でそれが何を目的としているかというと、マリノス相手に裏狙いをしたい以外はよく見えないです。
      「いいとこどり」をしたいとするなら、攻撃の非常に重要な選手を外さないといけない時点で、ちょっと違う気がします。

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  2. いわゆる最近の0トップは、ミシャはポジティブに強弁しますが、このシーズン中の採用は苦肉の策と思います。
    ジェイに多くを求めにくくなるなかで、フロントも代わりを獲得できる目処が立たないなかでどう勝ち筋を見つけるかとなると、アンロペも(武蔵)も空中戦ではないと。
    ただ3421と0トップを併用するには、両者は攻撃も守備も違いがあるのでゲーム中に切り替えるとかゲームごとに切り替えることは相当に悩ましいのではないでしょうか。
    0トップは運動量もスプリントも増えてしまうのでタイトなスケジュールとも噛み合わせが悪いと思います。
    (もともとミシャの3人目4人目連動型攻撃は相手の対応策が進むほどに擦り合わせに時間を要し(=週半ばにゲームが入ると準備しきれない)、結果、メンバー固定側に行きがちです。)
    もう1つの論点はプレスのかけ方はともかく故意に意図的に1対1で守ろうとしている今季の守備です。
    北條さんが説明されていましたがミシャのこの守備の1on1が、(ポジショナルプレー的な攻撃構成はある意味、ミシャのオハコでしたが)5レーン戦術をとるチームが増えたことに対する抜本的チャレンジでありだからミシャが春のキャンプからずっと1on1に拘ってきたという解釈には全面的に理解します。
    もともとミシャは自分のワイドに広く使い攻守で変形する戦術はサッキのゾーンプレス対策で考えたものと説明していましたし、そういう思考をされる方と思います。
    ノノのラジオでの「トレンドを先んじることでアドバンテージを」だったり進藤の「失敗が出てもアタッカーとの距離を狭めたい」発言も同じコンテクストと思いますので、1戦1戦の勝敗については降格がないことも含めてある程度は腹をくくっていると思います。
    ミシャというよりクラブの補強や編成も含めて考えている時期な気がします。

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    1. 前半部分については、位置づけが次節で明らかになるでしょう。起用できるFWの選手が戻りつつあるため。
      後半部分については、元々ミシャはマンマークしかしないのでそこは別に疑問はありません。1on1に拘っているというか、ボール回収位置の設定と攻撃への切り替えをどうするかという話で、現状は単にマリノス戦からの流れで自陣に引き込んでカウンター、になっているのだと理解しています。
      編成との兼ね合いについては、変則的なシーズンになり、武蔵の移籍が決まって、現在進行形~これから考えていく話ではないでしょうか。シーズン開始当時は社長の言う、2021年に勝負するという話を踏まえて熟成させていくシーズンだとの位置づけだったはずです。

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    2. 守備の論点は、マリノス戦で相手のアタッカーがもっと揃っていたらどう守るかと同じ議論と思います。ミシャも完全に1on1にしている訳ではないからときに数枚が寄せてしまうし、1枚余らせようとしている局面もあると思います。
      コンディション問題を除くと1on1ベースでもそこそこ守れると思いますのでそのチョイスはありと思いますが、問題は現実のコンディションや、川崎のような1on1では何度か剥がされることが分かっているとき、1on1では明らかに勝てないポイントがあるときにどう微調整するかだと思います。
      PS:議論のためにとはありますが、実質的には我々レベルの低い読者の戯れ言に先生が教えてあげようというコーナーという趣なのはわかります。

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    3. >PS:議論のためにとはありますが、実質的には我々レベルの低い読者の戯れ言に先生が教えてあげようというコーナーという趣なのはわかります。
      →いや、それは「わかってない」です。
      当方としては、UnKnownさんの最初のコメントのロジックがよく見えなくて、コメントがしづらいです。
      理解できた範囲での返しになります。話の内容に全て反応、返信するのは無理なので。理解できないので無視するのもどうかと思うので。

      結局UnKnownさんの言いたいことは、「1on1で勝てない・対処しきれない場合もあるので、純粋なマンマークは極力避けて、カバー役を置くべきだと(UnKnownさんは)思います」という趣旨でよろしいですか?

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  3. 川崎の視点でいくとあのゼロトップは嫌でした。川崎は4バック全員が俊足なので、通常はラインをもっと押し上げてコンパクトにして、前からのプレスも繋ぎの部分もやり易い状況を作ろうとしています。ただ、さすがに昨日はラインを下げざるを得ず、ボールを奪ってもスタートの位置が低いので、なかなか本来の繋ぎや攻撃ができず(大島不在も大きいですが)、苦しんだ前半でした。一方で札幌は鈴木やジェイがスタメンにいない事で、セットプレーで高いストーンがいないのでニアよりで被ってファーが空くかもしれないとは思っていました。
    一方で、札幌のベンチメンバーは、川崎の勝ちパターンをよく分析しているなと感じるチョイスでしたね。後半の馬力勝負で負けないだけの可能性を秘めているチョイスだなと思いました。対戦相手の馬力不足のベンチメンバーに助けられた面もある連勝なので、試合前は嫌でした。
    川崎にとって幸いだったのは、ジェイの早い投入だったと思います。当然ジェイに起点を作られたくないので、逆に押し上げて対応せざるを得ない状況ができましたね。後半の選手交代が効いたのもありますが、前半よりは高い位置でボールを奪って本来のサッカーができました。後半15分辺りまで小柏を引っ張って、ジェイ投入を我慢された方が嫌だったかもしれません。ストーンの問題はあったとは思いますが、うまくいかないなりに我慢して戦われる方が意外とこちらも嫌なものです。

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    1. 前半スコアレスならオプションが増えたのは事実ですね。

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