2020年7月13日月曜日

2020年7月12日(日)明治安田生命J1リーグ第4節 湘南ベルマーレvs北海道コンサドーレ札幌 ~鶏と卵~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果

  • 札幌は「状態を見て判断」だったジェイがスタメン出場、実質的に武蔵の分だけ枠が空いた格好になりましたが、ドゥグラスが滑り込みました。また右シャドーは駒井、CB中央は田中と予想通りの起用でした。
  • 湘南は右サイドに古林、中盤に茨田と今シーズン初スタメンの選手を起用してきました。前節攻守で活躍した中川は2試合連続のスタメン出場。


1.基本構造

1.1 ”ビルドアップの出口”を作る駒井の貢献

  • 札幌ボール保持から始まる展開では、武蔵に代わって起用された右シャドーの駒井が、ゲームのスタートからの構造に大きな影響を及ぼしていました。
  • 湘南は札幌に対し、顕著な対策を見せます。それは右インサイドハーフの齊藤による福森の監視で、福森にボールが入りそうな局面…具体的には、深井がボールを保持してルックアップした状態では、福森に渡る前に齊藤は寄ったポジションで構え、深井がパスをしようものなら一気に刈り取るぞ、と脅しをかけます。
齊藤が福森を消すために監視
  • 横浜FC戦の記事でも書きましたが、札幌の攻撃は特定の人…福森かチャナティップがボールを持った状態から始まることが多いです。鹿島戦に続き、福森が封じられると、札幌は攻撃を始める、別の形を探る必要があります。

湘南は同数守備でプレスを狙う
  • ここで駒井が動きます。札幌での駒井は右サイドに始まり、中盤センター、右シャドー等いくつかのポジションで起用されてきましたが、どのポジションでも駒井はビルドアップの際の出口を作る(プレスをかけられている味方の選手に、パスコースを自らが提供し、ボールをプレスから逃がしてチームとしてキープできる状態を作る)ことでチームを助けています。ですので、駒井がシャドーに入ると、まずはゴールに近い位置で(それこそ武蔵のように)プレーするよりも、味方のDFに近い位置でプレーして、ボールを落ち着かせようとすることは予想できた展開でした。
  • 序盤から駒井は自陣のゾーン1(ピッチを縦に3分割した時に、自陣側の1/3)にまで下がってボールを受けます。ミシャチームは基本的に後ろ5人がボールを運ぶ人、前5人がボールを受ける人、とビルドアップ時の役割が決まっており、その受け手の1人である駒井が(近づきすぎても問題ですが)適度に「後ろの5人」に近づくことで、味方がボールを運ぶことを助けていました。
駒井が出口を作って湘南得意のプレスを脱出
  • なお、「下がって受けて(更に、剥がして)味方に展開」はチャナティップの得意技です。チャナティップへの最大の供給源は福森ですが、福森が封じられても深井からチャナティップへのルートはまだ残っていました。なので、チャナティップも一定は出口として機能していたと思います。

1.2 失われるゴールへの推進力

  • 一方、武蔵の代役として駒井を起用したことで露見された課題もありました。
  • 武蔵は札幌の中での役割として、基本的には(シャドー)ストライカーというか、得点することが最大のミッションです。簡単に言うと、武蔵は点を取るために中央で(サイドに流れず)、かつゴールからラスト30m程度でスピードを活かしながらゴールに向かってプレーします。これに対し駒井は味方を助けるために相手ゴールから遠ざかり、味方に近寄ってプレーします。
  • そしてこの駒井の傾向はチャナティップも似ており、チャナティップはゴールから遠ざかってもまた得意のドリブルで、遠ざかった分を戻ってくることができるのですが、駒井にはチャナティップと同じことを期待することはできません(サイドでの突破力は相変わらずすごいのですが)。札幌のシャドーは2人とも、低い位置からスタートする選手が起用されていることになります。
  • こうなると前線でジェイが孤立します。ジェイは役割的にはフィニッシャーとポストプレイヤーを兼務しており、速攻やサイドからクロスが上がるときはフィニッシャーとしてゴール方向を向いてプレーしますが、味方が中央で展開している時は、多くはゴールに背を向けて相手DFを背負ってプレーします。
  • これが何を意味するかと言うと、札幌が中央で展開している時は、ジェイがキープしたボールをゴールに向けてドライブさせる選手が必要になります。それがチャナティップのドリブルやスルーパスであり、そしてスペースを決定機に変換する武蔵の爆発的なスピード、向上中のミドルシュートです。
  • 駒井やチャナティップがプレーをスタートさせる位置が低いほど、ジェイをサポートし、また自らがフィニッシュに絡むプレーをすることは難しくなります。距離が離れすぎているとプレーに関与できないですし、そして低い位置から前線まで走っていくだけでエネルギーを消費してしまうだけです。優れたGKから得点を奪うには、爆発的なエネルギーをゴール前で使うことが望ましいです。特に、速い展開から攻撃したいならこの傾向は顕著になります。
ビルドアップを助けることに傾倒しすぎると前線の脅威が減る

