2020年8月9日日曜日

2020年8月8日(土)明治安田生命J1リーグ第9節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 ~起こるべくして~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果
  • 清水は予想通りのメンバー。よくよく考えると、ユニフォームネームはタイ語なのにティーラシンはベンチスタートでしたが、マリノス戦ではティーラトンと揃ってスタメン出場できるのでしょうか。
  • 札幌は武蔵がいきなりのスタメン復帰で、連戦の田中をベンチスタートにしてきました。また、2CB+2MFの清水対策で2トップ、インサイドハーフ2人の[1-3-1-4-2]と表記しています。

1.基本構造

1.1 ほぼ純粋な…

  • 札幌は、スタメンには9番タイプの武蔵が復帰しましたが、基本線としてはここ2試合の戦い方を継続していました。すなわち相手に対して同数で敵陣から守備をして、奪った後は素早く前線に展開し、相手のブロックが揃う前にシュートに持ち込もう、というものです。
  • 清水は2CB+2人のセントラルMFでプレーするので、札幌は武蔵とチャナティップをトップ、駒井を下げて竹内を見させる形で、この日もマンマーク基調の守備を展開します。CBとSBにはボールを持たせますが、ボールサイドの受け手を全員捕まえ、中盤より後ろの選手はボールが入った時に前を向かせないように対応する。可能であれば背後から相手選手とボールとの間に体を入れてボールを刈り取りたい、との思惑です。
2トップにして清水に枚数を合わせる札幌
  • ドリブルで突破するのが得意な選手と不得意な選手がいるように、この1on1でボールを刈り取る能力にも個人差があります。清水の後藤とマッチアップする深井は盤石でしたが、宮澤はスピードがあり常に反転して前を向こうとするカルリーニョス ジュニオに手を焼いていました。
  • そして1on1の性質が強ければ強いほど、1人1人が負う責任は大きくなる。すなわち、誰もカバーしてくれない「ほぼ純粋なマンマーク状態」であれば、1on1で負けると即失点のリスクに繋がる。松田浩氏は「完全なる純粋なマンマークディフェンスも純粋なゾーンディフェンスも世の中には存在しない。全ては色々なやり方のミックスである」と著書で論じていましたが、札幌のやり方はかなり純粋なマンマークディフェンスに近いものです。1on1での守備に自信がない選手、あるいはゴール前を守っている選手ほど、セーフティな対応しかできなくなります
  • 清水としては、札幌が全て1on1を挑んでくるなら勝てるマッチアップを探す。それは右のエウシーニョ・ヘナト アウグスト・カルリーニョス ジュニオのブラジルトリオが中心でした。

1.2 ルーカスを消すことに成功した清水

  • 札幌の2トップ、[1-3-1-4-2]のシステムは、清水相手にマンマークで対抗するならば効果的ではあります。一方でその”弊害”もあります。
  • チャナティップがトップで武蔵と並ぶポジションを取ると、MFとしてのチャナティップの良さが活きなくなります。チャナティップは典型的なボールプレイヤーで、足元にボールが入った時にそのクオリティが発揮されます。札幌にとり特に重要なのが、チャナティップがボールを収め、(時に強引に)反転してから右足で右サイドに送るサイドチェンジで、この札幌の左(福森またはチャナティップ)→右(ルーカスまたは白井)の展開はここ3シーズンの生命線となっています。
  • 福森はその左足による、異次元の配球能力がありますが、チャナティップは中央でボールに触ることで、相手の守備を収縮させてからのサイドチェンジが持ち味です。
  • 一般にボールに寄ることは必ずしもいいとは言えないのですが、チャナティップは1人剥がす能力が高いので、「下がって受ける」のデメリットがあまり目立ちません
前に残りがちなチャナティップと清水のルーカス監視
  • そのチャナティップがヴァウドのマークを任され、トップに近いポジションで守備に参加すると、札幌がボールを奪った時にチャナティップは最前線にいることが多くなります。ここから、本来のポジションに下がってプレーに関与することができるといいのですが、本人も味方もこの微妙なポジションの違いをあまり認識しておらず、札幌はチャナティップがFWにいる状態で攻撃を展開し、彼を経由しないプレーが多くなります
  • こうなると、得意のサイドチェンジが引き出されません。ボールに触れなくて困るのはチャナティップではなく、本来の受け手のルーカスです。ただでさえファン ソッコに徹底マークを受けている彼は、なおさらボールを受ける機会が減ります。
  • 加えて、通常は札幌の左は二段構えというか、このチャナティップが途中で”中継”してサイドを変えるプレーだけでなく、福森が1発で50m近くの距離を通してサイドチェンジを成功させることができますが、代役の高嶺にはそれだけのクオリティが期待できません
  • これらの状況とファン ソッコの監視によって、ルーカスは試合から消されてしまいました。

