- 中盤センターから後ろのポジションについて書いています。なお今更ですが基本的には敬称略です。執筆中に前監督:柴田監督、現監督:川井監督、元監督:岩政監督となるなど変化がありましたがめんどいので記載は直しません。
5.3 中盤センター
<総評>
- 開幕時のラインナップとしては、前のシーズンから契約が残っていたとされる荒野、馬場、大﨑、契約延長をした宮澤に、新加入の高嶺、他のポジションと兼務の田中克幸と木戸。
- 岩政前監督がたびたび言及していた「ポケットを取る攻撃」だったり、全体としてのコンセプトとして「攻守共に圧倒する」だったりには、ポケットに何度も走ったり、前線からプレッシングを仕掛けたり、プレッシングが剥がされたときに全力でプレスバック、ボールを持っているときにはポジションを変えながら相手のプレッシングを剥がしていく…といった具合に運動量というか走力が全般に必要でしたが、まずコンサの選手を並べると、中盤にそうした走力がありそうな選手が高嶺以外は見当たらないことは開幕前からの不安材料でした。
- かつては動けるイメージのあった荒野も大怪我からトップフォームに戻らないまま30歳を過ぎており、他は宮澤、大﨑の大ベテランと復活を目指す深井、そしてフィジカル的にはまだ途上と思われる本来2列目の田中克幸と木戸。馬場は思った以上に頑張っていましたが負傷で離脱し、夏のマーケットで移籍してしまいます。
- 24シーズンオフに「青木、駒井、菅のうち1人は残せる程度の財務状況」だったとするなら青木を選んだ考えは理解できます。
- 財務状況に加え、新監督の下でチームを刷新する時にリーダーシップが強いというか強すぎる選手を外すという観点でも駒井の放出は理解できますし賛成でしたが、今となっては岩政前監督の掲げるプレーを実践するには、駒井本人ではなくとも、彼のようなフィジカル面で秀でる選手があと1人か2人いれば…と感じました。
- あとは書いてみて思ったのですが、評価のフレームワークとして、「各局面でどのような仕事がどの程度できるか?」という考え方が、中盤の選手には特に有効かと考えています。
- 自陣でのボール保持(≒ビルドアップ)
- 敵陣でのボール保持(≒崩し)
- トランジション
- 敵陣でのボール非保持(≒ハイプレス)
- 自陣でのボール非保持(≒ブロック守備)
- セットプレー
6 高嶺 朋樹
35試合、3,115分出場(うち先発0)、10ゴール、3アシスト
- フットボールの各局面…
- 自陣でのボール保持(≒ビルドアップ)
- 敵陣でのボール保持(≒崩し)
- トランジション
- 敵陣でのボール非保持(≒ハイプレス)
- 自陣でのボール非保持(≒ブロック守備)
- セットプレー
- があるとして、その全てで中盤センターの選手として何らか仕事ができるというだけでなく、その質がリーグの中でも明らかに質が異なる。
- 特にダイナミックスキル(動きながらボールを扱うスキル)に優れているため、自陣でボールを持っている時のプレーで高嶺にボールを押し付けられても、はめてくる相手を回避して逆にチャンスになったり、相手ゴール前で(本来シャドーやサイドアタッカーがやるべきですが)仕掛けから決定機を作ったりと、中盤センターで固定されてからは岩政、柴田両監督とも高嶺の個人能力にかなり依存していたところがありました。
- 「全てすごかった」で済むのであまり特筆事項がないのですが、一応書くとするならSB起用が結構ハマっていました。
- 寄せるのが上手く、1v1でボールを奪う技術はピッチの中央でもサイドでも、MFでもSBでもこのカテゴリでは別格でしたが、常に少ない人数で守備対応している岩政前監督のコンサにおいては、中盤センターだとカバーするスペースが広すぎて1人ではどれだけ能力があっても難しいシチュエーションもしばしばあったことから、むしろサイドの方が明確な1v1の構図になりやすいことから、SBでの起用の方が向いているところもありました。
- 「左SBのところに相手が入り込んで来て仕掛けてくる状況なら、絶対的にボールを奪える」シチュエーションがあることが確実にチームのストロングポイントになりえます。
- また髙尾離脱時に起用された右SBも、相手にもよりますが後方の不安がない状況ならば、高嶺にボールを渡したいポジションとしては実は右SBに近い位置・役割が最も近接していることもあり、右利きの右SHしかいないコンサにとっては右サイドに配置できる貴重な左利きの崩し役にもなりました。
- 総じてこのシーズンの貢献度は高く、左利きDFが総じて故障や不調など問題があった中で、中盤センターだけでなくSBとCBも務めた高嶺がいなかったら、このチームはどうなっていたでしょうか。と思わされました。クラブの財政状況を考えるとかなり思い切ったディールでしたが、移籍金5億円くらいでも全然元が取れるレベルの選手だと思います。
10 宮澤 裕樹
15試合、501分出場(うち先発4)、1ゴール、1アシスト
- 6月に36歳を迎え、故障により深井のラストゲームでピッチから見送る機会も逸してしまうほどコンディションを整えることが難しくなっている。
- ピッチに立てたとしても、私がこのチームを10年間記録してきて、「相手の速く力強いプレーをする選手に対しては宮澤の能力だと厳しい」等と明記したのがおそらく2019年のルヴァンカップ(vs広島)ではないかと思いますが、その「厳しい」と思った時からもう6年も経っていますので、J2のカテゴリでも「厳しい」状況も散見されました。
- しかしそんな宮澤は、流石に動きの量と速さはかつてほどないとしても、このチームのMFの選手の中ではピッチに立てば高嶺に次ぐオールラウンダーでした。選手本人に対する評価としてはポジティブである反面、このシーズンの深刻な編成の問題を表している事象でもあるので簡単に喜ぶことはできません。
- 「6局面」を意識して考えると、特にボール保持時に適切なタイミングでボックスに入っていき得点を狙うプレーを、他のタスクと並行してできることがMFの選手の中でも優れている。
