2020年7月23日木曜日

2020年7月22日(水)明治安田生命J1リーグ第6節 北海道コンサドーレ札幌vsFC東京 ~来ないなら自分から行く~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果

  • 東京は開幕から不動の強力ユニットのうち、森重を休ませてジョアン オマリが初スタメン。なんとなくジェイド ノースっぽい位置づけになっていたオマリが実際に起動されるのは意外でもあり、日程的には必然ともいえます。そして前線に永井→アダイウトン、中盤底に髙萩。もっとも、これらの選手起用により東京が予想外のことをしてきたという印象はありません。寧ろ重要だったのは、今シーズン初めてベンチ入りしたFWの原でした。
  • 札幌は白井→ルーカス。そして宮澤を中盤にスライドさせて最終ラインに田中。私の予想とは逆でしたが、確かに最終ラインで使うなら田中の方が適任です。武蔵、荒野が使えない状況で、中野は初めてベンチ入りしました。


1.基本構造

1.1 中央誘導とその背景



  • 東京は中3日のアウェイ、それも札幌ということで、これまで東京近郊での開催のみだっただけに一気に負荷を感じることになります。それもあってか、東京の狙いは非常にクリアなものでした。
  • 一言で言えば「真ん中に誘導して3人で速攻」です。DAZN中継で見ていると、メインスタンド側のレアンドロが進藤に背中を向け、かつポジショニングも進藤から離れ、かなり中央寄りに立っているのが確認できますが、レアンドロは終始、札幌の田中から見て右側に立っている状態でセットします。
  • これは何をしているかと言うと、田中→進藤のパスを俺は狙うよ、他のところには出させていいよ、という対応で、対面の選手のパスコースを誘導する時の手法です。つまりレアンドロ的には、進藤に出されるよりも田中が中央方向にボールを運ぶ方が好ましいのです。これはディエゴオリヴェイラvs深井の関係性も同じでした。但し、両選手とも進藤や福森に(浮き球のパス等で)出された時はプレスバックできるよう、適度なポジションを保っています。

東京のゲームの考え方(中央に誘導してファストブレイクを狙う)

  • 東京は中央にDF2人と中盤センターの3人を配しています。地球上最高のFWであるジェイボスロイド選手(この表現はエゴサ対策です)に対しては、渡辺とオマリでサンドしてなんとか許しを請う(エゴサ対策です)。そして髙萩、東、アルトゥールシルバの3人は、チャナティップや駒井、時に宮澤が侵入してきた時に捕まえて排除する役割を担います。一番考えておかなければならないのはチャナティップ対応なのは言うまでもありません。
  • サッカーにおいて不変なのは、ゴールは中央にあります。ゴールへの最短距離は中央のエリアです。中央を固めることは攻守両面で重要で、東京はここで奪えれば最短距離でJリーグ500試合目の菅野が守る札幌ゴールを強襲することができます。
  • 逆説的に評すと、東京はこの速攻を意地でも成立させないとならない理由もあります。東京の前線の3人は基本的に中央に入ってプレーするようになっています。彼らはゴール前でクオリティを発揮する選手なので、長谷川監督がそのように調整しているのですが、一般にサッカーではボールをコントロールしている選手がスペースをっ享受しているほど攻撃側にとって有利な状況で、選手が集まれば集まるほど相手も集まってくるので、スペースがなくなります。よく「パスをもらうために味方に近づく」というアクションをとる人がいますが、パスをもらうには距離の問題だけでなくアングルの問題もあります。

森重不在が響き?サイドはあまり活発ではない

  • なので東京は速攻が成立せず、札幌のDFが戻った状態になると前線のアタッカーがスペースを得られず厳しい状況になります。これを解決しているのが、SB…主に右の室屋によるオーバーラップと、その室屋を走らせるフィード…これは特定の誰、と決まっていないですが、森重はたびたびフィードを狙っています。この2人を欠いていることもあり、東京の速攻の重要性はこれまでのゲーム以上に増していたと感じます。
  • オマリはどうでしょうか。駒井が中央を切りながら(レアンドロとは対照的に)オマリに寄せてくると、オマリから見て右側に駒井は立っています。右方向へのパスは完全に遮断されたとは言えなくとも、左利きの選手にとって出しにくい状況ではあります。後は選手本人のクオリティの問題はありますが、オマリ→中村のルートは開通しませんでした。中村はいいボールが供給されれば菅の裏を取れそうではありましたが、結果的には札幌はこのサイドであまり脅威を感じることは(終盤までは)ありませんでした。なので、室屋と森重がいないということは、少なからず影響していたと感じます。

