2019年4月14日日曜日

2019年4月13日(土)明治安田生命J1リーグ第7節 セレッソ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~真面目さゆえの二正面作戦~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、チャナティップ、アンデルソン ロペス、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、MF檀崎竜孔、白井康介、中野嘉大、早坂良太、FW岩崎悠人、藤村怜。何人かの「リリースがない負傷者」のうち、石川はこの試合の前に右ハムストリング肉離れで離脱中と発表された。他にも「隠れ負傷者」がいる中で、檀崎をサブに入れざるを得ない状況。リーグ戦前節とルヴァンカップに先発した4人(宮澤、菅、武蔵、福森)も揃ってスタメン起用されている。
 セレッソ大阪(1-3-4-2-1)、GKキム ジンヒョン、DF片山瑛一、木本恭生、マテイ ヨニッチ、丸橋祐介、MF松田陸、レアンドロ デサバト 、ソウザ、柿谷曜一朗、清武弘嗣、FW都倉賢。サブメンバーはGK圍謙太朗、DF山下達也、舩木翔、MF藤田直之、水沼宏太、西川潤、高木俊幸。メンバーは予想通りだが、蓋を開けてみると3日前のルヴァンカップで採用された4バックをリーグ戦では初めてスタートから採用、清武と都倉が中央の4-4-1-1に近い形だった。
 その他プレビューはこちら

1.ゲームモデルと基本構造


 具体的な試合展開を見る前に頭に入れておきたい事項を「1.」に示している。

1.1 互いのゲームモデル

・札幌
 リーグ戦ここ3試合は前半早めの時間帯に先制点を献上している。特に鹿島、大分との対戦では前掛かりになったところでカウンターを食らって突き放され、ゴール前を固められて攻撃でのクオリティが発揮できない展開。現状は(正直なところ、ゲームモデルとして欠陥大アリだが)早い時間に先制されるとかなり厳しい。
 よって、なるべく0-0のスコアの時間帯を長くして後半勝負という考えはあっただろう(進藤曰く「攻撃の話ばかりの監督が『今日は無失点で』と話していた」)。そのためには、まずネガティブトランジションを整備しつつ、そもそも簡単に相手に逆襲機会を与えないことを考える。相手にボールを持たせて引き気味に守備をすることでカウンターで殴られる機会を低減させる。

・セレッソ
 ゲームのコントロールを第一に考える。相手が得意な形、やりたい形を消す。ボール保持/非保持という観点で言うと、ボールを持てるならそれがゲームコントロールに寄与するので拒まない。(神戸のような)ボールを持ちたいチームなら、守備でしっかり相手の長所を消せていれば問題ないのでボールはくれてやってもいい、と柔軟に考えているのだろう。
 その上でウィークポイント(札幌の場合はカウンターに弱いのでそこを狙う)を突く。4バックの採用理由はいくつか考えられるが、①②中盤両サイドにMFを置けるのでカウンターがしやすい、③そもそも3バックに適したCBがいない(ヨニッチはいいとして、片山は本来CBではないし、左利きのCBがいない)といった理由があったと考えられる。


1.2 基本構造(セレッソのボール保持時)

1.2.1 セレッソの偽装と予め決めたとおりに守る札幌


 先述の通りセレッソは4バックだった(ボール保持/非保持とも)。これについて、札幌の選手はいつ認識したのか。筆者の結論としては、「前半はチームとしては気付いていなかった(何人か気付いていた選手はいたはずだが)」と考えている(ベンチは気付いていたと思うが、静観していたのだろう)。
 その根拠は、札幌がセレッソの3バックを想定すると、セレッソとのマッチアップは下のようになる(セレッソがボールを持っている時。札幌がボールを持っている時はお馴染みの変形をするので異なる)のだが、
札幌が想定していたマッチアップ(セレッソとミラーゲーム)

 セレッソの実際の人の配置は以下。対する札幌の守備基準は黄色の線で示された関係であり、4バックで本来噛み合わせが悪いセレッソに対し、そのまま3バックの(ミラーゲーム状態の)マッチアップを適用していた(セレッソの前4枚に対してはやや流動的だが、3バックと菅の計4人で近い選手を捕まえる、と考えてほしい)。
 セレッソの布陣は、これまでの3バックから、最終ラインの3枚を右にスライドさせ、丸橋を1列下げた「左肩下がり」の状態。札幌の右、ルーカスは守備対象である丸橋が1列下がるとかなり距離が開いた状態になるが、それでも丸橋にボールが渡ると(まるで丸橋が3バックのWBであるかのように)アタックを繰り返していた。
実際のセレッソの人の配置とマッチアップ(ミラーゲームではないが札幌のマッチアップはそのまま)

