2024年12月11日水曜日

北海道コンサドーレ札幌の2018-2024シーズン(2) 〜新卒ボーナスは存分に享受〜

  • 前回はピッチを取り巻く環境について振り返りました。ちょっとずつピッチ上の現象に論点を近づけていきます。

※今回も基本的に敬称略


2.ある種の低予算ボーナス

年間順位、勝ち点、強化費…:

  • まずリーグ戦の年間順位でいうと、2017年の11位から、4位、10位、12位、10位、10位、12位、そして今年の19位と推移しています。
  • ただ順位というのはよそのチームの都合にもより変動します。1試合平均勝ち点でみると、1.26→1.62→1.35→1.14→1.34→1.32→1.17→今年の0.97、と推移しています。

  年間順位 勝ち点/試合数 トップチーム人件費(百万円) 人件費順位(J1)
2017 11 1.26 1,206 16
2018 4 1.62 1,502 15
2019 10 1.35 1,698 14
2020 12 1.14 1,614 13
2021 10 1.34 1,666 14
2022 10 1.32 1,814 13
2023 12 1.17 1,723 14
2024 19 0.97  未集計 未集計


  • 2024シーズンを除くと数字的に底になっているのが2020シーズンの1.14(勝ち点39)で、これに関しては、この2020シーズン途中から「降格がないシーズンなので結果を追求するよりも戦術浸透に充てる」と宣言した上での結果でした。

  • 人件費については扱いが難しい(順位というより金額と勝ち点の相関でしょう)ですが、このサイトの見解↓に幾分か同意します。
https://syuukatsuclub.jugem.jp/?eid=127

  • 要はJリーグは、人件費と成績の散布図を作ると著しく費用対効果が悪いクラブが毎年いて、それらの「あからさまに失敗しているチーム」を外れ値とすると、18-23年の6シーズンにおいて、コンサは2018シーズンを除くと概ね人件費からすると妥当な成績に着地しており、2017,18シーズンに関しては、人件費を基準とすると想定よりもかなり上振れした結果だと捉えられるでしょう。

  • 24シーズンに関しては、人件費がいくらかまだわからないので「費用対効果が著しく悪い」などとは言い切れません。ただシーズン途中に補強した選手の原資として、パートナー企業から推定3億円以上?のサポートを受けており、結果的には(近年のコンサ比で)それなりのお金を使っていると推察されます。


人件費はあくまで目安でしかない:

  • 一方で人件費やお金まわりのところで難しいのは、前回の記事でも見ましたが、
  • このように19年(18年オフ)が投資期間だとして、実際にこの間に多くの選手が加入しましたが、人件費でいうと22年の方が上回っている。
  • これについては、何らか複数年契約の選手の減価償却的な処理なのか、移籍金の分割払いのような手続きをしているのか、詳しくは謎ですがそうしたからくりがありそうで、単年の人件費と順位を紐付けしづらいところではあります。
  • 22年というのは、20年に加入した大卒の選手が3年目で主力として活躍しているシーズン。Jリーグは新卒1年目の選手に関しては年俸上限が決まっており抑制策がとられています。しかし若く、他所のクラブからも需要がある選手は2年目以降に引き止めのため年俸抑制が難しくなる。コンサの場合も2021年から特に、現有戦力を維持するだけでもお金が出ていく、というフェーズになっていたのだと推察されます(三上GMのそうしたコメントがありましたがソースを保存し忘れてしまいました)。

  • ですので人件費はあくまで多少の目安でしかない。10億とか差があれば変わってきますが、コンサにおける1〜3億円程度の変動とチームの戦力とを一致させて論じることは無理があるということを頭に入れておく必要があります。

ぬるっと消えた「飛躍の年」 2021年:

  • 「19年に投資をして21年に飛躍」を思い描いていたということで、ミシャ体制での7年間のうち、まずこの期間が一つ目の(前半の)サイクル。
  • しかし20年に新型コロナウイルスが流行し、降格なしのシーズンとなる。また20年夏にエース武蔵とGKソンユンの移籍、21年夏に中国からのメガオファーでアンデルソンロペスが移籍、と、ソンユン以外は想定外と思われる事態が続けて生じます。

役割 名前 加入年 21年1月時点の年齢 備考
GK ソンユン 2015 26 27歳までに兵役消化のため退団の必要あり
  菅野 2018 36  
  小次郎 2020 22  
DF 進藤 2015 24 2020限りで退団
  福森 2015 28  
  ミンテ 2017 26 兵役あり?
  田中駿汰 2020 23 2023限りで退団
MF 宮澤 2007 31  
  荒野 2010 27  
  深井 2013 26  
  2017 23 2024限りで退団
  チャナティップ 2017 27 2021限りで退団 
  駒井 2018 28 2024限りで退団
  ルーカス 2019 26 2023限りで退団 
  中野 2019 27 2021年3月に退団
  白井 2019 26 2020限りで退団
  高嶺 2020 23 2022限りで退団 
  金子 2020 23 2023夏に退団
FW 都倉 2014 34 2018限りで退団
  ジェイ 2017 38 2021限りで退団 
  アンデルソンロペス 2019 27 2021夏に退団
  武蔵 2019 27 2020夏に退団
  岩崎 2019 24 2019限りで退団
  小柏 2020 22 2023限りで退団

  • もっとも日本人選手のヨーロッパへの移籍、外国籍選手の中国や中東への移籍は以前からリーグ全体の流れとしてはあったので、全く想定していないというわけではなかったかもしれません。
  • 注目すべきはその後の対応で、武蔵の後釜は大卒新人の小柏、ソンユンは元々在籍していた菅野と中野小次郎、そしてアンデルソンロペスは役割的には興梠、外国籍選手という観点ではトゥチッチ。
  • 武蔵が去ってからアンデルソンロペスが去る間の話になりますが、野々村社長(当時)は毎年リーグ戦の最終節でフカしたことを挨拶に盛り込むことが恒例となっていましたが、2020年は
  • とする程度にとどまっている。「来年はミシャ4年目で勝負の年です。期待していてください」みたいなことを言ってもおかしくはないのですが、そうしたフカしは自重しています。
  • 当然と言えば当然なのでしょうけど、21年夏のアンデルソンロペス売却の後に彼に比肩する選手を後釜として確保せず(都倉が去った時に武蔵を買っているように)、中国からゲットしたと思われる一定の資金や浮いた人件費分は経営危機のクラブの運転資金等に充てられたと推測されます。

  • このあたりの経緯が野々村体制(2021年いっぱいまで)において非常に不明瞭だった点で、2021年を飛躍の年と位置付けていて、コロナや武蔵の退団があっても、2020年シーズン途中から「降格がないので戦術の浸透に充てる」と宣言して負けまくっていたので、ここを見ると2021年が飛躍の年という位置付けは変わっていないように見える
  • しかし2021シーズンに蓋を開けてみると、開幕10試合2勝でスタート(その後、この年下位に沈む仙台や徳島を1点差で下して浮上する)し、その後も4チーム降格ということで上よりも下の方を気にしながら(しかし降格4チーム+湘南が低調で安全圏にはいた)過ごすシーズンを送り、元々このシーズンを「飛躍の年」と位置付けていた割には、特に騒ぎもせずぬるっと2021シーズンは忘れ去られます。

2大キーマンの退団と続く縮小路線、「飛躍の年」は完全に行方不明に:

  • その2021シーズンの終了時に野々村社長の退任報道が報じられ、2022シーズンから三上GMをトップとする新体制に移行しますが、このタイミングでピッチ上では絶対的なキーマンであるチャナティップが川崎へと移籍。そしてジェイが引退します。
  • チャナはコンサでのラスト2シーズン、先発出場が17試合、23試合(38試合制)にとどまっていて、おそらく戦術的な部分もあるのでしょうけどコンディションに問題を抱えることが多くなります。
  • 同じくジェイもラスト3シーズンで15試合、15試合、7試合と、(おそらく意図的に)戦術的に脱・ジェイを図っていたかのようなアプローチだったこともあり絶対的なスタメンではありませんした。

