2021年4月23日金曜日

2021年4月20日(火)YBCルヴァンカップ グループステージ第3節 鹿島アントラーズvs北海道コンサドーレ札幌 ~失われる緊張感~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • ちょうど2週間前のリーグ戦、ドームでの札幌戦の後に鹿島はザーゴ監督の交代を決断し、後任は相馬コーチが内部昇格。更には複数選手に新型コロナウイルスの陽性反応があったとのことですが、恐らくそれはエヴェラウド、ファン アラーノといったブラジル人選手。もっとも彼らはカップ戦には出てこないクラスなので、直接的には影響はあまりないでしょう。
  • 少数精鋭編成の札幌は、毎年恒例のキム ミンテがリーグ戦と掛け持ちになるのでしょうか。明るい材料はドウグラス オリヴェイラの復帰で、使い勝手のいい選手であるため、スタッツ以上に戦術的な幅は広がっていくと思います。

挑戦vs調整:

  • ざっとメンバーを見た感想は、鹿島は遠藤、永木といった選手を除くとアピールしたい若手主体。更には新監督就任直後という状況も後押しします。対する札幌は、負傷明けの選手も含め、どっちかというと調整っぽい選手が多めなように思えます。
  • 特に、キーとなる中盤センターは、青木はともかく負傷明けで初スタメンの荒野と、小野。前線はジェイとドウグラスオリヴェイラの2トップですが、アンデルソンロペスや小柏、チャナティップ、駒井、深井といったリーグ戦でスタメンで出ている選手に比べると守備強度は見劣りします。
  • そんな印象が覆るならいいですが、覆らないとしたら、どちらかというと楽なのは守備強度を上げるよりもボール保持の時間を増やすことです。簡単に蹴って競る展開だと、コンディション等で不安がある(と思われる)中央の選手の弱さがさらけ出される展開に流れていきます。

編成の中心:

  • 以前から指摘していますが、
  • 「自陣からのロングフィードでボールを敵陣に運ぶ」という点においては、福森の能力は傑出しています。半面この福森の専売特許に頼ってしまうのが、この6~7年ほどのコンサドーレであって、どの監督がどのようなアプローチをとっても、必ずこの方向に寄ってしまうのは課題でもあります。
  • 歴代監督が3バック系のシステムを採用するのも、「端的に言えば福森がいないとどうしようもないけど、起用できる設計としてDFを多く配置してスペースを消せるようにし、その一角に置く、というやり方しか、ウィークポイントを覆い隠すにはない」とする実情がわかりきっているためでしょう。その意味ではミシャも革命的なところは感じません。
  • レギュラークラスの福森はカップ戦では基本的に帯同しないとしたら、可能であれば、ボールを保持してロングフィードを蹴って前進するスタイルをアレンジして、例えば敵陣でのプレッシング主体(それこそ、武蔵が移籍してからはそれを目指していたって話だった気がしますが)に切り替えるとか、そうしたアプローチにも期待したいところですが、これも色々な問題があるようで実現していないところです。

2.試合展開

大谷の受難:

  • サクッと振り返ります。まず、相馬監督2試合目の鹿島はまだそこまでカラーが変わっているようには見えない。ですので、だいたいどんな動きをするかは先日のリーグ戦の記事からお願いします。
  • といっても、鹿島はザーゴイズムだったかというと今思うと、町田ゼルビアで見せていた圧縮守備を踏まえても相馬監督のカラーもある程度あったのかもしれません。ボールサイドを決めたら積極的に寄せてアプローチし、ビルドアップのコンセプトが見えないチームを窒息に追い込むスタイルは既視感があると言えばあります。
  • 若手主体でプレッシング志向の監督が率いる鹿島は、先日のリーグ戦と同じかそれ以上にプレッシャーを積極的にかけてくる。札幌は老獪な技術で対抗、と言えたらかっこいいですが、岡村、キム ミンテ、柳に、荒野が下がって受ける後方部隊で、ボールが持てるか、というとそうではない。
  • ですので札幌は鹿島のプレッシャーから逃れる方向にとりあえずパスします。それはGKの大谷と、サイドのDFの岡村と柳。大谷は味スタでGK練習しているのを見たのですが、「めちゃくちゃうまいな」とは思いませんでした。これから継続的に見ていきましょう。

