2016年6月1日水曜日

2016年5月28日(土)14:00 明治安田生命J2リーグ第15節 北海道コンサドーレ札幌vsレノファ山口FC ~2段構えの中央封鎖~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、増川、福森、MFマセード、深井、宮澤、石井、ジュリーニョ、FW都倉、内村。石井が第3節以来のスタメン復帰、サブメンバーの選出(金山、河合、櫛引、堀米、稲本、小野、ヘイス…1人は前線に投入できる小回りの利く選手がいても良いと感じるが)も含め、恐らくこれが四方田監督の考える現時点でのベストメンバー。左のウイングバックは石井と堀米のどちらの序列が上か迷うところだが、2015シーズン終盤のレギュラーかつ開幕3戦でスタメン起用されていて、この試合でも復帰後即スタメンの石井がファーストチョイスだと見る。
 レノファ山口FCのスタメンは4-2-3-1、GK一森、DF小池、ユン・シンヨン、北谷、香川、MF庄司、三幸、鳥養、福満、島屋、FW岸田。岸田が第5節以来のスタメン復帰。試合前日に羽田空港で発生した大韓航空機の出火事故で羽田空港が封鎖された影響により、山口の選手は試合当日に札幌入りしている。


0.山口の戦術コンセプトやプレーモデル


 山口はFC町田ゼルビアと並び、2016年シーズンのJ2リーグ序盤で戦術的に最も注目されているチームの一つで、町田がハイライン4-4-2からの組織的プレッシング・カウンターアタックを武器にしている一方、山口はJ2・14節時点でリーグ最多の21得点を奪っている攻撃面が注目されている。
 山口の戦術やプレーモデルについてはいくつかのブログ等で考察されているが、昨年のFootball Labの記事もデータに基づいた整理がされており参考となる。この記事で注目したいデータは、「ディフェンシブサードから始まった攻撃からシュートに至った時間」であり、「山口のシュートまでの時間はJ3の中でも3番目に長い。しかしながらグラフの黒の部分、敵陣進入後からシュートまでの時間は町田に次いで2番目に短い数値となった。」とまとめられている。
 敵陣に運んでからシュートを打つまでの時間が短いというのは、言い換えればゴールまで最短距離で向かうことができる…解釈の一つとして、"回り道"であり時間のかかるサイド攻撃だけでなく、中央突破でゴールを奪うメソッドを持っているチームだと考えられる。
 これまでのゲームから、山口がよく狙っているのは、通常4-4-2で守るチームのSBとCBの間、流行りの言葉で言うところの所謂"トレーラーゾーン"で、ここに1トップの選手やトップ下がポジショニングすると、ボランチの庄司や最終ラインの選手から縦パスが入る。山口は縦パスが入る瞬間、①落としを受ける選手、②裏に走り込む選手(3人目の動き)を必ず用意しており、このパターン化されたコンビネーションでスピーディにゴールに迫る。
縦パスからトレーラーゾーンの攻略
縦パスを受ける選手、落としを受ける選手、裏に抜ける選手を用意する

 また庄司は長い距離のパスを通すためにインサイドキックで高速の縦パスを多用するが、ボールにスピードがあり距離が長いためターンオーバーも少なくない。ただこの時にパスを受ける選手、そのリターンを受ける選手がターンオーバーの発生地点の近くに必ずいるので、ボールを失った後、すぐに複数の選手でプレッシングを仕掛けることができる。こうした最短距離での中央突破や、意図的に敵陣でトランジションを発生させての二次攻撃を取り入れた設計は(山口には香川やゲッツェのような狭いスペースでターンや突破ができるMF、バリオスやレバンドフスキのような収められるFWもいないが)クロップのドルトムントなどを意識しているのかもしれない。

