2019年6月2日日曜日

2019年6月1日(土)明治安田生命J1リーグ第14節 北海道コンサドーレ札幌vsサンフレッチェ広島 ~いつしか、スタンダードに~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF中野嘉大、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、早坂良太、ルーカス フェルナンデス、鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF檀崎竜孔、白井康介、小野伸二、FW藤村怜、ジェイ。宮澤は前節試合中の負傷の影響が手術が必要な膝軟骨損傷と判明し1ヶ月程度は欠場の見込み。中盤センターは宮澤、深井、駒井、荒野、中原といたはずだが駒井の予想外の長期離脱もあり、一気に手薄感が漂ってきた。チャナティップは腿裏の張りで欠場。国際Aマッチウィークにキングスカップを戦うタイ代表の招集も辞退した。小野は3/13ルヴァンカップ長崎戦以来の公式戦メンバー入り。ジェイのスタメン入り(武蔵のシャドー起用)を予想するメディアもあったがベンチ入りとなっている。
 広島(1-3-4-2-1):GK大迫敬介、DF荒木隼人、野上結貴、佐々木翔、MF清水航平、川辺駿、松本泰志、柏好文、森島司、柴崎晃誠、FWドウグラス ヴィエイラ。サブメンバーはGK林卓人、MF稲垣祥、ハイネル、吉野恭平、FWパトリック、渡大生、皆川佑介。最終ラインは荒木が3試合連続のスタメン。エミル サロモンソンは前節試合中の負傷の影響により欠場。代役は前節はハイネルだったが、清水から帰ってきた清水航平が今シーズン2度目となるスタメン起用されている。
 その他プレビューはこちら。


1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌


 いつも通り、最大人数で守り、最大人数で攻撃する。クオリティ不足は枚数を欠けることで補うが、相手のカウンターの機会を作らせないためにロストの仕方は重要。攻め急がず、闇雲にフィニッシュに持ち込まない。

1.2 広島


 前半は抑えて後半勝負。必要以上にエネルギーを使わないが、相手のウィークポイントであるトランジション等は狙っていく。

2.基本構造


 前半はボール支配率が札幌6割強に広島4割弱、シュート本数は札幌2、広島4というスタッツ。試合展開としては互いのゲームプラン通りだっただろう。基本的にはプレビューでの予想通り、前半は広島が省エネサッカー、ホームの札幌にボールを持たせる展開で時間が進む。

2.1 札幌ボール保持時の構図(広島のリトリート)


 特に図解不要かもしれないが、札幌ボール保持時の構図は以下。広島は基本的に1-5-4-1のブロックでリトリート。1-5-2-3と1-5-4-1を使い分けるチームもあり、広島もシーズン序盤の大分戦では1-5-2-3に近い形も併用していたが、この日は札幌の後方のボール保持に対してはドウグラス ヴィエイラを1枚残して、このドウグラス周辺では殆ど札幌にプレッシャーを与えてこなかった。
 その分5-4ブロックにボールを入れるとすぐに圧力をかけて排除する。最初からブロックの中にいる選手のうち、配置上、札幌が狙いやすいのはシャドーのルーカスと早坂。ここにボールが入って収まるか、武蔵も含めたコンビネーションが発動して広島がクリアできない状態になると局面は札幌のシュートチャンスに転がりかねない(ワーワーサッカー的な、形として言語化しにくいシチュエーションも含め)。広島はブロック内に入ってくるボールは速攻で排除にかかる。
広島はリトリートしブロック内に入るボールを排除

 興味深かった事象を1つ挙げる。序盤、札幌が浮き球の中~長距離のパスを武蔵に放り込むと、185cmの武蔵が180センチの野上に3度ほど競り勝って「ブロック内でのボール確保」が成立していた。
 武蔵はサイズも運動能力もあるが、J1のトップ~インターナショナルなレベルで見ると空中戦はまだ鍛錬中といったところで、特に相手を背負ってのシチュエーションでの振る舞いがより進歩すれば更に怖い選手になれる。5バックのチーム相手だと、常にマンマーク気味の対応をする相手CBを背負ってプレーすることになるが、野上と武蔵のマッチアップだと武蔵に分がありそうで、この質的優位性を戦術的に活用するのか?という視点に札幌目線では序盤から気付くこととなった。