2.ハイプレスよどこ行った

  • 基本構造を踏まえて試合を振り返ります。
  • 最初の10分は、湘南の”福森シフト”が機能していました。逆に言えば、(福森の隣でプレーする)深井は10分で湘南の狙いに気付いたと思います。この時、湘南が深井に対して中川をもっと当ててこれば札幌は困ったと思います。実際は湘南の2トップは、石原が深井の前に立つことが多く、この後の時間帯も、中川に比べるとあまり精力的に追ってこない石原の前では深井はボールを保持できており、チームとしてもパニックになるようなことはありませんでした。
  • 湘南はボールを確保してから、速攻が封じられると苦しむことになりました。コンディションや置かれている条件を考えれば当然なのですが、札幌のハイプレスに対するこだわりは試合を経るごとに薄くなっているように感じます。この試合は、序盤から全員で自陣に引いて[1-5-4-1]で構え、たまにジェイがスイッチを入れると連動しようとするのですが、そもそも2列目に4人が並んでいると、ジェイをサポートしようというよりもスペースを消す対応がメインになります。これは間違っているなどと言うつもりは全くなく、極めて効果的かつ現実的な策に落ち着いたな、という感想です。
スペースを消して守る札幌

  • 湘南としてはスペースがあるほどありがたいです。札幌がここまでスペースを消してきたのは予想外だったかもしれません。
  • 湘南のリアクションとしては、アンカーの茨田が移動して、プレッシャーを受けにくい位置から前方への展開を狙います。しかし、茨田はしばらく模索を続けますが、結局は最終ラインに近い位置くらいしか使えるポジションがなかったように思えます。また中央の選手が下がって受けようとすると、札幌はマンマーク気味についてきます。これはプレスがON、という状態ではないですが、いつでも起動できる状況にあったと言え、湘南としては心理的な圧力を感じる状況でした。


3.小樽の鉄砲玉


  • 前半は互いにやや膠着状態で、こうなるとスペースを作り、そこに飛び出していくプレーが必要になります。札幌においては、左の菅の飛び出しが2度ほど見られました。

菅のスペースへの飛び出し

  • 札幌はシャドーが引くので、湘南のCBはポジションを上げて守ることが多くなります。この背後を菅が狙うというか、菅が走ることを信じて味方がパスを出します。特に、消されていたはずの福森からのパスが1本ありましたがこの技術は圧巻でした。
  • ただ一つ付け加えるなら、湘南は「1.」の通り、齊藤が右にスライドして福森を監視する意識が強めなので、左サイドでは鈴木冬一が1列ジャンプしてプレスをかけることが何度かありました。、裏を取れるとよかったです。
  • 対する湘南の前半最大の決定機は37分、菅野のフィードをチャナティップのところではね返し、福森の背後のスペースに茨田が飛び出して、茨田のクロスに石原のミドルシュートがポストを叩きます。湘南は前半終了間際、立て続けにこの形から札幌ゴールに迫っており、恐らくトランジションの際はゴールにまっすぐ向かうよりも、札幌の左…福森の背後をまず狙っていたようにも思えます。


4.ゴールに向かってプレーする選手

4.1 リソースは充填された


  • 後半頭から、札幌は連戦を考慮して4人の交代を行います。このうち、チャナティップは下げる気はなかったが、太腿に問題ということでドゥグラスの投入を決断したようです。

