2022年5月30日月曜日

2022年5月29日(日)明治安田生命J1リーグ第16節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌 〜空虚なキャッチフレーズ〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 札幌は、岡村と宮澤がスタメンに復帰でそれぞれ最終ラインの右と中央。深井は怪我などではなく、ミッドウィークの試合を(神戸のマッチアップする選手を考慮して)おそらく意図的にスキップしたのでしょう。
  • それ以外だと、不在のトゥチッチはこの序列(ドウグラスオリヴェイラと檀崎より優先度下)なのか、単に怪我等なのかが少し気になるところです。
  • 神戸はGKと4人のDF、それにアンカーの大崎はコアなメンバーとなりつつあるようです。山口がおそらく休養で、似たタイプということもあってか?あまり出番のなかった橋本が山口に代わって入って、前線は左が多かった汰木が右。
  • 郷家はコンディションに不安がありベンチスタートとのこと(神戸新聞運動部のTwitterアカウントより)。小田は同じくコンディション不良を理由に代表を辞退したものの、2日で超人的な回復をしたようで元気にピッチを駆け回ります。

  • 試合後に、ダビド君▼ と三宮の地下の店(物理的な意味)で多少話していたのですが、
  • 神戸の左右のサイドにおける組み合わせは、私の予想では、まだプロとしてこれから、といったところである小田の背後を酒井がサポートするユニットで考えていたんじゃないかと思います。前が汰木なら、山川も専守防衛でいけるでしょう。

スタッツ:


ヴィッセル神戸の狙いを推察:

  • もしロティーナに取材などをする機会があれば聞いてみたいものです。「あなたが今まで見てきた中で、この札幌ほど、人:スペースの比率が極端なチームはありましたか」。

  • 札幌の特徴(パスの受け手を捕まえるために豪快にポジションを移動させる)を踏まえると、神戸は札幌のDFとマッチアップしている選手がゴールから離れた(≒タッチライン付近)場所にいて、ゴール前にスペースを作ってからラストパスをフィニッシャー(武藤)に届けることをまず考えたと思います。
  • ただ、汰木も小田もどちらかというと中央寄りでプレーするのが好きなタイプかつ、この選手特性は(監督交代後の)短期間でアレンジが難しいものだとするなら、札幌のDFを動かす(サイドに拡げる)タスクを担わせるのは少し難しいでしょう。
  • 加えて2人がウイング然としてサイドに開いてスペースを作るところまではできても、クリーンなビルドアップができないならあまり意味を成さないので、結果的には汰木と小田は、札幌陣内でそこまでの戦術的制約ないし、意図を与えられた上でプレーしているようには見えませんでした。
札幌相手だと横に広がれば簡単にスペースができるはずだが

  • だからといって、得点を奪うために全く考えがない、という話ではなくて、対・札幌で考えると、90分を通じてみると”エラー”が少なくはないチームなので、札幌のエラーを誘発するよりは神戸陣内でのエラーを消すことが重要だと見ていたのではないかと思います。

  • 札幌は、ウイングバックが高い位置をとることはほぼ決まっていて、ウイングバックやそれ以外でサイドに顔を出した選手(サイドのDFなど)からのクロスボールによるフィニッシュが、頻度的には主要な攻撃だと言っていいでしょう。頭を狙ったクロスボールが成功すれば、DFのブロックを動かしてスペースを作ってそこにパスを通す、とか、そうした複雑な?プレーが必要ないため、ここ数シーズンの札幌が愛用している戦法です。
  • 神戸は、札幌のウイングバックにボールが渡ると、サイドハーフが下がって内側を切りながら縦を切るサイドバックと2人で、札幌のルーカスと菅のドリブル突破およびクロスボールの供給を制限することを徹底していたと思います。
ウイングバックを2人がかりでストップ

  • 郷家と小田の起用法も札幌のサイドアタックを意識したもののようです。
  • 前半、神戸のテクニカルエリアのすぐ目の前で、札幌の深井のフィード→ルーカスフェルナンデスの踊るようなドリブル突破、が何度かあり、また深井からのボールが、小林と酒井の間にいる金子に渡ったりもあって、小田よりも計算の立つ郷家の起用に、早めに踏み切った

2.試合展開

でんでん どうど:

  • 90分TOTALのスタッツ(SPORTERIA、スポーツナビも同様)では、ボール保持率は44:56で、70分で退場者が生じたアウェイチームの方がボールを持っていたと示されています。
  • これは、神戸は札幌の”いつものやり方”(マッチアップを合わせてパスの受け手を全員消す)に対し、素直にボールを捨てる(失うことを覚悟で簡単に蹴って、結果的に札幌にボールを持たせる)選択をしたのに対し、札幌はとりあえずハーフウェーラインまではボールを捨てることがなかったためです。

