2024年12月18日水曜日

北海道コンサドーレ札幌の2018-2024シーズン(5) 〜選手雑感その2〜

前の記事からの続きです。

4.4 中盤センター

10 宮澤 裕樹

21試合出場(983分、うち先発11試合)、1ゴール、0アシスト

  • 大﨑の途中加入により最も恩恵を被った選手でしょう。出場記録を参照すると、2021-22シーズンはDF中央での起用数が中盤センターでの起用数を上回っている。23シーズンから再び中盤センターでの起用が上回り、このシーズンも同じ傾向でした。これは岡村の台頭が22シーズンの途中からでようやく宮澤がCB中央をやる必要がなくなった、というのが最大の要因です。
  • 一方で23年以降は「高嶺ロール」(中盤センターと最終ラインを行ったり来たりして、相手のトップ下またはインサイドハーフまたは下り目のFWをマンツーマンでマークする)ができる選手が宮澤の他には馬場くらいしか見当たらなくて、中村桐耶を試したり、試合中の選手交代では荒野や駒井、青木をそこに回したりもしましたが、やってることはほとんどCBに近いのでこれらのメンバーの中では宮澤が最も安心できる。
  • そして髙尾のコンディション不良と不調により、馬場が開幕から右DFに回る必要があったため、開幕時に35歳だった宮澤がこの高嶺ロールとしてシーズン序盤からフル稼働を余儀なくされます。
  • そうしたスカッド編成であるため依然として宮澤の重要度は低くなく、またこのシーズンも初勝利を飾ったガンバ戦の決勝ゴールなどで宮澤を救世主視する動きもありましたが、一方で福森とともに、2022シーズンからパフォーマンスの低下がさらに顕著で先発しても途中交代が大半でしたが、宮澤1人で2024シーズンの後半戦を乗り切るのは相当厳しかったでしょう。

  • そこに大﨑が加入し、大﨑と宮澤の併用で宮澤を試合終盤のクローザーとして運用できるようになりました。コンサのフロントや強化担当が仕事をしてないとは思いませんが、コンサは伝統的にDFや中盤センターよりもFWの頭数を増やすことを重視する傾向にあり、宮澤がスタメンフル稼働を余儀なくされる状況のままであれば、後半戦の反転攻勢はなかったかもしれません。


25 大﨑 玲央

17試合出場(1,162分、うち先発15試合)、0ゴール、0アシスト

  • ヴィッセル神戸でのラストシーズンでは、ちょうど今でいう宮澤のような起用状況で、主にアンカーのバックアッパー。その年に神戸がリーグ戦初優勝を飾ったスカッドを擁していたとはいえ、移籍先のエミレーツ・クラブでも長く実戦から遠ざかっていたこともありどこまでのインパクトがあるか未知数でしたが、結果的には大﨑の加入からコンサは急浮上を遂げます。
  • まず加入直後のゲーム(vs鹿島)で中村桐耶や馬場に「ここに立て!」「このタイミングで出せ!」と具体的に細かく何度も指示を出していたのが印象的で、この試合でコンサはいつもの1-4-1-5ではなく1-3-2-5のような布陣でボール保持を試みていたのも大﨑の影響があったのでしょう。この配置変更はそこまで直接的に勝ち点を稼ぐ要因にはなっていないようにも思えますが、結果が出ないにも関わらず完全に硬直状態だったチームにいい意味で風穴を開けることにはなったと思います。
  • チームが軌道に乗り始めてからは、先述の「高嶺ロール」として相手のキープレイヤーを潰す役割で奮闘します。6ポインターとなった28節(vs磐田)ではジャーメイン、渡邉りょうといったクイックな選手を使ってカウンターを繰り出してきましたが、必死に体を張って後ろ方向に何度も走って食い止めていたのが印象的でした。
  • ただ36節(vs湘南)では湘南の速く運動量のあるアタッカーに苦戦し、降格決定後の37節(vs広島)では右DFとして出場し45分で交代するなど、大﨑の頑張りをもってしても個人ではどうしようもない面もあり、連戦によるコンディションの問題もあったのでしょうけど、シーズントータルで見ると終盤はギリギリのところで踏ん張っていた印象があります。

  • また大﨑の加入により戦術的にもメンタル・雰囲気的にも小さくない変化があったということで、コンサにはピッチ上のリーダーが不在というだけでなく、テクニカル・タクティカルな役割、マネジメントを担うはずの監督やコーチの不在というか一般的なチームに備わっているはずの普遍的な機能が欠如していたということが、逆説的に露呈されたシーズンだったと感じます。

27 荒野 拓馬

27試合出場(1,873分、うち先発21試合)、1ゴール、1アシスト

  • プレーよりも役職や態度が論点(というか槍玉)にされてしまいました。ここではあくまでプレーにフォーカスしたいと思います。

  • まず荒野に限った話ではないですが、ミシャのサッカーは前線へのロングフィードやサイドチェンジといった「浮き玉の長いパス」を多用するので、中盤の選手の頭上をボールが飛び越えていくことが多くなります。
  • こうしたスタイルだと中盤センターの選手にできることは他のチームに比べて限定的であり(駒井が妙にDFラインに下がってボールに触りたがるのはこれも影響してるかもしれません。仕事を増やさないと不安というか何もしてないと感じるのでしょうか)、自陣でボールを保持している時にはそのボールをどう動かすか?よりもどこにボールが飛んでいって、次の展開がどうなるか?を予測してそれを回収したり、ボール保持/非保持が入れ替わって相手ボールになった時に備えておくなどが仕事になります。
  • 敵陣でボールを保持することに成功した場合は、ポジションを上げていきますが、これも基本的にはコンサは前に5人のアタッカーが並んでいますし、DFも攻撃参加してくるので自分から必要以上にアクションを起こすというよりは状況がどう変わるかを注視し、バランスが崩れる(こちらが5人も6人も前にいる状態で背後を取られる など)状態になることを回避するように動く…といったことがメインタスクになると思います。
  • これらを踏まえると、別に荒野のせいでコンサが勝てないとは思いませんし、勝手に動いて勝手にバランスが崩れるコンサというチームにおいてそれを1人でさせるのは無理でしょう。後半戦、荒野の位置に別に選手が入って浮上したのはそもそもDFも2人入れ替わっていて(髙尾、パク ミンギュ)、そうした勝手にバランスが崩れるということが起こりにくくなったことの方が大きいでしょう。

  • という具合で、評価が難しいですが荒野自体は別に普通だったかなと思います。
  • 一方で2020シーズンに大怪我を負ってから、動きのイメージが以前と違うと本人も認めていますが、動きの量や動きの速さで勝負したり違いを出すスタイルからは転換が必要かもしれません。大﨑と宮澤の項目でも触れた「高嶺ロール」に関しても、荒野はこの役割だとみなされることが直近4シーズンほどでほぼなかったということで、その意味では確かにそこに収まった大﨑の方が貢献度が高かったと簡単に論じられても仕方ないかもしれません。
  • もっとも新監督体制下ではそうしたミシャ体制に最適化された役割がなくなるとは思いますが、それでも荒野に関してはモデルチェンジは模索していく必要があるでしょう。


  • 最後にですが、個人的にはキャプテンが誰かというのは本質的にはあまりプレーや試合内容に関係がなく、どっちかというとチームのシンボルやブランドイメージみたいなもので、そこに不満がある人の声が大きいのだろうと思っていて、だからあまり興味をそそらない議論なのですが、例えば菅野(とマネーフォワード)のYouTubeで「やりたいわけじゃないがいい経験だと思ってやっている」みたいな話を夏場にしていたのを見ると、それならプレーに専念させるという手もあるんじゃないかとは思います。コンサのキャプテンは河合→宮澤→荒野、と指名制で動いているようなので簡単に変わることはなさそうと見ていますが。


37 田中 克幸

17試合出場(300分、うち先発1試合)、1ゴール、0アシスト


  • 左利きの中盤センターの選手ということでやはりこの人との比較を目にします。上里はいかにも蹴るぞというボールの持ち方をしていたのに対し、克幸はより脱力しているというか、DFにとって予測がしづらい自然な動作から次のプレーに移行できるのが長所で、またキックの際のミートの上手さもあり、メッシは言い過ぎとしても宇佐美貴史のようなエグさを感じます。
  • 一方で1年目のシーズンは、序盤のチームの台所事情もありメンバー入りの機会は多かったものの出場時間は300分にとどまっており、点が欲しい場面での交代カード、というよりは克幸を中央で使うことでのリスク(守備強度)を許容できる場合のみ切れるカードという印象でした。
  • コンサの場合、克幸の前に5〜6人がいて、その後ろの4〜5人(場合によってはもっと少ない)で相手のカウンターや放り込みに備えるとなった時に、中央の選手に機動力(動いてボールにアタックする)や跳ね返す能力はいくらあっても足りないので、カップ戦で何度か出場機会を得て徐々にプロの強度やプレースピードに慣れてきた印象はあったものの、リーグ戦で起用するには勇気がいる選手ではあったかと思います。5人交代枠だからこそ得られた出場機会も多かったと考えられるかもしれません。

  • 改めて、セットプレーも含めてキックは秀逸で、特に福森が不在のシーズンとなった中でCKのボールの質が最も良いと感じたのも克幸でした。チームがほとんどセットプレーを練習していなさそうにもかかわらず、キックのイメージと入ってくる選手のイメージの軽いすり合わせだけであれだけのチャンスになるなら、よりセットプレーを重視するチームになればかなりの武器になると思います。
  • 一方でシュートやパス以外だと先述の守備面の話以外にも、ボールを中央でもっと持てる選手であって欲しいとも思います。ボールを持てる、というのは色々なシチュエーションになりますが、一つ言えるのはキックだけに頼ってしまうと↓のように長いパスがインターセプトを喰らって大惨事、ともなってしまうので、プレーの幅を広げることが2年目で出場機会を増やすことに繋がるでしょう。


4.5 DF

2 髙尾 瑠

24試合出場(1,217分、うち先発14試合)、0ゴール、4アシスト

  • 以前から謎だったのが、「なぜコンサの選手(特にDF)は相手が崩れる前に自分から動いてバランスを崩すのか」。いつからか選手のインタビューでようやくその謎が見えてきたのですが「監督がそれを望んでいるから指示に従っているだけ」というなのでしょう(↓の動画以外にも確か駿汰が似たような話をしているインタビューがあったと思いますが失念してしまいました。インタビュアーは杉谷氏と似たキャラ…大森健作氏か誰かだったような気がしますが)。


  • 要はミシャの考え方だとマンツーマンや1v1の局面がベースになっていて、DFが攻撃参加すると必ず誰かがついていく必要があり、それはDFと対峙している相手のウイングの選手などであることが多いので、先に動いて相手を自陣に押し込めてしまえ、ということなのだと思いますが、


  • ↓こんな感じで、ボールを持っていない側がマンツーマンでついていく必要がない場合もあるので、

  • 場合によってはDFの攻撃参加というのは、「相手を崩そうとして自らが先にバランスを崩す行為」にもなりかねません。


  • 髙尾はそうしたコンサ的な「常に高い位置をとる」、「何度も攻撃参加する」といった頻度やマンツーマン偏重な価値観以外で勝負できる点が貴重で、例えば今シーズンのベストパフォーマンスの一つに数えられる川崎戦(29節)では先制ゴールをアシストしていますが、これが試合を通じてほぼ唯一の攻撃参加でした。


  • 攻撃参加の頻度や回数を抑えているからこそ、マンツーマンで相手のウイングやサイドアタッカーをマークしつつ隣のCBをカバーするという難しい役割もこなすことができる。しかし開幕当初はキャンプ中のコンディション調整に失敗した影響もあったほか、コンサ独特の「抜かれたら終わり」な環境に不慣れさを露呈し、特に5節の神戸戦でのパフォーマンスで一時は見切られてしまいます。

  • その後、コンディションの向上やパクミンギュ、大﨑の加入もあり後半戦はスーパー髙尾として君臨し、後半戦躍進のキーマンの一人となりました。田中駿汰とはタイプが異なり、また彼をセレッソに放出して得た移籍金の多くを使った取引だったと思いますが、これについてはいい取引だったと言えるでしょう。


3 パク ミンギュ

14試合出場(1,156分、うち先発13試合)、0ゴール、1アシスト

  • 「ミシャのサッカーは適応に時間がかかる」。何か都合の悪いことがある度に頻繁に使われるワードですが、パク ミンギュを見ていれば非常にうそくさい話に聞こえてきます。
  • 彼のいいところはいくつもあるのですが、まず現在のJリーグで最速と思われるガンバの山下とかけっこして完封するだけのスピード。どのタイプのアタッカーに対してもファウルが非常に少なくエレガントな対応を見せられるのは、読みや技術もそうですがフィジカル的にも優れているから無理をしなくて良いのでしょう。
  • 左サイドタッチライン付近で雑にパスを押し付けられても苦し紛れのロングボールに逃げず味方により良いシチュエーションで返せる技術と視野の広さ。ボールを持っている時にリスキーな選択を避けつる判断(しかし菅にボールを渡してもあまりリターンがないことには気づいていないかも)。
  • そして岡村の背後をCBとしてカバーする強さや危機察知。4バックのSBと聞いていたのでこのタスクがどこまでできるか未知数でしたが、彼の加入によって岡村の頭を超えたり背後に流れてくるクロスボールというコンサのやられパターンの一つに対する不安も解消されます。
  • 何試合見れば韓国にこんないい左利きのDF何人もいないでしょ、の感想を抱くのは自然で韓国代表への招集も当然のように思えます。改めてこのクラスのDFを一本釣りしたのはフロントのナイスディールでしたが、その存在の大きさゆえにいつまで彼を維持できるかは今後の方針やチームパフォーマンスに大きく影響するでしょう。

