1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 日程的にはコンサが3日前の日曜日にホームでvs今治を消化し、この試合から中2日で藤枝でのアウェイ。大分は日曜日にホームでvs秋田、同じく中2日で徳島とのアウェイゲームを控えます。
- 必然と両チームともターンオーバーですが、ざっとメンバーを見ると大分の方がリーグ戦でスタメンで出ていない選手が多いかもしれません。スポーツナビの表記と異なる点は薩川がシャドーで茂が左WBでした。
- コンサはトレーニングでも試されていた田中宏武が右SB、木戸が左SH。
2.試合展開
いくつかのアシンメトリー構造と変え難きボトルネック:
- コンサのボール保持は、システム1-4-2-3-1を基本として、左SHの木戸が最初から中に入ってくるような形。
- 対する大分は、1-5-4-1でセットして右シャドーの佐藤が前目で西野に対して早めに出て行く形で、家泉はFWの鮎川が、中央のスペースを管理しながら家泉も見るという対応。
- ですので西野と家泉ならば、家泉によりボールを持たせようとの誘導の意図を感じました。
- 大分はコンサに対して1列目も枚数も揃えず、陣形もそこまで押し上げて来ないので、コンサとしてはとりあえずGKとDFでボールを保持して動かせる状況が前半の、少なくとも30分くらいまでは続きます。
- ただコンサは家泉はいつものこと、西野は前に佐藤が立っているので無理はしない、となるとCBから前方向にパスが出てこない。
- CBがSBに横パスしたとして、両SBが田中宏武と岡田ですが、この2人は自陣の”ゾーン1”で相手と駆け引きをするというかはゾーン2以降で仕掛けたりすることが持ち味の選手だからか、横パスを受けたこの2人からも前方向への前進の形が見られることはなかったと思います。
- そして前半途中から、大﨑や荒野が下がって岡田が前に出ていく形が増えていきます。
- おそらく左SHが木戸なので、岡田が左の大外で前に出て行くイメージはあったのでしょうけど、大分の右シャドー佐藤が西野を主に見ている状況でしたので、岡田がおそらく西野にもう少し近くいところで待っていれば、大分は佐藤1人で岡田と西野を見る形になってここで1人どちらかがフリーになれたので、岡田がいきなり攻撃参加してしまうとコンサの左サイドでの配置的な優位性は消失してしまいましたし、西野の相手を引きつけて配球する能力も、受け手がいなくなったことで活きない展開になりました。
大﨑監督健在:
- 中央では大﨑が周囲の選手に細かく指示を出すことがこの日も目立ちましたが、おそらく大﨑のイメージというかプレービジョンは「ボールポゼッションの最初の段階ではあまりポジショニングに個人のアイディアは必要なくセオリー通りのポジショニングをしよう」、「まずセオリー通りにボールを動かしてから変化をつけていこう」という考えなのだと思います。
- 一方で岩政監督は「あまりポジションにこだわらなくて良い、固定せず入れ替えて良い、ただし全体のバランスや機能性が担保される”仕組み”を作りたい」、とする考え方で、個人的にはこれは大﨑とは考え方がやや異なると見ています。
- 一般に、ポジション移動が多くなると走力が必要になりますし、また相手のプレッシャー下で移動しながらボールを扱うとなるとハイインテンシティで強度を要求されます。
- ですのでベテランで、元々そこまでクイックな選手ではない大﨑が、岩政監督の考えよりも移動が多くないプレースタイルで考えているのは合理的というか理解できるものでもありますし、コンサはDFとFWの編成ミスがよく指摘されますが、MFもそもそも岩政監督の理想に合致しないスカッドになっている(宮澤、深井、馬場、故障を抱える荒野…あまりクイックな選手がいない)ことは頭に入れておく必要があります。
- 話を戻しますが、大﨑がよく指示をしていたのは、家泉が右CB、西野が左CBの配置で我慢すること。この2人が大分の鮎川と佐藤を引きつける。
- 同様に田中宏武は右SB、出間は右シャドー、中島はFWで動かず待って、まず大分のDFのマーク関係を”あえて”明確にさせてから、その大分の対応が追いつかないところを突いていこう、とする考え方かと思います。
- そうすると例えば↑の岡田のところに大分はマークが手薄になることがわかるし、大﨑と荒野が中央の小酒井と松岡を引きつければ木戸がその背後で浮きやすいという構図であることがわかる。
- ここでいう「わかる」とは我々は俯瞰視点(あのスタジアムだと俯瞰というほどでもないですが)で見ているので理解が容易ですが、ピッチ上の選手の視点でもそのうち構造に気づけるので、まずそこを意識しようとのことだと思います。
- ただ、大﨑が指示を出して都度動かせる範囲や範疇には限界があります。自分自身も大分の松岡や小酒井に監視されながらボールを扱ったり(それこそ木戸や出間に配球すうるとか)、逆にそれらの選手をケアする必要があるので、それをしながら家泉を都度操作するのは明らかに無理がある。