1.2 生命線ルーカス


  • 「1.1」で始まる構図を札幌の視点で考えると、札幌は東京の強烈なカウンターアタックを回避するため、中央を回避して東京ゴールに向かいたいです。つまりゴールから迂回することになります。
  • 「ビエルサライン」がまさにその考え方ですが、基本的にウイングやウイングバックと呼ばれるサイドの選手がいる典型的なポジションからは、直接シュートに寄ってゴールが生まれることは稀です。最後は中央からシュートを撃つ必要があり、そこまでボールを届ける必要があります。
  • 札幌の「迂回攻撃」は主に右サイドから行われます。左は福森がいますが、福森が嫌なことを気にせずがんがん攻撃参加できる状況はJ2ならまだしもJ1ではそう多くはありません。菅は多様な役割を担っていますが、右の白井やルーカスはサイドで勝つことが、期待されている仕事の8割を占めています。
  • そして迂回した末には何が待っているのか。ロンドンが生んだナイスガイ・ジェイボスロイド様が中央で待ち構えます(たまに、どっかに行っています)。問題は武蔵、そしてアンロペがいない今、固定のターゲットがジェイしかいないことで、クロスボールからの攻撃においては枚数が不足しがちです。前節はチャナティップが得点しましたが。
  • なのでターゲットの量と質の積が(相対的に)そこまで強力ではないとなると、供給されるクロスボールの質はより重要になってきます。特に、GK林(Jリーグで最もクロスの処理が安定しているGKではないでしょうか)が守るエリアを横切るクロスボールは、林の守備範囲を避けてピンポイントで味方に合わせる職人芸が要求されます。このこともあって、白井→ルーカスのスタメン起用だったのかもしれません。ルーカスはたまにCKのキッカーを任されていることからも察しますが、白井よりもいいクロスを持っています。
  • という図式が成り立ち、札幌としてはルーカスのサイドでどれだけ勝てるかが重要になってきます。そして、東京もその重要性は認識しており、小川はルーカスにボールが渡るとスピードに乗る前に距離を詰めます。小川の背後はジョアン オマリか、髙萩が戻ってカバーするようになっていました。

2.考える福森と駒井


  • どうせ福森がまた徹底マークされんだべ?という予想は外れました。単なるクロッサーに留まらない謎のDF・福森はサイドで時間とスペースを得ます。こうなると、状況を観察しながらプレーすることができます。
  • 時間経過とともに、福森は東京の狙いに気付いていたと思います。なので、札幌で最も信頼されているパスの出し手である福森から始まる攻撃は、東京の「ボールを奪いたいエリア」を迂回した攻撃としてデザインされていきます。それが先程から図で示しているうちの、グレーの色を塗っていないエリアで、菅やチャナティップ、ジェイを裏に走らせることでリスクを回避していました。

福森の選択(中央を迂回する攻撃)

  • スペースがない状況での裏に抜ける攻撃は、出し手と受け手が合わないと難しいです。札幌が前半シュート3本にとどまったのは、ボール保持時にこのような選択が多かったためで、リスクを冒してでもシュートを撃つよりはリスク回避第一的な考え方で東京に対抗していました。



  • 駒井もまた前線で解決策を考えていた一人です。これまで、駒井はシャドーで起用されるとゴールから遠ざかってプレーする機会が多い状況でした。この試合、駒井は前半の半ばくらいから簡単に下がらず、前線でスペースを探します。何度かルーカスと被ってもいましたが、またチャナティップと寄ってプレーすることも模索していたように見えましたが、最終的には東京のCB-SBの間のチャネルを30分過ぎころから狙っていたと感じます。オマリや髙萩がカバーするとはいえ、彼らも複数のタスクがあるのでこのチャネルはどうしても空き気味になります。小川の背後は、東京が消しきれていないスペースで、この陣地を駒井が”獲得”した格好となりました。

駒井の選択(小川の背後への飛び出し)

  • 前半アディショナルタイムの菅の得点はこの、駒井のハーフスペース侵入からのクロスが流れて生まれました。ゴールするなら菅じゃないか。そんな展開を予想していた素晴らしいブログがあるので是非皆さん読んで見て下さい。というのは冗談ですが、駒井&菅のコンビでなくとも、ミシャチームはこの攻撃パターンを前から持っています。菅が福森先輩の雑務に追われてゴール前に顔を出せなくなる時期はしばしばありますが、4年前までFWだった(それでいて、サイドを30回以上アップダウンできる体力と最終ラインを任せられる守備力のある)菅は非常に重要な選手だと感じます。



