1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- レネ ヴァイラー新体制で復権の兆しを見せる鹿島。荒木、エヴェラウド、ブエノといったメンバーが離脱ながらも暫定首位に立っています。
- 最終ラインと中央の樋口、2トップはほぼ不動で、中盤残り3つの椅子は、開幕時はピトゥカ、土居、荒木。ここ数試合は和泉とカイキの存在感が高まっていて、「おじさんらしくない振る舞い」で謹慎中だったピトゥカはこの試合からスタメンに戻ってきました。
- システムが若干変則的で、敵陣でpressingをする時は中盤センターの2人が縦並びでダイヤモンドシステムのようになります。自陣でブロックを作るときは、この2人が横並びで1-4-4-2。
- 札幌は前節欠場の宮澤が戻ってきて、荒野は依然として行方不明なこと以外は特筆点なし。
building-up vs pressing:
- この試合から書くことがあまりないのでいきなり壮大な(?)話をします。
- 20年前、横浜FCでプロデビューした時のGK菅野孝憲は、リードしている時にバックパスを受けると必ず腹ばいになってボールをギリギリまで隠すという時間稼ぎが得意技でした。
- 時代は令和になり、菅野も他のGKと同様にバックパスを足で処理して味方に繋げることができるGKに進化しましたが、そもそもなんでGKが足でバックパスを処理することになったかというと、敵陣にスペースが無くなったから。だから、自陣にあるスペースを使ってボールを動かして、敵陣にスペースを創出して攻撃する必要がある というロジックになります。
- FIFAのYouTubeチャンネルで、過去のFIFA World Cupのフルマッチ動画が見られるので、自宅隔離とかで暇な時にちょっと見てもらえるといいのですが、2006年くらいは、トップレベルのゲームでもFWは守備をしていなくて7人とか8人で守備ブロックを作るのが主流でした。
- ですので、building-upという概念はもっと昔からあったものの、今に比べるとその要求水準は低く、敵陣ゴール前でフィニッシュに持ち込むことの難易度が飛躍的に上がったのは今から12~3年ほど前、グアルディオラのバルセロナという驚異的なチームが登場して、それにインスパイアされたサッカーが広まるとともに、スペインを中心に各国で対策を講じるようになってから、という経緯です。
- 自陣のスペースを使って、敵陣ゴール前にスペースを作ることについては過去に整理したつもりですが、こうした手法や考え方も広まったことで、今、2020年代に、”ボールを持っているチームにとっての自陣”をフリーパスにするような消極的なディフェンスをするチームはかなり少なくなっている。
- そうなるとまたここでイノベーションというか発想の転換が起こって、GKもパス回しに参加するならGKに強烈なプレスをかけられるようなフィジカルの(技術がそんなになくても)FWが欲しい→じゃあGKはもうボールを持てないので長いボールを蹴るしかない→長いボールを処理できる空中戦に強い選手が欲しい→そいつを潰せるパワフルなDFが欲しい…みたいな感じで、チーム戦術も個人戦術も日々アップデートされていって、アップデートされない人なり組織なりはすぐに陳腐化してしまう厳しい競争になっていると感じます。
キャッチフレーズからの脱却:
- ミシャが来るまでのコンサドーレは、パスが3回も繋がればいい方だった時期が大半で、また敵陣からpressingを仕掛けてボールを奪いにいく(自陣にDFを確保しない)ような闘い方もほとんどできなかったのは事実です(ミシャ体制下ですがルヴァンカップ決勝はこの点でも典型的なコンサドーレのゲームでした)。
- そこに、まずミシャは敵陣にボールを運ぶやり方を示したのが2018年。新型コロナウィルスによる特異なシーズンとなったことを利用して、前線からのpressingを取り入れたスタイルを示したのが2020年。
- これ自体は30年弱のクラブの歴史において革命的なトピックではあるのですが、昨今のサッカーは常にアップデートされていて、過去に導入したこと以上のクオリティが求められており、単に「ビルドアップできます」「プレッシングできます」といった、ディティールを欠くキャッチフレーズ的なものでは試合ができなくなりつつあります。
- この点ではヴァイラーの鹿島は、”キャッチフレーズ”にとどまらず、どうやったらボールを奪えるか?を札幌に対して明確に示したゲームだったと思います。
2.試合展開
60分弱のエンターテイメント:
- 一言でいうと鹿島が6分の上田の得点を皮切りに、45分で3点を奪います。札幌はDAZNの集計では前半シュート1本、それも「どれだよ?」って感じの試合展開で、鹿島ゴールに全く迫ることができませんでした。
- 後半開始早々にはセットプレーから4点目が入って、60分を前に鹿島はメンバーを落として流しモードに。あとは戦術的には語ることがありません。ので、前半に何が起こったか、を整理することとします。
/#上田綺世 今季8点目!
— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 14, 2022
得点ランクトップに並ぶ🔥
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さすがの動き出しからのフィニッシュ👏
🏆2022明治安田J1第13節
🆚鹿島×札幌
📺#DAZN ライブ配信中#鹿島札幌#Jが世界を熱くする@atlrs_official pic.twitter.com/8p7unddm1C
/#鈴木優磨 前半だけで2ゴール⚽⚽
— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 14, 2022
右足で丁寧に流し込んだ🔥
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🏆2022明治安田J1第13節
🆚鹿島×札幌
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ヴァイラーによるトラップ:
- 鹿島の前半の3ゴールは、全て札幌に対するpressingから生まれました。
- 鹿島のpressingの仕組みは、2トップがスイッチを入れるところから始まりますが、そのシチュエーションは主に札幌のGK菅野へのバックパス。たまに、札幌のCBが開いてボールを受けて、ボールのアングルが限定された時もありましたが、基本的には札幌のDFが運ぼうとすると鹿島は撤退して1-4-4-2でブロックを作っていました(そこから札幌がバックパスするとpush-upしてpressingを狙う)。
鹿島のpressing |
- 札幌のボールホルダーに対して、鹿島は①最初に追い込む選手が横切りで制限をかける(図では上田)、②視界内の受け手を捕まえる(図では鈴木とピトゥカ)、③中央でインターセプトを狙う(樋口etc)といった仕組みを持っている。
- 特に1st DFとなることが多かった暴れん坊・鈴木の守備が秀逸で、どこにボールが出ても素早く寄せられるポジショニングと姿勢を作ってから、バックパスなど決まったタイミングで高速で寄せて適切にパスコースを切る。
- 札幌の失点パターンは決まっていて、鹿島の選手1人にボールホルダーが寄せられる。ただ1人で全部のコースを切るのは無理なので、まだこの時は札幌のボールホルダーは視界を確保できていて、中央方向にパスコースがあるように見える。で、中央に出すと樋口かピトゥカがインターセプト。そこからカウンター、という流れでした。
- 中央に出せるように見えるのですが、これ自体が罠で、鹿島の選手の寄せ方や体の向きによって、ミシャチームが必ず空洞化して選手がいないピッチ中央に誘導されているんですよね。1点目は高嶺、2、3点目は福森が中央にパスしたところを鹿島がインターセプト、札幌が広がってビルドアップしていたので中央に誰もいないところを使われて高速カウンターという形でした。
3.雑感
- 端的に、鹿島の方がpressingが7,500万倍うまかったです。ディティールのクオリティに差がありすぎて、誰々がシュートを外したとかボールが収まらないとか、そうした個人をスケープゴートにする以前の話だったのではないでしょうか。まず土台がないと個人のクオリティの話もできませんので。
- そんな鹿島も弱点というか気になるところはある。例えば最終ラインは右利きしかいないので左に配されている三竿や安西をうまく追い込めばボール回収はできそう。そしてピトゥカの役割が、アッレグリ・ユヴェントスのビダルみたいな高負荷なものだったけど、ピトゥカはめちゃくちゃアップダウンできる感じはないし、撤退時に戻りきれないところに高速アタックを仕掛けていたらどうなっていたか。
- もっとも鹿島はビルドアップのweaknessを隠すために、ロングボールを蹴りまくっていたのですけども。次回はそうした相手の弱みを突いてくれるような試合を期待します。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。
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