- 別の項目でも書きましたが、このシーズンのコンサはシャドーにゴール前でパワーを発揮できる(例えばクロスボールに飛び込んでシュートに持ち込んだり、相手DFと競り合って潰れたりできる)ほぼ見当たらず、ゴール前でFWの負荷が大きいため、3列目に宮澤のようなそうした仕事ができる選手が1人いるとこの問題が幾分か誤魔化せますし、また宮澤は常にゴール前に入るだけではなくてポケットに走ったり、バランスをとった方が良い時は後方待機したりと使い分けることができる。
- また自陣でボールを持つプレーに関しては、後述しますが特に4バック時のCB家泉起用という前半戦の最大のボトルネックに対処した選手が宮澤、大﨑、荒野…だとして、なるべく家泉に仕事をさせようと我慢する宮澤のスタイルが私は一番好きでした(正解とか効果的とまでは言い切れませんが)。
25 大﨑 玲央
157試合、583分出場(うち先発6)、0ゴール、0アシスト
- 宮澤がオールラウンダーだとすると、大﨑はDFのすぐ前のアンカーが主戦場で自陣寄りの位置での貢献が大半になります。ロティーナ、リカルドロドリゲスといった監督の下でプレーした経験があり、おそらくこのチームでは数少ない「ミシャ(&四方田)以外のサッカーのフォーマットを知っている」、特にどうすればボールを前進させることができるか説明できる選手だと思います。
- 前のシーズンはそのリーダーシップ、経験、メンタリティ、パーソナリティ、そしてプレースタイルなどほぼ全てが噛み合い、7月の加入直後に即座にチームを掌握し中盤戦以降の英雄となりましたが、2人の監督いずれもがよりアグレッシブかつスピードを要求するスタイルを指向するこのシーズンは、改めて1人の選手として見ると全てにおいてスピードや強度がなさすぎる、というのが率直な印象でした。
- スピードや強度がないというのは、足が遅い、静止に近い状態から相手と対峙したときに1歩目が遅れてしまう、といったことに加え、連続したプレーが展開される中で1度何らかアクションをすると、大﨑は直後に休んでいるというかスローダウンしたり(この点はかつてのジェイや中島を見ても同じことを感じるのですが)、ボールを持った時のプレス耐性の無さゆえに中央から降りてきてボールを扱ってしまう、とかそういったことを指します。
- 開幕直後にCB(3バックの中央)としては3試合目の45分で見切りをつけられましたが、これはそもそも大﨑が3バックの中央でスタメン級だったのは2020年頃まで遡る話ですので、本人のパフォーマンス以前にそもそもCBとしてカウントすることに無理があったのかと思います(ただ24シーズンのパフォーマンスは、岡村に助けられていたにせよ対人でも相当奮闘していたのでコンサのフロントが期待をする気持ちはわからなくもなりません)。
- その後は4バック1-4-4-2の中盤センター(アンカー)のクローザーやバックアップという、かなり妥当な役割に配置転換されます。そして中盤に大﨑、CBに家泉が並ぶと、中央の重要なポジションで縦に並ぶこの2人が「知っており、実行できるフットボールのフォーマット」にかなりのギャップがあることが露呈されます。
- 大﨑はコンサに来る以前に数年間スペインやドイツ出身の監督、その影響力が一定あるチームでプレーしていて、正しいポジションを取ってボールを動かしてゆっくり全員で敵陣に入っていきゲームをコントロールしましょうというスタイル。一方で家泉は簡単に言えば「いわきFCのフォーマット」。前に蹴ってセカンドボールを拾ってセットプレーなどでゴール前に大きい選手がなだれ込むというもの(このシーズンいわきの試合を見れば「あ〜確かにこれは家泉にぴったりだな」と思わされました)。
- このギャップ自体は別にどちらが正解というわけではありません。家の家財道具をネイビーでシックにまとめるかピンクでかわいくするかのようなギャップかと思います。
- 一方でこのチームにおいては、岩政前監督がどの方向でプレーモデルとして統一しようとしていたかを考えると、おそらく大﨑のスタイルの方が監督の指針には近かったでしょう。
- そうしたこともあるし、またそもそもの2人のパーソナリティなどもあって、ボールを持っているときにアンカーの位置で待つ大﨑が家泉に逐次指示を出す光景が見られるようになります。
- 大﨑が味方のポジショニングやボールを動かす方向について指示を出すのは前のシーズンにもありましたが、↑で大﨑の方がおそらく監督の考えには近い、としたものの、厳密には元々岩政前監督にはポジションを固定しすぎないという考え方もあったので、大﨑のイメージだとポジショニングがそれよりも固定されることにもなって、そこでのギャップも感じました。
- そして家泉が大﨑のイメージ通りにボールを動かせないことが確認されると、大﨑がDFの位置まで下がってボールを引き取って本来DFがやる仕事を”代行”するようになります。これは前の記事でも書きましたが、本来アンカーが担う仕事が欠損することになりますし、大﨑が毎回下がってくるところから始まる、彼を経由するとなると冒頭に指摘した理由での遅さや強度、ダイナミックさのなさが問題になりました。
- 宮澤も味方に指示出しはするのですが、宮澤の方がより家泉などCBの選手に本来の仕事をさせようとして、自分で仕事を引き取ることを極力避けているように見え、(それで本当に”わかっていない”選手ができるようになるとか成長するかは謎ですが)私もアプローチとしては宮澤の方が好みでした。
27 荒野 拓馬
24試合、1,343分出場(うち先発16)、2ゴール、0アシスト
- 走力(スプリント能力)、運動量(スプリントを繰り返す能力)や足首の柔軟性(球際で相手と近接した際に切り返してマイボールにできる)といった運動能力に優れるMFだったのはもう5-6年前くらいの記憶でしょうか。
- 現在の荒野のプレースタイルは中盤センターの選手としては大﨑のような、あまり中央から動かないアンカーに近いスタイルになっている。まずこの点がポジションチェンジやポケットへのラン、前線からのプレッシングを掲げていた岩政前監督とアンマッチ感がありますし、厳しい言い方をすればMFとして監督の要求水準に足りていなかったことが推察されます。
