2021年8月1日日曜日

2021年7月30日(金)明治安田生命J1リーグ第4節 北海道コンサドーレ札幌vsガンバ大阪 ~夏休みの過ごし方~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 6/29(火)から9/1(水)まで毎週ミッドウィークに試合をこなすという、選手も戦術ブログ君もぶっ倒れそうなスケジュール中のガンバ。J1のリーグ戦に関しては、新型コロナウイルスでの未消化分があり出遅れていましたが、前節は大分との6 pointerを制して最低限、降格圏からの脱出には成功しています。
  • メンバーはターンオーバー前提なので誰が主力とは言い難い面もありますが、システムは3バック+2シャドーの1-3-4-2-1、最終ラインはこのユニットが基本でしょう。
  • 札幌は宮澤が謎の欠場で、田中駿汰が中央にスライド、駒井が右DFで起用されています。前線はジェイが復帰で、小柏と金子がそれぞれスライド、ルーカスが久々に左WBに”なってしまいます”。

2.試合展開(前半)

4年目vs2ヶ月半:

  • 5月半ばに宮本恒靖前監督の後を継いだ、元ガンバサダーこと松波新監督下でのガンバは、過密日程もあって難しいことをする、というよりはシンプルに選手の力を引き出そう、というチームだと感じます。もっとも松波監督も6年前に鳥取を率いていた時以来の現場仕事なので、別の試合でチラッと見たときは、6年前のJ2にこんなチームいくつかあったなぁ、というあまりポジティブではない印象でしたが。
  • それに比べると、ミシャ体制4年目で基本的なコンセプトはある程度持っていて、整理されているのが札幌。試合開始から20分ほどは、こうしたお互いの差が表れて、札幌が押し気味に試合を進めていました。まずこの理由を説明します。

  • 札幌は言わずもがなとして、ガンバもコンセプトとしては相手に対してマンマーク(スペースを管理するのではなく人基準でポジションと対応を決める)ベースで考えていたようです。
  • ただ、札幌がいつもの、高嶺を落として1-4-1-5でボールを保持すると、ガンバはレアンドロペレイラが最初にボールを持った選手にチェックに行くが、その後に誰も続かない。ここで「待ち」ならペレイラは行かない方がいいし、ペレイラのアクションが正解なら、シャドーか中盤センターの選手(後述しますが後半は後者が連動する形で整備されました)が出ていく必要がある。ここが不明瞭だったので、札幌は労せずしてボールをどこで落ち着かせられるかは見つけられました。
序盤曖昧だったガンバ
  • これ以外の理由はシンプルで、札幌は中盤をすっ飛ばしてジェイなり前線の選手にボールを当てます。ジェイが全部勝つとかキープしていたのではないですが、セカンドボールは良く拾えていました。
  • 蹴った後、札幌は高嶺が押し上げて3バックの形に戻る。高嶺と荒野でガンバの中盤2人と同数関係を作って、ガンバがセカンドボールを拾ったら前線の3選手に当ててきますがこれも同数で処理。この押し上げをさぼらず迅速に行うことで、後方5選手のどこかでボールを回収して2次攻撃につなげていたと思います。

選択肢はいつもひとつ:

  • 札幌の問題というか、全般において「単調な展開だ」とする質問なり意見を送ってくる方がいたので言及します。
  • 先日の「コンサラボ」でも少し触れてましたが、札幌は、ボールを持った時に1-4-1-5の配置になるのが基本。ただ、荒野と高嶺のユニットはボールを迎えに行く傾向が強いので、荒野は「1」の位置で待つよりはボール周辺に集まってくることが多い。
  • そうなると中央にはチャナティップしかいなくなる。彼は頻繁に下がる(これもボールに寄る、ですが)ものの、右シャドーの小柏は前への意識が強い。小柏はもう少しバランスをとれることもあるのですが、前に蹴る意識が強いと必然と裏抜けを意識して、あまりシャドーっぽい振る舞いをしなくなるのはあると思います。
チャナに預けるか蹴っ飛ばすかの二択でプレー
  • 札幌の左シャドーはここ数年チャナティップの定位置だとして、右は都倉なり、武蔵なり、アンデルソンロペスなり、小柏なりFW的な選手がよく使われていて、ボールを経由する選択肢としてあまり強くない。
  • ですので後ろから球出しをするとして、選択肢はチャナティップしかいなくて、チャナがマンマーク等で消されるとか、パスコースに顔を出せないと放り込むしかできることがなくなるのだと思います。
  • そしてこのチャナがこの試合は特に、急ぐ展開というか、ボールを受けた後は前方にドリブル等で突っ込んでいく選択が多く、ファンマリージョが言うところの「急ぐほどボールは早く帰ってくる」展開に拍車をかける。速いテンポでプレーしてチャナなりジェイなりが仕事をしてくれるならいいのですが、一般にプレースピードを上げるほどプレー制度は落ちます。