  • しかしミシャ体制発足時に「ボールを試合をコントロールできるようになり上のステップに」と言っていたコンサですが、この7シーズンで少なくとも「ボールをコントロール」(相手のプレッシャーを受けた状態でマイボールを維持して何らかゴール方向にプレーする)状態を実現していたのは、ほぼチャナティップとジェイの個人技によるものでした。
  • ゴール前で相手DF2人を引きつけられるジェイ、より低い位置でボールを受けて簡単にうしわない能力を持つチャナティップ、この両者がそれぞれの事情でピッチに立たないことが増えると必然的にプレー内容は変容します。

  • チャナの移籍が決まったのが2022年の年明けということで、クラブは18番をガブリエルシャビエルに託しましたが、タイミング的にこのディールは選択肢が少ない状況だったことは推察されます。
  • 一方で、同じく21シーズン限りでチームを去ったジェイ(引退)と、21シーズンに覚醒したものの夏に中国に引き抜かれたアンデルソンロペスの後釜として、期限付き移籍で興梠を獲得しましたが、こうして前線にシャビエル、興梠といったあまり総力やフィジカル的に優れていない選手が並ぶことになるスカッドは、この時に掲げていた「トータルフットボール」(前線の高い位置からpressingを開始することをコンサ語だとそう言っていた)とは親和性が悪く、かつシャビエルはチャナほど力強いプレースタイルではなく、また(右シャドーしかできない)小柏と被り、かつインサイドハーフで起用できないといった問題に直面し、センターFWで決定力を活かすという起用法が確立されたのはシーズン後半でした。

  • おそらくシャビエルや興梠といった完成品の、即戦力級の選手を選択したのは、21年を「飛躍のシーズン」とする考えが、編成時点はコロナ禍を経てもまだ残っていたのでしょう。
  • 一方で「選手特性的にあまりフィットしそうにない選手を選択する」傾向はこのあたりの時期から目立ち始めたともいえます。これはコンサのフロントがプレーモデルをあまり考えていないのか、プレーモデルは頭の中にあり的確だけどリクルートの部分が弱いのかよくわかりませんが、例えば4バック(2CB)の相手に興梠とシャビエルの2トップでは前線から制限をかけることが難しくなりますし、小柏は2トップから弾き出されてインサイドハーフとしてプレーすることになります(ただ小柏は後ろの方が向いているようにも見える時がしばしばありました)。
  • これはフロントの問題だけではなくて極端なマンツーマンベースのスタイルしか採用しない(できない)スタッフ側にも要因はあるのですが、ともかく編成とピッチ上のチグハグ感はこの22シーズンから顕著で、三上GMの言うところの「傘を広げる」(風呂敷を広げると言いたいのでしょう)フェーズは21シーズンで終了、22-24の3シーズンはサイクルの再構築もできずとりあえずシュリンクしていたと感じるところです。

トータルフットボールというサイクル最大のターニングポイント:

  • 若干前後しますが2020シーズンの6月(6月ですがCOVID-19の影響でリーグ戦が中断したため”序盤”)、武蔵がベルギーのベールスホットに移籍するためチームを離脱します。
  • 直後の試合(リーグ戦7節)では荒野をセンターFWで起用し、相手に対しほぼ全ての局所でマンツーマンでボールを奪いにいき、奪ったら時間をかけずに前線に展開するスタイルが採用されます。
  • この理由として監督は「武蔵のようなストライカーを失ったのでカウンターが重要」、と言ったり、「引いた相手を崩すにはわざとトランジションを起こすことが必要」と言ったり複数の説明の仕方をしていますが、それぞれ特におかしいところはそこまでないように思えます(もっとも武蔵が一番カウンターに向いているFWのような気はしましたが)。
  • そして時系列としては、このスタイルがお披露目されてから「アタランタみたいなサッカーを目指すのもありなんじゃないかという話を以前からしていて…」と明かされています。