 俯瞰的な図で示すとこのような状況になっている。ただ、ルーカスはこうして丸橋にアタックする仕事以外にも本来5バックの右サイドを守る仕事がある。
ルーカスは距離が離れた丸橋に対応する仕組みがそのまま残っている

1.2.2 ルーカスの二正面作戦


 その、札幌の「5バックの右」の外側には柿谷がしばしば出没する。そうなるとルーカスは、「丸橋も見るか、大外も見るか」という判断を強いられる。
 試合中、何らかチームで確認や話し合う機会があれば、例えばルーカスを1列前に上げて札幌も1-4-4-2にするやり方が考えられる(札幌のコンセプトを考えるとこれが一番妥当なので、そうした割り切りは十分検討の余地がある)。もしくはルーカスと進藤で調整をして、柿谷は進藤が見るのでルーカスは丸橋が持ったら全部行っていいよ、とするやり方もあるが、この試合、前半はタイムアウト的な機会が殆どなかったこともあり、ベンチから具体的な指示がなければピッチ上の選手たちで決めたり話し合う時間もなく、セレッソの形は想定とは違っていたにもかかわらず、「予め決めたとおりに守る」事態になっていたのだと考えられる。

 しかしながら、このシチュエーションで「何もやりとりがなかったので、予め決めたとおりに守る」は危険な状態でもある、例えば丸橋がオープンになっている時、ロペスがそれを気にして丸橋にチェックに行くと木本がフリー、木本がフリーになると宮澤が一列ジャンプして木本を捕まえるが、ソウザがフリー…のように芋づる式に守備がズレる事態はサッカーではよくあること。4失点を喫したアウェイでの名古屋戦も、そうしたギャップやズレから崩される場面が散見されている。

 そうした懸念をよそに、ルーカスの判断は、「丸橋も見るが、大外も見る」だった。下の図のように中間ポジションを取り、丸橋にも柿谷にもどちらにも対応できる構えを見せ、特に丸橋へのアタックは前半を通じて続けていた。そしてロペスは「丸橋は自分の仕事ではないので放置」だった。この個人の判断が”たまたまうまくかみ合う”ことで、右サイドでギャップが生じることは前半殆どなかった。(※現地で、この2人や他の選手が話し合う場面を見ていた人がいたら教えて下さい。)
 加えて、ルーカスの隣もしくは背後を守る進藤のサポート(実際はルーカス1人で2人を見ることは不可能なので、柿谷の背後を取る動きは殆ど進藤がカバーしていた)。もあり、4バックと3バックのかみ合わせによるギャップによる問題が大きくなることはなかったことが前半のポイントだったと思う。
真面目なルーカスは2つの仕事を担当しようとするので結果的に半端な(≒危険な)位置取りになる

1.3 基本構造(札幌のボール保持時)


 札幌のゴールキックでリスタートする際等、札幌が自陣深くでボールを保持する時の状況を示す。
 セレッソの人の配置は以下のようになっていて、柿谷が1列前に上がり、都倉と清武と組む形で3枚で守備をする変則的な形をとる(このシチュエーション下で、後方は何度確認しても4枚になっていた)。これが、札幌がセレッソが3バック(1-3-4-2-1)だと誤認する理由の一つだったと思われる。
 宮澤はスタート時は中盤のポジションを取ろうとするが、セレッソが3枚で守備をしてくると後方でのボール保持が難しくなるためキム ミンテと深井の間に落ちることが多くなる。
札幌の後方のボール保持には前3枚で圧力

 これは、セレッソが3バックだと想定していたとしたらある種の”矛盾”ではある(セレッソが3枚で守備をしてくると枚数が足りなくなるのはわかりきっているので、宮澤を中盤で使いたいなら、進藤を中央のビルドアップに加えるなど、別の策を初めから考えておくべき)が、その辺は臨機応変に、というか様々なシチュエーションを想定していた中で、何らか解決できるだろうと、そこまで重要視していなかったのかもしれないが。
 セレッソに前から守備をされると、札幌はク ソンユンに戻して放り込む局面が多かった。このセカンドボールがどちらに転がるかでかなり試合展開や難易度が左右されるのだが、ヨニッチと木本のコンビに武蔵とロペスは予想以上に善戦していたこともあって、それなりに攻撃機会は作れていた。

