2022年4月3日日曜日

2022年4月2日(土)明治安田生命J1リーグ第6節 北海道コンサドーレ札幌vs浦和レッズ 〜選ばれるコンテンツか?〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • キャスパー ユンカーは昨シーズンの後半から出場機会が減少しており、その傾向は2022シーズンに入っても続いていて依然として様々な憶測が存在します。江坂でスペーシングしたいのかと思えば明本が出たりとまだ考えがよく見えません。ただこの試合ではトップにユンカー、その下に江坂、両脇にモーベルグと明本と、関根はベンチスタートですが割とオーソドックスな起用できた印象を受けます。
  • 札幌は小柏の負傷離脱が続き、興梠は契約条項により出場不可。素直にトゥチッチをスタートから使うのではなく登録上はシャビエルがFW扱いで、アンカーの高嶺と深井を併用と、普段と比べるとちょっと”捻った”感じのメンバーを選んできました。なぜだか知りませんが、浦和、川崎、マリノス相手だと過剰に意識していてやり方を変えてくる監督ミシャの性質を踏まえると、とりあえずスタメンを見て「はーそうきたか」と感じました。
  • 一つ言えるのは、中央にストライカーがいないからルーカスはベンチスタート、割とフィニッシュに単独で関与できる金子と菅なのかな、と感じました。あとは福森(一応病み上がり)の周囲をどう防衛するか、の観点もあったでしょうか。

やり方は分かりきっているとして:

  • 浦和側の視点で考えると、札幌の、(特に守備でのやり方)に対して
  1. ついてくる相手をどう利用する(動かす)か
  2. (ボールを捨てるなら)どこでボールを捨てるのか(→ボールを捨ててもゲームのコントロールは手放してはならない)
  • といった点がポイントになるでしょうか。以前は札幌の積極果敢な守備を嫌って、とりあえず長いボールを蹴って回避、でした。ただ、それだとキムミンテなり、福森なりサイズのある選手が揃った札幌が簡単にクリアしてしまう。ですので、なるべくはボールを持った選手がギリギリまで札幌の守備を引きつけてからパスして、スペースを作理ながらプレーしたいはず。
  • そして、いかにゴールを奪うか?という論点については、札幌はDFが全部マンマークでついてくるので、ゴール前にスペースを作りたいなら浦和の前線の選手の誰かが「どければいい」。ゴール前からいなくなりながらプレーするなら、極論トップはユンカーにこだわらなくてもいい、そんな考え方もあったでしょう。

2.前半

フリーガイ江坂とディ・マリア明本:

  • 浦和は1-4-2-3-1と表記されていましたが、実際は少し変則的な形になっていました。配置だけ先に確認します。
浦和のシステム
  • 札幌陣内で札幌がボールを持っているときは、江坂が左に出て、中盤に横3人…柴戸、岩尾、明本で並ぶ1-4-3-3。札幌のビルドアップが成功して、浦和陣内に撤退すると、私にはそのまま1-4-3-3に見えましたが、こんな意見もありまして、
  • 私には1-4-4-2にする時は決まった時間帯(リードした後)にやっていたように見えたのですが、ともかく撤退するときは明本が長い距離を走って大外をカバーします。
  • ボール保持は割と形が決まっていて、SB2人が大外、ユンカーがトップで明本とモーベルグはハーフスペースに入るシャドー的な役割でスタート。江坂はフリーマンで、中央〜左寄りが多いですがたまに右寄りにも流れてくる。数字で示すと1-2-1-1-1(これが江坂)-5 みたいな感じでしょうか。明本はほぼトップに近いところまで大移動します。

浮き球蹴らせるのはOK:

  • 浦和の守備の方針を一言で言うと、「中央を封鎖して札幌に長いボールを蹴らせる」。ただ前線はショートカウンターを狙っているため、モーベルグと江坂が”外切り”で中に誘導するところからスタートします。
札幌が浮き球でビルドアップするのは多分想定内
  • 札幌は高嶺や宮澤がボールを持たされる形になりますが、この時に簡単に中央にパスを出さない。これは(チャナティップのような)中央でボールを扱える選手がいないからなのか、浦和の対応を想定してリスク回避で蹴ることを決めていたのかはわかりません。
  • いずれにせよ、ピッチ上の事象について説明をすると、札幌が長いボールを蹴るのが続いて、かつその精度や行き先が浦和の準備や想定の範疇内だと、浦和はDFがスライドすればボールの行き先に対応できる。札幌のチャンスに直結するようなプレーは生じにくい状況でした。
  • サイドにボールが渡っても、札幌は中央にターゲットはいないから放り込まれてもCB2人で固めておけばOK。金子はたまに中央にドリブルで強行突破を図ってきますが、枚数を用意していればスペースは消せるので足を振り抜く余地もない。

  • ゴール前でスペースがないと、チャナティップや興梠、ジェイのようなスペースがない中でもプレーできる選手がこの日の札幌にはいない。駒井、荒野、そして登録上はFWで、割と中央にいることが多かったシャビエルも密集地帯でプレーできる感じではないので、次第にボールを貰いに下がってくる(≒ゴール前から札幌の選手がいなくなる)ことになります。
  • そして、この形は札幌は準備していた訳でもなさそうなので、そこから何かが起こる訳でもない。

  • 結果的には72分、福森が下がった後にその福森の位置にスライドしていた高嶺のやや強引な放り込みから、こちらもシャドーにスライドしていた金子がうまく収めての反転シュートでゴールをこじ開けますが、これは外国人FWというか、かつての都倉みたいなというか、そういう個の力を発揮した金子の方を褒めるべきでしょう。それ以外は、浦和は札幌に対してほとんどの攻撃を封殺していたと感じます。

