2021年8月14日土曜日

2021年8月14日(土)明治安田生命J1リーグ第24節 北海道コンサドーレ札幌vsFC東京 ~けっきょく たてぽんが いちばん つよくて すごいんだよね~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 東京は森重が累積警告による出場停止から復帰。トップはディエゴ オリヴェイラが欠場ですが、前節の負傷の影響とみられます。
  • 負傷者による右SBの人材難のため、左にバングーナガンデ(長いので以下カシフ)が入り小川が右にスライド。ただ、秋田から獲得した鈴木がベンチ入りしています。
  • 札幌は前節に続いて中央に深井。ルーカスが出場停止、チャナティップは特に情報なしですが欠場で、高嶺を入れて荒野を上げる選択もあったと思いますが、好調の青木が2トップの左/左シャドーの役割に入ります。

2.試合展開(前半)

定石通りと無策:

  • 試合は開始10秒のアダイウトンのシュートでオープニング。まだ展開が固まらない中で2分、そのアダイウトンが、札幌の試合開始直後の意図がよく見えないプレー(金子がとりあえず中に放り込んでおくような選択の緩いパス)のセカンドボールを自陣で拾って、そのまま50m爆走からのレアンドロとのワンツー。こう書くと簡単に見えますが超人的な運動能力の賜物のようなゴールで東京が先行します。
  • 東京陣内での札幌は、いつも通りあまりリスクヘッジを考えていないので、田中駿汰が一人でどうしろ、というのはちょっと難しかったと思いますが、以降もこのアダイウトンと田中駿汰のマッチアップがゲームの最大のポイントとして、選手が退くまでは存在し続けます。

  • 味スタでの4月の対戦でも、渡辺の退場後に左WBにシフトしたアダイウトンに徹底してボールを集めること(&札幌の何がしたいのかわからない試合運び)によって、試合の流れを引き戻した東京。この日は、アダイウトンは最初から左サイドに張って、縦への突破もそうですが、まず身体の強さを活かしたターゲット役として札幌に問題を突きつけます。
  • FC東京の3トップに対し、札幌は3バックで一人ずつマークを決めて対応するのが基本方針なので、アダイウトンの担当は田中駿汰。しかし田中は、最初からアダイウトンにぴったりつくのではなく、↓のように、中央のスペースをカバーする役割もあるので、アダイウトンがタッチライン際に張ると両者には距離が生じ、攻撃側が加速するだけのスペースが生じます。
アダイウトンvs田中駿汰で後手に回る札幌
  • 三笘を完璧に止めた田中駿汰ですが、速さと強さを兼ね備えるアダイウトンには苦戦します。ここで1人で止められないと札幌のマンマーク基調のディフェンスの前提は崩れ、深井や金子、宮澤がカバーに動かないといけなくなり、中央のレアンドロや田川のマークがズレて彼らがボールに関与できる展開になります。
  • この構図は、札幌にアダイウトンを止められる選手が出現することはなかったので、運動量が落ちる後半まで(というか交代で退くまで)続いていました。

アベノディフェンス:

  • 上記はボール保持の際の展開を意識していますが、どちらかというと、長谷川健太監督のFC東京の真骨頂は所謂「ボールを捨てる(相手に持たせる)サッカー」。おなじみのメンバーを並べて”出たとこ勝負”感が強い札幌に対し、スカッドを活かす明白な狙いを持ってプレーしていたと思います。

  • 前半、札幌がメインスタンド側、右の宮澤→田中のサイドでボールを運ぼうとするときの構図です。宮澤&深井だと、菅野も含めて右利きが多いこともあって、福森が左にいようとそこそこの頻度で右サイドからの持ち運びが見られます。
  • 宮澤や深井に対しては東京はあまりプレッシャーをかけない。この時、宮澤はどこまで持ち運べるか見極めながらのプレーですが、2トップがあまり自分に来ないなら、「見極め」の対象は2列目のアダイウトン(反対サイドなら東)になります。
  • この時のアダイウトンの振る舞いは、宮澤に突っ込むのではなく、わざと中央のパスコースを空けるような立ち方をしている。これは中央を空けると共に、右の田中へのパスコースを遮断して中央方向へのパスを誘導しています。
  • アダイウトンのこの振る舞いは、FC東京は札幌相手に中央でボールを狩れる、という前提に基づいている。図ではマッチアップが落ちてくる駒井vs安部ですが、実際にこの形から安部のボール奪取→前残り気味のアダイウトンでカウンター、という場面もありました。
中央に誘導して奪ってのカウンター
  • 駒井は本来中央の選手ではないこともあって、ボールに寄ってくるものの効果的な働きがあったかというと微妙で、深井→青木はこうも簡単に罠にかかることは少なかったですが、左サイドでは東京の狙い通りの形だったと思います。