2.悪くない立ち上がりの出来事

2.1 戦略目標:ルーカスを使いたい札幌

  • ミシャや一部の選手は「試合の入りがよくなかった」と言いますが、表面的には立ち上がりの時間は札幌にとり特に悪い状況ではなかったと思います。
  • ただ、この時間帯は清水は札幌の出方を見ていたと思います。ボールポゼッションはそれこそクライトン・アルベルト・フォントーラ・ドス・サントス選手のような、傑出したボールキープ力(と、ケツ)のある選手個人によってもたらされるものではなく、ボールを失わない仕組み、失ったボールを回収する仕組みによってもたらされます。仕組みは個人ではなく、チームに帰属します。簡単に言うと「数的優位」(で、誰かが1人常に余っている状態)等が”仕組み”の例です。清水のスタイルにはこれが必要で、どこでボールを持てるか序盤は探っていたはずです
  • 札幌の同数守備によって、清水は数的優位は得にくいのですが、札幌の選手がずっと付いてくるのは不可能なので、どこでマークが外れやすいか、は観察していたと思います。基本的には、観察しながら、頼りになる右のエウシーニョのサイドから清水は展開します。ファーストシュートはそのエウシーニョで、ボックス外から左足のミドルシュートでした(11分)。エウシーニョ、ヘナトに預け、金子が高嶺の背後に走るシンプルな形が多かったでしょうか。
  • なお札幌の”ミシャ式”はボールポゼッションは別にそこまで必須ではないので、札幌はボールを保持できる仕組みを探したり、確保するよりも、チャンスがあればどんどん仕掛けることが推奨されていると思います。
  • 4分40秒ほど~5分過ぎの攻防は札幌の狙い通りで、ボール奪取後、チャナティップが落ちてきてルーカスへのサイドチェンジを狙うが、これは後藤と金子のプレスバック、ヘナト アウグストの寄せで清水が回収。そしてこれを再び札幌が奪って、高嶺がドリブルで運んで武蔵、駒井を経由してルーカスへ。この時は、手数をあまりかけずに速く展開したことで清水DFが防ぎきれずルーカスにボールが渡ります。このルーカスが前を向いて仕掛けた後のフィニッシュ(ルーカス仕掛けから荒野のアーリーにファーで武蔵、菅が飛び込み最後は駒井がリバウンドをシュート)が所謂「いい形」でした。開始5分にして、前半最も機能的だったかもしれません。
  • 14分にも荒野→ルーカス。ルーカスはこれが実質的に2度目のボールタッチでした。クロスはGK梅田がキャッチ。
  • 試合と関係ないですが15分過ぎの戸田和幸氏の補足情報は素晴らしいと思います(カルリーニョス ジュニオの過去のプレー遍歴について)。

2.2 清水が発見した仕組み

  • 「札幌はマンマークでした!」。と言うものの、詳細はこのような対応になっていたのを清水は把握したんじゃないかと思います。DFは、誰か寄せてくるけどボール自体は持てる。そして、ウイングの金子と札幌DFのマッチアップは、ここは純粋なマンツーマンディフェンスではない(高嶺はカバーリングのタスクも担う)ので、その分、金子へのアプローチがどうしても遅れ、フリーな状態でスタートすることができる
札幌はマンマーク主体だけど(逆説的にはマンマークゆえに)
ギャップができやすい人・エリアがある
  • 対する札幌は、清水のように「観察」を行っている様子はあまりなく、ボールが入って前を向いたらどんどん仕掛けるプレーが推奨されています。なので、清水の話と並列に書くかは難しいところですが、一応構図としては、清水はボール非保持時に[1-4-2-3-1]でセットします。
  • このウィークポイントは、トップはカルリーニョス1人なので、宮澤と深井はボールを持ちやすい。深井はこの日好調だったと思います。よく見ていると、札幌の選手で一番、サイドに展開していたのは深井(なんかスタッツがあるといいですね)で、所謂「キーパス」が多く効いており、(いつもの)膝の不安で後半、深井が交代したのは札幌としてはこの点で大きかったと思います。
  • そして中盤は、中央を2人で守るのでその脇はどうしても空き気味になる。ここでの対応は、チャナティップのケアを優先していたので、駒井は比較的フリーになりやすかったです。駒井に渡れば、ファンソッコがどれだけ監視していても、ルーカスにボールを届ける戦略目標は達成しやすいです。
清水は[4-2]で守るので[2]の脇を狙う深井
  • 19:40頃の、深井がカルリーニョスの脇をドリブルで運んで駒井へのパスは、「戦略目標」達成の観点では非常にいいプレーでした。特に観察しなくてもこれが出せてしまうのが、深井の能力の高さ、チームの質の高さだと思います。しかしこの時は、駒井がルーカスではなく武蔵への早いタイミングでのパスを選択し、攻撃は不発でした。