- 実際、大﨑と組んだカップ戦のvs大分、柴田監督初陣のvs秋田では中盤に同じ特徴の選手が2人並ぶこととなり前方向にプレー(トライ)するのに、ものすごく手数がかかる印象でした。
- 結果、岩政前監督が退任する25節までで先発出場は8試合にとどまります。前監督は試合に出られない選手へのケアの難しさを指摘していましたが、荒野(おそらく自己評価と自分ができるプレーと監督の評価にギャップがある)の扱いも難しかったことは想像に難くありません。
大ちゃん 若手論
— AB (@british_yakan) December 19, 2025
学生と違い選手は個人事業主なので、試合に出れないとどれだけ若くても不満が溜まりケアが大変だった。
声かけの仕方は学んだり工夫したが、選手からすると「試合に出さないのお前やん」なので監督に言われても響かない。なので監督だけでは限度がある。コーチやGMの協力が不可欠。
- そして岩政前監督との契約解除直後にラジオ番組に出演し、荒野本人の認識を語っていましたが、その内容を意訳すると
- 出場機会も少なく監督から重要な戦力だと見做されていないと思っていた。
- 自分はbuild-upの際に「リズムを作ったり起点になる」プレーができると思っていたが監督には評価されなかった。「サッカー観の違い」を感じた。
- その他、ラジオの生放送では言えないことがある。
- といった旨の話をしていました。
- 感想としては、まずモダンフットボールにおいて、ボールを持った時に「リズム」が重要だする考え方はあまり主流ではないのではないでしょうか。
- 相手ゴールから逆算するとしてどのようなシュートのシチュエーションを用意するか。そのためにどうやって敵陣に入り、相手ゴールに迫りつつ相手のカウンターやトランジションに備えるか。これらはリズムやイマジネーションというよりも、まず相手の出方や自分たちの特徴を考えてデザインされるものであり、それらが備わっていない、選手が理解していない時にいきなり「リズム」や「創造性」と言われるとチームとしてプレーすることは難しくなります。
- 確かに、選手でいうと往年の中村俊輔や遠藤ヤットのような選手が「リズム」を生んでいると論じる解説者やライターもいるかもしれませんが、私の理解では彼らは「リズム」という極めて抽象的かつ感覚的な話(サッカー以外の音楽などにおける「リズム」は感覚だけの話ではないのでしょうけど、日本サッカーにおける「リズム」はそれとは別でしょう)でプレーして違いを生み出していたというより、自身がボールを奪われない能力、前にボールを運べる(パスできる)能力を持っていて、かつその選択が、前にオープンで仕掛けられる選手がいたらパスするし、そうではないなら自分がキープするとか他のオープンな味方に渡すとか別の選択をとる。またその際に相手の読みや予測、戦術的な対応を頭に入れて、ゲーム理論みたいなものかもしれませんがあえてプレー選択の基準を変えたりする。
- その上で彼らは荒野やコンサの選手と比べるとミスが少ない。技術的なミスも戦術的なミスも、プレーの基準が上がれば命取りになるとわかっているから、例えば無謀なタックルもなるべくしない。
- こういう話を「リズム」としか論じられない人物がいるから、荒野もその影響を受けて「リズム」と言っているのかもしれませんし、そうではないのかもしれない。
- ただ岩政前監督のチームにおける中央のMFへのタスクは明確でしたし、それができない選手が普通に競争に負けた、というのが私の認識です。そして柴田監督も、モダンフットボール的なコンセプトの持ち主であると思うので、正直なところ岩政前監督とそこまで中盤の選手に求める基準は変わらない。
- そこで選手が「サッカー観」と言って自分の考えを曲げず、アンラーニングできないと、そうした選手がスカッドの都合上試合のメンバー入りする状況だと、監督の仕事としてはかなり厳しくなるのは当然でしょう。
- 長々と書きましたがもうちょい端的に書くと、今の(大怪我をした後の)荒野だと自陣と敵陣の両方で高強度のアクションを続けることは難しいでしょうし、また自陣でボールを持ってチームとして前進していきたい時に、その中心となる役割を担えそうには見えない(CBの近くでボールを触りたがるし、それが彼の考える「リズム」なのかもしれないが、前にボールを運んでいない)。
- これを踏まえてサッカー観というより、荒野にできるプレーだったりその基準にチームが合わせることになると、果たしてそれはJ2でトップを狙うチームに相応しいか。「荒野とサッカー観が合う監督」でトップを目指せるか、そもそもそうした人物が実在するのかは謎です(コーチなども含む監督側がもっとコミュニケーションが上手く、かつそうしたミクロな作業に熱心で、サッカー観が合うと錯覚させることは可能かもしませんが)。
- …といった文章で締めようと思いましたがシーズン終盤にまた状況が変わります。
- 柴田監督体制でマンツーマンベースでのプレッシング路線に回帰し、前線の選手(主に外国籍選手)の戦術へのフィット不足という、近年のコンサであるあるな状況に直面すると、前線でのハードワーカーとして荒野がFWまたはシャドーで起用されます。
- 大敗した35節(vsジェフ)ではFWとして先発出場しましたが、前線で荒野1人で2人を見るプレッシングをして、回避されたら自陣に戻ってきて、カウンターのチャンスで前線に飛び出して、ロングボールのターゲットとしてファウルに気をつけながら味方のために身体を張って…といった働きを見ると、結局この選手は本来こうした前の仕事の方が好きだし、やりたいと思っているのかな?と思わされました。
88 馬場 晴也 ※6月に柏レイソルに完全移籍
9試合、633分出場(うち先発8)0ゴール、0アシスト
- ポジションチェンジを多用し、「ポケットを取る攻撃」をしたいとする岩政前監督の就任によって、中盤の後ろめの選手の中では最も若い(というか、他が高嶺、荒野、宮澤、大﨑、深井と、”後ろめ”かは微妙な木戸や田中克幸が候補者だとすると機動性ありそうな選手が少なすぎる)馬場への期待は大きく、特にシーズン序盤戦はBox to Box、もしくはBox to ポケットとして、昨年までよりもより果敢な攻撃参加を見せていて飛躍を感じさせるところがありましたし、このチームで変わろうとしている姿勢を最も早期に見せてくれた選手の1人でした。
