2021年9月12日日曜日

2021年9月11日(土)明治安田生命J1リーグ第28節 セレッソ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~アーリークロスの是非~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 中2日の同一カード。スタジアムはキンチョウから改装して「ヨドスタ」になったんですね。そして再びホームとアウェイを入れ替えるという、珍しい経緯をもったスタジアムなのではないでしょうか。
  • セレッソは左SBに丸橋、中盤センターに開眼しつつある喜田、中盤左サイドに乾、2トップの一角に前節リーグ戦初ゴールの松田力の4選手をターンオーバー。
  • 対する札幌は、菅を最終ライン左に持ってきて、高嶺をCB(中盤センターだけど、常に下がる役割の選手)に戻しています。そしてシャドー(守備時は相手のセントラルMFをマーク)の青木を左に移して、空いた前線のポジションに初先発となるミラン トゥチッチ。選手自体は1人しか入れ替えていないので、どこまで動けるかが気になるところです。

2.試合展開(前半)

  • 前半は札幌がシュート10本、セレッソが1本というスタッツ。札幌としてはシュート機会が多いのは、志向するスタイルからいって悪くはない。一方でセレッソは、多ければ多いに越したことはないけど、こちらはシュート本数がバロメーターになるようなチームでは恐らくないので、別に悪い展開ではないかな、という状況だったでしょうか。お互いに。
  • お互いに手の内はわかってるということで、あまり様子見らしいフェーズはそこまでなかったな、という印象です。というわけで、さっさと本題に入りたいと思います。

カロリーコントロール:

  • 札幌は、3日前よりは狙いが整理されていたように思えます。これはシンプルに言うと、「セレッソは横幅4枚で守ってボールサイドに圧縮して守るので、サイドで詰まる前に斜めのパスで逆サイドに展開せよ」というものだったと推察します。
  • 根拠は、左の青木への斜めのパスの多さと、またサイドに展開した後のプレーの選択で、特に右だとだいたいルーカスが突っ込む選択がメインなのですが、この試合は田中駿汰や駒井がサポートして、ルーカスが突っ込めない時は横~斜めのパスでサイドを変えてチャンスをうかがっていたと思います。
札幌の狙い(セレッソを横に振ってからのクロスボール)

  • ボールを回してチャンスを待つ(セレッソがスライドしきれなくなったところで仕掛ける)という狙いが明確になったことで顕在化したのは、この試合で左のDF(役割的には一般にいうサイドバック)に入った菅の攻撃参加
  • この役割の選手は、ボールを保持しているときに最終ラインに入って相手のカウンターに備えるという役割があるので、本来は自由に、自分の好きなタイミングでの攻撃参加(福森とか、長友もそんな感じの時がありますよね)はご法度で、特にウインガーがピッチに立っているときは後ろでバランスをとるのがメインになる。
  • ただ、この日の青木のように逆足の選手がタッチライン際にいると、どうしても右足への切り返し→インスイングのクロスボールという選択が増えがちで、かつ青木は1人でサイドの狭いスペースで無双できるタイプでもない。なので、左利きの菅の攻撃参加…青木の戻しのパスを受けての左足の高速クロスボールによるサポートが、スライドが間に合わないセレッソのDF攻略には必要なプレーだったので、菅が攻撃参加できるシチュエーションを作ることは非常に意味があったと思います。
  • 実際に、前半で最も良い形だった19分のトゥチッチのヘディングシュートは菅の左足クロスからでした。
菅の攻撃参加の重要性

  • この時に、いつもの札幌のように、金子が好きなタイミングでドリブルで突っ込む、福森が唐突にクロスボールを放り込む…といった、無秩序なプレー…具体的にいうと、どういうシチュエーションでボールロストのリスクがあるのかコントロールできていない試合運びだと、DFは怖くて攻撃参加できないのですが、サイドで詰まった時に、狭いスペースでプレーするよりもなるべくサイドを変えよう、という共通認識が強まったことで、普段ほどはDFとしては怖いシチュエーションにはなりにくい。
  • 菅のプレー判断に関しては、対面のマーク対象である、セレッソのMF坂元が下がれば、坂元の位置よりも手前ならある程度高い位置をとれる(仮にそこからセレッソボールになっても戻って対処できる)ということで、この点は普段よりは整理されていたと思います。