2.セレッソのボール保持の設計と狙い


 前半はセレッソボールのキックオフで始まる。このキックオフ直後のみセレッソは見かけ上3バックに”擬態”していたが、以降はボール保持、非保持ともに4バックでプレーする。
 セレッソのボール保持は左右で設計が異なっている。この設計を考察すると、4バックの採用および丸橋のSB起用の理由が透けて見える。

2.1 右の菱形ビルドアップ(1)


 下は6:00頃の局面。セレッソのボール保持から、ヨニッチがドリブルでハーフスペースを前進したとき、ヨニッチを底、清武を頂点としたスクエアが形成されている。これは人の配置は微妙に違えど、プレビューで書いた形と同じ。
 札幌はこれに対し、予め想定していたマッチアップ通りに人を捕まえて対応する。この局面では札幌がしっかりマークを特定していることもあり、特に何も起こらない。
ヨニッチが起点になり右サイドで菱形ビルドアップを開始

2.2 右の菱形ビルドアップ(2)


あらゆるプレーには狙いがある。例えばマンチェスターシティのボール保持は、一言でいえば大外のウイングにいい形(仕掛けて、勝てば1点もののラストパスが出せる、等)でボールを渡すことにあるし、バルセロナならメッシになるべくいい形でボールを渡す、等と言えるだろう。
 セレッソの狙いが現れていたのが次の12:40~の展開。この時はスクエアの底はデサバトだが、プレーの開始位置は先に見た6:00の局面と同じく「ハーフスペースの入り口」。違いは、流れの中で松田が低い位置におり、スクエアが形成されていない。ここでデサバトが松田にパスをすると、
菱形を作る過程

 セレッソの各選手はこのように移動する。松田はドリブルしながら、ブランクになっていたスクエアの頂点(セレッソから見て左、札幌から見て右)に移動。しかしここにはソウザが現れるので、松田はスクエアを再び移動する。一方清武は、片山と入れ替わる形で、スクエアのタッチライン側の頂点に移動する。片山は松田と被っていたこともあり、別の頂点への移動を模索するが、全て埋まったのを見て縦に抜ける動きをする。
 このように立ち位置をスイッチするが、このスイッチがスムーズ(移動した後、被る選手がいない)なのは、どのシチュエーションが生じるとどこに立つかを決めているため。このプレーは恐らくハーフスペースの入り口でヨニッチやデサバトがボールを持った状態が合図になっていて、流れの中で人の流動はあるが、必ず誰かが、残りの3つの頂点に立つことが意識されている。
菱形を作りながらボールを動かしオープンな選手を作る

2.3 右の菱形ビルドアップ(3)


 狙いについて。
 札幌はこの時、セレッソのスイッチに効率よく対応するために、予め決めていたマーク関係を選手個々の判断で崩しながら(札幌もスイッチしながら)対応する。その関係は上の図の右下にテキストで示した通りだが、このスイッチを予め決めておくことは不可能なので、都度判断していることになる。
 となると、人間の認知と判断には限界があり、頭がついていけなくなる人が出てくる。自分たちは人やボールの移動のパターンを決めておくことで迅速にアクションを起こし、相手にはそれをさせないことで、個々の選手が攻撃でのクオリティ(ドリブル、パス、シュート、その他の正確なプレー)を発揮するために必要な時間や空間を得る。
オープンな選手(松田)が勝負

 この場合は、役割をスイッチした松田と福森のマッチアップで時間と空間が生じる。福森は初期配置では清武を見ていたが、清武のマーカーが深井に切り替わると、自身はどの仕事に切り替えればいいのか一瞬判断が鈍る。我々が観戦者として俯瞰視点で見ていると、それは松田をマークすることだとわかるが、福森視点では、松田はアウトサイドの選手(この時点でセレッソが4バックだと気付いていなければ更にこの認識は強まる)であることや、松田が中央のレーンに一度移動してきたこと等、様々な要因があり、福森が松田をマークする仕事に切り替えるのにタイムラグが生じてしまう。
 この時はオープンになった松田が裏に抜け出しクロスを狙う(ミンテのカバーリングで火消し)。こうしたオープンな選手を作って攻撃することがセレッソの右サイドの狙いである。

