1.ゲームの戦略的な論点とポイント
スターティングメンバー:
- 鹿島は5ー8節で4連敗を喫した後に新潟、ガンバに連勝中。新潟戦から両サイドハーフに仲間と名古、トップに垣田を起用する布陣としており、この試合も継続してきました。
- 札幌は荒野が出場停止ですが、青木がスタメンに戻ってきて、駒井がボール保持時にはアンカーになる役割。ベンチにルーカスが入って中島が外れ、GKは菅野がメンバー外でソンユンが戻ってきました。
Jリーグ - J1 第11節 北海道コンサドーレ札幌 vs. 鹿島アントラーズ - 試合経過 - スポーツナビ https://t.co/pT7JbcQcfM
— アジアンベコム (@british_yakan) May 3, 2023
2.試合展開
弱者のサッカーに徹する鹿島:
- 前節のガンバ戦もそうだったようですが、鹿島がコンサに露骨にボールを持たせる展開からスタートします。
- 鹿島の強みは、センターラインの選手の対人での強さ。特にCBは昌子をベンチに座らせるほどで、札幌の2トップにとっては、前節の横浜FCのユニット(J1でほとんど実績がないンドカと吉野)とは段違いのクオリティを感じたことでしょう。関川と植田相手に、正面方向からコンサが放り込んでもノーチャンス。
- どうやらコンサのバックラインにはこのことを認識している選手と、認識していない(もしくは、わかっているけど何らかの理由で中央に放り込んでしまう)選手が混在していたようで、時々中央に放り込んで余裕で跳ね返されるという光景を挟みながら、基本的にはサイド迂回で突破口を探ります。
- 鹿島のもう一つの強みは2トップで、垣田と鈴木はいずれも岡村相手に互角程度に競り合いを繰り広げる能力があり、かつ福森がルーズになった隙を突いて30-40mの速攻を完結できる速さも兼ね備えます。
- ですので鹿島は2トップの走力を活かすなら、自分からボールを握るよりもコンサに持たせて、かつコンサのDFが前に出てきて背後にスペースができる展開にしたいわけです。我らがミシャコンサにはスカウティング担当のコーチはいるみたいですけど、相手を意識した練習や準備はほとんどしない(たまにする。ゼロではない。)ので、案の定、鹿島が望む試合展開にすることは容易な状況でした。
- 前節の横浜FC戦のようにある程度オープン、FWがボールを持てる展開ならばともかく、相手にスペースを消された状態だと、札幌は両アウトサイドのドリブルがほぼ唯一の突破口になります。
- 鹿島は特に金子に対して、SBの安西とSHの仲間の2人での対応を徹底し、安西は常に金子を視界に入れておいてサイドチェンジなどでボールが渡ると一気に寄せて縦を切り中央方向に誘導。金子がじゃあカットインするで…と方向転換するところで仲間がそのコースを塞ぎます。
- サイドの浅い位置で金子が2人にマークされた状況で、左足でクロスボールを入れたとしても、鹿島のDFは札幌のFWとボールを同時に視界に入れることが容易(≒正面からくるボールを跳ね返す状態)になっていて、この程度では鹿島のDFを崩すことはできません。縦突破が成功して鹿島のGKとDFの間に速いクロスボールを入れるなどしないと、鹿島が困る状況にはなりませんでした。
- 左の菅への対応は金子よりも容易で、それは、菅はほぼ左足でプレーするため、SBの常本が縦を切れば中央方向を向かせて右足に持たせることができる。だから菅には金子ほど2人での対応を徹底していなかった印象で、その分、名古は2トップと連動して高い位置で福森を牽制したりしていたと思います。
スロー展開でアドバンテージを得られなかったコンサ:
- コンサが(例えば、安易に放り込んで跳ね返されたりして)ボールを失った時に、鹿島はその気になれば速い攻撃を仕掛けられたと思いますが、序盤は殆どそうした素振りを見せずにいました。
- またコンサがボールを持った時に、コンサは両ワイドが高い位置を取って、青木がシャドーの位置に移動するなど幾分か、選手が移動をしてからプレーしたい。そのために時間が必要なのですが、この移動している間に相手がコンサのボール保持者を狙うと危険な状態になります。ただ鹿島はここを狙うこともしないで、とにかくコンサにボールを持たせて、コンサのDFが前に出てくる状態を作ることを徹底していました。
- コンサとしては、鹿島がコンサに対して十分に時間を与えてくれるので、先に述べた選手のポジションチェンジは容易になります。そして1-4-4-2で守る鹿島に対して、コンサが1-4-1-5で鹿島の選手間に選手を配置できるようになり、かつ各選手がポジションを守りながらボールを失わずに動かしているとギャップが生まれやすくなる。
