1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 前節は王者・川崎をGuard of honorで迎えながら2つ目となる土をつけた鳥栖。この試合にもスタメン出場した中野嘉大、そしてJ1初ゴールとなる先制点を挙げた岩崎は、消化試合ということで札幌が出場を許可する(岩崎は前例アリ)のかとも思いましたが今回は温情なしでした。左WBには大畑、前線は中盤起用が多かった白崎が入ります。
- 山下は後半戦は1ゴールのみと、勢いに陰りがあるようです。右WBは飯野が欠場で、松本がリーグ戦初スタメン。松岡が清水に移籍した後は、中盤底に樋口が回ることが多かったのが、この日は小泉がその役割を担います。
- そんな鳥栖のシステムは、ボール保持はいつもの4バックに可変するとして、ボール非保持は1-5-2-3っぽい形でしたので、ニュートラルな状態では1-3-4-2-1としています。
- 札幌はサブにFW2人、DF4人という陣容からも明らかなように、菅、宮澤、ルーカス、柳、ドウグラスオリヴェイラの離脱でかなり厳しい台所事情。期限付き移籍で貸している余裕もないのですが、選手としては外で出場機会を確保したいのは、それまでの起用法からすると必然でもあるのでしょう。
お互いの基本陣形(①鳥栖ボール保持):
- 陣形だけ整理した方がわかりやすそうなので書いておきます(なお、大畑が序盤に小屋松と交代したので、後者の名前で説明します)。
- 鳥栖のボール保持は1-4-4-2か、1-4-4-1-1が近いでしょうか。4バック+中盤センターに2人が基本なのは多分間違ってないはずです。相変わらず、左WBがハーフスペース付近に入って変則的なポジションを取るのが特徴的です。
- 前線は、以前はターゲットを2人置いていましたが、ビースト林が海外移籍してからはターゲット1人が多いようで、その役割を担う酒井三男は右サイドに流れてくる。これは札幌の左を意識しているというよりは、左サイドが渋滞気味になるのを解消することを考えている気がします。
- 対する札幌は、小柏とチャナティップの2トップ、両ワイドに金子と青木…相手が1-4-4-2ならアンカー深井が下がるだけでマンマークで全員捕まえるのは簡単なので、そのようにしていました。
マッチアップの整理 |
- このマッチアップからの展開がどうなるかは、「2.」に詳しく書きますが、簡単にいうと、鳥栖はGK朴からトップの酒井にさっさと当ててセカンドボールを拾う、で前進(progression)する、この意思統一が明確で、高嶺は酒井との肉弾戦で忙しくなります。ミシャには高嶺が左利きのミンテにでも見えているのかもしれませんが…
お互いの基本陣形(②札幌ボール保持):
- 札幌はボール保持はいつもの1-4-1-5。駒井と深井のところは、深井が後ろなのが基本っぽいですが、駒井が頻繁に下がってくるので入れ替わることもしばしば。
- 難しいのは鳥栖の解釈で、明確だったのは最終ラインが5枚であること、そして小泉が札幌のアンカーをマンマークしていたこと。私が自信がないのは、酒井がワントップでその背後に4人並んでスライドしながら守る1-5-4-1ないしは1-5-2-3(約束事的にはゾーナルディフェンスっぽい)と思いましたが、そうではなくて白崎が2トップの一角で、中盤は3枚のイメージから、白崎が何度か下がってスペースを埋めていたのかもしれません。
- ただどっちみち、鳥栖は札幌の中盤から前の選手はマンマークで関係性をはっきりさせたうえで捕まえる姿勢は感じましたが、前線はそこまで人を強く意識していたように見えなくて、だから白崎はトップではなくて中盤のイメージだったかなとしています。そしてこのことが、札幌6:鳥栖4のボール保持(前半飲水タイム時)に表れていたと感じます。
2.試合展開(前半)
実は似た者同士?:
- 序盤からお互いに、GKから始まるボール保持に対してハイプレス気味に応戦します。
- 札幌は、右FWの小柏がエドゥアルドとGKを両方見る役割になっていました。鳥栖は多分、最初から相手しないことを決めていて、朴は簡単に酒井に当てる。
- 酒井が高嶺をブロックしながら競ってキープに成功したら、セカンドボールを素早くスペースに展開して、主に両サイドのスペースに右SB(に可変する)松本や、右SHの樋口、左SHの小屋松あたりがスペースに走り込んで速攻(相手がブロックを作る前にシュートに持ち込む)を狙う。シーズン序盤からこれしかないのですが、これだけで一桁順位はたいしたものです。”練度”はかなり高いと言っていいでしょう。
- もっとも、酒井は高嶺と並ぶと明確な対格差を感じますが、高嶺が全敗、というほど極端なマッチアップでもなくて、後は札幌は福森-樋口とかは怪しいとしても他はそんなに鳥栖の選手に1on1でやられるでもなく、鳥栖の狙い通りにシュートを浴びまくったかというとそうでもなかったと思います。
