2021年3月18日木曜日

2021年3月17日(水)明治安田生命J1リーグ第5節 浦和レッズvs北海道コンサドーレ札幌 ~燃料の使い方~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 前節0-3から中2日の浦和は、固定気味だったスタメンから右に関根、中央に金子、そして小泉と阿部をそれぞれ1列スライドさせてきました。メンバーの固定について、前節、リカルド・ロドリゲス監督からは「チームの完成度を高めたいため」とする説明があったようですが、本音はまだ起用に耐えうる選手が17~8人見極められていないというのが実情でしょうか。
  • 札幌は、新型コロナウイルスの影響により土曜日の試合がスキップされ中6日で埼玉に乗り込みました。移動を考慮しても、マンマーク戦法のチームには非常にありがたい”補給期間”となったと思います。
  • 離脱が重なって壊滅的だった前線は、中野と青木が練習に復帰しており、多少は計算が立つようになりました。そして駒井も直前に練習復帰し、開幕戦とは逆の左インサイドハーフで出場しています。

相手をどう解釈するか:

  • リーグ戦第5節ということで、選手や監督には中2日しかないとしても、裏で動いている分析スタッフには一定の分析材料が揃った状態です。
  • 浦和のスタッフに札幌がどう映っていたかを考えると、マンマーク基調のアグレッシブなディフェンスから縦に速い攻撃をまず狙う。遅い展開になった場合は、ウイングバックを最前列まで上げる得意の形からサイドアタックなどで打開、後はセットプレーの強力なキッカーがいる。非常に解像度が低めの話をするとこんなところでしょうか。
  • 優秀なスタッフなら、札幌にはスペースのない状態でも決定的なチャンスをモノにできるフィニッシャーは負傷中のジェイ以外にいないことは2、3試合も見れば余裕で把握できたのでは、と思います。スペースがある状態、ない状態というのがピンとこなければ、▼の記事で確認してください。
  • プレッシングの強度と攻撃時の速さの担保のため、ライオンハート・ジェイ抜きのメンバーを基本とする札幌は、引いて守る相手にゴール前でのクロスボールからの空中戦、という得意のシュートパターンを捨てています。
  • 第2節の名古屋、第4節の広島戦もそうでしたが、クロスを上げても合わせる選手がいない。となると中央から何らか打開したいですが、スペースがない状態で何かを創出できる選手は、札幌にはチャナティップしかいません。だから攻撃の速さも重要ですが、速さが封じられた時はスペースを創出するようなプレーが、得点には必要になります。
  • ですので浦和が採った策は、札幌のGKが関与するプレーには1-4-4-2の陣形でプレッシングを仕掛けて高い位置でボール回収を狙うものの、札幌が浦和の1列目守備を突破したらプレスをやめてすぐに撤退に切り替え、かつ関根を右SBの位置に落とした5バックにして、5枚でゴール前のスペースを埋めるというものでした。
札幌が1列目を突破したら5バック撤退に切り替える
  • 5バックの採用理由は、他にサイドチェンジを多用するチームに対して横のスライドを楽にさせる、というのもあったと思いますが、浦和の5バックは中央の3枚(左から槙野、岩波、阿部)があまり動かず、まずスペースを消すことを念頭に置いていたと思います。この点は、小回りの利くチャナティップと小柏を欠く札幌、のスペースを消されると打開策がない現状に対して非常に刺さる対処法でした。

時間的制約:

  • 天才監督ミシャが10vs10でのマンマーク戦法を取り入れたことで、それはまるで肩こりが治ったり、猫背が治ったり、髪の毛が生えたりする万治の石仏のごとく称賛されている風潮を時に感じますが、本来純粋なマンマーク戦法には明確な攻略法があります。

