1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 湘南ベルマーレは前節、初勝利を挙げたものの、9試合で勝ち点6の17位。この試合で採用された1-3-1-4-2が基本布陣で、GKの谷、最終ラインの大岩と山本、前線の瀬川以外は、メンバーを入れ替えながらまだ試行錯誤している感があります。
- 一人挙げるなら、タリクのインサイドハーフでの起用が目を引きます。これはcarry the ballの能力に期待していたのだと予想します。
- 札幌は小柏が第4節以来のベンチ入りで、前節欠場の福森も戻ってきて、興梠以外はほぼ現状のベストメンバー。
- 前線は中島の台頭がありましたが、ルヴァンカップやトレーニングの情報(報道)によると、興梠、小柏が使えない状況でミシャはシャビエルのトップでの起用に積極的なように思えます。この試合では、スタート時点では荒野がトップの位置にいましたが、試合中に何度か入れ替わっているようにも見え、明確に決めていなかったのかもしれません。
監督・選手コメント(湘南側):
スタッツ:
【更新情報】
— SPORTERIA (@SPORTERIA_JP) April 29, 2022
J1 第10節 #札幌 1 - 0 #湘南
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- いくつかコメントしますと、
- シュート数:13-11も、枠内シュート数は7-9で湘南優勢
- しかしxGは札幌の方が高め:というか湘南が低い → xGはシュート地点の”座標”を示す性質が強い(菅のペナルティエリア外からのゴールでは加算がごくわずか)ので、湘南はゴール付近にあまり侵入できていないことがわかる(札幌も決して良かったわけではないが、札幌以上に湘南に課題あり)
- エリア間パス図:互いにペナルティエリア内にパスでの到達回数が少ない。湘南はビルドアップは中央を避けてサイドから。
2.試合展開
まずまずの形ではあったが:
- 湘南の選手監督のコメントを適宜使いながら振り返ることとします。まずは田中聡の以下の証言から。
(相手に厳しく狙われていると感じていたか?)試合前から自分の後ろに誰かしらついてくるというのは、去年もそうだったので予想はできていて、そのうえで自分がどうにか打開してやろうという気持ちだったんですけど、それが空回りしてそこで取られてリズムを崩してしまった。もっとシンプルに味方を使ってワンタッチとかでやればもっとボールを失わなかったし、前進することができたのかなと思います。
- 湘南サイドとしては、札幌がマッチアップを合わせてくるのは想定通り。そこで①ポジションチェンジをして札幌守備が捕まえにくい状態を作る、②そのままで勝負する、の2通りの選択がありますが、湘南は後者でした。理由を一つ挙げるなら、「動くとかえってバランスが悪くなる(本来いたい場所にいられない)」から。
- 札幌がマンマークで人を捕まえてくる状態を湘南は”受け入れる”ところからスタートします。受け入れた上で、田中は深井と勝負していく、そこで田中が深井を剥がすことができればビッグチャンスになります。
- しかし田中本人が振り返る通り、田中のところで湘南はクリーンに前進できていたとは言い難く、何度か引っかかって札幌が高い位置でボール奪取→逆襲、といった展開になっていました。
- この試合固有の戦術的な話をすると、札幌の1列目はそんなにボールホルダーに強くアプローチせず自重し、「縦切り」と明確に言えるほど誘導っぽくもなかったのですが、札幌はそれより後ろの選手がマークしているマッチアップで、ボールが配球されるところを狙いどころとしていたと思います。
- 田中の証言通り、深井は田中を消すことに成功していましたが、札幌の2人のCB、宮澤と高嶺(この2人はCBじゃないけどこの構図だと明らかにCBのタスクになる)が湘南2トップと対峙するマッチアップでは、湘南は前に出てくる札幌のDFに対してフリックやワンタッチプレーからのレイオフ(ポストプレーでボールを落としてすぐまた前にパスするやつ)といったグループ戦術を駆使して、CBを剥がすことにある程度成功していたと感じます。
- 札幌のDFの前、深井の背後のスペースで湘南の誰かがボールを持って前を向ければ、札幌のDFの背後には必ずスペースができている。
- 特に、マッチアップ上、茨田を見ている福森の背後は極めて無防備ですし、キム ミンテのような俊足のカバー役も用意していない札幌のこのスペースを、湘南が突くことは容易な構図でした。
ワンタッチプレーで札幌のCBを剥がして背後を狙う |
- ただ湘南はボールを持った時にだいたいこのパターンしかない。何が問題かというと、フィニッシャーが瀬川と町野、場合によってはタリクも出てくるとしても、この全員がシュートまでのプレーでかなり長い距離をスプリントしなくてはならず、必然とこの負荷がプレーの精度に影響します。
- 瀬川の自省的なコメントを拾っておきますが、
僕含めてカウンター精度が足りなかったこと、あとはシュートへの意識と相手に怖がられるような攻撃ができなかったことが良くなかったと思います。