1.前半の展開

1.1 札幌の守備戦術と山口のビルドアップ

1)撤退して遅攻に持ち込む札幌と、遅攻上等の山口


 山口がボールを保持している時の札幌の布陣は、"いつも通りの"5-2-3。
 今期の札幌は対戦相手に応じて、①敵陣センターサークル頂点付近からのハイプレスと、②全員が自陣に撤退させてのローブロックでの撤退守備、を使い分けている。前者を採用しているのは、前節のカマタマーレ讃岐戦等で、後者は4月のセレッソ大阪戦などである。また第9節のファジアーノ岡山戦では両者をミックスさせたような対応をとっていた。
 そしてこの試合のファーストプレーで、札幌は3トップが山口のビルドアップ部隊に対して高い位置からプレッシングをかける姿勢を見せるが、山口は低い位置でCBがサイドに大きく開き、中央にボランチの庄司が降りて基点となる形をつくると札幌の前線3選手はハイプレスを仕掛けず自陣に撤退する。この後のゲーム展開を見ると、恐らく山口のこうした動きは想定済みで、札幌としては庄司が降りて山口が得意なビルドアップの形を作ると、5-2-3でブロックを作りながら撤退し、山口のパスコースを封鎖することがゲームプランとして想定されていたと考えられる。
 山口を見ていて感じたのは、自陣でボールを奪うと、札幌の選手がブロックを構築しきれていない状況でも縦に急がず、ゆっくりとボールを回しながらセットオフェンスのフォーメーションを回復させる。これにより札幌に5-2-3のブロックを整える時間を与えてしまっているのだが、恐らく庄司を落としてから始めるセットオフェンスにはかなり自信を持っており、セットオフェンスのプライオリティが速攻よりも高いのだと思われる。

2)隙間を作らない札幌3トップの守備


 先述のように、庄司を落としたビルドアップの形から、山口はトレーラーゾーンで受ける選手への縦パスを狙う。前半は庄司が中央やや左、下の図でいうとジュリーニョと都倉の間からパスを出せるようなポジションをとり、左サイドに選手を集めての崩しを狙う。
中央やや左サイドよりの位置で庄司がボールを持つ
山口はワンサイドに選手を密集させる
FW(ここではジュリーニョ)がコースを切るポジショニング
(図はサイドへの展開を狙うがパスミス)

 この攻撃を狙う山口に対し、札幌は明確な対策を2段構えで用意していた。一つは①FWによる中央パスコースを閉めるポジショニング、二つ目は②センターバックによる迎撃、である。
 ①については、札幌の前線の選手の間にできるパスコースを、トップの中央にいることが多かったジュリーニョを中心に選手間の距離を短くすることで中央のパスコースを切る意識が強く、序盤は庄司が札幌の3トップの前でボールを長い時間保持し、横パスをしながら縦パスを出すタイミングを探しているような状況が多発する。

<3人の隙間を埋める両ボランチ>


 このとき、3人の選手ではピッチの横幅をカバーできないので、かつ選手間の距離を短く詰めるているので、札幌としては山口にピッチをワイドに使われると次第に選手間に隙間ができることになる。ただ山口は最終ラインの両センターバックなど、庄司以外の選手があまり足元に自信がないのか、中央の庄司がずっとボールを保持している時間が長く、前半はあまりピッチをワイドに使ってこない。そのため札幌の前線3人があまりサイドに引っ張られて、隙間を作るようなケースが前半はあまり見られなかった。
 厳密には、ネガティブトランジションの際など戻りが遅く隙間ができそうな局面もあったが、こうした時は下の写真のように、ボランチの深井や宮澤が前に出て隙間を埋める対応ができていた。
横に振られて(図では庄司→福満)隙間ができそうなら
ボランチ(図では宮澤)が前に出て埋める
横にパスを振られて3トップ(都倉-内村)の間が空くが
深井が前に出てカバーする

<トレーラーゾーンでの迎撃>


 もう一つの対策は、CBによるトレーラーゾーンで受ける選手への迎撃で、一般的な4-4-2のゾーンで守るチームの場合、SBとCBの間のスペースにポジショニングしてパスを受けようとする選手に対して着いていく(食いつく)と、その分スペースを空けてしまうことになり、パスを読み切っているような状態でないと受ける段階で潰すことが難しい。一方、札幌はCB3枚を含めた5バックで守るので、下の図でいうと岸田に対して進藤が出てもまだ4人が最終ラインに残っている。人数が多い(カバーしてくれる)ので、進藤は中途半端なポジションで受けようとする選手に対して積極的に出て潰すことができる。
自陣に全選手を撤退させ
FWの守備によるパスコースの封鎖(限定)と
CBによるトレーラーゾーンでの迎撃