持たせるスタイルのアキレス腱:

  • 札幌の選手が、東京相手に最初から中央を使って展開するのは難しそう、とゲームの中で気づいたかは定かではないです(多分気付いてもチームとしての振る舞いは簡単に変わらないんじゃないかと)が、もともとこのチームは最終ライン→WBのサイドチェンジ?ロングフィード?によるパターンは持っている。中央での問題が解決されない限り、必然と、札幌のチャンスというか突破口はこの「WBにさっさと渡す」形からの仕掛けに絞られていきます。
  • 東京は、ニュートラルな状態では横幅4枚の4-4ブロックでセットする。ですので福森がよくやる、きわめて質の高いサイドチェンジのようなボールが配給されると、反対サイドはスライドが追い付かなくて十分に仕掛けるスペースを得られます。
  • 右の金子に対しては、ボールが渡ると左SBのカシフがスライド。ただ、東京の選手全員がスライドやプレスバックをしきれるわけではなく、またCBは中央から動かないので、カシフは金子についていてもその背後は空きます。
  • ですのでカシフが金子をどれだけ止められるか(反対サイドの小川と菅の関係も同じ)が、アダイウトンvs田中のマッチアップと同じようにポイントになる。両監督とも、カシフと田中にはそれぞれ対面の選手をなんとか1on1で対処してくれ、というタスクを与えているといえます。

  • ただし、時間をかけると東京は全員でプレスバックして、ペナルティエリア付近に8人が戻って守る。アダイウトンがサイドでダブルチームに行ったり、スペースは安部が埋めたりと役割分担も決まっているので、札幌は金子に渡った後は迅速に仕掛けてくれないとアドバンテージが消滅します(この話も何度も書いてます)。特にトップに高さのある選手がいないならなおさらです。
時間をかけなければ突破口アリ
  • このマッチアップの結果は、金子の縦突破からの右足(逆足)クロスは、最終的に処理するのが長身のGK波多野ということもあって殆ど脅威にはならない。しかし金子がきき足の左足にボールを置くプレーに特化すると、カシフでは全て抑えきるのが難しそうな雰囲気が出てきます。
  • 結果的には41分、「すぐにサイドチェンジでWBに渡す」ではないですが、アダイウトンが戻り切れないシチュエーションを作って金子の仕掛けから、波多野がファンブルしたボールを小柏が詰めて1-1。

  • が、直後にミシャが「もったいない」と嘆きますが、バックパスをかっさらわれて最後はゴール前でアダイウトンの急加速に対応できず、東京のリードで折り返します。

3.試合展開(後半)

ジェイ投入のメリット:

  • ハーフタイムに札幌が動きます。荒野→ジェイ、深井→高嶺に交代。深井は最後、挨拶にもいなかったので負傷か?との声がありましたが、戦術的な観点でも「相手はボールを持たせてくれるので、ボールを持つ展開を作るのは容易なので、持った時の選択肢を増やしたい」という意図でジェイを投入することが重要だったのではないでしょうか。実際、東京はジェイと対峙するシチュエーションでも、さっさとボールを手放してくれるので、「札幌のターン」が後半立ち上がりからは続きます。
中央のジェイとシャドーの小柏のユニット
  • 東京に対して効果的だったのは、ボール保持時にジェイが頂点、小柏が右シャドーとなるこの2人のユニット。ジェイは2017年シーズンに味スタでのゲームで英雄的な活躍がありましたが、以降はCBにパワフルな選手を置く東京相手にあまり本領発揮できずにいました。
  • 東京は近年一貫して、4バックのCB2人がいずれも中央から動かない対応で、ジェイはこの2人を相手にする構図ですが、逆に言えば、ジェイが中央に立っているだけで東京のDFはポジションが固定される(ピン止めされる)ので、その脇にできるスペースは使いやすくなるとも言えます。

