2022年8月21日日曜日

2020年8月20日(土)明治安田生命J1リーグ第26節 北海道コンサドーレ札幌vsサガン鳥栖 〜垣田の裏抜けはなぜオフサイドにならないか〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果

  • 鳥栖は22節(vs横浜F・マリノス)から4バックの1-4-4-2または1-4-2-3-1の布陣を採用していて、これについては川井監督は、相手に合わせるためというよりは自らの指向性によるものだと説明しています。
  • ただこの試合は3バックの1-3-1-4-2に回帰していて、かつジエゴを左WBとしたのは前回札幌を5-0で葬ったホームゲームと同じ。
  • インタビューでは、「相手というより自分たちが目指すスタイルを目指した結果」とのことですが、5バックで守る形も含め、ある程度は札幌を意識した形でゲームに入ってきました。

  • 札幌は、今週のトレーニングでは、週後半にはほぼメンバーが揃った状況で、興梠をトップから外して、小柏やキム ゴンヒのトップ起用のトップ起用を試してもいました。おそらくは前線の守備を考えてだと思います。またシャビエルが右、小柏が左の逆足配置で試していましたが、この試合ではやはり小柏の選手特性を考えて順足配置でした。
  • 水曜日の時点では別メニューが多く、宮澤、菅、高嶺といったメンバーはまだベストではないのかもしれません。ただ、福森の起用は、高嶺のコンディションというよりは、ボールを持った時のプレーを期待してでしょう。

「守備」の因数分解:

  • 前回、5失点を喫したアウェイでの鳥栖戦と、前節神戸戦は幾分か共通点があります。
  • 札幌の失点は、守備をセットした状態で崩されているというよりは、札幌がボールを失ってからのトランジションに起因するものが多い。
  • 神戸戦は前回振り返った通り、パスコースを消されて中央で奪われてからの速い攻撃でした。鳥栖戦は、札幌がボールを失った後で、守備に切り替えるところで、まず切り替えが遅くて枚数確保ができていない。そのため、マンマークで守るとしての前提条件である、数的優位また同数の関係で人を捕まえられていないので、ボールホルダーに対しての圧力が弱い状態で、シュートの2つ手前のパスを簡単に通されている(▼の1点目と3点目)。
  • ボールホルダーに対して寄せが甘いのは個人の問題でもありますが、枚数が揃ってない、またはマーク関係が作れていないので、自分が寄せても剥がされるのを怖がっているとも言えます。
  • これを解決するには、一つは、主に前線に、ボールを失った後にすぐに守備に切り替えられる選手を起用すること。興梠やシャビエルはこの点で厳しく、駒井のような選手の重要性は高まります。

  • もう一つは、そもそもボールを簡単に失わないようにプレーすること。例えば札幌のよくあるパターンで、サイドで持ったらとりあえず放り込む、というのがありますが、適当なクロスボールをGKがキャッチするようなプレーは絶好のカウンター機会になる。
  • 特に、クロスボールにターゲットが何人も飛び込むような場合は、クロスをキャッチされると数枚のターゲットが一時的にプレーに参加できなくなる状態で、相手のカウンターが始まるので、放り込むことがチャレンジとして肯定されるのではなくなる(サッカーでスタッツを設計するなら、シュートやクロスをキャッチされる、はマイナス指標でもいいのではないでしょうか)。クロスやスルーパスなど、DFに引っかかるリスクのあるプレーを選択するときは、相手を崩してから選択することが本来は求められます。
  • この考え方でいくと、中央で簡単にボールを失わない興梠は、攻撃よりもむしろ守備の安定において重要で、走れないから外す、という単純な選択でまとめていいか、むしろいた方が安定すると考えることもできるでしょう。

  • この試合のメンバーに関しては、福森の起用も、ボールの失い方を(前節から)変える意図があったのかもしれません。
  • 20年前のトルシエジャパンでもそうですが、整備されていないチームにおける自陣でのパスは被カウンターのリスクをはらんでいます。それなら、福森が最初から放り込んだほうが、自陣で失うことにはならないので、ここ数試合序列が下がっていた黄金の左足の復権にはそうした背景もあったのでしょう。

2.試合展開

リセットボタンを多用:

  • チームを取り巻く空気だったり、評判だったり、抱えている選手だったりは違うにせよ、鳥栖も札幌もそこまで決定的な武器がないチームで、となるとこうしたチームがゴールを奪うには、相手にボールを”あえて”持たせた状態からスタートし、pressingによってボールを回収して速い攻撃を仕掛ける方が理に適っています。
  • しかしながら、序盤は鳥栖が思った以上にボールを保持して、前半途中では支配率が札幌4:鳥栖6、シュート本数は札幌7:鳥栖0といった特徴的な数字になっていました。
  • というわけで、鳥栖がボールを持っている時の形から振り返るのが適切でしょうか。