- しかし元々そこまでクイックでスピードのある選手ではない(と見える)ので、 高嶺にも言えますが開幕当初のコンサの適当な1stディフェンスが無力化されて、広大なスペースを中盤センターとCBで管理することを強いられたり、敵陣高い位置からプレッシングを仕掛けるとしつつその形も整理されていない中で、広く守るのが苦手そうな馬場では限界を感じるところもありましたし、そういう時に一か八かのスライディングを選択してしまうところも健在でした。
- ですので柏への移籍については、冒頭に書いた変化の兆しや、高嶺の負担が増すとの観点では痛かったり惜しかったりはするのですが、本質的に岩政監督の目指すスタイルに向いているかというと微妙なところもありました。柏から更に選手の目指すところに飛躍を心から祈るところです。
5.4 サイドバック
<総評>
- 4バックのシステムを念頭に置いたときに、左はパクミンギュと岡田、(他のポジションでのカウントに含まれてSBからは外れて欲しいところですが)中村桐耶と、とりあえず頭数は確保したものの、右はどうカウントしても髙尾1人のみ。ですので4バックの採用は開幕時のスカッドからは現実的ではない状況でしたが、諸々の状況により前半戦は4バックがメインとなったことはご存知の通りです。
- トレーニングでは、私が見た時は田中宏武や原がSBとしてカウントされたり、紅白戦ではカンを頭数に入れたりしていましたが、いずれも実戦級ではなく髙尾が起用できない時は高嶺を回すなど、ここも”競争”とは程遠い編成でした。
- この頭数の問題とは別に、このポジションの選手に共通してみられた傾向は、①低い位置でボールを持ったときに選択肢をあまり持てないタイプというか、相手のプレッシングを剥がすフェーズにおいて自分がボールを持ってパスなどで解決するというよりは、味方にボールを預けてフリーランするタイプの選手が多い(雑に言えばビルドアップであまり貢献できない)、②放り込まれたボールを跳ね返すプレーや絞ってのマーキングがあまり得意ではなく3バックでの左右のDFとして心許ない、といった点が挙げられるでしょうか。
- 上記の①に関しては、特に自陣でCB→SBとボールが預けられたときにコンサはSBから中央方向、SBの視点では斜め前方向に選択肢を持っていないことが多く、SBは縦にしか出せずそこを狙われて簡単に詰まってしまう場面が多くみられました。
- これはCBの選手のボールの持ち方や配球能力の問題も大いにあるのですが、CBにせよSBにせよ、ボールを保持するスタイルのフットボールをやりたいと言っている割にはそれが得意そうな選手が不足していて、コンサのそうした選手を集める役割の部門の仕事は”強化”というよりも企業の人事部の新卒採用のように、「とりあえず頭数だけは30人程度選手を確保しました!」というような仕事をやっているのかな?と感じるところはあります。
- コンサの場合、こうしてプレーモデルが明確ではない、もしくは構築・検討できておらず、これから着手するにしてもしばらく時間を要するのは仕方ないとして、最低限システムが3バックベースなのか4バックベースなのかは明確に監督と握るところから始めた方が良いのかもしれません。このシーズンのJ2だと仙台やジェフのようなチームは自分たちのシステムが決まっているので、そこまで明確にプレーモデルとまで意識していないにしても、集められた選手がどのポジションなのか?というのが全く見えないという状況はコンサと比べると明らかに少なそうだな、と感じました。
- 髙尾とパクミンギュはそれぞれ、かつての所属先でサイドバックをやっていたのでこの枠でカウントでき、岡田もまぁカウントできるとして、以上!という状況でキャンプインします。右は控えがいないし紅白戦で誰かを回さないといけない。だから岩政監督は4バックの採用を考慮しなかったのだと思います。
- しかし開幕後は、大﨑中心の3バックシステムの崩壊もあり4バックの1-4-2-3-1になったことで、急遽サイドバックという概念がコンサに数年ぶりに生じ、人員確保の必要性が生じます。
- こうしたトホホな状況でもとりあえずシーズンを乗り切れたのは髙尾の頑張りと、高嶺や田中宏武といった選手のコンバートでした(ただし高嶺のコンバートは当然他のポジションの層を薄くします)。
- 4バックになった後は左右で役割が異なる構図でした。これは2列目の右が近藤(サイドアタッカー)で、左が青木やスパチョーク(より中央に入っていく攻撃的MF/シャドー)だったことが大きいです。
- 要するに右は近藤と髙尾で2人体制ですが、左はパクミンギュや高嶺、中村桐耶が1人で組み立てから前線での攻撃関与など全て担う必要があるわけです。パクミンギュに関しては難しい状況に置かれていましたし、ここはチームとしてもう少し整理できたのではないでしょうか。
2 髙尾 瑠
35試合、3,108分出場(うち先発35)、0ゴール、3アシスト
- 前のシーズンはキャンプで出遅れ、本調子になるまでシーズンの半分くらいの時間を要しましたが、このシーズンは少なくとも継続的にプレーできるコンディションを維持することができました。
- プレーに関していうと、まず4バックの1-4-4-2ベースだと縦関係になるのが近藤。別の記事でも割としつこく言及しましたが、あらゆる局面において近藤は高い位置を取ることが多かったので、サイドの深いところの防備は髙尾が一身に引き受ける部分が大きかったです。近藤がもっと自陣に戻ってくる振る舞いをしていれば、サイドで相手の仕掛けに対し近藤が中切り、髙尾が縦切り、のように2人で対応もできたと思いますが、髙尾が1人で中も縦もケアしなくてはなりませんでした。
- そうした状況でも、例えば相手がカットインする選手なら右足を切って外に誘導して…という対応から完全に仕事をさせない、まではいかなくても、最低限自由を奪って決定的なプレーには持ち込ませないような振る舞いはできていた印象で、そこはさすが髙尾といったところかと思います。