6 中村 桐耶

35試合出場(1,649分、うち先発18試合)、0ゴール、2アシスト
  • ここ2シーズンはパフォーマンス低下が顕著だったとはいえ、なんだかんだで最終ラインの主力級選手だった福森を横浜FCに期限付き移籍で放出したのは、直近2シーズンで先発3試合→17試合と場数を踏みつつあった中村が24歳になるこのシーズンにDFとして独り立ちするという予想と期待が大きかったからでしょう。
  • 結果としては、パク ミンギュの加入までの期間での左サイドの不安定さを考えると、中村はこの期待に十分応えたとは言えませんし、19位に終わったシーズン全体として見てもこの左サイドでの”読み違え”は大きく響いたと感じます(以前このブログにいいねをしてくれた選手にそのように評するのは心苦しいですが)。

  • ただ中村も左DFだけではなく高嶺ロールを一部兼任していたり、しかもこの役割において特にこうプレーすべき、みたいな指導がなさそうに見える(好きな時にドリブルで突っ込んでも誰にも何も言われない)ので、この点では未完成の若手選手として見た時に丁寧に指導して育ててくれるという感じがあまりない体制であったことは本人だけの問題ではないかもしれません。
  • シーズンのパフォーマンスを追っていくと、その高嶺ロールとして出場した2節(vs鳥栖)で鳥栖のFWヴィニシウスに何度もターンされて退場処分の憂き目に遭い、チームが初勝利を挙げた7節(vsガンバ)以降は左DFとして菅が起用され、そこから5月末に再びスタメンで起用されたのは中村がどうというか、青木(左WB)の離脱によって菅をDFで起用できなくなったことが大きいでしょう。
  • そして6月に入ってヴェルディとの第17節では大量失点の責任を負わされるかのように45分で交代と、そこからパク ミンギュ加入までは起用されていましたが以降はほぼベンチスタートが定位置となってしまいます。

  • ちょうどこのヴェルディとのゲームの前後は、チーム内で「どこまでマンツーマンでプレーするか」(なおコンサ語での「マンツーマン」はプレッシングとほぼ同義だと捉えてください)みたいな議論が活発で、かつ結果が出ないということで中村だけでなくほぼ全ての選手がどう対応すべきか、どこまで相手についていく対応でいくべきか迷っていいたのが今見返してもよくわかる失点をしていて、これも中村だけの問題だとは言い切れないですが、左サイドで監督が陣取るテクニカルエリアの目の前ということもあったか、彼が懲罰的な扱いを受けることになります。

  • 来年夏に25歳になるということでもう若手ではなくなりつつありますが、新監督がDF出身ということで(石屋製菓社長も惚れ込む元日本代表のDF…2002年くらいを思い出してワクワクしますね)、この空白の数年間を埋められるくらいの成長を期待するところです。おそらくコンサの編成の傾向でいうと、中村が左利きCBとして1stチョイスになると思われますし。

  • ただ最後に触れておきますが、前に加速できる状態でのドリブル突破はリーグ全体で見ても過小評価されていると感じます。最終ラインにいるとそれをどこまで出していいのか難しいですが、ガレスベイルみたいなキャリアもまだ残されているかもしれません(ゴルファーという意味ではなく)。


15 家泉 怜依

12試合出場(482分、うち先発5試合)、0ゴール、0アシスト

  • シーズン序盤で岡村の負傷した際に、CB中央の代役として宮澤に次いで登場し、10節(vsセレッソ)ではレオ セアラとマッチアップし、PKによる1ゴールに抑えるなど及第点と言える働きを見せたことで、岡村頼みの最終ラインにおける新戦力として期待が高まりましたが、12節(vs川崎)では元フランス代表・バフェテンビ ゴミスにパワーで対抗するもゴミスがやり方を変えた途端に崩壊し、以後は非常に限られた出場機会となってしまいました。

  • 夏場は故障もありましたが、トレーニングでも私が見た時は、CB中央としては宮澤以下の序列でミニゲームに加わらない若手ロンド組扱いと、監督から一気に見切られてしまった感があります。
  • ただ家泉もカオスを極めるチーム事情の犠牲者という印象が強く、チームとしてマンツーマンに迷いが生じた中で柏戦(15節)などでスイーパー(あれはフォアリベロか)として途中起用されたり、隣を守る左右のDFの選手も安定しない中での起用が多かったのはJ1で初年度の選手としてはハードだったと思います。


  • ボールを持っている時のプレーは↓のようなミスもありましたが、あまり上手い・巧い選手とは思わないまでもボールを運ぶ積極性や意識は感じられ、むしろ岡村の1年目と比較するとそう悪くはなかったかもしれません(ただし岡村はそこからえぐい成長速度を見せる)。

  • ↓のゴールも家泉のconducciónからでした。 

  • 岡村の動向と関係なく、新監督で4バックのオプションも検討するならDFの更なる台頭が求められますので、中村と同じく中央の選手として手応えを掴んで欲しいところです。


50 岡村 大八

33試合出場(2,878分、うち先発32試合)、2ゴール、0アシスト

  • 現在コンサとの契約が残っている状況のようですが複数クラブからの関心が報じられており、Jリーグの人材空洞化問題を考慮しても毎年リーグ最多失点争いの常連チームのDFとして異例の評価を受けています。
  • このシーズン序盤は、岡村にしてはもうちょいやれるのでは、と感じる試合もあり、コンサのディフェンスの8割は岡村と菅野でもっているとするなら、岡村のところでもう少し勝てれば別の結果になったかもしれませんし、家泉が試されたのもそうした感覚が、もしかすると監督にもあったのかもしれません。
  • ただ今となっては、1節の福岡でウェリントン、2節の鳥栖でマルセロヒアン、4節の町田でオセフン、5節の神戸で大迫、6節の名古屋でパトリック、と岡村の能力がもろに問われるハードなマッチアップ続きだったこともあるでしょうし、鳥栖や町田相手には個人というよりチームで、ゲームプランの失敗の方が大きかったでしょう。後半戦は髙尾とパク ミンギュという頼もしい仲間を得て完全に本来のパフォーマンスを取り戻していたと思います。
  • ボールを持っている際には、このシーズンから負担の大きい左DFに回って、右DFの宮澤や大﨑を助けていました。去就は未定ですが普通に考えればJ2でプレーする選手ではないでしょう。


88 馬場 晴也

37試合出場(2,985分、うち先発35試合)、2ゴール、3アシスト

  • 2023シーズンの後半戦でコンサは3勝に終わりましたが、この間の数少ない収穫として荒野と馬場の中盤センターのユニットが定着したことが挙げられます。
  • この2人は荒野が動いてボールにアタックし、馬場が予測してボールを拾う…という役割分担をしていた印象で、コンサはどうしても前のFWに放り込む展開が多い中、セカンドボールを拾う重要な役割で加入1年目の馬場は立場を確立しかけていました。
  • 迎えた2024シーズンは髙尾の出遅れに伴い、開幕から右DFで起用されますが、この位置では地上戦、空中戦を問わず1人では対処しきれない場面も多く、

  • 18節の京都戦では西野を右で起用するなど、右DFとしてはほぼ失格に近い扱いとなってしまいます。その後は大﨑の加入、荒野の故障により、中央で大﨑-馬場のユニットが多くなりますが、馬場を含めチームを動かしていたのは大﨑ですしゴール前で身体を張ったり相手のキープレイヤーをマークする役割を担っていたのも大﨑で、前の年に東京ヴェルディから一定の移籍金で獲得したと思われる(今回見木がヴェルディ→福岡で推定8,000万円と報じられていますが馬場はより若いのでもう少し上でしょうか)選手としては物足りなさを感じます。
  • パリオリンピック代表候補でキャプテンマークを巻くこともあるCB、という触れ込みでしたが、DFとしてはスピードに欠ける印象があり現場その際に身体を投げ出すプレーでカバーしようとする傾向があるように感じますが、そうしたリスクのあるプレーに頼らず予測で勝負するようになって欲しいところです。


4.6 GK

1 菅野 孝憲

35試合出場(3,147分、全て先発)、63失点
セーブ率66%、1試合平均セーブ数3.5、クロスキャッチ率21.2%
  • 順位も失点数もワースト3ということで普通の感覚ならGKやセンターバックには特に厳しい目が向けられるのだと思いますけど、菅野がリーグでワーストのGKかというと少なくともその水準ではないでしょう。
  • このシーズンの失点を改めて振り返ると、序盤戦でPKを含むセットプレー、特にCKで菅野が出られない速いボールを蹴って、ニアで1人潰れてスペースを作ってからファーサイドで合わせられるパターンは定番化していました。こういうデザインされたプレーで来られるとGKや個人個人のDFの力で対処が難しく、やはりセットプレー軽視は最後にツケを払うこととなったと感じます。

 

 

 

 

17 児玉 潤

2試合出場(93分、うち先発1試合)、0失点
  • 失点ゼロなのでセーブ率は100%です。こちらもリーグ戦最終節とカップ戦2試合(ルヴァンカップ+天皇杯)で計2試合しか見ていないので判断が難しいですが、まず利き足が左右どちらか初見ではわからないほどに両足を使いこなす起用さが目を惹きます。当然フィードにも自信があるのはわかるのですが、キックの精度というよりフィードを使うタイミングや誰に最初に当てるかはまだ向上の余地があるように思えました(選手の特徴を知るという連携の問題もあるでしょう)。
  • キャッチングやフットワークは練習で見る機会があって、比較対象が小次郎とすると確かに児玉がベンチ入りで高木不在時のNo.2かなと思わされます。この辺りの特徴は菅野に似ていて、サイズの割にクロスボールに対して積極的に出ることができるのは、スタッフからすると起用を後押しする理由になるでしょう。
  • セービングは全般に見るとまだ菅野とは差があるように感じますが、ソンユンのようにバックパス処理が不得意なGKを抱えておくよりは緊急時にも対応しやすいかもしれません。
  • ただ菅野にも言えますがJ2にどんなチームが並ぶかは不透明ですが、背の低いGKに対してファーサイドにふわっとしたボールを蹴ってひたすら空中戦を仕掛ける、みたいなどこかの眼鏡をかけた監督のような陰湿な戦術を取ってくることも、おそらくサイズのないGKが2人いるということで検討くらいはしてくると予想します。

以上で一連の企画を終了します。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2024年12月17日火曜日

北海道コンサドーレ札幌の2018-2024シーズン(4) 〜選手雑感その1〜

4.選手雑感

最後に24シーズンにプレーした選手の雑感を書いて今回の企画を終わります。まずはFW/攻撃的MFなど。

数字はFOOTBALL LABを参照。あまりプレーを見ていない選手は言及なし。


4.1 FW

7 鈴木 武蔵

32試合出場(2,489分、うち先発29)、6ゴール、1アシスト

  • サポーターの多くは2019シーズンのようなゴールラッシュを期待していたのでしょう。23節までノーゴールと苦しんだ武蔵にはキャプテンの荒野、三上GMと共に多くのサポーターから最大級のヘイトが向けられ完全にスケープゴートと化してしまいました。
  • チーム編成的にはFC東京へと移籍した小柏の代替で、「小柏がいればもっとコンサは勝てている」とする意見もありましたが、その小柏も23シーズンは6ゴール6アシストと、めちゃくちゃ点を取りまくっていたわけではないので個人的にはこの見解には首を傾げるところではありますが。

  • 武蔵としては3年半ぶりの古巣復帰でしたが以前とは環境は様変わりしていました。2019シーズンは、ジェイがセンターFWとして相手CBを背負い、その脇でシャドーの武蔵がCBの監視から逃れ浮いた構図を作ってくれる。かつスペースに走ればチャナティップのラストパスが飛んでくる。この特徴が異なる三人が噛み合い武蔵はフィニッシャーに専念することができていました。

  • 2024シーズンはジェイのようなセンターFWがいない、コンサはDFからクリーンに前線にボールを運ぶこともできない、ということで、まず武蔵は相手CBを背負ってなんらかマイボールのシチュエーションを作らなければならず、つまりジェイの仕事をしなくてはならない。
  • そしてシャドーにはスパチョーク、青木、浅野、小林、駒井といった選手がいますが、チャナティップのようにボールを運んでラストパスが出せそうな選手、となると、ギリ浅野が該当するかどうかという状況で、その浅野も右WBを兼任だったり故障で万全ではなかったりしたので、特にカウンターの場面で武蔵が自らボールを運んで相手ゴールに突っ込んでいく役割も背負わされることになります。
  • つまり武蔵1人でジェイとチャナティップと、かつての武蔵の仕事で、計三人分を任されていたようなもので、私にはコンサのサポーターはこれ以上武蔵に何を求めるのか?とただただ気の毒でなりませんでしたし、後半戦にFWの選手が複数加入しても武蔵を外すことができないのはこうした事情によるものです。

  • 異様に多くの仕事を押し付けられるという点では、武蔵の比較対象は小柏よりも2017シーズンの都倉かもしれません。その都倉は30試合9ゴール5アシストでコンサを残留に導きましたが、それは武蔵と都倉の差というよりは監督やそのチームづくりの差ではないでしょうか。


9 ジョルディ サンチェス

7試合出場(149分、先発0)、0ゴール、0アシスト

  • ジョルディの獲得に動いたと思われる時期から、三上GMの口から唐突に飛び出した言葉が「二度追いができるFW」。
  • 二度だろうと三度だろうとFWがGKを追いかけてくれるならそれ自体は悪いことではないですが、FW1人で走り回ってもできることには限りがありますし、pressingからボール奪取、速攻に転じるというプレーを想定しているならFWはGKまで追いかけていくというよりはパスコースをいかに制限できるかの方が私は重要だと思いますが、コンサはもっとシンプルな守備なので1人で2人分走れるのが大事、と考えたのは理解できなくもありません。

