1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 監督交代後3試合目で、かつ、分析サンプルが松波ガンバとの連戦しかないセレッソ。札幌に合わせて3バックの採用もあるかなと思いましたが、蓋を開けてみればチアゴがベンチで、どう見ても1-4-4-2だな、というメンバーを送り出してきました。
- キャプテンの清武が負傷で離脱しましたが、そのポジションでは8月末に加入した乾に期待がかかります。
- セレッソが「どう見ても1-4-4-2」なら、札幌も大半のシチュエーションで4バックとして稼働するのでこの表記にします。予想通り、荒野は大半の時間CBっぽいことをしていましたし、青木も中盤センターみたいだった、としていいでしょう。
- カップ戦で欠場した青木と小柏が復帰しましたが、福森の離脱により高嶺が最終ラインにスライド、このあたりの選手のやりくりは依然として難しい状況です。
序盤の構造(つぶし合いを避けるセレッソ):
- 前半は、お互いにあまりボールを長く持たない展開になったと思います。
- それは、セレッソのボール保持については、札幌がいつものミラー布陣…この日は1-4-4-2にしていつも通りマッチアップを合わせたマンマーク基調の守備。小菊新監督のセレッソは当然これをわかっていて、必要以上にフィールドプレイヤーにボールを持たせない選択をとりました。キムジンヒョンがいるので、雑にGKがボールを蹴っているというよりは、意図と精度のあるフィードから攻撃が始まっていたと思います。
- かつてはジンヒョン→柿谷の裏抜けというパターンがあって、この日の2トップにはそこまでの裏抜けの技術がなさそうでしたけど、簡単に1発で決まらなくても、札幌のプレスに引っ掛かるリスクを減らすという観点、試合の進め方としては合理性があったと思います。この裏へのフィードを、菅野が前進守備で処理する機会が多いゲームでした。
潰しあいを避けるセレッソ |
- ボール支配率は終始、札幌が上回っていて、セレッソはシンプルなクリアの選択も躊躇なく行う。
- ルーズボールの攻防が概ね50:50に収束するとしたら、セレッソは中盤でボールを拾うと、行ける選手がスペースに飛び出します。名前を挙げるなら2トップと、左SBの小池の攻撃参加は目立っていたでしょうか。
- 小池については、セレッソはサイドハーフが左右非対称というか、坂元はタッチライン付近からスタートして、中島はより中央のポジションからスタート。これは清武と似たイメージでしょう。なので、田中駿汰が中島についていくと、大外レーンが小池の滑走路となるシチュエーションは少なくなかったと思います。
最終的には右からの速いクロス:
- どっちかというと、札幌の方がボールを持つことに対する”色気”みたいなのがあるのもあって、それがボール支配率のスタッツにも表れていたと思います。
- セレッソも1-4-4-2の陣形で、札幌ゴール付近ではマンマーク気味のハイプレスの形を持っています。やはり札幌の不安定なところを突いていこうとの意図はあったのでしょう。
- 札幌は、菅野にはキムジンヒョンほどのフィードはない。基本的には後ろで保持して、オープンな選手に渡すか、無理そうならトップの小柏か、サイドの選手にフィードするいつものパターンが多かったです。小柏は厳しいんですが、金子はそこそこボールキープに成功していて、これはセレッソも一時的にマンマーク気味になるので、スペースでうまくボールに触れていたといえるでしょうか。
- 結果的には、セレッソはあまりアンカーの駒井に対してそこまで明確なマーカーを置かないので、駒井は自由に動き回っていましたが、どこにいても割とフリーになっていて、菅野が駒井を見つけられれば駒井に渡してセレッソは撤退、という展開になっていたと思います。
駒井に渡すか長いフィードで展開 |
- 札幌はプロセスは色々あるのですが、最終的にはウイングバックのルーカスフェルナンデスが違いを作れる存在であることはいつもと変わらない。あと、金子も右に寄ってきて、彼もドリブルをしたがる選手で、札幌の攻撃は非常に右偏重でした。
- 普段から左(福森)→長いフィードで右サイドへ、という展開は狙っていますが、高嶺だとピッチを横断するボールは蹴れないということで、宮澤や荒野が持った時にルーカスに渡すことが多かったと思います。
- ルーカスに渡ると何をしてくるかはセレッソは当然知っていて、小池と中島の2人でサイドに寄せてスペースを消します。
- 札幌は、トップに小柏、その下に金子と青木、というイメージなんでしょうけど、前者はボールによく寄ってくるし、後者はスタートポジションが中盤センターになり、駒井の移動(基本的にはボトムダウン)に合わせて青木もよく下がってくる。
- ですので、青木があまり前にいないことも多くて、札幌はルーカスに渡った時に小柏1人だけがゴール前にいるというシチュエーションが少なくない。やはり頭を狙うボールだと難しくて、じゃあグラウンダーとか低いクロスはどうか、というと、それは何度も言ってますが、GKとDFの間にスペースがないと難しい。
- そのスペースを札幌が作れないなら、遅い展開だとセレッソのDFが間に合ってしまうので、速い展開…カウンター気味に、セレッソのDFが揃ってない時にすぐにラストパスを出す必要があります。