  • 札幌の、ボール保持の際にサイドに張りだすDFについて、前々から気になっているのですが、ボールを持たせてくれる相手ならいいとして、鹿島のようにサイドを限定して守ってくる相手だと、このポジションでできることは基本的に①同じサイドのウイングに縦方向のパス、②サイドを変える、しかない。中央にアンカーやシャドーもいるのですが、アンカーは消されやすいポジションで、シャドーは浮くことが得意でかつ下がってくるチャナティップならともかく、それ以外だと高い位置どりが多くてあまりボールに関与できないためです。
サイドのDFはビルドアップできる余地はあるのか?
  • そしてウイングへの縦パスが有効かというと、「同じサイドで目線を変えないパス」ほど、DFからすると読みやすくコースを消しやすいものはない。田中駿汰は持ち出し方やタイミングを工夫してルーカスに配球していますが、基本的に駿汰が持ったらまずルーカス(または金子拓郎)のサイドから来るよな、というのは相手は必ず警戒するので、出しどころは簡単ではない状況が多くなります。
  • よって、札幌のビルドアップはトップへのロングフィードがないなら、サイドのDF→逆サイドのウイングバックへのサイドチェンジが通るかどうかがほぼ全てであって、それ以外はたまにチャナティップ経由のパターンがあるだけ。
  • そして一般に「サイドに張るDF」が逆サイドにサイドチェンジをかっ飛ばすには、スペースがあるという状況もそうですが、根本的にロングキックの能力が求められます。
  • 福森はキックの精度や射程距離もそうですが、「小さいモーションで蹴れる」という点も特筆点である。じゃあ岡村や柳にそれができるか、というとそうではない。にもかかわらず、サイドに張ってはいるものの、そこでボールを受けて次の展開を繰り出せる能力があるかというと「?」でした。
  • よく「距離感が悪いデスネ~」という言葉を聞きますが、それこそロンドする時を考えればわかりますが、ボールを保持するためにはまず味方から離れないといけない。
  • ただし、対角にいる選手にまったくボールを出せないほど離れた(チェーンが分断されている)ポジショニングも考えもので、極めて重要なパスコースを自らたち切ってしまうようなものです。ですので福森以外のDFがガッツリサイドに張るポジショニングは、私は悪手だと思っています。

  • なので、福森がいないこの日の札幌は最終的にどこにも出せない(落ち着かせられない)ので、蹴ってリセットというかジェイとドウグラスオリヴェイラにお任せ、という振る舞いに終始します。
  • ジェイが万全だったら競ってセカンド、という状況ももっとあったかもしれませんが、イーブンぐらいだとすると、次は青木と小野、永木と小泉のマッチアップが重要になる。もちろん他の選手のサポートもあります。これを制した鹿島が終始、圧力をかける中で、大谷へのバックパスから悲劇的な失点が生まれます。相手のスピードを見誤ったコントロールはベテランらしからぬミスですが、GKに対する負荷はかなり高い展開だったと感じます。

  • 内容的には細かく見ていくと他にもいろいろありますが、今回はこの点だけにします。

3.雑感

  • 「カップ戦はメンバーが揃っていないので、リーグ戦同様に戦えないのは仕方ない」とする旨の意見を見ましたが、一面事実ではあります。
  • ただ、「フルコートでマンマーク」にしろ、「奪ったら速く攻める」にしろ、フィジカル面をはじめ選手の個人能力に一定の水準が要求される戦い方であり、その最低限を満たしていない状態でゲームをこなすことに、そもそもどの程度意味があるのか?と思うと色々怪しくなってきます。そして記事でピックアップした件も含めると、水準に足りていないのはボールを持っていないときだけに限らないと言えるでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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