2025年8月23日土曜日

2025年8月23日(土) 明治安田J2リーグ第27節 ヴァンフォーレ甲府vs北海道コンサドーレ札幌 〜建前と本音の使い分け〜

1.スターティングメンバー



  • 甲府は前節から、右CBにヘナトアウグスト→土屋に戻してきました。夏のマーケット後半に宮崎が徳島に移籍しましたが、彼がシーズン序盤に務めていた右SBは前節は佐藤→今節は初スタメンのミカエル ドカ。
  • コンサはGKとCBは同じ。中盤センターに高嶺が復帰し、WBは原・青木から白井・パクミンギュへと両方入れ替えてきました。前線はバカヨコがメンバー外でマリオ セルジオが初スタメン。シャドーには長谷川。

2.試合展開

要するに死んだふり作戦だな:

  • 基本システムはお互い、ボールを持っている時に1-3-4-2-1、自陣で撤退する時に1-5-4-1か1-5-2-3に変形するオーソドックスなもの。
  • ただ、試合が始まると、甲府は前半の開始早々から、コンサがボールを持っている時にボールホルダーに対してほとんど寄せて来ない。コンサとしては余裕でボールを持てる状況でスタートします。

  • この際、コンサ陣内にボールがありコンサのDFがボールを持っている時は、甲府の陣形は1-3-4-2-1…つまりWBが下がって5バックにならない状態でいるのですが、↓のようにWBの背後が空いている。コンサはここに自陣からロングパスを蹴って、WBの白井またはパクミンギュを走らせることで前半だけで計5-6回くらいは甲府のWBの背後を取って敵陣に入ることができていました。
  • 普通このくらいWBが高い位置にいるなら、まずそもそも高い位置を取る意味があるというか、コンサの選手がボールを持っている時にプレッシングを仕掛けてくると思うのですが、甲府はそうした素振りを見せない。
  • そして背後のスペースが空いているのも誰が見てもわかるので、そこにパスが出てくることをある程度予測してサイドのDFの選手がスライドしてカバーできるようにしておくとか、なんらかの準備をしておくことが多いかなと思いますが、そうしたカバーリングも見せないので、甲府は基本的にここはWBが個人で対処するという決め事だったのかと思います。

  • ただ右WBで先発したミカエル ドカが、対面のパク ミンギュに背後を取られる形から30分に2点目を献上しスコア0-2となったのちに、37分でピッチを後にしますが、まず甲府はこのワイドでの対応がうまくいかず、大塚監督もハーフタイムを待たずに交代カードを切らざるを得ない状況に陥ったと見てよいのではないでしょうか。

  • また甲府はセット守備の時の前線守備の開始位置が、前半はFWの内藤がセンターサークル内くらいからスタート。シャドーのマテウスレイリアと鳥海は2列目として1-5-4-1の「4」を形成していてなかなか前に出て来ないので、コンサとしては、特に頭を使わなくても甲府陣内には容易に侵入できるシチュエーションからスタートすることも少なくありませんでした。
  • 正直なところ2025年のJ2で、最初からここまで徹底的に、ボール非保持の時に自陣に撤退してくるチームはおそらくこの甲府が初めてだったかと思います。
  • コンサが前回J2にいた2016シーズンは割とそういうチームが何チームかありましたが(それらの大半はJ2のカテゴリを維持できずJ3にいます)、4ヶ月前にドームでここまで極端なやり方をしなくともコンサに勝っている甲府がこうした出方をするのは驚きではありました。

  • ただ試合開始時の気温が31.7°、湿度45%(と記録ではなっていますが、今検索した感じではおそらくもっと高い)。本州の8月はもうサッカーできない気候ということで、甲府は前半は死んだふり作戦というか、0-0で乗り切って後半に交代カードを切って勝負するイメージだったのだろうと推察します。

「何をすればよいかはっきりしたサッカー」:

  • ↓の質問で、コンサの選手が「何をすればよいかはっきりしたサッカー」みたいなことを言っている、との指摘があり、そのような事実があるのか私は確認できないのですが、この試合はまさにコンサの選手にとって「何をすればよいかはっきり」している状況なのかもな、と思ったのでこのフレーズを引用します。

