2024年4月28日日曜日

2024年4月27日(土)明治安田J1リーグ第10節 北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ 〜no ideaからnot sureへ〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 湘南は、開幕戦は川崎相手に4バックの1-4-4-2を採用。3節の福岡(システム1-3-4-2-1の3バック)戦以降は3バックの1-3-1-4-2と1-4-4-2の布陣を併用していますが、相手がどうだから、自軍がどうだからという一次関数的な決め方ではなくて色々な変数があって使い分けているようです。
  • ただ一つ言えそうなのは、中盤センターが1人になる1-3-1-4-2は田中聡の有無とその彼のパフォーマンスでかなり変わりそうに思えます。
  • 要するに3バックだと最終ラインを1人増やせるけど中盤センターの枚数が削られるのでそこに能力のある選手が必要。逆に4バックだとCB2枚で対応しなくてはならないので、キムミンテと組む選手(今の所は大岩が軸でしょうか)が重要になりますが、相手とのマッチアップ的にCB2枚で対応できそうなら優先度が上がるオプションなのかと思います。

  • そして田中聡は現在U23日本代表に招集中のため、この試合はWBの横幅を使ってプレーする(ということになっている)コンサ相手でも横幅4枚で守る1-4-4-2を選択したのだと思います。
  • 前線は3年目の、浦和戦で2ゴールを挙げた鈴木章斗が本格化の兆しを見せつつある気がしますが、宮澤に対してフィジカルで優位に立てそうな彼の不在はコンサにはかなり大きいでしょう。あとはGKが、富居の負傷もあって固定できていないことも厳しいところです。
  • そして鈴木の不在により前線でルキアンと組むのは阿部。阿部がFWのプレーをする(ルキアンと2トップ)ならコンサは2バックになるし、トップ下で下がったところにいるならコンサは3バックになるので阿部の振る舞いは重要でしたが、結果としては阿部はほぼFWとしてプレーしていたと思います。

  • コンサは武蔵が負傷から復帰で、前線で浅野と組みます。4バックの湘南相手なのでスパチョークは中盤センターのような役割になります。
  • 最終ラインは岡村と菅が負傷のようで、中央に宮澤、左に中村桐耶。




2.試合展開

下位同士が前に蹴るだけの45分の明暗:

  • 前半は特にエンタメとして見どころがない試合でした(試合をみていない人がいるなら、どのチームを応援してるとか関係なくゴールシーンだけハイライトで見ればいいと思います)。
  • コンサが2点を先行する展開でしたが、まず2点目のCKは基本ゾーンで守る(スペースを埋める人が3-4で計7人?とかなり多め)湘南は、コンサのターゲットを非常にフリーにしやすい構造で、結果的に決めた近藤以外にも攻略のチャンスは大いにありそうな、非常に強度のない対応だったから、という点が大きいです。

  • どちらかというと23分の青木の先制点の方が、ゲームの構造や展開と絡めて説明しやすいものでした。
  • まず湘南は、前半は抑えめ、体力温存気味に試合に入っていたと思います。守備は1-4-4-2でセットして、阿部(役割はトップ下というかはFW)とルキアンの2トップは、コンサのCBではなくてアンカーの駒井を基準にしていたので、コンサとしては後ろで好きなようにボールを持てていました。
  • その割にはコンサはマイボールを武蔵に蹴るだけだったので、(まぁいつも通りだとは言え)慎重な入りは心がけていたとは思います。

  • 湘南も前に蹴るだけではあったのですが、湘南は阿部もルキアンも潰れ役というかDFを背負ってボールをキープしたり味方の攻撃参加を促すプレーは上手くない。ルキアンは体格はまずますですが、反転したり前を向いたプレーの方が得意なので、福岡では2列目で使われてもいました。背負ってのプレーには宮澤でも問題なく対処できていました。
  • この点、コンサにはよりパワフルな武蔵がいて、また武蔵が2トップとして浅野と並ぶと左に入るので、湘南のこの日のDFの並びだと武蔵はキムミンテではなく大岩とマッチアップしていたのが前半の最大のポイントでした。大岩では武蔵を止めるのはパワー、スピードというかフィジカル全般の能力差的に難しく、武蔵に放り込まれるボールを湘南は全くカットできない前半45分だったと思います。

