2019年10月6日日曜日

2019年10月4日(金)明治安田生命J1リーグ第28節 ガンバ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~落ち着いて 素数を数えるんだ~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-1-2):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、荒野拓馬、FWジェイ、鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MFルーカス フェルナンデス、中野嘉大、早坂良太、FWアンデルソン ロペス。「対アンカーシステム」として定番になった[1-3-4-1-2]のトップ下でスタメン予定だったチャナティップは試合前練習で右足ふくらはぎを痛めて欠場。荒野がそのままポジションに入った。
 ガンバ大阪(1-3-1-4-2):GK東口順昭、DF高尾瑠、三浦弦太、金英權、MF矢島慎也、小野瀬康介、井手口陽介、倉田秋、福田湧矢、FWアデミウソン、宇佐美貴史。サブメンバーはGK林瑞輝、DF藤春廣輝、菅沼駿哉、MF遠藤保仁、マルケル スサエタ、FWパトリック、渡邉千真。非公開練習の末にかつての形…3バック+3人のMFを置くシステムに戻し、適所に宇佐美と井手口を配する形に。

1.想定される互いのゲームプラン

1.1 札幌


 アンカーがいるチームに対しては、ミシャは愛するシステムと選手配置を捨てて[1-3-4-1-2]で相手のアンカーにマークを用意することが定番になった。(その1 その2 その3
 このシステムの機能性は、肝となるトップ下のチャナティップのクオリティによるところが大きい。ミシャのイメージでは、チャナティップはボール保持時には本来の[1-3-4-2-1]の左シャドー、ボール非保持時には[1-3-4-1-2]のトップ下でアンカーを見るポジションにいるが、サッカーという競技のシームレスな特性上、「非保持」のポジションであるトップ下のままボール保持時にもプレーしていることが少なくない。ジェイが下がってくることに対しては好意的ではないミシャは、チャナティップがトップ下~更には中盤底まで下がることには寛容だ。これは、相手を剥がせるチャナティップが下がってプレーすることで、相手がより捕捉しにくくなることのメリットを評価しているのだと思う。
 ということで、相手が中央を固めるならより低い位置でチャナティップ、及びボールを動かして、中央から相手を引きずり出してバランスを崩してやろう、との考えはあったと思う。そのチャナティップが起用できなくなって、荒野がその役割の代役となっても、基本的な考え方は変わらなかっただろう(というか、直前のアクシデントなので用意しようがない)。

1.2 ガンバ


 「2.」以降で見ていくが、引いて前方にスペースを作っての、2トップによるカウンター。5月の対戦でも、メンバーは違うが狙いは一緒だった。但し、2トップがめちゃくちゃ速い、というタイプではないため、引くと言っても極端には引かなかった。

2.基本構造

2.1 ガンバの狙い


 この試合、ガンバの最大の狙いは、中央を固めて札幌の攻撃を引っ掛けてからの、2トップのクオリティを活かしたカウンター。札幌はボール保持時の「4人のDF」のうち、必ず2人程度はポジションを上げてより前での局面に絡んでくるので、そのクオリティを発揮するための、「スペースができる状態」にすることは労せずして可能だ。
ガンバの狙い(中央を固めて裏のスペースを狙う)

 一方ずっと引いているだけでは相手に殴られ続ける展開になりかねない。ボールを動かされて守備の負担も増えるし、カウンターを発動するスタート位置も下がる。失点してしまえばゲームプランそのものが危うくなる。加えて、最終ラインでたびたびミスから決定機を招いている札幌のビルドアップ部隊にプレッシャーをかけることの有効性も考えると、ガンバは札幌がゾーン1~2でボールを保持している時に以下のような対応をとる。
札幌のビルドアップ部隊に対して同数で対応したい

 2トップでミンテと深井、倉田と井手口で進藤と福森を監視。特に井手口が福森(もしくは、福森のオリジナルポジションにいる深井などの選手)に勢いよく出てくる。これについては解説の戸田和幸さんが「矢島の脇が空くのが気になる」と(その辺は「3.2」に)。