  • 札幌は鳥栖の3バックに対し、左(鳥栖の右)からシャビエル、興梠、小柏でマークを設定している。これに対し鳥栖は、右DFの原田が中央からタッチライン付近に出ていく形でスタートします。
  • シャビエルがこの試合中、何度も自陣に下がって守っていたのは、この原田が高い位置どりからミスマッチ気味(シャビエルは、原田に強烈なマークをしているわけではない)であることを活かして何度か攻撃参加したので、それを後追いしなくてはならなかったためです。
マッチアップ

  • 鳥栖のボール保持の特徴は、前進経路が見つからないと、GKパクイルギュからシンプルに前線にフィードを蹴ってくることで、この低くて速いフィードはbuild-upというかは、局面をリセットしているように見えます。
  • 鳥栖の前線の岡村と宮代、福森と本田のマッチアップは概ね札幌の方は問題がなさそうで、本田が左右に動くと福森が捕まえきれないときはありましたが、ここが起点になることはあまりなかったと思います。
  • ですので鳥栖が札幌陣内に入っていくパターンとしては、先述の、シャビエルから浮き気味だった原田に何らかボールを渡すことが一つで、もう一つは、これも田中駿汰から浮き気味だった小泉のところで、(時折福田や藤田と入れ替わりながらも)ここも札幌の田中が常に前に出て守るわけではないので鳥栖のボールが落ち着くポイントになっていたと思います。

  • ただ、札幌陣内に入った後の鳥栖は、札幌がマークを外さない状態で、かつ後方からの攻撃参加だったりワンツーだったりとする”アイディア”がないとするなら、基本的には誰かが札幌との1on1に勝つ必要があって、ジエゴや長沼にはそこまでの絶対的なクオリティはないとするなら、札幌は垣田が入るまではあまり脅威は感じなかったと思います。菅野のビッグセーブが飛び出すのも、この試合は後半でした。

  • そしてリスクヘッジは比較的しっかりしている印象の鳥栖が、この自陣でのボール保持からのプレーに綻びが生じたところから、札幌の先制点が生まれたのが21分。
  • リプレイで見切れているくらいですが、後方からのフィードを宮代が収めきれず、誰もいない中央に転がったボールを駒井がプレスバックから回収、すぐに右の小柏に展開したところから。最近、駒井の良さは何か?とよく聞かれた際に返しているのですが、こうしたプレーの切り替えの速さや勤勉さが得点に直結した形だったと思います。
  • 鳥栖としては、トップに信頼してフィードを当てている以上、宮代は最低限、岡村をブロックして簡単にクリアさせないようにプレーすべきで、ここは若いストライカーの課題と言えるでしょうか。

同じくリスク回避:

  • 札幌がボールを持っていた時の話をすると、こちらも早めに前線に放り込んでいて、鳥栖以上にリスクヘッジをしていたというか、ビルドアップやクリエイティビティを感じるプレーはほとんどなかったと思います。前半、何本か放たれたシュートは、ほとんどがルーズボールを拾っての速攻的なものでした。
  • ここ4試合ほどは、中盤の選手が後ろに下がらない状態から放り込んでいましたが、前回、神戸にその死角を突かれた(自滅とも言えるが)形で失点したこともあって、この日は高嶺の左に福森がいる、慣れ親しんだ形からでした。
札幌も放り込む

  • 鳥栖はこれに対して、15分ほど様子を見て、先制点が入る前後くらいから徐々に、能動的なpressingを仕掛けていきます。
  • ただ、この日の札幌は後ろでパスを繋ぐ気があまりなくて、高嶺かGK菅野から、早い段階で放り込むので、鳥栖は菅野まで追いかけるか、それとも諦めて後ろで回収することに専念するか、そこの見極めが、前半の間はできていない印象でした。宮代と本田の2枚では、札幌の菅野、岡村、高嶺+駒井に対してやや圧力が足りなくて、インサイドハーフを上げる判断がされたのは後半に入ってからだったと思います。

ゲームチェンジャー:

  • 後半頭から、鳥栖は本田→垣田。互いにチャレンジに乏しいゲームを動かしたのは、鳥栖のエースによる再三の裏抜けでした。
  • 垣田と宮代が横並び、もしくは宮代がやや引いた関係に変わり、垣田はとにかく味方とタイミングを合わせて、マンマークで守る札幌の背後に走ります。

