2021年4月30日金曜日

2021年4月28日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第4節 北海道コンサドーレ札幌vsアビスパ福岡 ~原型のわからない何か~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー
  • 札幌はキム ミンテが出場停止。ミシャ曰く「負傷者が多い」とのことですが、具体的にはルーカスと深井を指しているでしょうか。ただ、起用できる状態の柳や青木がベンチスタートだったりで、この4節でグループステージ突破を決めにきたメンバーだと見て取れます。左DFが中村ではないのは、これも故障なのかもしれませんが、「福森がいないとどうしようもない」からなのか?と思いました。
  • 福岡はリーグ戦からターンオーバーしています。ただ、結果的に、60分前後にサロモンソン、前寛之、金森の主力3選手が登場し、時間を限定させたうえでこちらも決めに来たんだろうなと思います。

原型にこだわる謎:

  • この日の福岡も1-4-4-2。リーグ戦では1-4-4-2と1-5-4-1を使い分ける変則システムでしたが、この日も札幌の3バックとはミスマッチが生じる陣形なので、札幌は相手にマークを合わせるために2トップの形でプレーする必要があります。
  • 連休にアウェイで湘南戦があり、湘南は確か3バックだったので札幌は2トップにする必要がないんじゃないかと思いますが、この時点で、マンマークが大原則な札幌が1-3-4-2-1(っぽい)システム、メンバーを採用する意義は非常に薄れています。
  • マンマークを大原則とするトータルフットボール路線が始まってから、札幌の前線は最大で2人のFWしか起用することができなくなりました。時に駒井、チャナティップ、荒野とFWがいないメンバーがセレクトされるときもありましたが、それは相手がポジションを変えるとマンマークでついていく必要があり、アンデルソンロペスやジェイ、ドウグラスオリヴェイラといった選手を並べると、相手にCBが2人しかいない4バックのシステムだと誰かが相手の中盤の選手をマークしなくてはならないから。
  • その意味では、この日は、ジェイ、ドドに小柏が並び、この3人のうち2人は福岡のCBをマークしていればいい。が、1人は他の選手をマークする必要があるので、それはどうすんだ?と試合前に思ったのですが、
マッチアップ
  • 結論としては、それは順当に(?)小柏でした。
  • 福岡がボールを持っている時は、小柏はカウエを基準としたポジションをとります。ですので、例えば福岡がファンマにボールを当ててカウエと森山が拾いに前に出る。そうすると、小柏も基本的にこの動きに引っ張られることになります。
  • 札幌がボールを持っている時は、小柏は右シャドーのイメージでプレーする。だから札幌がずっとボールを持っているなら無敵というかそんなに問題はないんですが、基本的にサッカーはだいたい50:50でボールを持ち合うスポーツです。そして、札幌は(主に福森から)ビルドアップの際に極めて単調なロングフィード攻撃を織り交ぜる傾向がある。
  • コンサドーレサポーターの皆さんにそろそろ現実を見てほしいのですが、コンサドーレはボールを保持するチームだとは到底言えません。簡単に放り込んでゴールにシンプルに突っ込んでいくチームです
  • そして何度か言ってますが、ファンマ・リージョの言う通り、「ボールを早く縦に送るほど早く返ってくる」。要は、適切なポジションをとって相手のDFを剥がしつつフリーの味方にパスを出さないで、福森の放り込み1発ドーン!!!のようなプレーに終始すると、それは簡単に跳ね返されてボールがピッチを行きかう展開になります。

  • そうなると小柏のポジションはどうなるか?少なくともずっと右シャドーの位置にいることはできなくなります。賢い選手であれば、前に張ることがバランスを崩す行為で、よりボール(主にルーズボール)に関与できるように中盤にポジショニングします。小柏が交代する際、吉原宏太さんが「今日は中途半端だった」とフワッとした解説をされていましたが、それは本人の意思によるものではなくてチームとして中途半端だからです。