  • ここで右シャドーにシフトした小柏の特徴が発揮されます。駒井はどうしてもボールを求めて下がってしまうのですが、スピードと得点力のある小柏は前線で勝負できるタレントを持っている。簡単に下がらず前線で隙を伺います。
  • 東京は前半同様、金子にカシフがついてくる。すると中央から動かないCBとカシフとの間にスペースができるので、小柏がここに走るだけで東京はこれまで通りの対応ができなくなります。これは今更書かなくても4バック攻略の定石ですし、ミシャはずっとこれで勝ってきたと思うのですが、この役割ができない駒井のシャドー起用を気に入っているのはよくわかりません(七不思議に入れるほどではないですが)。

けっきょく たてぽんが~:

  • それでもゴールを奪うには、中央のジェイと森重&渡辺のマッチアップをシンプルに突くよりは、ちょっと工夫が必要(そうしないと跳ね返される)のですが、そういう工夫とか考えなくてもいいじゃん!になってしまうのが福森のやばさでしょうか。50mほどの高速フィードに小柏がうまく抜け出し、森重&渡辺を横切るラストパスで勝負ありでした。こんなの福森がいないと無理で、本来はもっと小柏に近い位置から、東京のDFを引き付けた状態で配給する必要があるんですけど、最強の飛び道具がここで真骨頂を発揮します。

  • スコアが2-2となって東京は55分に田川→永井、カシフ→鈴木。金子のサイドの対応で小川を左に移したのと、永井は予定通りというか勝負どころでのジョーカーなので驚きはないでしょう。
  • その後も東京はアダイウトン中心に速攻で勝負。札幌は、後半から入った高嶺はここのカバーリングを心がけるような指示があったかは分からないですが、田中1人では手に負えないので一定の仕事を担っていました。
  • 東京がいまいち波に乗れない、すなわちまだ札幌のターンが続く64分、駒井のサイドチェンジ(また長いボールでしたね)から福森のクロス。ジェイが胸で落として青木へのラストパスとなって3-2。空中で難しいことをやってますが、これも本来このチームが得意とするパターンでした(ほんと久々に見ましたね)。
  • その後は互いにカードを切りますが、札幌は75分に金子→柳でクローズ(もっともほかに起用できる選手がいないのもありますが)。早めの判断で、試合を終わらせるというか籠城作戦に移行しますが、カウンターは得意だけど引かれると厳しい東京相手には菅野のビッグセーブ(いつも通り)もあって逃げ切りに成功しました。

4.雑感

  • 「勝てばよかろう」なのでしょうか。
  • 前線で勝負できる選手や、決定的な仕事ができる選手が基調なのは言うまでもない。
  • ただ、それらを並べてはい終わり、ではなくて、個々のタレントがどういうシチュエーションを作れば活きるか、を考えて設計する必要があるのですが、札幌の”タレント”は特殊で、いるだけで形がなくても得意なプレーがさく裂すればそれだけで何とかなってしまうような選手がいる。ミシャ体制4年間でも結局試合を決める選手とそのパターンは、良くも悪くも一緒で、結局そこに頼りがちな印象は常にあり、そして選手は4つ年を取って、一部の選手は明らかにキャリアの下り坂に差し掛かっています。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

3 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。
    クロップは被カウンターの時は、まずペナ手前でブロックを形成してボックス内でシュートを打たせないことを第一にするんですが、
    このチームは被カウンターの際にディレイする意識は感じますが、後方部隊は何がしたいのか不明です。
    1失点目で荒野福森が突っ込んじゃうのは個人の問題で済ませていいんでしょうか。
    菅もマークを捨てるかどうか迷いながら戻っているので最後間に合わなかったように見えます。
    チームで人を守るか場所を守るかの優先順位を決めてないからこうなるんじゃないの?って思います。
    被カウンター局面でチームとして整備された何かがあるように見えますか?

