2019年7月22日月曜日

2019年7月20日(土)明治安田生命J1リーグ第20節 北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ ~ボスロイド 動きます。~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、荒野拓馬、宮澤裕樹、菅大輝、鈴木武蔵、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、MFルーカス フェルナンデス、駒井善成、中野嘉大、早坂良太、FWアンデルソン ロペス、岩崎悠人。ここ数試合、左で起用されて好調の白井を右、トップにジェイ。やりたいこと、ゲームプランはメンバーを見ればわかる(後述)。
 湘南(1-3-4-2-1):GK秋元陽太、DF山根視来、フレイレ、大野和成、MF古林将太、齊藤末月、金子大毅、杉岡大暉、FW武富孝介、梅崎司、山﨑凌吾。 サブメンバーはGK松原修平、DF毛利駿也、MF秋野央樹、鈴木冬一、FW野田隆之介、松田天馬、トカチ。予想通り前節と全く同じスタメン。
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1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌のゲームプラン


 特にビルドアップにおいてはミシャの考えは複雑なようでシンプルだ。相手が来るならリリース。相手が来ないならドリブルで運ぶ。サッカーの鉄則通りだ。特に湘南相手には一貫している。ハイプレスに正面から付き合うことは合理的ではないので放り込んで回避。放り込んだ先にはターゲットが必要。札幌にはジェイ様がいる。
 ここまでは過去の経緯からわかっていた話だが、コンディションが戻りつつあるアンデルソンロペスのベンチスタートは、筆者は予想しなかった。厚別の風も考慮して、ジェイの重要性は尚更高いと考えたのかもしれない。そして放り込む展開が続くと、サイドの選手のボールタッチは減る。ルーカスのベンチスタートはこの点に理由があったと思う。

1.2 湘南のゲームプラン


 チョウキジェ監督のコメントを見ても、ジェイに放り込むビルドアップをしてくるところまでは想定済み。それに対処するためにセカンドボールを拾う選手を中盤に用意する。勿論、札幌が地上戦でビルドアップをしてくるならハンティングからのファストブレイクを狙う。

2.基本構造

2.1 世界はジェイを中心に廻る


 「1.」に書いたように、ジェイの存在を中心にこの試合の前哨戦は始まっている。プレビューで見た通り、湘南は前の5人を機動部隊として運用する。
札幌ボール保持時の初期配置(白円は湘南の機動部隊)

 ジェイへのフィードが成功すると5人は無力化され、札幌の強力な5トップと5バックの同数での勝負に持ち込まれる。
 しかもジェイにフレイレがマンマークで対応すると、CB中央の選手が動かされることになるので一番重要なエリアからDFがいなくなる。大野や山根はフレイレの背後のカバーリングのために絞ったポジショニングも必要になるが、ここが曖昧になると武蔵や菅が裏に侵入してくる。そのパスはチャナティップから出てくる。
ロングフィードが成功すればプレス要員5人を無力化できる

 このため湘南はまずジェイに入るボールに対処する必要がある。具体策は金子と齊藤のプレスバック。ジェイに入りそうなら早めに下がってフレイレとサンドする。
簡単にロングフィードから形を作られないように後ろもケアする

2.2 蹴らせないために


 上記「2.1」は札幌の出し手(基本的にはキム ミンテや宮澤)がプレッシャーを受けていない場合を想定している。湘南相手にそれが何度も続くことは現実的ではない。
 特に「ク ソンユンが絡む地上戦でのビルドアップ」のシチュエーションはほぼ必ず狙ってくる。前の5人を最大限に使い、札幌ゴールに近いところで、ポジションバランスをあまり気にせずボールハンティングを仕掛ける。
 札幌は福森とチャナティップをビルドアップの出口にする。福森は進藤よりも高めのポジションを取る。これはビルドアップが成功した後で、崩しに関与することも要因だと思うが、福森を武富から離れたポジションに配しておくと、空中戦のターゲットとしてフリーで競らせやすくなる。福森をターゲットにするのは開幕戦と同じ考え方
 チャナティップは地上戦の担当になる。本来担当するのは山根だが、先のジェイ問題(フレイレの周囲のスペースを守る必要がある)によってこの関係性はあまり強くない。なので、湘南は金子や齊藤がチャナティップ番も兼ねる。金子と齊藤の仕事は多い。
そもそもフィードさせないためにハイプレスはできる限り行う