- しかしこれも印象論で恐縮ですが、堅実な髙尾にしてはこのシーズン波があったようにも思うところがあり、アウェイのvs大宮(11節)などで流石と思わせるパフォーマンスもあれば、前半戦の山場だったvs磐田(14節)では開始10秒で酷いクリアミスから試合を壊してしまうこともありました。
- また上記の「総括」で挙げた、SB→ボランチに斜めのパスを出すスキルをあまり感じないところもあり、前半戦は右で髙尾と家泉が並ぶとビルドアップの手詰まり感は強かったと思います。
- ですので基本的には大外でプレーするタイプの選手かと思います。4バックならSBでいいとして、3バックならDFではなく、岩政前監督のラスト2試合のようにWBの方がプレースタイルに合っているいるかもしれません。
- オーソドックスな役割でも3バックのDFとしては微妙なところがあるとして、柴田監督体制では(岩政体制を踏襲して)3バックの右の選手が列移動して中央に入ったりする難しい役割が設定され、宮の故障もあり髙尾がこの役割を(西野に変わって)担いましたが、正直なところ髙尾が中に入っても西野のようにボールを受けたり運んだりできるわけでもないため、そこまで有効ではなかったと思います。
3 パクミンギュ
20試合、1,466分出場(うち先発17)、1ゴール、1アシスト
- 故障もあったとはいえ、前のシーズンの鮮烈な活躍があっただけにパクのパフォーマンスはこのチームの最大級の誤算だったといえます。
- ボール非保持(≒守備)に関しては、足の速さを活かした平面でのタイトな対応が24シーズンは印象的でしたが、おそらく(韓国サッカーのオールドスタイルそのままに?)マーク対象が明確に決まっていて相手についていけばOKという枠組み、つまりミシャ体制のように最初からマークを決めてシステムを相手に合わせるやり方の方がこの選手には合っていて、岩政体制のように(というかミシャ以外のフットボールは大体そうですが)特定の選手をマークするだけでなくスペースを管理したり受け渡したりする仕事が加わると、パクの1v1でのスピードが活きなかった印象があります。
- また「平面での」、と書きましが、特に3バックの一角として出場したときの空中戦での対応は平均的なCBの水準にはないので、そもそも3バックだとCBでもWBでも起用が難しいという問題はありました(加入時に抱いたイメージ通りでした↓)。
動画見たけどSBですね。3バックの一角ではないと思う。
— AB (@british_yakan) July 15, 2024
クロスを跳ね返したりしてるシーンが一切ないのが、、、#querie_british_yakanhttps://t.co/TV6i7KVvh1
- 最終的に3バックの左WBとしては、それまでの役割(3バックのCBまたは4バックのSB)よりもマーク対象や仕事が明確になりやすいこともあり比較的やりやすいようには見えました。
- 一方で大外で相手のサイドアタッカーと対峙する際に、特にカットインしてくるタイプの選手に対し、相手の利き足を切ることができずフィニッシュに持ち込まれる場面が散見されました。相手の特徴が頭に入っていなかったのかわかりませんが、少なくとも大外を1人で任せられるような強さは感じませんでした(高嶺は1人で奪い切る能力があったので高嶺のSBの方が対応能力はあると感じました)。
- ボール保持の際のプレーに関しては、まず開幕時には1-3-4-2-1の左DFとして、ボール保持の際は「CB2人のうち左CB」の役割からスタートします。
- しかしこの時も、チーム全体の不安定さによるところも大きいとしても、CBとして根本的にプレス耐性がなく簡単にボールを手放す(前に放り込む)選択をとってしまうことも少なくなかったですし、相手を剥がしたりスペースを見つけて前方にパスを出す能力がそこまでなく、計算が立つと思われたこのポジションを開幕早々不安定なものにしてしまいました。
- ボール保持に関しては、おそらく味方にボールを預けて前に出ていくプレーが得意だと思われます。
- ですので3バックのWB、4バックのSBを問わずボールを預けられる選手、左にスペースがあるときに展開できる選手(左利きの方が出し手として向いている)がいればより強力なユニットになれたかもしれませんが、前のシーズンに割とユニットとして機能している印象だった青木の起用法が安定せず、SBとしての役割(前なのか後ろなのか、大外なのか内側なのか)、が定まらなかったこともあって、違いを生み出すには至りませんでした。
- 最終的には柴田監督体制で3バックの左WBに定着しますが、WBとしては1v1での突破がなく、クロスボールでのラストパスもそこまで優れてもなく、引いた位置で前にパスを出す役割でもなく…となると、このタイプの選手が左WB固定で、かつそのスピードを活かせるパスの出し手もいないとなれば、サイドから相手の脅威になる攻撃をすることは必然と難しくなると思います。
- パクにせよ髙尾にせよ1人でなんでもできる選手ではなくユニットとしてプレーすることが不可欠ですので、「強化部」が「人事部」と化しているクラブのとばっちりを受けていたとも言えると思います。
5.5 センターバック
<総評>
- モダンフットボールにおいてはボール保持(≒攻撃)はGKとCBから始まり、逆にボール非保持(≒守備)はFWから始まります。
- 必然とこの2つのポジション(というセンターライン)が重要になるのですが、近年コンサの関係者は頻繁に「タイトルを取る」等と言っていますが、タイトルを狙うチームである割にはCBの軽視というか強いチーム、自分たちが目指すようなチームにどのようなCBが必要か未だに定義できていないように見えます(FWも数は多いけど同じ)。
- CBの開幕時のラインナップ、家泉、中村桐耶、西野、にCBとしてほぼ4年ほど稼働していない大﨑、4バックだとSBになる髙尾、パクミンギュ…以上!という状況を見ても「とりあえず頭数は揃えました」水準でしかなく、どんなフットボールをするかは完全に監督に投げられていた状況で、果たして「強化」機能がこのクラブには存在するのか?と改めて思わされます。