2.2 札幌のアンカーシステム対策とガンバの対応


 オーソドックスな話なので簡潔に。2トップにして、ジェイと武蔵でガンバの3バックをケア。中盤を同数にし、基本的には受け渡しながらマンマークで守る。ガンバは俗に言う「流動性」が高めのチームだが、矢島は殆ど中央におり、フリーになると高精度のパスが飛んでくる。矢島やサンペールでなくとも、エヴェルトンでもアンカーポジションにはマンマークを付けたいミシャ。チャナティップのアクシデントにより荒野にその任務が与えられた。
ガンバのシステムに対し、札幌が想定するマッチアップ

 第2節、埼玉での浦和相手にはこの対応がはまって完勝。第25節、神戸相手には後半からこの形にしており、2トップの攻撃面での良さが出た。13節のガンバ相手にも守備は機能したが、攻撃はチャナティップがシャドーにいないデメリットが顕在化してスコアレス。守備はこの形が一番はまりやすいが、攻撃で別の形で攻めるとなると、その可変によるコスト・負担が懸念事項だ。
 そしてガンバも常にこの形で対峙するわけではない。詳しくは「4.」に。

3.序盤の差し合い

3.1 立ち上がり


 ガンバが札幌にボールを渡す形で試合が始まるが、立ち上がりの数分間で立て続けにガンバにビッグチャンス。4分、最終ライン右の高尾のフィードに、アデミウソンがキム ミンテと入れ替わり、前に出たクソンユンの頭上を抜くループシュートも勢いが足りずにソンユンがキャッチ。
 そして6分、自陣で矢島が菅のパスを引っ掛け、アデミウソン→宇佐美と渡り、宇佐美のドリブルから裏に抜けるアデミウソンを宮澤が引っ掛けてファウルでPK。例によって「CBではない」宮澤がCBの仕事をしなくてはならないシチュエーションで、その問題点が顕在化してしまったが、アデミウソンのPKは左枠外で札幌は命拾いをする。

3.2 ロジックはともかく結果はオーライ


 10分過ぎからは序盤のガンバのラッシュが落ち着いてくる。ボールを渡された札幌のビルドアップの局面を中心に見ていく。

 最初の札幌の狙い、というか試みは2トップの背後でボールを受けての展開。アンカーシステムを異様に警戒するミシャだが、ミシャ式にもボール保持時の配置においてはアンカーがいる。この日のメンバーではその役割は宮澤だ。
 宮澤がガンバの2トップの背後でボールを受けるのは、「2.1」で書いたガンバのマーク関係上、倉田も井手口も宮澤には出られない、そして中央の矢島は、アンカーという重要なポジションの性質上、簡単に中央から動けないからだ。
 ここで宮澤がボールを受けることで、ガンバに次の選択を突きつけることができる。「俺は中央で自由に展開できるけどお前らフリーでいいの?」というものだ。これに矢島が出ればその背後が空く。出なければ宮澤から、札幌の5トップへ展開して5トップvs5バックの守備側に緊張感の走る同数での攻撃を突きつける。
中央で受けて右の白井へ逃がして攻撃の形を作る

 気になるのは荒野。荒野も宮澤と近いポジションに降りてきて、2人並んで被りぎみになることが多かった。矢島は基本的に出てこない。ここで2人が並んで「(局所的)数的優位」を作る意味合いは薄い。ただ結果的には特段の問題はすぐには発生しないのでOKだ。

 ガンバはこのシチュエーションでは矢島はなるべく我慢して動かず、中央を固めてくる。中央を固められた時の札幌のリアクションは、この試合では決まっている。右の白井に展開してガンバの守備を拡げる。あわよくば、その突破力でゾーン3まで侵入して仕掛けてくれてもOK。中央から右方向にターンして白井、はお決まりのパターンになっていた(詳しくは「5.」に)。