  • そして7月に来日したジョルディは確かに「二度追いができるFW」でした。YouTubeで彼の名前を検索バーに入れると出てくるゴール集でもGKからボールを掻っ攫ってゴール、があったのでそれを見ていた可能性もありますが。
  • ただジョルディはGKまでも追いかけるだけの走力やガッツはいいとして、それ以外はJ1の基準だと特筆するものがなく、武蔵、アマドゥよりも下の序列と判断されたのは納得がいきます。

  • 紅白戦では主にサブ組のセンターFW、ではなく右か左のシャドーに入って、前を向いたら果敢に突破を仕掛けていて、「デカくて意外と動ける」という印象で、その意外性はもしかするとどこかのチームに一矢報いることができるのでは?とは思っていましたが、あまりチャンスも与えられず。
  • 余談ですがスポーツ報知・砂田記者のレポートで「メンバー外の外国籍選手が小競り合い…」とありますがおそらくジョルディが関与しているのではないかと思います。アマドゥの加入後は完全にサブ組のFWの立場ですらなくなって、私が練習見学をした際もかなりフラストレーションを抱えている様子でした。


20 アマドゥ バカヨコ

6試合出場(93分、先発0)、1ゴール、0アシスト

  • まず、先の砂田記者や日刊スポーツ保坂記者の記事などでは、ミシャの言葉を引用して、

 

「私は常に大事にしていることは、これまでともに戦ってきた選手と戦うスタンスということ。戦争に行くのに部隊を編成するなら、ともに戦ってきた人と戦う。信頼のある人と戦うという思いが強い」
  • 要するに「ミシャのサッカーに馴染むには時間がかかるから新加入選手の起用には消極的だった」とする総括がされていますが、個人的にはこれはミシャの言葉を真に受けすぎかと感じます。なぜならパクミンギュや大﨑は加入後すぐに起用されていましたし、バカヨコもベンチスタートでしたが数試合は起用されている。彼はその後出番を失いますが、これはカンやジョルディと共にシンプルに実力不足、プレーやパフォーマンスに原因があると考えるべきです。

  • 一方で砂田記者の記事では、三上GMはじめコンサのフロントと監督との間では深刻なコミュニケーション不全の状況にあったことが示唆されています。
コーチ陣に新たに人材を加えて体制を強化することも検討されたが、話し合いの末、現状維持を約束。その上で「ミシャにはもっと意見していってほしい」と求めた。
  • フロントとしては、補強に動くにあたって監督からヒントが欲しかったが得られなかったということ思いますが、そんなノーヒントの状況で?契約にこぎつけたバカヨコは三上GM曰く「(ジョルディと比べると)よりカウンターで活きるタイプのFW」。

  • しかし実戦での彼のプレーを見ると、おそらく三上GMが考える「ショートカウンター、ロングカウンター」…オープンな展開で直線的にゴールに突っ込んでサポーターを沸かせるタイプの選手には到底見えず、このアマドゥの獲得に関しては一体何を見てそう判断したのか?と大きな疑問が残ります。

  • 8月にフクアリでジェフに敗れた天皇杯と、9月の三ツ沢でもルヴァンカップで見たアマドゥは、オープンな局面で突っ込むだけのような選手ではなく、前線でコンビを組む小林や白井に都度フリーになれるポジショニングを細かく指示していたりと、自分が相手CBを引きつけることで味方をフリーにさせることができる戦術眼を備える賢い選手、というのが私の印象です。少なくとも好き勝手動くジョルディや駒井と比べると、アマドゥの方がFWとしての役割は理解していると思います。
  • そして試合前練習では決まって右60°くらいの角度からファーのサイドネットに流し込む鋭いシュートを連発していて、当時武蔵のシュートが槍玉に上がっていたこともあって毎回ゴール裏に陣取るサポーターから拍手やどよめきが起こっていました。宮の沢ではヘディングシュートを熱心に練習していましたが、長い距離を走るよりもこちらの方が得意なのではないでしょうか。
  • が、そのカップ戦でアマドゥは決定機を何度も逸して株は急降下。最終的にはリーグ戦の、万博でのガンバ戦で途中出場でリードを守れなかったことの戦犯として完全に干されてしまうこととなりました。


  • 改めてですが、アマドゥは「(ジョルディと比べると)よりカウンターで活きるタイプのFW」という触れ込みでしたが、実際は味方と連携してお互いに活かし活かされる選手に見えますし、戦術を理解しようとする意欲は感じられました。
  • そんなアマドゥが何故フィットしきれなかったのか。これは一つはJリーグに対するフィット感の問題でもあるでしょう。
  • コンサだけではなくJリーグはビルドアップやゲームのコントロールを軽視するというか、FWやウインガーが前線で待っていてもあまりいい形でボールを受けられることが少ないので、アマドゥのように待つタイプのFWよりも、もっと自ら動いてボールを引き取る(そして自らゴールに突っ込んでいく)タイプの選手の方が評価されますし数字も残している。コンサもそういうチームの例に漏れず、アマドゥがいくら前線で待ってもゴールを届けられないのが問題だったかと思います。

  • そしてもう一つ、コンサというチームの二面性というか本音建前を使い分ける?みたいなところもアマドゥには大変だったと思います。
  • コンサはトレーニングではいつも決まった1-4-1-5の配置になって、どうやってボールを動かしてシュートを撃つか、みたいなのを(まともなDFを置かずに緩めのシチュエーション下ではありますが)確認している。アマドゥもそこに控え組のセンターFWとして参加しており、こうしたトレーニングでのコンサは「丁寧にパスを繋いでbuild-upしてセンターFWにシュートを撃たせるチーム」に錯覚する。
  • しかし実戦になるとそうした丁寧かつクリーンな展開になることはほぼなく、コンサは後ろから前にボールを蹴っ飛ばして武蔵が必死に体を張るとか、ボールが行ったり来たりして近藤がトップスピードで突っ込んでいく、みたいな大味な試合に毎回なるので、トレーニングでアマドゥにインプットされているシチュエーションとは全く異なります。

  • 翌シーズンは新監督の指揮下で指導し、こうした雑なサッカーがどの程度残存するかはまだわかりませんが、アマドゥが本領発揮するにはこうした部分への適応が不可欠で、夏加入だとそのための時間やサポートが足りなかったという印象です。よって当たりとかハズレとか論じるのはまだ保留としておきます。


23 大森 慎吾

8試合出場(342分、うち先発3)、0ゴール、0アシスト

  • キャンプ期間中のトレーニングマッチで得点を量産していたとの報道で、武蔵の負傷もあり順調なら開幕スタメンだったでしょう。しかし大森も負傷に悩まされ離脱と復帰を繰り返し、プレー以前に選手として計算しづらいと見られてしまったかもしれません。
  • この2シーズンでプレーを見られた機会はまだ数回程度なのですが、印象としては大学では背負える、前を向ける、裏抜けできる、自分で持って仕掛けられる…一通りなんでもできるセンターFWだったのかもしれません。ただJ1ではそうはいかず、加えてコンサの場合は武蔵もそうですが、FWが潰れ役となって他の選手に前を向かせる役割の負担が大きすぎてまずそこでなんとか折り合いをつけないと自分の得意なプレーもできないかなと感じます。
  • その意味では25シーズンからの監督交代がポジティブに作用する可能性はあると見ていますが、本人がコンサでのプレーにどこまで可能性を感じているかにもよりますし、また監督交代のタイミングがもう少し早ければなと思うところはあります。


70 白井 陽斗

10試合出場(203分、うち先発2)、1ゴール、0アシスト

  • FC琉球で18試合10ゴールと開眼した快足FW。獲得時の三上GMの説明では「J3での活躍を見て翌シーズンの戦力として注目していたが、補強資金を得たので前倒しで獲得に動いた」とする説明でした。
  • コンサでは当初紅白戦でサブ組のウイングバックをやっていて、かつて白井康介を「エヒメ」、菅野を「カシワ」と呼んでいた監督に名前を認識されていたか不明ですが、アマドゥとジョルディが振るわなかったこともあり最終盤には貴重なFW(シャドー)として存在感を高めます。
  • プレースタイルとしては技術よりもフィジカルで勝負するタイプで、シャドーで起用された場合も、DFの間でターンして前を向くというよりは、背後に抜けたり自ら体を張ったりするタイプ。J1どころかJ2でもほぼ実績がないため2025シーズンもまだ未知数ですが、古巣ガンバから奪ったJ1初ゴールのように、ハードワークしつつゴール前でキレを維持できれば面白い存在になるかもしれません。ただ投資対象としては、ワイドにもう少し適性のある選手だったら尚良し、と最後に書いておきます。


4.2 シャドー/攻撃的MF

11 青木 亮太

30試合出場(2,279分、うち先発26)、6ゴール、2アシスト

  • シーズン開始当初は、キャンプでコンディション調整が万全でなかったこともありましたが、前線の左シャドーでは駒井とスパチョーク、左WBでは菅とポジションを争っており、位置付けとしてはあくまでスタメンとサブの当落線上だったはずです。
  • しかし中村桐耶の不振で菅が左DFにシフトし、左WBが他に目立った選手がいない編成ということもあってスタメンに定着すると、福森というボール保持局面において絶対的な存在を失って迷走し自信を失うチームにおいて、積極的に(かつ、過剰ではない程度に)ボールを引き受ける役割を担って徐々に存在感を高めていき、選手からもピッチ上で頼られる存在となっていたと思います。
  • しかし5/19の柏戦で負傷したことで16-21節を欠場し、この間チームは全敗。この頃はかなり体が切れていた印象で、負傷する直前も左サイドで柏のDFを翻弄し、駒井の同点ゴールに繋がるクロスボールを供給していたりもしたので、この離脱はかなりの痛手でした。

  • 夏以降 #日本一諦めの悪いクラブ を自称し始めた頃は左サイドの問題に目処がついてくることとなり、そのタイミングで負傷から復帰しますが、そこからは左サイドではなく中央でボールを引き取る役割を担うようになりここからは完全にキープレイヤー。夏場は「青木と大﨑のチーム」という印象でした(最終盤は近藤のチームかな)。
  • 前線の選手としても重要な場面で持ち前のクオリティを発揮し、3連勝が懸かった川崎戦での先制ゴールと武蔵へのアシストはこのシーズンのハイライトだったでしょう。
  • また左WBとしてみた時に、ポジショニングや予測、1v1での体の使い方が巧みで、菅や中村桐耶と比較しても左サイドに蓋をする仕事にも長けることを示しました。

  • このシーズンの働きを見ると、シャドーよりも適性は更に下がってインサイドハーフかもしれません。シャドーだとゴール前でより得点力やFW的なプレーが必要で、青木は菅野が「シュートは代表級に上手い」と評したようですが、持ち味が発揮されるのはゴールに近い位置よりも少し離れたレンジであるため。そう考えると同じくインサイドハーフかシャドーが適性の駒井と被り気味で、駒井との契約にも関わってくる案件かもしれません。


14 駒井 善成

36試合出場(3,181分、全て先発)6ゴール、1アシスト
  • 開幕時のスカッド的には前線の枚数が多めでしたので、中盤センターで主に計算されているのかと思いましたが、出場記録を参照すると結果的には前線起用の方がやや多めでした。
  • プレーに関しては既に書き尽くした感があるので特に今改めて書きたいことはありませんし、良くも悪くもというかこれまでに見せてくれた駒井で、傑出したハードワーカーでありルーズボールやセカンドボールに反応しマイボールにする能力が特に秀逸。
  • 中盤センターとして出場した時などに後方で組み立てをする役割や、相手のFWをマーキングするプレーについては、もうこれ以上触れないこととします。
  • 前線の選手としては、6ゴール(うち5ゴールが後半戦)はまずまずですが、攻撃面全般においてはゴール前でワンタッチで合わせるプレーが多く、特に右サイドがシーズン前半戦に安定しなかったこともあり、崩しの役割を担うことはこのシーズンはかなり減ったと感じますし、それがアシスト1という数字にも幾分か表れているでしょうか。

  • 今回クラブから契約非更新のため契約満了での退団が決まりました。号泣する菅とは対照的に「まぁそうかもな」みたいな態度が印象的でしたが、京都、浦和と渡り歩いたベテランであるのでクラブの状況(経営面以外も)には菅以上に理解があるのかもしれません。
  • 個人的には今回クラブが監督交代、新しいサイクルを進めるにあたって中心選手をまるっと残すよりは、何人か入れ替えが必要かと思っており、かつ駒井がその対象になるのはクラブにとってそう悪い話でもないかなと思います。
  • 責任感やコミットメントが強い選手でロッカールームのリーダーというのは頼りになる反面、必要以上にグループ内での影響力が大きくなることもあって、新監督のもとで刷新を進めるにあたり障壁となってしまう場合もあるためです。
  • またシャドーは比較的確保が用意なポジションで、システムによってはシャドーがそもそも存在しない場合もあります。中盤センターとして見た時も戦術にもよりますが必須とは言い切れないので、ミシャサイクルの中心選手ではありますが、ありがとうとお別れを言ういいタイミングだったのではないでしょうか。

16 長谷川 竜也

22試合出場(628分、うち先発4)0ゴール、1アシスト

  • 川崎フロンターレの初優勝に貢献したドリブラー/ウインガー。…という看板はだいぶ前に下ろしており、個人的には横浜FCでの22シーズンも追っていたので把握はしていたのですが、駒井と青木を足して割ったようなインサイドハーフまたはシャドータイプの選手にモデルチェンジしていました。
  • 三上GMのコメントでは「途中出場でアウトサイドから仕掛ける役割に期待している」みたいな話があった気がしますが、ドリブルで仕掛けるよりも小さいモーションで鋭く曲がり落ちるクロスボールがコンサの他の選手にはない武器で、この点では劣勢時や相手が守りを固めている際にワイドよりもシャドーの切り札という位置付けになっていたと思います。
  • 負傷者が続出していた(宮澤、荒野、スパチョーク、青木、浅野…)19-21節には3試合連続で前線の一角で先発しており、この際は駒井のような前線のハードワーカーとして印象的な奮闘を見せます。このユニットはむしろ武蔵よりも長谷川の方が体を張って潰れ役になり、武蔵がフィニッシャーや仕掛ける役割という分担になっていて、巻き返しを期す後半戦でも期待していたのですが、この21節新潟戦ではハードワークが祟ったのか負傷により途中交代。そこから出場機会が減少し、新加入選手の存在もあり後半戦はフェードアウトとなってしましました。
  • 駒井が退団することもあり、25シーズンも前線のどこかでバックアッパーとして戦力になってくれそうですが、まずはコンディションを整えてほしいところです。

