2023年6月5日月曜日

2023年6月3日(土)明治安田生命J1リーグ第16節 柏レイソルvs北海道コンサドーレ札幌 〜方向性の違い〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 柏は井原新監督体制下で3試合目。神戸、川崎と力のあるクラブ相手に2連敗からホームに戻ってきました。
  • 立田は前節の脳震盪の影響で欠場。細谷と共に前線の2枚看板であるマテウスサヴィオも欠場で、システムは1-4-4-2。2トップ気味の布陣だと、細谷にサヴィオや仙頭を組ませることが多かったですが、久々にフロートと細谷で9番タイプの選手を2人並べる布陣を採用しました。
  • 札幌はルーカスが9節以来のスタメン復帰。中村は「福森の役割」で、福森をベンチスタートとしたのは、柏の前線の選手起用に対しては当たっていましたが、よく読んだな、という感想です。
  • というのは、柏が2トップだとサイズと運動能力のあるDFが2人必要なので福森ではなく中村、は当たりですが、柏がたとえば細谷を頂点にした1-4-1-2-3だったら3バックで田中駿汰、岡村、菅、のような構成の方が適していて、それだと中村をスタートから起用すると適正な役割がなくてあぶれてしまったのではないでしょうか。ですので札幌は柏の選手起用をかなり精度が高く読んでいた、何らかの情報や根拠があったのだと思います(札幌にしては珍しい話ですね)。




2.試合展開

お互い難あり:

  • たくさん点が入る展開でしたので、いちいち得点を描写するのはやめます。キーとなったピッチ上の要素を記載するだけにとどめます。

  • Jリーグの中位〜下位のチームほぼ全て(新潟のぞく)に共通しますが、DFが相手のプレスを引きつけてスペースを作ってフリーの選手に前を向かせて前進…みたいな展開が難しそうなのは、この両チームに共通しています。
  • 柏は第二次ネルシーニョ政権では、クリスティアーノ、怪物FWマイケル オルンガ、そして現10番のマテウス サヴィオといった、前方に広大なスペースがある状態を有効活用できる強力アタッカーの存在で、build-upに難があってもこれまで何とかなってきたと言えます。この試合ではそうした選手がピッチ上にいないなら、長身FWフロート(そんなに起用そうではないですが、身体はそこそこ強くてターゲットにはなる)の起用は理解できます。
  • 第一次政権では、ジョルジワグネルのようなMFがいたのもあって、あとそもそもJリーグがもっとアンストラクチャーな環境だったのもあって、あまりbuild-upの問題は露見してなかったと思いますが。

  • 札幌はどちらかというと、ジェイやチャナティップのような、スペースがなくても前線で強引にシュートチャンスを作れるアタッカーがいたのもあって、基本的にはボールをさっさと前線に放り込んで(前線の選手に押し付けて)から全てが始まる。ジェイの稼働率、パフォーマンス低下やジェイの代役となる選手がスケールダウンしているのは、そのままチームのパフォーマンス低下の要因の一つだと言えます。
  • 今はキム ゴニという前線で起点になることを期待されているFWがいますが、ゴニがいようといなかろうとコンサは前線に放り込む前提でプレーしていますし、DFが放り込んだロングボールの行方がどうなるかが現状のコンサの生命線だと言えます。以前も書きましたが、ロングボールに難なく対処できるDFのいる鹿島や名古屋には完敗しています。
  • いずれにせよ両チームともビルドアップには難がある。ただ札幌は、一応やりたいことははっきりしていて、相手が全く有効な手を打てないなら割とハマる時はあります。

札幌のロングフィード攻勢の成功とその理由:

    • 前半から札幌が先行する展開となりますが、それは札幌のロングボール攻撃が成功していたことが大きいです。札幌の先制点、2点目とも、左WBのルーカスフェルナンデスがゴール方向を向いてドリブルを開始するところから始まっています。

    • 柏は、選手コメント▼を見た感じでは、相手のボール保持に対しては下がるのではなくて、前線からpressingを仕掛けたいとの意図はあったようです。
    • ただ前半の冒頭の展開を見た限りでは、柏はどうやって札幌のボール保持の展開から嵌めていくのか準備不足に見えました。

    (DF古賀)前がスイッチをかけた瞬間、シャドーの選手にボールサイドのCBが1人食いついて、その背中をずっと小柏(剛)選手が狙っているような状態だった。CB2人が常に走らされている、動かされている状態がずっと続いていた。
    (GK松本)前半は相手が前に人数をかけている中、ウチは真ん中の選手に対して逆サイドはある程度捨てようという話がありました。ただ、あそこで斜めに入られてしまうと、相手もすごくスピードがある選手がいるので、そこで後手を踏んでしまった。