  • 「モダンフットボール」と呼ばれるもの以前のフットボールが、FWは守備に参加しないで八人、場合によっては4人で守っていたりして、お互いの前線に簡単にボールを届けてシュートチャンスを作れるようなものだったとするなら、モダンフットボールはまず守備が整理されて簡単に前進できない状況を前提として論じられるものであり、その根幹を成すのはプレッシングとビルドアップかなと思います。

  • つまりどのチームもビルドアップ…いかに前線の選手にボールを運んで得点チャンスを作るか、と、プレッシング…相手のそれをいかに阻害するか、は必ず用意しておかねばならないとして、ビルドアップに関しては色々なやり方や考え方がある。
  • ボールや人の動かし方についてパターン化するというかオートマティックにやっていくものと、そこを決めきらず都度ピッチ上で選手が判断する余地を作るものがやり方としてあるとして、ちょっと前までコンサは後者が重要だとする監督の指揮下にありましたが、要するにコンサの選手だと考えながらアクションするのが難しいので、考える余地をもっと削ってほしい、ということが「何をすればよいかはっきりしたサッカー」という表現なのかな、と理解しました。

  • さて、この試合に関しては、冒頭に書いたように、甲府が最初から自陣に撤退することが多かったし、撤退していない時はWBのところのマーキングが甘い。
  • だからこのようなチーム相手なら、例えば「中盤で自分がボールを持った時に甲府の選手はいつどこからプレッシングに来て、その際誰が連動してコンサの誰にアプローしているか、コンサでフリーになる選手は誰か」みたいなことをいちいち考えなくても簡単に敵陣に入ってプレーできる。
  • 要するにビルドアップとか考えなくてもいいわけです。やることがはっきりしているというか、こちらから能動的にアクションしなくても甲府がドアを開けて札幌さん、甲府陣内でどうぞプレーしてくださいと言っているようなものです。

  • そしてホストの甲府によって45分間、非常に快適にプレーさせていただいた中で17分と30分に得点を奪って先行します。
  • 17分のゴールは、コンサの右シャドーのスパチョークが引いて、対面のDFエドゥアルド マンシャを引きつけた背後に長谷川が飛び出して、長谷川にマンツーマン気味についていたDF土屋のクリアミスを誘って…というところでしたが、これもDAZN中継の限界でピッチで起きていることの全容はわからないのですが、おそらく浦上から、長谷川ではなくマリオを狙ったフィードだったのではないかと思います。左シャドーの長谷川がここまで横断してくるのはちょっとイレギュラーに思えるからです。(長谷川の話で浦上とイメージ共有はしていたらしいですが)
  • ただそうしたプロセスは現在ボトムハーフのコンサとしてはどうでもいいところもあるので、長谷川がうまくセカンドアクションをとってマリオにアシストした、前線の2人の見事なプレーということでいいかなと思います。



  • 30分のゴールは、見切れていますが直前にコンサが自陣からパクミンギュへロングフィード、これに甲府のDF土屋がかぶってしまい、パクが独走、ボックス内左からGKと1v1になるもパスを選択…という場面がありました。
  • おそらく直前に撃てるのに撃たなかったのもあってパクが”2回目”は思い切りよく撃てた、ということと、まず”1回目”に背後をとったプレーも、甲府としては右WBのドカがずれていて土屋がスライドしたところから始まっている。
  • 2回目のクロス対応(ポジショニングの修正が遅く長谷川に競り負けている)も含めてドカの対応はかなり怪しく、そこがスコアに表れた印象は否めないかと思います。

誰がボールキャリーするか:

  • スコア0-2となっても甲府のテンションというかスタンスはあまり変わらない。それまでと同じく自陣に撤退しての対応が主でした。
  • 甲府はゴールキックなどでマイボールになった時に↓のような配置をとることがあり、右シャドーの鳥海が下がって中盤の枚数を増やして、左シャドーのマテウスレイリアはより前で待っていて前方向に突進するイメージだったのかと思います。
  • 前半、甲府がコンサ陣内でプレーした機会の多くは、3,4回ほどあったマテウスレイリアの突進から。
  • 正直なところ富山でプレーしている姿を昨年見た時は、そこまで印象に残らない選手でしたが、甲府がこれだけ自陣に引いてプレーする状況で、誰かがボールを運んだり敵陣に入っていく役割を担う必要がある中でキーマンではあったと思います。
  • 35分の、スコア1-2となる鳥海のゴールも、自陣でのクリアを内藤がセンターサークル内でマイボールにし、拾ったマテウスレイリアの突進から。コンサは髙尾、高嶺が戻って対応しますが彼の突進にアタックできずズルズル下がる対応しかできず、ボックス付近で長い距離を走ってきた鳥海がトップコーナーに突き刺すミドルシュート。

  • 甲府は鳥海も内藤もあまり足が速くなさそうで、普通これだけDFラインが低いと前線に速い選手が必要になるかと思いますが、そこも適した選手がおそらくいないので、こうした戦い方になっているのかと推察します。

死んだふり作戦をやめてからが本番 だが…:

  • コンサは序盤から長谷川が甲府のDF(主に対面の土屋)に1人で、マリオやスパチョークとは別段のテンションで圧力をかけ続けていましたが、後半になると長谷川も疲れを見せ始めます。
  • 後半に入って、甲府が死んだふり作戦をやめてボールを着実に前に動かそうとしてくると、コンサのルーズな1列目が問題になって、甲府はコンサの1列目を長いパスで突破したり、コンサの1列目のプレスバックが鈍いことでWボランチ付近に生じるスペースでボールをキープする、前半とは異なる展開も少し見えてきます。

  • ただ、ボール保持はそのように徐々にアグレッシブにしていくとして、甲府がビハインドの展開で、コンサがボールを持っている時にプレッシングを仕掛けてボールを回収、という局面に関してはほぼ用意されていないというか、シンプルにコンサが3人のDF+GK高木+下がってくる荒野、といった5人で自陣ボックス付近でロンドをしている時に、甲府はプレッシングに参加している選手が2人とか3人で、まず根本的に枚数が足りていない時間が多かったと思います。

  • 61分にコンサが長谷川→近藤のカードを切り、近藤が右WBに入り、このシーズンこれまでの試合と異なりワイドに張るようになると、甲府は近藤の裏抜けを気にして左WBに投入された小林が高い位置を取りづらくなる。
  • ここに近藤を1人で見れるような選手がいたら甲府は前でプレッシングを仕掛ける人数を増やせたのでしょうけど、それはおそらくないものねだりなので厳しい展開は続きます。68分に三平が入って年齢を感じさせないエネルギッシュな走りを見せますが、それでも人数不足は解消できませんでした。

  • コンサは75分にスパチョーク・白井→田中克幸・宮澤で中盤に3人(荒野、高嶺、宮澤)または克幸も入れて4人が並ぶ形でクローズに入ります。
  • 甲府はこれを見てようやく枚数のバランスを変える交代…80分に鳥海・土屋→大島・遠藤 としますが、中央とゴール前の枚数を増やしたコンサが難なく逃げ切り1-2で勝点3を得ることとなりました。

雑感

  • 柴田監督の2戦目は書いた通り、甲府の出方にかなり助けられた感がありました。
  • ただ、上司から「ミシャさんのような攻撃的なサッカーを」と言われて、ミーティングでもミシャの名前を何度も出していたにもかかわらず、また使える選手としてワイドに宏武や近藤がいた中で、スタメンの右に白井、左にパクミンギュとよりバランスの取れる選手を起用しているし、前監督時代に使えるもの(長谷川の前線起用や西野の移動、ポケットを取る攻撃など)は余さず利用しているし、終盤も選手交代によって明確なメッセージを選手に発しているように見える。
  • これらに関しては、建前と本音の使い分けというか、上司が言っていることをわかったふりをして無視している感みたいなのを感じました。
  • 世の中ノイズとなる情報や人は多々ある中で、それらを無視することは重要なスキルかと思います。もし監督がそうしたことを意識的にやっているとしたらポジティブな要素かなと私は感じます。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