  • その7節ではF・マリノスに3-1で勝利したものの、8節から16節までの10試合(途中日程変更の1試合を含む)は2分8敗で勝ちなしとチームは低空飛行を続けます。
  • それまでのコンサはボール保持と非保持のフェーズを完全に分けていて、低い位置でブロックを作って守ってから、ゴール前に人数をかけて攻撃するスタイル。森保監督のサンフレッチェ広島や片野坂監督の大分トリニータなども似たスタイルですが、このスタイルの問題点は前でpressingを仕掛けて高い位置でボールを回収することが難しく、19年のルヴァンカップ決勝が典型ですが、シャドーが下がると押し込まれて攻撃に転じられず防戦一方になります。
  • また相手ボールの際に都度、毎回自陣に撤退するので、そこからまた攻撃のために選手とボールを移動させるリソース…ボールをキープする選手や技術だったり、チームとしての仕組みだったりが必要になる。コンサよりも片野坂大分や、24年のアルビレックス新潟の方が顕著かもしれませんが、パスは何本も繋がっても、自陣から相手ゴールに近づくまでに必要なパスの本数が多すぎて、かつそれらをノーミスで自陣から相手ゴールまでプレーしないとならないというコスパの悪い戦い方に陥ることもある。

  • ですので個人的には2020年の”トータルフットボール革命”は、それまで25年間自陣に引いて跳ね返す以外の戦い方ができなかった(18-19年も含む)コンサの歴史において文字通り革命的なことだと捉えていますし、この転換こそが1億円監督ことミシャを招聘した最大のリターンだったと思います。
  • もしルヴァンカップ決勝の映像を持っている人がいれば是非見直してください。深井の劇的なゴールなどで思い出は塗り替えられていりうかもしれませんが、菅の先制ゴールから後半終了間際まで、大半の時間帯でコンサは自陣で防戦一方の展開になっています。

上積みというよりも上書き:

  • しかし革命前のコンサはそこまでボール保持やビルドアップ、相手のpressing回避といったプレーができていたわけではなく、革命によって高い位置からpressingがオプションの一つとして加わったというよりは、それまでの戦い方が完全に上書きされたかのような状態になっていました。
  • Jリーグの中でも極端なハイライン+プレッシング志向のマリノスに対しては、初見⚫︎し的な勝ち方をしましたが、やり方がバレれば各チームとも何らか対策をとってきます。例えばマンツーマンでのpressingにはまりにくいポジショニングをとるとか、ロングボールを使ってpressingを頭上で回避するなどがあります。

  • もしくはコンサの攻撃がカウンターや速攻一辺倒になることで、コンサにボールを最初から渡してpressingやカウンターを発動させないという対応もありました。
  • ボールを渡してくれるなら、それまでミシャ体制で培ったボール保持からプレーで相手を粉砕…とプレースタイルを使い分けることができればよいのですけど、そもそもコンサは18-19シーズンにおいてもたまにパスが繋がったりして相手を崩すことは確かにありましたけども、それらは相手がコンサに対して自ら食いついてくれたところで、福森やチャナティップのサイドチェンジからウイングバックへの仕掛けに代表されるように得意なプレーが発動してうまくいく…というものが多く、相手が食いついてくれないと崩すことは難しいし、特に前線守備の問題でジェイやアンデルソンロペスのようなパワーのあるFWを削っていると、荒野や駒井の頭にサイドから放り込むだけのフィニッシュを繰り返すことになります。