    • 札幌のボール保持が始まって、柏がセットした状態は▼の形からスタートします。
    • 札幌は、右側のDF(岡村や田中)が左サイドに蹴るか、左側のDF(中村や菅)が右サイドに蹴るか、いずれにせよプレーの選択は全て対角へのロングフィードです。
    • 試合の序盤、柏の対応は、①2トップは荒野を背中で消しながら時折DFを見る、②2列目MFは中央寄りでセットでそこまで強いマンマーク関係は作らず、椎橋と高嶺は浮き気味(特定のマーク対象がいない)、③最終ラインは中間ポジションをとり、こちらも特定のマーク対象を持たない。
    • こんな感じなので、特に中盤4枚が、前後に人を分断させ、後ろから前に放り込んでくるコンサ相手だと浮き気味で、これだと全くプレスがかかる感じはしなかったです。


    • そしてコンサがボールを動かして、サイドの選手が持つとこのような▼状態になります。先の古賀のコメントはこの状態のことを言っているのだと思います。

    • 田中駿汰が持つと、一番近くにいる金子のところにSBの片山が寄せる。これに連動して、左CB古賀は浅野、右CB土屋は小柏、そして右SB川口は駒井を捕まえるように動いてボールサイドにみんなでスライドしてきます(GK松本の「逆サイドは捨てる」とも一致しますね)。
    • しかし川口の背後でコンサの左WBルーカスフェルナンデスがフリー。そしてコンサは繰り返しになりますが、対角にロングフィードを多用するので、正直なところbuild-upで重要な役割を持たない浅野や小柏をこの段階で捕まえているのはあまり意味がない行為で、逆に川口の背後をガッツリオープンにしているのが致命的だったと言えます。

    • そして「逆サイドは捨てる」と言っていたらしい柏は、その捨てている逆サイドにボールを供給されると対応はかなり混乱します。川口がルーカスに出ていくと駒井がフリーになりますし、駒井の2点目のゴールはこの、ルーカスに川口が出たところで駒井が動き出して前を向いたところから生まれました。
    • 「捨てる」というなら、たとえばWBにボールが渡るのは許容して、そこで時間を稼いでブロックをゴール前に作って絶対跳ね返す、みたいな対応になるでしょうか。ただそれにしても、放り込まれても柏のGKやCBの対応はかなり怪しかったので、結局捨てると言うだけでどうするのかわからない印象はありました。
    • 結果的には、柏は5バックにして解決するのですが、4枚で対応するには戦術面も個人の対応もイマイチだったと感じます。DF4人で札幌の横幅を使った攻撃に対応してきたのは、鹿島は毎年そうですが、それは岩政氏(もう監督か)が言うには「鹿島のDFは1人で2人をみる練習をめちゃくちゃしている」らしく、またかつての名古屋には吉田という守備範囲が極めて広い左SBがいて、彼はサイドチェンジが出た瞬間に札幌のWBに寄せて距離を詰める速さと能力はJリーグで最高でした。
    • 柏のDFの中で、片山だけがそうしたサイドチェンジに対応する運動能力だったり空中のボールを対処する空間把握能力が及第点という感じで、他の3選手は4バックのこのやりかたで対応するのはちょっと無理そうな感じでした。

    • 時間経過とともに、柏は▼のように高嶺を荒野に当てて、椎橋を下げて駒井の近いところに置いて、ピッチ上で1対1を10個作るシンプルな方法で解決を図っていたと思います。
    • ただ、これも、高嶺は役割が明確になっていたのですが、椎橋はずっと駒井をマークしていればいいのか?という迷いが感じられて、椎橋としては自分が下がりすぎると中盤に広大なスペースができてしまう。それでもいいの?と思っていたのでしょう。だから駒井は前半常に浮き気味で、駒井周辺…川口だったりルーカスのパフォーマンスにこのことは影響を与え続けていたと思います。

    予想通り5バックで対処:

    • 後半頭から柏は椎橋→三丸に交代。互いの配置とマッチアップはこのように変化します。

    • 柏は3バック⇔5バックの陣形に変更。
    • この変更では、実はマッチアップはそこまで変わっていなくて、コンサのDFがマークする選手は田中駿汰、岡村、中村、菅、いずれも同じ。表記の上では、戸嶋と小屋松は1-4-4-2の攻撃的MFから1-3-1-4-2のインサイドハーフになりますが、元々2人はボールを持った時は中央で2トップと近い位置まで出ていきますので、役割もそう変わらない。なお柏の1点目は、中央〜左にまで流れていった戸嶋が菅の監視から外れて、コンサはマークの受け渡しが機能しなかったことが影響しています。