  • 野々村社長やミシャは「このチームは予算がなくて発展途上」と再三口にしますが、であるなら、普段の金子なり福森なりが好き勝手に突っ込む”自称・攻撃的なサッカー”は場違いというか、分不相応というか、このスカッドで好きなプレー・やりたいプレーを繰り出しても効果的と言えるかは怪しくて、それであればこの日の福森(故障)に、攻守バランスでより優れる菅(サイズはないが強さもある)を起用するなどしてバランス調整をする、またプレーの選択も制御する方がチームのカロリーコントロールができているな、という印象で、ここはもう少し考えてほしいと思います。

アーリークロスの是非:

  • 菅や、高嶺のアーリークロスがポイントだったもう一つの視点として、セレッソのDFラインが下がってスペースが消える前に勝負する、という考え方もあったと思います。
  • リーグトップのドリブル&クロス数でありながらアシストがゼロ、の金子拓郎まわりのプレーが典型ですが、札幌はサイドにボールを展開して、ドリブラーが仕掛けるまでに非常に時間がかかる傾向があって、クロスボールを配球したときには相手のDFがもう整っている、ということが多い。整っているというのは、選手間で視野確保、ポジショニング確保、枚数確保が適切にできている状態だと思ってください。
  • そしてFC東京なんかもそうですが、長身のGK相手に緩いクロスボールを蹴るとGKが前に出て処理してしまうのでそれで攻撃が終わってしまう。
  • キムジンヒョンもサイズがあってクロス処理が適切にできるGKなので、セレッソのラインが下がってスペースがない状態だとかなり厳しいな、と3日前の試合を見て感じたのですが、ラインが下がる前に多少アバウトでも菅なり高嶺なりが速いクロスボールを放り込むと、セレッソのGK-DF間にスペースがある状態なので、スペースがない状態よりはこの方が、セレッソのDFは処理に困っていたと思います。

  • 一方でこの試合の札幌の課題というか、10本のシュートを前半に放ちながらゴールに結びつかなかった点を考えると、そのシュートの多くはペナルティエリアの外からである中距離・遠距離砲(菅はこの点でも重要で、中央に絞ってからのミドルシュートが2本ほどあったでしょうか)に終始していて、セレッソのゴールにさほど近づいていないということは指摘する余地があります。
  • ルーカスなり田中なり菅なり青木なりがクロスボールを放り込んで、トップのトゥチッチに合わせる、そのセカンドボールを拾って波状攻撃に持ち込む、というのが札幌の攻撃のパターンのほぼ全てで、サッカーにおけるクロスボールというのは、相手の視線を操る(GKからすると、横から飛んできたボールを叩かれて急激に角度を変えるように感じる)という意味では有効なのですが、一方でサッカーは陣取り合戦の側面もある
  • 陣取り合戦としてみると、札幌はクロスボールを蹴るところまでは”陣地”を獲得して、セレッソ陣内に攻め入っていると言えますが、ゴールにより近い中央では瀬古、西尾といったDFと対峙しながら、そこで札幌の選手がボールをキープしたり、前を向いてボールを受けたりできていたかというとそれは非常にわずかで、札幌は大外からのクロスボールだけではなくて、よりゴールに近い位置を起点とした攻撃(ハーフスペースへの侵入など)が足りなかったと思います。

  • ゴールに近い位置への侵入が必要な理由は、GKキムジンヒョンの存在にあります。
  • 彼のような優れたGKは、遠い距離からのシュートやボールスピードのないクロスボールからのシュートには反応してセーブしてしまうので、攻略にはゴールから近い位置でシュートする、一度シュートの姿勢を作ってGKを揺さぶってからパスしてシュートする、といった策が必要です。
  • ゴールから遠いところでのシュートなり、横パスは、スタッツ上の得点期待値なりチャンスクリエイト数ではポジティブに評価されますが、優れた選手を攻略するには心細いものだと言えます。

引きつけてリリース:

  • セレッソの狙いについて言及します。
  • セレッソとしては、札幌の守備は①ほぼ純粋な同数守備かつマンマークでマッチアップが必ず決まっている、②ボールに食いついてくる(奪いどころが自陣ゴール付近とかではなくて、とにかく前目に設定している)、といった特徴だと認識していたはずです。
  • 対処法としては、3日前同様、自陣ゴール付近では札幌のやり方に付き合わない。このためにパワフルなFWの松田力がスタメン起用されていて、彼はサイズがない高嶺と競るように右のFWに配置されている。キムジンヒョンのフィードのターゲットとしてまず重要な役割を担っています。