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    1. 被カウンターで考えると、
      ① どこのエリア・局面で対処する(即時奪回を狙うか引いて整えるか)、
      ② ①を踏まえたうえで相手をどう誘導するか、
      ③ 人をどう動かす・運用するか(マンマークとかゾーンとか)、
      みたいな整理ができると思います。

      それでいうと、
      ①については、川崎みたいな警戒しているチーム相手には引く意識が高いと思いますが、基本、即時奪回で考えてますね。相手が持っている時にハイプレスしたがるのと一部共通項がありますが、基本的には高い位置で奪って速攻(トランジションの応酬)なり、無理ならボールを回してマイボールの時間を作りたいんだろうなと思います。
      ②については、これが個人の力量によるところがデカくて、一番未整備だと感じます。

      >チームで人を守るか場所を守るかの優先順位を決めてないからこうなるんじゃないの?って思います。
      ⇒これは③に関係する話で、良し悪しは別にして、基本的には人ですね。コンサドーレは20数年ずっとそう。ミシャもここはクラシカルなスタイルだと思ってます。


      その上で今回の事例については、

      >1失点目で荒野福森が突っ込んじゃうのは個人の問題で済ませていいんでしょうか。
      ⇒荒野はどこですかね、最初の、相手ボールになった瞬間を指してますかね?
       どっちかと言うと、この局面は、いつも言ってますが、「前線にジェイみたいな絶対勝てる人がいる前提の、雑な放り込み」を敢行して、跳ね返されてからの展開なので、相手ボールになった後どうする?よりもまずこんな雑に相手にボール渡してんじゃねえよ、って思いますね。
      荒野よりも金子がロスト後に突っ込んでますが、この辺は確かに「個人の問題で片づけている部分」と、個人の問題で片づけてはいけない部分が同居しているなと思います。

      ▼次からが主に②の話になるんですが、
      どっちかというと1点目で、相手ボールになった後の対応で気になるのは、金子がアダイウトンに並走して、アダイウトンが切り返しからレアンドロに出すまでの数秒間で、宮澤?と金子の2人でアダイウトンの爆走をまったく制限できてないんですよね。
      宮澤は多分、田川がサイドに流れて、その動きにつられたんですけど、サイドの選手は一旦無視していいじゃんってのもありますが、結果論になっちゃうんですけど中央をアダイウトンとレアンドロで割られてるんですよね。これが致命的で、絶対中を割られないような立ち方をしないといけない。
      宮澤については、田川にくっついてて対応がそもそも送れてるのと、あと多分金子がアダイウトンに追いつけると判断したんでしょうかね。

      それでも、金子・宮澤、ひいてはチーム全員に言えるのは、相手の特徴も踏まえて、中央を固めてサイドに誘導するとか、クロスボールで終わるのはOKにするとか、ライン上げてGKにカバーしてもらうとか、縦を切って中央でボールを狩る選手を用意しておくとか、相手の攻撃をどう誘導してどう処理する?ってのが全然見えないんですよね。
      もっともこの時だと、アダイウトンみたいな選手が爆走すると対処は難しいんですけど、普段からこういうことを意識してたら簡単に中は割られないなと思います。
      この点で、ミシャが言っているZweikampfって、本当に人と人のフィジカルコンタクトとか、ボールを引っ掛ける技術とかそういう断片的な部分だけで、必要なことが抜けてるんじゃないかなと思ってます。

      なお多分リヴァプールは、あまり見てないけど、アリソン、マティプ、ファンダイクetcならハイクロスには強いはずだからそういう誘導になると思うんですよ。

      >福森が突っ込んじゃう
      ⇒今回は福森はしょうがないかなと思います(やれることが殆どないし深井?と被ってるけど、ここは判断が凄く難しい)。

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  2. 丁寧にありがとうございます。

    コンサドーレは奪えないなら割り切って守ろうぜというやり方がないです。
    人数はいるのに真ん中割られるのは個人のせいには思えないので質問しましたが、やっぱりそうだよなぁ・・・。

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