3)得意の中央突破の封殺に成功


 縦パス1本での中央からの崩しが難しいとみた山口は、サイドバックからの斜めのパスや、中盤の1枚(主に福満)が札幌のFWの間にポジショニングし、ドリブルを挟んでパスの距離を短くしてボールを運ぶことや、庄司と近い位置にまで降りてきてパスの供給源を増やすことで中央縦貫を試みるが、札幌は前線の3人に、時にボランチの深井や宮澤が前に出て隙間を埋めることで、縦パスを通すコースを作らせないこと、また山口のパスの受け手となる前線の選手に対して札幌のDFが十分な枚数を確保しているため、前線でボールを収めることができない。
1本のパスによる縦貫が難しいとみて
山口は福満が降りるなど、ボールの運び方を工夫するが
札幌はCBが潰す
札幌FWの中間でパスを受ける選手を用意し
パス距離を短縮することで縦貫を図るが
ジュリーニョがチェック(間で受ける選手についていく

 また福満が降りてくると、山口は前線の枚数が一枚減る。これは何を意味するかというと、縦パスが札幌に引っ掛けられた際に発生するトランジションでボールに絡める選手が1枚減り、セカンドボールの攻防で不利になる。

 結局、山口が前半に庄司からの縦パスが成功した回数は片手で数えるほどであった。その数少ない事例の一つが42:57頃の展開で、札幌の内村-ジュリーニョによる中央圧縮が弱いとみると、庄司は降りてきた、手前の福満を飛ばして島屋に縦パス。島屋が受けた瞬間に岸田が裏を狙い、鳥養がリターンを受けに降りてくる。札幌は岸田の裏抜けを増川と進藤がケアし、島屋には福森が前を向かせず、また宮澤と深井のプレスバックで島屋を囲うことで、山口が得意とする攻撃をさせていない。
縦パスが成功するが岸田の裏抜けは増川と進藤のラインブレイクでケア
島屋を福森とボランチのプレスバックで囲い込む
山口は福満が下がっていて、通常より攻撃の駒が1枚少ない

 こうして札幌が山口の使いたい中央のパスコースを封鎖したことで、前半の山口のスタッツはポゼッションで上回るものの、シュート本数は2本にとどまっている。

1.2 山口の守備戦術と札幌のビルドアップ

1)勇敢な昇格組


 札幌がボールを保持しているときの山口の布陣は4-2-3-1または4-4-1-1で、札幌のビルドアップとのマッチアップは下の通りになる。通常4-2-3-1のチームはトップ下の選手を前に出した4-4-2で守備ブロックを作ることが一般的だが、山口は両サイドハーフの選手が札幌の両ストッパー、進藤を福森を牽制するように高い位置をとり、4-2-3-1の陣形を守備時もあまり崩していないように見える。このようにすることで、札幌の3バック+ボランチ1枚の4枚に山口の「3-1」が数的同数で対抗し、ビルドアップを阻害する姿勢を見せる。
サイドハーフが高めの位置で札幌のストッパーを牽制
札幌のビルドアップに対し4vs4の数的同数で対抗

前の人数を合わせてビルドアップを阻害
ロングボールを蹴らせる

2)大韓航空機のおかげ?


