2021年8月26日木曜日

2021年8月25日(水)明治安田生命J1リーグ第26節 北海道コンサドーレ札幌vs名古屋グランパス ~頻度主義の罠~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • スタメン表記はお互いのボール非保持の際の配置がベースです。丸山、木本、そして期限付き移籍のキム ミンテを起用できない名古屋は、ボール非保持は3バックを採用。森下が最終ラインと2列目を行き来して調整栓を担います。そして前線には、シュヴィルツォクが初のスタメン起用。
  • 札幌は柳が初スタメンで、こちらは何故かミンテを放出したことで勝手に手薄になった最終ライン右に起用されています。

いいとこどり:

  • まずお互いの配置がポイントです。名古屋はCBの不足もあり、メンバー的に、自陣ゴール前では5バック気味の陣形を採用することはスタメン発表時点で予想できました。狙いは明白で、スペーシングに難があり最終的には強引な放り込みや中央突破になりがちな札幌のオフェンスに対し、とにかく中央の、札幌が使いたいスペースを塞いでミスを誘発したかったのでしょう。また1-3-4-2-1なら、マテウスを通常よりも前に配置できるので、カウンターの際に彼が前残り気味から常に仕掛けられることと、そしてプレーエリアを限定せず自由に動きたがる選手特性をカバーしやすい、というメリットがあります
  • 一方で、キックオフの際はシュヴィルツォクと前田の2トップ気味の陣形でスタート、マテウスは画面手前、左サイドで柳と対峙します。これは札幌が自陣でボールを保持する際は少なくとも開始10分ほどはこの形で、恐らく最初から5バックで引いて消極的になりすぎないようにしたいとの意図だったかと思います。
  • 前線から圧力をかけたい時は、後ろの人が多くなる5バックよりも1-4-4-2の方がバランスよく人を配置でき、札幌に対してのかみ合わせも悪くない(札幌は1-4-1-5なので、5バックで合わせたくなるが、そうすると後方の4-1とのかみ合わせが悪い)ので、名古屋はこうした”いいとこどり”をしたシステムで臨んできました。
お互いの基本となるシステム
  • 名古屋の1-4-4-2は両翼に特徴があり、本来SBの森下と、攻撃の絶対的中心であるマテウスの選手特性およびタスクによって、森下はどうしても下がり目でバランスを気にしながら振る舞う。
  • 背後を吉田がバックアップするマテウスは、よりアグレッシブな振る舞いというか、柳を意識するのがマテウスの主な守備タスクで、柳がルーカスフェルナンデスを追い越す、古典的なSBっぽい振る舞いをするとマテウスが戻って対応しますが、柳がそこまで高い位置をとらないときはマテウスも前残り気味で、パワーをセーブできる。ボールを回収した後は、前線のシュヴィルツォクと前田(撤退時は福森を監視で、シャドーとトップ下の中間のようなタスクになる)に加え、カウンターに参加しやすいマテウスが早い段階で絡み、やはりマテウスのプレーエリアで最終的に解決する(というか、柳に対して勝負する)展開が主でした。。

  • 札幌については、ボール保持は1-4-1-5、非保持は相手のシステムに合わせるのはいつも通り。この日は小柏とジェイの2トップ、金子がインサイドハーフ。
  • そして名古屋の前田がトップ下、2列目というよりも前に張る意識もそこそこありそう(札幌が3バック/5バックでありたいなら、2トップ気味にぶつけた方が嫌がるのは、スカウティングをまともにやっているチームなら気づくはず)で、高嶺は最終ラインに下がっての対応を強いられる時間が少なくありませんでした。

2.試合展開(前半)

5バックのメリットと狙い目とは?:

  • 開始10分ほど、様子見が終わったら名古屋は1-5-4-1で引き気味になる局面が増えます。ですので、ちょうどいい質問をもらいました。
  • 質問に対する回答にも書きましたが、5バックは一言で言うと「横に人が多い」。5人のDFがボール周辺に集まっているわけではなくて、ボールサイドに1人、そのカバーで1人。ボールサイドにはせいぜい2人。後は中央なり反対サイドを守っているので、ピッチを横切る長いパス等でそこを割ろうとするプレーや、所謂サイドチェンジに強い(スライドを必死こいて頑張らなくても追いつける)のがメリットだと思います。
  • ですので、実は4バックだろうと5バックだろうと、ボールサイドで有効だとされるアクションは、実はそんなに大差がないと思っています。大前提として、ピッチの横幅を使うことは相手が4だろうと5だろうと重要です。
  • まず大外のウイングが張って1on1の構図を作る。そしたら相手の5バックの大外と、その隣の選手の間は空くからそこに1人走らせる。空かない(隣の選手がカバーに来る)なら横にボールを動かして相手のDFを横断してから、また同じことを繰り返すか、空いている人の間を狙う。
  • そしてDFラインがどれだけ低くても、通常このラインはペナルティエリアの外に設定されるので、サイドの深いところに侵入すれば、DF-GKの間には平行~マイナスのクロスを速いグラウンダーのボールで通すだけのスペースがある。余談ですが、かつての代表監督・ジーコはクロスボールのことをよく「パス」と言っていて、当時はDFの頭を超えるボールが大半だったんですが、ジーコのイメージも、もしかしたらこうした平面の”パスコース”をイメージしていたのかもしれません。知らんけど。
5バックでも4バックと狙い目はさほど変わらない
  • ですので、ペナルティエリアの角付近(ハーフスペース)で、かつサイド深くに侵入するのが有効だとされるのは、そこにフリーの選手がいれば速いクロス、ファーへのクロス、マイナス方向へのクロス、場合によっては自らシュートといったオプションを多く持てるからです。これが大外レーン(タッチライン付近)であれば、シュートや早いクロスは難しく、だいたいはDFの頭を超えるクロスボールになります。
  • また、大外にウインガー、ハーフスペースに”偽SB”の、流行りの配置は、偽SBがハーフスペースに突っ込むだけではなく、サイドでウインガーが突っ込んでストップされた時など、サイドを変える役割を担うために、ウインガーの斜め後ろにいるのが効果的だという考え方になります。よくフットボリスタなんかで「5レーンで攻撃している」「守る側も5バックだから5レーンを埋める」とか単純に書いてますけど、重要なのは人の運用をどうするかで、レーンとか配置だけでは語れないところがあります。5バックでも空くところは空きます。

  • もっともこれ以外にも、基本となる考え方として、ウインガーが仕掛けるにせよSBがフリーランするにせよ、相手のマークを受けていないとか周囲にスペースがあるといった状態…とにかくスペースが与えられている状況を作って仕掛けさせることが重要で、そのためには各々が簡単にボールを手放す(往年の河合竜二キャプテンのように)のではなくて、ボールを持ったら相手をまず引き付けて、動かしてスペースを作ったら次の味方に渡す、を徹底する必要があります。

何故名古屋の5バックを崩せないのか?:

  • 結論から先に申しますと、札幌にはボールを持ったときにどうプレーする、という”共通認識”がないからです。ヤンツーこと柳下正明監督風に言うと、「同じ絵を描けていない」からです。
  • 共通認識とは、「ピッチ上がどのような状態の時に(いつ、どこで、誰が:どうなったときに)どのようなプレーの選択をするか」という判断基準とでも言いましょうか。
  • もっとかみ砕いて言うと、相手が滅茶苦茶ラインが高くて鈴木武蔵が最前線で準備ができている状態なら裏に走らせるパスを出しますよね。武蔵は裏にトップスピードで走る。この状態は武蔵と出し手で共通認識があると言えるでしょう。もっと言えば、武蔵は裏に走る前に、裏を狙えるようなポジショニングをする”準備”が必要で、この準備段階から共通認識が働いているとも言えます。

  • この試合から、具体的なプレーを切り取って説明します。
  • 名古屋が1-5-4-1気味に引いていたとする。高嶺と田中駿汰の前にはスペースがあり、ここはドリブルで運ぶ…Conducción(コンドゥクシオン)で、名古屋の選手が誰か出てくるまで引き付けることが推奨される。なお高嶺のConducción(コンドゥクシオン)はこの日は良かったと思います(「この日は」というか、ムラがある選手だなとは思いますが)。
  • 高嶺が持ち運んで相手を引き付けている…広義の「ビルドアップ」をしていますが、これの最終目標は「ゴール前でフリーかフリーに近い選手を作ってパスしてシュート撃たせる」です。言うまでもなく。そして誰に撃たせるかと言うと、言うまでもなくこのスカッドでは、ノースロンドン生まれのライオンハート・ジェイボスロイドになります。

  • ▼の図だと、福森や青木が絡んでいますが、全て、本来はジェイがシュートを撃つところから逆算したプレーになっている必要があります。仮にこのようにプレーすると、高嶺と福森が名古屋の選手を引き付けて青木が抜け出す。そして青木にDF(宮原)がカバーに来ますが、スペースがあればブロックされる前にクロスボールの供給が可能です。
  • ここまではいいんですけど、札幌はこの日、ジェイがゴール前にいないことが多くて、何してるかというとだいたいボールを受けに下がったりサイドに流れたりしていました。それ自体は意味を成すときもあるのですが、vs名古屋として見ると、名古屋は札幌相手にはゴール前のスペースを消しとけばいいという守備の共通認識があるので、札幌が攻撃に時間をかけると、名古屋は枚数が揃って(稲垣や米本が戻って)スペースは消失します。
共通認識がないと選手の振る舞いがかみ合わない
  • ですので、ここもまた共通認識の話になるのですが、「サイドから崩そう(クロスでフィニッシュしよう)」という次元の話とは別に、「名古屋がスペースを消す前にフィニッシュに持ち込む必要がある」という共通認識があって然るべきで、それならジェイは下がったりサイドに流れたりしている暇はなくて、ボールが来なくてもゴール前でスナイパーとして少ないチャンスを待ち構えている必要がある。
  • 図は青木ですけど、右にルーカスフェルナンデスが先発していて、このサイドで一定のチャンスクリエイトができるはず(対面がクロち…吉田であっても)なのに、札幌にチャンスらしいチャンスが少なかったのはこうした共通認識のなさによります。