2.2 広島が仕掛けるタイミング


 広島はずっと自陣に引きこもっているわけではなかったが、その”仕掛ける”タイミング、局面は限定的だった。
 具体的に挙げると札幌ボールのゴールキック。この時、札幌は深井とキム ミンテが開いてポゼッションを開始するが、ソンユンも含めた3人を1トップ2シャドーで監視する。札幌は荒野がフォローに加わると4on3の人数関係になる。このシチュエーションで「3」の広島がプレスを続行して押し切ることは可能だが、そこまでの圧力はなかった。この目的は恐らく、札幌に長いボールを蹴らせること、KPIは後方ではね返して回収ができれば達成、という考え方だったと思う。
ソンユンがボールを保持する時はローリスクハイリターンなので前から守る

 ゴールキックを狙っていたというか、言い換えると「ク ソンユンがボール保持に関与する機会」を狙っていたとも捉えられる。いかなるシチュエーションでもハイプレスを行うとなるとリスクも伴うが、ソンユンが関与する局面ならリターンが大きい(ミスを誘えば即決定機)、かつ3人を前線に投入するだけでいいならリスクが小さい、という考え方だったと思う。

2.3 広島のボール保持時の基本構造


 プレビューで見たように、広島はミシャ式っぽい「1-4-1-5」の配置に変形する。松本が最終ラインに移動するが、「基本的にはミラー布陣とみなせるのでほぼ純粋なマンマークでいく」が札幌の回答だった。
 松本に荒野が、時に早坂を追い越す形でついていく。すると中央は札幌も深井一枚になるので、その”脇”が空きがちになるが、”脇”に森島や柴崎が降りるなら福森と進藤がついていけばいい、という整理になっていたことは確実に言え、荒野が勝手な判断をしていたようにはこの点では見えなかった。
広島の1-4-1-5変形と札幌のマーク関係

 この点において、16分35秒頃に早坂が、追い越していく荒野に対し「そんなに食いつくな」といったジェスチャーを2度していたことは興味深かった。前線は広島の4枚に対して枚数を合わせてはいるものの、いずれもやや距離を置いて正対しているだけでボール保持者に対する圧力はあまりかかっていないようにも見え、スペースをケアすべき、とする早坂(右サイドなので、前半ベンチの指示がよく聞こえるはず)の振る舞いも一理あるのも事実である。この辺の認知ギャップのようなものは何故生じるのかよくわからなかった。

 前半の、試合の構造を説明する上でより重要なのは荒野のところよりも、福森と森島、そして隣の菅と清水のマッチアップ。

 上記のように札幌は深井の”脇”に落ちる森島への対応を福森にそのまま任せる。福森は前には強い(というか出足が悪くない)が、後ろのケアは非常に疎かにしがち(かつて岡ちゃんこと岡田武史氏が、長友佑都の良さについて「前に出ていくときだけ頑張る選手はいるけど、長友は上がった後にしっかり全力で戻ってくる」という旨の話をしていたがまさに福森の課題はそこだろう)。
 広島も、4月に札幌が対戦し敗れた大分のように、福森の背後は空くなら当然狙っていたようで、それは清水のオーバーラップという形で表れていたが、背走・並走する格好になる日本代表・菅大輝選手のカバーがこの日は非常に冴えていた。少し形は違うが、19:50頃には広島左、札幌右寄りの中央レーンでのトランジションから、ドウグラスヴィエイラを経由して清水が抜け出す。ここも札幌は日本代表・菅大輝選手が猛然と50mほど戻って身体を投げ出したことで難を逃れた。
札幌は食いつきを容認して純粋マンマーク気味に守る 菅が福森先輩をカバー