①ミスマッチを作ってマンマークで捕まえられない選手を用意する

②マークを背負った状態で移動してスペースを作る

③パスアンドゴーやレイオフ等、ボールを速く動かすプレーでマーカーを置き去りにする

④ドリブル(regate)で相手を剥がす、スペースに飛び出す

⑤同数関係になっていないトランジションの瞬間を狙って素早く攻める

加えてオールコートでのディフェンスだと、

⑥強度を持続できるのは60分程度なので、スタミナが切れたところで仕掛ける

  • 雑多な書き連ねですがこのような策があります。この中で、中2日の準備期間がない中で浦和が用意したのは、一つは福森の対面にドリブラーの関根を起用すること。明本はどちらかというと、左足でボールをコントロールして中央方向に入ってプレーします。福森に対してはシンプルなスピード勝負の方が刺さるので、関根の方が適任だったということでしょうか。これは上記の④に該当します。
  • もう一つは小泉の中盤センターでの起用。ここまで主にトップ下で起用されている小泉は、時に動きすぎなんじゃないかと思うほど広範に動き、その狙いは自らがボールを受けることで味方のボール保持を助ける(預けどころを作って二手先のパスコースを用意させる)ことにあります。これは上記の②を期待していたと思います。
  • 私は小泉がトップ下で出てきて、これまでの試合のように自陣ゴール付近まで動き、対面の宮澤がマンマークでそのままついてくるかどうかをまず観察するのかと思ったのですが、トップ下ではなく中盤センターでの起用でした。
  • これは、札幌の駒井やチャナティップ(小野もそうでしょうか)にも言えることですが、トップ下やシャドーの選手が下がりすぎると、ゴール前の枚数不足に陥って最後にシュートを撃つ際にFWの個人能力頼みになってしまう、という問題があり、それなら最初から小泉を後ろで使った方がバランスがいいのでは、というアイディアでしょうか(この点で、小泉はチャナティップに似ています。ただチャナの方がクオリティは上だと感じます)。
  • 更に、小泉はこれまでトップ下から下がってプレーすることで、自陣ゴール前でのボール保持の際に人数を+1することで助けていたのが、最初から小泉が後ろにいると、浦和はトップ下・小泉が創出していた局面での数的優位性がなくなります。もっともこれについては、浦和の選手が「割り切った戦い方をした」と述べているらしく、あまりボールを保持する意思がなかったとするなら、想定内の上で起用したのでしょう。
  • 総じて言えるのは、浦和は準備期間が短いことを考慮し、主に選手のキャスティングや入れ替えによって札幌対策を施していたと思います。

2.試合展開

バックパスの安心感:

  • 序盤のプレス合戦から、10~15分ほどで徐々に落ち着きを見出したのは札幌でした。
  • というのは、札幌はフィールド10人vs10人のマンマークを常に仕掛ける。トランジションの際もまず人を捕まえる対応をします。そうすると、札幌のこれまでの対戦相手と同様、浦和もGK西川しかボールを持てなくなる。その西川にもアンデルソンロペスがアプローチして、西川はロングフィードを杉本に蹴り、ミンテと競る。この定番となりつつある展開でした。
  • 一方で、札幌がGKの小次郎にバックパスをした時は、浦和は後ろが揃っている時だけ杉本がスイッチを入れますが、先述の通り最終的にはゴール前のスペースを埋めることを念頭に置いているため、浦和はあまり深追いはしません。なので、小次郎-宮澤-ミンテの3人は、反対の局面とは異なって常に正面に浦和の選手がいる、とはならず、空いている味方を探す余裕はありました。
  • 特に小次郎は前半何度もバックパスを受けましたが、全て味方へのパスを狙っており、1度も安易なクリアをしなかったと思います。先ほどの図にも示しましたが、小次郎が中央、左右に宮澤とミンテが立ち、この左右の選手間でボールを動かして、前進できそうなサイドから仕掛けていきたい。小次郎が中央で中継を担うのですが、杉本がかなり追ってきても小次郎は足で(利き足の左だけでなく右も使える)横にボールを流すことができるので、普段はボールを手放すことが早く、ミシャによく槍玉にあげられるミンテも安心して預けられるのか、適宜、小次郎を使いながらじっくりとボールを動かしていました。


最後に燃料切れを招く攻撃の構造:

  • 札幌が保持したボールは、福森や中央の選手からの、長いパスをサイドにつけて突破を図るいつものパターン。加えてもう一つは、中央の金子が受け手になり、金子から局面打開を図るパターンです。
  • 札幌は、右シャドーの金子はゴールに近い位置でプレーする意思を見せますが、駒井はより下がったポジションを中心に動きます。またこの2人の関係は、守備時に金子はそのまま前に残りますが、駒井は下がって中盤の選手(金子)をマーク。なので、浦和からすると、前情報がないと、札幌は2トップなんだか3トップなんだかわからない配置や動きをします。
  • これを2トップだと解釈して、岩波がアンデルソンロペス、槙野が金子を見る1on1の色が濃い対処をすると問題になるのが、金子はシャドーのポジション…ハーフスペース付近によく立つので、槙野がこれを捕まえようとすると▼のように中央が空いてしまいます。ですので、槙野はあまり金子を捕まえるために前に出にくい状況にあります。
金子の中途半端な位置取りが槙野には悩ましい状態