  • 鳥栖は相変わらず、後方からの長いパスが多い。普通、40〜50mのパスが簡単に成功して、FWがボールをキープしたりすることはそんなにないのですが、札幌のDFは▼のように、ラインを作ってオフサイドルールを使って相手のポジションを押し出したり、駆け引きを迫ることをほとんどせず、相手の動きについていくだけ
  • これは、マーク関係が宮代ー岡村、垣田ー福森で最初に決めているので、垣田が反対サイドに流れたら、本来左のはずの福森が右に大きく流れることからも、札幌の(後出しで)人についていく、鳥栖に圧力を与えられないマンマーク基調の同数守備の特徴は明らかだと言えます。
垣田の裏抜けはなぜオフサイドにならないか
  • 福森や岡村が人についていくことは、前半、本田が出ていた時にも、札幌のDFのポジションがぐちゃぐちゃになっていることで確認でき、もしかすると鳥栖はそこを観察してもいたのかもしれません。

快適なドームで不可解なガス欠:

  • そして札幌は55分に興梠と小柏を下げ、キムゴンヒと青木。これは、ミシャ曰くコンディションを考慮した交代とのことですが、この小柏が下がると、長い距離を運んだりスペースを使ってプレーできる選手が札幌には皆無になります。このことは、鳥栖の攻撃に対応してジリジリと下がる展開になってからは大きくマイナスに働きました。

  • 60分に、鳥栖のリスタートから、垣田が右サイドに流れたところから低いクロスボール。左に流れますが、やり直したところを小泉のミドルシュート(クロスバー直撃)というプレーがありました。
  • このように垣田が札幌陣内深くまで侵入すると、高い位置でマークを設定していた札幌の選手は自陣深くまで戻り、鳥栖の選手を捕まえないといけないのですが、このあたりから札幌は多くの選手が戻る際に非常にキツそうで、前半そこまでフィジカル的に厳しい試合をしていたわけでもないのに、不可解なほどペースが落ちます(数人のコンディションを考慮しても)。

  • そして64分の鳥栖の同点ゴールは、直前のプレーは、中野伸哉が偽のSBのような要領で中央で入って、フリーの状態から垣田にスルーパス→シュート(菅野が体に当ててCK)。札幌は戦術にまだ不慣れなキムゴンヒと、元々守備ではまったりプレーするシャビエルが並んでいることもあって、鳥栖のDFに対する監視はさらに緩くなっている。
  • 得点は藤田のCKのセカンドアタックを、福田の近距離のクロス→ファンソッコがスタンディングの状態で咄嗟に合わせたゴラッソでした。これはGKは予想できなかった体勢、タイミングで難しいシュートかなと思います。

  • スコアが1−1となって札幌はシャビエル→荒野、鳥栖は藤田→西川で、基本的にアタッカーを下げて逃げ切りのカードしか切れない札幌と、攻勢に出る鳥栖の姿勢が明確になります。

  • そして数分ほどオープンな展開が続いて、69分に福田が得意の右ハーフスペース付近から大きく曲がるクロスボールに、大外でジエゴ。
  • ゴールの直前の数分は、互いにスペースが空き、ややオープンな展開。札幌はボールを持った福森が縦にドリブルで進んだり、ルーカスがGKまで追ったりしていて、ちょっとディシプリンがなくなってきたな、という印象で、また福森が上がったところには高嶺が下がってカバーするのですが、そうなると中盤に誰も人がいなくなる。
  • 鳥栖も直前のセットプレーから、ジエゴが高い位置を取ったりで、危うい印象はありました(一応対面がルーカスなので)が、札幌が押し上げもできない、前線に起点になれる選手もいない、で、札幌がほとんど脅威にならない状況で、それなら高い位置を取ってもそう問題はない、という状況だったかもしれません。
  • なお、動画の直前、鳥栖ボールになったのはキムゴンヒの左へのパスがカットされたところからでした。

  • 逆転してからは、鳥栖は5バックで自陣のスペースを埋める戦い方に徐々にシフト。札幌の最後のカードは、ルーカス→スパチョークと福森→宮澤。
  • 鳥栖の5バックが揃っている状況に対しては、札幌も垣田のように誰かがタイミングを合わせて裏を狙うのがいいかな?とSpaceで話していたところで、後半終了間際に高嶺のクロス→駒井のボレーで惜しい場面がありましたが、チャンスはそれくらいだったでしょうか。興梠と小柏が交代して、最後は尻すぼみだった印象でした。

雑感

  • 後半開始からの垣田の投入で、一気に鳥栖がゴールに迫る展開になりました。互いにそこまでのクオリティは感じませんでしたが、基本的に人に(後手で)ついてくる札幌の守備相手に、選択としては鳥栖は非常に適切な手を打ったと思います。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。

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