 広島は左サイドでは、どちらかというと柏が単騎で突っ込んでくるイメージだったが、この試合は左も柴崎が進藤を引き出して、その背後を柏が狙っていこうとする意図は感じられた。対面の中野は、大学時代に柏と対戦経験があるらしく、当時から「いい選手だと思って見ていた」とのことだが、柏がカットインだけでなく裏取りも選択肢として見せてきたこともあって手を焼いている印象だった。

3.早い時間から動く札幌

3.1 ルーカス救出作戦


 「2.1」で示す広島の非保持時の振る舞いに対する札幌の答えは、試合開始5分頃の早い時間帯から示される。ちょうどこの試合の前にらいかーるとさんの本を読んでいて、「開始15分頃までは、両チームとも試合を通じた狙いを隠していることが多い」といった内容が書かれていたが、かなり早い時間から札幌の意図が見えることとなった。

 札幌は下の2つのレーン:ルーカスのいる左ハーフスペースと、右の大外レーンで打開を図っていた。
札幌の狙いどころ2つ

 まず左ハーフスペースについて。皆さん想像はつくと思うが、札幌としてはルーカスに勝負させたい。前節は右シャドーでしっくりこなかったルーカス。右利きなので右足でフィニッシュに持ち込みやすい配置にしたいということで、シャドーなら左の方が期待できそうだと考えていたのだろう。ルヴァンカップでは左足シュートだったが得点も挙げている。
 ルーカスは広島のブロックの中に閉じ込められており、背後から荒木の監視下に置かれている状況にある。よって札幌はルーカスの周囲のスペースを拡げ、そのクオリティが発揮されるようにしたい。
ルーカスを包囲している5角形を拡げるために…

 ルーカスの前を閉じている森島と川辺。深井はその前方、福森はサイドにポジショニングする。前方で深井がボールを持つと、ドリブルでドウグラス ヴィエイラの脇をすり抜けるように前進する余地をうかがう。深井が前進してくると、武蔵や早坂、ルーカス、サイドに張る選手などへの距離が近くなり、一般にはそれらの選手にボールを届けやすくなるので守備側は何らかケアする必要がある。そのために川辺が前進すると、
福森のポジショニングと深井の持ち出しで引き付けてルーカスのスペースを創出

 ルーカスを囲っている広島の5角形が拡がる。ここですぐにルーカスに縦パスを入れることは安直だが、何度もこれを繰り返しているとブロックの間隔は拡がっていく。この深井や福森の持ち出しによって、ルーカスの”救出”を図ることが一つの狙いだった。
 また右サイドも、キム ミンテや進藤が同様の位置を狙っていたが、早坂はルーカスと比べると足元で保持したり、ターンして仕掛けたりが期待できなさそうだった。よって右サイドは別の狙いの方がより目立った(「3.2」に)。

3.2 右サイドの旋回とその不発


 右サイドで、試合序盤から見られていたのは中野のレーン移動。2018シーズンからよく見られるパターンだが、大外WBが中央に移動するとともにシャドーが引いてポジションの重なりを防ぐ。大外WBはそのまま裏に抜ける動きを見せる。こうすると相手5バックの意識は中央寄りになるので大外レーンが空く。ここにDFの両脇の選手(福森や進藤)がオーバーラップしてフリーを享受するパターンである。
早坂が引き、中野が絞って大外レーンを空ける

 ただ進藤がクロスを上げる局面は少なかった。広島がこのパターンを読んでいたのもあると思うが、早坂が引いた時に佐々木がついていかず、柏も中野についていかない(中野は佐々木に受け渡せばよい)ので大外で進藤があまりフリーになれなかった。どちらかというと、41分に進藤から絞った中野に縦パスが入った時が最も、前半”可能性”を感じた局面だったかもしれない。どうせ中野は使ってこないだろうとの広島の意識を逆手にとれたが、中野のクロスは味方と合わなかった。

 普段、札幌はこのパターンを左サイドでもよく見せる。左サイドではチャナティップが引いて、菅が中央に絞る関係になるが、チャナティップは低い位置でもボールを持たせると危険なため相手チームは必ずケアする。そのチャナティップのクオリティが、相手のDFを動かすトリガーになるのだが、早坂は下がっても放置しておいて(あるいは松本や柴崎など、一列前の選手に任せておいて)問題ないという判断を、佐々木は早い時間帯から示していたので、札幌の狙い通りの展開にならなかった。

