2020年7月9日木曜日

2020年7月8日(水)明治安田生命J1リーグ第3節 鹿島アントラーズvs北海道コンサドーレ札幌~錆びない牙~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果
  • 札幌はターンオーバーが少ないのは想定通りでしたが、替えてくると予想した右サイドも白井が前節に引き続きスタメン出場。2018シーズンのGWの鳥栖戦もそうでしたが、替える時に一気に入れ替えるやり方になるのでしょうか。なお、横浜FCと川崎も今節はターンオーバーなしで、一方ベガルタ仙台は7人を入れ替えています。
  • 鹿島は前節Jリーグデビューを果たした染野が初スタメン。他は内田が予想通り休養した以外は前節と変わらずでした。

※両監督の頭の中を予想する は、今回は省略します。

1.基本構造

1.1 自信と信頼が仇に

  • 鹿島はやはり、自陣まで引き込んでからボールサイドで1人ずつ人を捕まえる対応をとります。札幌の選手1人1人が鹿島の選手に捕まえられる格好になりますが、サッカーは自由にポジションを変えていいので捕まったら動き直せばいいわけです。
  • しかし、福森が染野に捕まる状況から札幌には問題が生じていました。福森はキッカー、出し手としてはJリーグでも最高峰の選手ですが、染野に正面に立たれると、自由に蹴ることはできなくなります。染野を外すために福森が動きなおせばいいのですが、福森は札幌で絶大な信頼を得ていることもあって、序盤はこの福森のポジションを操作する作用が全く見られませんでした。
  • 特に、チャナティップはその選手特性上、ボールに近寄ってプレーすることが多いのですが、チャナティップが寄ってきて福森周辺のスペースが狭くなると、困難な状況は更に増します。それでもキックに自信のある福森が、狭いスペースを通そうとしてチャレンジパスを狙いますが、それを引っ掛けて鹿島の速攻が発動…という展開が序盤から続きました。
染野に前に立たれた福森が捕まったところからボールを狩られて鹿島の逆襲に
  • この、難しい状況からでもチャレンジパスを狙う福森の背後は、鹿島にとって狙いどころとなります。鹿島はボールを回収すると、福森の背後、深井がカバーするスペースが空いていればまずそこに人を走らせます。開始直後にはエヴェラウドが切り返して左足シュート、5分にはアラーノが深井を振り切ってグラウンダーのクロス。いずれも福森の背後から生じています。

1.2 札幌のアラーノ対策

  • サッカーの監督には少なくとも2パターンいると思います。1つはミシャのような、基本的には「自分たちのサッカー」を重視するタイプ、もう1つはスカウティング重視というか、相手に合わせる傾向が強めのタイプです。試合中の選手交代が巧いのは後者に多く、前者は多少機能していなくても、セレクトした11人を信じる傾向が強いと感じます。札幌でのミシャは、「絶対に分が悪そうなゲーム」ではいつもと違う策を持ってきますが(相手がアンカーを置くチームなど)、普段はそこまで相手に合わせた試合はしません。
  • が、この試合では札幌は明らかに、鹿島の特徴に合わせた守備シフトを敷いていました。それが図示すると以下で、縦関係になる鹿島のアラーノとエヴェラウドに対し、深井を最終ラインの前に置いてアラーノを監視させるやり方を採用していました。
深井が下がってアラーノを監視するかみ合わせに
  • 札幌は行ける時にマッチアップを合わせてハイプレスをしたい、という志向は持ち続けています。この点で、レオシルバか三竿が下がって3枚でボールを保持する鹿島のやり方は好都合でした(札幌相手にこれをやるのは、永戸を高い位置に置きたいとの思惑だったのかもしれません)。これで前はマッチアップが合うとして、後方も深井を下げることで枚数を合わせてマークのズレが生じなくなるようにしていました。
  • ボールを動かすにはスペースが必要です。鹿島は下がった位置からスタートするアラーノが、ビルドアップが詰まりそうな時に前線のスペースに走ってボールを受けようとします。特に、ポジショニングが不安定で、前への意識が強く、カバーリングもあまり迅速ではない福森の背後は狙い目で、右利きのアラーノがここに流れて右足クロス、という形は狙っていたと思います。ここがずっとがら空きだと、札幌は宮澤がスライドしてカバーすることが多く、そうなると中央でエヴェラウドのマークが外れた状態でクロスで勝負されてしまいます。が、この日は読みに長けた深井が、膨らんで走りながらサイドを狙うアラーノを常に予測しながら監視し続け、一番のウィークポイントである福森の背後を守り、また全般に問題をきたすマークずれが生じないようにバランスを取り続けていました。
    アラーノがサイド(福森の背後)に走っても深井がカバー