3.マンマークを逆手に取る清水

3.1 ファン ソッコの躍動

  • 飲水タイムが24分にとられますが、その直前のプレー。
  • ファン ソッコが左で持ちます。ファン ソッコはこの試合、ボールを持った時の選択はバックパスか縦への楔のパスで、楔のパスは深井や宮澤がここまでは巧く対処していました。
  • この時は西澤、後藤がソッコに寄ってパスを受けようとする。その裏にカルリーニョスが走る。竹内もポジションを上げて、西澤の落としを受けて裏へスルーパス。パスが合いませんでしたが、互いのイメージが共有されていたプレーでした。
ファン ソッコが起点になり左サイドを突破(しかける)
  • 興味深かったのは、恐らく守備を買われて起用されているファン ソッコがボールを受けるとまるで清水はスイッチが入ったかのように4人が連動する。まさに彼が起点になれることを示しており、清水のこのサイドはあまり仕込みがないんじゃないかとの予想を裏切る展開になりました。

3.2 清水の変化とルーカスの負荷増大

  • そして前半のラスト15分ほど、33分頃からは、このファン ソッコ-ルーカス フェルナンデスのサイドでの攻防が増えます。清水は立田が左サイドに開いて、ファンソッコが高い位置取りをする。これで、マンマークの札幌は立田を見ている武蔵が右サイドに、ファン ソッコをマークするルーカスは右サイドの低い位置まで押し込まれます。これは繰り返し行われていたので、飲水タイムの時に(改めて)指示があったのだと予想されます。
清水ボール保持時のポジションチェンジで武蔵とルーカスがゴールから遠ざかり
本当に全部マンマーク(で、ついていく)の?な展開に
  • こうなると札幌は、チームで最も得点力のある武蔵、そして最もアシスト能力のあるルーカス フェルナンデスが本来のポジションから離れてプレーすることになる。彼らが本来のポジションに戻るために必要なものは何か。ボールポゼッションによる時間創出です。これは普段の札幌の「ボール奪い次第、どんどん前に突っ込んでくべ」戦法では確保できないものなので、やり方を変える必要があるのですが、札幌の選手はあまりこのあたりの意識が高いように見えませんでした。
  • なので、奪ったらすぐ速攻、を繰り返しますが、武蔵は右サイドにいる。ルーカスは右サイドバックにいる。ここからのアクションなら、清水は対処が容易です。以前も書きましたが、どこでエネルギーを爆発させるかをよく考える必要があります。それは言うまでもなく、ゴールからラスト25m。そこまでは個人のエネルギー(爆発的な個人技)頼りではなく、もっと省エネ化、システム化されたビルドアップにより前進を図るべきです。
  • 清水に話を戻します。サイドのファン ソッコへのサポートを継続。後藤がボールサイドに流れてボールを引き出し、サイドに再び循環させる(マリノスで言うマルコス ジュニオールロールですね)。竹内やカルリーニョスが飛び出すのも同じです。
  • 預けどころを確保したファン ソッコはオーバーラップも発動します。44分、西澤の外側から追い越すと、ルーカスは棒立ちなので完全に抜け出してクロス。勤勉なルーカスとしては進藤とスイッチしたかったんだと思いますが、西澤を見ている進藤と意思疎通がうまくできなかったのでしょう。個人的には、たまに目にする「ハーフタイムに監督が檄を飛ばしてチームが改善された」みたいな論評は根拠もないしチープな話だな、と思いますが、こういうものはコミュニケーションで改善される余地があります。
ファン ソッコのオーバーラップで一気にマンマークの問題が噴出
  • 直後のプレー。札幌が回収した後のボールを、菅が右のルーカス(というか、その前方のスペース)にやや雑な、走らせるパス。自陣ペナルティエリア付近から走っていたルーカスは追いつけずゴールラインを割ってしまいます。息を切らしたルーカスが菅に対して「てめーもっと丁寧に出せや」みたいな顔をするのがカメラに抜かれますが、このアクションは札幌のウイングバックの過負荷の象徴的なものです。
  • そして前半のラストプレー。スローインから、ファン ソッコがルーカスを剥がし、進藤と駒井の間を割ってドリブル突破に成功。「えぐってグラウンダーのクロス」は、DFにとってはボールと相手を同時に視野に入れにくく心理的な怖さがあります。札幌は宮澤と菅がスライディングでシュートを防ごうとしますが、菅の手に当たってPK。
  • これも色々言われていましたが、確かにボックス内で手を身体から離さない、という鉄則はありますが身体を目一杯伸ばしてブロックしようとすると、キャプテン翼でもない限りは通常は身体から多少、手は離れてしまいます。管だけでなく宮澤もこの時そうでした。
  • 金子がPKを決め、清水が先制して折り返します。