 左右両サイドで札幌には”アイディア”があった。しかしアイディアだけではどうにもならないところがあって、やはり数人の選手が欠けている、もしくは本職の位置で起用されていないクオリティ不足は否めなかった。前半札幌のシュート本数は、福森が力なく放ったものと進藤の長距離砲、計2本にとどまっている。

4.いつしか、スタンダードに

4.1 2バックで守る札幌


 上記「3.」で示した札幌の主要なボール保持攻撃のパターンには共通点がある。それは「1-4-1-5」の「4」と表記されるDF扱いの選手がポジションを上げることで、ボールの配給役になったりパスの受け手になったりと何らか攻撃に関与することでプレーを成り立たせている。
 なので札幌は実際には「1-4-1-5」にはなっていない時間帯が多い。DAZN中継でも「札幌のベンチの戦術ボードは2-3-5みたいな配置になっている」といったリポートがあったが、「3.」で示した構造上、進藤と、深井か福森のいずれかは高い位置取りをしている(もしくは狙っている)ことが多いので、ボール保持時の札幌の最終ラインは、厳密には「キム ミンテ+1」という考え方になっている。

 サッカーの原則には、ボール保持側が有利なので、「ボール非保持側はボール保持側の+1の人数を確保すべし」というものがある。ミシャのサッカーはマンマーク主体であることもあって、ミシャの考えとしても広島のドウグラス ヴィエイラ1枚に対して、中央にキム ミンテともう1人で計2枚確保しておけば十分、という認識だっただろう(だからマリノス戦は、相手が3トップなのでミシャは毎回4バックにしている)。

4.2 ポジトラから脇を強襲する広島


広島が狙っていたのはその札幌最終ライン(2バック?3バック?)の”脇”である。
 一般に「3バックの相手に対しては、その脇を狙え」とよく言われる。これはサッカーの国際規格のピッチ横幅68mを人間3人の運動能力では物理的にカバー不可能なので、ここにボールを蹴って人を配しておけば守備側はそのうちトラブルになる、という考えに基づく。そのため一般に3バックと言われるチームは、守備時は3バックにしない(WBを下げて5バックにする)ということが常識化して10数年が経っているが、攻撃時(ボール保持時)には3バックになっていることが多い(ミシャ式は4バックだったり3バックだったりで、この試合は2バックだったり1バックだったりだが)。

 何バックでもいいが、重要なのは広島が「○バックの脇を狙う」なら、札幌がボールを持っている局面から、広島がボールを持つ局面に変わる時(広島にとってのポジティブトランジション)が狙いどころになる。試合を見ていると、広島は当然このシチュエーションを意識していた。
 ↓の6分53秒の局面。札幌が広島陣内で、先述の「3.1」で言及したように広島の5-4ブロックの前でボールを動かしていたところである。広島は札幌のパス交換に食いつかず、ブロックを崩さずに我慢する。
 そしてキム ミンテから福森へ、福森がポジションを上げて後ろにスペースができ、かつミンテの浮き球の、緩いキックでのパスとなったのを見て清水が福森に猛然とアタック。森島は清水がヘディングでインターセプトする前に、その展開を予測して福森の背後のスペースに走り込む。インターセプトが成功した瞬間(広島のポジトラ、札幌のネガトラの瞬間)、札幌は先述のように2バックになっていてその脇を広島は速攻で突ける。
(6分53秒頃)広島は福森の背後、札幌2バックの脇の強襲を狙っている

 この形が広島の前半の”省エネサッカー”における狙い。自分たちでボールを持って、人とボールを動かすことにエネルギーを注がなくても、札幌が隙を見せたタイミングで仕掛ければ少ないエネルギーでシュートチャンスを作ることができる。

4.3 最終ラインでミンテが示す"スタンダード"