2.役者が残っていた頃

2.1 先制パンチ

  • 札幌ボールでキックオフ。鹿島は自陣まで撤退し、速攻を狙う展開になり、序盤は札幌がボールを保持し続けます。
  • キックオフ直後、開始10秒ほどの1stプレーから早速「1.1」で示した現象が生じます。札幌は深井と宮澤がボールを保持し、ドリブルしながらアラーノとエヴェラウドを動かし、次にボールを受ける選手がプレーしやすいスペースを作ろうとします。しかし次の受け手…福森が封じられているのでそこから先にボールを運べない展開が序盤から続きます。
  • 一方、ジェイえもんのポストプレーがこの日もチームを助けます。前節の記事でも書きましたが、札幌の3つの神器のうち左サイドの2人(福森、チャナティップ)が難しそうな中で、ジェイは序盤からボールを収めてゲームを作っていました。
  • 札幌が保持して鹿島が速攻を狙う局面が3度ほど続き、6分。宮澤が裏に走る武蔵へ浮き球のパス。武蔵がGKクォンスンテと1on1になりますが、抜群のスピードでボールに追いついて浮かしたシュートで先制点を奪取します。なかなか実践では決まらないパスですが、狙い続けることが大事だと示しました。
  • スコアが動いた後も札幌がボールを保持する展開が多くなります。宮澤と深井がペースをコントロールする札幌は、攻め急がずにボールを回していたと思いますが、ゴール前では早いタイミングでのクロスを狙っていたと同時に感じました。鹿島のCB、犬飼と町田はセットした状態では強いので、4バックvs5トップの枚数のミスマッチを活かして、クロスを上げられるタイミングでは早めに勝負するという思惑があったのかもしれません。特に右からの、白井や進藤のクロスが目立っており、13分の白井のクロスに武蔵のヘッドは惜しい場面でした。
  • スコアが動いた後の鹿島のチャンスは17分、奪ってから、この時はエヴェラウドは左に流れてクロス。宮澤に当たったボールは宙に浮いて染野が詰めますが、菅野がセーブ。エヴェラウドが流れても、札幌はしっかり宮澤がついており、「1.2」の通り深井の役割を変えてマークを固定していた効果が出ていました。
  • が、20分に札幌にアクシデントが発生します。自陣でボール回収から、前方のスペースにボールを運んでいた武蔵が筋肉系の違和感で大事をとって交代。シャドーには駒井が投入されますが、札幌はゴールに直結する代替不可能なリソースを失います。

2.2 前半の終わり方

  • 上記の武蔵が離脱し、駒井が投入される間に給水タイムがありました。明確に指示があったかは微妙ですが、駒井が入って、札幌はジェイ1人を最前線に置き、駒井とチャナティップはその後方を守る形に徐々に変化していったと感じます。特にジェイが深追いしても、駒井は付き合わずに常にステイして、その次の受け手となる選手(レオシルバら)をケアする慎重な対応をしていました。
  • あまり落ちずに前を狙う武蔵と違い、駒井はチャナティップのようにボールサイドで落ちてきます。これは前に出たい進藤と相性がよく、42分には駒井が落ちて、白井が中継して進藤のオーバーラップからチャンスが生まれました。
  • そして武蔵を失ったことで、29分の場面は典型でしたが、前方のスペースを使って一気に陣地回復をすることが難しくなります。もっとも、鹿島はビルドアップの際の受け手を全員捕まえられている状態で、札幌からどこかでボールを奪取してのカウンター以外に効果的な形が作れなさそうではありましたが、武蔵を失ったことで、徐々に鹿島が札幌ゴールに近いエリアでプレーする土壌はできていったと思います。