夏休みの過ごし方:

  • 冒頭にも書きましたが、序盤は札幌が蹴って押し上げることでガンバを押し込む展開。
  • 見ていると、札幌はこのハイテンポなスタイル…正面の相手にとにかく突っ込んでいくことを序盤から徹底していて、恐らく3週間程度の準備期間でこの点を用意してきたのだと思います。
  • これも突っ込んでボールが奪えるとか守備が成立するうちはいいのですが、なんでそれをどこのチームもやらないのかというと1人で突っ込むだけでは本来守れないから。攻撃側は鬼ごっこの要領で相手の重心の逆を取ってプレーすればいいので、一般に守備はまず相手のアクションの方向を制限させる必要があります。相手がどっちに進むかわからないうちに全力で突っ込むという選択は、相手が同じ方向に進めばいいですが、外れれば1発でかわされるギャンブルです。
  • 確率は公平というか、札幌のギャンブルは徐々にはまらなくなります。17分、高嶺がポストプレーを試みるペレイラに突っ込んでファウル。ガンバの最初のチャンスは21分、自陣でボールを奪ってから左シャドーのウェリントンシウバの足元に入る。高嶺はタックルに行って奪えるイメージだったのでしょうけど、突っ込んだところをシウバが剥がして高速ドリブル。ここから徐々にガンバの攻撃が増えます。
  • 札幌は高嶺にしろ荒野にしろ、相手より先に動いてボールに触ろうとする守備の意識が強く、スライディングタックルでの処理が多くなります。これもスライディングタックルをしろ、というよりはプレースピードについてミシャから恐らく要求があって、とにかく即時奪回しろ、というコンセプトの提示?のようなものからスライディングの多様になっているのだと推察します
  • 序盤から20分頃までは札幌がかなり押していて、ガンバにはほとんどチャンスなしの展開だったにも関わらず、25分にDAZN中継で表示されたボール保持率は54:46。これを見ても、札幌がとにかくプレースピードを上げて簡単にボールを失うので、押し込む割にはそこまでボールを持てていないことがわかるでしょうか。

速い≠強度がある:

  • 29分にガンバはウェリントンシウバの突破から矢島。
  • 直接的には駒井が1on1で負けたところが決定打だったでしょう。結果論ですがDFがここでサクッと抜かれると厳しいです。駒井の寄せ方はサクッとし過ぎというか、まるで前線の選手が、後方で誰かカバーしてくれる状態で突っ込んでいくみたいな感じだな、と思いました。
  • ミシャ的には駒井は色々な意味で戦えるしサッカーを知っている選手なので、DFもできるでしょ、というところかと思いますが、宮澤が屈強なFWをマークしているのとは話が違って、ウェリントンシウバ相手だとこの1on1は成り立たないように思えました。

  • 後半のガンバの追加点も共通点があったのでここで触れます。
  • 2点とも、スローインからの展開でガンバがサイドを変えてからクロスボール、というのは共通している。2点目が特に顕著ですが、正面に相手がいるときは勢い良く突っ込んでいた札幌の守備は非常にルーズになっていて、マンマークで圧力をかけていけ!というなら黒川にボールが入ったら駒井は速攻で寄せる必要があるのですが、「持ち場」を優先した結果ドフリーでアシストを許してしまいました。

3.試合展開(後半)