  • よく野々村社長はラジオで「チャンス構築率は高い」という謎の指標(おそらくfootball labを見てるんでしょうけど、どうやって算出しているのかも不明)を持ち出しますけど、ルーカスや青木に渡った時に本当にチャンスらしいチャンスになっていたか、という点では、疑問が残るものだったと思います。

妥当すぎる活躍:

  • 30分だいたい札幌がボールを持つも、攻めあぐねる展開から名古屋が先制します。
  • DAZNで見返すと、名古屋が札幌のマンマークを剥がしながら右サイドで前進、森下のグラウンダーのクロスを田中駿汰がカットし、稲垣がセカンドボール拾って米本→マテウスと渡るところから始まります。
  • 森下が札幌陣内深くに侵入したことで、札幌はルーカスフェルナンデスが最終ラインまで下がって対応。結果論ですが、ルーカスが下がっていたことが”仇”になって、名古屋が横パスでマテウスに渡った時にルーカスが対応して”しまう”。というのは、それまでの30分間は柳がマテウスに上手く対応していて、速さと強さ、足元の技術を兼ね備えるマテウスに対して身体をぶつけながら、加速して危険なエリアに侵入することを食い止めていたと思います。
  • 案の定というかこのゴールの数分前にマテウスと福森がマッチアップした時は、福森は一瞬で置いていかれて内藤哲也選手仕込みの、のど輪でマテウスにファウルを繰り出すしかありませんでした。
  • 札幌の左右のDFのタスクはほぼSBになっていて、田中駿汰や福森よりも柳のようなタイプが適任だと思うのですが、その意味では柳の奮闘は予想通りだったと思います。

  • その後もだいたいボールは札幌が持っていて、野々村社長が「チャンス構築率は~」と言いそうな展開が続きます。が、45分、小柏の縦パスをルーカスが中央でフリック。これが名古屋の選手に当たってトランジション→シュヴィルツォクのポストプレーから前田が抜け出し…
  • 感想としては、まず長い距離を走って正確なプレーをする(しかもダイレクトでのシュート)は非常に難しい。その意味では稲垣の冷静さと技術が勝った、とも言えます。
  • それとは別に札幌の”落ち度”みたいなのを言うと、ルーカスのフリックから始まっていて、ミシャは長年このフリックなりワンタッチプレーが大好きなんですが、トラップしてパスするのではなくて味方を見ないでワンタッチで流すプレーは本来、成功率が低い。それを名古屋が中央を固める中で繰り出すのは地獄への滑走路みたいなもので、サポーターの中にもワンタッチプレーが決まるのが好きな人はいると思いますが、ぜひこのプレーを見返してほしいと思います。


3.試合展開(後半)
  • 0-2となって、オフェンス面のテコ入れをしたいのはわかります。ただ奮闘していた柳を後半開始からバッサリと替えてしまうあたりが天才監督ミシャでしょうか(荒野と交代、半分本気で言ってます)。
  • 厳しいのは、田中駿汰を右に回さないといけないところで、ここは確かにフリーになりやすいので球出しの起点になれる選手を置きたい。けどマテウスを止めることも必要で、駒井じゃ厳しいのはわかりますが、田中駿汰を中央から動かして、高嶺とシュヴィルツォクのマッチアップを作っているのはどうなんでしょうか。あと荒野にも本来こういう仕事をそろそろ期待したいのですが、田中駿汰とは明確に区別され、中盤で暴れるだけの選手に再び戻ってしまうのでしょうか。
  • 後半は札幌が選手とポジションを入れ替えながら相変わらず雑に攻めてるなぁ、という感想でしたので、この辺で締めさせていただきます。

4.雑感

  • 前に書いた通り、名古屋は個人能力というか1on1に強い選手が多い。ただ、それでもやりようはいくらでもあるはずなのですが、結局は最後にボール支配率とかシュート本数とかクロス回数は上回ってた!とする、謎の頻度主義みたいなものを誇るしかない試合だったなぁと思います。まずストライカーをゴール前に置く、シュートさせる形を作るところから、回数を追い求めるよりもそっちでしょうか。
  • それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