3.試合展開(~15分頃)

3.1 賢明な判断


 札幌は「余計なリスクは犯さない」。このコンセプトはキックオフでも徹底されていた。キックオフ時、湘南は札幌がボールを動かしてスタートする瞬間を狙ってハイプレスの構え。ジェイはボールを下げず、誰もいない前方に蹴り出した(武蔵が走っているが、ちょっと無理なボール。それでも戻して札幌のDFのところでプレスに捕まるよりマシ、とする考えだろう)。
 しかし1分過ぎには、札幌はクソンユンがキャッチしたボールからのリスタートで前線へのフィードではなくミンテへのサーブを選択。ここで基本構造の「2.2」が勃発する。早速湘南がプレスを開始し、福森のミスキックを誘ってボール回収、からの左クロスへ持ち込んだ。

 5分過ぎにも湘南のプレスが襲い掛かる。ソンユンは荒野を選択。本来(相手が湘南でなければ)荒野は3トップに監視されないので浮く。齊藤が背後から猛然とプレス。宮澤を経由して結局ソンユンが蹴り出すしかなかった。
('5"20)湘南のプレスを嫌ってロングボールでリセット

 湘南のコーナーキック×2を札幌が凌いだ後の10分過ぎにはク ソンユンからの攻撃開始機会が立て続けに3度(都度、湘南が跳ね返す等して最終的にソンユンにボールが戻ったため)。この時は福森、進藤、福森に蹴るソンユン。宮澤やキム ミンテにサーブしてから始めるのは一旦やめている。賢明な判断。厚別の風もあってかフィードは安定しない。

3.2 トランジションを狙う札幌


 11分以降札幌が立て続けに前進、湘南陣内でのプレーに成功する。いずれもトランジション直後の時間を狙っての速い攻撃だった。
 以下は一例('14"22)。札幌の攻撃が失敗して湘南(山根)がボール回収。秋元がフィードする、ボール保持できない時の湘南の基本的な振る舞いが発動する。山﨑に宮澤と福森が競って札幌がボール回収すると、
('14"22)秋元のフィードを競って札幌が回収

 攻守が完全に切り替わる(札幌がボール保持、湘南が非保持)。この時により速く次の展開に移行したのが札幌だった。

 湘南は陣形を整える必要がある。プレビューに書いたが、湘南のプレスは陣形回復を前提として発動する。山﨑が右サイドに出張していたので、戻るのに時間を要する。
 札幌はそのタイムラグを利用して攻撃(前進)ができる。この時はキムミンテと進藤の2人で中央、荒野がアンカーに降りてくると3人で展開できる。これは選手個々の資質やスタートポジションよりも、ポジショニングによって役割が規定されるため。全員が定位置に収まる必要はない。強いて言うなら、ウイングバックは常にサイドの高い位置に張っていることが望ましいが、この'14"30のようにシャドーを使った攻撃なら必須でもない。
('14"30)湘南は山﨑が戻るまで”フリーズ”しているが札幌は既に活動している

 11分~15分頃に札幌が見せた攻撃の形は、いずれもこのタイムラグを利用し、湘南のプレスを受けずに速く展開する攻撃だった。恐らくルヴァンカップでの対戦と同様に、湘南がブロックを整える前に速い攻撃を狙っていこう、とする指針は示されていたのだと思う。