  • そして札幌の攻撃に対するセレッソの守備がまさにそうですが、最後にゴールを奪うには、札幌のDFを食いつかせてゴール前にスペースを作る必要がある。
  • ただセレッソからすると、札幌は前への意識が強すぎて勝手に食いついてくれるので、食いつかせることを強く意識する(≒引きつけてリリース)というよりは、勝手に食いついてくれるから、味方の誰を使うか、を整理しておいて、札幌が捕まえにくるスピードよりも速くボールを動かしてシンプルにゴールに迫ろうとしていたと思います。

  • 基本的に自陣ゴール前ではリスクを避けたいとなると、GKとCB2人がいずれも右利きのセレッソは、右サイドからの循環が多くなっていて、左の丸橋は本来相手を引き付けてプレーできる選手だと思うのですが、この試合では役割があまりなくて、乾を追い越すような位置取りをしたりしていました。
松田陸が2人引き付けてリリースから形を作りたいセレッソ
  • 対照的に右の松田陸が重要な役割になっていて、最低限、対面の青木を引き付けてからパスをして味方を助けていきたい。
  • この時、札幌は松田陸→坂元のパスを狙っているので、菅が坂元にもよってくるのですが、そうなると松田陸1人で青木と菅の2人を引き付けた状態になるので、ここでボールを前に運ぶことができれば、札幌の左サイドは誰もいない(ふんだんにスペースがある)状態を作ることができます。
  • ここまではセレッソはすごくうまくいっていて、札幌は左サイドが常にスカスカだったのですが、ここから先、セレッソが前半シュート1本にとどまった理由としては、右サイドで抜け出すのが、これまた松田力なので、彼はこのシチュエーションだとあまり特徴が活きない。
  • 札幌の小柏のような、地上戦での1on1、仕掛けで特徴を出せる選手だったら違いますが、松田力だとサイドで仕掛けるよりも中央で待っているのが適性で、結局こうなるとセレッソも坂元なり、松田陸なり、中盤の原川なりの攻撃参加を待つ必要があります。結果時間がかかって、札幌が戻り切れる、という状態になっていたと思います。

  • 似た話で、セレッソは札幌のボール保持に対して1-4-4-2の陣形から、3日前と同様にプレッシングを仕掛けてきて、札幌は駒井のポジショニングが相変わらず中途半端だったりでボール運びにおける再現性がない。
  • 結構セレッソが札幌陣内でボールをひっかけてカウンター!となりそうなシチュエーションもあったのですが、ここも松田力と加藤の2トップだとあまり脅威にならないというか、シュートまで持ち込めなかったと思います。

  • ただセレッソとしては、3日前同様、1点取ればセレッソのペースになる(引いて守れば札幌は打開策がない)ので、1試合で何回もこのシチュエーションを作ることを目標にしていたというよりは、リスクを回避しながらどこかで1点入ればいい、みたいな考え方だったでしょう。というか、札幌(ミシャ)が量的な目標値にこだわりすぎていて、一般にはもっと質を重視するチーム作りになっていると思います。

3.試合展開(後半)

リズムを変える:

  • 後半立ち上がりの10分、セレッソは明らかに変えてきたな、という印象だったのは、キムジンヒョンからの展開で左サイドをよく使っていたと思います。
  • 丸橋が受けて、ルーカスフェルナンデスを引き付けて、ボールを流す先は主に乾。それか前線の加藤へのフィード。
  • この時、札幌は左(菅と高嶺)よりは右(宮澤と田中)の方が対人に強い選手がいるのもあって、配給されるボールに積極的な前進守備で対抗します。加藤が宮澤と田中相手だときつそうで、乾は得意の、ギャップで受けるプレーから持ち味を出していたと思います。お互いに殴り合う展開でややオープン、プレースピードが前半よりは確実にアップします。
  • セレッソがこの、攻撃のサイドを変える、リズムを変える判断をしたのは、前半から乾(中央に入る選手)のサイドだと、パスが中央に偏ってオープンな速い展開になる、それだと札幌の方が特徴を出しやすいという考えがあったのかもしれません。

  • 56分にはキムジンヒョンの速いスローから乾が抜け出してスルーパス。菅が後ろから加藤を倒してFK。丸橋のキックは壁に当たってコースが変わりクロスバー。札幌もいくつかチャンスというか、シュートがキムジンヒョンを脅かすまではないにしても、速攻気味の展開からペナルティエリア付近には何度か侵入します。