  • フロントが「アタランタのような〜」と語った時に違和感があったのは、アタランタはコンサとはまず経営方針が違うというか、少なくとも前線には当時もイリチッチ、パプ・ゴメス、サパタ、ムリエル、マリノフスキー…といった各国の代表級で、フィジカル(走力)と技術を兼ね備えた選手をスタメン3人+ターンオーバー要員も確保していますし、荒野や駒井をFWで使っていたコンサとはちょっとクオリティが違いすぎるなという印象でした。見たことない方はわからないとと思うのでわかりやすくいうと、武蔵をすごくした感じの選手やチャナティップみたいな攻撃的MFが複数いてそれでカウンターアタックで点を取りまくっています。
  • またDFもロメロは22年にアルゼンチン代表としてワールドカップの優勝メンバーだったり、トロイもイタリア代表でEUROの優勝メンバーに入っていたり、要は戦術に合う選手を確保した上であのようなスタイルをとっている。戦い方を問わず宮澤をDF起用したり、福森が長らくスタメンを張っていたコンサにはこうした視点はおそらく欠落しているというか、ミシャの下でプレーすればコンサのDFをアタランタのようなファイターになると思っていたのかもしれません。

  • また選手やそのリクルートが違うだけでなく、戦術的にもそもそもコンサはアタランタのようなスタイルをトレースできていたかというと疑わしいところがあります。
  • 例えばアタランタはロングカウンターというか、FWや攻撃的MFの選手が相手ゴールから30-40mくらいの距離からスタートしてスプリントを開始し、相手DFが揃っていない状態から攻撃するのが得意でした(この辺は選手が入れ替わったりしてアップデートされています)。
  • 対するコンサは、相手ゴールから何メートルとか関係なく、とにかく相手がボールを持ったらどこでもpressingという感じで頑張って走りますが、例えばサイドで相手のSBがボールを持った時に追い込んで奪っても、ボールはサイドにあるのでまず中央に横パスなどして方向転換する必要があったり、その際にコンサのFWの選手も中央から離れてサイドに動いていたり、場合によっては相手DFの攻撃参加にマンマークでついていって自陣に撤退していたりする。これではコンサのFWはカウンターでエネルギーを爆発させられるような状態になっておらず、頑張って走っているけどボールは奪えないし、カウンターに繋がるような奪い方ができていない、という状況でした。

  • おそらくガブリエルオケチュク(2021年に加入)にはそうしたロングカウンター要員としての期待があったのかもしれません。ただ、ガブリエルの後のコンサは前線にGXことガブリエルシャビエル、興梠、小林、キムゴンヒ…と、「マンツーマンでpressingしてショートまたはロングカウンター」にかなり合致しなさそうな選手を立て続けに連れてくることになります。
  • 小林はミシャに起用を直訴?したところ「足が遅いから」と言われて困っていたようですが、これに関しては監督の言い分は理解できますし、コンサの編成のチグハグさはこの辺りの時期から顕著になっていきます。

「あとは決めるだけ」が誕生:

  • 私はそのように見ていたのですが、野々村社長以下のコンサのフロントはこのチームを「あとは決めるだけ」と擁護し、2020シーズンは戦術浸透期間だと宣言していました。
  • またとあるフリーのサッカーライターの方は21年になって「札幌の強度は最強」「札幌は前半45分なら最強」といった論評をして一部のサポーターや関係者を喜ばせることになります。この辺は個人の主観ですので自由ですが、たくさん走って相手に食らいついていれば最強、というほど簡単な話ではないと個人的には考えています。

新卒ボーナスは存分に享受:

  • サイクルの中でこうした戦い方の変遷やスカッドの入れ替わりがある中で、一つ触れておきたいのは、2020年に田中駿汰、高嶺、金子が入団し、それぞれ1年目からスタメンを確保する活躍を見せ、また21年には小柏も同じくスタメンに定着しましたが、大卒1年目でスタメンを張る選手が複数いること自体がJ1では稀というか、移籍金がかからないでスタメン級を補強できるのはかなりのラッキー、チーム編成的にはボーナスと言って良い現象だったでしょう。