18 浅野 雄也

22試合出場(1,634分、うち先発19)4ゴール、1アシスト
  • 2023シーズンのチームトップスコアラーであり大和ハウスプレミストドームMVP。金子の移籍後は右ワイドでも1stチョイスと、間違いなく攻撃面のキープレイヤーとしてシーズンを迎えましたが、まず近藤が加入して右サイドの問題は解決したかに思えたのがsの近藤がフィットするまでに時間がかかったのもあり、開幕から数試合は浅野の右サイドが前のシーズンに続いて試されます。
  • そこがようやく落ち着いて前線で起用されてから(8節〜14節)の7試合で3ゴールを挙げており、チームも多少負けが減り、前半戦の裏天王山となったホームでの磐田戦でも見事な決勝ゴールでチームを救います。

 

  • 流石浅野、と思わせてくれましたがこの試合で負傷離脱。ここからまたチームは大﨑(ら)の加入まで連敗爆進を爆進します。
  • build-upというか相手ゴールまでボールを運ぶプレーが武蔵へのロングボール頼みで壊滅的なコンサにおいて、シュートレンジが長めでミドルシュートのオプションがある浅野と青木は貴重な存在でしたが揃って離脱してしまったのは非常に痛かったです。
  • そこから夏場の23節に復帰しましたが、26節に再び離脱。そして最終盤になって合流し35節(vsセレッソ)で途中出場を果たしますが、コンディションが万全ではないのかこれまでに見せてくれた頼もしい浅野の姿ではなく、勝ち点差4に泣いたチームにとって最後はややブレーキとなってしまった印象でした。
  • 序盤戦ではピッチに立っていれば少ないチャンスでクオリティを発揮してくれたので、夏場の離脱はクラブとしても誤算だったかなと思います。新監督体制下では、ワイドもできるということでどのようなシステムでも必ずスタメン候補かと思いますが、その多才さゆえに契約状況によっては他のクラブから誘いがあるかもしれません。

19 スパチョーク

19試合出場(1,398分、うち先発17)2ゴール、5アシスト

  • 典型的なシャドーもしくはルーズFWというスタイルで、ゴール前以外での局面にはあまり関与しませんしカウンターの際に1人で突進できるような力強さもないですが、とにかくゴール前の局面での落ち着き、フィニッシュの際に無駄な力が入らず常にルックアップして視界を確保し、脱力した状態でプレーできる能力はこのシーズンも健在でした。23シーズンの先発10試合で7ゴールというのも非常に優秀ですが、「決める役割の人」としては一定のラインで常に結果を残しています。
  • こうして選手を並べるとこのシーズンは特にシャドータイプの選手が前線に多く、彼らに前を向かせて得意なプレーをしてもらうには、前線で体を張って潰れ役となる選手が重要であると改めて感じますし、build-upが壊滅的なコンサにおいてはシャドー(味方にお膳立てをしてもらい前を向いた時に力を発揮する選手)を過剰に抱えすぎに思えます。
  • そしてそんなに馬車馬のように走っていたりフィジカル的に負荷が大きい仕事をしている印象はないのですが、スパチョークも故障が多く、この辺りは戦術面だけでなくコンディショニング等での課題はチームとしての共通事項でしょう。

99 小林 祐希

19試合出場(855分、うち先発10)0ゴール、0アシスト

  • 出場機会のほぼ全てが、負傷者が多かった開幕直後と夏場であり、残念ながら構想外の手前くらいの位置付けにされてしまった感があります。
  • 2シーズンでの退団となりましたが、ある時監督に起用されない理由を直接聞いたところ「足が遅いから」と言われたとのことですが(確かデジっちだったかな)、これは監督の言い分としてはそういう選手を戦術的に求めている・好むのは明らかでしたので、まず23シーズンの前線の目玉補強として小林を選んだフロントと監督の間のコミュニケーション不足のようなものの象徴になってしまったのは非常に気の毒でした。
  • 24シーズンも、前のシーズン以上に小林の頭の上をロングボールが行き来するようなサッカーでしたので特に状況は好転せず。加入時の期待の割には2シーズンともチームとの戦術的な親和性がかなり低い印象でした。


4.3 アウトサイド

4 菅 大輝

34試合出場(2,763分、うち先発32試合)、1ゴール、1アシスト
  • 昨年J1最年少でリーグ戦200試合出場を飾ったアカデミーから生え抜きの選手が、クラブ側の意向で契約非更新という異例の結末を迎えました。
  • 改めて出場記録を見ても、本来フリートランスファーで放出される選手ではないのですが、このシーズンも先発32試合のうち10試合がDF起用と、まずチーム事情(福森の放出と中村桐耶の不安定さ)に振り回されていたとも言えます。

  • 一方で2017年から8シーズンにわたって出場機会をクラブから優先的に与えられてきたものの、菅のプレースタイルは長年特に変化がなく、ワイドの選手としてはウインガーとして1v1を仕掛けてクロスボールでアシストが得意でもなく、SBとして後方で組み立てに参加しボールを運べるわけでもない。
  • つまり、アップダウンしながら、前が空いたら弾丸シュート、背後を取られそうになったら全力スプリント、右からのクロスにファーで合わせる…といった3バック系のシステムでウイングバックにしか存在しない役割の、よく言えば専門家、悪く言えばプレーの幅があまり広くないということで、最年少200試合出場という勲章に見合った評価がどこのチームでも得られるか?というと、このタイプの選手は評価や好みがかなり分かれるのではないかと思います。
  • 特にサイドバックとしてボールを運ぶ役割は、途中加入のパクミンギュと並ぶと差は歴然で、左サイドで何度かユニットを組みましたが、パクが丁寧にキープして運んだボールを菅がワンタッチで簡単にはたいて相手ボールにしてしまうようなプレーを見ると、菅はなんというか雰囲気でプレーしているという印象を受けます。
  • また金子が右、ルーカスが左、彼らが去って浅野が左…と変化があった時期に、逆足ウイングを重視するなら菅も右サイドに挑戦してもよかったかなと思います。左サイドで1v1で相手をぶち抜く突破はちょっと難しそうなので、右サイドの方がボールを持ちやすいし自慢の左足も活かしやすい。そうした挑戦があまり見られなかったのは残念でした。

  • そう考えると今回の退団に関し三上GMが「総合的な判断」と言及したのは、案外語弊がないのかもしれません。
  • 選手の給料や人件費が具体的にいくらなのかは知りません(年俸を書いているサイトがありますが一切公開されていないので当然ガセですよ。あれを信じている人は闇バイト予備軍だと自覚してください。このブログの読者は大丈夫だと思いますが)が、新監督が4バック系のシステムを採用するなら、基本的にウイングバック的な仕事しかできない選手は使いづらいですし、それが実績のある選手ならお金の使い方としてはあまりよろしくない、選手のキャリア的にもこれからピークを迎える年齢でフィットするチームに行った方が良い、などと、コンサのフロントもなんとなく考えての判断かもしれません。まぁ妄想ですけどね。

30 田中 宏武

8試合出場(491分、うち先発6試合)、0ゴール、0アシスト

  • 大卒2年間で公式戦出場は藤枝での8試合の他はほぼなしと、背水の陣くらいの立場からのスタートだったかと思いますが、「なんとか喰らいついた」という印象のシーズンでした。
  • シーズン序盤に負傷者続出により4節町田戦で先発のチャンスを得ます。個人的にはこの時は「可もなく不可もなく」くらいの印象でしたが、右サイドは金子というモンスターが一種の”基準”であるためかここで合格点は得られず、再び出番が回ってくるのは近藤不在の16節、前の試合で大敗(vsヴェルディ)により左サイドにテコ入れを行った18節。
  • この18節京都線での左サイドでの起用は、右サイドで起用された他の試合よりも一番出来が良かったように思えますが、その後も出番は近藤不在時の右サイドのみ。
  • ただこの間、高卒新人の原とベンチ入りの枠を争っており、短い時間の途中出場のカードとしては原の方が評価されてもいたので、この点で腐らずよく「喰らいついた」との印象になっています。
  • 新監督体制下では、サイドアタッカーは金子や菅のようなモンスター的な身体能力や走力を要求されないだろうとの予想で、また近藤の残留が決まりということで左サイドでなんとか存在感を見せたいところです。カットインからのフィニッシュ(クロスボール)の精度向上が欲しいところで、それでも青木がライバルになるかもしれませんが。


33 近藤 友喜

29試合出場(2,214分、うち先発6試合)、5ゴール、3アシスト

  • 3アシストに加えPKを2つ獲得(vs福岡、鳥栖、他カップ戦のvs富山)しています。
  • シーズン序盤戦で見た時は最終的にここまで絶対的な存在になるとは思っていませんでした。前半戦で得点に絡んだのは2試合でいずれもセットプレーでのヘディングシュート。
  • 後半戦、ホームでの福岡戦(26節)でPKを獲得しましたが、この試合くらいからオープンな局面で自重せずトップスピードで突っ込んでいくプレースタイルになり、基本的に放り込みとかオープンな展開でしかチャンスを作りにくいコンサというチームをようやく理解した感があります。
  • それまではおそらく近藤もアマドゥと一緒で、コンサというチームの本音建前なのか二面性で戸惑っていた印象で、建前を真に受けると、サイドアタッカーは常に仕掛けるというよりはチャンスをじっと待ってから確度が高い時に勝負するという振る舞いが正しい、と考えていたのかもしれません。
  • そんな中で6月に日大の先輩・金子がコンサを訪問して近藤に闘魂注入がされたというか、「もっと仕掛けろよ」みたいなことを言ったらしいですが、その効果なのか後半戦はとにかく縦に行く選択を貫き、数字がついてきます。

  • その右サイドでの縦突破が得意というスタイルはシーズン序盤にあまりミシャも買っていないのか、左サイドでの起用も試されましたがこれも理解できなくはない話で、右利きの選手が右サイドで縦突破しか選択肢がないとサイドで追い込まれやすいため、近年はウイングは逆足配置を好むチームが増えています。
  • ただ覚醒した近藤のスピードはそうした追い込まれやすいみたいな通説すら覆せるだけのクオリティがあり、ほぼ8〜9割縦突破でも緩急をつけるだけでDFはストップが難しい、という状況でした。
  • シーズンを通じて見るとJリーグでトップのサイドアタッカーかというとまだ微妙ですが、終盤戦の最高風速だと明らかにJ2でプレーするには余ってしまうクオリティでした。25シーズンは残留が決まったとの報道がありますが、速さ以外のプレーの幅を広げる良い機会になるかもしれません。


35 原 康介

12試合出場(258分、うち先発1試合)、2ゴール、0アシスト

  • シーズン序盤戦は負傷者続出により途中出場のカードとしてベンチ入りを果たし、4節町田戦ではチーム初ゴールを挙げるなど、序盤戦は原のことを考えているときだけがコンサを応援する楽しみだった人もいるかもしれません。
  • ただその後選手が揃ってきてからは出場機会を失っており、その意味では今回あまり言及する必要がないかもしれませんが可能な限りで感想を書いておきます。

  • 高卒1年目で12試合出場、2ゴールと悪くない1年目のシーズンだったと見れるかもしれませんが、個人的には原がJ1で主力として出るような選手になれるかはまだ不透明と感じます。2ゴールは実力というよりは「持ってるな」という印象ですし、サイドアタッカーとして見ても相手を剥がすとかクロスボールでフィニッシュといったスキルが通用しているとは言い難い。
  • 何より(高卒1年目なので当たり前ですが)ワイドの選手としては走力の向上が不可欠で、新監督体制下でどうなるかはわかりませんが、ワイドの選手が広範に渡って走ることを求められるようなタスクになれば2年目でも出場機会が増えない…という事態も十分に予想できます。本人は「近藤のような決定的な選手にならないと」と言っていたようですが、まずは近藤に近づくためにもそうしたフィジカル的な部分の向上が見られるかを今後注視していきたいところです。


70 フランシス カン

(リーグ戦出場なし)

  • 「少なくともこのシーズンは秘密兵器で終わりそうだな」というのが8月にトレーニングで見た際の感想でした。プレー云々以前に紅白戦にも入らずピッチ隅で若手選手とロンド組、日大との練習試合でもスタメンではなく後半途中から登場、という状況で、お腹が痛いとか何かコンディション不良なのか?と思わせるほど。
  • その後、彼のプレーを確認できたのは、その日大戦の20分ほど?と、天皇杯で30分程度ですので正直なところ偉そうに雑感をかけるほどの材料に満たないかもしれません。
  • それを承知で書くと、まず公称162cmという小兵の彼ですがパワー不足、馬力不足の不安は的中した印象です。前半戦は近藤がイマイチで浅野が右WBに入っていたので、浅野を前で使うために獲得したのだと思いますが、左利きの右WBとして見ると前任者は金子。
  • 金子はドリブル突破だけでなく、コンサの広くピッチを使うプレースタイル(マンマーク主体で守ってピッチ横幅を目一杯使って攻撃し、間延びした状態でカウンターを繰り返す)においてもフィジカル的に傑出しており、90分フル出場しても終盤までアップダウンを繰り返していましたが、まずカンはそうした走力がなくカンをウイングバックで使うとマンツーマンで守って相手SBに圧力をかけるのは無理だし、日大戦を見た感じだとワイドの対面の選手がオーバーラップした際にそのままずっとついていく…みたいな対応も不慣れでそれだけで簡単に穴になってしまいそうに見えました。
  • ですのでまずコンサのワイドの選手は走力をベースにしたハードワークが必須であるのはわかりきっているはずなのに、このカンのような選手をWBとして獲得した件は直近10年におけるのワースト補強(ワースト選手ではなく補強)に数えられるのではないでしょうか。