- 指示が届く範囲という観点では、岡田には大﨑のビジョンは伝わらず、それこそ”同じ絵を描く”には至っていませんでした。
- ですので(別に監督と選手(大﨑)は与党と野党でもない二項対立でもないのですが)、岩政監督の目指している「仕組みを作って自律的にプレーする」は、大﨑が全部指示を出すことの限界を見ていればその意義は明らかでしょう。
- もう一つ、大﨑を見ていて感じるのは、味方、例えば家泉がボールを持っている時に、大﨑は家泉が仕事をしやすいように仕向けるというよりは、最終的には家泉に近寄ってボールをもらって、家泉が本来担うべき仕事を取り上げて自分が代行する傾向があります。
- 本来家泉が右DFで、大﨑がアンカーだとして、それぞれ「右DFの位置から相手のFWを引きつけながら前にボールを運ぶ」、「(DFから届けられたりするなどした)ボールをシャドーやワイドに届ける」といった別々の役割があるはずですが、大﨑が家泉に近いところに行って家泉の仕事を代行しても、大﨑が本来担う仕事を家泉が交換してくれるわけでもないので、コンサは「中央から前にパスをする人」がいなくなってしまいます。
- これについては青木も似たような傾向がありますが、シンプルに信頼度合いの問題で、選手を入れ替えるしかないしょうか。
スーパープレーとトランジション:
- ともかくこの試合に関しては、コンサはSB経由で前進できない、中央でも前進できない、ということで、ボールを保持している割にはシュートチャンスは少なく、前線で無理の効く中島が体を張るなどしないとゴール前になかなか到達できませんでした。
- FWのシュートの少なさというのは、FWにボールをどれだけ届けられているかを測る上で、比較的わかりやすさと実効性を両立する指標かと思います。中島も、途中出場のマリオセルジオもほとんどシュートチャンスがありませんでした。
- しかしこの日は前半だけでスーパープレーが2つ飛び出してコンサは24分、28分と立て続けに2ゴールを奪います。トランジションから木戸のロングシュートと、大分のCKを守ったところからの児玉のフィード。
【試合ハイライト📸】
— スカパー!国内サッカー (@sptv_football) June 18, 2025
🏆#天皇杯 2回戦
🆚#北海道コンサドーレ札幌 × #大分トリニータ
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横幅に激弱…:
- 一方の大分ですが、大分もコンサ同様に前進に苦労していました。
- 大分のボール保持の際は、システムは1-3-4-3。特徴はかなり均等に1-3-4-3の配置になっていて、具体的にはシャドーが所謂ライン間に立つというよりはほぼトップに近いところからスタート。WBも最初から前に張るというよりは中間ポジションを意識していました。
- コンサは大分のパスコースをFWとサイドハーフが立ち位置で切る対応が基本でした。まずこれはそこそこ大分には効果的で、大分はDFから2列目にどう前進するか?の解を示せなかったと思います。
- 大分はDFがWBの位置に、WBがシャドーに近い位置に入っていくポジションチェンジの形を持っています。
- 要はこれは最初からWBを高い位置において、コンサの1-4-4-2に対し強烈なミスマッチを作っておくとか、もしくはコンサが5バックに変化することを強いるというよりは、最初からそれを見せないでおいてコンサが準備不十分な状態にして、必要な時に大分も5トップ気味になって奇襲気味に仕掛けるという解釈をしました。
- ただこれも結局は前線にいかにボールを届けるか?という点とセットで、この日の大分はそこでなかなか答えを示せず前半は厳しい状況だったと思います。
- 苦労していた大分は39分にスコアを動かします。
- まず右サイド、DFの戸根から縦パスが入って中央で収めて右のWB松尾に展開。先に書いた通りWBは最初から高い位置を取るのではなくて、ギリギリまで我慢してから出てくるのですが、中央を最初に使われたこともあってコンサの4バックは収縮しており松尾への対応が遅れます。松尾の高速低空クロスに薩川が飛び込んでシュートはポスト。
- しかし直後に大分がやり直して、全く同じ形(中央への縦パス)から右の松尾、薩川が飛び込んで…という形で今度はしっかり決めてスコア2-1となります。
- 岩政監督のコンサは概ねSHの外切り→中央誘導から守備が始まりますのでこの日も同じイメージだったのでしょうけど、中央誘導で奪えなかった時にどう対応するのかが不明瞭なのが守備の不安定さに直結していると感じます。
