2021年11月7日日曜日

2021年11月6日(土)明治安田生命J1リーグ第35節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 ~君が話していたはずのこと~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果

  • ミッドウィーク(祝日)の敗戦(vsFC東京、0-4)を受けて、ロティーナ監督の電撃的な解任に踏み切った清水。この日のスタメンでは、中盤センターに竹内、右に西澤、左の中村、という構成は新監督の色が表れていると言えるでしょう。システムは別に、1-4-4-2表記でもいいのですが、2トップのプレーエリアや役割分担を考えると縦関係意識だったのかなと思います。
  • 札幌は、深井が12試合ぶりのスタメン復帰。荒野がその分、前線にスライドする形ですが、選手特性を考えると駒井と逆のような気もします。


攘夷の風:

  • プロジェクトのデカさ(投資したコスト等)を考えるとロティーナはまだ我慢するのかな、とは思って見てましたが、静岡やオリジナル10としてのプライドなり、降格時の減収といった実利を考えるとこれ以上は耐えられない、とする考え方はわかります。

  • さて、ロティーナのサッカー観などは以前書いた通りですが、彼はサッカーについて「何かを積み上げたり能動的に動いて均衡を崩すもの」という足し算的な思考よりは、「より重大なミス(エラー)をなるべく回避しながら相手のエラーに乗じて攻撃するもの」という引き算的な思考が強い監督だと思っています。
  • セレッソで言うと、ファンタジスタの柿谷は前者での足し算的なチームでは評価されるけど、彼に限らず当たり前のことができないとすれば、引き算的な思考だと評価は低くなる。
  • 一方でセレッソで買われていた、攻撃の中心選手が坂元で、彼はチームのタスクを守りつつ、特にオフェンスでは大外の決められたポジションで違いを作り出せる(得意なプレーをするために勝手にピッチ上をフラフラしなくても仕掛けて勝てる)のが優秀だと感じます。

中山と西澤(とニャース):

  • 当初、ロティーナの清水で崩しのキーマンとして期待されていたのが、サイドアタッカーの中山だったと思いますが、イマイチ求められた役割を遂行できなかったのが誤算だったでしょうか。
  • 徳島ヴォルティスにも言えますが、「ポジショナルプレー志向なのはいいけど最後にボールを届けて勝負する役割のウイングに、質的優位がない」(リターンがなくてそれまでのプロセスが全部無駄になる)のは見ていてつらいです。札幌にルーカスフェルナンデスがいるのはこの点では極めて幸運ですし、よそのクラブに行けばもっと活躍できるのかなと思います。


  • これに対し、ロティーナが来る前の2シーズンで最もゴールに絡んでいた選手のひとりが西澤。この試合でもセットプレーなどで札幌守備陣を脅かしますが、彼がロティーナ体制だとあまり使われなくなったのは、恐らくプレースタイル的にウイング(タッチライン際で孤立した状態から相手DFとの1on1に勝利してフィニッシュに持ち込む役割)ではないから
  • セットプレー以外だと西澤が得点に絡んでいるパターンは、中央付近でかつ相手DFが整っていない比較的オープンな状態が多く、ウイングというより選手特性的にシャドーだから、1-4-4-2なら前線2トップの一角などでしか使いづらい、ということだと思います(セレッソの坂元みたいなタッチライン際からの仕掛けが得意ではない)。
  • 札幌の金子拓郎にもちょっと似ているのかもしれません。金子は、ミシャは大外での起用も好みますが、ここまで右ウイングバックとして出場してアシストはゼロ。彼のいいところは、リスクを冒せるシチュエーションで強引に中央に突っ込んだ時に突破からそのままフィニッシュまで行けるパワーや馬力であって、サイドアタッカーだと最終的には中央の主役(FW)を活かせるだけの器用さだったり賢さがひつようになりますが、ちょっと違うかな、という点がアシストゼロのスタッツに表れている。

  • ロティーナと違って、「足し算志向」であろう(大体の日本人指導者はそう)平岡新監督が足し算をするために、ゴールに絡む能力のある西澤をスタメンかつ攻撃のキーマン的な役割で使ってくるのは非常によくわかります。
  • ただ、西澤が右だと、恐らく考えていたパターンや展開は、トップでチアゴサンタナが潰れて西澤が敵陣に侵入できる余地を作る。左だと西澤が何らか中に入ってくるシャドー的な振る舞いになるんでしょうけど、右に置いたのはクロスボールでのラストパスへの期待だったのかなと思います
  • となると、右サイドに西澤を置くなら、清水はここに打開役となる選手がいないことになるので、普通に考えれば、その分、左サイドなのか中央エリアかに、ビルドアップして前線のタレント(チアゴサンタナ、藤本、西澤…)が勝負するためのお膳立てをする仕組みや機能を持つ選手が必要になります。
  • が、左の中村もウインガーや崩しを担うタイプではないので、じゃあ中央とか、もしくはunstructuredなカウンターアタックとかで札幌ゴールに迫れるようにしておく必要があります。