  • 59分にセレッソは2トップを交代します(加藤→山田、松田力→大久保)。この交代の後も変わらず乾の周辺でのプレーが多くて、大久保も左寄りでスタートして、引いて受ける意識が強そうに見えました。
  • 同数守備の札幌は、敵陣ではアグレッシブに出れるのですが、自陣だとなんでも突っ込む守り方だとリスキーなので、セレッソが札幌陣内でボールを受ける(要するに乾や大久保がボールキープに成功する)と札幌の守備は撤退を余儀なくされ、陣地を押し戻すまでに苦労するようになります

  • 時間があったら、66:50くらいからのプレー(最後は大久保が67:20くらいにドリブルで仕掛けますが駒井がカバーしてファウルでプレーを切る)を見てほしいのですが、一度セレッソが札幌のペナルティエリア付近に侵入→バックパスでやり直して左サイドから再び前進、という展開。
  • この時、バックパスにトゥチッチが反応して瀬古にプレッシャーをかけていきますが、丸橋に対してはルーカスが最後方から出られなくて、流れの中で大久保を見ていた田中がルーカスとスイッチする形で丸橋に出ていく。
  • こうしたマークの変更(受け渡し)は原則論ではアリですが、この場合、丸橋がフリーで持っても即、何かが起こるとは思えないので、丸橋は放置でもよかったと思います。
  • 結果、より危険なエリアで大久保がフリーになっていて、やはり札幌は撤退したり、トランジションの際などになる(セットされた状態が崩れる)と、受け渡しや行く・行かないの判断が選手任せになって、どうしても規律が感じられない対応になりがちだと感じます。
66’50"~(撤退すると対応が怪しくなる札幌のマンマーク基調ディフェンス)


「悪くない」の証:

  • セレッソの時間帯が続いた後の70分、金子の前線守備で瀬古からボールをひっかけての、久々のセレッソ陣内での札幌のプレー。ルーカスが右でディフェンスを広げて、駒井が中央に入ってくると後ろからファウルを受けてFK。
  • このFK直前にドウグラスオリヴェイラが投入され…

  • まず交代カードをここまで切らなかったこと自体が、札幌としては悪い展開ではないことの証明(このメンバーを変えると攻守いずれかでバランスが崩れる、それはベンチメンバーがあまり信用できない証明でもありますが)で、ベンチメンバーだとドウグラスオリヴェイラが一番計算できるというか、ジェイだとどうしてもディフェンスで穴になってしまうので、というのと、 カウンター気味の展開が多いことを考えると、長い距離を走れるドドちゃんをチョイスしたのは理にかなっていた思います。

  • 直後のプレーで2点目が生まれます。何度か書いてますが、駒井は右寄りの位置でこの形が一番特徴が活きると思うんですが…(後ろでCBみたいな役割でもないし、左シャドーでもない)。

  • 2点差になってから札幌は駒井→柳。セレッソは喜田→西川。セレッソは前線過多でアンバランスながら、なんとかして点を取りに行くという姿勢ですね。
  • 札幌は普通に考えれば、喜田が下がったので金子か田中のどちらかが、代わって投入された西川(前線にいる)をマークすべき。それは選手特性で考えると普通は田中なんですが、セレッソの陣形把握ができていないのか、投入後数分間はマーク関係が不明瞭になっていて、84分の山田のシュート(ポスト直撃)なんかは、この曖昧さから生じたものでした。
セレッソのスクランブル体制に対応が遅れる


4.雑感

  • 2戦トータルスコアで見ると2-3でセレッソの勝ち、1戦目に雑だった札幌がスコアで下回る、というのは妥当な感じがします。
  • クルピの愉快なスタイルにヤバいと気づいてロティーナの路線にやや回帰?しているセレッソですが、この設計だと”遊び”の要素が足りないというか、2試合を通じて、マンマークで前を向かせない対応をされると突破口が見えず、それはピッチ上で最も期待できるのは坂元なんじゃないかと思いますが、その坂元を菅がシャットアウトした2戦目は、1戦目以上に厳しい状況だったかもしれません。1戦目の得点もセットプレー2発とカウンターでした。


  • 札幌については、結局1on1だよねというか、FC東京の2列目のブラジル人選手相手だと止められないけど、セレッソの日本人選手なら止められる。チーム戦術とかよりもそれに尽きるかな、と思います。
  • その意味では菅のDF(実質的にSBは)予想通りの活躍というか、もうこの役割はCBとは言えないので、福森や田中駿汰を使う意義はどんどん薄れています。同じ観点で、柳はもっとチャンスを与えられていいと個人的には思っています。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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