- 逆に、鳥栖のハイプレスは、繰り返しますが私には酒井の1トップに見える。酒井が菅野を切りながら、こちらもDF(高嶺や深井)二度追いするところからスタート。
- 実はこの2チームは、見ていると結構共通点があります。
- 攻守でかなり人の配置を変える
- 後方はボール保持重視で選手を起用している
- けどロングボールでの前進が多い(ポジショナルなビルドアップにあまりこだわっていない)、中盤の選手に「下がって受ける」を許容する
- 人を捕まえるマンマーク気味のハイプレスを好む
など。
明確な相違点:
- 一方で明確な相違点もあります。それは、監督のキャラ…は色々な意味で触れない方がよさそうなので別として、一つ挙げるならチャナティップの存在でしょうか。
- 真新しさは一切ないですが、コンディションが整った時のチャナティップはボールを隠しながらターンしてドリブルで前進なり、右サイドの味方への配球なりで、一人でビルドアップを完結してくれる。
- 鳥栖は、仙頭にせよ樋口にせよ、チャナティップのようにマークを背負った状態では同じ役割ができないので、チャナに預ければ勝手に前に運んでくれるのは札幌の明らかなストロングポイントであり、監督ミシャが恵まれている点だと言えます。
- 札幌の菅野や高嶺がニュートラルな状態だと、まず左に展開することが多かったのは、福森もそうですがチャナティップの影響でしょう(右は田中もいるので)。なお福森に関しては、エドゥアルドも一定のフィードが蹴れるのでこの展開だとあまり相違点(相手に対する相対的なストロングポイント)とは言えないでしょう。
否めない手詰まり感:
- 鳥栖は札幌の左偏重、というかチャナ偏重のビルドアップへの対策としては、チャナには島川のマンマーク(多分ほかの候補者よりも、平面の守備で最も粘り強く対応できる選手なのでしょう)。
- 出し手の福森や高嶺に対しては、樋口が長い距離を走ってスライドし、仙頭と白崎も右サイドまでカバーします。配置的に左のはずの仙頭がしばしば中央~右で見られたのはこのためです。
札幌左サイドの展開に対処 |
- それでもチャナはボールを入れようと思えば何とかなりそうでしたが、札幌が鳥栖の対応に困っていたかどうかは、福森と青木周辺を見れば答えを示せるかもしれません。
- 青木は対面の、経験が浅い松本を、ボールを持った時には簡単に翻弄しているようにも見えましたが、そのプレーエリアは本来のウイングポジションからかなり低い位置であって、「必要以上に下がって受ける」のが目立っていました。
- 下がってくる理由は、福森からボールが配給されないため。福森はキックは特Aクラスだとして、スペースをドリブルで運ぶようなプレーはそこまで…なので、樋口が左足をケアする対応を徹底することで札幌のこのサイドはかなり手詰まり気味になります。
- 鳥栖は島川もそうですし、小泉も高い位置から人を捕まえる対応をしてくるので、あまり後方のスペース管理は考えていないように見える。
- となると、札幌はDF背後のスペースを狙いたいところですし、それは主語を小柏に置き換えると猶更なのですが、「裏狙い」は配給役がいないと成立しない。小柏は何度も走り込んでいましたが、福森が封じられた札幌は配給役が見いだせず、そしてGK朴の飛び出しもあって、クリティカルなアタックは殆どなかったと思います。
本当に「安い」時は何も言えないよね…:
- お互いにシュートはそこそこ撃っていましたが、それらの大半はペナルティエリア外からのシュートだったと思います。ロングボールで前進するチームは、「ボールは前に進んでも人は進んでいない」ことが多くて、枚数不足の前線の選手が個でなんとかする、というシュート機会が多かったと思います。
- そんな展開で38分に鳥栖が先制します。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) November 20, 2021
🏆 明治安田生命J1リーグ 第36節
🆚 鳥栖vs札幌
🔢 1-0
⌚️ 38分
⚽️ 樋口 雄太(鳥栖)#Jリーグ#サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌
その他の動画はこちら👇https://t.co/JUEMOXumQp pic.twitter.com/CNlTSmmUNe
- 冒頭に見切れていますが、下がって受けようとした駒井が、小泉を背負っているのでダイレクトでバックパス。これが浮いて、菅野のコントロールがやや落ち着かない。そしてダイレクトでボールをリリースする(キープしてくれない)と、味方はポジションを取り直す時間がないので、高嶺は開いた位置をとれない。菅野は福森へのパスを選択しますが鳥栖が拾って、そのまま樋口の切り返しからのシュートが決まります。