 山口のこうした対応を見て、札幌は後ろから繋ぐことに拘らず、最終ラインやGKのク・ソンユンからのロングボールを多用している。札幌は都倉が主に左サイドで競り合うが、山口が先述の理由による当日入りの移動となったことも影響してか、この試合の都倉の空中戦勝率はかなり高く、山口の陣形を後ろに押し下げることに成功している。ロングボールを使うことで、山口の得意とする中盤で奪ってのショートカウンターも回避することができ、また陣形を間延びさせたことは非常に大きかった。

3)攻めも守りも4-2-3-1

 山口は攻撃時も守備時も基本的に4-2-3-1の陣形を崩さずに守るので、札幌のウイングバックに対応できる山口の選手はサイドバックの選手しかいない。
 ここで札幌のウイングバック、例えばマセードがボールを持つと山口の左サイドバックの香川が出て対応し、香川の裏のスペースが空く。このスペースに札幌はFWの都倉や内村を流れさせることでチャンスを作る。この形は特にマセード→内村という展開で前半数回見られていて、逆サイドの石井はこうしたタスクを与えられていなかったように思える。
4-4のブロックを作ることを優先しない
サイドバックの背後が頻繁に空く

 10:00~の一連のプレー(セットプレーの2次攻撃で、最後は前残りの増川がゴール前に飛び込んだ)もこの形で、札幌のフリーキックを跳ね返した山口は素早く4-2-3-1の陣形を回復しており、後ろは4バックしかいない。宮澤からのロングボールをサイドに流れた都倉が落とし、内村がダイレクトでシュート気味のクロスを上げると、この2選手に山口の両センターバックが対応していて中央は手薄になる。ここに前のプレーから前線に残っていた増川が飛び込むがわずかに届かない。
10:00頃の展開。セットプレーの2次攻撃で増川が前にいる
都倉・内村がサイドを使い、増川が飛び込んでくる

 14:11頃も同じく右サイドで、中央でのトランジションから右のマセードに展開すると、4-2で守っている山口はマセードのドリブルをケアする選手がボランチなのか、サイドバックなのか明確化しない。プレッシャーの緩いマセードのドリブルからのスルーパスにタイミングを合わせて内村がサイドバックの香川とセンターバックの北谷の間を侵入し、クロスを上げると長い距離を走ってきた石井がヘディングシュート。
14:11頃、マセードのスルーパス
内村のクロスに石井が飛び込む

 山口のこの守備方式のメリットは、両サイドを高い位置に張らせることで前線で数的同数を作り、札幌のビルドアップをハメられることと、前に選手を4人配しているので奪った後に速攻を仕掛ける際の人数を確保しやすいことである。37:40頃には札幌の増川→福森→石井のビルドアップを読み切り、石井に渡ったところでサイドバックの小池がインターセプトし、カウンターに繋げている。

2.後半の展開

2.1 立ち上がりの先制点と山口のギアチェンジ


 後半開始1分、ク・ソンユンのフィードを内村が競り、拾ったジュリーニョがペナルティエリア内で軸足の裏を通すトリッキーな突破を仕掛けると、北谷が倒してPKが与えられる。都倉が決めて札幌が先制。
 後半ほぼ最初のプレーで先制を許したこともあり、山口は少しギアを入れ替えてくる。前半はほぼ商事の縦パスからの中央突破一辺倒だったが、札幌が中央に隙間を作らないとみた後半立ち上がりは、自陣からのロングボールやサイドでボールを持つとサイドバックからのアーリークロスを入れるなど、前半になかったパターンを見せる。
サイドバックからのクロス

 山口としては、前半はほぼ中央を封鎖していればよかった札幌の守備に対して、サイド攻撃という新たな選択肢を考慮させ、サイドを意識させたことで本来の狙いである中央を縦貫するパスを通しやすくする狙いがあったと思われる。特に後半の山口は、前半とは打って変わって右サイドでの展開を続けて狙っていて、これは恐らくサイドを意識させる役割を左右どちらのサイドバックが担うか考えた際に、右サイドバックの小池のほうがより適任だと考えたのだと予想する。
サイドを意識させて
中央を封鎖している選手間に隙間を作る