- この開幕時のラインナップでシーズン38節のうち18節を消化した頃、夏のマーケットで浦上と宮が加入します。昨年J3だった大宮でこのシーズン4番手以下のCBだった浦上が、このクラブでは「声を出して味方を動かして組織で守れ、かつボールを運べる選手」として合流から1週間足らずで不動のCB1番手に君臨したという事実が全てを物語るでしょう。
- その浦上も、昇格が潰えた後の最終盤ではベンチスタートとなり家泉が再登場することになり、ある種この2選手が二項対立のような位置付けにもなりましたが、このシーズン散々迷走した末に、このタイプが全く異なる2選手のうちどちらがコンサが目指すフットボールにフィットすると言えるのか、シーズンを終えた時点でも全くわからない、という状況こそがチームとしての積み重ねや確固たるプロセスの欠如を物語っています。「攻撃的なサッカー」という言葉だけが独り歩きしていますがそれはどういった選手、どういったプレー、どういった原則のもとに構築されると考えているのでしょうか。
4 中村 桐耶
19試合、1,092分出場(うち先発12)、0ゴール、1アシスト
- トップチームと契約してからの6年間、CBとしてどうプレーするのか、相手のFWにどう対峙するのか等の具体的なインプットがほとんどされなかったように見える期間を送り(その間、自分自身で「福森との差別化」を考えた末に、ボールを持ったときに自陣から高速ドリブルで敵陣に入っていくプレーを開発はしましたが)、24歳で迎えたこのシーズンは元日本代表CBの理論派監督(と、監督が懇意のCB出身のコーチ)との出会いがあり、キャリアの中でもCBとしては最大のチャンスだったかもしれません。
- しかし結果は負傷離脱もあったにせよ、岩政・戸川コンビでもコンサ期待の左利きの大型DFをCBとして本格化させることは叶いませんでした。
- シーズン序盤にパクミンギュの離脱と4バックへの移行が重なり、3バックの左または4バックの左CBの位置を与えられます。4バック移行後の5-7節はCBとして先発し、このシーズン下位に沈むこととなる秋田、愛媛に連勝しますが、8節では西野がチャンスを与えられ、続く9節(vs水戸)では家泉の体調不良により一度桐耶が復帰する(西野と組む)ものの、馬場の退場もあり3失点を喫したこの試合での対応でCBとしては完全に見切られてしまいます。
- 以後は主に4バックのSBとしてカウントされることになりましたが、個人的にはサイドで1v1で対峙したときに、寄せきれずにパスコースが残っていて中央にパスを通されることが少なくなく、守備固めとしてもここは気になるところでした。
- 西野の証言などをみても、ここ数年では最も「教えてくれる」監督との出会いだったと思いますし、左利きの選手が少ないというチャンスでもあった中で残念ながら十分に活かしきれなかったという印象が残ります。
15 家泉 怜衣
26試合、1,743分出場(うち先発18)、5ゴール、0アシスト
- 前方向からくるボールに対する空中戦での競り合いはJ2ではほぼ無敵で、スタンディングからでも助走ありでも家泉に勝てる選手は滅多に見当たらず、特に下位のチームはボールを持ったときにとりあえずまっすぐ前に蹴って拾って…というプレーも少なくなかったので、そうしたチーム相手に中央に家泉がいる時は非常に頼りになります。
- 一方でボールを持った時のプレーに関しては、まっすぐボールを蹴る能力はあるものの、ボールを持っている時に相手と駆け引きやボールタッチの繊細さ、引き付けてボールを運んだり味方を助けたりするプレーには乏しいので、CBのポジションから前方にボールを運ぶプレーについては、専らそのパススピードで解決する傾向にあり、その高速パスを繰り出せない時は前にとりあえず放り込む選択、隣のSBに預ける選択が目立ちます。
- インサイドキックでの高速グラウンダーのパスを持っていますが、前方向よりも横(右)方向に使われることが多く、特にシーズン序盤は4バックの右CB家泉→右SB髙尾へのパスがハメパスとなることも少なくありませんでした。
- しかしこの選手を見ていると、そもそものメンタリティの問題を感じます。
- センターバックやボランチの仕事は、地道に繋いで構築して、スペースを埋め、ミスや事故を回避し、我慢しながら相手の隙を窺う…といったものになりますが、全体的に家泉は1発のプレーで局面打開しようと考えているような雰囲気を感じます(↓の、なぜか長谷川に後ろの管理を任せてゴール前に突っ込んでいったプレーなどが典型ですが)。
独走劇的ゴール🔥
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) August 9, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第25節
🆚 長崎vs札幌
🔢 2-1
⌚️ 90+7分
⚽️ マテウス ジェズス(長崎)#Jリーグ pic.twitter.com/pCKLEOhoXk
- ですのでそもそものメンタリティとしては、地道な役回りで味方を助けるというよりは、自分が美味しいところを決めてヒーローになることを好むタイプなのかな?と感じました。
- であれば技術以前に、メンタリティとしてはモダンフットボールにおけるCBやボランチ、後ろの役割よりもセンターFWの方が向いています。そうした選手をシーズン前半、ほぼ唯一のCBとして継続起用しなくてはならない状況は、前監督にはまさに”根深い問題”でしたし、6月に浦上と宮の加入によりリプレースされたのは必然でした。
- その後、学級崩壊を経て就任した柴田監督体制では、徐々にボールを捨てるスタイルに傾倒した結果、ボールが行ったり来たりしがちな試合展開となり、前から来るボールを跳ね返すことが得意な家泉にシーズン終盤で再び白羽の矢が立ちます。
- そうして家泉にチームが合わせているわけではないですが、彼の選手特性と親和性が高めのスタイルで最終盤の試合を消化し、シーズンを終えることとなりました。