君が話していたはずのこと:

  • といっても監督交代から1日か2日しか経っていないので、やれることは殆ど口頭ベースでの指示や修正だったと思います。
  • というわけで清水は基本的にはシンプルなサッカーに徹してきます。権田がヴァウドに渡したら、ヴァウドは原と中村のサイドで何らかボールを動かそうともしますが、札幌がお決まりのマンマークで迫ってくるので大半の機会ではシンプルにチアゴサンタナへの放り込みを選択。これを藤本と、中に入ってくる中村なりがキープすることに成功したら、右の西澤と原の攻撃参加なり、その時点でオープンな選手を使って、シンプルかつ手数をかけずにフィニッシュに持ち込もう、と決めていたのでしょう。

シンプルなチームに改造

  • ミシャもそうなんですが、こういう「ボールは全部前に蹴りましょう」的な選択だと、ロティーナなりファンマリージョなりの言う「早くボールを手放すほど、ボールは早く自陣に返ってくる」、要は、パスが味方につながるように準備するとかセカンドボール拾えるように調整するとかしないと、ボールが自陣と敵陣を行き来する単調でオープンな展開になるよ、ということなんですが、清水に関してはロティーナの教えは2日でどっかに消えた、と言っていいと思います。

  • 仮に、札幌のDFが本来中盤の選手である高嶺ではなくて、それこそキムミンテのようなタイプだったら、単調に放り込んでくるだけなら難なく跳ね返して終わりなので、札幌は清水の間延びした(攻撃のために広がっていた)中盤のスペースなり、攻撃参加する西澤の背後を使ったカウンターなりで攻撃する機会がもっと増えていたかもしれません。
  • もっとも高嶺は、なんだかんだ今の意味不明な起用法でDFとして成長しているっぽくて、10kgくらい体重差がありそうなサンタナにも簡単には負けなかったと思います。
  • ただ、ミンテみたいに余裕で跳ね返せるというものでものなくて、ゲームを確実に左右しうるこの2人のマッチアップは、DF側が簡単に負けない(いや、負けたら即失点だからね…)けど、清水が蹴ったボールが簡単に札幌ゴールに近づくことにはならないけど、そこから札幌のカウンターが頻発するようなものでもない、互角といえば互角に近いものだったかと感じます。


2.試合展開(前半)

上位と下位の差:

  • DAZN中継によると前半途中で札幌のボール支配率が70%とか、終了時点では67%くらいだったと思いますが、清水がボールを捨てたことで、札幌がボールを持つ展開がメインになりました。
  • 清水は序盤、札幌のGKやDFが保持すると、2トップと2列目の選手が高い位置から捕まえに出てきて「広く守る」志向を見せます。2トップは札幌のCB2人への意識が強く、SHも対面の選手を主に見ているマンマーク色が強いやり方でした。
  • が、どのチームもこのやり方だとGKとアンカーへの対応がポイントになりますが、GKについては「どっちか行ける方が行く」みたいな感じで、アンカー駒井に対して殆ど有効な対策がなくて、駒井が深井や高嶺、菅野に近寄るとそれだけで札幌は清水のプレスを外せていたと思います。
  • 一応、竹内や松岡が駒井についていくこともありましたが、この2人は中央を守るのが本来の役目で、そこは外すことはできない。ですので駒井は終始フリーになることができます。

キャスト的にも左で展開が主体
  • 札幌がボールを落ち着かせると清水は撤退して、ゴール前の枚数確保を優先し、1-4-1-5ないしは1-5-0-5になっている札幌のボールホルダー(後方5人のうちだれか)にプレッシャーがあまりかからなくなるので、札幌は「ボールを渡したい人」に渡すことが容易だったと思います。
  • 札幌がボールを渡したいのは、チームで信頼度が高い福森とチャナティップ。右シャドーに入った荒野が、完全に前線でのプレーの勘を忘れている(もともとシャドーの適性はないのかもしれませんが…)のもあって、途中からは殆どチャナティップを経由するようになります。