  • お互いにbuild-upに難があるチーム同士なので、得点するにはなるべく高い位置でボールを奪って速攻を仕掛けることが重要になります。
  • 先述の阿部とルキアンのところの対応をみても、湘南は前半それをあまり積極的にやっていなかった印象ですが、それでも自陣に下がりすぎると札幌ゴールから遠くなり札幌に全く圧力を与えられないので、ボール回収位置が極端に低くなることは避けたい、という意図はあったと思います。
  • しかし武蔵とのマッチアップの大岩が、入ってくるボールをまったく処理できずにズルズル下がるだけなので、湘南は徐々に重心が下がって、2トップを除くフィールドの8選手は自陣で守る時間帯が多くなります。
  • 特に攻撃的MFの平岡と池田は、ルキアンのポストプレーが成功した際に近くでプレーして、速攻を完結させるに重要な役割を担うのですが、彼らが自陣でSBと連携してサイドを守る仕事に悩殺されると、湘南は阿部とルキアンだけで前線で仕事をしなくてはならず、コンサにほとんど脅威を与えられない前半だったと思います。

  • また青木の先制点は、やはりコンサが前線へのフィードで湘南を押し込んで、セカンドボールを拾ったスパチョークの仕掛けからでしたが、ロングフィードを跳ね返せない時点で湘南はまず後ろ向きのベクトルでプレーしなくてはならず、またスパチョークのドリブルで湘南陣内深くに侵入が成功したことで、さらに湘南は撤退を余儀なくされ、最後はマイナスの折り返し(のこぼれ球)を拾った青木に対応できるだけの押し上げができなかった、という感じで、やはり湘南は引いて守る能力は持ち合わせていなかったと感じます。

心を打ち砕いたはずが:

  • ですので前半の感想としては、大岩と武蔵のマッチアップをどうにかしないと湘南はきついのでは?と思っていました。4バックを維持するなら大岩→大野でミンテを右に移して武蔵とマッチアップ、もしくは3バックにする、などです。
  • 湘南の選択は、システムはいじらず大岩のマッチアップも維持で、奥野→山田直輝、池田→福田の2枚替え。
  • コンサは宮澤が前半のうちに接触で腰を痛めて、交代回数を消費しないためハーフタイムまで我慢したのちに家泉と交代。


  • そしてコンサがボールを持っている時に、湘南はコンサのFP5人と同数関係を作って高い位置でのボール回収を狙います。


  • しかしその湘南の試みのうち2回目か3回目くらいだったと思いますが、53分にコンサが湘南の前線守備を(おそらくこの試合初めて綺麗に)剥がした流れから青木のスーパーゴールが決まって0-3。湘南の心を折る得点になるのでは、と思いましたが…

  • なおコンサのプレス回避が成功したのは、家泉→馬場と渡ったときに、福田は馬場の縦のパスコースを切れておらず馬場→右サイドタッチライン付近の近藤→武蔵→スパチョーク→左で余っていた青木、という展開を許してしまったためでした。基本的にはカウンターしたい湘南の思惑もそうですし、コンサの中央の薄さも考えると福田は縦を切る対応を徹底すべきだったでしょう。

ターニングポイント:

  • 61分に湘南は平岡→石井。66分には阿部→畑の交代で湘南は3バックの1-3-4-2-1に変更。結果的にはここから3点が入るターニングポイントとなりました。

  • まず67分の畑のゴールは、畑が入って湘南が布陣変更、コンサはそれを見てピッチ上でマッチアップを確認、変更する…という作業をしているところからシームレスな展開で生まれています。
  • 湘南が3バックになって大岩がフリーになるけど、そこはスパチョークが俺じゃん、となって(スパチョークは中盤センターからシャドーに)、スパチョークがそれまで見ていた高橋は荒野の担当に(荒野はCBから中央のMFに役割変更)。
  • あとは最終ラインがスライドして馬場、家泉、中村桐耶のマーク対象が石井、ルキアン、福田だと確認できればいいのですが、この際、馬場と家泉でどうやら役割をスイッチしていたようで、本来家泉がセンターで馬場が右だと思うのですが、馬場がルキアンをマークする関係性になります。

  • そしてルキアンはこのコンサの混乱、までいかないけど幾分か認知に負荷がかかる状況を狙っていた…わけではなさそうですけど右サイドのスペースに流れて、馬場を背負った状態からターンして低いクロス、最後はサイドハーフからWBになってゴール前を守るタスクの重要性が増した近藤の前に畑が入って…という形でした。
  • 結局その後馬場は右に入ってますし、それだけが失点の原因ではないにせよ、この時点で(誰が中央を守るのかはっきりしないなら)怪しさというかその後の展開の兆候はあったのかもしれません。

 

不釣り合いな仕事からの解放:

  • スコアが3-1となってコンサは71分に武蔵→小林、スパチョーク→高尾に交代。


  • おそらく復帰戦の武蔵のコンディションを考慮したのと、交代カード的にはDFの選手を1人増やしてバランスを改善したいという意図があったと思います。
  • 以降は1-3-4-2-1のミラー布陣同士のマッチアップになりますが、湘南はフィジカル的に劣位のマッチアップを強いられてきた大岩が解放され、終盤はかなり積極的な攻撃参加を見せます。サイズのある選手ですし、またDFのオーバーラップはコンサのような純粋なマンマークでは対処しづらいのでゴール前に入ってくるのは嫌だったとは思います。
  • またWBの鈴木やシャドーが高い位置をとった時に、その背後で攻撃をやり直す役割やカウンターに備える役割も担いますが、これを見ても明らかに大岩の適性はこっちだろうな、という印象でした。
  • 鈴木はWBやサイドプレイヤーとしてはスピードや突破力には欠けるので孤立するとあまり活きませんが、右足クロスと飛び出しは攻撃の形を作れるクオリティがあり、終盤は右サイドでサポートを受けられるようになった鈴木がスペースに飛び出すかフリーになって右クロス、でコンサは再三脅かされます。
  • そして組み立ての段階では、山田が下がって数的優位関係からボールに関与することで、とりあえずボールの預けどころができる。あとはシャドーに入ったフレッシュな石井と福田、大外から攻撃参加する畑と鈴木…これらの選手もおそらく選手特性的には1-3-4-2-1でシャドーやWB起用の方が守備負担が小さくてやりやすい、スペースに走って攻撃参加しやすいという状況ではあったでしょう。

  • 前半はフリーマン役(マンツーマンで守られてフリーの選手がいない状況で、自由に動いてギャップでボールを受けて味方を助ける)がおそらく阿部だったのでしょうけど、最前線に配置された阿部だと困っている味方(主にDF)と距離が遠すぎてフリーマンとしてはあまり機能しませんでした。それが中盤センターに入った山田をフリーマンにすることで、DFを早めに助けることができたのは湘南には大きかったと思います。
  • 日本サッカーで遠藤保仁(ガチャピン)ロールというか、中盤センターに守備強度はないけどボールを預けられる選手(柴崎、柏木陽介のような)と、バランスを取れる選手とで組んで2人ユニットで運用するのが流行る理由がよくわかる現象かもしれません。田中カツにはこの役割に甘んじない選手になってほしいものです。

not sure:

  • 選手の役割が整理されて、またコンサの足が止まったこともあって終盤は完全に湘南優勢でした。
  • 85分に湘南が3-2としたプレーは、茨田(77分に投入)の浮き玉のパスを、大岩がボックス内で青木に競り勝ったところに福田が頭から飛び込んでゲット。茨田はさすがアイディアがあると見るか、苦し紛れに放り込んだのを大岩のフィジカルが繋いだか、色々見方はあると思いますが湘南のシステム変更がはまっていたのは事実でしょう。
  • そしてAT3分に鈴木の右クロスで得たCKから、杉岡のキックを茨田(マークは駒井)が逸らして鈴木の足元へ。
  • 後半にコーナーキックからボコボコにやられた神戸戦などもそうですが、今期のコンサはCKの際にファーサイドが甘くなる傾向にあります。直接ファーを狙うというよりは、ニアのボールをブロックできずにファーに流れたところで守り切れない、というところでしょうか。
  • 基本的にCKもマンマークで、相手の挙動にこちらの対応が左右されるのでなんで?というと難しいのですが、ストーンに入る選手の対応やクオリティなどは要検証かなと思うのと、根本的にスタメン級の選手にサイズがあまりない(スタメンに近藤、浅野、駒井、スパチョークと並ぶと小さい選手が何らかマーキングしますし馬場もDFとしてはそんなにサイズがない)とするなら、速いクロスボールを蹴りやすい、というのも要因としてはあるかもしれません。

雑感

  • かつてとある監督がコンサは勝つためにどうするのか?という文脈に対して「no idea」と回答して辞任したとされます。
  • ミシャ率いる現状のチームはノーアイディアというかは「not sure」(知りません)的なスタンスだな、と感じることがあり、サッカーという競技は90分間の中で様々な要素、様々な側面があるのですが、このチームはかなり限定的なところにしかアプローチしておらず、それ以外は知りませんみたいなスタンスなので、この試合に関しても、リードした後どのようにゲームを進めるべきか?という問題提起についても「知りません」というスタンスで日々の試合に臨んでいるんだな、と理解しています。
  • 力関係的には、このシーズン湘南とコンサは確実にライバルになるでしょう。選手のクオリティで言うと、武蔵が交代するまでは脅威となっていましたしコンサの方が少し上かな、という感じなので、再戦時はもっと選手のクオリティを全面に押し出すのも手かなと思います。
  • 一方、湘南も田中聡や鈴木章斗がいたら、岡村を含めたコンサと互角くらいの力関係かもしれません。ともかく両チームとも厳しいとは思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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