  • ずっと謎なのは(いや謎っていうかなんとなく答えの見当はついているけど)、相手が1-4-4-2なら札幌も1-4-4-2にした方がマンマークで捕まえる分には圧倒的に都合がいいのですが、わざわざ3バックっぽいメンバーをチョイスして、アンカー(主に宮澤)が下がって相手のゴツイFWを捕まえる。宮澤が使えない場合は高嶺だったり深井だったりですが、高嶺は今日もファンマに吹っ飛ばされていました。
  • そしてサイドでは、ボールを持っている時は岡村が右サイドで所在なげにプレーしますし、福森は相手の右サイドアタッカー(だいたいこのポジションにしょぼい選手は置かないですよね)と毎回ミスマッチを作っている。私はどちらかというとボケなので、この点にもう突っ込むのはやめましたが。
  • 要するに3バックにする理由ほとんどなくないか?ということです。見当がついているというのは、恐らく自陣ゴール前で5バックで守る以外のやり方を知らない(あと5バック前提の編成になっている)からだと思いますが、それだけのためにわざわざミスマッチを自ら作ってから試合中に形を変えて捕まえようとするのは非常に滑稽というか、選手が体張れてないとか戦えてないとか以前に根本的に変だなと感じます。

コンセプトブレイカー:

  • 「原型がわからなくなっている」要素をもう一つ挙げるとジェイの振る舞いで、ボール保持時に1-3-4-2-1のトップ、そしてボールを失って守備局面になると1-4-4-2っぽい陣形の右FWを務めるのですが、どうしても選手特性というかジェイのプレースピードだとこのタスクを90分、いや45分続けるのは不可能です。
  • ジェイの対面の宮が空いてフリー、じゃあその時に金子とか小柏は宮に突っ込むのか?「オールコートプレス」というが、これは誰か1人でもサボったら機能しなくなるのですが、ジェイがあっさりと役割放棄(そもそもそういう役割じゃないのかもしれない)することで、福岡がボールを持って3秒で守備は機能しなくなっていました。
切り替えに難あり
  • そうなると、結局これも「原型のわからない何か」…ディフェンスは相手にスペースを使わせないのが原則なのになんでこのチームはスペースを守ってないんだ?スカスカなのにボールにアプローチしてないんだ?という状況に陥ります。
  • 勿論カップ戦だから、メンバーを入れ替えてプレーするのは当然なのですが、これをスタートから許容してしまうと戦術的には殆ど見どころがなくなるな…という感想でした。

2.試合展開

頑なに守られる教義:

  • 先述の通り、福岡は後半にキープレイヤー3選手を入れて勝負。それまでの時間はいつも通りリスクをとらずに、ボールは2トップにシンプルに当てる。そして札幌ボールの際は押し上げて札幌陣内で人を捕まえるプレス。これは今年の福岡との2戦さんざん書いたので割愛とさせていただきます。
  • 札幌は、福岡ディフェンスに対して5トップを貼り付けてプレッシャーを与えたい。ジェイとドウグラスオリヴェイラに、小柏、ワイドの金子と菅が移動する時間を作るために多少はボールを保持する必要がある。
  • この時に面白かったのが、
岡村はボールを見ないで前に移動
  • 岡村は後方のボールの保持に全く関わらないというか、最初からサイドの高い位置をとってボールを見てすらいませんでした。前節の記事で「進藤化している」と書きましたが、この試合も少なくともこの点はチャレンジしていないどころか、駒井が下がって岡村は全部前に行くというパターンが既に完全に染みついているようでした。
  • 駒井のボトムダウンは完全にお約束化していて、岡村とセットで考えるとアリと言えばアリなのかもしれませんが、時に田中駿汰とポジションがかぶるシチュエーションでも下がってボールに触るなどしていて、これは田中は明らかに窮屈そうでした。
  • こう考えると、駒井の最終ライン起用は、ミシャがクレイジーだというより、駒井が必ず下がってくるのでその最適なメカニズムを考えると、最初から後ろに置いた方がいいじゃん、という必然末の発明だったのかもしれません。もっともそれも、フラットに見ると、監督から選手への要求水準の低さのように感じるのですが。

  • 札幌は、左のシャドーがドウグラスオリヴェイラ、右はタスクを色々抱えた小柏。そしてジェイは最初から中央にいることが多くなるので、もうジェイに全部放り込めばいいじゃん、ということなのか、前線にさっさと放り込む展開がいつも以上に多くなります。福岡もリスクを冒さないということで、大味な展開が続きます。