- この終盤戦3試合にスタメン出場した際は、開幕当初よりもボールを持ったときに意図を感じる振る舞いが見られたのでそこは今後期待したい点でもありますが、相手が前線から殆どプレッシングを仕掛けてこないチームだったことは(大いに)割引く必要があるでしょう。
- シーズントータルで見ると、家泉が得意なフットボール≒いわきFCスタイルであり、チームの核となるポジションにこのタイプの選手が1st choiceで本当にいいのか?は「強化」を考える上でかなり重要な要素になると思いますので、熟考いただきたいところです。「家泉がCB中央なら完全に彼が得意なスタイルのフットボールになりますが、チームとして目指す方向はそれでokということになったんですかね?」という問いです。
- あとは細かい点ですが、ドリブルで仕掛けてくる選手に対峙した時に簡単に背中を向けない対応と、空中戦に関しては前から来るボール(ボールと相手を同一視野に入れやすい)はいいとして、横からくるボールへの対処はまだ向上の余地があるように思えます。
47 西野 奨太
30試合、2,527分出場(うち先発29)、0ゴール、1アシスト
- 西野の台頭がこのシーズン最大の収穫であり、岩政体制での最大の功績でした。開幕時は3バックの右として髙尾や家泉の控えで2〜3番手扱いだったはずですが、出るたびに味方の信頼を得て、序盤戦から高嶺と西野のチームと呼んでも過言ではない存在になっていました。
- 足の速さはおそらく平均くらいなのでしょうけど、射程に入ったときには無理に足を出さずとも相手のアクションを抑制できる身体の強さが伴い、2,500分出場しながらも警告0というのは(コンサで非常によく見られた)無謀なタックルに頼らずとも仕事ができることの証明でしょう。
- そして最大の魅力はボールを持った時の落ち着きで、右利きでありながらDFとして左足にボールを置いた状態で、相手FWのプレスをギリギリまで待ちながらボールをリリースできますし、その際に前に放り込むだけではなく中央の、相手FWが出た背後で待つ味方のボランチの選手を狙うことができる。
- DF陣の中では西野1人だけ別の概念のフットボールにいるようなもので、中盤戦以降はDFの位置から1列上がる役割も与えられましたが、この役割変更でも元々の良さを失わず堅実さと創造性を両立するかのような振る舞いでした。
50 浦上 仁騎
16試合、1,384分出場(うち先発16)、0ゴール、0アシスト
- 加入前の印象は、「サイズがなくそこまで足も速くないけど、相手にしつこく食らいついてゴール前のスペースも簡単に空けないDFらしいDF」。岩政前監督の言葉を借りれば「声が出る選手」。
- 「ボールを持ってプレーする攻撃的なサッカーであることは揺らぎない」みたいなことを言っていたコンサですが、浦上の登場までは、最終ラインでボールを前に運ぶ仕事を引き受けてくれるDFが皆無という絶望的な状況でしたので、浦上はたちまちこのチームにおけるボールポゼッションやbuild-upの中心人物となり、宮と共にデビューとなった19節からコンサは3勝1分で乗り切ることに成功します。
- 選手個人としてはボールを持った時にそこまでスキルフルだとは思いませんが、少なくともこのシーズン真ん中を任された選手(開幕時の大﨑、パクミンギュ、家泉、中村桐耶…)と比べると、ボールを持った時のプレー選択や戦術理解と守備能力のバランスでいうと明らかに浦上が一番整っていました。
- またキャプテンの高嶺と、メンタル面、技術戦術面双方での密度の濃いコミュニケーションをとっていたこと(チームのぬるさの指摘、自陣での守り方のすり合わせ…)も報じられていました。特に守り方については方針が明確になり、柴田体制で(主に下位チームから)勝ち点を拾う上で有効に作用したと思います。
- こうして浦上と宮が加入した後のコンサは岩政監督の契約解除までの7試合を4勝1分2敗(負けは長崎と磐田)で乗り切りましたが、柴田監督体制でも浦上は引き続き起用されたものの徐々に状況が変わってきます。
- 「岩政監督は難解なサッカーを提示したところ選手の理解を得られず、柴田監督はよりわかりやすい(日本サッカーでよくいわれる”シンプルな”)戦術に切り替えて立て直しを図った」みたいな論調の記事が道新などに載っていましたが、要は、柴田監督はある程度は選手に好きなようにやらせるというか、戦術としてボールを持つ時間を増やすことを諦めて、選手に好きな時に好きなように走ったり蹴ったりしていいよ、という方向にチームを寄せていった、ということになります。
- そうすると、コンサが前に蹴る頻度が増えるということは、毎回、前で絶対にボールを収めてくれるとか、毎回シュートおよび相手のゴールキックにプレーを帰結させることができるとかではない限りは、コンサがボールを失ってカウンターを食らう機会が増えることにもなる。
- こうなってしまうと大宮の4番手CBだった浦上が中心では、少なくともJ2トップレベルを目指すチームでは圧倒的にクオリティ不足を痛感させられます。特にクロスボールへの対応ではパワー以前に相手を捕まえられていないところも目立ち、彼が高嶺と擦り合わせたように、もっとゴール前に味方の枚数を確保して密度を高め、浦上が簡単に晒されないようにするやり方が必要だったでしょう。
- そうしたディシプリン(これこそまさにフットボール的な規律ですね)を発揮していくには、「好きな時に好きなように走ったり蹴ったりしていいよ」では明らかに限界がある。こうして夏の救世主はシーズンの終わりにはチームとアンマッチというか、路線変更の割を食ってしまうこととなりました。
- ただフラットに見ると、チームリーダー、戦術理解といった正の部分と、対人の弱さはJ2でも目立つという二面性があり、J2でトップを目指すチームのコアになる選手というよりは、グループの中で15-20番手くらいでバックアップの層を厚くするとかトレーニングの質を高めてくれるとありがたい、といった位置付けになるかと思います。
55 宮 大樹