  • 神戸がボールを捨てることができたのは、先述の、札幌相手だと相手のエラーを待っていればいい、とする話の他に、17分にセットプレーから山川のミドルシュートで先制したためです。
  • ピッチ上も周辺のスタンド(多分無料招待か何かで家族づれが異様に多かったです)も大変盛り上がって、ホームチームを後押しする雰囲気が一気に醸成されましたね。ついでに山川は直後にゴール前で決定機をシュートブロックするなどで、個人としても乗るきっかけになったように思えます。
  • なお、負けると「外国人FWとGKが悪い」と考える熱心なコンサドーレサポーターの方に向けた情報ですが、このシュートのxG(SPORTERIAのTwitterより)は見た感じ、0.05くらいなので、「(Optaルールで算出しているxGの主要な基準である、「シュートを打った位置の座標」で考えると)かなり決まりづらいシュート」ですね(20回撃って1本決まるかどうか、のシュート)。
  • それが決まったのはGKの能力や対応とか、DFの状況とか色々あるでしょう。Opta方式のxGはDFの状況は考慮していないみたいですよ。シュートの飛んだ位置は考慮しているはずですが、シュートスピードはどうなんでしょうね。

  • さて、札幌はボールを持っている時も、基本的な形とやり方はいつも通りで、右に宮澤、左に深井(普段は高嶺なのでキャストは代わっている)。
  • いつもと違うのは、岡村はボールに触るのがあまり得意ではないのか、自信がないのかわかりませんが、ボールを受ける(≒宮澤がプレッシャーを受けた時に、逃しどころになる)場所にあまりいなくて、最初から高めの位置にいて、宮澤や深井にボールを運ぶ仕事は任せるような振る舞いが多かったと感じます。
  • 岡村が”持ち場”からいなくなると、札幌はビルドアップの局面で、ピッチ右半分には宮澤しかおらず、宮澤が広大なスペースを使える状況ではありますが、宮澤はドリブルでボールを運ぶ(conducción)際のスピードはそんなにないので、仮に武藤や小田が宮澤を厳しくチェックしていれば、ボールをsmoothに運ぶことは難しかったと思います。

  • しかしながら、かつてクライフが引退して監督ライセンスを取得する際に「誰がクライフにサッカーを教えるんだ?」という議論があったそうですが、ロティーナも偉大なイニエスタさんにはそこまで強く戦術的な干渉をしないでいるのか、神戸の1列目守備はほとんど武藤が担う構図でした。
  • その武藤も、宮澤と深井の2人に対して気温30度の下で制限をかけることは、15分くらいで諦めたので、札幌はハーフウェーラインまでは難なく到達できるようになります。
各選手の特性やタスクとその影響
  • また、札幌は、GKの小次郎がほとんど宮澤や深井と同じくらいの高い位置をとって、この2人が中央にいなくてもいいっすよ(そこの仕事はおれがやるんで)、とするメッセージを送ります。
  • ただ、宮澤&深井としては、小次郎にそうした仕事をやらせたくないのか、それとも荒野がいつも通り(思案があってというよりはナチュラル、感覚的な選択で)後ろに下がってボールに触るようになったからか、左から荒野、深井、宮澤と並んで(もしくは順不同)、3人でボールを運ぶ状態に、次第に推移していました。

見極めと線引き:

  • 神戸は、荒野、宮澤、深井が神戸のブロックの前でボールを持つのはOK。この次の展開として、札幌はサイドに開く(もしくは、押し出されている)中村や岡村に渡しても、それは神戸が困る状況が生じないので効果的ではなく、ウイングバックか中央のシャドーにボールを渡して、前を向かせたいところ。神戸としては、前を向いて札幌の仕掛けが成功する状況は受け入れず、ここが”線の引きどころ”だと言えます。
  • 札幌は十八番であるウイングバックへのフィードをまず狙います。この試合、左の深井からルーカスへのフィードが冴えていて、利き足だけでなく左足でも深井がボトルネックになることなく、シンプルに小気味よく配球しており、かつその精度は、このパターンを読み切っていたはずの神戸の左SB酒井による前進守備を何度か突破する見事なものでした。しかし、フィードがピッチを横切る間に神戸のサイドハーフが下がって、札幌のWBを2人がかりで守ってストップしていたのは先述の通りです。

  • 中央では、札幌は青木がボールホルダーに近づき、”中継点”になろうと試みますが、ちょうど青木が降りてくる周辺は橋本が目を光らせていて、青木が前を向くことは難しい状況でした。「効いてた人」を一人挙げるなら、この試合で私の印象に残ったのは橋本で、スペースを消すだけではなく機を見てボールを狩りに出ていくことで、両チームのパワーバランスをボール保持率よりもニュートラルな状態に近づけていました。