2.試合展開(前半)
むしろ速すぎる:
- 互いにチャンスは①速攻と、②ハイプレスでのボール奪取から生まれます。
- 最初のチャンスは札幌、12分に青木→田中駿汰の展開でセレッソの2列目を外すと、田中が小柏を走らせるアーリークロス。走るポイントに合わせる素晴らしいボールでしたが、トラップが流れてしまってシュートの角度を確保できず。
12分の小柏の決定機 |
- 確かに世界のトップ選手だったらバウンドを合わせてトラップからコンパクトに足を振るか、ダイレクトで撃ってファーサイドに飛ばす技術がある選手もいるので、その意味では単に小柏のシュートミス。
- ただトップスピードで走っている状態だと、いずれの選択肢も難易度が上がるのは事実で、解説の大森健作さんはこれ以外にも札幌の攻撃について、「もう少しスピードアップしたらいい」と言っていたのですが、むしろ逆で、フィニッシュの精度を上げたいならスピードを落としてプレーすべきです。
- それはこのシチュエーションだけを切りとると、これ以上スピードを落とすのは難しいのですが、札幌は攻撃サッカー!と言いつつ相手のブロックを崩せないので、相手がブロックを作っていない時にスピードを上げてゴールになだれ込まないと決定機にならない。この点を解決しない限りは、FWの選手が迎えるシュートのシチュエーションは難易度が高いものになります。
:
- 後は、前半1度ずつお互いにハイプレスから決定機がありました。
- セレッソは20分、高嶺が持ったところで坂元が寄せてひっかける。加藤のシュートは菅野が右手でかき出して難を逃れました。
加藤の決定機(20分) |
- 指摘するとしたら、札幌は駒井と青木が「寄るサポート」をしていますが、かえって高嶺の周辺のスペースが消えて出しどころがなくなってしまう。
- セレッソはこの辺りのコースの消し方というか、ゾーナルなディフェンスは整理されていて、ちょっと前までカオスな感じだと聞いていたのにロティーナの頃の記憶を取り戻したかのような対応で、元祖カオスな札幌としては、福森の飛び道具がないときついな、というところでした。
- 直後の22分に、似た形から今度は札幌が、キムジンヒョン→小池のパスをルーカスがインターセプトして小柏にパス。キムジンヒョンが距離を詰めてシュートブロックでまたも小柏が決定機を逃します。
- この時がセレッソの視点では最も「あぶない」場面だったでしょうか。以後は再びセーフティにボールを処理して、長いフィードを競り合うことが多くなります。
- その後は膠着気味でしたが、セレッソは飛び道具…セットプレーで原川のキックから札幌ゴールを脅かします。
- 30分過ぎには波状攻撃からクロスバー直撃のシュートがあって、そしてATにはコーナーキックから、一度跳ね返されたボールを原川が左足でクロス。180cmオーバーが宮澤、田中、荒野しかいない札幌は中央で菅が競りますが、後ろから入ってきた藤田が空中で弾き飛ばす力強いシュートで先制に成功します。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) September 8, 2021
🏆 明治安田生命J1リーグ 第19節
🆚 札幌vsC大阪
🔢 0-1
⌚️ 45+1分
⚽️ 藤田 直之(C大阪)#Jリーグ#北海道コンサドーレ札幌vsセレッソ大阪
その他の動画はこちら👇https://t.co/JUEMOXumQp pic.twitter.com/2UxPaD21Ub
3.試合展開(後半)
カオスへの漂流:
- 後半から札幌は菅→トゥチッチ。青木が左、金子が中央に回ります。ここは逆がいいのでは?と思ったのですが、やはりミシャの中では金子は「カットインする人」なのでしょう。
- セレッソは左MFに乾、トップに松田力。
46分~ |
- 札幌は元々、青木が中盤センター、所謂「ボランチ」でスタートしていて、それが後半頭からは金子、そして途中からはドドちゃんに役割が移譲されます。
- この中に本職の選手は誰一人いないのですが、青木は比較的バランスが取れるというか、少なくともいるべき位置にいる。金子に代わると、このポジションを非常に軽視しているミシャチームは一気にバランスが傾き、その傾いたままのバランスでの試合運びはカオスな展開を誘発します。
- 本職の選手じゃないといっても、マーク関係は最低限、頭に入っていて、スタート時点で原川を捕まえるという点では問題ない。
- 問題が生じるのは、例えば▼のように、トランジションの際に意識というか、マインドというか、どうしても攻撃…それも自分が仕掛け役になるプレーを意識するので(というか、ミシャの説明ではこのポジションはシャドーってことになってるのでしょうがないといえばそうなんですが)、局面での判断が前がかりになりがちだと感じます。
- この時は金子が前に出ると、連動して駒井やルーカスも動いてしまって、背後でマークずれが起きたりスペースを与えて手薄な状態になっている。ズレたまま自陣でも対応することで、マンマーク基調の守備は誰が捕まえるのかが不明瞭、後手後手の対応になるのは必然と言えます。
前への意識が強すぎる”ボランチ” |