  • チャナも福森も基本的には右サイドを見て、金子に渡して、金子が個人で突っ込むか、そこからボールを味方に渡して二次攻撃になるか、というのが主な展開でしたが、札幌のWBにボールが渡ると清水は完全に撤退モードに入って、2トップも自陣ゾーン1(だいたい清水ゴールから35mくらい)の近くになる。
  • これだと、殆どカウンターの脅威も感じない状態で、札幌としては金子の仕掛けから何も生み出されなくても、盤面上では清水の翼をへし折るくらい押し込んでいるので相手は何もできなくなっていて、それだけで一定のリターンがある状態になります。
  • 特に、西澤が自陣深くまで下がると、後ろをあまり気にしなくてもよい福森がやりたい放題になります。
  • というか、福森の対面が三笘なのか家長なのか仲川輝人なのか、ピッチに立っているだけで警戒しなくてはならない選手だとまた振る舞いは変わってくる。西澤だとそこまで気にしなくてもいいので福森の攻撃参加の度合いが強くなりますが、札幌は、福森とチャナティップ以外に決定的な配球ができる選手がいないという問題があり、かつチャナティップはビルドアップのために下がってくることも多いので、福森がどれだけ流れの中で前で攻撃参加できるか?という点が、ボールポゼッションのリターンを得るうえでは重要になっています
  • 2021シーズンの札幌が下位に対して強く、上位チームに殆ど勝てないのは恐らくこれも一つの要因で、上位チーム相手だと福森が攻撃参加できずじり貧になる。下位相手だと、撤退されると崩せるパターンは持ってないけど、放り込んで強引に何とかするなら、それは福森が関与する展開が最も確度が高くなります。


互いの飛び道具:

  • 20分前後にお互いに点を取り合います。17分に清水が、西澤の左FKからチアゴサンタナ。

  • 多分西澤のセットプレーは要警戒、くらいはスカウティングしてたとは思いますが、さすがにこのスカッドだと、最長身が田中、福森、荒野の182cm程度の3人で、後は170cm台、そして小柏、チャナティップ、駒井、菅は170cmちょいかそれ以下なので、わかっててもサイズがなさすぎるな、というのがまず感じるところ(今に始まった話ではないですが)。
  • この時はゾーンで守っていたのが、中央に高嶺を置いていて、そこにサイズのあるチアゴサンタナや片山が突っ込んでくると、ボックス内で手を使えない(オープンプレーだとチアゴに手で対処していたのですが)ので高嶺はlegalに押し込まれて、中央が空いてなすすべなし、でした。

  • が、札幌がすぐに追いつきます。

  • 先の項で書きましたが、清水を押し込んでいる状態がいかにセカンドボール回収が容易(≒被カウンターの今日がない)で、また福森も高い位置をとれるかがわかります。
  • 福森は今シーズンも何度かとんでもないパスで決定機を作っていますが、この時は距離的にはそこまで長くない。20mくらいでしょうか。ここまで前進できれば確度は上がりますし、また本来ビルドアップとはこのように「前進」するだめだと一応書いておきます。
  • 基本的に清水は、昨年の平岡体制のゲームを回想しても、自陣でも「人を受け渡しながら誰かが捕まえる」対応がメインなんだと思います。この時は左CBの井林の背後を片山が守る役割なのですが、札幌が横パスでやり直した時に片山がball watcherになってしまい、そこにピンポイントで出せる福森もすごいんですが、集中力の欠如も感じるところです。


3.試合展開(後半)

飛び道具その2:

  • 開始早々にまた飛び道具が炸裂します。

  • 福森はクロッサーとしてはパワーがちょっと過多な印象を持っていて、特にアウトスイングで左から蹴るとボールの質的に落下点がかなり限定されるため、右利きの選手が左CKは蹴った方がいいと思うのですが、この時は「深井が入ると決まっている位置」に完璧に落としてきました。
  • 清水の守備はゾーンとマンマークの併用で、4人がマンマークでターゲットをケア、最後、深井に入られた藤本はマークが甘い感じに見えますがこれはゾーンで対応しているからで、実はファーサイドを守っている原も田中駿汰に入られていたり、で、残り3戦でここは修正した方がいいと思います。
  • かつでガリーネビルとキャラガーの討論で、CKはゾーンとマンマークどっちがいいか?という議論の際に、どっちかが忘れましたが「FWの選手で守れないやつがいるからマンマークの方がシンプルでいい」と言っていて、それを裏付けるようなアクションでもありました。


早めに動く清水:

  • ビハインドの清水は58分に3枚替え。中村→右に中山、井林→鈴木義宜、藤本→鈴木唯人。前者2人はボールを持った時に特徴を出せる交代だとしたら、少しずつ札幌が落ちてオープンになってくるタイミングで変えた、ということで、そうしたプランだったのかと思います。
  • 札幌も同じタイミングで、深井→岡村、荒野→青木。岡村が例によって右DF、田中が中央に移りますが、恐らく田中がアンカーで高嶺がCBのまま。チアゴサンタナへの対応を考えると逆がいい気がしますが、ただ実際は浮いたポジションに立つ鈴木唯人を、2人ともそこまで意識していなくて、2人でチアゴサンタナを見る状態が多かったでしょうか。恐らく深井の状態を考慮しての交代だったと思いますが、そうした対応になっていました。
  • 67分に清水は西澤→滝。札幌の岡村が投入後に、左に移った西澤と3回マッチアップがあって3回とも止めていて、「岡村やるじゃん」と思っていたのですが、西澤も結構早いタイミングで諦めたこの交代はメッセージが伝わるといえばそうでした。


毎回制御不能になる理由:

  • 70分には札幌のカウンターから、駒井のシュートも権田が横っ飛びでセーブして命拾いします。

  • このプレーにつながる前の展開(クリアボールを片山が処理しようとしたところ、小柏がひっかけて1人でドリブル)もそうなんですが、札幌は運動量が落ちると、カウンターを小柏とチャナティップだけで行うようになっていて、後方の選手は徐々に押し上げられなくなっている
  • ですので、清水が孤立気味の小柏を止めれば、その背後にはスペースがあるので清水も逆襲に転じることができるようになっていきます。

  • 前節やここ最近見られますが、札幌が後半になると前半以上に雑な試合運びになるのは、一言でいうとボールを落ち着かせる機能がチームにないから。トップに収まる選手がいないのに簡単に前にボールを蹴ると、前線の選手もDFを背負うとかではなくてゴールに突っ込むしかないので、結局「早く前に送るほど、早く返ってくる」展開になります。ジェイみたいなスーパーなFWがいれば別ですが。
  • であれば、後ろの選手がなんらかマネジメントすべきですが、高嶺や駒井、荒野、そして福森も常にこの辺りが課題というか、ミシャ自体がそんなことで時間を使わなくていい!とする思想なのか、札幌はとにかく試合を寝かせることができないので、毎試合時間を追うごとにオープンな展開になっていきます。札幌ドームの旧SB自由席のマダムなんかは、そういうものを”見世物”として好んでいるのかもしれませんが。

  • そして、それこそロティーナのセレッソみたいに、ゴール前に放り込まれてもスペースを消せるDF(ヨニッチ)がいるわけでもないし、そういう守り方をしているわけではないので、お互いにボールが行き来する展開は札幌にとってはマイナスの面が小さくない。
  • ですので、83分の滝のゴールは必然っちゃ必然というか、まずこのチームの場合は準備ができていないのに放り込ませている時点でよろしくないのですが、最後、岡村が絞ったところで柳が最後まで大外のDF(片山、一番優先度が低い)を見ていたのはシンプルに個人の戦術的エラーだったと思います。


4.雑感

  • 我らが天才監督は、しばしば「安い失点」と言いますが、お互いに雑に放り込むだけでゴールが生まれるな、という感じで、失点だけを切り取る話でなく、「大人のサッカー」としてはcheapな印象の試合でした。
  • 70分前後からオープンな展開になっていて、清水がこじ開けるのはもっと早い時間でもおかしくなかったのですが、そこは一人でボールを収めて試合に秩序をもたらせる存在…チャナティップが一人で持ちこたえらせていただけ。個人の頑張りは目を引きましたが、「11人で勝利を目指す競技」としては、相変わらず、ところどころ意味不明な構造が散見されるなと感じます。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。

    ミシャは日本に来ないで欧州で監督キャリアを続けて、優秀な参謀がついたら、結構凄い監督になっていた気がします。これだけ特殊なチームを作る監督は欧州でもなかなか見ないので。
    ドイツからゲーゲンプレスとポジショナルプレー的なポゼッションのノウハウを持った若いコーチが入るとか鳥栖のようにアヤックスと提携するとか外から血を入れると面白いチームになるんじゃないかと思っています。
    ロティーナも若手コーチにビルドアップ任せて再生したみたいですし、このままミシャに丸投げするのが良くないと思っているのでコーチ人事に注目したいですが、シュツットガルトとの提携は、ブッフバルトと寿司食べたあとどうなったんですかね。

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    1. 見ていただいてありがとうございます。
      それは戦術的な意味合いで言ってますかね。ぶっちゃけそこまで介入するレベルのコーチ入れるなら、最初からミシャじゃなくていい気がします。
      個人的には、そのifについては、戦術以前にミシャの選手やクラブに対するアプローチ(「試合はボーナス」)が海外だと受容されるのか?という点が興味深いです。多分日本以上に結果が出ないとぼろくそに叩かれるので、結果にこだわらないスタンスだとするなら厳しいと思ってます。

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