- すなわち、この場合だと大分のWB松尾にボールが出ることを予測した上で、SBがとにかくクロスを上げさせないという対応にするのか、時間を稼いで中央の枚数確保をしてクロスに備えるのか、そのためにどこで撤退に切り替えるか…といった基準はかなり不明瞭に見えます。
- 本当はちゃんと基準があるのかもしれませんけど、ボールサイドのSBが1v1で止められそうにない(そもそも対応が遅れている)、SHが戻ってこない、縦パスが入った時に中央のプレスバックが弱いので大分のFWに簡単にボールが収まる、ファーサイドでもSHが戻ってこない以前にSBが遅れている…となると、1列目が回避された後の対応にはかなり問題があると感じます。
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- 大分は後半頭から宮川→藤原。藤原はボールを運ぶのもそうなのでしょうけど、それ以上にラインの押し上げをかなり意識していたように思えます。
- 56分にコンサは中島・荒野・出間→バカヨコ・白井・田中克幸。58分に大分は佐藤→宇津元。左WBが多い宇津元ですがそのままシャドーに入っていたはずです。
- バカヨコと白井の投入で、コンサはバカヨコが潰れて白井が左で飛び出すパターンが大分にはそれなりに脅威を与え、白井は3度ほどファウルを誘っていました。
- バカヨコは加入当初、河合竜二C.R.C 兼 株式会社まちのミライ 代表取締役社長が「オルンガタイプだ!」と期待を語っていましたが、私の印象はコロ・ムアニのような9.5番タイプであり、白井を前で走らせる使い方(ボール保持・非保持共に)はこれまでで一番相性が良さげでした。
- 大分は77分に薩川・松岡→天笠・池田。84分に小酒井→伊佐。コンサは77分に木戸→マリオセルジオ、84分に大﨑→宮。
- 伊佐投入で大分はおそらく↓の形。この時間帯からスペースが空いてきて、大分は天笠の左足での展開でそれまでよりも容易に前線にボールが届くようになります。
- 大分の横幅攻撃が脅威となったコンサは、マリオ セルジオ投入後に1-3-4-2-1に変更。当初はバカヨコがトップでしたが、後にマリオと入れ替えていました。
- そしてAT5分表示の90+5分、GKムンキョンゴンも攻撃参加する中で宇津元のCKが直接入って同点に。
- 延長に入ってコンサは岡田→高嶺で3バックは右から西野、家泉、宮。大分も鮎川→有働のカードを切りますが、香川が足を攣って一時ピッチを離れ、復帰後は左シャドーに入って茂がDFだったと思います。
- 大分は天笠、コンサは高嶺と、いずれも中盤センターのスタメン級の選手が終盤になってピッチに入りましたが、ボールが前に届くようになったのは大分。コンサは人が変わっても、中盤の選手がDFに寄って近距離でボールを引き取ろうとするのですが、引き取った後で遠く離れた味方に届けられるわけでもなく時間を浪費していました。
雑感
- 岩政監督が試合前、「J1のチームとの公式戦での対戦を経験させたいと」と話していましたが、確かにJ2で10位の大分と13位のコンサの控え選手中心の対戦ということで、試合の強度やインテンシティみたいなのは高くはありませんでした。それでも主力を後半に投入したコンサでしたが逃げ切りに失敗し敗退が決定しました。
- 短期的な話でいうと、岩政監督体制下で、おそらくはサイドの選手が敵陣で前に出て圧力をかけようとしていることが大きいのでしょうけど、コンサ陣内に侵入された時にサイドで相手を食い止めることができず、コンサが4バックだろうと5バックだろうとクロスボールからあっさりやられてしまっていて、リーグ戦でもこうした点が改善されないと最低限の結果を拾っていくことは難しいでしょう。
- 中長期的な話でいうと、ボールを捨てずに保持して前進しながらプレーするスタイルにコンサはある種の憧れみたいなものがあり、岩政監督の招聘もそれを目指しているからなのでしょうけど、改めてこのスタイルで何かを成し遂げるにはまずフロントや強化側のサッカーへの理解、その上で資金力、選手リクルート、スタッフリクルート、その他インフラ整備(設備、施設、データ基盤…)、あとはカルチャーとかクラブ全体のマインドとか色々なものが必要になると思われます。
- となると今、岩政監督が思うような結果を残せていないのは事実ですが、一方で短期で成果を求められるコンサというクラブにおいて、現状のクラブのアセットを考慮すると、コンサがこうしたスタイルで成果を出そうとするのは改めて無謀な話だなと思わされます。
- 1年前に突如 #日本一諦めの悪いクラブ というハッシュタグが登場していつの間にか消滅しましたが、この状況で諦めの悪さを発揮できるか、それとも数ヶ月で諦めてしまうのか、改めて問われているのかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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