3.3 ボスロイド 動きます


 ビルドアップ段階におけるもう一つの傾向は、ジェイが下がってボールを受けることだった。↓は15分の局面。右サイドで進藤がボールを持つと、ジェイが井手口(注:流れの中で倉田と入れ替わっている)の背後、(戸田さんが冒頭指摘したところの)矢島の脇に降りてくる。白井を経由してジェイがボールを受けると、矢島がカバーに動くがこの”デュエル”のパワーバランスは明白だ。
矢島の脇に引いて出てくるジェイ

 チャナティップがいないこの試合、札幌は誰にボールを預けるか(≒ビルドアップの出口)がポイントだ。一つは宮澤→右の白井への展開でボールを預ける。もう一つのこの形は、ジェイがチャナティップの役割を買って出た格好ともいえる。21分にも同じような位置で受けたジェイの突破をキムヨングォンが倒してイエローカード。
 頼もしいとも見れるかもしれないが、基本的にジェイはゴール前で脅威になるべき選手だ。そして前線で屈強なDFを背負ってもボールを収められるクオリティがある(少なくとも、それを試みないならチーム最高級の年俸を払って契約している意味がない)。なのでミシャ的にはジェイがあまり降りてくるのは好ましくない状況だったと思う

4.ガンバの札幌対策(ボール保持編)

4.1 想定内の攻防(高尾から前進するガンバ)


 「2.2」の通り、札幌としてはマッチアップは合わせているつもり。しかしガンバはこのように変化して札幌に選択を迫る。
ガンバの変形

 三浦と高尾がそれぞれ右に動く。「左SBがいない4バック」のような配置だ。これはガンバのお得意のパターンで、札幌もスカウティングしていたと思うが、そうしたお互い想定内の攻防から徐々にゲームが動きだす。
 ガンバのこの配置は理にかなっている。というのは、上図に白い線で「レーン」を引いたが、線を引いていない中央のレーンに三浦、矢島、そして東口と3人も置いておく必要がないためだ。そして大学時代は「超攻撃的サイドバック」と言われていたらしい高尾を、武蔵の監視から逃れやすい大外に。高尾がより得意な仕事ができることもメリットの一つだ。

 15分にこの試合初めて、高尾が持ち上がる。札幌は高尾に菅、菅が見ていた大外の小野瀬に福森がスイッチ。この受け渡しはスムーズ。たまに、著しく受け渡しがうまくいかない(というより、受け渡しに消極的で、ずっとマーク対象についていく)ことがある札幌にしては、この対応はやはり想定内のできごとだったのだろう。
 想定内でも試合は動く。福森が出た背後にスペース。菅と福森、2人分が最終ラインから抜けると、2人分のスライドを強いられるキムミンテや進藤はやや大変だ。それでもアデミウソンを離してはいけない。
フリーの高尾がドリブルで運ぶと札幌の守備の基準は1人ずつずれる

4.2 GAMBAISMは片側に


 ガンバの崩しについて。左右で考え方が違っていた。右は小野瀬に渡ると、殆ど小野瀬の仕掛けに任せられていて、フィニッシュは大外からのクロス。ガンバは中央にターゲット”らしい”選手がいない。パトリックはベンチにいる。札幌としてはクロスにはあまり脅威は感じなかった。
 左はかなりテイストが異なっている。福田は単独で突っ込むことが殆どなく、必ず倉田と、宇佐美のサポートを待っている。高尾はともかく井手口が殆ど小野瀬を助けない右サイドとは対照的だ。
 倉田と宇佐美が揃うと、どちらか(基本的には倉田)が福田をインナーラップで追い越す。もう1人(同宇佐美)はハーフスペースの引き気味のポジションに立つ。近い距離を保ちながらパスを交換してマークが外れた選手は、
福田のサイドに倉田と宇佐美が集合