2.4 左からの前進


 一方セレッソの左サイドではこうした4~5選手が絡むパターンが見られない。左サイドは右サイドに比べ、関わる選手とその役割や立ち位置が固定的である。ボールの供給役は左利きの左SB丸橋。丸橋がボールを持つと、柿谷はタッチライン際に張る。恐らく柿谷でルーカスをピン止めする想定だったのだと思うが、「1.2」に書いたように札幌の決めていたマッチアップではルーカスは丸橋を見る。
 よって柿谷が進藤を引っ張ることになり、(セレッソとしては予想以上に)札幌の中盤センターの周囲にスペースができる。ここに清武か都倉が登場してのポストプレー、ソウザがサポートしてボールを落ち着かせ、前を向いてボールを触る状況を作ることがパターンになっていた。
左サイドではシンプルにボールをリリースし楔のパスを狙う

 ロティーナとしては、3バックで右から片山、ヨニッチ、木本だと、右サイドでは組み立てや前進ができるが左では難しい、となると左サイドにも左利きのDFが必要だが、セレッソのCBタイプの選手には適任者がいないのでSBの丸橋にその役割を担わせるために4バックを採用したのだと思われる。

3.札幌のボール保持の設計と狙い

3.1 セレッソの中央圧縮守備


 札幌がセレッソ陣内に侵入した後の展開について。
 どうやってセレッソ陣内に侵入していたかについては図解は割愛するが、一つは「1.3」で言及したように武蔵やロペスへの放り込み。もう一つは、セレッソの攻撃を自陣で守った後のポジティブトランジションで、この試合はチャナティップがセレッソ右サイドの攻撃に対応するために低い位置まで下がることが多かった。このチャナティップのドリブルが運び役となって(2017シーズンの働きに近かった)、セレッソ陣内に前進する機会が何度かあった。

 札幌がセレッソ陣内に侵入してきた時のセレッソの陣形は4-4-2。特徴は、大外は殆ど捨てているかのような、横に圧縮したブロックで中央に密集して守る。札幌は福森からの展開が多い(後述)が、この時セレッソは反対サイドのルーカスはほぼ放置。福森の斜め前方にいる菅は、ボールが入れば中央を切る体の向きと共に片山か松田が寄せていくが、ボールが渡るまでは菅の周囲にかなりスペースを与えた状態で構えている。
 その分、中央では武蔵、ロペス、チャナティップが活動するスペースを奪うように縦横に圧縮したブロックを組む。考え方としては、互いの選手のクオリティを考えると、中央で守り切れるなら多少サイドはやられてもいい、という認識だったのだろう。
セレッソは中央圧縮で対抗

3.2 徹底されるリスク回避と中央でのレイオフプレー


 セレッソは「2トップの脇」都倉と清武の隣に福森やキムミンテがボールを持って前進してきた時に、ボールホルダーに対してさほど圧力をかけない。そのため、札幌は「3.1」に示したようにアウトサイドの選手がフリー、ボールホルダーもさほど圧力がかかっておらずボールが供給できそうな状況ということで、ルーカスや菅が両手を挙げてボールを呼ぶ光景が多くなる。
 しかしこの試合の札幌は、このルーカスや菅を狙った「相手のブロックを超えるボールでのサイドチェンジ」を回避することを徹底していた。これは、ビルドアップ段階でのサイドチェンジが相手に引っかかりボールを失うと、一気にカウンターが発動することのリスクを避けていたのだと思われる。かつてザッケローニもサイドを変えることに消極的だった(が、「通訳日記」にある通り中心選手との話し合いでその方針は覆った)こととも考え方は共通する
 ルーカスが手を上げていたのは、そのリスクと天秤にかけた時に、リターンの方が期待値が大きい(ルーカスのサイドは完全に放置されていたので、普段の福森のキックなら問題になることはないだろう)というルーカスの判断だったのだろう。それに対し、福森や進藤が普段とは異なり殆どサイドチェンジを狙わなかったのは、チームとしての約束事だったと考えられる。

 サイドを変えない札幌の攻撃パターンは下図である。7:16は深井、チャナティップ、福森でボールを動かし、菅を浮き球のパスで走らせる。
チャナティップに当ててから同じサイドで展開