時間の問題:

  • 10年以上前に、当時の浦和の監督、ゼリコ・ペトロヴィッチ氏が記者会見で「ブロックを作って守るチームを崩せていないがどうするのか?」との問いに対し「一般にはブロックを作ってない状態を狙って速攻を仕掛けた方がいい」みたいなやりとりをしていて、当時これは否定的に捉えられた記憶があるのですが、このゼリコの話は間違っていないし、かつ高速化が進む現代のサッカーだと常識というか標準装備になりつつあります。
  • この考え方も踏まえると、札幌はマンマークで人を配置して広く守ってくるので、浦和が自陣からビルドアップをしていくシチュエーションで既に札幌のDFにはスペースがある。逆に、札幌陣内に押し込むと、5バックで守ってスペースを消してくるので、浦和としては、札幌陣内にボールを運んだらすぐに攻撃を完結させる、というイメージは持っていたと思います。

  • 札幌はお約束の同数守備というかマンマークというか、のやり方で対抗します。ただ、シャビエルが数に入っているこの日の札幌の前線のユニットも、やはり2021シーズンまでのそれと比べると強度が落ちているように思えて、積極的にボールを狩りに行っているかというと微妙でした。
  • そうすると浦和のDFには多少のスペースがあって、ショルツも犬飼も隙あらばconducción(運ぶドリブル)で前進してくる。その前進からユンカーにボールを当てて、宮澤がついてきてスペースができたところで、背後にモーベルグ、明本、江坂が飛び出してきて、常に札幌は同数、少ない人数で浦和の強力アタッカーに対抗する、そんな展開が続きます。

  • 30分にモーベルグがPKを決めて浦和が先制しますが、DFとFWの枚数が3on3になるシチュエーションで、かつ対面にある程度ドリブルで仕掛けられる選手がいると、やはり福森だと対処が難しい。
  • PKの場面は、福森がグラビアアイドルのようなポーズ…腕を全開にして身体を大きく広げた状態で手に当たってしまったので言い逃れはできない状況でした。

3.後半

流れを変えるカード:

  • 先にカードを切ったのは浦和。56分にユンカーとモーベルグを下げます。理由は「右サイド(モーベルグのところ)で押し込まれていた」とのことで、それじゃあユンカーは変えなくても良くない?って感じなんですが、やはりチーム設計上、9番の選手をそこまで重視していないのかなと思います。
  • 札幌は60分にシャビエル→中島で福森→ルーカス。右の金子がシャドー、駒井が下がって高嶺が最終ラインに入ります。ここから、ようやく本職というか9番タイプの中島が入って、(かなり)粗いながらも荒々しく前線で奮闘し、またこのメンバーで一番ゴールに直結するプレーができる金子がシャドーに入ったことで、札幌が少しずつ攻撃の形を見せ始めます。

  • 金子に関しては、ウイングバックだと自陣の最後尾から前線までカバーしなくてはならない。札幌の攻撃は、荒野、シャビエル、駒井の3人だと速攻で終われないとするなら、金子の攻撃参加を毎回待つ必要があるのですが、それなら最初から金子は前に置いておけばよかったんですよね。金子のシャドーは小柏やシャビエルと被り気味なのが難点ですが、興梠、小柏がいないこの試合だと最初から採用してもよかったと思います。

  • そして72分の金子のゴールは、高嶺のやや角度のないところでのクロスから。これは福森がよく蹴っているボールでもありますね。その意味では既視感というか割と決まったパターンで炸裂した攻撃だったといえるかもしれません。
  • 今回は中島がクロスの逆というか、中央方向に動いて犬飼がそれに釣られ、高嶺のクロスが犬飼の鼻先を通過して金子に収まりました。その点では中島の投入が効いたと言っていいでしょうし、浦和の守備におけるこの試合の最大のエラーだったかもしれません。

ノーコメントでお願いします:

  • しかし77分に荒野が危険なプレーで1発退場。同数守備のチームの選手が消えるともうどうしようもない。反撃ムードは一気に萎みます。
  • 浦和は柴戸→小泉で、”増えた”枚数をまたフリーマンに使います。札幌は前線守備は中島に頑張ってもらうというか、とりあえず置いておく感じで、後方に枚数を確保して徹底抗戦モードに。金子が足を攣りながらもロングドリブルで時折スタンドを沸かせます。
  • ただ、ラスト15分はサッカーよりも小競り合いの印象が強く、戦術的にどうこうでもない展開でしたのでこの辺で失礼させていただきます。

4.雑感

  • 前のシーズンのこのカードは、札幌の1勝1分。内容で圧倒していた、って感じでもなかったですが、浦和はビルドアップもろくにできないチーム、って印象で、そこを比較点とすると浦和はとりあえずビルドアップはそれなりにできるようにはなっている印象でした(ただ札幌の前線守備の圧力が下がってるのもあるんでしょうけど)。ともかく何らかアップデートはされていました。札幌は弱くなったというより基本的に変わっていなくて、ちょっと取り残されてしまっている感があります。
  • 荒れた展開については、特に言いませんというか、とにかく「個人で頑張る」以外に指針方針がないチームなので予想できた話ではありますね。話題になってないだけで似たような展開は過去にもありました。

  • ただエンタメとしては、喧嘩が話題になるようでは厳しいですし、一部のサッカーファンはこれで喜ぶのかもしれませんけど、もっと中身のある試合をしないと厳しいな、と思ってしまいました。それでは皆さん、また会う日までごきげんよう。

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