 倉田のポジションからは、右足でボールを隠しながらドリブルを仕掛けて進藤の突破、もしくはファウルを誘う。宇佐美のポジションからは、シュートも狙っていたと思うがあ裏に抜ける選手へのスルーパスなど複数の選択肢がある。アデミウソンも含め、倉田も宇佐美も「左からカットインして右で撃つで」な選手だ(これに中村敬斗とファンウィジョもいた)。キャラ被りすぎやんと思うが、その選手特性を巧く活かした設計になっていた。
サイドからの仕掛けの他ハーフスペースからのスルーパスやシュートを狙う

5.ゾーン1でのガンバの札幌対策

5.1 青と黒の城壁


 「4.」でガンバの攻撃が左右で狙いが異なっていたとしたが、この点は札幌も同じ。札幌は詰まると、右の白井にボールを逃がしていたのは「3.2」の最後に書いた通りだ。
 前半、右サイドで、白井にボールが渡った時のガンバの対応はかなり整理されていた。対面の左WB福田は突破されないよう、距離を取りながら守る。クロスに対しては、ゴールエリアに最低でもCBの3人、場合によっては小野瀬をファーサイドのスペースに配して4人で高密度のゾーンを組んで跳ね返す。また5バックの前を守る2列目の戻りも早く、井手口は中央のカバー、矢島と倉田は、状況に応じて福田のサポートと最終ラインの前での防波堤役を使い分ける。宮本監督の言うところの「札幌は長身の選手が多いので中央を厚くしたかった」とする対応はこうした点に現れていた。
白井のクロスに対しては中央を完全封鎖

 ジェイは『俺が白井に「頭でピンポイントに合わせるんじゃなくてスペースに蹴る意識を持とう」とアドバイスをしてから白井の快進撃が始まった(わしが育てた)』というが、ジェイや武蔵はある程度スペースがある状態でクロスボールに対して動きながら合わせたいイメージを持っている。白井もそのイメージで普段練習しているのだと思うが、最終ライン~GK東口の間にスペースがなく横幅も密集して守っているガンバに対しては、(ジェイが狙うなと言った)ピンポイントのクロスがないと合わせるのは不可能だ。前半、白井のクロスがジェイと武蔵へ成功した本数はゼロ、27分にマイナスのグラウンダークロスを荒野に合わせたのみだった。

5.2 十八番のミシャアタック不発


 札幌は左サイドでは右とは対照的に、WBの菅が縦に仕掛けることは殆どない。菅の役割は、大外に張ってボールを受けることで小野瀬を引っ張ること、その背後のスペースがあれば飛び出すことなど白井とは異なっている。
 札幌左サイドのメインキャストは福森だ。福森だけでなく、深井の選択でも多かったのが、左サイドから中央へダイアゴナルなパスを入れてジェイと武蔵のコンビネーションで攻略しようとの試みだった。これはミシャが就任当初からチームに仕込もうとしているパターンで、2018シーズンの序盤によく見られていたが最近はやや封印気味の形。浦和や広島でよくやっていた形があまり浸透していないのは、単にこの形に固執していないのもあるだろうが、キャスト的に、チャナティップがいる札幌はその能力を活かすやり方にシフトした方が効率的だとの考えもあったのだろう。
福森から斜めのパスでフリック⇒抜け出しを図る

 そのミシャの十八番がこの試合では復活だ。基本的に左からのパスは左利きの選手が受け手になったほうがスムーズ。ジェイが受けて武蔵を裏に抜けさせるパターンを、2人で何度か試行していたがあまり上手くいかなかった。
 一つは、ガンバが中央を固めているため。井手口は↑の図のように福森に勢いよく飛び出していくことも少なくなかったが、6分にアデミウソンがPKを獲得した時(菅の横パスを矢島が引っ掛ける)のように、ガンバはこのシチュエーションでも中央からなるべく選手が動かずに、ジェイが受けるスペースを消していた。
 もう一つ挙げるなら、このプレーをジェイと武蔵だけでやっていて中央に荒野が殆ど絡んでこなかった点。荒野は引いた位置でのビルドアップではそう違和感なく見えたが、前線ではジェイと武蔵とのプレーになかなか関与できない。一言で言うと、右シャドーか左シャドーか、どちらの役割で絡むのかが終始不明瞭だった。ダイアゴナルなパスに対して、1人がスルーして背後のもう1人の選手にフリックさせる、のような形があるとワンタッチプレーの効果はより大きくなるが、札幌は2人のみで行うのでガンバは予測が容易だったと思う。
(6分)菅のパスを矢島が引っ掛けてカウンター(→宮澤が倒してPK)

