2021年3月3日水曜日

2020年3月3日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第1節 アビスパ福岡vs北海道コンサドーレ札幌 ~遠いセーフティリード~

 1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果

  • 両チームとも完全ターンオーバー。特に福岡は名古屋とのリーグ開幕節が日曜日開催のため、中2日の日程を考慮するとここで休ませつつ、出場機会のなかった選手のコンディションをコントロールしない理由はありません。
  • 札幌はこれまでCB中央を務めた選手がキムミンテ、宮澤、田中駿汰。3選手ともリーグ戦で起用したので誰になるかが焦点でしたが、タイプ的には一番キムミンテに近そうな岡村が起用されました。もっとも、柳はアウトサイドでの起用がこれまで多かったので、中央ができそうなのが岡村しかいないという事情もありますが。
  • 札幌のジェイ、福岡の杉本太郎といった選手は負傷でメンバー外。


福岡のスカッドから推察するチーム設計:

  • 福岡は月曜日3/1にカメルーン人FWのジョン・マリの獲得が発表され、8人の外国籍選手を抱えていますが、残りの7選手はSBのサロモンソン、CBのグティエレスとグローリ、FWのファンマとブルーノメンデス、そしてまだ来日できていないMFのクルークス、この日のスタメンのカウエ。
  • 前のシーズンのJ1昇格に貢献したGKのセランテスを手放してまでというか、センターライン、特にゴール前を固められる選手の確保に注力していることが読み取れます。
  • 特に2人のFWがファンマとブルーノメンデスという、キャラクターが近しいタイプの選手を並べていることは特徴的で、このスカッドから考えると相手ゴール前では①サイドからのクロスボール、②高い位置で奪ってのショートカウンター、が2大シュートソースだと考えているように思えます。
  • 実際に名古屋との開幕戦もそのような狙いだったと思われ、前半早々にマテウスのスーパーな個人技で先制されながらもクローズに試合を進め、後半勝負どころでダイレクトな展開を増やして攻勢に出ていました(サロモンソンの攻撃参加からブルーノメンデスの惜しいヘディングシュートもあり)。


vs ボールを持たないチーム:

  • ということで、このカップ戦においても福岡は基本的にボールを持たない戦い方をします。
  • 札幌は、リーグ開幕戦の横浜FC戦では相手がボールを持った状態で同数守備によって選択肢を消す→GKにロングフィードを蹴らせてキムミンテの強さで回収→小柏やチャナティップが素早く前を向いて速攻発動、というパターンでシュートの雨を降らせましたが、この試合は札幌が自陣でボールを保持し、福岡がブロックを作って札幌を誘い込み、ショートカウンターを狙おうとする…そんな構図から試合が始まりました。

  • 札幌は、高嶺が落ちて深井がアンカーポジション。やはり岡村よりは高嶺を頼りにしていこうという共通認識があったようです。
  • 対する福岡は、1-4-4-2でセットしてまず中央封鎖。レノファ山口の渡邉晋監督が「1-3-4-2-1はとにかくシャドーにボールが入って中央でターンされると面倒」と言っていましたが、これを封じるためにスペースを消します。
  • 札幌は、高嶺から小野やドド、場合によってはトップの中島にボールが入ると一気に攻撃のスイッチを起動できますが、福岡としてはこの展開を避けたいためスペースを消し、高嶺が持ち上がろうとすると、2トップが中央を切る方向から寄せてプレッシャーを与えます。
初期配置

捨ててないよ:

  • 中央封鎖と言うとサイドは捨てているように感じるかもしれませんが、どのチームもサイドに強力なアタッカーを配置する時代に突入してもう10年は経過しています(それこそ、金子拓郎のような)。ですので長谷部監督の福岡も、中央を切ってサイドに展開させることを寧ろ前提に設計しています。
  • 札幌は、福岡が初期状態では(それこそミシャの標榜するトータルフットボールのような)強烈なpressingのスイッチを起動してこないので、後方には最小限…高嶺と岡村が開いて、深井を福岡2トップ背後に置く形にしていました。
  • 高嶺からの受け手になっていたのは左サイドに張る中村ですが、福岡は中村に渡ると一気にボールサイドにスライドしてスペースを消します。ここで中村が頑張ろうとするとボールロストから、後方に高嶺と岡村しかいない状態でカウンター発動。福岡は2トップに加え中盤の2~3人が出ていける有利な状態になります。

中央封鎖からサイドに圧縮でボールホルダーにスペースを与えない

工夫のしどころ:

  • ですので、前半の札幌としては福岡が、高嶺→中村までのパスを誘い出してくることは頭に入れてプレーしたかったところでした。サッカーにおいて相手の対応を見て「頭を使ってプレーする」べきなのはこうしたシチュエーションです。
  • 福岡がボールサイドに寄せてくるなら反対サイドは空きます。なので中村のところで袋小路に入ってしまう前にサイドを変えたり、もしくは何らか、福岡がサイドに寄せられないように仕向ける等の展開に持っていきたいところでした。
  • しかしいずれにせよ、このシチュエーションではボールサイドでボールに関与できる選手が、深井は消されているとして高嶺と中村、そして中村よりももっと狭いポジションで待っている菅しかいません。
  • 例えばここで左シャドーの選手が降りてくると、高嶺の選択肢が中村だけの状態からシャドー(ドド)もある状態になって、福岡の選手は常にサイドにスライドして圧縮するだけの対応ではやりすごすことができなります。そしてディフェンスが中央を意識するとサイドへの寄せが遅れ、中村も前を向くだけの時間やスペースが得られるようになります。

攻略策の一例(シャドーが降りる形を見せて簡単に圧縮されないように)

  • 上記のアニメーションで、ドドちゃんが降りてくる動きに既視感がある方もいるかもしれません。これはチャナティップがよくやっている役割で、単に下がって受けて横パスバックパスという場合もありますが、それだけで味方の選択肢を増やしてボールを循環させる働きもありますし、チャナの場合はどこでもターンできるほど小回りが利くので、前を向いて前方向ないし反対サイドのスペースに展開する役割も担っています。
  • が、ドドちゃんにチャナティップの役割を期待するのは流石に難しい。その意味では、小野が左シャドーの方が良いのでは?とも思いましたが、恐らくマンマークで守る関係もあってか小野が右シャドーで、このビルドアップの場面で小野を使うことはできませんでした。
  • ということで、この試合は、「福岡が札幌にボールを渡して、しっかり守ってくるけど、それに対してどうやってこのメンバーでリスク管理をしながらボールを動かしてシュートまで持っていくか」という課題を提示された格好だったと思います。


2.試合展開

裏切らない筋肉:

  • 札幌は高嶺と深井でボールを動かしていき、高嶺のいる札幌左、福岡の右サイドの選手が前半序盤~20分頃までの主な登場人物でした。
  • 高嶺がずっとボールを持っていると、福岡の2トップ、城後と北島が寄せてくるので、高嶺は預けどころを探します。中村が難しいと見て、中央のドドちゃん、時に中島にもくさびのボールをあてていきますが、工夫がない状態で福岡ブロックの中央を通そうとするのは無理があります。特に、福岡はいかにも屈強なカウエを中央に配していることも、この展開では効いてきます。
  • 福岡の前半最大のチャンスは38分、高嶺が”選択肢がない状態”で、2トップ背後の深井へのパスを狙いますが、深井が前を向こうとしたところで福岡がボール回収に成功。高嶺・岡村の2人に対し、福岡は5人でカウンターのチャンスでしたが、あまりに稚拙な展開でシュートまで持ち込めませんでした。奪ってからの展開は大いに課題がありましたが、前半の構図としては、札幌がボールの持ち出しにかなり苦労していた象徴的なものだったと思います。

  • しかし14分、札幌が自陣で奪い、カウンターからドドが中央からドリブルで福岡陣内に侵入。小野が右サイドからふわっとしたクロスを入れると中島と競った宮のハンドを誘ってPK。これをドドが決めて、福岡に対する有効打を示さないまま先手を取ります。
  • 対する福岡も4分後に右サイドで獲得したFKから三國がヘッドで合わせて同点。落ち着かない雰囲気で20分過ぎの飲水タイムに突入しました。
  • 札幌が解決策を見つけたのはその後の時間帯で、それは高い位置をとっている右の柳、ないしは福岡の最終ラインで一番背が低いDF輪湖のところを狙ったロングボールだったと思います。柳はビルドアップにほぼ全く関与しないということで、序盤から高い位置をとり続けていましたが、青木とポジションを入れ替える形で輪湖と柳のマッチアップになると、輪湖では対処が難しそうで、ここに蹴ったボールは簡単にクリアされなかったと思います。世の中には裏切る筋肉もある(いる)かもしれませんが、この試合では柳のフィジカルがチームを助けることとなりました。

柳への放り込み

解決はしていないが:

  • そして35分に岡村のフィードから、CB背後を取ったドドが胸トラップからチップキック気味のゴールで札幌が勝ち越します。

  • この時は深井と高嶺の2人とも下がり、岡村と並んで最終ライン3枚になります。そうすると福岡の2トップは2人体制だと札幌の3人の誰かが空いてしまうので出ていきにくくなる。前半ビルドアップに苦戦していた岡村が右から持ち出しに成功し、ドドへの柔らかいフィードを配球した時は完全にフリーでした。
  • ドドがこれだけゴール前で落ちついてトラップできるのも稀な気がしますが、ゾーンの福岡は岡村が持ち出した段階でCB2人とも引く中島に釣られてしまい、難なく背後を取ることができた時点でかなり有利な状態でした。この形に関しては、下がってプレーするチャナティップのようなタイプよりも、FW的なドドがシャドーに入ったことでのポジティブな面が発揮された形でもあります。


  • 続いて41分に、福岡守備陣のまずい連携から最後は中島。これは先の、ターゲットは柳ではなく中島でしたが、解決策は長いボールの放り込みでした。全般に福岡のGK山ノ井はクロスボールの処理が微妙で、この試合流れの中からのクロスは少なかったですが、特にコーナーキックの際になんでもないのに福岡はクリアでプレーを切れない、ということが多かったと思います。

  • という具合に、前半はゲームの課題に対して、明快な解決策を得られたわけではないですが、それでも3点も入ってしまうという試合展開でした。


キャプテン・イニシアティブ:

  • 後半になると課題に対する解決策が見え始めます。見たところ、ピッチ上でイニシアティブをとっていたのはキャプテンマークを巻く深井で、具体策はGKの小次郎が中央の2人に近い位置をとってボールにより関与します。
  • 一例は▼の形で、小次郎に中央を任せて岡村と高嶺はより広がった位置取りをします。そうすると福岡の2人で中央を封鎖することができない場合があり、小次郎がオープンな状態から展開したり、岡村か高嶺が空くことになります。
  • ただ、福岡もそれこそ札幌のマンマーク戦法と同じように、岡村と高嶺に対してマンマーク気味の対応をして、小次郎にフィードを蹴らせることからボール回収を図る展開もありました。この時は、柳や菅がターゲットになりますが、キックがそのままタッチラインを割ったりもし、安定感はさほどなかった気がします。

小次郎を中央で関与させて1stディフェンスを牽制
  • 選手交代は60分に札幌が小柏、ルーカス、田中を投入。高嶺が左のDFに入って4バックのようにも見えましたが、田中がアンカー(宮澤の役割)の3バックだったのかもしれません。もっとも純粋マンマークにおいては3バックか4バックかはさほど重要ではないシチュエーションも多いですが。あとは、小柏とルーカスでゲームのテンポをアップさせ、一気に試合を決めたかったのだと思います。
  • 対する福岡も76分に3枚交代で、山岸、金森、石津とこちらも速い選手を送り込んできて、マンマーク対応基調の札幌にとってはフィジカル的な要求水準が上がります。福岡はカップ戦であってもやはりこのやり方がゴールを奪うための道筋なのでしょうか。最後は終了間際に菅が湯澤に走り負けてから城後のゴールで1点差になりますが、札幌が辛くも逃げ切りました。


3.雑感

  • 改めてこのメンバーで、90分マンマーク戦法で乗り切るのは難しい気がします。となると、ここ2試合のようにケチャップがドバドバ溢れない限りは、チームとしての目標達成(ひとまずグループステージ突破?)のためには、何人かレギュラークラスを使っていく必要があるように思えます。ただ、個人での対応力は確実に上がっていくと考えると、そうした割り切りも時に必要なように思えます。それでは皆さん、また会う日までごきげんよう。

3 件のコメント:

  1. いつも拝読しています。ルヴァンの日程を調べてみると
    第2節がアウェーでサガン鳥栖と3月28日土曜日で国際Aマッチデーなので週1日ペースで代表呼ばれなければベストメンバーで臨めます。
    4月20日第3節~第5節は週2日ペースで連戦です。ここまでに荒野が戻ってきてほしいですね。


    深井が最終ラインに降りて小野が中盤で落ち着かせる可変ビルドアップもあったはずですが、ロストしたときに40歳が自陣同数で守れるか考えた時に中盤すっ飛ばす方がいいという判断ですかね?

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    1. こんにちは。トップにボールが入った時に孤立してしまってサポートがない状態も厳しいので、その点ではシャドーの小野のポジショニングは非常にチームタスクに忠実だったと思います。
      あとは、ボールを失った後にかつては「とりあえずリトリート」で良かったのですが、今はまず相手FWか中盤の選手をマークすることになるので、シャドーがあまり下がるとそれが遅れるという問題もあるので、シャドーは下がりすぎない方が良いと思います。

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  2. そうですよね。小野は現状の戦術だと起用法は難しいですね。ありがとうございます。

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