3.3 札幌の原則を利用する湘南


 湘南のボール保持攻撃もまた、札幌の原則を利用することで行われる。
 札幌は湘南のようなボールハンティングの意識は強くない。また守備の原則はこれまで同様に人についていくこと。これらを利用すれば、そこまでボール保持が得意ではないチームであってもボールを保持しながらゾーン3まで到達する段階までは可能だ。
 '15"23の局面。山根が持ち上がり縦パスを狙う。この時、中央で齋藤と金子は宮澤と荒野を「ピン止め」し自らは動かない。動くのは札幌3バックと同数で1on1関係になっている前線の3人。武富が引いて福森を引き出す。そのスペースに山﨑と梅崎が走る。これで札幌の3バックは全員ボールサイドに寄せられる。
('15"23)ついてくる札幌DFの原則を利用して人を動かしスペースを作る

 縦パスは山﨑をスルーして梅崎へ。大外では白井が絞り、杉岡がその外側から死角を狙う。山﨑がサポートし、梅崎から杉岡へ。最後は絞っていた白井が体の向きを変えてスライディングしてブロック。「1on1で頑張る」で8割くらいは終わってしまう札幌の守備の性質を利用する湘南と、あくまで頑張りで凌ぐ札幌の構図がわかりやすい局面だ。
('15"28)スペースで受けてWBが走り込みフィニッシュを担う

4.試合展開(16~30分頃)

4.1 試合が動く


 序盤15分は互角の攻防だったか。しかし18分と21分に札幌が連続得点で一気にホームサポーターのボルテージが上がる。1点目はジェイのポストプレーからの波状攻撃で、一度目は進藤からのクロス。跳ね返された後の二度目の福森のクロスに残っていた進藤がダイビングヘッドで合わせる。「4.2」に後述する2点目も縦へのフィードからの、ジェイの空中戦での競り合いから。
 なんだかんだでサッカーはGKとFWが大事だと言われる。ジェイの起点創出能力を止められないと、仮に中盤で優勢でもゴール前での劣勢はその優位性を簡単に覆してしまう。こう考えると、やはりジェイを中心にこの試合は廻る。が、まず荒野にフォーカスを置いて局面を振り返る。

 1点目について。札幌は↓の、最後尾にキム ミンテ+福森、中盤に宮澤と荒野、とする2-2に近い構造でビルドアップを試みている。「3.2」に示した図とテキストも対照してくれるといいが、この時も、プレスが速い湘南を警戒してか、「(いつもの1-4-1-5に変形せずに)CB3人のうち2人が中央にそのまま残って攻撃を開始する局面」だ。

 「3.2」の局面もそうだが、荒野のポジショニングが独特だった。守備組織はしばしば「列」で表現される。1-4-4-2なら偶数人数を配した3列。湘南は1-5-2-3なら、1列目は3人、2列目は2人。この2人の脇は狙いどころだとされるので、1-5-4-1を併用したり最終ラインから人を足したりして解決を図る。攻撃側は「列」を越える必要がある。列を越えるにはドリブルかパスが必要だ。
 パスは列を越えるようなポジションで受ける必要があるが、荒野は違う。↓の'17"13もそうだが、荒野は湘南の1列目:武富-山﨑-梅崎の3人の背後ではなく山﨑と武富の中間くらいにいる。そして武富が福森に対して出た時を狙ってパスを受けるが、
('17"13)荒野はどっちつかずな位置に

 それでは「列」は越えられない。ボールを受けて前を向いたときに、1列目も2列目も荒野の前にある状態だ。しかし荒野はここから何とかしてしまう。横方向へ持ち出して角度を変えると、山﨑のすぐ脇に僅かなコースを見つけてジェイへ縦パス。細かい解説をすると、この持ち出し方、体の向きからは武蔵(もう完全にシャドーのプレーを習得し、適切なタイミングで湘南のMF脇(赤円)に顔を出している)への斜めのパスを普通の人は予想する。金子もそれを予期して中央が空いてしまったのかもしれない。↓の展開から「進藤の1回目のクロス」に繋がっている。
('17"23)山﨑を出し抜いて縦パス

 湘南は武富が福森をロックオンしていた。俯瞰図で見ると、山﨑が荒野に厳しく対処すれば問題なかったように思える。が、山﨑にそれが無理だったのは荒野の「どっちつかずなポジショニング」が影響したのかもしれない。荒野が最終ラインに下がれば(いつもの役割なら)山﨑が前進して捕まえればいい。が、中盤でプレーするなら山﨑は荒野ではなくキム ミンテを監視していた方がいいかもしれない。そんなイレギュラーな荒野の一連の動きから得点は始まった。