  • そんなカンですが、おそらく翌シーズンも契約が残っていると思いますが、ミシャにはワイドではなくシャドーとしてカウントされ、磐田での遠征メンバーに入ったのは率直に以外でした。ワイドとして見ると、大外から仕掛けた際にDFの頭を超える強いクロスボールを蹴れるか?も不透明というか不安要素なので、新監督体制ではワイドというよりシャドーで生きる道を探すことになるでしょうか。

※次回でこの企画終わり予定です。

2024年12月15日日曜日

北海道コンサドーレ札幌の2018-2024シーズン(3) 〜10試合+αで足跡を振り返る〜

3.ピッチに残された足跡

  • プレーについて細かく振り返ろうとしましたが既に大半のことには言及しているので、この7シーズンの中で説明に適している10試合をピックアップして振り返ります。と思いましたが、10試合では留まらなかったので多めにピックアップしています。

3.1 2018シーズン

リーグ戦第2節(vsセレッソ大阪、△3-3)


  • 新監督就任2試合目でまだどうなるかドキドキワクワクという状況でしたが、結果的にはこの時に見せたプレースタイル…長いボールを多用してリスク回避をし、センターラインにパワーのある選手(宮澤、深井、ミンテ、ソンユン)が跳ね返してゲームを作る。相手ゴール前でもジェイ・都倉(サブの印象ですが19試合に先発出場している)のパワーを突破口とする…という前監督のスタイルを踏襲したものがその後、7年間にわたって繰り広げられることとなりました。
  • これは一応、伏線があり、このシーズンのキャンプではGKとCBで自陣ゴール前からボールを運ぶことにトライしていたようですが、キャンプ中のトレーニングマッチでそのGKやDFのミスから立て続けに失点してJ2のジェフに0-4で完敗、ということがあって、そこから路線変更というか「無理なら繋がずに蹴って良い」とする指針になったようです。リーグ戦が開幕して、広島相手に開幕戦を落としたのもあって、この考え方はより強固になったということも考えられます。
  • またこの頃は中盤センターに宮澤と深井が起用されていて、この2人のいずれかがDFの間に下がれば繋ぐ、繋ぐ気がないなら下がらない、という調節弁でもあり、特に序盤戦は「下がらない」選択が多かったと記憶しています。

  • 前監督のために用意されたスカッドを引き継いで、整理できていない状況ですのでので初年度としては別におかしいことではないのですが、問題は2年目以降にスカッドの整理が進んでもあまり変化が見られず、前線に蹴るチームのままだったということです。

リーグ戦25節(vsヴィッセル神戸、⚪︎3-1)


  • ミシャコンサは美しいチームだったとする思い出と共に心地よい眠りにつきたいならこの試合を何度も見返すことがおすすめです。
  • ポドルスキが左ウイングで先発(試合中盤に退場)した神戸の前線守備は非常にルーズで、そこを突破してしまえば横幅を4枚で対応する神戸のDFに対し面白いようにサイドチェンジが決まり簡単にDFが崩壊します。7シーズンを通じてこういう相手ならミシャコンサの得意な要素を発揮できましたし、毎年こういう対応をしてくるチームが未だに1つか2つあることはJリーグ7不思議の1つにノミネートされてもよいでしょう。

リーグ戦26節(vs川崎フロンターレ、⚫︎0-7)


  • 中断期間の9月6日未明に北海道胆振東部地震が発生します。私もたまたま帰省していたので覚えていますが、札幌でも地区によっては7日の夜頃まで停電が続き、リーグ戦の中断期間だったコンサは調整不足の状況で川崎に向かったというゲームでした。
  • 一方でこのスコアは、調整不足の中でこの年リーグを連覇することになる川崎とアウェイで対峙する…という最悪のシチュエーションだったからと言い訳に逃げてしまうと、この7年間のサイクルに対する解像度が下がります。
  • コンディション以前にコンサはボールを持っている際のポジショニングが整理されておらずうまく敵陣にボールを運べないため、そこからのミスで簡単にボールロストから失点を重ねてしまいます。

  • この試合後は、①キム ミンテが干される、②駒井がウイング以外の役割に移行、というサイクルの中でもかなり大きな戦術的なターニングポイントがありました。
  • ミンテはビルドアップにおけるミスの責任を取らされた形で(後に定位置を奪い返す→干され を2ど繰り返します)、確かにコンサでのミンテはポジショニングやボディアングルに改善の余地ありで、なかなかそこが改善されなかったのがミシャの信頼を完全に得られなかった要因ではあるのですが、22シーズンに岡村の台頭まではミンテの控えが宮澤しかいないという歪な編成(しかも岡村が登場するとミンテを放出する)で、コンサはしばらく「ミンテではボールを運べない」→「宮澤だとスピードや対人守備に課題」とする、特に重要なポジションでボトルネックの無限ループが繰り広げられます。
  • 駒井はこのシーズンの開幕からウインガーとしてプレーしていました。この大敗くらいから今、我々が知っている駒井らしさ…下がってボールに積極的に関与するが、本来いるべきポジションや役割を放棄する…が顔を出すようになり、それは右ワイドでの起用でも同じで、以後駒井はウインガーとして仕掛けるよりも、ビルドアップの出口になる振る舞いのプライオリティが高まります。
  • この18シーズンの残りのゲームにおいては「とりあえず駒井にボールが渡る」が、ボールを落ち着かせる観点で意味のあるものになっていたと記憶していますが、故障で駒井がほぼ全休した19シーズンを経て、20シーズンから中央で起用されるようになると、「下がって受ける駒井」の別の影響が軽視できなくなっていきます。

3.2 2019シーズン

  • 武蔵、アンデルソンロペス、ルーカスフェルナンデス、白井、岩崎、中野、といった選手が加入し人件費に大型投資を行ったシーズン。
  • 特に前線に、三好の代役としてアンデルソンロペス、都倉の代役として武蔵が選択されましたが、2人ともこの頃は味方を活かしたりスペースを作るというよりは、味方が作ってくれたスペースに突っ込むプレーが得意な選手であったため(今は2人ともセンターFWとしてプレースタイルを変え円熟味を感じさせます)、コンサは地上戦での高速カウンターという強力な武器を得ます。
  • そして宮澤のDF起用と駒井の故障もあり、前年15試合スタメンだった荒野が26試合でスタメンと台頭します。この頃(大怪我前)の荒野は走力に長けており、速い展開(ボールが前後に行ったり来たりする試合展開)では宮澤や深井とは別の部分で存在感を発揮し始めます。

リーグ戦第2節(vs浦和レッズ、⚪︎2-0)

  • アンカー(エヴェルトン)を置く浦和に対しコンサはチャナティップがトップ下の1-3-4-1-2。コンサのマンツーマン守備で浦和を嵌めてカウンターから2点を奪って完勝でしたが、そもそも3バックでコンサの2トップ相手に数的有利下でも何もできない浦和の側により大きな問題があったと振り返ることもできます。
  • (たいして上手くもないのに)ボールを持とうとしてくれるチーム相手、アウェイで、かつ先制点を奪えればカウンター狙いに専念できて当たり前ですが非常に楽な展開で、コンサが上位のクラブに勝つ時はだいたいこのパターン。
  • 1点目はアンデルソンロペスの見事なポストプレーとアシストから。しかしアンロペがこうした器用なプレーを見せるのはこの当時は大変稀で、序盤戦の大爆発と怪我から復帰した後は相手DFに向かってひたすら無謀なドリブルを繰り返してロストをするだけの選手に成り下がり、彼の覚醒にはあと1年ほどを要します。この試合はジェイが不在、前線の枚数も少なく、浦和相手にカウンターでスペースがありアンロペが自由に動きやすいということがかなりプラスに作用したのでしょう。
  • そしてアンロペが右シャドーとしてフィットしなかったため武蔵がその役割に収まりますが、武蔵もまた右シャドーとしてのプレー(三好がやっているような)は難しいので、コンサは左シャドー(チャナティップ)と2トップ(ジェイ・武蔵)のような変則的な左右非対称布陣が定着し、中盤でボールを受けて展開するという役割が唯一できるチャナティップへの依存度は大きくなったと思います。


リーグ戦第9節(vs横浜F・マリノス、⚪︎3-0)
  • コンサのホームでしたがF・マリノスはボールを保持しようとアグレッシブにプレーしますし、コンサはカウンター主体で良しとするので浦和戦と同じ展開になりますし、またもコンサは2トップということでアンデルソンロペスが輝きを放ちます。

ルヴァンカップ決勝(vs川崎フロンターレ、△3-3)
  • 深井のドラマティックなゴールなど美しい思い出として永遠に記憶されるゲームだと思いますが、戦術的には18-19シーズンの典型というか、チームの限界を示す非常に貴重なサンプルとなったゲームでもあります。
  • 開始早々にGKからのbuild-upから菅の見事なゴールで先制しますが、以後は80分ほど防戦一方でした。川崎のようなワイドに強力な選手がいるチームに対し、コンサは1-5-4-1で守るシャドーの武蔵とチャナティップも下がってサイド2人〜場合によっては3人で対応を試みますが、こうして引いて耐えているだけではジリ貧になります(武蔵やチャナティップ、前線で1人孤立するジェイくらいの能力があればカウンターからワンチャン作れますし、実際そういう場面もありましたが)。
  • この試合でチームのリミットがわかった以上、やり方を変えることは必須で、その点では2020シーズンからのスタイル変更には一定の理解を示しますし、遡ってもコンサの歴史上で前線高い位置からボールを奪いに行くチームは存在しなかったので、この点がミシャ体制の7年間での最大の成果というか最も評価する点ではあります。
  • しかしプレスの開始位置が高かろうと低かろうと、守り方としては極めてシンプルに人を捕まえるマンツーマンしかできないという問題もあり、そこはクラブとして甘く見ていたとする振り返りになるでしょうか。

3.3 2020シーズン

  • この7シーズンを通して見たときに大きな転換点となったシーズンでした。「トータルフットボール」「オールコートマンツーマン」「アタランタのようなスタイル」といったキャッチーでメディアウケが良いものの中身がよくわからない言葉が氾濫しますが、ピッチ上ではコンサはたくさん走って人を捕まえているだけ、というのは早期にバレ始めており景気の良い言葉とは裏腹に低パフォーマンスが続きます。
  • そして10試合勝ちなしでミシャが進退伺を表明し、これは本気ではなかったかもしれませんが弱気な発言が飛び出します。クラブはこの状況で監督を全面的にサポートすると表明し、野々村社長は「後は決めるだけ」という謎の擁護ワードを使ったり、2020シーズンは戦術浸透に当てているので結果は度外視、という異例のバックアップ体制を敷きます。

リーグ戦第26節(vs川崎フロンターレ、⚪︎2-0)

  • 当時リーグ戦で12連勝のJ1記録を更新していたこの試合も、やはりパターンはコンサのこれまでの勝ちパターン(上位喰いパターン)と全く同じで、ボールを持ってくれる割にはボールを運べない川崎相手に荒野・駒井・チャナティップの前線でのマンツーマンがハマったもの。
  • それだけだと特筆するゲームではないのですが、金子の右ワイドでの逆足起用が決定的になったゲームということでピックアップしています。金子は15節(vsセレッソ、9月9日)から右ワイドで起用されておりこの試合が初めてではないですが、セレッソ戦はルーカスが負傷欠場という事情があり、ルーカスを左に回してでも金子を右で使うとする方針が定まったのはここから。
  • ただこの頃の金子は右足クロスのオプションもなく、左足でも強引なドリブルに頼っていて左足インスイングでのラストパスも見られず、彼が手のつけられないレベルに到達したのは23シーズンになってから。21シーズンは7ゴールを挙げていますが、これはシャドー起用だったりオープン展開からのカウンターで突っ込んだりしたものから生まれていて、改めてですがこの川崎戦でコンサというチームや金子が何かを掴んだわけでもなく、以後再びチームは停滞を続けます。


3.4 2021シーズン

  • 野々村社長の言葉を信じるなら、2020シーズンを使って戦術が浸透し、このシーズンで勝負をかけるという位置付けでしたが、結果は特に触れる必要がないでしょう。
  • 戦術的には引き続きトータルフットボールという名の極端なマンツーマン対応を続けており、このやり方を採用するなら1v1で勝てるかが重要になります。
  • よって資金的に上位のクラブ(コンサが1v1で勝てない選手がいる)相手に分が悪くなり、下位のクラブを叩いて順位を維持する傾向がこの21-23シーズンは顕著でした。21シーズンは4クラブ降格というシーズンでしたが、獲得した勝ち点51のうち、降格した横浜FC、仙台、大分、徳島相手に8試合で6勝2分で勝ち点20を稼いでいます。

  • このシーズン前半にアンデルソンロペスが14試合で12ゴールと爆発し、中国の武漢足球倶楽部へと引き抜かれますが、アンロペが覚醒し前線でボールを収める、守備で1stDFとなる、ボックス内ファーサイドでボールを待てる…といったマルチなFWに変貌したことも非常に大きいトピックなので試合をピックアップしようかと思いましたが面倒なのでやめちゃいました。ごめんね。
  • ただアンロペが覚醒したというかプレースタイルが明らかに変わったのは前のシーズンの13節(8/29、vs名古屋)でありこのシーズンではないこと、またこの背景にはミシャの指導も影響していたという本人の証言があったことを記録用に残しておきます。

リーグ戦第1節(vs横浜FC、⚪︎5-1)