3.消えゆく役者

  • 後半立ち上がりも特に構図は変わりません。特筆するとしたら、55分の鹿島の決定機は、広瀬のハーフスペースへのパスに走り込んだアラーノが、深井を振り切ってグラウンダーのラストパス。エヴェラウドはゴール前でマークを外しましたが、左足のシュートはフィットしませんでした。ただ、深井が振り切られたのは初めてだったと思います。
  • このタイミングで両チームが交代を準備します。その前に、61分にエヴェラウドの右足切り返しからのミドルシュートがポストを叩きます。
  • 64分に一斉に交代があり、両チームとも3選手ずつが入ります。ポイントとなっている鹿島のトップ下は、アラーノが右に回って遠藤が入り、札幌も深井が下がって、遠藤を監視するのは荒野の役目になります。
  • が、この直後の67分頃にジェイが接触で痛んで、大事をとって札幌はジェイを下げます。高嶺が入りますが、この後の札幌は誰がトップレスシステムと言うか、田中、荒野、高嶺の誰も1列目には見えない陣形でプレーしていました。
70分~

  • マッチアップを考えると、鹿島の前線4枚に対してしっかり枚数は揃っています。なので、そこは問題がないのですが、前線が駒井と金子だと、ボールを回収した後に前で収まらなくなります。札幌が一度守った後の、ピッチ中央付近での競り合いで、駒井と金子を鹿島が潰すようになって、鹿島が攻撃する時間が増えていきます。
  • また、武蔵とジェイを失った札幌はセットプレーでの高さ不足が顕著になります。高さが武器というか、少なくとも後手に回ることは少ないチームですが、普段ストーン役を任せているジェイと武蔵が両方いなくなると、鹿島は空中戦で、特に町田が脅威となります。
  • それでも74分には。鹿島のCKを守ってから札幌がカウンター。菅が三竿を振り切ってクォンスンテと1on1になりますが、ここはGKがビッグセーブ。直後には永戸が菅野と1on1になりますが、菅野が右手1本で掻き出します。
  • 75分以降もトップレス状態の札幌を鹿島が押し込みます。80分には、遠藤のFKに制空権を握っている町田のヘッド。菅野の正面で難を逃れます。
  • 鹿島は78分に三竿→荒木。遠藤が下がってボールに関与することが多くなります。札幌は荒野が遠藤にずっとついていきますが、このあたりからはひたすら人を捕まえて耐える時間が続きます。
  • 耐える時間を耐えた後、ATに駒井のボール奪取からルーカスがPA内でDF2人を交わして2-0。最後にゲームを決められるクオリティのある選手が残っていました。

4.雑感


  • 札幌側のキープレイヤーの相次ぐ離脱によって試合の性質はガラッと変わりました。ベストメンバーが揃っていた時間帯は、福森周辺の機能不全は気になるものの、鹿島に対して敵陣でボールを保持することも可能で、更にゴールまでもう1発打ち込めるだけのクオリティは示せていました。
  • 特にトップで身体を張れる武蔵とジェイがいないと、小さい選手だけではパワーバランス的にかなり難しくなるのですが、ダメ押しの得点を挙げたルーカス以外にも、ボールが入ると前を向き続けた金子のアタッカーとしての”牙”は、耐えるチームにとっては大きかったと思います(荒野が前にスライドするのかと思いましたが、荒野の"牙"はもう抜け落ちて、後ろの選手にトランスフォームしていますよね)。菅野の幾度かのビッグセーブはいうまでもありません。
  • 戦術的にはシンプルに説明できるゲームだったと思います。冒頭に書きましたが、ザーゴもミシャと同じタイプで、試合中は割と細かな調整をしないタイプなのかもしれません。となると、セレクトされている11人の戦術理解が深まるか、もっとクオリティのある選手を確保するまでは難しいと感じます。
  • ミシャが来てから、その戦術がはまった数試合は鹿島相手でも互角以上の戦いをしてきました。ですので19年ぶりの対鹿島戦の勝利には特段驚きはありません。シンプルなザーゴのチーム相手には、事前に決めたマッチアップがあまり誤算なく働いてくれたので札幌としてはやりやすかったと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