2023年5月28日日曜日

2023年5月27日(土)明治安田生命J1リーグ第15節 北海道コンサドーレ札幌vs名古屋グランパス 〜それでも僕らはやってない〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • まず、あえて今回はミラー布陣で表記していません。名古屋はマテウスが右IHに入る1-5-3-2でブロックを作っていたのでこうしましたが、ブロックを作る局面以外でもこれが基本形と言って良いでしょう。このシステムを意識的にやっているとするなら今シーズン初めてのことですが、特にインタビューでは言及されていないですね(インサイドグランパスで米本あたりのコメントから確認できるんでしょうか)。

  • この名古屋の1-5-3-2、それはおそらくわかるとして、名古屋がボールを持って札幌ゴールに向かってくる時にも1-3-1-4-2で稲垣がアンカー、マテウスが下り目にいたというのは札幌の選手はどの程度認識していたでしょうか。
  • 見た感じ、札幌は下り目のマテウスのマークは福森で、それは単に福森が定位置より数メートル前にいればいいだけなので、札幌はそんなにこの形を意識していなかったように思えますし、またお互い配置を意識してプレーするというより放り込みが多く、特にシステムが違うことで不都合はない試合でした。

  • その他、メンバーに関して言えることは、名古屋はアウトサイドの森下、和泉、内田はいずれも右利きですが両サイドができる。森下が左に回ることが多いですが、11節の神戸戦だと森下が右に回って汰木とマッチアップ。CBは野上と丸山が3人目を争っていて、丸山が選ばれた理由は引いて守る時間が増えそうなことなのか、コンサの前線守備に対して左足でボールを逃がせるからか、その辺でしょうか。


2.試合展開

それでもやってない:

  • 名古屋の開始早々の先制点については特に戦術的な観点では話はありません。
  • 今に始まったことではないですが、ボールを大切に扱わず前線の背が低くて競り合いに強くない選手に押し付けるようなプレーを続けていれば、そりゃ名古屋みたいなセンターラインに屈強で勤勉な選手がいるチームがボールを拾いますし、ボールを押し付けている間に結局ボール保持になるか、非保持になるかコンサの選手は自分でコントロールができない。運試しの如く見守るしかない。そこをコントロールするために日々のトレーニングがあるんでしょうけど、それでもやってないのでしょう。

  • 失点シーン以外だと19分の攻防を見てください。
  • 名古屋が札幌陣内でリスタートしたプレーでした。右サイドタッチライン際で福森がマテウスからボールを回収、ロングフィードを前線に送ると福森は守備→攻撃に切り替えてマテウスを一気に追い越そうとします。
  • しかしこのフィードを名古屋のCBが頭で跳ね返して、名古屋の選手が拾って二次攻撃に移行。福森は切り替えが遅れてマテウスを一番危険なエリア(コンサのDF-MFの間)でフリーにしていて、前を向いて選択肢が複数あるマテウスから名古屋のチャンス、という場面でした。
  • クリーンなbuild-upができずFWにシンプルにボールを放り込むプレーを多用するコンサはギャンブル要素が強く、そこで相手が処理をミスったり、駒井のような勤勉な選手がボール回収に成功すればギャンブル成功だけど、そうならなければ相手にどんどんボールを手放している状態になる。それが名古屋のようなチーム相手だと、かなり分の悪いギャンブルを続けていることになります。

  • この試合、名古屋が疲れる前の時間帯で、コンサがクリーンにbuild-upが成功したと言えるのは、51分に田中駿汰が名古屋のマークのずれを察知して50mドリブルで運んで、ボックス内のルーカスにラストパスを通した場面くらいでしょうか。

飛ばす名古屋:

  • もっとも名古屋もコンサとは少し違った観点で「ボールを押し付ける」チームです。
  • コンサは相手の圧力を少しでも受けると、DFやGKからクリーンなbuild-upができないのでFWが下がってきて受けるか、FWにいきなりボールを放り込んで、「FWにボールを押し付ける」チーム。
  • 名古屋もクリーンなbuild-upはできないけど、FWに押し付けるのではなくて、相手チームにボールを最初から渡すことが前提のチーム。相手にボールを渡して、ある程度のところまで引き込んでから前線のトライアングルで速攻、が必勝パターンです。

  • ただこの世にはボールを渡されたら何もできなくて困っちゃうチームと、ボールと多少のスペースがあれば何らかゴールに向かうプレーをすることができるチームがあって、長谷川監督が試合後に持ち上げていましたが、コンサは点取れるかは別にして、引いて守る相手に対しても金子拓郎の個人技という武器がある。
  • ですので名古屋としては、コンサとのゲームはボールを渡したらはい終わり、な試合ではなく、危険な選手、得意なパターンを発動させないようにする必要があります。

  • 繰り返しですが、名古屋はセンターラインの堅牢さで札幌を余裕で上回っているので、ここに札幌が適当にボールを放り込む状況になれば、名古屋としてはゲームの脅威は大幅に低減されコントロールしやすくなります。そして札幌のDFは、フリーならそれなりにボールを運んでくるけど、マンマーク気味に見られると一気にボールを運ぶ性能は低下するので、永井とユンカーで岡村と宮澤を監視します。
  • そして今シーズンのコンサの得点や決定機が何から生まれているかというと、主にそれは相手のDFのミスやロングボールの放り込みに上手く対処できないことが多くて、だからJリーグにおいてはパスを20本繋いで敵陣に侵入することのインセンティブは小さく、適当に放り込んでるだけで得点が入ったり勝ち点を拾えるのは事実なのですが、