 上記「4.2」で「2バックだったり1バックだったり~」と書いたが、この試の札幌の(ミシャの)考え方は基本はドウグラス ヴィエイラに対して2人を残しておくこと。しかし札幌のDFの役割を見ると、進藤は右サイドで頻繁にオーバーラップする。深井は中央左から持ち上がり、ボールを運び、循環させて広島のブロックを操作する。いつも通り福森は勝手に上がっていく。
 となると2バックどころかキム ミンテの1バックが常態化する。ミシャが荒野に個別に指示を送っていたとのリポートがあったが、その内容はDAZN中継によると、深井や進藤が攻撃参加した時は下がってバランスをとれ(枚数を担保しろ)というものだったらしい。しかし例によって、あまり荒野には伝わっていなかったようだ。札幌ドームで試合中に指示を伝えたいなら、大熊清さんのような異様に声が通るスタッフの確保が必要かもしれない。
 
 ともかく1バック状態は解消されない。よってミンテとドウグラス ヴィエイラがひろリマの最前線、札幌の最高峰でタイマン状態。ミンテの背後は、一応ソンユンが非常に高い位置取りをしてカバーするが、ゴールががら空きなので、例えばドウグラスヴィエイラがミンテと入れ替わって札幌のゴール方向を向いてボールを持てば、ループシュートを狙うだろう。

 このように常識的にはありえない状態なのだが、ここ数試合スーパーなパフォーマンスを続けるキム ミンテの対応がこの日も冴えていて、ミスが許されない状況でドウグラス ヴィエイラに仕事をさせない。仮にこのポジションが宮澤だとしたら、同様のシチュエーションではボロが出てしまうだろう。
 開幕当初はサブ扱いだったが、サイズもあり(187cm、ドウグラス ヴィエイラは189cm)、足も速く競り合いにも強いキム ミンテが最終ライン中央にいることは、今の札幌のサッカーにおいて一種のスタンダード(言い換えると、このやり方で勝てる試合をするための前提条件)になっている。
本来2on1の関係で守りたいがミンテは1on1でもなんとかしてしまう

5.後半立ち上がりの展開

5.1 互いの変化


 後半、広島は変化を2つ見せる。
 一つは人の配置で、柴崎を右、森島を左、とシャドーを入れ替えたこと。もう一つは、攻め手を右から左へと代えたこと。後者については、前半は左右五分五分くらいの運用だったのが、後半立ち上がりからは柏にボールを集める。
 柏とのマッチアップは相変わらず中野。前半から柏にはファウル覚悟の対応が続いている。サイドに張る柏にボールが集まると、札幌は中野をサポートできるポジションを取りながらのマンマークにシフトする。柏が左サイドに札幌の選手を引き付けると、反対サイドは比較的オープンになる。この状態で、中野との1on1で90分を通じて優位だった、ボールを失わない柏を起点にしてワイドに攻撃していこうとの意図が感じられた。
柏が札幌の選手を引き付けて右サイドをオープンにする

 対する札幌の対応。
 広島のボール保持、札幌非保持時の配置や役割はそう変わっていないが、広島のボールホルダーに対する距離は縮まり、与える圧力を強めた結果、後半開始早々の47分と49分に広島のパスミスを誘ったショートカウンターの機会を創出できたように思える。58分にも同じようなシチュエーションでボール奪取に成功したが、これらはいずれも広島の左、柏のサイドだった。広島に札幌陣内深くまで侵入を許すと、セーフティな守備に切り替えざるを得なくなるが、警戒すべき選手に対してタイトに対応すること自体はできていたように思える。

5.2 メンバーとスコアの変化


 広島が明確な攻め筋を見せ、札幌もショートカウンターに繋がるような守備が現れてきたことで、互いにゴールに向かってのプレーの優先度が高くなり、ややオープンな展開になる。
 広島は61分、柴崎⇒渡に交代。55分頃からピッチサイドで準備していたが、なかなかプレーが切れずに投入できなかった。恐らくこの渡の、後半開始10分での投入が、広島は更にギアを上げる合図だったと思う。結果的には札幌が同じ時間帯に先制したことで、広島は選手交代に関係なく、よりアグレッシブにならざるをえない状況となった。