2.2 一瞬の隙から必殺のマセードクロス


 ただ山口にとって痛恨だったのはPKでの先制点の約5分後、53分に内村が挙げた札幌の2点目で、このとき札幌左サイドからのスローインをジュリーニョがヘディングで競る。ジュリーニョはあまりボールに執着しない様子で、一方山口は庄司、小池、三幸の3人がボール付近にいたが明確にヘディングでクリアするといった対応ができていない。
 結果、ジュリーニョにヘディングで宮澤に繋がれると、宮澤が中央の広大なオープンスペースを横切るように右サイドにドリブルで運び、右サイドを駆けあがってきたマセードに展開し、マセードがワントラップからアーリークロスを上げるとペナルティエリア内は札幌の2トップと山口の両CBで2vs2。
 マセードのクロスに両CBの間で完璧なポジショニングの内村がヘディングで合わせて札幌が追加点を挙げる。山口としては、中盤で人数がいたにもかかわらず誰もボールを拾えなかったことが響き、完全な個人のミスからの非常に勿体ない失点となってしまった。
ボール周辺に選手はいるが、拾ったのは札幌の宮澤
がら空きの中央を宮澤がドリブルで運ぶ

2.3 崩すにはワイドな展開が必要


 徐々にサイドに戦場を移していく山口だが、なかなか札幌の守備を崩せなかった理由の一つに、基本的にワンサイドでプレーしようとしていて、ワンサイドで詰まった時に逆サイドに効果的にサイドチェンジして札幌の守備を左右に振ることができていなかったことがあったように思う。
 下の図は60:00頃、札幌は稲本を宮澤に代えて投入した直後の山口の攻撃だが、左サイドで攻撃が詰まった際に後方のMFやセンターバックに戻して攻撃をやり直すが、この時逆サイドに選手を配しておらず、右サイドバックの香川も中央よりのポジションをとっているので、一度攻撃をやり直してもまた中央寄りの展開になってしまう。香川が中央寄りで受けたのを見て、札幌のマッチアップするウイングバックの石井が一気に距離を詰めると、香川は中央の三幸に出すがこれも読んでいた福森が引っ掛ける。香川がもっとサイドに開いてボールを受けられる状況であれば、札幌のブロックを左右に広げることができ、結果として中央に隙間が生まれることになるので、札幌としては対応が難しくなる。
60:00頃の山口の攻撃
横幅が作れていないので、相手選手がいる中央に寄ってくる

2.4 深井様の退場と四方田監督の選択


 ホームチームが2-0でリードし、後は守りを固めて逃げ切るだけ…と見られた試合展開だが、64分に深井が軽率なプレーで警告を2枚続けて受けて退場、残り30分を10人で2点を守り切るミッションとなってしまう。
 この時、個人的には、都倉を中盤に置いての5-3-1もありうるかと考えていた。これは山口は4枚ブロックの間を縦パスで通すことに非常に自信を持っているので、退場で一人少なく前線の守備が機能しない状況で4-4のブロックを敷いても間を通され放題になるのではないか、最終ラインの5バックを維持して水際で食い止める方が効果的では、と考えたためだが、四方田監督の選択は内村アウト、堀米インの4-4-1。最終ラインの右に石井をシフトさせて4バックを敷く。
 ただ5-3-1にせよ4-4-1にせよ、前線に1人しか置けなくなるので、札幌は前線の守備らしい守備を行うことは不可能な状況になる。当然はラインを上げられず、低い位置にブロックを築いて耐えるしかなくなってしまう。
深井退場後。札幌は4-4-1の布陣
前線の守備が実質ゼロになったので
この位置までフリーパスで運ばれる

2.5 迂回せずあくまでも最短距離で攻めてくれた山口


 この深井退場後の時間帯で札幌にとっては幸運だったのが、山口が相変わらずピッチの横幅を使った攻撃をしてこなかったこと。下の写真・図のように札幌は4-4で守ろうとすると、ピッチの横幅をカバーできなくなるので必ず逆サイドを空けざるを得ない。空いているサイドに大きく展開されると、全員が横にスライドして守るのだが、これを繰り返されると必ず選手間に隙間ができ、また体力を消耗する。ただこの写真の69:19の局面でも、山口は手前サイドで展開し、サイドを変えて札幌のブロックを動かすという意識が薄いため、懸念するような展開とならなかった。
4人では横幅をカバーしきれない
奥の香川が空いている
狭いほうのサイドでボールを動かす
小池は最後まで使われないまま

