2022年9月4日日曜日

2022年9月2日(金)明治安田生命J1リーグ第28節 北海道コンサドーレ札幌vsセレッソ大阪 〜意義なき賭けの末に〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果

  • セレッソは不動の右SB松田が出場停止で、毎熊を一列下げ、左に入ることが多い為田を右に回します。左には途中出場が多いパトリッキがスタートから。セレッソの2列目は中原以外は右利きが多く、右サイドに順足、左サイドに逆足のバランスは変わらないのは特徴かもしれません。最終ラインの中央は、鳥海が西尾に劣らないくらいの評価を得ているようで、21歳の副キャプテンをベンチに追いやる形でヨニッチと組みます。
  • 前線は、スタメン起用の多い順に加藤、山田、ブルーノメンデス、タガート、上門ですが、ここまで出場機会の少ない2人を選んできました。原川の離脱で、中盤センターは手薄になっています。

  • 試合間隔が1週間空いた札幌は、小柏が(またまた)離脱でシャビエルが右。宮澤も不在で、荒野が入りますが、セレッソ相手だと4バック+4MFにしないと枚数が合わないので、3アタッカー(興梠、小柏、シャビエル)から1枚削ることになったのは、バランス的にはむしろ好都合だったでしょう。同数で守るなら、普段からこうした部分はケアしてほしいところではありますが。

2.試合展開

セレッソの狙い:

  • 前半のセレッソはシンプル。図示するとこんな感じでした。
GKのフィードからの速い攻撃

  • 「スタイルは変えない」と言いつつ、実際は選手の配置やポジションバランス、そして前線からの守備の強度に、試合ごとにばらつきが見られる札幌。
  • 特にここ数試合は、前線の守備強度というか、相手DFを捕まえに行くか行かないかの判断が曖昧になっていると感じますが、この試合は、シャビエルと興梠というフィジカル的には不安の残るユニットで割と頑張っていたと思います。
  • ただ、この2トップはセレッソのCB2人を見るのが精一杯というか、札幌の前線守備はGKに対するpressingは、誰がどうするのか不明瞭なことが多い。駒井が前線で出場している時は、駒井が自分のマーク対象の選手とGKを、1人で2人引き受ける形で、GKまで走ってボールを簡単に蹴らせないようにしていますが、シャビエルと興梠ではそのようなことはしない。

  • ですので、GKキムジンヒョンは割とプレッシャーがかからない状態でフィードを蹴ることができる。そしてキムジンヒョンは正確なだけでなく、低くて速いボールを蹴ることができ、山なりの遅いキックと違ってそれは”速い攻撃”を可能とします。

  • 札幌の攻撃が概ねそうなのですが、遅い攻撃…互いのチームがそれぞれ攻撃と守備というフェーズを認識してから、シュートに持ち込むまでに時間がかかると、その間に守備を認識している側は枚数を確保してゴール前を固め、崩すことが難しくなります。
  • セレッソはとにかくGKがボールをリリースしてから、札幌のゴール付近に到達するまで最短最速で到達することで、基本的に同数関係・1対1の関係で守っている札幌のDFが、自らのマークを捨ててゴール前のスペースを守ったり味方をカバーするといった対応に切り替える前に、言い換えると札幌のDFが準備を整える前に、シュートまで持ち込むことが狙いだったと思います。

  • セレッソのキーマンを1人挙げると、長身FWのタガート。
  • 登録上は岡村と同じくらいのサイズのようですが、リーチが長いのか、それとも動き出しのタイミングが巧なのか(ここはDAZN中継では映っていないことが多いので憶測でしかありません)、岡村が前に出てボールをカットしたり前を向かせない対応ができなくて、タガートのところでセレッソはボールを収めることに成功したり、逆に岡村が背後を取られて深いところまで侵入を許したりもしていて、まず札幌は、一番頼りになるDFの岡村のところであまり勝てていなかったのが問題の一つでした。

  • セレッソはタガートのところで起点を作ることに成功すると、上門、2列目の為田とパトリッキがゴール方向にほぼ真っ直ぐスプリントしてフィニッシュを狙います。
  • 特に、比較的短い時間でパワーを出し切るタイプのパトリッキをスタートから使ってきたことで、セレッソとしてはこの形から先手を取りたかったのでしょう。13分には山中の左クロスにパトリッキがダイビングヘッドを狙いますが、わずかに合わず。

無だけが成果:

  • 札幌がボールを持っているときは、セレッソは2トップをハーフウェーラインに設定して、基本的には”待ち”の姿勢を見せます。
  • タガートと上門で、札幌のアンカーポジションの選手(荒野)をケアする感じもなかったので、ボールを持っているチームは、この程度の相手ならクリーンに、かつ最少人数で相手の1列目を突破して、2列目と対峙し、2列目の選手を引きつけながらフリーの選手にボールを渡したいところですが、札幌はこうしたクリーンなビルドアップが全くできませんでした。
  • 方法論としては、セレッソの1列目に対して、その2人の中央を割るパスを通すか、2人の脇から中央に向けて斜めにパスを通すか、が基本になると思いますが、まず受け手になる選手が荒野なのか、高嶺なのかはっきりしなくて、札幌は流動的なポジショニングといえば聞こえはいいかもしれないけど、いるべき場所に選手がいない状態が非常に多く、ですので出し手か受け手が常に用意されていないような状態でボールを持っていました。