4.現場猫~事故は起こるべくして起こる~

4.1 札幌の選手交代の意図

  • ハーフタイムに札幌は深井→田中。そして進藤→ドウグラス オリベイラの2枚のカードを切ります。
46分~
  • これでミシャが整理したかったのは、まず2トップとして戦うことを明確にする。清水に合わせるなら2トップで守備をすることになりますが、その一角がチャナティップだとボール保持⇔非保持と切り替わった時にポジションを整理しなくてはならなくなる。ここを、純粋なFWである微笑みの戦士・ドウグラス オリベイラを入れておくと、ボールを持っていない時も持っている時も2トップでプレーできるのでそうした整理が不要になる。スムーズにボール保持⇔非保持で切り替えてプレーできる、というメリットがあります。
  • そして駒井を最終ラインに。進藤の疲労も考慮した交代だったと思いますが、駒井はボールスキルがありパスも出せる、ドリブルで運べると展開力に優れ、またこの試合も顕著だったのですが急ぐときと急がない時の判断、ゲームコントロールができる。チャナティップがマークされる状況で、実質的なゲームメーカーである駒井にもっとボールに触ってもらって、攻撃を組み立てたかったのだと思います。個人的には、あれだけゲラゲラ笑っていた駒井CBが普通に定着しているのは、ミシャが天才監督たる所以だなと思ってびびっています。
  • もう1点。チャナティップを右に持ってきます。チャナティップをインサイドハーフに起用する[1-3-1-4-2]は2018シーズンからのオプションでしたが、チャナティップは一貫して左で起用されていました。右に移したのは、駒井が担っていたルーカスのサポートの役割(何それ?って人はリンクから復習して下さい)をチャナティップに与えたかったのだと思います。あるいは、ヘナト アウグストからチャナティップを開放したかったのかもしれません。しかし後述しますが、すぐチャナティップを左に戻しています。
  • ジェイや福森のような、「滅茶苦茶能力が高くて1発があるけど依存度が高くなってしまう、特定ポジションしかできない選手」がいないと、早めにこうした動きがしやすいとも言えると思います。