    • 変わったのは金子の対面が三丸になって、更に前半は駿汰が背後にいましたが、後半は駿汰は中央寄りでの仕事が多くなります。
    • ですので三丸と金子の1対1の関係性が強くなって、三丸が高い位置をとると金子は自陣深くまで下がってプレーしないといけなくなる。スコアが3−3となった細谷のゴールは、金子が自陣ペナルティエリア外くらいでボールを受けて、片山の股抜きを狙いましたが失敗してボールロスとしたところからでした。
    • あそこで股抜きは成功したらハイリターンですけどリスキーなプレーで、さすがコンサって感じでしたが、我らが名将はこうしたプレーを是正する気は一切ないと思いますけど、まともな監督ならまずあのエリアでボールを持ったら何を優先するか、から教え込むと思いますし、逆に金子のようなボールを晒すけどリターンが大きい選手が自陣ペナルティエリア付近まで戻らないようにチームを作ると思います。

    • 柏の方は、コンサが前線5枚を並べるのに対してようやく5枚で対処するようになって、金子やルーカスにサイドチェンジし放題、仕掛け放題だったコンサの勢いを削ぐことに45分経ってようやく成功します。
    • また、ボールを持っている時に、セットした状態だと片山が左SBの位置にスライドして、三丸が高い位置をとる4バックみたいな形からスタートするのですが、この時にコンサは浅野と小柏の2トップのままで守ると片山のところでマークがずれることになって、もしかすると浅野はこのシステム変更に気づいてないか、気づいていたけど自分のマーク対象やポジショニングが変わる必要はないという認識だったかもしれません。
    • 上記の細谷のゴールは、片山が浮いた状態からconducciónして札幌陣内に侵入し、そのまま残っていたことで生まれましたが、SBからCBに変わった片山がアグレッシブに振る舞うことができたのはこの浅野の対応の影響があったと言えるでしょう。

    ピッチ上はツギハギだらけ:

    • 柏が最終ライン5枚にしたことで最終ラインは簡単に札幌の選手がフリーになることは前半ほど少なかったですけど、依然としてお互いにシンプルにボールを蹴り合うので、ボールが往来するテンポが速くてオープンな展開で進みます。
    • 61分に柏は小屋松→山田。おそらくこれは山田が高い位置に出ていくというよりは、山田が下がって受け手になることで、三丸や片山が前に出ていけるようにして、マークする札幌の選手を押し下げたりマークの受け渡しを発生させて混乱が生じることを期待したように思えます。

    • 一方、その山田が入る直前のプレーで、フロートがピッチ中央付近でボールをゲインして裏街道で中村を振り切ろうと爆走(最後は細谷のシュートからCKに)。この魂のプレーで日立台のボルテージは最高潮に達しますが、フロートはほぼバテてしまって以降はフロートが交代する75分頃まで、コンサがボールを持っている時に柏の1列目に大穴が開きます。
    • 細谷はまだ動けそうですが、フロートが何もできなくなるとコンサは中央でボールを好きなように持て、また菅野が前に出てきたことで、モビリティに長ける中村が後ろにずっといる必要がなくなりドリブルでボールを運んだりして、フロートの電池切れ以降は柏は厳しくなります。

    • そのフロートと交代で77分に入ったのが武藤。武藤は左FWに入って、岡村がマークしますが、武藤が引いて受けたり左サイドに流れると、コンサで一番重要なDFである岡村は簡単にゴール前を離れることになる。
    • 柏はこのメカニズムを利用できると面白かった気がしますが、6分後、83分に高嶺を下げてドウグラスを入れて、前線にFWが3人並ぶようになると武藤と岡村のマッチアップ関係は崩れて、またコンサもDFの枚数が増えるのでそれまでよりも中央でスペースが減って柏はゴール前で窮屈な感じになってしまいました。ドウグラスは久々に見ましたが、全盛期と比べるとかなりもっさりして、あれだと活動するにはもっとスペースが必要なのでしょう。
    • もっともその武藤のゴールでATに追いついたので、采配が良い悪いと論じるのは難しいところではありますね。

    雑感

    • 白熱の撃ち合いというよりはお互いエラーだらけスコアが活発に動きましたが、勝ったのでよかったのではないでしょうか。
    • 試合と関係がないけど、中村の役割について、高嶺は「センターバックみたい」と解釈していて、中村は「前に出ていける役割」と解釈しているのが興味深かったというか、そう考えると(選手としての力量は別にして方向性的に)中村の方が今のチームにはフィットしているし、DFじゃない選手を最終ラインに大量に起用していましたけど、むしろ逆のアプローチの方が選手管理の側面では適しているのかな、とか思いました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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