差し引き(ほぼ)ゼロ:

  • また冒頭に書かなかった要素を挙げると、前線中央の構成が青木、駒井、金子の札幌は、神戸のDFを中央で牽制するだけのクオリティがあまりにもなさすぎるな、と感じました。

▼音でます 仕事中の方は注意

  • ▲のヴィニシウスのゴールがわかりやすい例かと思いますが、右サイドでボールを持っているバルベルデがlook upしてクロスボールが入りそうなタイミングで、FWのベンゼマが中央からニアに動く。DFはみんな中央のベンゼマを意識してファーでヴィニシウスがフリーになる。
  • 勿論これは「ベンゼマに出してきそうなシチュエーション」だから効果があるのですが、コンサの場合は、駒井の頭にクロスボールからのヘディングシュートとか、駒井の足元に入ってからターンしてペナルティエリア外からシュート、とかそこまで強烈なパターンではないので、神戸のDFはそんなに中央を警戒していなくていいんですね。
  • ですので、神戸のサイドを守るDFは中央寄りのスペースが空くことや、金子や駒井への監視が甘くなることを気にせず、サイドでの対応に注力できる。
  • 札幌は4枚の神戸DFに対して、前線に4〜5人が横幅をとったポジショニングで、ウイングバックにボールを届ける手段は一応持っている。横幅を使うことはある程度はできるのですが、そのメリットを打ち消すぐらいのボトルネックが前線にあったように思えます。
中央で脅威を与えられないと”優位性”が発揮されない

空虚なキャッチフレーズ:

  • 札幌の前線4〜5枚による仕掛けが一次的に不発に終わると、二次攻撃構築の必要性が生じます。
  • ゲーム中での典型的な例を挙げると、右のルーカスのドリブル突破がストップされた(ボールを奪われるとか、進路を封じられて立ち往生とか、迂回させられるとか…)とする。ルーカスのサイドは酒井と小田が守っているとして、その分ピッチの他のエリアは必ず「どこか」が手薄になっている。
  • 答えを言うと、神戸はファーサイドの選手にマンマークをつけたりはしないので、サイドチェンジすればフリーの選手を見つけられる状態になっているはず。

  • 「答え」を知っておくこと自体は全く難しくはなく、焦点はボールをそこに届けられるか。
  • ここで、それまであまりボールに関与するタスクがなかったDFの岡村が重要になります。なぜならルーカスに一番近く、かつルーカスの後方にいればバックパスでボールを逃しやすい位置で、かつ対面の小田がルーカスに引っ張られているなら自信はフリーになりやすいから。
  • 一旦ルーカスからボールを逃したら、宮澤や荒野を経由してサイドを変えてもいいですが、田中駿汰はよく自身でそのままサイドチェンジを狙います。

  • が、岡村が自身の周辺で起きていることを十分に理解していたようには感じませんでした。
  • まずルーカスにボールが入った段階で、岡村は縦方向にオーバーラップしたり、中央に入っていったり(多分最後にクロスボールか何かのターゲットになるイメージなのでしょう)で、ボールの中継点にもなれないし、場合によってはルーカスの進路を塞ぐ場所にいたりもしました。
  • その昔、ポジショナルプレーみたいな言葉もなかった頃に、「使う選手」とか「使われる選手」とか言ったりしましたが、岡村は典型的な後者ですね。
一次攻撃で尻すぼみになるコンサ

  • ▲に示しましたが、ルーカスは縦突破もできない、バックパスもできないだと、ゴールに対して後ろ方向もしくは横方向にボールを晒しながらドリブルして自ら迂回する。札幌がこうして時間をかけている間に、神戸は反対サイドも含めて枚数とポジショニングが整って、札幌が得意のサイドチェンジ1発で作ったアドバンテージは完全になくなっていました。

  • 田中駿汰が起用できないなら、ここに置きたいのは本来は西みたいなタイプ。ただ、ルヴァンカップ初戦で鳥栖の大卒新人FW・梶谷(見るからにマッチョな選手でした)に開始5分で蹂躙されていた西だと、「局面に最少人数だけ確保して守る」とするコンセプトにアンマッチなんですよね。

  • ですので、岡村なんでしょうけど、岡村はこの様子だと中央でしか水準を満たせなくて、宮澤とバッティングする。それなら宮澤が右でもいい気もしますが、後半に汰木が宮澤をシンプルなアクションでぶち抜いたところから4点目が決まったように、サイドは速く力強くアクションする能力が求められるので、(18歳の頃から「遅いから前線は向いてない」とする評価だった)宮澤でも厳しいんだろうなと思います。
  • 確実に言えるのは、特定の選手が極めて狭い範囲の役割しかできない(かつ、そういう選手が複数いる)としたら、それはトータルフットボールとは全く逆、別物です。