  • そうなると金子へのマークがはっきりしないので、パスが配給されれば、金子はここで前を向きやすくなります。「金子ゾーン」とか言われていましたが、この日も4バック状態の浦和に対してはうまくこのギャップを利用できていました。
  • 札幌の問題はそこから先、浦和陣内にボールを送り込んでから最後にどういう形でシュートまでもっていくか、というフィニッシュのデザインの部分にあります。
  • 札幌は右シャドーの位置には金子がいて、左の駒井は下がってくる。駒井のポジショニングでは、浦和の1列目を越えることができないのもあって、札幌の攻撃のスイッチは右の金子へのパスに集中します。金子がほぼ唯一の受け手だったと言えるでしょう。
  • 左利きの金子は中央付近に向かってターンから仕掛けようとします。アンデルソンロペスは岩波を背負いながら金子と近い位置にいますが、前線には実質この2人しかいないので、「金子にまず預ける」だと、後は2人で何とかしてくれ状態に頻繁に陥ってしまいます。

「まず金子」だと途中で手詰まりになる
  • それでも絶好調の金子は槙野なり、浦和のDF1人なら剥がせそうな雰囲気は常に放ち続けるのですが、ゴールから遠いところで1人剥がしてもまだゴールまで距離があり、浦和は枚数を確保したりブロックを整える猶予がある状態。
  • どれだけ優れたドリブラーでも全員を抜くことはできないので、金子があまりゴールから遠い位置からスタートして攻撃が始まると、最後ゴール前でチームとして勝負したい時に金子がいない、アンデルソンロペスだけが張っている状態で浦和は何人もDFが残っている。まるでチームとしてガス欠のような状態に陥ってしまいます。
  • 27分の金子のペナルティエリア外からのミドルシュートが、流れの中からではこの試合最大の決定機だったと思いますが、アクションを開始する位置がゴールから遠いと、フィニッシュは中距離/遠距離での難易度が高いシュートに限定されます。


  • もう1点、金子のいる右依存が高いことで、ゴール前で顕在化していたのは、ゴール前でアンデルソンロペスにボールが入る際、得意の左足が切られた状態が多かったことです。
  • 右サイドからの縦パスは▼のような角度で入ってきます。アンロペが最短距離でターンすると、左向きにターンしてボールは右足に入ります(左足だと岩波に近いところで持つことになってしまう)。逆向きにターンすると、密集する浦和のDFに潰されてしまいます。なので、金子のいる右サイドでボールが動く、縦パスも入るまではいいとして、その先がアンロペの右足なので一気にゴールの期待値はしぼんでしまう状況でした。この点については、右利きのFWが1人いてもいい、と、ウーゴヴィエイラの獲得前後から書いているのですが、ガブリエルも左利きらしいんですよね。

フィニッシュはアンロペの右足


格の違い:

  • DAZNのデータによると、前半のボール支配率は浦和38:札幌62でした。浦和はボールを持てなかったし、持つ気もなさそうでしたが、特にマンマークを仕掛けてくる札幌の、小泉と深井のマッチアップが試合展開全体に大きく影響していました。
  • 札幌の選手配置上、深井が右、駒井が左になるのは必然というか、シャドー兼任の駒井は左から動かせないので、浦和の中盤センター左に入った小泉と深井のマッチアップは、どちらかというと偶然の産物だったと思います。
  • ただ深井が、浦和がボールの預けどころにしたい小泉をほぼ完全にシャットアウトします。図示がうまくいくかわからないですが、深井は小泉へのパスコースがない状態ではいったん離れておいて、味方が空けたスペースを守ります。これが、小泉がパスコースを確保した状態になると一気に距離を詰めて、ターンさせないとともに可能なら身体を当ててボールを奪いに行きます。小泉はスペースで受けるのは得意なのだと思いますが、深井に当たられるとプレーのクオリティ維持が難しく、何度か札幌はボール回収に成功していました。
  • 深井が対応できない場合は、金子やルーカスがプレスバックする等して小泉を見ており、全体的に札幌はチームとしてケアしていたと感じます。

深井のスペースと人への対応

最後は札束:

  • この試合も、札幌のベンチは相手よりも動きが遅く、浦和は65分までに田中、伊藤、大久保を投入して、わずかなチャンスで前に出られる余力を確保します。
  • 公式記録て9本のシュートを放った、浦和の攻撃パターンは、左サイドの大外レーンを空けておいて山中がオーバーラップからのクロス、杉本や中央の選手が飛び込む形がメインでした。めちゃくちゃシンプルなパターンですが、山中が空くと高精度のキックが飛んできますし、杉本もなんだかんだで合わせられる能力は持っています。
  • 対する札幌は、浦和が徹底してリスクを回避したことでショートカウンターを仕掛ける余地はなし。そして前線で切れる交代カードは殆どない。とにかく浦和のブロックの内側でボールを持てない札幌は、ウイングバックのドリブル突破か、ウイングバックのスペースへの飛び出し(サイドにもそんなにスペースがないのですが)くらいしか打ち手がありません。
  • 青木を右に入れ、ラスト10分で金子を右サイドに移すぐらいしか手がなく、それも金子が突破したとして最後中央でどうすうんだ?問題はアンロペが一身に引き受けていました。