46分~

  • シャドーが2人とも変わります。チャナティップと駒井は、ゴールから遠ざかってプレーする選手でした。ドゥグラスは初めて画面に登場しますが、基本的にはストライカー、ゴールに向かってプレーする選手だとされています。そして左利きの金子は、右サイドからカットインしてゴール方向に向かってプレーすることができます。ゴールを奪うためにはゴール方向に向かってプレーする選手が必要だと思っていましたが、一気に2人が投入されます。
  • 46分、早速福森のフィードにドゥグラスが巨体を揺らして突進します。50分には、対面の石原広教との身長差20センチ近いミスマッチを活かしてルーズボールを回収し突進。とりあえずこれができることはよくわかりました。

4.2 鶏と卵

  • ゴールに向かう選手が確保できたなら、後はそれらにボールを届けられるかが重要になります。52分には、湘南の同数プレスを高嶺が中央で見事なカラコーレス(シャビがよくやっていた、クルクル回るターン)で突破。金子にボールを届け、金子も期待通りゴールに向かうカットインドリブルからのクロスボールでチャンスメイクします。

(52分)少ない人数でプレスを突破するとゴールに向かうプレーに繋がる

  • 続く53分にはセカンドボールをジェイが収めて、福森のパスからドゥグラスの落とし→ジェイの強烈なミドルがポストを叩きます。
  • しかしこのプレー以降は徐々に湘南が押し返します。55分には茨田のミドルシュート。59分頃まで湘南の波状攻撃が続きますが、この間、湘南は一貫して福森と菅の間に放り込み、セカンドボールを狙います。この2人は本来空中戦に弱くはない、というか強い選手ですが、福森の戻りの遅さ、そして菅も前線から最終ラインまでをカバーしなくてはならない選手なので、その隙を突かれると後手に回ってしまいます。
  • 湘南のプレスの出足は緩まず、札幌はいつしか頼みのジェイのキープ、そして時折散発的に輝く金子の単独突破以外で前進できなくなります。よく、「ボールを落ち着かせる選手」という表現がありますが、駒井が最終ラインに下がり、中盤~前線にそのような役割の選手が不在になると、ビルドアップに問題を抱えるようになってしまいました。このあたりのバランスが難しいところだと感じますし、複数の役割をこなせる選手は非常に重要なことがわかります。

72分~

  • 湘南は72分までに4人の選手を投入します。フレッシュなタリク、松田、山田のプレスは札幌を苦しめますが、湘南のフィニッシュはやはり左の、高精度のクロスとドリブルを兼備する鈴木の出来にかかっていると感じました。杉岡が抜け、大きな期待を背負っている鈴木ですが、3連戦ということもありこの試合はかなり疲れが見え、プレーの精度はこれまでの試合ほどではなかったと思います。
  • 札幌が78分にジェイを下げると、トップにはドゥグラスが入り、そして駒井が自由に動けるポジションに再び回ったことで幾分かリズムは改善されます。ただゴール前は、ドゥグラスではジェイの代役はやはり難しいので、こうなってくると妥当なスコアレスドローだったと思います。

5.雑感


  • 3連戦の3試合目ということで、両チームともまずコンディションとの闘いがありましたし、起用する選手も制約される消耗戦でした。湘南は特に鈴木の出来がフィニッシュを左右しますので、鈴木がが本調子ではない状況で菅野を脅かしたのは茨田のミドルシュートくらいでした。
  • 戦術的には、よくビジネス用語で「鶏と卵どっちが先か…」と言いますが、ビルドアップを助ける選手が鶏だとして、ゴールを狙う選手が卵だとして、そのどちらかが欠けた状態でも最良のバランスを見極められませんでした。90分見た中では、どちらも重要というか、一概にこうだとは言えないように思えます。
  • 札幌はこのスタメンなら、左シャドーで、駒井よりもゴールに向かってプレーしやすいチャナティップの役割を整理、もしくは再定義が必要だと感じます。ただ、チャナティップも離脱するなら他のポジションも含めて機能する組み合わせを探す必要がありそうです。
  • ドゥグラスの、パウロンなのかフェホなのかを彷彿とさせる突進は楽しませてもらいましたが、菅とややプレーエリアが被るとなると、中野のような横方向にボールを動かせる選手がいると面白いかもしれません。

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