 15:17頃にも福森から、中央へのダイアゴナルな楔のパス。ボール大好きアンロペちゃんが珍しくスルーし、ルーカスに渡った。
チャナティップに当てて中央で相手を動かしてから展開

 この2つに共通しているが、引いてくるチャナティップにボールを一度当てるところから攻撃が始まっている。この意味は中央でチャナティップが引いてくると、そのマーカーである相手のMFを動かすことにつながる。7:16はデサバト、15:17はソウザがチャナティップについていくが、このプレーを繰り返すと、セレッソが閉じている中央レーンから人が動き、選手間が空く、もしくは空いた選手をカバーするためにブロックが更に収縮され、その脇のスペースが大きくなる。

 15:17はブロック内の選手に縦パスを供給しているが、この中央を縦貫するプレーもサイドチェンジと同様に、相手に引っかかりボールロスト、のリスクをはらんでいる。そのため、縦パスを狙う前にまず相手の中央のMFを動かしてから狙う、という準備をチームとして、していたのだろう。
 前半、福森やキム ミンテが何度か狙った縦パスは味方に合わず失敗が多かったが、その要因の一つに、イージーなコースは避けて難しいコースを狙っていたことも挙げられる。このことからも、一つ一つのプレーの選択の背後のリスクを、この試合ではかなり考慮したうえで実行していたと言える。

4.前半途中からの変化


 序盤は引くことでセレッソにボールを持たせた札幌。しかし「2.」で示したようなパターンをセレッソは持っているので、引くだけだと分が悪そうだと判断したのか、15分前後からは守備開始位置を高く設定するようになる。
 ヨニッチが低い位置でボールを持つと、武蔵が守備開始位置をそれまでよりも高く設定し、簡単に前進・展開させない。加えて、ハーフスペースの入口にデサバトが登場すると、深井も武蔵と同様にそれまでよりも高い位置で守る。これにより、セレッソは菱形でボールを動かすことがそれまでよりも難しくなる。
起点となるハーフスペースの入口を深井が封鎖

 よって、セレッソはよりシンプルな、片山が大外をオーバーラップする形が多くなる。これはチャナティップを押し込めるからOK、とされていたのか、消極的な選択だったのかは微妙なところだが、とにかくシンプルな展開が目立った。
起点を封じられると菱形ビルドアップは諦めて片山が大外を爆走

5.後半からの変化


 ハーフタイムを挟んで両チームの認識がアップデートされ、互いにやり方を変えてくる。試合展開から、セレッソのロッカールームでは「あいつら4バックなのに気にせずマンマークでついてくる」、札幌側では「セレッソは4バックだからルーカスの二正面作戦状態では危険」というやりとりがあったと予想する。

5.1 セレッソの認識のアップデートと丸橋の攻撃参加


 後半のセレッソはまず丸橋の攻撃参加が目につく。下の48:40頃、51:10頃、51:43頃、53:21頃、54:11頃と続けて5度、柿谷を追い越している。これは前半全く見られなかった動きで、ハーフタイムが影響していると思われる。選手や監督のインタビューでは具体的に語られていないが、前半の札幌の右サイドはルーカス1人+進藤という状況で、ロペスの守備関与は全くなかったため、丸橋の攻撃参加が効果的だと判断したのだろう。
丸橋の攻撃参加

5.2 札幌の認識のアップデートと5-4-1守備へのシフト


 一方の札幌。セレッソが4-4-2でサイド2枚の陣形のため、後半頭から守備のセットを5-4-1に変え、こちらもサイドを2人で見れるようにし、ルーカスの二正面作戦を解消する。ロペスが下がって対応することが増えたのはこのため。
サイドを2人で守れるよう5-4-1にシフト

 これらに付随して増えた現象が二つある。一つは、札幌が5-4-1にしてスペースを消したことでセレッソは札幌のブロックを動かす必要が出てくる。その解決策は都倉をスペースに走らせての放り込み。前半は非常にマッタリしていた都倉とキム ミンテのデュエルが後半増加したのはこのため。
中央にスペースがないので裏に走って人を動かす

 もう一つは、丸橋の攻撃参加が典型だが、人が動くことでスペースができ、特に札幌のカウンターの機会が生じる。アンデルソン ロペスと丸橋のマッチアップとして考えると、丸橋は時に最前線まで攻撃参加するが、ロペスはそこまで戻ることはない(味方と役割をスイッチして自分は前に残る)。セレッソは丸橋が空けたスペースをカバーする選手を置かない。ソウザやデサバトは、後半は中央で展開に関わるプレーが増えていたが、これは左サイドを使う時に、木本をサポートする意図もあったのだろう。
丸橋の攻撃参加と共に裏にスペースができる

