1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 鳥栖は6/7の天皇杯(vs宮崎)に出場した選手からはファンソッコのみがスタメン起用されており、また彼はリーグ戦でここまで8分しか出場がない。そしてこれまでCBで起用されてきた山崎と、3バックなら左右のCBができる原田が起用されており、札幌相手に3バック(5バック)か?とも予想できるスタメンでしたが、普通に4バックの1-4-2-3-1でした。
- トップ下または3バック時のシャドーで1st choiceだった本田が離脱してからは、手塚がスタメンに入って中盤を左から手塚、河原、森谷の3枚で構成する1-4-1-2-3を採用して3戦負けなしとまずまず。この試合は森谷がトップ下でしたが、基本的にはこの3試合の布陣を踏襲してきたということでしょう。
- 札幌は菅が出場停止で、中村が左DFに入り宮澤がスタメン復帰。
Jリーグ - J1 第17節 サガン鳥栖 vs. 北海道コンサドーレ札幌 - 試合経過 - スポーツナビ https://t.co/RXFohoZr5u
— アジアンベコム (@british_yakan) June 12, 2023
2.試合展開
似てるような〜 全然〜 似てない〜 僕たち〜:
- 互いにチームとしては似てるというか、共通点はいくつか見られます。基本的にはお互いにボールを持たない方が得意そうなチームに見え、相手がボールを持っている時のpressingは積極的だと言えるでしょう。
- 逆に自らがボールを持っている時のスタンスも似ていて、完全にボールを捨てるわけではないけど、あまり有効な前進手段がない。その分をバックパス処理と守備範囲の広さに長けた両GKがカバーしています。
- 特にJリーグだとマンマーク主体でで人を捕まえる守備が昨今流行っていて、ヨーロッパだとそれはリターンだけでなくリスクもあるよねという扱いでそんなに、何が何でもマンマーク主体で広く守る感じはしないのですが、Jリーグだと特にDFの選手があまりpressingの耐性がなさそうだからか、マンマークで広く守る守備はかなり有効に見えますし、その際にCBが保持できないボールを押し付けられる選手がピッチ上にいることがかなり重要だと思います。具体的には①マンマークで配置的に浮くことになるGK、②前線でボールを収めたり1人でゴールに特攻できる強力なFW、③(最近見ないけど)アンドレス・イニエスタやチャナティップのようなMF、とかそういったリソースはJリーグの昨今の環境だと特に重要に思えます。
- 両チームとも中盤や前線にそこまでのタレントはいないですけど、GKが平均以上に「ボールを押し付けられる役割」をこなせていて、特にパクイルギュはフィードが上手いだけでなくて、味方がポジションや配置、準備を整えるギリギリまでボールを保持してどこに展開するかを見極めてくれますし、またその判断も優れています。
- だから両チームともGKから2〜3手ほどはパスがつながってサッカーっぽくなるけど、そこから先は前進したり相手を剥がしてチャンスを作ったりするのにやや苦戦、というチームに見えますし、実際両者が組み合うとそんな展開で試合は進みました。
あえての4枚対応:
- そんな、基本的には同数関係を局所で作ってマンマークで対応する構図をあえて崩したのが、川井監督のコメントにありますが、鳥栖の最終ラインの対応でした。
- 上記のコメントに狙いとかだいたい全部書いてる気がするんですけど、札幌は前線に金子や浅野といった、前を向いてボールを受けたらゴールに向かって仕掛けることができる選手がおり、特に4バックで守っていてしかもWBのケアが疎か(前節の柏が典型ですね)なチーム相手なら、金子やルーカスのWBのところが特にボールを持って前を向きやすく、そこにボールが入ると札幌の攻撃と呼べるプレーが始まりやすい。
- 前節の柏も「(わかっていて)反対サイドは捨てる」と言っていて、結果前半だけで3失点をして5バックでの対応に切り替えましたが、この試合の鳥栖も4バックで、川井監督のコメントを平たくいうと鳥栖も「WBは捨てる」という方針だったと言えるでしょう。その理由は、これも書いてますけど岩崎と長沼を前に残すために、DFは最小人数で対応したいから。数的優位ばかり作っていても疲弊してしまうからです。