  • 時折、誰かがセレッソの1列目を越えかけるくらいの状態でボールを持つこともありますが、この時には前線の5人と呼吸が合っていないことが多かった。
  • 見たところ、札幌は誰が後ろからボールを運ぶのかが不明瞭なので、前線の選手が前で待つことができずポジションを下げてボールを迎えに行くことになる。ボールを迎えに行くという状態は、前で仕掛ける本来の役割を遂行する準備ができていない状態なのですが、その準備ができていない状態の選手にパスをすることが多く、ルーカスにせよ菅にせよ興梠にせよ、いきなりボールを渡されてびっくりするかのような挙動になって、それでは効果的なプレーはできないしボールを失ってしまうよね、と見えました。

  • そして、「後ろが流動的すぎる」ことは、ボールを失った時に誰がセレッソの選手をどう守るか?が定まっていないこととも繋がっていて、特に、膠着気味になると福森が左から中央に移動したりしますが、札幌の左に誰もいなくなる状態は、セレッソの右の為田としては絶好の狙いどころになる。
  • 札幌としては、相手の1列目と2列目の攻略を、ここ5シーズンほどは完全に福森の左足に頼ってきたので、チームが厳しい状態で(選手からも、コーチングスタッフからも)福森に期待がかかることは理解できるのですが、正直なところゲームのクオリティに達していない部分の方が大きいように感じました。

ゲームクローズに失敗したセレッソ:

  • 札幌は後半開始から、福森→キム ゴンヒと、興梠→青木の2枚のカードを切ります。先月練習を見た感じだと、興梠はコンディション的に様子を見ながら、という感じに見えました。福森はゲームのクオリティに達していないということだと思います。

  • 後半も特に構図は変わらず(なので図の作成は割愛させてください)。セレッソは、58分にタガート→山田、パトリッキ→中原に交代。
  • 67分には、徐々に攻撃参加が目立っていた山中が、マンマークのルーカスをスプリントで振り切るオーバーラップからクロス。中原が斜めに走ってニアで潰れて、上門が中央でフリーになるまで呼吸も合いましたが、走り込むタイミングが若干合わずシュートミスで札幌は救われました。


  • スコアが動いたのは78分。直接的には、高嶺のパスが引っかかって、セレッソがこの試合ずっと狙っていた、「札幌の守備が整う前にシュートに持ち込む速い攻撃」で 均衡を崩したと見ることができるでしょうか。
  • ただ、これも高嶺が中央にいて、誰もいない左には、本来前でボールを待っているはずの菅が降りてきている状態。前半からずっと同じなのですが、いるべき場所にいるべき選手がいる、とする基本が完全に壊れていて、それではボールを保持できるわけがありません。


  • 敗色濃厚の札幌は85分にワンチャンスで追いつきます。
  • 動画の見切れているところ、中央のスパチョーク→左のシャビエルに渡る前の展開は、セレッソがボックス内のブルーノメンデスにパス。メンデスがキープに失敗(岡村が引っ掛けてボール回収)から、右の金子を経由して中央でスパチョークが前を向いた、というものでした。
  • メンデスが失ってトランジションの際、札幌はキムゴンヒ、スパチョーク、シャビエルが前残り気味になっていて、セレッソはキムゴンヒには鳥海がついている。ファーサイドのシャビエルは最初はフリーでもいいとして、下がったスパチョークのところは誰も見ていなかったのは、やや注意不足な感じがしますし、そもそもメンデスに縦パスしなくてもよかったということも含めても、ゲームのクローズに失敗した感があります。
  • その上で、札幌のシャビエルが宮の沢で発揮しているような技術(受け手の動きを計算したアーリークロス)、キムゴンヒのプルアウェイと鳥海のスリップ、などが重なって、不可能と思われた展開から札幌が息を吹き返します。あとは、スパチョーク投入でシャビエルが左に回ったのも伏線でしたが、一番は札幌ドームの芝(今年は異様に滑る)でしょうか。

  • 最後の青木の得点は、セレッソの後方からの放り込みを拾ったところから。
  • 両チーム疲れももちろんあったと思いますが、こうしてみると、セレッソについて私はスペースで「pressingとかトランジションがいい、というかは、双方のゴールキックというセットされたプレーで始まる展開は整理されているけど、カオスな展開になると怪しくなるので、トランジションがいいという感じはしない」と分析を述べたのですが、案外間違ってはなかったのかもしれません。

雑感

  • 試合はとにかく内容に乏しかったです。これはもう、どうしようもないのでしょう。
  • 前節からの2週間、三上GMがwebサイトで決意表明文を公開したり、新聞インタビューでミシャが「次の試合に進退をかける」と語ったりしていました。
  • これについて私の感想は、「決意表明をしたところでサッカーがうまくなるわけではなく、それは無用なプレッシャーを誘発したり、また仮に負けた時に雰囲気がおかしくなる(監督が落ち込むだけでは?)危険性があるので、わざわざ言わなくてもいいことを言っちゃってなんかおかしな空気になってきたな…」と思っていたのですが、結果としては賭けに勝ったな、という印象です。進退をかけると言って負けた時は、下のチームとの勝ち点差以上に重苦しい空気だったでしょう。

  • 本来、大人の”決意や覚悟”は言葉ではなくてピッチ上で示すものです。
  • 「絶対に次は勝つ」というなら、勝つために必要なのはわざとらしいスライディングタックルや、大声を出すことではなくて、相手を分析して相手の強みをケアし、弱みを突いて得点を奪うために策を練ることです。どれだけの準備をするかが、決意や覚悟だと言えるでしょう。
  • その意味では、決意や覚悟は特にこの試合で、私は感じませんでした。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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