 そして進藤の攻撃参加について。
 札幌が1-5-0-5(セントラルMFの2人が両方DFに下がってから開始する形)なら、進藤は高い位置取りができる。が、この時は上記のように荒野が下がるのか、中盤に残るのかがはっきりしない。札幌は最終ラインに2人しかいない。この時荒野の縦パスが引っ掛かっていたりしたら広大なスペースを、湘南の3トップvs福森&キムミンテで勝負しなくてはならない。
 こう考えると進藤の攻撃参加もセオリーではない。が、湘南も山﨑が荒野の振る舞いに巧く対処できていないところから、ジェイにボールが入って所謂”攻撃のスイッチ”が起動したこととなった。進藤はこの時の状況判断(後ろは枚数的に本来足りていないけど、”ボール周辺の雲行き”は、湘南のカウンターを食らうように見えないから、攻撃参加していい)に秀でる。結果マンマーク基調の湘南からフリーを享受したまま、ラストパス(クロス)&ヘディングシュートと二度続けてフィニッシュに絡むことができた。ピッチ上22人のうち進藤1人だけが、荒野から始まる局面をいち早く予期できていたと言えるかもしれない。

4.2 ボスロイド 動きます。


 21分の2点目は簡単に言うと、ジェイの空中戦から札幌がボールゲイン。セカンドボールを拾って右の白井に展開し、白井が杉岡との1on1をチェンジオブペースから縦に振り切ってクロス、以前からクロスの狙いどころについて助言していたジェイが古林と山根の間で叩きつけるヘッドで合わせたものだった。構図は「基本構造」の「2.1」に書いた通り、ここもジェイの起点創出能力を潰せないと、5トップvs5バックの勝負になる。

 23分には梅崎が接触のないところで痛んで一時離脱。戻るがプレーに入りきらない隙を狙って、シャドーの武蔵に縦パスが入る。武蔵の低いアーリークロスから決定機を迎える。
 25分にも白井が杉岡を突破する。クソンユン→キムミンテの自陣ゴール付近からのビルドアップが荒野→武蔵と渡って白井へ。ピッチ縦幅を目いっぱい使われると、湘南は完全にマンマークで応戦するしかなくなる。白井はまたも縦を選択。菅の金文字ユニフォームが活躍する機会を奪った杉岡について、札幌は縦突破が有効とスカウティングしていたのかもしれない。

 この時間帯は札幌が押せ押せだった。スコア2-0ということで、やはり1-5-4-1で撤退して湘南に持たせてカウンターを狙う路線にシフトしていく。27分には狙いどおり、チャナティップ→武蔵のスルーパスでGK秋元と1on1になるがシュートは正面。

5.試合展開(31~45分頃)


 30分時点でホームチームが2-0でリードし5-4ブロックでリトリート。速攻を狙いたい湘南にはハードなシチュエーションだ。解説の曽田雄志さんも言及したが、札幌がほぼ純粋なマンマークで守るのでサイドチェンジがあまり効果的でない。ならば中央を突きたいが、中央は4人のMFで閉じられている。
 しかし37分に武富のミドルシュートがCKを獲得。梅崎のインスイングのキックは、ゴールエリアのほぼ中央でクソンユンとキムミンテの接触を誘い、大野が押し込んでスコアは2-1。
 そしてこの得点直後に湘南は梅崎→松田に交代。そのままシャドーの位置に入る。
38分~

 湘南の方向性は、「ひとまず山﨑に放り込んでセカンドボール勝負」。前進に苦労するシチュエーションでのいつものパターンだ。基本的にはキムミンテvs山﨑。パワーバランスは互角ぐらい。ボールも、その先の展開もどちらにこぼれるかは、単に札幌ゴール前では札幌が数的優位、という情報だけでは推し量れないところがある。
 どうなるかまだ様子見かな、と思っていた43分、ボールは札幌に転がる。チャナティップの反転から武蔵が左サイドへ飛び出す。湘南はチャナティップの浮き球でDF数人が置いていかれフレイレ1人。フレイレのタックルに一度主審がレッドカードを手にするが引っ込めてイエローカード。試合はまだ壊れなかった。