- 「安い失点」…今シーズンの流行語の一つですが、これはまず下がって受ける必要がないのにその選択をしたこと、そしてボールを大切にできなかったこと(味方を助けるでもなくかえって負荷をかけた)、という点で、正真正銘の安いプレーだったなと感じます。
- 後は、あまり個人をねちねち言ってもしょうがないんですが、小柏が全速力でプレスバック(勢いあまって切り返しで置いていかれたが)しているのに、福森はジョグ程度で戻っていて、結果的には切り返しからシュートする時間を与えたのは福森の対応にも原因があったと言えます。
3.試合展開(後半)
- 札幌は後半開始から深井→トゥチッチ。プレーよりもコンディションの問題だとは思いますが、詳細は分からないです。
- ポジションの移動があった以外は、試合のメカニズムや展開、空気感は特に変わらず。お互いにプレスして蹴り合うところからスタートします。札幌はトゥチッチがターゲットのイメージだったと思いますが、あまりトゥチッチは背負ってプレーするのが上手くなさそうで、エドゥアルドとのマッチアップは好転しませんでした。
- それでも65分過ぎ頃?から、札幌のシュート機会が少しずつ増えていったでしょうか。それは恐らく、鳥栖の運動量が落ちて、放り込み→拾って速い攻撃、の展開で出足が鈍ってきたため。
- 鳥栖ベンチも疲労は考慮していて、71分に酒井→山下、小屋松→相良で、まず前線の運動量を補充します。
- 同じタイミングで、札幌は小柏→ジェイ。裏に走る役割がいなくなりますが、それでもボールは前に運べるという判断だったでしょうか。
- 札幌はオープン展開から、ボックス内にかぶり気味にジェイとトゥチッチが陣取ってクロス連射で強引に解決を図りますが、鳥栖は小屋松→田代で高さを補強。結局そのまま肉弾戦を制して鳥栖が逃げ切りました。
4.雑感
- 感想としては、お互いに"possession"の意識は強いとして、progression(ボールと人の前進)はとりあえず放り込んどけ、ってもので、そうなると相手ゴールに近づくにつれて計算が甘いというか、サッカーとしては雑になる。全般にあまりクオリティを感じませんでした。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
ペップがボールを奪う位置が高すぎると攻撃するスペースがなくなるといっていました。
返信削除今季のコンサドーレはこの状態が多かったと思います。
ここ数試合はボールを奪いにいく位置を少し下げようとしている感じですね、ミシャのコメントを見てもハイプレスから現実路線にシフトしつつあると感じます。
来期の補強ポイントはフォワードだと思いますが、どういうタイプが良いと思いますか?
プレスというか、「奪いに行っている人」のアクションエリア?が高すぎるのは去年このやり方を始めた頃からの課題で、
削除https://1996sapporo.blogspot.com/2021/08/20212526vs.html
グアルディオラの話というのも、要は、「最終的にはとにかく相手ゴールの前にスペースがある状態を作って、そのスペースがなくなる前に素早く自軍の選手を送り込んで攻撃を完結させるか」、という視点が必要、って話だと思ってます。
上記の名古屋戦の記事を書いたときも思ったんですが、札幌のプレスって相手のDFがサイドに開いて保持したところにFW(アンロペとか)が突っ込んで1人でボール奪いに行く感じなので、奪ってもサイドの詰まりやすいところにいるし、かつストライカーが真ん中にいない、みたいな状態が多いんですよね。
それこそアタランタなんかは、FWは制限の役割で中央にボールを入れさせる。そして中盤で狩ってから速いFWを走らせて速攻、が本来得意なパターン(ただしそれだけやってても上位には行けない)だと思ってまして、札幌はあくまで個人で頑張ってボールを奪うって感じのやり方でしかないんですよね。
一方で仰る通り、試合によってその辺の”個人の強度”にバラツキは感じますね。私の予想では、それは選手の判断によるところが大きいと思ってます(トルシエジャパンのラインコントロールが最終的にそうなったのと同じ)。
ただ「ここ数試合」というよりは昨年からその傾向はあったのと、やってみてうまくいかないと調節している感はありますね。
2021シーズンだと開幕戦と2戦目が一番、その辺の強度というか高い位置からの頑張りを感じたので、多分ミシャは本来そうしたいんでしょうけどね。
FWは…難しいですが、まず小柏は本来シャドーなんですかね?ミシャの1トップ2シャドーってチャナと青木を並べるんじゃなくて、シャドーに得点力を置きたいとするなら。あと小柏本人の指向性や選手特性も考慮すると。
となると小柏(右シャドー/2トップの右FW)&チャナと相性が良さそうな人になるんでしょうか。
もっともサイドから放り込むのが大半なので、前提としてある程度クロスに強いタイプは必要として。