 札幌の先制点は62分、右サイドから放り込まれたボールを早坂が頭でフリック、武蔵が野上との競り合いに抜け出し、大迫と交錯しかけたこぼれ球を早坂が流し込んだもの。いわゆる”脈略のない得点”だが、前半、武蔵が野上相手なら勝てそうだ、と感じたこのマッチアップが伏線になったと言えばなった。

 この得点直後に広島は清水⇒ハイネルに交代。右サイドにサイドアタッカーを投入し、左シャドーにはターゲットとなれる選手を配する。左は柏1人に任せられるとして、右からの攻めを強化する意図があっただろう。
 札幌はアクシデントで2枚の交代カードを消化してしまう事態に陥る。67分に中野が接触がないところで痛んで白井と交代。69分には武蔵がハイネルのタックルで負傷し、71分にジェイと交代。この10分間で、4選手の交代やセットプレーがあったので、短いアクチュアルプレイングタイムの間に次々と交代カードが切られる展開になった。
71分~

6.終盤の展開


 前節の記事で「まだジェイは本調子ではなさそう」と書いたが、相手との力関係もあるか、1週間の調整の効果もあるのか、この試合はジェイの投入直後はかなりジェイにボールが収まるようになる。札幌は体力的に厳しい時間帯ということもあって、ジェイに早めにボールを預ける選択が増えていく。
 広島はそれまで機能していた左サイドが難しくなる。渡が前線に張っていると、左WBの柏とのチェーンが分断され、柏がサポートがない状況でボールを受けてなんとかしなくてはならなくなる状況が増える(それでも白井相手になんとかできることもあったが)。
 この状況が変わったのが75分頃。広島は前線を渡とドウグラスヴィエイラの2トップ気味に、その下に森島と川辺を並べる形に変える。中央で札幌の選手と3on4、特に、局面的に、進藤に対し、それまで森島か渡のいずれかを見ている役割だったのが、両方が視界内に出現するようになり判断を狂わせる。柏に預けてから、森島か渡が進藤の監視をかいくぐり、白井の背後に抜け出すことを画策するようになる。
渡が2トップ気味の位置取りをすると進藤は渡と森島両方を見なくてはならなくなる

 83分に広島は川辺⇒パトリックに交代。札幌の最後のカードは84分、疲れの見えた菅に代えて石川。その交代直後、ルーカスが遅延行為で2枚目の警告を受けて退場。15年前の家本新喜劇を想起させる退場劇で10人での戦いを強いられる。

 パトリックの投入で、広島はサイドから放り込むパワープレー気味の選択にシフト。札幌は早坂を中盤に下げて5-3-1で跳ね返す。ATも含めた10分弱の時間経過中、セットプレーの流れからジェイが後ろに加勢するようになり期待通りの強さを見せる。かつてフェイエノールトのファン・ホーイドンクが同じようなシチュエーションで自分の判断でDFに入って跳ね返していたが、ジェイもやるべき時はやるタイプなのだろう。AT4分には柏のクロスからパトリックのヘッドが枠内に飛んだが、ソンユンが押えてゲームをクローズすることに成功した。

7.雑感


 「きれいなアンロペ」ことアンデルソン ロペスを欠くここ数試合の戦い方は、「点を取るために枚数をかけならがらもリスクヘッジを怠らない」というテーマになりつつある。その意味では、前節ガンバ戦よりもリスクヘッジはできていたように思える。ガンバには強力な2トップがおり、広島とは選手のタイプが異なることもあるが、その点においては向上を感じさせた。
 気になるのは開幕から続けている、ネガトラ対策のためにボール保持時に2バックや1バックにして中盤の枚数を増やすやり方。ミンテの背後を守るため異様に高い位置にいるソンユンだが、そのうちループシュートで狙われるのは必至である。

用語集・この記事上での用語定義

・1列目:

守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。
攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。

・質的優位:

※あとで書く

・チャネル:

選手と選手の間。よく使われるのはCBとSBの間のチャネルなど、攻撃側が狙っていきたいスペースの説明に使われることが多い。

・トランジション:

ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:

ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・マッチアップ:

敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

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