  • コンサ以外でそうした、大卒1年目でスタメン、主力選手が複数いるチームは近年他にあったでしょうか?2020-21年頃のサガン鳥栖で林、樋口、森下といった選手が主力だったくらいでしょうし、鳥栖は非常に選手の流動性が高く、多産多死というか入ってくる新卒選手の数がコンサとは違います。
  • またその鳥栖の森下は1年で名古屋へ、林は1年半、樋口は2年でチームを去っています。コンサは高嶺と小柏が3年、金子が3年半、2020年の段階で「オリンピックに出場して半年で移籍するつもりだった」と語っていた駿汰は22-26歳の4年間をコンサに捧げることになります。

  • これらの選手は移籍金がかからないことに加え、冒頭でも触れましたが新卒直後は低年俸で雇用できるため(おそらく2年目、3年目でも、30歳を超えた重鎮選手よりもハイパフォーマーであっても貰ってないでしょう)、これらの選手が主力を張ると、ある種の見かけ上の強化費とスカッドの不一致が引き起こされます。
  • 2024シーズンには彼らが退団し、開幕からの低空飛行もありコンサのフロントには批判が集中しますが(なぜか監督については異様に擁護されていましたが)、これはフロントが24年の編成に失敗したとか大学新卒選手のリクルートがうまくいかなかったというよりは、それまでの20-23年に、移籍金ゼロの新卒選手が当たりすぎていた、とする見方の方がフラットな気がします。
  • 金子、高嶺、駿汰が揃うのを基準にしてしまうと世の中の大半の物事は失敗扱いになってしまいます。彼らのような選手が一番いい年齢の22歳まで大学に育ててもらって、かつ移籍金ゼロで獲得というのは大学の育成にただ乗りしているだけで(それがまかり通っているのがJリーグですが)、少なくとも一つのクラブとして見た時にサステナブルな現象ではないはずです。

セットプレーの重要性:

  • といった具合で、コンサのフロントや選手スタッフの自己評価ほどコンサというチームは強くもないし優れたプレーをしているわけではないとするなら、勝敗を分けるのはスコアに直結するプレー…GKのビッグセーブやセットプレーでの攻防になります。
  • 特に24シーズンに関していうと、福森を期限付き移籍で横浜FCに放出したことはセットプレーの攻撃面で一定の影響があったかもしれません。
  • 数字の上では2023シーズン、福森は0ゴール1アシストにとどまっていますが、直接得点に関与しなくともキッカーは影響がありますし、マンツーマン主体で守ってカウンター、というスタイルならば先制点が重要になるため、ゲーム展開と関係なく得点機会を作れる福森のセットプレーは、その守備を差し引いてもプラマイでプラスになったかもしれませんし、何よりもコンサが長年「福森がいるサッカー」(脈略のないところからでも放り込んで得点チャンスのある)に慣れていたので、そういう”ワンチャン”すらなくなったことは一種のやりづらさに繋がったのかもしれません。

  • なおミシャは浦和時代のある時から「トレーニングは(エクササイズを除くと)基本的にミニゲームしかしない監督」と扱われていましたが、実際にはセットプレーの確認もやる時はあるようです(8月に見学した時は10分ほどやっていました)。
  • それでも18年は当初四方田コーチがセットプレーを確認していましたが、それも次第にトレーニングの中での優先度合いは薄れていったのでしょうか。
  • その四方田コーチと福森のタッグが24年には横浜FCで復活し、福森はセットプレーからアシストを量産しJ1復帰に導きましたが、福森がいれば…というよりも、コンサのセットプレーやディティールを軽視している感じは、順位やチーム状況を考えるともっと必死さや緻密さがあっても良かったのでは、と思えます。