博打に勝ちかけるが:

  • 後半開始から、神戸は小田→郷家で、汰木が得意の左に回ります。札幌は青木を下げてドドちゃんが駒井の役割(誰かがワントップとするならドドちゃん)。駒井が青木の役割に回る。

  • ▲前半終了時にはこんな風に書いたのですが、中央にFWを入れたいとして、中島は現状、国道334号線みたいに広大に開けた道がないと良さが出ない(菊池相手だとエアバトルでも存在感を出せないでしょう)。シャビエルは以前書きましたが、トレーニングのミニゲームみたいな特殊なやり方じゃないとFWとして機能しない。ドドちゃんを挙げなかったのは、この2人以上に難しそうだな、と思ったからです。
  • 案の定、ドドちゃんと金子の2トップだと、神戸のCB2人とGKに有効なプレッシャーをかけることができなくて、後半立ち上がりからは少しずつ神戸がボールを持ち始める展開になったと感じています。
  • が、59分になんでもないクロスボールを前川がファンブル。ここで決めるあたりがドドちゃんの読めない魅力ですね。

「君、CBやれんの?」:

  • スコアが1-1となって神戸は62分にイニエスタ→大迫。
  • どんだけチームが未完成でも1人でチャンスを作る能力がある相手に対し、札幌は深井1人に対応を殆ど任せてました。
  • 前半、私はこの2人のマッチアップをずっと見ていたのですが、一番危険な位置である、武藤の背後にいる時はボールが入らないように(かつトラップから1発で入れ替わられないように)体の向きとポジションを調整する。
  • 対するサッカー仙人は、深井がほとんどマンマークでついてくるのは知っていて動かない、といった様子でした。私の解釈だと、深井がどのシチュエーションなら自分を捨てるのか、とかボールを奪いにくる時の間合いを、ゲーム全体だけでなく自身の周囲の情報として収集していたんじゃないかと思っています。ですので、深井が抑えたとも言えますし、自ら大人しくしていたとも言えるかもしれません。
  • いずれにせよ深井は間違いなく札幌の立役者でした。イニエスタさんのボールタッチ数は16回だったようです。

  • 62分の交代は、その深井及びミシャチームに対して、ロティーナからの「じゃあお前(膝が悪いみたいだけど)CBはできるの?大迫か武藤のマークはできるの?」というメッセージでもありました。
  • このブログだと毎試合書きすぎて、もう最近は端折っていますが、コンサは相手が3トップなら3バック、2トップなら4バックないし2バックになり、かつ、この枚数調節はアンカーの選手がCBのように相手FWをマークする役割を担うことで行われます

  • ▼の武藤のゴールにつながった直前のプレー(郷家が右サイドでファウルを受ける)は、GK前川から大迫へのロングフィードが後方に逸れて、郷家が拾ったところからでした。
  • この時、大迫と空中戦で競ったのは深井。神戸が2トップに変わったことで、早速「CBの仕事」を押し付けられる格好になっていました。

  • そして69分の菊池の得点の前にも、深井のファウル(イエローカード)になるプレーがありました。
  • 札幌は左の中村と菅のところで詰まってボールを失う。深井はこのプレーに備えて予防的なポジションをとっていましたが、背後にスペースがあることを察知した武藤がボールをスペースに蹴って一気に加速する突破を図る(ファウルを誘発)。深井はマッチョマン武藤とのスピード勝負だと何もできず倒してしまいました。


  • ですので、大迫と武藤の2トップになった時点で深井がCBは厳しいので、例えば岡村を真ん中に回すとか、そうした戦術的な柔軟性があると対処できたかもしれません。が、コンサにはそれは無理というか、柔軟性がないですよね。
  • よって、この暑さで消耗する中、”ありもの”で神戸のタレント軍団と当たっている時点で、セットプレーからの失点がなくとも、またGKが菅野であっても、どっちみち厳しい展開になっていたんじゃないかと思います。

3.雑感

  • 一言でいうと、ほぼ全て予想通りでした。

  • 例によって点差よりも内容にフォーカスしてまとめると、チャンスらしいチャンスが作れないコンサあるあるなゲームでしたね。金子&駒井だと速攻がキーになるんでしょうけど、そうした設計も感じませんでした(持たされると、素直にボールを持つけど。そこから何かが起こる気配は事故以外でない)。

  • 今回、神戸でよかったのはハーブ園です。木陰でハンモックに寝転がっているだけで楽しい。キックオフ時間がもう少し遅ければ、そのまま本を読んでいたりしたかったです。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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