  • 開幕戦で横浜FC相手にゴールラッシュを披露し期待が高まりますが、相手がこの年のJ1で最下位に沈むチームだとは後に判明します。
  • 戦術的には「トータルフットボール革命後」のチームはこの時点でほぼ完成系というか、言い換えればこれ以上は伸びしろがない状態でした。マンツーマン、各ポジションで完全に同数で捕まえると、この頃は特にJリーグのチームはほぼ全チームが長いボールを蹴ってきて、それをDFが跳ね返すして回収というもの。
  • ですので「DFが跳ね返す」が特に重要で、18、20シーズンと干されていたキム ミンテがしれっと開幕スタメンに返り咲いているのもこのためでしょう。しかし「ボールを持つのか持たないのか問題、そもそもそれが上手くいかないのは本当にミンテのせいなのか?問題」が再発してミンテは干され、宮澤のDF起用でこのシーズンは乗り切ることとなります。
  • ↓の金子のゴールは開始4分という速い時間帯でコンサの速攻が決まっていますが、これも横浜FCの放り込みをDFが跳ね返して拾ったところから。跳ね返されるだけでこれだけ崩れているのは、かなり相手にも問題があるでしょう。


3.5 2022シーズン

  • 21シーズン途中にアンデルソンロペス、21シーズンオフにチャナティップとジェイを失い、その後任が緊急補強のガブリエルシャビエルに興梠と、スカッドのシュリンク傾向が明確になっていきます。ただ興梠やシャビエルといった手が加わっていた前線はまだマシで、宮澤CBで乗り切ろうとしていた最終ラインに岡村の台頭がなければ大惨事になっていたでしょう。もっとも岡村をザスパから見つけてきたのはフロントのファインプレーでもありますが。

リーグ戦第7節(vs鳥栖、⚫︎0-5)

  • 0-5で負けた試合をピックアップするのは別にイヤミでもなんでもないのですが、まず20シーズン以降のコンサで重要なトピックとしては、「3バック(3DF)前提で編成またはスタメンを組んでいるので、相手が2トップの時にも同数でマンマーク対応を続けるなら枚数調節が必要で、それを毎回宮澤か、高嶺が起用されるようになってからは高嶺がやっていた」という点が挙げられます。
  • そして相手が2トップならコンサは2バックになって、その2バックとは岡村と下がってきた高嶺、本来サイドのDFである田中駿汰と福森は前に上がって相手の中盤の選手をマークする…といった変則的な、奇妙な布陣でプレーすることに最適化されていました。
  • 前向きに考えると、おそらくミシャとしては純粋なDFをなるべく起用したくないというか、高嶺にせよ岡村にせよ常に後ろに2人余っている必要はないでしょ、ということで、高嶺のような本来MFの選手をCBとして運用して枚数調節をしやすくしているのかなと思いますが、高嶺の移籍理由として「中盤の選手として勝負して評価され、ヨーロッパに行きたい」みたいな話があったかと思いますし、結局は最終ラインでいかに対人で相手のFWに勝てるかが同数での対応においては重要なので、そこは本来DFの選手を起用するオプションを持っていてもよかったかなと思いますし、そのツケを24シーズンに少しは払うことになったかもしれません。
  • なおアタランタは3バックが基本形で、相手が2トップなら(コンサのように)中盤の選手が下がるのではなくて、3バックの左右どちらかが残って、どちらかが前に出ていくという運用であることが多いと思います。

  • この「相手の配置次第で高嶺が適正位置・役割で使われず無理やりCBをやらされる問題」と似ているのが小柏。前線が興梠、シャビエル、小柏で、相手が4バック(2CB)だとコンサも2トップで相手に対応することになりますが、興梠とシャビエルが2トップなら小柏は弾き出されててインサイドハーフになります。ただ高嶺は後ろでの対応が多いのに対し、小柏はチャンスの際には前線に進出できますし、彼にはそれだけの走力があること、また実は2列目の方が向いている?こともあり、あまり問題になっていなかったかもしれませんが。


リーグ戦第20節(vsFC東京、⚫︎0-3)

  • ↑の鳥栖戦とは対照的に、この試合はマンツーマンでの対応自体はやりやすい相手のシステム。しかしFC東京の問題児レアンドロが「偽の9番」(ゼロトップ)で起用され、コンサはその仕組みを使われてボコられます。
  • レアンドロが引いて岡村を釣り出せば、広大なスペースでコンサとFC東京で2v2。かつコンサはそのうちの1人が福森ということでスピード勝負では圧倒的に不利なシチュエーションからわざわざ勝負し、PK2本を献上します。
  • 21年の一時期、とあるフリーのサッカーライターが「札幌の強度は最強!」と謳ってサポーターを高揚させていましたが、その時期もコンサが勝っていたかは別にして、22シーズン前線がシャビエルや興梠に入れ替わったこともあってコンサの前線守備の強度はもう純粋なマンツーマンでは相当厳しいものになっていました。
  • ですのでDFの能力の問題だけではなくて、戦術的により高度なチューニングが必要だったと思いますが、これ以降、聖域というか絶対的な存在だった福森のプレータイムを減らし、便利屋と化していた高嶺や、菅をDF起用する(参照)対応がとられます。
  • 福森と競えるDFとして中村桐耶にクラブが期待していたのは自明ですが、その中村が伸び悩み代役が見つからない誤算は24シーズンにも大きく影響したことは言うまでもありません。

リーグ戦第24節(vs湘南、⚪︎5-1)

  • 23-24シーズンの直近3試合は湘南に勝てていませんが、それ以前は湘南を得意というか相性が良いチームで、このシーズンも夏に大量得点で湘南をボコって以後やや持ち直すことに成功しています。
  • これは明確な理由があって、湘南は23年夏にミンテが加入するまではDFが大岩、舘、大野、杉岡…などあまりCBとしてはパワーがない選手が揃っており、コンサはそこに放り込んで、駒井のようなパワーのある選手が体を当てるだけで簡単に湘南陣内でプレーできていたためです。
  • すでにジェイが引退していてもコンサが前線へのロングボールを多用することは顕著で、これは21シーズンだと徳島なども同様にDFにパワーがないチームで有効だったのですが、ミンテが来てから湘南に勝てなくなったのは非常にわかりやすい結果かと思います。


3.6 2023シーズン

  • またも前線のスタメン級だったシャビエル、興梠が退団し選手の入れ替えが生じます。
  • フロントが期待していたのは、前のシーズン後半に加入し救世主となったキムゴンヒ(頑なに登録名をゴニ にしない)とヴィッセル神戸から加入のコバ兄こと小林。
  • キャンプでもこの2人と小柏を前線で組ませていたようですが、開幕戦でゴニ+小林のコンビだと速攻を仕掛けるにはスピード不足を露呈し、既に当時の時期コンサは1トップ+2シャドーによる前線のコンビプレーみたいなものも形骸化していたのでこの鈍足ユニットを使う理由がなくなります。
  • そして見た目の割に意外とゴニはパワー不足というか、コンサはこれまで都倉を筆頭にジェイ、駒井(あの駒井です)…といった前線で身体を張ってルーズな放り込みをマイボールにしてくれるパワフルな選手に頼ってきましたが、ゴニはそこまで無理がきく選手ではないことも判明し、前線で走り回る守備が得意でもないということで前線のキーマンを探さなくてはならない状況でシーズン序盤を戦います。

リーグ戦第10節(vs横浜FC、⚪︎4-1)
  • またも横浜FC(もしくは湘南)というか、センターラインに強度がないチームを放り込み主体のシンプルなスタイルでボコってコンサは立ち直ります。
  • 先述の通りゴニ・コバ兄のユニットが「なんか違うな…」となってコンサは前線の柱、特に体を張って放り込みをマイボールにしてくれる選手が不在の状態で、この試合で初めて小柏と、新加入の浅野の2トップが採用されます。
  • 前線がこの2人だとパワー不足がより顕著になるかと思いきや、まずこのシーズンのJ1でコンサのFWが誰だろうと放り込んでるだけで勝手に崩壊するチームがいくつかあり、また浅野はハンジフリックキラーとして有名な兄のようなタイプかと思いきや、ボールを持った時により力を発揮する選手だと判明し前線の救世主となります。足元で受けるだけではなく、DFを背負っても一定以上のクオリティを発揮しボールをキープしたりファウルを誘って陣地回復をしてくれる貴重な存在でした。
  • 小柏が前線の軸、もしくは最も重要な選手と考えていた方もいるかと思いますが、私の印象では小柏はほとんどボールを持たないところでの仕事が多く、まずボールを持って相手DFと対峙して何らかDF剥がしたりして決定機を作っているのは浅野。小柏は浅野の存在にかなり助けられている印象でした。

 


リーグ戦第16節(vs柏、⚪︎5-4)
  • 5ゴールでご満悦のミシャの姿を今も記憶している方も少なくないでしょうか(das ist sapporo ご満悦のミシャが忘れられません。それにクラブが乗っかるのもどうかと思いますが、基本そういうノリで運営しているのがコンサというクラブなのでしょう)。
  • この試合も浅野・小柏の2トップが、オープンな撃ち合いを挑んでくれた柏に対してぶっ刺さっていましたが、ここでは金子について書いておきます。
  • 前のシーズンまではシャドーかウイングバックかで定まっていなかった金子が、浅野の前線起用と共にウイングバックで定着し、ここから金子の快進撃と共にコンサは浅野、小柏、金子の3人でオープンな展開からの速攻が売りのチームになっていきます。
  • 金子のこのシーズンの開眼は、右サイドで右足を使ってプレーできるようになった点。すなわち縦突破から右足のクロスでシュートチャンスを創出できる選手になったことで、左足のカットインだけを警戒していればよい選手だったのが、金子を止めるために多くのチームが2人のDFを投じることになります。

 

 

 

  • 個人的には素晴らしい監督のもと、組織的で特定の選手に頼らないチームができると期待していたので、「コンサは低予算だから〜」、「選手が移籍したから〜」、との弁明に終始する姿勢に大変失望し続けてきた7年間ですが、23年夏にコンサを去った金子は1人で勝ち点5〜10くらいは持っていたのではないかと思います。
  • なおクロアチア方面に強いライターの方が、ディナモ移籍当初の金子について「戦術理解に乏しく戦えない」と書いていましたが、なんもわかってないなこいつと思っていました。戦術理解はともかく金子ほどフィジカルに優れた選手はJリーグでは稀で、こうした相手ゴール前がクオリティも優れているだけでなく、自陣DFラインまで下がって対面の選手をマーキングするというウイングバックの非常にタフな仕事も金子は頑張れる選手で、特に後任の近藤がこの役割で当初苦しんだことを考えると金子の穴は非常に大きかったのは事実でしょう。

  • そして金子が去った後半戦は17試合で3勝、浅野も4ゴール、小柏も1ゴールとペースを落とし、build-upに問題を抱えるコンサにとってドリブルで勝手に相手ゴールに突っ込んでくれる金子の重要性がより際立った結果かと思います。


3.7 2024シーズン

リーグ戦第16節(vs神戸、⚫︎1-6)

  • 先に書きましたがマンツーマンでの対応においては相手との1v1の局面でどれだけ負けないかが重要になりますし、また「マンツーマン」の程度にもよるのですが、コンサの場合は特にその純度が高いマンツーマンのやり方なので対人に強い選手をなるべく揃えたいところ。
  • ですので本来は「お金がない…クオリティのある選手を集められない…」とするチームにはアンマッチなやり方なのですが、なぜか知りませんが監督がミシャという縛りでコンサは戦わなくてはならないので手の施しようがない状況でもありました(その後、パク ミンギュのような選手が加入して一応手の施しようはあるんだなと判明します)。
  • 2020シーズンにこうしたやり方になってから、コンサは鹿島のような対人に強い選手が揃うチームとの部が悪くなったのはこうした話で容易に説明がつくのですが、神戸も2020-24年の5年間でコンサが全く勝ててないチーム。
  • 特に大迫が21年に加入し、神戸のスタイルも変容してからは、大迫が岡村を背負った状態でのマッチアップがこのカードの度に繰り広げられますが、Jリーグでは別格のFWに対して岡村1人では対処が難しくこの優位性を神戸が使う形で毎試合有利に試合を進めており、逆の視点では岡村1人にMVPクラスの選手の対応を投げてしまうコンサの無策さが露呈されています。

  • この試合の6失点はいずれも示唆に富んだものでありそれぞれ振り返る価値がありますが、トピックとしてはこの試合の出来を見て、最終ライン右の髙尾を信じられなくなったことも大きいものでした。
  • 後半戦に髙尾、岡村、パクミンギュ、大﨑と揃ったことで快進撃を披露しますが、コンディション不良もあったとはいえ髙尾がスケープゴートのような形になってシーズン前半戦で以降ほとんど起用されず、結果的にここで落とした多くの勝ち点が響き泣きをみることになりました。

リーグ戦第34節(vs名古屋、⚪︎2-0)
  • 「攻撃的で魅力的なサッカーに転換しないと未来はない」(野々村前社長・談)としてミシャを招聘し異例の7年間を任せたサイクルは、最終的にはこの名古屋や湘南といったチームに対してもボールを捨てて守りを固めるということに帰結しました。
  • ただそのボールを捨てて名古屋に持たせる選択をしたこのゲームがシーズンでベスト、かはわかりませんし個人の主観ですが、相手にほぼ決定機を作らせず完勝に近いゲームだったといえます。このスタイルならば別の監督、別の体制、別のお金の使い方で良い気がしますが、まぁ勝てばよかろうということで。