 左サイドからこの形を繰り返していたのは、恐らく前への意識が強い井手口が出た背後を狙うため。井手口が福森を見るためにサイドまで出張し、矢島が中央にステイするのでそのチャネルはかなり開いている局面もあった。ここに、「DFラインの前で前を向ける選手」がいれば試合結果は全く別物になっていたと思うが、全て試合前のアクシデントで予定が狂った。

6.決断の伏線(何故宮澤を下げたのか?)

6.1 アンデルソンロペスの投入


 札幌は後半頭から宮澤→アンデルソンロペスに交代。筆者は宮澤が何等かのアクシデントでの交代、アンロペが左でスタートしたのを見て2トップは継続なのだと思っていたが、北海道新聞によるとジェイとアンロペの2シャドー、武蔵の1トップのイメージだったようだ。
46分~

6.2 伏線となった攻防


 1トップというポジションがありながらトップは武蔵、ジェイは右シャドー、そして宮澤を下げて左にアンロペ。ギャンブル性が高い未知の布陣だ。この決断の理由を、27分の攻防と共に説明する。

 27分、札幌の攻撃が失敗して局面はガンバのビルドアップからの攻撃に。この時、ジェイと武蔵は直前の攻防によって流動的に動いており、その流れからジェイが左、武蔵が右と当初想定の配置から入れ替わっている。
 ガンバは三浦から中央に入った小野瀬→井手口と渡って、井手口のスルーパスに高尾が飛び出す。菅と福森が引っ張られていた札幌は、ジェイが激走して高尾にそのままついていく。最後は高尾のグラウンダーのクロスに宇佐美が合わせるがキムミンテがブロック、という場面。
(27分)ジェイと武蔵が入れ替わっている時に高尾のオーバーラップでジェイのサイドを突破される

 札幌の、ガンバのシステムに対するマッチアップの”イメージ”は「2.2」の通りだ。
(再掲)ガンバのシステムに対するマッチアップの”イメージ”

 が、実際はガンバは「4.1」に書いた通り、高尾が右に張り出してサイドバックのように振る舞う。そして矢島は頻繁に三浦とキムヨングォンの間に降りてくる。これは、荒野の監視から逃れて自分自身の周囲にスペースを作る目的もあるが、それ以上に、2トップ+トップ下で守る札幌の設計を崩す(荒野が矢島についていくなら、前3枚になって、札幌の中盤が1人減り、またFWのように最前線にいるなら荒野である必要がなくなる)狙いがあったと思う。
ガンバの人の移動によって札幌の前提は通じなくなり高尾がフリー、矢島は中盤にいない

6.3 選手交代によって解決したかった問題


 札幌の決断は1)高尾をケアする選手が必要、2)それでいて矢島への監視は継続、3)ジェイの守備負担を軽減したい、という状況に基づいたものだった。
 なお、前半ジェイが左サイドにいたことで守備負担が大きくなった局面は上記の27分頃の1回だけ。ただ、解説の戸田さんも31分頃に「札幌の守備で1つだけ気になるのは、ジェイのサイドが押し込まれた時の対応」と指摘していたが、ミシャが見守るテクニカルエリアの目前で繰り広げられた攻防によって、前半1回だけ顕在化したこの現象は決断に少なからず影響しただろう。