まとめ

  • 北海道をホームとしており主要スポンサーが観光関連業や運輸業ということもあり、コンサはCOVID-19の影響を特に大きく受けた側だと思われる。この影響が大きく、7年間のサイクルにおいては、実は強化費はさほど増えておらず横ばい〜やや増額にとどまっている。「新しい景色を見る」と言うには心許ない状況が続いており、24年まで残留できたのはむしろラッキーだったかもしれない。
  • 前半のサイクル(18-20年)は割安な強化費で選手を集めることに成功しており、GMや編成担当の手腕が光る(当時の主力選手は退団後も各地で活躍中)。ただし新卒の即戦力の選手を複数抱えていたことは一種のボーナスのようなものであり持続性がないもので、またJ1に続けて在籍することで選手を売らない限りは人件費が膨れ上がっていく。またそもそも19年からの先行投資の結果、20年以降は移籍金の分割払いのような費用が生じていた可能性もある。
  • こうした様々な要因によりサイクル前半は予算に対しうまく”やりくり”ができ選手を集められていたと思われるが、サイクル後半はやりくりが効かなくなり、かつ人件費の使い方のまずさが顕在化してくる(下記)。

  • 短期スパンで見ると三上代表取締役兼GM体制になって崩壊したとみるかもしれないが、より長いスパンだと投資回収に失敗している。最初は「降格してもいい」と言っていたが、野々村体制で経営的には勝負することを選択し、ルヴァンカップ準優勝という思い出と共に負債が残った。
  • 現在(24年12月)、駒井や菅といった選手をフリーで手放す状況になっており、結果的にはこの勝負は時期尚早だったと思われる。ただし身の丈を越えようとする投資がないとサッカークラブは成長しないので、難しいところだが、確実に言えるのは野々村社長期に勝負に出て、結果的には負けたということになる。

  • 24シーズンの編成や補強の失敗がクローズアップされるが、7年間のサイクルで見るとサイクル前半は編成が非常にうまくいっているというか、予算以上のスカッドを運用している。
  • よって24シーズンがダメというよりは、7シーズンで平準化すると、どこかのシーズンで身の丈を超えていた分の帳尻を合わせなくてはならず、それが24シーズンだったとも考えられる。

  • 経営的にリスクを負うことには一定は理解するとして、問題はその金の使い方。
  • 例えば監督招聘時に「ボールとゲームをコントロールする」と言っていたが(これが何なのか具体性がなく謎だが)、一般にボールを持つプレースタイルを志向するならFWや攻撃的MFよりもDFとGKが重要になる。コンサはそこにあまり投資している感じはせず(例えばミンテの補充の岡村が期待以上の活躍をするとかはあったが投資額としては前線ほどではないはず)、また20年6月以降はほぼ180°プレースタイルを転換する。
  • その場合も、「マンツーマンで守ってpressingから速い攻撃をしたい」なら、対人に強いDFや速いFWが必要。特に前線のアンマッチ感は21年のアンデルソンロペス退団後に顕著。こうしたチームのプレーモデルと選手のプレースタイルについてあまり考えていなかったのか、考えていたけど資金不足でうまく動けなかったのか、いずれにせよ抽象的かつ主観的な「あとは決めるだけ」「攻撃的なサッカー」といった言葉が、サイクルを通じて一人歩きしていた印象はある。
  • コンサで「ボールをコントロール」していたのはDFではなくチャナティップとジェイ。それぞれ2021シーズンでの退団でクオリティは明確に低下。ただ、そもそも退団以前に両者はコンディション低下がみられ、そうした選手を長く引っ張っていても「新しい景色」に辿り着けたかは疑わしい。

  • 現場(監督の)仕事としては、DFや後方の役割ではアカデミー出身の選手や新卒など若手選手の起用が目立った。しかしこれらのDFは揃って、ボールを運ぶよりも味方にボールを預けてオーバーラップすることを好むタイプで、それらの選手に「ボールとゲームをコントロールする」ことを教えるのは最初から諦めていたし、クラブが期待したような建設的なアプローチはしていなかったように思える。コンサはやたら前線の選手を抱えたがるが、2024シーズンでいえば前線にあまりお金をかけていなさそうな新潟やヴェルディが順位もプレー内容もコンサを上回っていたのは示唆的である。

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