リーグ戦第37節(vs広島、⚫︎1-5)
  • このシーズン僅差で優勝を逃した広島ですが、コンサとはほぼ全てにおいて質が違うチームでした。優秀監督にスキッベ監督が選ばれるのも納得でした。かつて「コンサの強度は最強」と言っていた方がこの広島を見てどう評されるかは興味深いところです(いや興味ないけど)。
  • お互い1-3-4-2-1のシステムを採用したこともあり特に差異が明確に観測できたゲームでした。広島もヨーロッパの感覚でいうとボールを捨てているところはあるのですが、その場合も次のフェーズ(相手ボールになる)に素早く切り替えてシームレスにプレーします。よく「連動性」と言いますが日本ではパスが繋がっていると連動性があると評されますが、広島を見ていると各局面の繋がりだったり、各選手がプレーの意図を共有していることが本来「連動性があるチーム」と賞賛されるべきなのではないかと思います。
  • 一方のコンサはとにかく武蔵のような前線で無理が効く選手にボールを押し付けて、武蔵の頑張りが結実すれば他の選手も個々で頑張って何かを生み出そうとする感じで、都度都度考えてプレーしていると言い換えられるでしょうか。広島のようなpressingをサボらないチーム相手にピッチ上で考える時間は多くありません。ミスから失点もしましたがそのことについて選手を責めるものではないと思います。

※あとは選手短評を書いてこの企画を終わります。

2024年12月11日水曜日

北海道コンサドーレ札幌の2018-2024シーズン(2) 〜新卒ボーナスは存分に享受〜

  • 前回はピッチを取り巻く環境について振り返りました。ちょっとずつピッチ上の現象に論点を近づけていきます。

※今回も基本的に敬称略


2.ある種の低予算ボーナス

年間順位、勝ち点、強化費…:

  • まずリーグ戦の年間順位でいうと、2017年の11位から、4位、10位、12位、10位、10位、12位、そして今年の19位と推移しています。
  • ただ順位というのはよそのチームの都合にもより変動します。1試合平均勝ち点でみると、1.26→1.62→1.35→1.14→1.34→1.32→1.17→今年の0.97、と推移しています。

  年間順位 勝ち点/試合数 トップチーム人件費(百万円) 人件費順位(J1)
2017 11 1.26 1,206 16
2018 4 1.62 1,502 15
2019 10 1.35 1,698 14
2020 12 1.14 1,614 13
2021 10 1.34 1,666 14
2022 10 1.32 1,814 13
2023 12 1.17 1,723 14
2024 19 0.97  未集計 未集計


  • 2024シーズンを除くと数字的に底になっているのが2020シーズンの1.14(勝ち点39)で、これに関しては、この2020シーズン途中から「降格がないシーズンなので結果を追求するよりも戦術浸透に充てる」と宣言した上での結果でした。

  • 人件費については扱いが難しい(順位というより金額と勝ち点の相関でしょう)ですが、このサイトの見解↓に幾分か同意します。
https://syuukatsuclub.jugem.jp/?eid=127

  • 要はJリーグは、人件費と成績の散布図を作ると著しく費用対効果が悪いクラブが毎年いて、それらの「あからさまに失敗しているチーム」を外れ値とすると、18-23年の6シーズンにおいて、コンサは2018シーズンを除くと概ね人件費からすると妥当な成績に着地しており、2017,18シーズンに関しては、人件費を基準とすると想定よりもかなり上振れした結果だと捉えられるでしょう。

  • 24シーズンに関しては、人件費がいくらかまだわからないので「費用対効果が著しく悪い」などとは言い切れません。ただシーズン途中に補強した選手の原資として、パートナー企業から推定3億円以上?のサポートを受けており、結果的には(近年のコンサ比で)それなりのお金を使っていると推察されます。


人件費はあくまで目安でしかない:

  • 一方で人件費やお金まわりのところで難しいのは、前回の記事でも見ましたが、
  • このように19年(18年オフ)が投資期間だとして、実際にこの間に多くの選手が加入しましたが、人件費でいうと22年の方が上回っている。
  • これについては、何らか複数年契約の選手の減価償却的な処理なのか、移籍金の分割払いのような手続きをしているのか、詳しくは謎ですがそうしたからくりがありそうで、単年の人件費と順位を紐付けしづらいところではあります。
  • 22年というのは、20年に加入した大卒の選手が3年目で主力として活躍しているシーズン。Jリーグは新卒1年目の選手に関しては年俸上限が決まっており抑制策がとられています。しかし若く、他所のクラブからも需要がある選手は2年目以降に引き止めのため年俸抑制が難しくなる。コンサの場合も2021年から特に、現有戦力を維持するだけでもお金が出ていく、というフェーズになっていたのだと推察されます(三上GMのそうしたコメントがありましたがソースを保存し忘れてしまいました)。

  • ですので人件費はあくまで多少の目安でしかない。10億とか差があれば変わってきますが、コンサにおける1〜3億円程度の変動とチームの戦力とを一致させて論じることは無理があるということを頭に入れておく必要があります。

ぬるっと消えた「飛躍の年」 2021年:

  • 「19年に投資をして21年に飛躍」を思い描いていたということで、ミシャ体制での7年間のうち、まずこの期間が一つ目の(前半の)サイクル。
  • しかし20年に新型コロナウイルスが流行し、降格なしのシーズンとなる。また20年夏にエース武蔵とGKソンユンの移籍、21年夏に中国からのメガオファーでアンデルソンロペスが移籍、と、ソンユン以外は想定外と思われる事態が続けて生じます。

役割 名前 加入年 21年1月時点の年齢 備考
GK ソンユン 2015 26 27歳までに兵役消化のため退団の必要あり
  菅野 2018 36  
  小次郎 2020 22  
DF 進藤 2015 24 2020限りで退団
  福森 2015 28  
  ミンテ 2017 26 兵役あり?
  田中駿汰 2020 23 2023限りで退団
MF 宮澤 2007 31  
  荒野 2010 27  
  深井 2013 26  
  2017 23 2024限りで退団
  チャナティップ 2017 27 2021限りで退団 
  駒井 2018 28 2024限りで退団
  ルーカス 2019 26 2023限りで退団 
  中野 2019 27 2021年3月に退団
  白井 2019 26 2020限りで退団
  高嶺 2020 23 2022限りで退団 
  金子 2020 23 2023夏に退団
FW 都倉 2014 34 2018限りで退団
  ジェイ 2017 38 2021限りで退団 
  アンデルソンロペス 2019 27 2021夏に退団
  武蔵 2019 27 2020夏に退団
  岩崎 2019 24 2019限りで退団
  小柏 2020 22 2023限りで退団

  • もっとも日本人選手のヨーロッパへの移籍、外国籍選手の中国や中東への移籍は以前からリーグ全体の流れとしてはあったので、全く想定していないというわけではなかったかもしれません。
  • 注目すべきはその後の対応で、武蔵の後釜は大卒新人の小柏、ソンユンは元々在籍していた菅野と中野小次郎、そしてアンデルソンロペスは役割的には興梠、外国籍選手という観点ではトゥチッチ。
  • 武蔵が去ってからアンデルソンロペスが去る間の話になりますが、野々村社長(当時)は毎年リーグ戦の最終節でフカしたことを挨拶に盛り込むことが恒例となっていましたが、2020年は
  • とする程度にとどまっている。「来年はミシャ4年目で勝負の年です。期待していてください」みたいなことを言ってもおかしくはないのですが、そうしたフカしは自重しています。
  • 当然と言えば当然なのでしょうけど、21年夏のアンデルソンロペス売却の後に彼に比肩する選手を後釜として確保せず(都倉が去った時に武蔵を買っているように)、中国からゲットしたと思われる一定の資金や浮いた人件費分は経営危機のクラブの運転資金等に充てられたと推測されます。

  • このあたりの経緯が野々村体制(2021年いっぱいまで)において非常に不明瞭だった点で、2021年を飛躍の年と位置付けていて、コロナや武蔵の退団があっても、2020年シーズン途中から「降格がないので戦術の浸透に充てる」と宣言して負けまくっていたので、ここを見ると2021年が飛躍の年という位置付けは変わっていないように見える
  • しかし2021シーズンに蓋を開けてみると、開幕10試合2勝でスタート(その後、この年下位に沈む仙台や徳島を1点差で下して浮上する)し、その後も4チーム降格ということで上よりも下の方を気にしながら(しかし降格4チーム+湘南が低調で安全圏にはいた)過ごすシーズンを送り、元々このシーズンを「飛躍の年」と位置付けていた割には、特に騒ぎもせずぬるっと2021シーズンは忘れ去られます。

2大キーマンの退団と続く縮小路線、「飛躍の年」は完全に行方不明に:

  • その2021シーズンの終了時に野々村社長の退任報道が報じられ、2022シーズンから三上GMをトップとする新体制に移行しますが、このタイミングでピッチ上では絶対的なキーマンであるチャナティップが川崎へと移籍。そしてジェイが引退します。
  • チャナはコンサでのラスト2シーズン、先発出場が17試合、23試合(38試合制)にとどまっていて、おそらく戦術的な部分もあるのでしょうけどコンディションに問題を抱えることが多くなります。
  • 同じくジェイもラスト3シーズンで15試合、15試合、7試合と、(おそらく意図的に)戦術的に脱・ジェイを図っていたかのようなアプローチだったこともあり絶対的なスタメンではありませんした。

  • しかしミシャ体制発足時に「ボールを試合をコントロールできるようになり上のステップに」と言っていたコンサですが、この7シーズンで少なくとも「ボールをコントロール」(相手のプレッシャーを受けた状態でマイボールを維持して何らかゴール方向にプレーする)状態を実現していたのは、ほぼチャナティップとジェイの個人技によるものでした。
  • ゴール前で相手DF2人を引きつけられるジェイ、より低い位置でボールを受けて簡単にうしわない能力を持つチャナティップ、この両者がそれぞれの事情でピッチに立たないことが増えると必然的にプレー内容は変容します。

  • チャナの移籍が決まったのが2022年の年明けということで、クラブは18番をガブリエルシャビエルに託しましたが、タイミング的にこのディールは選択肢が少ない状況だったことは推察されます。
  • 一方で、同じく21シーズン限りでチームを去ったジェイ(引退)と、21シーズンに覚醒したものの夏に中国に引き抜かれたアンデルソンロペスの後釜として、期限付き移籍で興梠を獲得しましたが、こうして前線にシャビエル、興梠といったあまり総力やフィジカル的に優れていない選手が並ぶことになるスカッドは、この時に掲げていた「トータルフットボール」(前線の高い位置からpressingを開始することをコンサ語だとそう言っていた)とは親和性が悪く、かつシャビエルはチャナほど力強いプレースタイルではなく、また(右シャドーしかできない)小柏と被り、かつインサイドハーフで起用できないといった問題に直面し、センターFWで決定力を活かすという起用法が確立されたのはシーズン後半でした。

  • おそらくシャビエルや興梠といった完成品の、即戦力級の選手を選択したのは、21年を「飛躍のシーズン」とする考えが、編成時点はコロナ禍を経てもまだ残っていたのでしょう。
  • 一方で「選手特性的にあまりフィットしそうにない選手を選択する」傾向はこのあたりの時期から目立ち始めたともいえます。これはコンサのフロントがプレーモデルをあまり考えていないのか、プレーモデルは頭の中にあり的確だけどリクルートの部分が弱いのかよくわかりませんが、例えば4バック(2CB)の相手に興梠とシャビエルの2トップでは前線から制限をかけることが難しくなりますし、小柏は2トップから弾き出されてインサイドハーフとしてプレーすることになります(ただ小柏は後ろの方が向いているようにも見える時がしばしばありました)。
  • これはフロントの問題だけではなくて極端なマンツーマンベースのスタイルしか採用しない(できない)スタッフ側にも要因はあるのですが、ともかく編成とピッチ上のチグハグ感はこの22シーズンから顕著で、三上GMの言うところの「傘を広げる」(風呂敷を広げると言いたいのでしょう)フェーズは21シーズンで終了、22-24の3シーズンはサイクルの再構築もできずとりあえずシュリンクしていたと感じるところです。

トータルフットボールというサイクル最大のターニングポイント:

  • 若干前後しますが2020シーズンの6月(6月ですがCOVID-19の影響でリーグ戦が中断したため”序盤”)、武蔵がベルギーのベールスホットに移籍するためチームを離脱します。
  • 直後の試合(リーグ戦7節)では荒野をセンターFWで起用し、相手に対しほぼ全ての局所でマンツーマンでボールを奪いにいき、奪ったら時間をかけずに前線に展開するスタイルが採用されます。
  • この理由として監督は「武蔵のようなストライカーを失ったのでカウンターが重要」、と言ったり、「引いた相手を崩すにはわざとトランジションを起こすことが必要」と言ったり複数の説明の仕方をしていますが、それぞれ特におかしいところはそこまでないように思えます(もっとも武蔵が一番カウンターに向いているFWのような気はしましたが)。
  • そして時系列としては、このスタイルがお披露目されてから「アタランタみたいなサッカーを目指すのもありなんじゃないかという話を以前からしていて…」と明かされています。

  • その7節ではF・マリノスに3-1で勝利したものの、8節から16節までの10試合(途中日程変更の1試合を含む)は2分8敗で勝ちなしとチームは低空飛行を続けます。
  • それまでのコンサはボール保持と非保持のフェーズを完全に分けていて、低い位置でブロックを作って守ってから、ゴール前に人数をかけて攻撃するスタイル。森保監督のサンフレッチェ広島や片野坂監督の大分トリニータなども似たスタイルですが、このスタイルの問題点は前でpressingを仕掛けて高い位置でボールを回収することが難しく、19年のルヴァンカップ決勝が典型ですが、シャドーが下がると押し込まれて攻撃に転じられず防戦一方になります。
  • また相手ボールの際に都度、毎回自陣に撤退するので、そこからまた攻撃のために選手とボールを移動させるリソース…ボールをキープする選手や技術だったり、チームとしての仕組みだったりが必要になる。コンサよりも片野坂大分や、24年のアルビレックス新潟の方が顕著かもしれませんが、パスは何本も繋がっても、自陣から相手ゴールに近づくまでに必要なパスの本数が多すぎて、かつそれらをノーミスで自陣から相手ゴールまでプレーしないとならないというコスパの悪い戦い方に陥ることもある。