4.2 インシデント

  • 実際の試合展開を見ていきます。
  • 後半立ち上がり、フレッシュなドウグラス オリベイラが担当のヴァウドだけでなく、GK梅田にも積極的にチェイシングで清水から落ち着きを奪います(テレとは違うのだよ、テレとは)。しかし後半最初の清水のCK、ドウグラスにマークの仕方を指示する菅野の顔はいつもよりも不安そうに見えました(ああやって先輩に指導してもらうことありましたよね)。
  • そのCKの後の52分、武蔵が倒されて得たゴール正面右からのフリーキック。菅と武蔵がスポットに立っていましたが、武蔵のトップスピンをかけたスピードのあるキックがニアを抜いて決まります。武蔵は2019シーズンから無回転シュートを度々練習しており、菅や進藤については「決まりそうだと思ったら蹴ってもいい」としていた福森がキッカーをごくたまに武蔵に譲るような状況でしたが、やはり中距離から威力のあるボールを蹴れるポテンシャルは元々あったんだろうなと感じます。とにかく、監督としてはどうしようもない、戦術を超越するスーパーゴールでスコアは振り出しに。
  • そして問題のシーンというか、54分に田中が1枚目の警告(後藤を後ろから引っ掛けて倒す)を受けます。
  • この直前のプレーから見ると、札幌は恐らく得点前後でチャナティップを本来の左に移している。これで本来ルーカスをサポートさせようとしていた選手がいなくなります。それがあってか、駒井が高い位置を取るようになり、武蔵のボールサイドに寄ってくる。更にこの時はアンカー(定位置は中央ですよね)のはずの、田中もボールサイドに寄ってプレーしています。宮澤も中央と言うより、駒井が空けた右サイド寄りで予備的なポジションを取っています。
  • 気になるのは、右サイドの枚数過多っぷり。それから中央の役割の曖昧さです。よくポジティブな意味合いで「数的優位」と言われますが、どこかが数的優位だとどこかが数的不利になるのがサッカーです。数的優位にする時と場所を考えて発動させる必要があります。札幌はルーカスの周辺に駒井、武蔵、田中と寄ってくるのですが、これだけ集まる意味合いは薄く、ルーカスが徹底マークされるなら、それを逆手にとって、例えばファン ソッコの裏を武蔵が狙う等が考えられますが、札幌はここに人が多すぎて中央が手薄になっています。
右に人を集めたから?中央の役割も曖昧になっている
  • もう一つは、荒野と田中の関係性で、田中がアンカーでスタートしていたはず。ミシャチームの定番である中盤をDFに1人落としてボールを保持するやり方なら、田中が落ちると思うのですが、この時は荒野が落ちています。そうして”自由”を得た田中がボールサイドで関与しようとしている構図で、これは必要なアクションではないように思えますし、本来ここにいるはずではない田中があまり効果的ではないプレーをしていると感じました。
  • この後、駒井→荒野とボールが戻り、「DFの位置の荒野」が「中盤の位置にいる駒井」へ、あまり優しくないパス。これを失って清水のカウンターが発動しかけたところで田中が後ろから倒しますが、この登場人物3人とも流動的すぎるポジションをとっており、例えば本来のアンカーポジションに誰か1人がいれば後ろから倒さなくても後藤をストップできたと思うのですが(事実、深井は後藤をほぼ完封していました)、田中が後ろから倒さなくてはならない状況を作ってしまいました。田中は前から「意外とよく動くタイプだな」と思って見ていました。もっとも、この後も荒野が下がってプレーしていることがあり、役割分担はそれで整理されていたのかもしれません。インサイドハーフに田中、はややミスマッチ感がありますが。ただ、その田中の配球から57分にはルーカスが抜け出しかけるなどいい展開もありました。
  • そしてこの「駒井が攻撃参加した背後」は、清水のカルリーニョスや西澤がボール奪取後、すぐに走ってカウンターを狙っていました。
  • 全般にこの辺りから、札幌がボールサイドに枚数を増やしたためか、オープンな展開になっていきます。
  • 60分に清水は竹内⇒中村慶太。

4.3 事故発生と心理的負荷

  • そして63分、札幌はルーカスの右クロスをエウシーニョがファーで誰もいないのを確認すると、ペナルティエリア内で足でトラップ。結果的にはここから始まります。ヘディングでの競り合いもそうですが、周囲に誰もいないときにトラップできる能力、確実に味方に渡せる能力はあまり普段言及されないですが重要です。これこそ「止める・蹴る」としてもっと日本の選手は徹底してもいいのでは?と思います。
  • エウシーニョがルックアップして中央のカルリーニョスへ1発で縦パス。カルリーニョスは下がって田中を引き付けてからバックドアの要領で急旋回。スピードのある選手は多用するパターンですが、田中の足が引っ掛かってしまって2枚目の警告で退場処分となります。
  • 足を出すならボール引っ掛けてくれ、とも思うところはありますが、根本的には札幌は同数守備を推奨しているので抜かれたら誰もカバーしてくれない。DFとしては絶対に止めないといけない。足の速い相手選手と広大なスペース。何故だかわからんけど名前を呼ぶミシャ。選手としては足を出して止めたくなる要素は多々あります。普通はこのような状況を作らないように、それこそ「数的優位」でカバーリング役を確保しておきますが、ベンチで「駿汰~」と叫んでいるポロシャツのおじさんはカバーリング役を置くならゴール前に突っ込ませようぜ、とするメンタリティの持ち主で、それをクラブも社長もサポーターも「攻撃的だ」としている。それが紛れもない札幌の現状です。