 まず、矢島が降りてくることも考慮するとシステムは前線が正三角形の[1-3-4-2-1]に変更。これは、マークの優先度が高い矢島と高尾がとりうるポジションを考えると、この形で準備した方が捕まえやすいこと、加えて前線を3人にして、その3人の間でのポジションチェンジの余地を2トップの時と比べて少なくすることで、ジェイを右に固定(=ジェイが高尾を追いかけるシチュエーションを消す)という考え方になる。
ジェイは右に固定で高尾はアンロペに任せる

 高尾のケアはフレッシュなアンデルソンロペスに任せる。ジェイと比べると、アンロペはフレッシュなこと、運動量の他、選手特性的に、高尾の攻撃参加によって低い位置まで押し込まれても、アンロペの突破力なら1人で陣地回復できるのでそれがあまりマイナスにならない(ジェイが下がると前線のターゲットが消えるのが大きなマイナス)という点が大きい。

 と整理したが、後で考えると、宮澤を下げずに荒野を左シャドーの[1-3-4-2-1]にすれば守備面の問題は解決する。となると、やはり攻撃面で前半シュート2本に終わったこと(白井のミドルシュートと、白井の突破からの荒野のシュート)を踏まえ、チャナティップの役割をアンロペに期待するなど、何らかアンロペを使いたい理由があったのだろう

7.逆方向に向かう両者

7.1 後半のガンバ


 札幌が「6.」に示した変化を加えての後半。立ち上がり10分はガンバがボールを握る。その間、札幌は何をしていたかというと、[1-5-4-1]に近い陣形に変形させられた状態でガンバのボール保持に対抗していた。
 ガンバの後半の変化に言及するとしたら、キムヨングォンが前半よりも開いたポジションをとっていた点、井手口が右サイドでのボール保持により関与するポジションを取るようになった点かもしれない。
後半からキムヨングォンもサイドに開く 右は井手口が小野瀬と高尾に寄る

 前者は、明らかに対面のジェイとの「平面の質的なミスマッチ」を狙っていた。元々キムヨングォンはサイドもこなす、モビリティのある選手だ。この日は札幌加入後最高のテンションで守備をしていたジェイが、サイドに開くキムヨングォンを監視するためにジェイ自身も開くと、キムはその脇をすり抜けるようにドリブルでボールを運んでいく。1on1関係が強い状況でCBがドリブル突破を試みるのはかなりの自信があるシチュエーションだ。ジェイ相手なら問題なく前進できるし、またそれが効果的だと、前半を見ていての判断だったか。
ジェイをドリブルで突破するキムヨングォン

 対する札幌。両サイドが高いポジションを取ると、ジェイ、アンデルソンロペスはそれに伴って低い位置に押し下げられる。トップは武蔵1人になるので、前線で制限がかからず、ガンバはボールは好きに持てる状況。最初のチャンスは48分、宇佐美が中央で引いて受けてからのミドルシュートだった。
 札幌は自陣で奪って、前線の3人に預けての逆襲を狙う。が、中央の武蔵は常に2~3人に包囲されており、ジェイは右サイド、ゴールからかなり離れた位置を終始漂う。そして不慣れな左に配されたアンデルソンロペスは単独突破を試みるが、左足しか使えないアンロペは、左サイドのタッチライン際でボールを持っても、対面の選手に中央を切られるとなかなかゴール方向に向かえない。

7.2 ゴールと勝利に向かうガンバ


 試合が動いたのは56分、札幌はガンバ陣内で福森が「5.2」に近いシチュエーションで斜めのパスを試みるがガンバのブロックに引っかかる。右サイドに流れたボールを深井が処理に動くが、宇佐美、小野瀬と繋いでアデミウソンが右サイドを抜け出す。進藤の股を抜くグラウンダーのクロスに、ゴール前に倉田が走り込み、簡単ではないシュートだったがファーで合わせてガンバが先制。

 続く61分、今度は左サイドから「4.2」に似たシチュエーション。倉田が外、宇佐美も引いて進藤をゴール前から引きずり出してから、白井とキムミンテのチャネルに宇佐美が侵入して得意の膝下をコンパクトに振りぬくシュートでクソンユンのニアを破って2-0。2点とも前半から見えていた”形”から、脈略のある得点が生まれた。