- 6分にコンサは青木がビッグチャンスを迎えます。右サイドで鹿島は縦封鎖。コンサはプレスバックが甘い鹿島のFWとMFの間を通して横パスでサイドチェンジに成功。左サイドで鹿島のスライドが遅れて青木が浮いた状態で、福森のスルーパスから切り返してシュートを狙いますが枠外。
- 結果的にはこれがこの試合コンサの最大のビッグチャンスでした。シュートは外れたものの、仕組み的にはこのように相手を一度引きつけた状態から(なるべく最短距離で)サイドを変えると反対サイドで浮く選手が出てくるので、何度か繰り返したいプレーでしたが…
- まず21分に中村のプレゼントパスから失点します。
#鈴木優磨 が4試合連続得点で勝利に導く❗️
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 3, 2023
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田生命J1リーグ 第11節
🆚 札幌vs鹿島
🔢 0-1
⌚️ 21分
⚽️ 鈴木 優磨(鹿島)#Jリーグ#札幌鹿島 pic.twitter.com/UQExgb4G8M
- 直後の22分、おそらく青木が負傷で宮澤と交代。宮澤がアンカー(駒井の位置)に入って、駒井が青木の位置に上がります。
- それまでの時間帯、コンサが前線で仕掛けて鹿島が跳ね返したり回収したところで、セカンドボールを競って回収したり速攻をストップさせていたのがアンカーの駒井。駒井のゲームを読む能力は序盤から冴えていて、純粋な鹿島のFWと勝負になると(岡村はともかく福森のところで)キツいコンサが押せ押せだったのはその前に駒井がフィルターになっていたからでした。
- その駒井が青木のシャドーに移動。駒井はここでもプレーできるのでこの采配はわかるのですが、ビハインドになったこともあって変化をつけたいのか、ボール保持時に駒井がシャドーから低い位置まで下がってくるようになる。
- それに伴って、福森が高い位置に行ったり、中村がワイドでウイングに近い位置を取って、菅が内側に入ってシャドーに入ったりと、コンサは各選手が得意なポジションから動くようになって、それで鹿島のマークが混乱したりするならいいけど、この移動を最初からされても鹿島は単に守備の対象を変えればいいだけなので混乱は起こらない。コンサは各選手が得意な位置から乖離して不安定になるだけの無意味な時間を過ごします。
- 特に中村が失点を取り返そうとするのか、最初から高い位置を取ったり、縦パスを積極的に入れたりするのですが、先述のように最初から高い位置にいても(単に人が入れ替わるだけで、入れ替わって極端なミスマッチができたりもしなければ)鹿島は対応は容易ですし、鹿島が崩れていない状態での縦パスは絶好のカモでした。そんな感じで、立ち上がりの悪くない試合運びは完全に失われてしまいました。
コバ兄の”衝突”:
- 後半頭から鹿島は垣田→知念に交代。59分には両アウトサイドの仲間と名古を下げて、右に松村、左に土居。ゲームプラン上、サイドハーフの守備タスクが重要なため、60分で替えることは元々予定していたのだと思います。
- 札幌は64分に駒井→小林、中村→ルーカス フェルナンデスで菅が最終ラインに入ります。
- 小林が駒井の位置(ボールを持っている時は理想的にはシャドー、相手がボールを持っている時は中盤センターで宮澤と並んでピトゥカをマーク)に入ると、その選手特性の違いからピッチ上に変化が生じます。
- まず鹿島がボールを持っている時に、駒井は自分のマーク対象の選手を監視するだけではなくて、味方が危ない状況になりそうだとそのマークを捨ててカバーリングしたり活動範囲が広い。
- これに対し、小林はマーク対象のピトゥカを見ているだけで、これは原則マンマークなので全く間違ってないのですが、ピトゥカがこの試合殆ど攻撃参加してこないので、小林はずっと前残りのような状態になって、それまで下がって守る時にコンサは中央2枚だったのが1枚になって、例えば鹿島がFWに放り込んできてそれをコンサDFが跳ね返す→中央でセカンドボールを拾ったりするときに手薄感が生じます。
- そしてコンサがボールを持っている時に、駒井は基本的に自分がボールに触ってパスを出すことで影響力を与えようとしますが、小林はシャドーから降りて来ず、味方に対してお前はここに立て、とポジションを守るように何度も指示します。