- セレッソの追加点…51分の松田力の得点はこの、札幌の右サイドからの展開でセレッソが続けて札幌陣内に侵入したところから。最後はまたもセットプレーでしたが、HT明けの5分、攻勢に出たい札幌は明らかにバランスを崩していることが示唆されていました。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) September 8, 2021
🏆 明治安田生命J1リーグ 第19節
🆚 札幌vsC大阪
🔢 0-2
⌚️ 51分
⚽️ 松田 力(C大阪)#Jリーグ#北海道コンサドーレ札幌vsセレッソ大阪
その他の動画はこちら👇https://t.co/JUEMOXumQp pic.twitter.com/kLJtBi45Hr
こんな陣形を誰がさせるのか?:
- 59分には小柏→ジェイ。前線はジェイとトゥチッチが並んで、だんだんと中盤でボールに関与する、動き出しのあるタイプの選手が消えるか、それかサイドに移った青木のように中央ではない位置にシフトする、あとは疲れもあって、シンプルに放り込むサッカーの色が徐々に濃くなっていきます。
- ただロングボールで振り回すと、中2日のセレッソも少しずつ出足が鈍っていき、ジェイとトゥチッチを並べているだけで自陣ペナルティエリア付近を離れにくい状況になるので、人の配置的には65分頃くらいからが、札幌が最も押し込んでいた時間だったでしょうか。
- ジェイは63分に駒井の右突破からヘッド。これはキムジンヒョンに阻まれます。駒井はこれ以外にも、中盤のアンカーのはずが右サイドにたびたび移動してきたりと広範に動く。決定機を演出するのは悪くないんですけど、これを見てもやはり中央の選手ではないよな、と思いますし、アンカーが頻繁に動いて仕掛けるチームはバランスとしてはかなり危ういよな、という評価になります。
- トゥチッチはジェイがいない時間帯の方が活き活きとしていて、ジェイとはかなりポジショニングが被っていて、ターゲット2人は一見脅威に見えますけど、セレッソとしてはそこまで対処が難しくなかったと思います(本当にヤバいならチアゴを早く入れてるので)。
- 72分には高嶺が拾ったボールを左クロスで、ジェイのヘッドはポスト。こうしてみると、札幌のクロスボールからの決定機は順足クロスが99%で、逆足ウイングバックがいかに効果的ではないか実感します。
- 74分には荒野→柳、青木→ドウグラスオリヴェイラ。金子が左に移って、ついにドドちゃんがシャドーという名の「ボランチ」へ。なんというか…このシーズンはなんのためにあって、ドドちゃんがなんで「ボランチ」をやってるんだっけ?というのを考えさせられます。サカつくで選手が足りない時に適当に人を配置するような状況っぽいですね。
- セレッソは同じタイミングで加藤→大久保。やはりチアゴを入れるか否かは慎重に考えていて、5バックにするとカウンターができなくなるデメリットの方がでかい(札幌相手なら、2人で跳ね返していればまたチャンスが来るはず)と思っていたのでしょう。
- その後も放り込むだけの特に見どころがない展開が続いて、ATにセレッソは大久保が3点目(動画は略)。これはノーコメントでお願いします。
4.雑感
- 札幌がカオスへの扉を開くまでは、セレッソが長いボールを多用していましたが、札幌は宮澤、荒野、田中が競って、セレッソは山田、加藤、中島で、ここのマッチアップはそこまで劣勢ではない。
- ですので。札幌が例の「アタランタみたいなマンマーク基調の守備で奪ってダイレクトに攻めるサッカー(意訳)」をしたいと仮定するなら、この試合に関しては、奪いどころは明確で、跳ね返すまでは問題ないとしたら、その後のボールの処理に課題があるといえるでしょう。
- 奪った後は小柏のスピードを意識した選択が多かったですが、札幌がとにかくスピードを上げないと攻撃できないのは、一つは中央に強いFWがいないから。右にルーカスがいても、ルーカスさえストップして枚数をそろえれば、セレッソだろうとFC東京だろうとどれだけ上げられても問題ない。
- 単にデカいFWがいれば解決ってわけでもないですが、この試合に関しては早い攻撃(速いを超えて、速すぎるといっていい。その分、精度は落ちる)への傾倒が顕著だったと思います。
- 果たしてこの状況で健気に「あとは決めるだけ」。この言葉の主への信仰を強めるか否かは皆さんにお任せしますが、個人的には時間は有限ではないというか、もう4年目の監督であることを踏まえて色々判断した方がいいのかなと思っています。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
「4年目の監督であることを踏まえて…」は、まさに一番の悩みどころではないかと思います。ミシャの次に誰を連れてくるのか?四方田HCの内部昇格?浦和のリカ将を無理やりに連れてくる?代表監督辞更迭後のポイチ監督?四方田HCぐらいしかいなさそうですが、また新しいサッカーになりそうですね。
返信削除経緯からすると四方田さん以外にありえないですが、仮にフロントにそうした既定路線を覆す胆力があったら見直します。
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