7.3 行き先が見えない札幌


 札幌は2‐0となってジェイ→ルーカスフェルナンデス。67分には菅→中野に交代。3枚のカードを使い切る。
67分~

 右:ジェイ、左:アンロペよりはフィット感のある右のアンロペと左のルーカス。はまれば強力な組み合わせだが、この2人はともに聞き足で中央方向にカットインしたい選手。ガンバは宮本監督の言う通り、中央を固めている。そしてアンロペが左足で撃ちたいのは誰もがわかっている。中央を固められ、ボールが渡ると左足を切る。2人とも次第に中央から離れてサイドに流れてボールを触るようになる。サイドは中野と白井。ポジションが被り気味になっていく。
2人とも利き足で中央に向かってプレーしたいのでプレッシャーが緩いサイドに逃げていく

 70分。矢島のサイドチェンジから右の小野瀬のクロス。やや中野の寄せも甘かったが、緩いボールにアデミウソンがバックステップを踏みながらファーサイドに流し込む高難易度のヘッド。進藤が思わず大の字になって悔しがるスーパーゴールで3点目。これで試合は決した。

 後は敗色濃厚ながらバランスを崩して健気に攻める、ミシャの大量失点のお得意のパターンだ。終了間際に藤春(これも左サイドからの侵入)、渡邉千真のミドルシュートで失点し、「第1戦」は5-0で幕を閉じた。

雑感


 5-0というスコアになったが、試合内容からはせいぜい3-0くらいが妥当なスコアだったと思う(震え声)。毎試合2点は防いでくれるスーパーマン・ク ソンユンのビッグセーブがなかったこともあるが、ミシャチームの大量失点はだいたい、「試合の大勢が決してから健気にバランスを崩して特攻し、カウンターを食らって無事死亡」だ。

ルヴァンカップ準決勝第1戦に向けて


 チャナティップは肉離れということで恐らく次節も出場不可。ガンバはこの勝利で、手を入れる必要がなくなった。札幌は恐らく[1-3-4-2-1]に戻してくるはず。前線の構成は、6月の仙台戦で不発だった武蔵・ジェイ・アンロペの3人か。アンカー矢島に対しては、神戸戦同様に1トップのジェイに見させるやり方にし、ロースコア展開でホームの第2戦に折り返す狙いになるだろうか。
 筆者の印象では、前半はそこまで難しいゲームだとは感じなかった。確かにシュートは少なかったが、札幌のいつもの5人+荒野が関与する組み立ては、基本的に人基準のガンバに対してまずまず有効で、あの形をもう少し続けても良かったと思う。
 井手口はやはり動くので、その背後は依然として狙いを持ち続けたい。武蔵、荒野よりも考えうるのはルーカスか、起用はおそらくないと思うが、選手特性的には中野も適任だ。

(10/9追記 ルヴァンカップ簡単プレビュー)


 スタメンは、ガンバは福田→藤春か。札幌はメンバー以前に、システムは[1-3-4-2-1]に戻すと予想する。ク ソンユンは韓国代表に合流のためGKは菅野。
 ミシャはカミナリを落としたというが、単に怒りを示すだけでは効果が薄いとわかっているはず。そう考えると、アンデルソン ロペスの先発起用がありそう(あと、ゲン担ぎで白ユニではなく赤黒でプレーさせろ、とか言いそう。ガンバはGKユニフォームが赤なので難しいと思うが)。
予想スターティングメンバー

 ゲームプランは、札幌はイーブンスコアで十分。逆にガンバはリードして札幌に乗り込みたいが、イーブンでも悪くない。お互いにリスクを冒す必要性は薄い。H&Aあるあるな試合展開になりそう。

 札幌はその上でおそらく、トップのジェイがアンカー矢島をケアする神戸戦のサンペール対策を採用する。
札幌が設定するマッチアップ(予想)