  • 一応それ以外だと、これも繰り返しですが、右WBの金子拓郎の仕掛けが最大の武器になっている。
  • 名古屋は金子が仕掛ける態勢になれば90分抑えるのは難しいと考えたのか、金子が仕掛ける形を作る前に名古屋から仕掛けていたと思います。
  • ▼に色々と書いたのですが、金子にボールを届けるのは左右のSB。田中駿汰が後ろから持ち上がったり縦パスを入れるか、お馴染みの福森の異次元のロングフィードもあります。
  • だから名古屋は札幌のCBだけでなくて、SBも放置はしたくない。札幌のSBを見るのは、中盤3枚のうちの左右の、米本とマテウスでした。
  • しかし、ピッチ横幅に広がる駿汰と福森を、中央3枚から横スライドして管理するのはかなり運動量が必要になります。0-2となった57分にユンカーを下げてマテウスをトップに上げたのはこの負担を考慮したのでしょうし、米本も72分に交代しています。いずれにせよ名古屋は90分持たないであろうやり方でエネルギーを注いで、札幌のボール保持からのプレーを制限していました。
  • 金子に対しては、清水へと去ったクロちゃん吉田豊を彷彿とさせる勢いで日本代表森下が高速で寄せていきます。
  • 見落としがあったらみんなゴメンって感じですけど、この試合、金子がゾーン3(名古屋ゴールに近い約30mほどのエリア)で初めて前を向いてボールに触ったのは26分。ボールを供給したのは福森や田中駿汰ではなく、中央でルーズボールを拾った駒井でした。直近リーグ戦2試合で、湘南と京都相手に金子の突破から開始5分以内に先制パンチを浴びせることに成功したのとは対照的でした。

  • あとは、▲の図で触れた点は、中盤3枚だけだと足りなくなるので永井は頻繁に下がってスペースを埋めたりサポートします。
  • そして中央でデュエルに勝てないコンサの軽量級のアタッカーは、中央から離れてプレーをすることが多くなる。一つは、下がってボールを受けようとする。もしくはサイドに流れて、名古屋のWBとCBの間のスペースに走って間を割ろうとする。これは小柏が特に多かったと思います(この試合以外でも多い)。

  • この時に名古屋のDFは、中央からいなくなるコンサのアタッカーに基本的に全てついていって、最終ラインはマンマーク要素が強めの対応で対抗していました。
  • そうすると名古屋は中央からDFがいなくなって、CB1人とファーサイドのWBだけが中央に残っている、みたいなこともあるのですが、それでも小柏や浅野が前を向く方が危険なので持ち場を離れて対処する、という方針が徹底されていました。加えて、おそらく中央にクロスボールなどが入っても、コンサには有効なターゲットがいないので、少ない枚数でも守れるという計算もあったと思います。

人選は異論なし:

  • 後半頭から札幌は菅→ルーカス。私は、菅と金子は「ボールを雑に押し付けられてもそれをキープしたりそこから何かを起こせる力強さがある」と思っているので、菅を下げるのはちょっと早い気がしましたが、後半名古屋の足が止まってからは、左にルーカスという翼を授かったおかげでコンサが推していたのは事実だったと思います。
  • しかしそのルーカスと金子よるピッチ横幅を使ったプレーでコンサが攻勢に入る前に、55分、名古屋が森下の突破からマテウスのハーフボレーで追加点を上げます。
  • Jリーグのサイドプレイヤーとしてはかなりパワフルな突破を見せる金子に対して、森下は65分頃まではほぼシャットアウトしつつ、機を見て金子の背後に飛び出します。クロスボールはこれ以外も全て低く速いボール。ブロックを作らない札幌に対して中央が整う前にフィニッシュというプランがチームにあり、それを徹底していたのでしょう。
  • 終盤は金子が押し込んで、自らゴールも奪って意地を見せるのですが、それまでの森下のパフォーマンスは傑出していましたし、ボールタッチは少ないにしてもそのプレーの効率性が特に目を惹きました。

 

  • 先述の通り名古屋の運動量が落ちて終盤は札幌ペースになります。名古屋はマテウスを89分までピッチに残して引っ張るんですけど、マテウスにせよ永井にせよ、前半のようなディフェンスができなくなるとコンサはCBがボールを運べるようになり、それまでずっと苦労していたWBへの配球が容易になります。
  • あとはルーカスにせよ、金子にせよ名古屋は1人で対処できる選手がおらず、なんとかサイドに人を集めるのですがコンサのWBがクオリティを見せ、ボールを奪われないので名古屋は最後はほぼ自陣ボックス付近に釘付けでした。

雑感

  • しつこいですが、名古屋はCBがイージーなミスをすることはなさそうなので、build-upが放り込み主体のコンサは部が悪いと思っていました。しかし名古屋のプラン遂行が厳しくなってからはコンサが押し込んでいて、90分トータルで見ると拮抗していたと思います。
  • ▼私も似たようなことをずっと言ってますけどこの意見には同意します。というか、Jリーグってクリーンにビルドアップできるチーム今ありますかね?ほとんど放り込みと、DFの跳ね返す能力でゲームの大勢が決まっている気がします。あと、「ボールを持たないタクティカルなインテンシティ」と書かれていますけど、これも再三書いているようにDFの跳ね返す能力の全体的な低下はかなり深刻だと思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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