9試合、736分出場(うち先発8)、0ゴール、0アシスト
- このシーズンにプレーした選手の中では最も「CBらしいCB」。おそらく左利きのCBが欲しい、とするリクエストがあって獲得に動いたのでしょうけど、左足でボールを持てる選手である以上に、CBとして中央から必要以上に動かず、最後に大事なところで身体を張り相手の選択肢を消す対応は明らかにこのチームに足りないものでした。
- また試合の終盤に「なんでもいいから守り切って勝ち点を拾う」という選択がベターなシチュエーションがシーズン中に何度かあるとして、中央を守れる宮がいるときにはこうした共通理解が明確になり、DFとして個人の跳ね返すスキル以上に味方に好影響を与える存在でもありました。
- ボールを持ったときには少なくとも家泉よりは確実に落ち着きがあり、ボールの動かし方も知っている。ただ左利きということで左に置くよりも、機動性や中央を守る能力を考えると3バックならば中央に配置したい存在でした。
5.6 GK
<総評>
- 「GP」という呼称がイマイチ自分には定着しないためこの表記とします。トレーニングを見た限りでは、この4選手だとやはり高木と菅野の争いになるのは納得でした。
- 児玉は個別に項目を立てないのでここに書きますが、どうしても菅野との比較になるとして、シュートストップは明らかに菅野に分があると感じました。
- 小次郎は菅野、高木の離脱時に起用され、11試合で17失点でしたが、ジェフ、水戸、磐田で計10失点を喫した部分が大きく出場試合中はGKのパフォーマンス以前の問題もありましたし、コンサに加入してからでは最も期待感を抱くシーズンでした。ただ彼もトレーニングを見ると菅野、高木との差は感じましたので、スカッドの年齢バランスは気になるにせよ実力的には2人の争いであったことは間違い無いでしょう。
1 菅野 孝憲
16試合、1,384分出場(うち先発16)、失点22 ※出場時間中
セーブ率61%、PA内セーブ率45.9%、PA外セーブ率94.1%
クロスキャッチ率10.9%、クロスパンチング率5.7%
- 高木にも言えますが諸々のスタッツは参考程度と考えてください(シチュエーションが明らかではないものの総和的な統計値を過信してはいけません)。ただリーグ全体での比較で見ても各数値ともそこまで優れているとは言えません。
- 宮の沢でのトレーニングを見ている限りでは、中距離のシュートを横っ飛びしつつ空中で腕の位置を調整してボールをはたき落とすようなエグい技術は未だに健在で、同じ練習をしている児玉よりは少なくとも上のパフォーマンスだとは確認できるのですが、基本的には前に出てコースを狭めたり、クロスボールに積極的に飛び出したりしてサイズを補うプレースタイルだといえる中で、このシーズンは相手のシュートの際に見極められ、届かないコースを狙われての失点が多かったように思えます。
- ただこれはチームの守り方にもよるもので、特に距離があるところのシュートではDFがコースを切れない、そもそも枚数も揃っていなくてDFも準備ができていない…という場面も少なくなかったため特に菅野のようなスタイルだと厳しい仕事だったかもしれません。ですので5ヶ月後には42歳になりますが、明らかにパフォーマンスが落ちたという印象はそこまではありません。
21 高木 駿
15試合、1,332分出場(うち先発15)、失点24 ※出場時間中
セーブ率65%、PA内セーブ率57.8%、PA外セーブ率79.2%
クロスキャッチ率19.0%、クロスパンチング率6.8%
- 足でボールを扱い、特に相手の1列目のプレッシングを受けた状態で列を越えるパスを中央に出すプレーに関しては今なおJリーグで5本の指に入ると思われるGKを、岩政前監督が放っておくわけがなく、長期離脱から復帰直後の20節(vs藤枝)から即起用されます。
- 同時期に加わったCBの浦上、宮と共にようやく役者は揃ったというか、うだつの上がらないチームのボトルネックであった悲惨なユニットが一旦解決し、ようやく監督の手腕や適性についての議論にフォーカスできる状況となりました。
- ただ、23節(vs磐田)ではその高木のミスもあって5失点での大敗を喫しましたが、出し手(高木)の問題ももちろんあるにせよ、CBを飛ばして3列目の中盤センターの選手に配球できる高木の存在が、むしろそのポジションの選手の資質(受け手となったりボールを動かす能力)が水準に達してるかを際立たせたと思います。
絶妙トラップから振り向きざまのボレー🫶
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) July 12, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第23節
🆚 磐田vs札幌
🔢 3-0
⌚️ 31分
⚽️ ジョルディ クルークス(磐田)#Jリーグ pic.twitter.com/ls1lCSUyBp
- GKとしては受け手が消されていたり信用できない中で難しいプレーを選択したことが裏目に出ましたが、コンサの場合、前線、というか中盤から前で違いを生み出すことが難しいなら、よりスペースのあるGKやDFのところで相手を外したりなんらか仕掛けていくプレーが必要で、単にGKがミスをしたというよりは、GKよりも前の選手がボールを運ぶことが難しいがために、GKそこまでリスクを冒さなくてはならないことが根本の問題としてアプローチしなくてはならなかった話かなと思います。
- シュートストップに関しては特に至近距離でのシュートに対する鋭い反応を見せた一方で、比較的離れたところからのシュートやセットプレー絡みでの失点が目立ったシーズンでした。
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以上で一連の企画を終わりにします。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。


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