6.試合展開(46~60分頃)

6.1 どつき合いで開幕


 後半立ち上がりに互いに1度ずつビッグチャンス。まずは湘南。キックオフから数十秒後、左からのスローインから放り込みを選択。山﨑が競り、セカンドボールを松田と齊藤で狙う。宮澤のミスを誘って齊藤が回収し、運んでから最後は古林。フィニッシュは「3.3」に示した、杉岡が最後に入ってきた形と似ていた。
('45"40)山﨑が競って松田と齊藤で回収

 このプレーからのCK。札幌が跳ね返すと、スター状態の白井が自陣から数十メートルをドリブルで運ぶ。またも縦突破が成功し、カウンターから低いクロスに荒野が頭で合わせるが秋元がビッグセーブ。やり直した展開でも、中央で宮澤→進藤の縦パスにライン間の荒野が得意の「足首だけで進行方向と90度以上別の角度に出すパス」で武蔵が決定機を迎えるが、チップキックのシュートはライン上で山根が掻き出して1点差は維持される。

6.2 湘南のシステム変更


 この殴り合いが落ち着いた49分頃に湘南のシステム変更が明らかになる(恐らく後半開始からこの形)。金子をアンカー、齊藤と松田がインサイドハーフで並び、武富と山﨑の2トップ気味の並びにシフトする。↓の図で松田や齊藤のポイントを非対象にしているのは、役割は恐らく2人ともインサイドハーフなのだが、齊藤がより後ろをオリジナルポジションとしていたためだ。
46分~

 ボール保持時の狙いは「6.1」のように、山﨑に蹴って前は武富がサポート、その1
枚下で齊藤と松田がセカンドボールを回収。特に齊藤は凄まじい勢いで局面に顔を出す。
 非保持時は以下。中央を2トップで切ってサイドに出したところを松田と齊藤で襲う。札幌が1-4-1-5でセットしている時はマッチアップが揃うので、松田や齋藤が進藤と福森に1on1で勝算があるならこれは有効だ。
札幌の1-4-1-5にマッチアップを合わせる

 徐々にこの布陣変更がボール保持時にも効いてくる。
 何度も繰り返すが札幌の守備の80%はシンプルなマンマークで構成される。「誰が誰を見る」という状況が明確で、かつ相手の危険な選手を抑えられていることが重要だ。↓の'54"35は、湘南は山﨑が張り、武富が引いてプレーする。キムミンテは誰かに捕まえろと指示を送っているが、中盤は札幌2枚に武富を加えると湘南は3枚。CBが誰か前進守備しないと枚数が合わない。
 そしてボールの出所を抑えようにも、ジェイはアンカーにシフトした金子をを見ているので前線は湘南の3バックに対するプレスを起動できない。ジェイは相手がアンカーを置くチームだと、守備対象を相手CBからアンカーによく切り替える。試合開始時からやっている時は恐らくチームオーダーなのだが、状況を見てジェイの判断で変えてもいいことになっているようにも思える。ともかくこの構図でマッチアップすると、湘南の2列目を札幌は捕まえづらくなり、出しどころも抑えられていないので、湘南のボール保持は再びゾーン3までの前進が可能になってくる。札幌は最終ライン自体は枚数が揃っているので、札幌5バックvs湘南前線の選手が対峙する攻防で多くなるが、ここで守れていればOK、という考え方だった。
湘南が2列目に3人を並べると浮く選手が現れる

