2022年9月21日水曜日

2022年9月18日(日)明治安田生命J1リーグ第30節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 〜unspoken agreement〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • マリノスは西村が負傷で、すっかり序列が下がっていたマルコスジュニオールがトップ下で先発。傾向としては、マスカット監督のサッカーは割とダイレクト志向だと思っていて、西村の重用は運動量だけでなくセカンドトップとしてのフィニッシュを買っていたのでしょうし、よく言えば速い、悪く言えばやや直線的なサッカーに変貌しているように思えます。
  • 札幌は試合前練習で深井が重傷を負って、おそらく中村桐耶がその枠でベンチ入りしたのでしょう。菅のDF起用は、ウインガーのいるマリノス相手ならあるよな、と思っていたのですが、福森、高嶺、中村が健在の時にやるとは言い切れなかったので驚きでした。

2.試合展開

ワイドストライカーの出来:

  • スポーツナビ(アプリ版)のスタッツでは、札幌で最も多くシュートを放ったのはルーカスフェルナンデスで4本。次が金子と福森で2本。マリノスはアンロペの3本に、次いで水沼が2本、エウベルは0。水沼はもう少し多い印象でしたが、ともかく両チームともセンターFW以上にアウトサイドの選手がフィニッシュの場面で存在感を発揮していました。
  • 札幌はルーカスが左に回って、久々の逆足ウイング(バック)。2年前、等々力での初披露の際は、記者の質問に対してクライフバルサを引き合いに出して煙に巻いたミシャでしたが、この日は素直に説明しており、WBによるシュートを攻撃のオプションとして想定していたようです。結論から述べると、このプランはマリノス相手に効果的だったと思います。


  • 札幌のボール保持にマリノスは1-4-4-2で対抗。2トップがCBをみて、札幌のSBをウイングが見て、ここはマンマーク気味になる。アンカー駒井のところは、時間帯によっては不明瞭でしたが、喜田か渡辺がケアする意識はあり、全体としては、マリノスは下がってボールを回収することはほとんど考えていなくて、前に出て高い位置でボールを奪って、そのまま速い攻撃を逆襲として繰り出すことをイメージしていたと思います。
  • 札幌は、福森の守備不安によって左DFに菅。ただ、ボールを預けたらとりあえずは収まって、またロングフィードでなんらか攻撃っぽいことをしてくれる便利な福森と違って、菅は後ろでボールを持ってもこれといった仕事ができない

  • 札幌でボールを運ぶ(後ろから前に蹴る)役割をシェアしていたのは、一人はGKの菅野。菅野が田中駿汰に出すところから始まり、それは最終的には、金子や高嶺といった左利きの選手を経由して、左サイドのルーカスにボールが渡るのを終着地とするプレーが、成功したものの中では多かったと思います。

札幌のビルドアップから速い攻撃
  • そしてそのルーカスに渡ると、前に出て守っていたマリノスのDFが戻り切る前にフィニッシュまで持ち込むのが札幌のプラン。ルーカスに渡ってからは、ほとんどが彼の個人技で、カットインから右足シュートを再三狙っていました。
  • 松原が手を焼いていたのは、能力差というよりはマリノスが前がかりすぎて、ルーカスに渡ったところではまだ準備ができていない状態で、札幌がとにかく速くフィニッシュに持ち込むことで、マリノスに奇襲的に、準備が出来ていない状況を狙っていたからだったと思います。

  • 2年前の等々力の際は、こうした速い攻撃をそこまで考えていなくて、むしろ川崎相手にある程度ボール保持の時間を作って守備の負荷を軽減するために、敵陣でウイングバックが守ってからもゴール方向にプレーするよりも横方向、反対サイドの方向にサイドチェンジをしたりして、時間をかけてプレーしていましたが、この日はルーカスでフィニッシュというのをかなり強く意識していたようです。

  • ▲セルタのカンテラ(育成年代)のスタッフが、日本のサッカーについて「速いか遅いかが極端」みたいなことを言ってるみたいですが、この、札幌の速い(速すぎる)攻撃はマリノスのDFだけでなく、札幌のFWもゴール前で準備が整っていない状態になりがちになる。必要以上に速くプレーすると、肝心の精度が低下してしまいます。
  • しかし、そもそも札幌はゴール前でFWに合わせる、といったフィニッシュをおそらく考えていない。ルーカスのフィニッシュはクロスボール(からのFWがシュート)ではなく、ルーカスの個人技でサイドからカットインしてのシュートなので、興梠とキムゴンヒがベンチスタート、シャビエルがスタメンだったのもこのため(シャビエルはルーカスへの配給役)でしょう。

ビエルサライン攻防戦:

  • 先述の通り、札幌だけでなくてマリノスもまた、縦に速くボールを運んで、少ない人数で速い攻撃を完結させることでゴールを目指していたのは興味深い選択だったと思いますし、戦術ゲームとしては全体的に単調で物足りなかったと見る人もいるでしょうか。
  • マリノスは自陣では、札幌よりは自信を持ってボールを動かしていて、またクオリティも伴っていました。それは、ボール保持側の選手の能力以上に、ボール被保持側…つまり札幌の守備対応によるところが大きい。
  • 具体的には、シャビエルはボールホルダーにが脅威となる距離まで寄せることは少ないですし、またGKを二度追いした後のリカバリーに課題がある。こうしたアクションの特徴は、普通のアナリストならわかるでしょうし、マリノスにはいいアナリストがいる。
  • ですのでマリノスは(札幌のように)自陣で慌ててロングボールを使って、リスクを回避しながら速く敵陣に入る必要はなかった。マリノスが速かったのは、前線のマルコスジュニオールかアンデルソンロペスにボールが入ってからでした。

  • 周知の通り、札幌はボールと反対サイドのDFが中央に絞って、CB(岡村)の背後をケアするように守る。▼のケースだと田中駿汰が絞ると、必ずエウベルがフリーになれるので、エウベルと水沼はサイドに張って、我慢して、フリーになるのを待ってからアクションを開始します。

マリノスは敵陣からが速い
  • マリノスのウイングに渡ると、中央に絞っていた札幌のDFは急いで持ち場であるサイドに戻って、ウイングへのマーキングに切り替える。
  • 先ほどのマリノスのDFと同様、札幌のDFもまずは戻るので精一杯で、ペナルティエリア付近まで侵入を許してからようやく1対1の形で対峙できるといった状況でした。

  • ただ、この試合、札幌が善戦した理由の一つに、田中駿汰と菅の1対1での対応があったと思います。
  • ▲の図の後半に書きましたが、ペナルティエリア内、ゴールから左右に45度くらいの角度でラインを引いたエリアが、一般にサッカーではシュートが決まりやすいと言われます。
  • 札幌のルーカスフェルナンデスは、カットインからこのエリアに侵入してシュートに成功してましたが、田中はエウベルに対しては中を切って、左足でのクロスに誘導することに成功していましたし、菅も水沼に対して同様の対応ができていました。水沼は右利きなので、角度がないところからでも強引に右足で狙ったりもしますが、コースが分かりきっていれば菅野も対応の余地がある。ウイングが仕掛けてから、アンデルソンロペスが中央で合わせるという必殺のパターンを、DFの頑張りで分断できていたと言えるでしょう。


試合展開を読む:

  • 後半頭から、マリノスはマルコスジュニオール→藤田、札幌は小柏→興梠に交代。両者とも、プレーの質を変える交代カードを切ります。マリノスはよりプレースピードを上げられるMFの選手で、札幌は逆に遅いというかタメを作れるタイプのFW。選択は対照的だったかもしれません。
  • 札幌としては、小柏が特段悪いという感じではなかったと思いますが、どちらかというと前線守備のクオリティ的に、興梠とシャビエルのユニットは、マリノスが疲れたから成り立つものだと言えるでしょうか。
  • 興梠は守備をしないわけではないのですが、相手DFをマークするというより常にコースを切る守り方をします(この辺りは札幌は属人的、選手に一任されている)。

  • ですので先述のシャビエルと同じで、興梠が正面に立つDFは、そんなにボール保持に支障が生じるような状況ではなく、また興梠は、マリノスのSBに出させて札幌のWBがそこに寄せるところから守備を開始したいようでしたが、札幌WBは蒸し暑さもあってか徐々に運動量が低下していきます。必然とマリノスがSBやCBのところでボールを持てるようになって、札幌は下り目でプレーせざるをえなくなります。
  • 63分にマリノスは左右のウイングを交代。配置は順足で、やはりウイングはサイドに張ったままで、中央でFWとシャドーの選手で仕留めるイメージは札幌との相違点でしょう。そのシャドーは、74分に吉尾を入れますが、もう少しゴールに向かうタイプのカードを本来は切りたかったかもしれません。
  • 札幌は最後に、WBの交代と飛び道具の確保を両立するカード(福森と中村の投入、かつ福森がWB)を切ったのは試合展開から見て順当でした。ただもっとグダグダな展開だと、福森が自由を謳歌できたかもしれませんが、札幌はともかくマリノスは終盤でもまだ脅威を与える力があって、福森はセットプレーでしか輝けなかったと思います。ラスト15分だけを見るなら、札幌としてはドローで御の字と言っていいでしょう。


雑感

  • 両チームとも暗黙の了解というか、リスク管理はアバウトなのだけど、GKが止める(またはシュートミスる)前提のようなサッカーに感じました。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。

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