  • ですので個人的には2020年の”トータルフットボール革命”は、それまで25年間自陣に引いて跳ね返す以外の戦い方ができなかった(18-19年も含む)コンサの歴史において文字通り革命的なことだと捉えていますし、この転換こそが1億円監督ことミシャを招聘した最大のリターンだったと思います。
  • もしルヴァンカップ決勝の映像を持っている人がいれば是非見直してください。深井の劇的なゴールなどで思い出は塗り替えられていりうかもしれませんが、菅の先制ゴールから後半終了間際まで、大半の時間帯でコンサは自陣で防戦一方の展開になっています。

上積みというよりも上書き:

  • しかし革命前のコンサはそこまでボール保持やビルドアップ、相手のpressing回避といったプレーができていたわけではなく、革命によって高い位置からpressingがオプションの一つとして加わったというよりは、それまでの戦い方が完全に上書きされたかのような状態になっていました。
  • Jリーグの中でも極端なハイライン+プレッシング志向のマリノスに対しては、初見⚫︎し的な勝ち方をしましたが、やり方がバレれば各チームとも何らか対策をとってきます。例えばマンツーマンでのpressingにはまりにくいポジショニングをとるとか、ロングボールを使ってpressingを頭上で回避するなどがあります。

  • もしくはコンサの攻撃がカウンターや速攻一辺倒になることで、コンサにボールを最初から渡してpressingやカウンターを発動させないという対応もありました。
  • ボールを渡してくれるなら、それまでミシャ体制で培ったボール保持からプレーで相手を粉砕…とプレースタイルを使い分けることができればよいのですけど、そもそもコンサは18-19シーズンにおいてもたまにパスが繋がったりして相手を崩すことは確かにありましたけども、それらは相手がコンサに対して自ら食いついてくれたところで、福森やチャナティップのサイドチェンジからウイングバックへの仕掛けに代表されるように得意なプレーが発動してうまくいく…というものが多く、相手が食いついてくれないと崩すことは難しいし、特に前線守備の問題でジェイやアンデルソンロペスのようなパワーのあるFWを削っていると、荒野や駒井の頭にサイドから放り込むだけのフィニッシュを繰り返すことになります。

  • フロントが「アタランタのような〜」と語った時に違和感があったのは、アタランタはコンサとはまず経営方針が違うというか、少なくとも前線には当時もイリチッチ、パプ・ゴメス、サパタ、ムリエル、マリノフスキー…といった各国の代表級で、フィジカル(走力)と技術を兼ね備えた選手をスタメン3人+ターンオーバー要員も確保していますし、荒野や駒井をFWで使っていたコンサとはちょっとクオリティが違いすぎるなという印象でした。見たことない方はわからないとと思うのでわかりやすくいうと、武蔵をすごくした感じの選手やチャナティップみたいな攻撃的MFが複数いてそれでカウンターアタックで点を取りまくっています。
  • またDFもロメロは22年にアルゼンチン代表としてワールドカップの優勝メンバーだったり、トロイもイタリア代表でEUROの優勝メンバーに入っていたり、要は戦術に合う選手を確保した上であのようなスタイルをとっている。戦い方を問わず宮澤をDF起用したり、福森が長らくスタメンを張っていたコンサにはこうした視点はおそらく欠落しているというか、ミシャの下でプレーすればコンサのDFをアタランタのようなファイターになると思っていたのかもしれません。

  • また選手やそのリクルートが違うだけでなく、戦術的にもそもそもコンサはアタランタのようなスタイルをトレースできていたかというと疑わしいところがあります。
  • 例えばアタランタはロングカウンターというか、FWや攻撃的MFの選手が相手ゴールから30-40mくらいの距離からスタートしてスプリントを開始し、相手DFが揃っていない状態から攻撃するのが得意でした(この辺は選手が入れ替わったりしてアップデートされています)。
  • 対するコンサは、相手ゴールから何メートルとか関係なく、とにかく相手がボールを持ったらどこでもpressingという感じで頑張って走りますが、例えばサイドで相手のSBがボールを持った時に追い込んで奪っても、ボールはサイドにあるのでまず中央に横パスなどして方向転換する必要があったり、その際にコンサのFWの選手も中央から離れてサイドに動いていたり、場合によっては相手DFの攻撃参加にマンマークでついていって自陣に撤退していたりする。これではコンサのFWはカウンターでエネルギーを爆発させられるような状態になっておらず、頑張って走っているけどボールは奪えないし、カウンターに繋がるような奪い方ができていない、という状況でした。

  • おそらくガブリエルオケチュク(2021年に加入)にはそうしたロングカウンター要員としての期待があったのかもしれません。ただ、ガブリエルの後のコンサは前線にGXことガブリエルシャビエル、興梠、小林、キムゴンヒ…と、「マンツーマンでpressingしてショートまたはロングカウンター」にかなり合致しなさそうな選手を立て続けに連れてくることになります。
  • 小林はミシャに起用を直訴?したところ「足が遅いから」と言われて困っていたようですが、これに関しては監督の言い分は理解できますし、コンサの編成のチグハグさはこの辺りの時期から顕著になっていきます。

「あとは決めるだけ」が誕生:

  • 私はそのように見ていたのですが、野々村社長以下のコンサのフロントはこのチームを「あとは決めるだけ」と擁護し、2020シーズンは戦術浸透期間だと宣言していました。
  • またとあるフリーのサッカーライターの方は21年になって「札幌の強度は最強」「札幌は前半45分なら最強」といった論評をして一部のサポーターや関係者を喜ばせることになります。この辺は個人の主観ですので自由ですが、たくさん走って相手に食らいついていれば最強、というほど簡単な話ではないと個人的には考えています。

新卒ボーナスは存分に享受:

  • サイクルの中でこうした戦い方の変遷やスカッドの入れ替わりがある中で、一つ触れておきたいのは、2020年に田中駿汰、高嶺、金子が入団し、それぞれ1年目からスタメンを確保する活躍を見せ、また21年には小柏も同じくスタメンに定着しましたが、大卒1年目でスタメンを張る選手が複数いること自体がJ1では稀というか、移籍金がかからないでスタメン級を補強できるのはかなりのラッキー、チーム編成的にはボーナスと言って良い現象だったでしょう。

  • コンサ以外でそうした、大卒1年目でスタメン、主力選手が複数いるチームは近年他にあったでしょうか?2020-21年頃のサガン鳥栖で林、樋口、森下といった選手が主力だったくらいでしょうし、鳥栖は非常に選手の流動性が高く、多産多死というか入ってくる新卒選手の数がコンサとは違います。
  • またその鳥栖の森下は1年で名古屋へ、林は1年半、樋口は2年でチームを去っています。コンサは高嶺と小柏が3年、金子が3年半、2020年の段階で「オリンピックに出場して半年で移籍するつもりだった」と語っていた駿汰は22-26歳の4年間をコンサに捧げることになります。

  • これらの選手は移籍金がかからないことに加え、冒頭でも触れましたが新卒直後は低年俸で雇用できるため(おそらく2年目、3年目でも、30歳を超えた重鎮選手よりもハイパフォーマーであっても貰ってないでしょう)、これらの選手が主力を張ると、ある種の見かけ上の強化費とスカッドの不一致が引き起こされます。
  • 2024シーズンには彼らが退団し、開幕からの低空飛行もありコンサのフロントには批判が集中しますが(なぜか監督については異様に擁護されていましたが)、これはフロントが24年の編成に失敗したとか大学新卒選手のリクルートがうまくいかなかったというよりは、それまでの20-23年に、移籍金ゼロの新卒選手が当たりすぎていた、とする見方の方がフラットな気がします。
  • 金子、高嶺、駿汰が揃うのを基準にしてしまうと世の中の大半の物事は失敗扱いになってしまいます。彼らのような選手が一番いい年齢の22歳まで大学に育ててもらって、かつ移籍金ゼロで獲得というのは大学の育成にただ乗りしているだけで(それがまかり通っているのがJリーグですが)、少なくとも一つのクラブとして見た時にサステナブルな現象ではないはずです。

セットプレーの重要性:

  • といった具合で、コンサのフロントや選手スタッフの自己評価ほどコンサというチームは強くもないし優れたプレーをしているわけではないとするなら、勝敗を分けるのはスコアに直結するプレー…GKのビッグセーブやセットプレーでの攻防になります。
  • 特に24シーズンに関していうと、福森を期限付き移籍で横浜FCに放出したことはセットプレーの攻撃面で一定の影響があったかもしれません。
  • 数字の上では2023シーズン、福森は0ゴール1アシストにとどまっていますが、直接得点に関与しなくともキッカーは影響がありますし、マンツーマン主体で守ってカウンター、というスタイルならば先制点が重要になるため、ゲーム展開と関係なく得点機会を作れる福森のセットプレーは、その守備を差し引いてもプラマイでプラスになったかもしれませんし、何よりもコンサが長年「福森がいるサッカー」(脈略のないところからでも放り込んで得点チャンスのある)に慣れていたので、そういう”ワンチャン”すらなくなったことは一種のやりづらさに繋がったのかもしれません。

  • なおミシャは浦和時代のある時から「トレーニングは(エクササイズを除くと)基本的にミニゲームしかしない監督」と扱われていましたが、実際にはセットプレーの確認もやる時はあるようです(8月に見学した時は10分ほどやっていました)。
  • それでも18年は当初四方田コーチがセットプレーを確認していましたが、それも次第にトレーニングの中での優先度合いは薄れていったのでしょうか。
  • その四方田コーチと福森のタッグが24年には横浜FCで復活し、福森はセットプレーからアシストを量産しJ1復帰に導きましたが、福森がいれば…というよりも、コンサのセットプレーやディティールを軽視している感じは、順位やチーム状況を考えるともっと必死さや緻密さがあっても良かったのでは、と思えます。

まとめ

  • 北海道をホームとしており主要スポンサーが観光関連業や運輸業ということもあり、コンサはCOVID-19の影響を特に大きく受けた側だと思われる。この影響が大きく、7年間のサイクルにおいては、実は強化費はさほど増えておらず横ばい〜やや増額にとどまっている。「新しい景色を見る」と言うには心許ない状況が続いており、24年まで残留できたのはむしろラッキーだったかもしれない。
  • 前半のサイクル(18-20年)は割安な強化費で選手を集めることに成功しており、GMや編成担当の手腕が光る(当時の主力選手は退団後も各地で活躍中)。ただし新卒の即戦力の選手を複数抱えていたことは一種のボーナスのようなものであり持続性がないもので、またJ1に続けて在籍することで選手を売らない限りは人件費が膨れ上がっていく。またそもそも19年からの先行投資の結果、20年以降は移籍金の分割払いのような費用が生じていた可能性もある。
  • こうした様々な要因によりサイクル前半は予算に対しうまく”やりくり”ができ選手を集められていたと思われるが、サイクル後半はやりくりが効かなくなり、かつ人件費の使い方のまずさが顕在化してくる(下記)。

  • 短期スパンで見ると三上代表取締役兼GM体制になって崩壊したとみるかもしれないが、より長いスパンだと投資回収に失敗している。最初は「降格してもいい」と言っていたが、野々村体制で経営的には勝負することを選択し、ルヴァンカップ準優勝という思い出と共に負債が残った。
  • 現在(24年12月)、駒井や菅といった選手をフリーで手放す状況になっており、結果的にはこの勝負は時期尚早だったと思われる。ただし身の丈を越えようとする投資がないとサッカークラブは成長しないので、難しいところだが、確実に言えるのは野々村社長期に勝負に出て、結果的には負けたということになる。

  • 24シーズンの編成や補強の失敗がクローズアップされるが、7年間のサイクルで見るとサイクル前半は編成が非常にうまくいっているというか、予算以上のスカッドを運用している。
  • よって24シーズンがダメというよりは、7シーズンで平準化すると、どこかのシーズンで身の丈を超えていた分の帳尻を合わせなくてはならず、それが24シーズンだったとも考えられる。

  • 経営的にリスクを負うことには一定は理解するとして、問題はその金の使い方。
  • 例えば監督招聘時に「ボールとゲームをコントロールする」と言っていたが(これが何なのか具体性がなく謎だが)、一般にボールを持つプレースタイルを志向するならFWや攻撃的MFよりもDFとGKが重要になる。コンサはそこにあまり投資している感じはせず(例えばミンテの補充の岡村が期待以上の活躍をするとかはあったが投資額としては前線ほどではないはず)、また20年6月以降はほぼ180°プレースタイルを転換する。
  • その場合も、「マンツーマンで守ってpressingから速い攻撃をしたい」なら、対人に強いDFや速いFWが必要。特に前線のアンマッチ感は21年のアンデルソンロペス退団後に顕著。こうしたチームのプレーモデルと選手のプレースタイルについてあまり考えていなかったのか、考えていたけど資金不足でうまく動けなかったのか、いずれにせよ抽象的かつ主観的な「あとは決めるだけ」「攻撃的なサッカー」といった言葉が、サイクルを通じて一人歩きしていた印象はある。
  • コンサで「ボールをコントロール」していたのはDFではなくチャナティップとジェイ。それぞれ2021シーズンでの退団でクオリティは明確に低下。ただ、そもそも退団以前に両者はコンディション低下がみられ、そうした選手を長く引っ張っていても「新しい景色」に辿り着けたかは疑わしい。

  • 現場(監督の)仕事としては、DFや後方の役割ではアカデミー出身の選手や新卒など若手選手の起用が目立った。しかしこれらのDFは揃って、ボールを運ぶよりも味方にボールを預けてオーバーラップすることを好むタイプで、それらの選手に「ボールとゲームをコントロールする」ことを教えるのは最初から諦めていたし、クラブが期待したような建設的なアプローチはしていなかったように思える。コンサはやたら前線の選手を抱えたがるが、2024シーズンでいえば前線にあまりお金をかけていなさそうな新潟やヴェルディが順位もプレー内容もコンサを上回っていたのは示唆的である。