 ガンバは矢島が動く。前進するか下がるか。恐らく後者。それに合わせて、キムヨングォンと高尾は高い位置へ移動。札幌はそうなると無理せず[1-5-4-1]で撤退からの、武蔵やアンデルソンロペスの縦へのアビリティを活かしたロングカウンターを狙うだろう。
説明を追加

 矢島が引かない場合。
 矢島がジェイの視界から完全に消えると、ジェイから宮澤か深井に受け渡し。宮澤は倉田の対面なので、恐らく深井になる。その場合は、井手口が浮きやすくなる。前に出てきた時の攻撃に絡む能力は要警戒。なお、これがなければ、武蔵は三浦と高尾の間に立って、高尾へカバーシャドーがいいと思う。
矢島を受け渡すと中盤のマークがズレる

 宮澤、場合によってはアンロペも、ガンバの左サイドアタックへの対応で忙しくなるだろう。逆に、札幌は守ってからそのガンバの左(札幌の右)を強襲したい。倉田も藤春も上がってくるので、フィルターは井手口がいる右よりも弱い。勿論、期待はアンロペ。
左サイドは札幌も人数をかけて守った上で逆襲を狙いたい

 札幌が持つ状況になったら、未遂に終わった井手口の背後狙い。
 井手口は基本的に突っ込んでくる(福森のサイドチェンジ対策にはなるので監督が黙認?)。金曜日はシャドーがいなかったのもあって不発。まず背後にシャドーを置きたい。順当なら武蔵だが、このためにルーカスの起用の線も理屈の上ではあり。高尾vs武蔵のマッチアップなら、背負った武蔵でも勝機あり。ずっと引いて守るのではなく、ガンバのDF、特に高尾に負荷をかけることは重要。
井手口の背後を狙いたい札幌

用語集・この記事内での用語定義


1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
ゾーン3ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

6 件のコメント:

  1. アンカーにマークをつけなかったらいいんじゃないですか?そうすれば前線に3人を置けるし、攻撃の6厚みが出ると思いますが

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    1. 固定のマークをつけないで受け渡しながら見るという意味でしょうか?

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  2. そうです。受け渡しで見ればアンカーの横も使えると思います。

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    1. それは神戸戦の前半のやり方を指していると思います。基本的にはトップが担当して、視界から消えると後方のMFに受け渡すやり方です。
      ジェイはアンカー消すのは結構うまい方だと思っています。

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  3. 大変ご無沙汰しております。だいぶ前に孔明さんのブログを褒めてるんだかけなしてるんだか微妙なツイートがあってちょっぴり困惑したんですがwそれはさておくとして。ジェイを守備に走らせたらダメだろ!みたいな声がけっこうあって、速報でも守備に行っているような記述があったのでどういうことなんだと思っていたんですが、なるほどアンカー対策で3-4-1-2になっていたんですね。それならアウェイ浦和戦と同じですからシステムの運用自体は特段おかしなところはないってことになりますね。

    ツイッターでもポイントを絞ってプレビューされていますが、ガンバは「勝っているときにはいじるな」のセオリーに則って臨むでしょうからまずはアンカー対策でしょうね。アンカーの監視はジェイとボラの一角の縦関係の受け渡しでいいとしてリーグ戦では矢島・井手口・倉田で構成してきた中盤への対応をどうするかでしょうか。隙があるとすれば人に食いつく荒野の上位互換な井手口への対応ということになるんでしょうが、ターンオーバーで遠藤出してくんねぇかな…。

    今までは戦術厨な視点を将棋になぞらえていましたが、左右の対応の違いというのを考えると差し手争いや四つに組むか押しにもっていくかという相撲になぞらえることになりそうですw。

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    1. ご無沙汰しております。相撲理論は是非流行らせましょう。2戦目もトップ下置いたのは結果的には成功だったと思います。また4点5点取られていた事態は回避できたので。ただビハインドを負ってしまったので、次も同じシステムでひたすら追いかけまわしてミスを誘うしかないかなと思っています。

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