  • 福岡は例の交代で、特にサロモンソンを右に入れて、得意のオーバーラップからのクロス。この福岡のクロスは全部ファーサイドを狙っていて、札幌の金子や菅が下がっての対応を強いられますが、純粋なDFに比べると制空能力は落ちます。ここに福岡はファンマや城後、更にはジョン マリを当ててセカンドボールを狙う。札幌と同じくだいたい放り込んでるだけじゃん!と思うかもしれませんが、より狙いが明確な攻撃は、簡単に札幌がクリアで逃れられなくなります。
  • 札幌はチャナティップが入ってようやく「ボールを出せる選手(福森)」の視界に「受けられる選手(チャナ)」がいる状況になる。これで後半途中からは、左サイドで多少は前進ができるようになりますが、試合展開としてはとにかくプレースピードにジェイがついていけない(キャッチアップしようとしない)。だから札幌は最後まで福岡にプレッシャーがかかっていない状態でプレーしていて、ひたすらオープンな展開…ボールを持ったらグラウンダーだろうとハイボールだろうととにかく前に蹴る、落ち着かない展開が続きます。
  • そんなジェイの見事な落としから84分にアンデルソンロペス。オープンすぎる展開から2人のクオリティで福岡ディフェンスを強引な中央突破に成功します。しかしATに、ジョンマリのかなり強めのコンタクトプレーから福岡の逆襲を許してグループステージ突破はお預けとなりました。


3.雑感

  • 「ミシャ式」は戦術ブロガーの某氏が提唱した言葉で、サンフレッチェ広島の当時のスタイルやシステムを指していたと思います。近年は札幌サポーターも好んでミシャ式ミシャ式言っているようですが、私は札幌でのミシャは広島や浦和のそれとは別物だと思っているので意図的にこの言葉を避けてきました。
  • 昨今もチームに対して色々な意見がある中で、札幌サポーターの一部に、「守備がざるなのはミシャ式だからしょうがない」みたいなことを言っている人がいますが、そもそもその人の言うミシャ式とは何だろう?と思うことがあります。
  • このチームはゴールから逆算されたボールポゼッションもしませんし、敵陣ではアバウトなクロスボールの放り込みや単独突破に終始します。15年前にリーグを席巻し5年前に圧倒的な強さを見せつけた監督のサッカーとは別物で、私に言わせれば「なんでこんな意味不明な変形をするのかわからない、3バックの何か」です。新しい景色を見に行っているつもりならその決断自体は尊重しますが、やりたいことをキャパシティ考えずひたすら足し算している結果、チームを弄りまくった挙句原型はなんだったのかわからなくなっています。
  • 要するにこれ▼なんですが、詳細はまたの機会に取っておきます。
  • それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。

    昨シーズンにマリノスや川崎のようなポジショナルプレー型のチームに対してマンツー守備で対抗する方向性が決まったことは良いとして、同等、若しくは格下相手にどうするの?という部分は見えませんね。
    福岡相手なら大丈夫でしょ。という弛緩した態度が失点につながった気もします。
    状況次第で同数守備は諦めて「5-4-1で引いちゃえばいいじゃん」をやりたくないのは菅野の身長問題なのか、去年定めた方向性と逆のことをすることにリスクを感じているのか。時間が無いのか。
    今季の札幌はなにかもどかしいですね。

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    1. 私も5バックで引くのを標準化する必要はないと思ってます。マリノスと川崎はボール持ちたがるので持たせてカウンターでいい。とりあえずマンマークで人を離さずに頑張ればいい。(アウェイマリノスなんかはマンマークし切れなくて破綻しましたが)あと川崎相手には結局ショートというか、引いてロングカウンターっぽい距離からのゴールでしたよね。

      一方で元々ミシャのチームは遅く攻める志向性が強くて、そうなるとハイプレス+遅攻の組み合わせで、選手に必要とされる要素が全然逆方向になるんですよね。能力的にそれを遂行できるのは小柏のような一部の選手しかいないし、トレーニングで、そうしたこれまでと異なる考え方を植え付けるのは難しそうだなと見ています。

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