  • 前半はとにかく速攻を撃ちあう展開に誘い込みたい東京、乗りたくない札幌、という構図でした。何故札幌がその展開に乗りたくないかというと、簡単に言えば武蔵も荒野もそしてアンデルソン ロペスもいないからです。この3選手の共通点は、スペースがある状態なら30メートルの距離をゴールに向かってトップスピードでプレーできます。足の速さで全てが決まるわけではないですが、相手がブロックを構築する前に攻撃するには必要不可欠な要素です。東京はベンチに永井もいますし、それだけのリソースを持っています。札幌がこのメンバーで誘いに乗るメリットは全くありません。

3.ギアチェンジ~押し付ける力


  • この特殊なシーズンにおけるゲームとしては、両チームとも交代が遅めでした。東京は20分過ぎに東が負傷交代しましたが、以降は動かず。札幌も暫くは動いていません。これは札幌は変えられる選手、替える理由がある選手がいませんでした。先述の通り、札幌は東京の誘いに乗りたくありません。サブの選手のうちキム ミンテ、高嶺以外の選手が入ると選手特性上、寧ろゲームがペースアップしてしまう恐れがあります。その高嶺についても、宮澤と深井が巧くゲームコントロールしていたので、なるべく深井を引っ張りたかったのだと思います。
  • 前半、宮澤と深井がそれぞれ警告を受けますが、札幌は東京の速攻を止めるためにファウル覚悟での対応も増えます。やり方上どうしても個人に依存するので時に意図的なファウルもありました。深井については、ベンチは2枚目の警告を気にしていそうでしたが、深井としては自分が止めないことでアダイウトンvs福森の展開に持ち込まれる方が余程リスクだと考えていたのでしょう。
  • 69分に東京が3枚替えで膠着状況の打破を狙います(札幌は深井もここでお役御免)。
69分~


  • 重要だったのは、トップに入った原で、東京はこれ以降シンプルに放り込んで札幌の最終ラインを下げさせる。それまでは前線にスペースがある状況での速攻に絞っていましたが、スペースがなくても戦えるリソースを投入した格好でした。
  • 原に放り込まれると、札幌は最終ラインが下がり間延びします。79分、ジェイとチャナティップ(後半何度か速攻の機会を生み出していた)を下げると前でボールが収まる機会が激減し、撤退して跳ね返すだけのサッカーになります。
  • 東京の最後のカードは80分の室屋。88分の室屋の得点は、札幌は連戦の菅を引っ張った采配が裏目に出たともいえますし、東京としてはフレッシュな室屋との願ってもないマッチアップでした。この時ピッチに森重はおらず、レアンドロからのラストパスでしたが、やはりSBの攻撃参加はパターンとして共有されていました。

4.雑感


  • 69分までは互いによくデザインされた好ゲームでした(今節行われていたセレッソ-神戸は、後半終盤まで同じような互いにディシプリンに富んだ展開でしたが、この試合は長谷川監督が一気に秩序を壊しました)が、最後は保有するリソースの差が明暗を分けたと思います。
  • 長谷川健太監督は「札幌はそのうちオープンになる」と言っていましたが、これはある程度仕方がないことです。様々な要因(①5バックシステムなのでサイドの負担がでかい、②(この試合はそうでもないけど)速攻に積極的、速い展開を好む、③起用している選手特性上ロングボールが多く間延びしやすい etc)があり、このチームの強さと表裏一体です。ただ一言申すなら、最後は必ず肉弾戦になると覚悟するなら、木下遥ちゃんもイチオシのキム ミンテのような、速さと強さを兼備する選手が最終ラインに欲しくなります。

2 件のコメント:

  1. 菅野のコーチングが聞こえる前提で、ミンテの活用を考えるのは有りですよね。
    それにつけてもFC東京とはリソースの厚さに差がありましたね。

    交代カードを4枚しか使わない、せっかくベンチ入りした中野は使わないともう少し早めに割りきって菅を白井に変える手はあったと思います。
    (今季初公式戦になる中野の状態は少し心配ででも使いたい。菅は相当に頑張れていて代えにくい。他方で交代回数的にあと1回なために最後の交代を引っ張ったのかと邪推しています。)

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    1. コーチングは確かに面白い視点ですね。
      全般に、攻守両面で速さや守備強度を求めると、アウトサイドは菅と白井以外の選手を使いづらくなりますよね。中野が足りないというか菅の守備貢献度でかすぎ問題ですね。

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