 オープンスペース大好きなロペスの前方にスペースができたことで、札幌がセレッソの攻撃を守るとカウンターが発動する。これも前半にはなかった展開である。
 加速装置・ロペスにボールが集まるようになると、攻守の切り替わりが速くなり、後半は徐々にオープンな展開の様相を帯びていく。特にセレッソは、柿谷と松田の運動量低下(ブロックに加われなくなる)が目立った。

6.勝負の時間

6.1 両チームの選手交代


 66分、札幌はルーカス フェルナンデス→中野に交代。これは守備面で、丸橋の攻撃参加の増加に伴いより確実な対応ができる中野を入れよう、という意図だろう。ルーカスはオープンな展開になり、ようやく持ち味が発揮できる時間帯かと思ったが、厳しい交代だったかもしれない。
 これを見たセレッソは69分に清武→高木に交代。柿谷をトップに移す。ロティーナはテクニカルエリアの目の前で繰り広げられる、柿谷の運動量低下は確実に認識していたことだろう。それでも柿谷は外せない選手なのかもしれない。また、左サイドを続けて狙うとしたら、柿谷も丸橋もボールを持った状態での仕掛けはあまり期待できないので、ドリブラーの高木で解決するという考えもあったと思われる。
69分~

6.2 勝負どころの見極め


 札幌は”ボールを失わないドリブラー”、中野にボールを集めるとともに、65分前後から進藤と福森の攻撃参加が増える。
 セレッソの両翼が松田と柿谷の時、進藤と福森の攻撃参加についていくことはかなり厳しそうで、左サイドに高木、右サイドに水沼が投入されることでその問題は一部解消されるものの、セレッソの全体的な運動量低下もあって、DFが攻撃参加することのリスクはかなり低減された状態。札幌が押し込む展開が多くなり、都倉は前線で孤立する。4-4-2でバランスが良いはずのセレッソだが、前で1人残る都倉に蹴るしか陣地回復が難しい状況になっていた。
セレッソの運動量が落ちた時間に札幌のDFの攻撃参加が活発になる

 そして79分、セレッソの立て続け3度のセットプレーを凌いだ札幌が、アンデルソン ロペスの突進からコーナーキックを得る。進藤曰く「決めていた」というファーサイドを狙ったボールに進藤が合わせて札幌が先制

6.3 終盤の展開


 84分、札幌は菅→中野に交代。セレッソは同じタイミングで丸橋→西川に交代で3バックにシフトする。
84分~

 最後はセレッソもミシャ式のような形(ソウザとデサバトが組み立て、木本が攻撃参加する)でスクランブルアタックを仕掛けるが凌いで札幌が逃げ切った。

7.雑感


 ロティーナとしては、札幌は4バックの相手と対峙したときに生じるギャップの解消が難しいため、そこを突いていこうという考えがあったと思われる。ただ、札幌が前半45分を、まるでセレッソとマッチアップが噛み合っているかのような振る舞いを続けたことは予想外だったのかもしれない。だとしたら、丸橋と柿谷のサイドで生じるギャップを、ハーフタイムに修正されるうちに突いておきたかったところである。
 札幌は何度目かの「絶対に負けたくないミシャモード」が発動し、特にボール保持時の警戒の入念さはこれまでにないレベルだった。いつもそれくらいの緻密さでやればもう少しポイントを稼げるのでは?と思うが、このスカッドに適したサッカーかというと微妙であり(このサッカーを続けるならルーカスを先発で使う意味はない)、今後もしばらくは最適解の模索が続きそうではある。

用語集・この記事上での用語定義

・ゲームモデル:試合の基本的な進め方。「チームとしていかに戦うか」。チームの哲学や理念、選手特性等、あらゆる要素を包含して作られる。

・守備の基準:守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。

・(ポジションの)スイッチ:配置を入れ替えること。

・デュエル:ボール保持者とそれを守る選手との1対1の攻防。地上戦、空中戦、守備技術、スピード、駆け引きetcあらゆる要素を含む。

・トランジション:ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・マッチアップ:敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

・レイオフ:ポストプレー等の際に、自分より後方の選手にボールを落とすプレーのこと。

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