 が、それでも変わらないのはジェイの前線での起点創出能力。上記54分の攻撃も、札幌が凌いだ後はジェイへのロングフィードで陣地回復(フレイレのファウルを誘った)。続いて56分にもジェイの空中戦から札幌が攻撃機会を獲得(結末は進藤がファウルを受けて右45度からフリーキック)。こうして真面目にプレーを追っていくと、ジェイのコンスタントな貢献がある。61分の、ジェイのオフサイドによって無効になった荒野のシュートも、札幌のGKにハイプレスの構えを取る湘南の選手の頭の上を超すフィードをジェイが収めたところからだった。

 一般に、中盤に3人を並べるシステムは中盤が厚くて固い、セカンドボール回収がしやすいと言われる。が、湘南のようにハイプレスを意識する場合は別だ。ジェイが競ったボールがフレイレよりも前に落ちれば、齊藤も松田も前進守備でそれぞれ札幌の選手を監視しているので金子1人しかいない。ボールホルダーが捕まえられているならいいが、クソンユンからのゴールキック等のシチュエーションでは、ハイプレス継続かジェイのセカンドボール優先かの二択を迫られる。
ハイプレスと後方の密度は両立しない

7.試合展開(61~75分頃)


 特に構図は大きく変わらない。湘南はマンマークの意識強めでプレスを継続。札幌はそのたびに前線に蹴ってプレスを回避する。
 これを見て湘南は67分に金子→トカチに交代。再び1トップ2シャドーの形に戻す。中継では実況アナウンサーの「北海道でトカチがデビューになりそうですね」を解説の曽田さんは極めて冷静に受け流すのであった。
67分~

 スコアが動いたのは71分。ソンユンのフィードを武蔵が収める。一度最終ラインに戻したボールを、福森の1点目と同じような位置からのアーリークロスからジェイのこの日2点目となるヘッドが決まる。
 秋元と激突したジェイはお役御免でアンデルソンロペスと交代。

8.試合展開(76分~終了)


 湘南は76分に古林→野田に交代し1-4-4-2にシフト。ソリッドにやっていこうというより、保持・非保持局面共に前線の枚数をより確保したいがための変更だっただろう。
76分~

 慣れない4バックはミシャ式の餌食になってしまう。シチュエーションもあり前からいきたい。一方後方中央はマンマークの関係が強い。札幌の前線はここ2年「チャナティップ+長身選手2人(但し三好は例外)」なので、4バックのチームはCB2人で長身選手にマンマーク気味の守備で処理しようとする。チャナティップの見方はチームにより異なるが、湘南は齊藤も前から行くとチャナティップの周辺でマッチアップ的に無理が生じてくる。
 加えて福森vs野田のマッチアップ。野田はあまり前から捕まえる守備が得意ではないのかもしれない。福森は対面が野田に変わったことで時間を享受するし、湘南のやり方に慣れてきたのもあってか、完全にボールを狩るだけのプレス強度にならない。こうなると、齋藤は野田方面をサポートする意識が強くなり、背後は更に希薄になる。
布陣変更でルーズになっていく湘南
 そうなると後はチョウキジェ監督が恐れていた、札幌前線選手のクオリティが存分に発揮されるシチュエーションに。80分にチャナティップのスルーパスからロペス、84分にカウンターからチャナティップの得点で一気に点差が開く。ラストプレーで湘南のCKから野田の得点で1点を返して試合終了。最後の失点は余計だったが、まさにこのような殴り合いで終わらないために戦略や戦術がある、と示してくれるような(?)展開だった。

9.雑感


 湘南が勝利した開幕戦との差異を言うと、一つはコンディション。開幕戦では2ヶ月のキャンプ明けでの戦いを強いられたので、この点は大きいだろう。
 もう一つは右の白井。ジェイのMOMは納得だが、湘南の警戒度合いとの差でいうと、わかっていてもやられるジェイ以上に、白井の右サイドアタックがたびたび成功し、杉岡とのサイドを札幌が完全に制圧する展開は、湘南にはダメージが大きかっただろう。次節はアウェイで、よりディフェンシブな1-3-4-2-1の広島。スペースがない中で我慢比べの試合になりそうなだけに、この好調が1週間の休みを挟んでも継続されていると大きな助けになる。

用語集・この記事内での用語定義


1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
ゾーン3ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

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