  • 後半はガンバがマーク関係を明確にしてきます。札幌が1-4-1-5で下がる高嶺に対して、倉田かチュ セジョンがポジションを捨てて前に出て捕まえる。荒野も下がると両方とも出てくるので中央にスペースができる。ここに、チャナティップだけではなく、ジェイや小柏も降りてきて中央を使おうという意識はありました。チャナは三浦がかなりついてくるようになって、前半よりは浮きにくかったと思います。
  • ただ、ミシャのHT明けにルーカス、60分に福森、64分にジェイを下げるという選択は、恐らくプレースピードをもっと上げろというか、ルーカスはともかく2人はあまり走れない選手なのでそこを容赦なく変えてきたな、という印象で、福森は砲台ですがジェイはボールを収めることができるので、その収める能力はいらないからとにかくもっとハイテンポにしろ、相手に突っ込んでいけ、という意図だったのかもしれません。
  • そういう意図はわかるんですが、ドタバタとして、サッカーをしているというよりは別の何かを目指しているような試合展開が続きます。個人能力で札幌よりも恐らく上のガンバ相手には、こうした単調な展開、しかもジェイを下げる展開ではゴールを奪うのは難しかったと思います。

  • ガンバは70分過ぎにパトリック(と、宇佐美)。結果的にはイージーな展開になりましたが、現状パトリックの空中戦がかなりチームを助けているので、過密日程下で彼らを起用できる時間が限られているとして、交代カードを切ってからが勝負、それまでは5バックで引き気味であまり仕掛けないプランだったのでしょうか。

4.雑感

  • 試合のハイライトとして、チャナティップのタックルで高尾が足首を負傷して交代する、というものがありました。結局これも、札幌は守備のやり方を根本的にわかってないというか、相手に突っ込むことしか考えていない。
  • この時、チャナティップはまずジェイの担当である昌子、自分の担当である三浦、そしてプレスバックして高尾に突っ込む三度追いを頑張っていて、先にも書いたように相手の方向を誘導しない状態で走り回っても守備としては効果が薄いのですが、ミシャは多分それを求めているからチャナティップは忠実に遂行しようとしたのだと思います。

  • このほか、先日のとあるゲームで高嶺が「うるせー」という声が拾われたりもしましたが、全般にミシャはpublicなイメージほど求心力はないというか、私の予想では、ミシャの要求する「強度」を継続的に実現するのは無理だと、選手の多くはわかっていて、だから試合によって守備の仕方や印象にばらつきが生じたり、この試合で言うとチャナティップはすごく頑張るけどほかの選手は連動しないとか、そうしたチグハグさが生じているのでは?と感じます。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. いつも拝見しております。
    ミシャのパブリックなイメージについてですが、新人選手のほとんどが「ミシャの元で成長出来る」とのコメントを残していて(先日読んだ月間コンサドーレで小柏も言ってました)ポジティブなイメージを持っていましたが、ミシャがいなくなるとみんないなくなるのかなーと、そんな感想を抱いてました。ただ、高嶺のうるせーの話を聞くとまた違うのかも知れませんね。単純にネガティブポジティブの話でもなくて、若手は自分の未来に描いた絵があるならば、それ相応に努力してもらうのもありかなとは思いますが、監督の話を聞けない聞かないチームがどうなるかもあるので、やっぱり個人的にはミシャはもう厳しいのかなと思っています。

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    1. 我々のビジネスや学業も同じですが、成長するには何らか自分に厳しく要求しなくてはならなくて、それは自分自身でどうにかするか、(スパルタ教育的とかも含め)周囲によって厳しい環境を作られるか、というところだと思います。
      それでいうと、ミシャは厳しい要求をしているとは見えなくて(それは態度とか接し方だけでなくて、プレーに関して本当に高い水準を要求しているというより、基本的に得意なことを好きにやらせようというスタンスに見える)、かつ札幌はあまり選手の入れ替えがないので年々「要求水準が厳しいチーム」から離れていくし、浦和の末期でガタっと失速したのもそういうことなのかな、と思ってます。

      高嶺の件に関して言うと、この話の延長線上とも言えるのか、今、森保監督のチームが現場任せとか一部で言われてますけど、ミシャもそれに近いというかある種、選手を信頼して任せている部分が多い。「うるせー」は自分で判断していることの現れでもあるし、求心力みたいなのもそこまでないのでは、というのも一面正しいんじゃないか、と勝手に思いました。

      >やっぱり個人的にはミシャはもう厳しいのかなと思っています。
      選手を常に入れ替えて緊張感を保てるならいいですが、札幌でこのやり方はちょっとヌルすぎるかなぁと私も思ってます。特に、クラブとしては若手主体で行きたいみたいですが、若手は態度とか接し方というより、どんどんプレーの要求水準を上げて成長を促すタイプの監督スタッフの方が良さそうに思えます。

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