- 特にコンサは福森が自由に動いて、その福森のカバーリングのために宮澤が下がってアンカーに誰もいなくなったりするのですが、基本的にアンカーに人がいるかいないかは前線へのボール供給に大きく影響するので、「そこ誰もいねーじゃん」と小林が該当者に指差しで修正していました。
- そして選手交代をしても、鹿島がそんなにコンサのDFにプレッシングをかけてこないのでボールを持てると判断すると小林は「後ろからドリブルで運べ」と指示します。宮澤がよく高嶺に同じことをしていましたが、この日は宮澤も支持される側でした。
- これらは全部原則として正しいです。サッカーはボールを持っている側が互いにパスでネットワーク化できる距離を維持しつつ、広がりを確保すれば守備側は全域を守れなくなるので、「相手に捕まらないように正しい位置にいる」は極めて重要かつ基本的な要素です。鹿島の待ち主体の守備相手なら、コンサが適切なポジショニングを取れば(この試合序盤のように)十分に崩せると小林は見たのでしょう。
- 一方でこれを誰かが指示して行うと非常に時間がかかります。時間もまたサッカーにおいて重要な要素で、これは相対的なもので、準備→アクション、という段階があるとすると、攻撃側も守備側も相手が準備→アクションをする前に自分たちが準備してアクションを始動すれば、準備不足の相手を殴れるのでそれだけでアドバンテージになります。
- だからヨーロッパのトップクラブなどは、時間をかけずに攻守ともに準備しながら戦うというスタイルが標準化している。一方でコンサは、2020年のコロナでの中断以前は、基本的に時間をかけて陣形を変えて準備するスタイル。中断以降はマンマークでの守備だったり速攻だったりと、準備をシンプルにして速く次のプレーに移行するスタイルに変わっていて、先日の横浜FC相手に4ゴールを奪ったゲームなんかも、その前の週に福岡から2点を先行したゲームも、基本的に相手が準備不足な状態を先に殴ったことでゴールが生まれている。
- この、”準備不足の相手を先に殴る”時に、コンサも割と準備不足というか整っていない、カオスに近い状態(ポジショニングがめちゃくちゃである)なのですが、とにかく相手より速くアクションを起こす、が優先されることがあって、それで攻撃を完結させれればいいし、うまくいかなくても駒井のような選手がバランスをとったり、GKのスーパーセーブに救われることでなんとか試合が成り立っています。
- 小柏や浅野はまさにそうした速い展開に向いている選手で、荒野や駒井、金子もフィジカルに特徴があって速く力強いプレーを連続してできる。そうしてバランスが崩れていく中で、岡村は味方のバランスがめちゃくちゃでも1人で相手を潰すことができる。菅野はとんでもないセーブで全部帳消しにしてくれる。
- これらの選手は今のコンサのスタイルにマッチしている選手で、逆に、宮澤や福森のような遅い(足が遅いというか、攻守が目まぐるしく変わるような落ち着かない展開で何度も連続してアクションを起こせない)選手はチームにアンマッチになりつつある。
- 見たところ、小林もどっちかというと宮澤や福森と同じ側で、荒野のように走れないけどプレーの量よりも質で違いを作る選手でしょう。
- だから、前半に青木が負傷した時に、ポジションや役割が近い小林を投入できなかったのだと思います。宮澤もあまり速くないけど、小林よりはアクションの量が多くてゲームに入りやすいということで、小林はそういう意味では現状チームにアンマッチで使いにくい状態になっている。編成側は攻撃の中心として期待して獲得したけど、現場としては、試合展開を見ながら、時間が経過したところじゃないと使えない、というアンマッチが生じています。
- さて試合の方は、コンサは金子や小柏の突破からゴールに迫ろうとしますが、中央を固めて待つ鹿島を崩すには至らず。金子は依然として執拗にマークを受けますし、小柏は1on1の状態だとゴールから遠ざかるプレーに終始します。
- 鹿島は83分に昌子を入れて5バックに。コンサは岡村を上げてのパワープレーを敢行しますが、この3バックに空中戦はかなり分が悪そうでした。
雑感
- 今使える選手を組み合わせるとこういう布陣になるのは理解できます。一方で、例えばこの前線なら相手はどう対応してくるかは容易に想像がつきますし、今に始まったことではないのですがゲームプランの欠如がそのまま結果に現れたという感じがします。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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