 山口の考え方は、ブロックを左右に振るよりもあくまでやり方を変えずに最短距離である中央へのパスを通していくことや、プレッシャーのかからない後方からロングボールでシンプルに裏を狙うことで、これは75分にはセンターバックのユン シンヨンに代えて星を投入し、4-1-4-1の陣形にすることで、中央攻略にかける駒を更に増やしている交代をしていることからも読み取れる。
75分~
星を投入、庄司を下げて4-1-4-1に

2.6 大きすぎるジュリーニョのスーパーゴール


 更に札幌は深井退場から10分ほど経過した75分頃から、疲労もあり徐々に4-4のラインの感覚が開くようになる。特に本職のMFでない都倉のところ(山口の右サイド)でどうしても隙ができてしまい、山口の縦パスがFWに渡る場面が増えていく。
ライン間に隙間ができ縦パスを通される
都倉は堀米との感覚を詰めるべきだが
サイドに張る選手を意識して中央を空けてしまっている

 必死に足を動かして耐えるしかない展開の中、78分にク・ソンユンのゴールキックを左サイドで競ったジュリーニョが、こぼれ球を左足アウトにかけてペナルティエリアの外からループ気味のボレーシュート。山口の攻勢にさらされ続けた状況で安全圏と言える3点目を独力でもらたすスーパーゴールだった。


2.7 結局、正解は…


 直後の79分、山口の右サイドからのクロスを石井が跳ね返し、セカンドボールをマセードがドリブルでキープしようとするが囲まれ奪われる。これを中央やや左で庄司が拾ったとき、攻→守のトランジションのまさに張本人であるマセードと、マセードのフォローで上がろうとしていた堀米がラインを崩したポジショニングをしている。庄司の正面にいるのは稲本だったが、両隣のマセードと堀米がともに前に突き出た状態になっていたので、稲本の庄司へのチェックが一瞬遅れる。庄司の縦パスをDFを背負って受ける形となったのは星で、対応した進藤が接触したところPKの判定。

マセードと堀米がポジションを回復しきれていないので
ボールホルダーに対する稲本のチェックが遅れる

 ファウルはエリア内か非常に微妙な位置だったが、まずこの場面は先述の理由で稲本のチェックが遅れ、縦パスを許したことと、また札幌の最終ラインは4人でできるだけ間隔を詰めて守っていたが、それでも僅かに山口の選手が活動する空間ができてしまうので、スペースにポジショニングする選手に対して進藤がやや遅れて対応し、倒したことでPKと判定された。この時仮に5バックで守っていたら、進藤がノーファウルで対応できていたとは言い切れないが、5バックのほうが相手に与える隙間はより小さくなることも確かである。結果的にこのプレーのあと、ジュリーニョに代えて櫛引を投入し、CB3枚の5バックに代えて札幌は逃げ切っている(3枚目のカードは、これ以外に考えられない状況ではあったが)。
僅かな隙間を通され、僅かな隙間で受けられる

北海道コンサドーレ札幌 3-1 レノファ山口FC
・48分:都倉 賢(PK)
・53分:内村 圭宏
(66分:退場…深井 一希)
・79分:ジュリーニョ
・82分:庄司 悦大(PK)


3.雑感


 先制点のPKはやや微妙な判定であり、均衡を崩す大きな1点ではあったが、それでも札幌は深井の退場までは非常にオーガナイズされた試合運びができており、攻撃も山口の攻→守のトランジションがやや怪しいところを突いて追加点を挙げることができた。山口は上野監督が「芝に慣れなかった」とコメントしているが、出足の鋭さが感じられず、局面での競り合いで劣勢に回り、やはり当日入りの影響かと思わせる出来だった。

1 件のコメント:

  1. にゃんむる2016年6月3日 2:25

    解説ご苦労様でふ~(´・ω・`)しっかり読んだよー。
    毎回分かりやすくて良いよ。俺もこの試合中に山口がワイドに展開しない事に不満あったんだけど、そこもしっかり書いてある。
    ただ、当日着の試合だったんで、次回アウェイでの元気な山口戦を楽しみにはしている。山口の皆さんが普段より走れてない感じしたし。
    次回もまったり待ってます(・∀・)ノ

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