5.誤算と必然

  • 札幌は田中を失った後の5分間は、以下の形で急場を凌ごうとします。
63分~
  • 1人少なくても2人分の働きをできる選手がいるなら状況は変わります。64分、ルーカスがファン ソッコの股を抜くドリブルから武蔵へのラストパス。シュートはDFにブロックされてしまいましたが、3バックを維持するならルーカスは高い位置取りをできるし、彼のクオリティなら残り25分で同様のチャンスを作ってくれる期待もできます。
  • が、そのルーカスと、高嶺を68分に諦めて(疲労も考慮したかもしれません)キム ミンテと白井を投入。
68分~
  • 札幌の意図としては、攻撃の枚数やメカニズムは極力変えたくない。一方で[1-5-2-2]で守ると、[2]の脇(これは2トップも、2人のMFも両方指します)からいくらでもボールを運ばれ放題なので横幅を3枚か4枚の2列にしたい。
  • [1-5-3-1]か[1-4-4-1]が候補ですが、いずれにせよトップはドウグラス オリベイラで、武蔵にMFをやってもらうことになる。武蔵をどう運用するかを考えた時にウイングないし右シャドーとそう違和感が少ない右サイドのMFに置く形がベターか、ということで、後者を採用。4バックなら宮澤高嶺だと厳しいので、ミンテに頑張ってもらう、サイドを馬車馬のように走ってもらうので早めに白井も投入、ということだったと思います。
  • 簡単に突破されないように[4]の列を2列形成したいのですが、最前線[1]のドウグラスの周囲は彼1人ではどうしようもないので、何もできずラインはズルズル下がります。必然とペナルティエリア付近に防衛線を引いて撤退することになります。
  • 清水はアウトサイドに最低限の選手を配して中央に人を集めます。
4-4ブロックで抗戦したい
  • この時、サイドで西澤やファン ソッコが持つと白井が出ていく。4バックで白井が出た分のスペースが空くと、そこは危険なスペースなので武蔵が下がって埋めないといけなくなる。5バックだとDF同士のスライドやカバーリングだけで解決されていますが、4バックだとMFにこのような仕事が要求されます。
武蔵は守備負担が大きく殆ど攻撃参加できなくなる
  • こうなると武蔵は攻撃に出ていくことが殆どできなくなります。それはチャナティップも同じ。となると、札幌はトップのドウグラス オリベイラが何とかするしかないですが、ここでボールを収めて時間を作れるのは札幌ではジェイくらいでしょうか。
  • ルーカスを失った後、頑張れる、無理がきくのは他には荒野くらいでしょうか(チャナティップもそうですがやや元気がなかったですね)。荒野の頑張りも空しく押される時間が多くなり、85分にヘナト アウグストのミドルシュートで失点。最後はミンテを上げてパワープレーに出ますが、3点目を失い万事休すでした。

雑感

  • ちょっと前まで中心的存在だったジェイと福森の不在が続いていますが、この2人はスペシャリストタイプで、傑出した能力があるのですが所謂ポリバレントなタイプではない。具体的にはこの2人がいるとプレスの強度、ネガティブトランジション(ボールを失った時に再びプレスをかけたり相手のカウンターを防ぐプレー)の強度は弱まります。ただ、ジェイのポストプレーや福森のロングパスは本来2人、3人を投じて解決している課題をクリアにしてしまう。武蔵が戻って、元の形に近い戦い方にまたシフトしましたが、こうした選手が不在なら、それに合わせた微調整が必要です。
  • 戸田和幸さんの解説に1つ触れると、「札幌の左サイドがあまり機能していない」。確かに福森がいる時は、菅はバランス取りの役割のみでも致し方ないのですが、今は福森がいない分ここがネックになっているのもあると思います。この点は今後の改善事項でしょうか。
  • Twitterを開いていると、試合後、私のタイムラインではおじさんの負け惜しみが散見されましたが(主に主審に文句を言ってました)、私も便乗すると、札幌はボール保持、非保持ともオープンになりやすいチーム。ボール保持を簡単に放棄する(前に急ぎやすい)し、ボール非保持はマンマーク偏重で相手にスペースを与えやすい。もっと固いチーム相手だと、まだまだ清水は悩むことになるんじゃないかと思います。
  • どうでもいいですが、18時キックオフだとブログに整理する時間が取れていいですね。19時だとアルコールが回ってそのまま爆睡→一度起きますが、もういいや、となってしまうことが多かったです。

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