3.雑感

  • 2020シーズンの大半の試合と同様、攻撃しているように見えてもゴールへのデザインには欠けていました。開幕戦の記事でも書きましたが、やはり前線にかつての武蔵の役割(セカンドストライカー兼攻撃的MF)を担う小柏がいないとバランスが悪く、3人で分担していた役割を金子とアンデルソンロペスで遂行しようとして、ゴール手前で燃料不足になることがしばしばです。
  • まだシーズンは始まったばかりですが、この日のように、強者のはずの人たちに弱者のサッカーをされると、少しずつ順位表の数字が気になってくる展開が予想されます。

4 件のコメント:

  1. いつも拝見しております。
    本文でも触れていらっしゃいましたが、札幌の交代カードの使い方、タイミングについてどうとらえていらっしゃいますか?
    昨日も、シャドーの駒井を下げて、どちらかと言うと守備要員に近い高嶺の投入、残り10分での青木、大八の投入。交代枠を2つ残してのフィニッシュでした。ミシャから、負けなくてラッキーだったとのコメントがありましたが、引き分けでもよしとの考えだったのでしょうかね。

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    1. >札幌の交代カードの使い方、タイミングについてどうとらえていらっしゃいますか?
      →スタメンに対する信頼が全体的に高いな、という印象と、交代カードに、「1点を争うシチュエーションである程度計算が立ちつつ特徴を出せそうなタイプが少ない」印象です。
      例えば駒井の位置に青木や中野を使うと、ボールを持っている時は良いけどそれ以外だと信頼できるか。マークが外れたら終わり(ラストになっても浦和はカウンターを仕掛ける余力はありました)な中で、戦術理解が低い選手や守備強度が低い選手は使いにくいのはあったと思います。
      比較的、サイドとかFWだとそうした選手も送り出しやすいのはあると思いますが、サイドは計算できる選手がスタメンで出ているし、逆にFWは昨日のベンチにはいない。高嶺は一番計算が立つので、一概に守備要因とは言えない気がします。
      もっと青木が自由に仕掛けていいような設計だったらまた変わってくるんですけど(後ろにカバー頑張ってくれる人がいるとか)、結局これも「トータルフットボール」なので、選手個々の”一芸”よりも総合的な能力を見て選手を使っている、という視点は理解できます。

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  2. いつも拝読しています。

    ペナルティーエリア内でジェイ並のクオリティで守備強度も高く保てる選手ってレアンドロ・ダミアンくらいじゃないでしょうか。
    金がないといえばそれまでですが、そういう選手が居ないと勝てないサッカーになってることも問題かと。鳥栖はおそらく札幌より金がないのに勝ってるわけで。
    鳥栖のように育成とトップのやり方を一致させていればコンサもU18日本代表で主力級の3年佐藤あたりは、途中からなら攻守にある程度計算できる選手として戦力になっていてもおかしくないと思います。

    資金力がない状態でこのサッカーで結果を出すには、自前でそこそこの計算できる選手は調達する必要があるかなと。
    鳥栖はアヤックスと育成で提携していますし、結果指導者も育ててるので凄いなと思うんですが、コンサは育成改革は難しいですかね?

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    1. 育成は壮大なテーマですね。
      まず、ダミアンくらいのクオリティが必要というのは一面正しいですね。ただ2人分守れる選手を置くとかやり方はあります。そうしてないだけで。

      育成に関して感じるのは、10年くらいずっと発掘には力を入れてますよね。全道に拠点広げてスタッフも送り込んで。最近はトップチームのレベルが上がってるので、課題は18-22歳をどうするか、になりつつあると感じます。
      後は、10年前は下部組織にまず投資してたのが、ここ数年はトップチームにより金を使うようになっている。結局金を産むのはトップチームだと考えるとこれは正しい。そう考えると、特効薬はなくて地道にやってくしかないかなと思います。

      鳥栖はまだこれからですよね。トップチームも今年どうなるかわからないですし、今の年代にたまたまスーパーな選手が集まってた可能性もある。10年前の札幌のように。
      ユースの寮と練習場隣接とかすごいなと思いますが、育成もお金かけないとできないですよね。

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