札幌のほうがゴール前の迫力はあったし、クロスに対してとかセカンドボールに対しての迫力はあったと思うので、そこは見習わないといけない部分だと思っています。でも智さん(山口監督)が求めているサッカーは最初の頃と比べるとだいぶできるようになっているので、そこのクオリティと精度、あとはその時間帯によって押し込む攻撃をするのか、やり切らないでもう一度保持するのかとか、ゲームを読む力や判断が必要。僕も何回もミスをしてしまいましたけど、そういうミスも少しずつ減らさないといけないなと思います。今日は本当に攻撃時の迫力が少し足りなかったのが原因だったと思います。
- 「ある程度、形は作れていて、あとは決めるだけ」とは出世された札幌の元関係者の方も言ってましたが、そこに構造的な問題もあるとしたら、より負荷を減らす、というのは一つの解決策ではあります。
広く守るということ:
- 田中聡と記者との別のやりとりで、
(自身ももう少し前に絡みたいというのはあるのか?)今日みたいな試合だと前線に相手が残っているので行きにくいですし、ワンアンカーなので前に出にくいところはありますけど、去年も隙をついていけていたので、行けないことはないと思う。これから狙っていけるようにやっていきたいと思います。
- この言葉通り、札幌の前線の3選手…駒井、荒野、シャビエルがあまり自陣に戻らずに、湘南から見ると前に残っていた状態に見えて、前後分断っぽい形から札幌は切替の早い展開に持ち込んでいたといえます。
- 札幌が前残りになる理由は、
- 高い位置から守備を開始し、一応ボールの奪いどころはある。
- が、そこに強烈に誘導しているわけでもなくて、「奪いどころで奪えない」がたびたびある。
- そうなると湘南の速い攻撃に対応すべくマンマーク原則のままズルズル下がって対応。
- 結果的に相手をどこかに誘導して守るというより、各々がピッチ全方位で散発的にボール回収のために稼働している状態に近く、「広く守る」になっている。
- 高い位置で守っている選手は相手の速い攻撃に対して、よほどの運動能力で戻らないと加勢できない。なので諦めて前に残っていることが多い。
- その後、相手の攻撃をなんとかやり過ごして、ボールを回収すると、高い位置に残っている選手にまずボールを渡して、そこから札幌もまた速い攻撃を指向する(時間をかけて陣形を整えようとしない)。結果ボールが行ったり来たりになる。
- 上記のような流れがあってのもので、一応狙いというか意図は多少はあるものの、それがチームにプラスであるかは微妙なところ。
- 一般に、前線の選手が前に残っているなら、その分(後ろにエネルギーを使わない分)、残っている人たちでゴールをこじ開けるとか攻撃で力を発揮できるからOK、そんな設計になっていることが多いと思います(モウリーニョのレアル・マドリーのように)。
- 札幌の場合は、それがシャビエル、駒井、荒野の構成だと、そもそもゴールに向かってプレーする選手が実はいない。
- 一つ指摘すると、ポスト・チャナティップとしてやってきたシャビエルですが、彼は中央のエリアでプレーするだけの強さに欠けていて、シャビエルがシャドーで前を向くなら、それこそライオンハート・ジェイボスロイドのような、相手のDFを背負えるタイプのFWとの併用が必要でしょう。
- SPORTERIAの、シャビエルのヒートマップを見ると、中央ではなくてサイドの安全なスペースに流れてボールを受けることが多いことがわかりますのでぜひどうぞ。
- 駒井も荒野もそうなんですが、湘南が5枚の同数で守っていると、まず誰かが前線で相手のDFに向かっていくプレーをしないと誰もフリーになれない。
- 例えば駒井がDF相手に仕掛けて、その対応(カバーリング)に隣の選手が出てくる。そうなると荒野がフリーになる、みたいな関係性なのですが、この構成だと難しそうだな、との印象でした。
- ですので、広く守って前の選手の個人技で攻める。それ自体はアリなのですが、誰がやるか…ジェイ、武蔵、チャナティップ、アンデルソンロペスでやるならプラスにはなるけど、駒井、荒野、シャビエルだと、広く守ることのデメリットの方が強調される。その辺りのチームコンセプトは今の状況で、これまで以上に不明瞭な印象が強くなっています。
3.雑感
- このシーズンで最も「持たない側」であるチームとの6ポインターに、菅のスーパーゴールでなんとか勝利しました。勝ちはしたものの、ボールを持ってやれることがどんどん減っている印象は否めないところです。
- 湘南は、交代策を見てもおそらくこのやり方(ロースコアのまま推移させて、オープンな時間帯でウェリントン投入)しかないはず。菅のゴールが後半早い時間帯で決まったのが大きく、70分頃までスコアレスで行きたかったのがアウェイチームの思惑だったでしょうか。
- それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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