- 鳥栖が柏と違ったのは、前線から札幌のDFに圧力をかけていたのと、また札幌のDFがボールを持った時に基本的に中央に展開を誘導していて、中央を経由する展開があまり得意でない札幌相手にまずそこで勝負を挑んでいたことでした。
- 久々にSPORTERIA。札幌のパスネットワークは、荒野が下がってCBで宮澤がアンカーですが、宮澤(途中交代した)にはほとんどボールが入っていない。シャドーから下がってくる駒井も同様ですね。
【更新情報】
— SPORTERIA (@SPORTERIA_JP) June 10, 2023
J1 第17節 #鳥栖 1 - 1 #札幌
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- そして鳥栖のCBは柏ほど脆弱ではなくて、放り込んでいれば勝手にコンサボールになるってほどでもないので、コンサは明確な前進手段がサイドチェンジ以外にあまりないゲームでした。
- 逆に鳥栖からすると、そのサイドチェンジが問題で、キッカーはケアしていても受け手を捨てているとやはり何度か金子にはボールが渡ります。その金子がボールを動かしながら前進すると、川井監督が期待の菊池が対応しますが、菊池はこれまで金子が対戦した選手の中ではかなり研究していたというか、縦突破されないようにうまく守っていたと思います。
- 一方で、金子を1発で止めるのはかなり難しくて、縦突破をケアしても今度は金子は中央方向に進んでいくので他の選手のサポートが必要になる。それは手塚だったりもしますけど、結果的には岩崎が前線から頑張って自陣に戻って対応することもしばしばあって、その意味では鳥栖は戦術的な目的は達成できたか?というと微妙な気がします。
互いにパワーを欠く:
- 札幌は24分に小柏が負傷交代でスパチョークがイン。
- 今、速さにかなり振っている札幌のチーム構成では、小柏と浅野の速さ(足の速さというより判断や切り替えの速さや運動量の多さ)が重要になっていて、その小柏が抜けるなら残りのアタッカーの中で一番小柏に近い選手特性を持つスパチョークの重要性がここのところ増しているように感じます。開幕時だったらキム ゴニと小林の技術を優先していたのですけど、この2人だとスピード不足、運動量不足でサッカーの質が変わってしまいます。
- ただスパチョークがJ1でこれだけ長いプレータイムを得るのはおそらく初めてで、最低限の仕事はしていたと思いますが、特に鳥栖のDFとGKがボールを持っている時のpressingがあまりうまくない。アクションも少ない。だから鳥栖としてはこの交代は助かったというか、後ろで持っている時に怪しい状況になることは少なかったと感じます。
- 鳥栖の方は、ボールを持たされると、先述のようにGKから2〜3手はパスが繋がる場面もある。しかし鳥栖は前線に金子拓郎のようないるだけで圧力をかけられる強力アタッカーがいなくて、岩崎と長沼はカウンターの時(≒要は、札幌が不用意にボールを失ったりしてDFが揃ってない時)には勝負できるかもしれませんが、そうでなければ、岩崎は田中駿汰が問題なくケアしていました。
- となると鳥栖は個人で1対1で勝負、というよりは誰かが完全にポジションを動かしてマークを外したりすることが必要で、小野がトップからサイドに流れたりしていましたが、そうするとゴール前に誰もいなくなってしまう。この点は、鳥栖は見ていて、かなり相手が崩れたシチュエーションじゃないとパンチ力が足りない感じがしました。
雑感:
- 半分となる17節を終えて札幌が勝ち点26(後半戦もこのペースならかなり立派ですね)、鳥栖が23。戦力差はセンターラインは札幌の方がクオリティのある選手がいて、特に鳥栖は岡村を攻略できそうな気配がなく、その意味では今回あまり騒がれないですけど、守備のずれから失点になった鳥栖の同点ゴール(オウンゴール)はかなり勿体無い失点だったと感じます。
- あとは、もし小柏の離脱が続くなら、ここ数試合の良いサイクル(スピードのある前線の選手を使った速く慌ただしい試合展開に持ち込んで、センターラインがしょぼいチーム相手には打ち勝つ)が途絶えるかもしれません。ただリーグ戦は2週間後なので、何らか再構築はできるでしょうか。寧ろ青木や小林が復帰した時にどう使うかも考えないといけませんね。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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