2025年4月26日土曜日

2025年4月25日(金) 明治安田J2リーグ第11節 RB大宮アルディージャvs北海道コンサドーレ札幌 〜好き嫌い以前の要因〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

J3では無敵からの好循環に:

  • 8年前の7月以来となるNACK5スタジアムでの対戦。この時はマンツーマンなのになぜかアンカーにマンマークをつけない四方田監督のコンサを伊藤彰監督の大宮が90分間振り回していましたが、語り草となる福森のフリーキック2発で勝ち点1を分け合いました。ここからコンサは後半戦の巻き返しに繋げ、大宮は降格の憂き目に遭うこととなります。個人的にはマテウスがここからこんなに大成するというか、F・マリノスでの優勝に貢献するとは思いませんでした。
  • 18、19年はJ1昇格プレーオフに進出したもののその後低迷し、23年にJ3降格、24年にはレッドブルへの経営権譲渡と1年でのJ2復帰、と激動の日々を送る大宮。ピッチ外のビジネス面が整理されてくるとピッチ内にも徐々に波及するのでこのシーズンのダークホースと予想していましたが、ここまで10試合で6勝2分2敗で2位の滑り出しは上々と言ってよいでしょう。
  • ただ磐田、長崎、仙台、そして絶好調のジェフとの対戦がまだ未消化であり、昇格争いにエントリーできるかはここから、といったところでしょうか。

スターティングメンバー:



  • 大宮は4バックの1-4-4-2とした方が実態に近いのでそう表記します。前々節で退場処分を受けた杉本が復帰。CBは市原がいまいち(デカすぎる)期待に応えきれていない感がありましたが中央で先発復帰しています。右ワイドとFWが複数候補が考えられましたが、それぞれ初スタメンの安光と、4試合ぶりスタメンの藤井を選択しました。
  • コンサは試合前にパクミンギュの負傷離脱が発表され更にバックラインの台所事情は厳しくなります。左SBに高嶺をずらしてCBに西野。中村桐耶の本格化が(さすがにそろそろ)待たれるところですが、彼抜きで4バックだと後ろはこれしかない、といったところ。ただベンチに大﨑が復帰しており、4バックのCBとしてはアリなのかは注目ではあります。
  • そして青木も特にアナウンスがなくメンバーを外れており、中盤センターは宮澤と木戸。

2.試合展開

見飽きた展開にログイン:

  • コンサがボールを持つと大宮はカプリーニが下り目の1-4-4-2に近い陣形に変形して、ほぼ枚数を合わせてくる対応からスタートします。
  • 試合を通じて、大宮は家泉にボールが入ると必ず寄せて正面を切ることを徹底しており、さすがに10試合も消化しているのでコンサのボトルネックには気づいていたのでしょう。

  • その見飽きた展開が繰り広げられる中で、コンサはというと、家泉へのサポート体制が十分だったとは思えませんでした。
  • たとえば家泉が持って杉本が正面から寄せてくるときに、家泉の斜め前に宮澤や木戸がポジショニングすることが徹底されていなかったですし、そこは岩政監督体制下のポリシーもあってか、あえて決めていなかったのかもしれませんけど、宮澤が家泉と西野の間に落ちてきたりとか試行錯誤は見られましたが、大宮の1列目を越えるために何をすればよいのか、前半はほぼ全く答えが見つかりませんでした。

  • 杉本に寄せられて困った家泉は、髙尾に横パスするか、GK小次郎に(キツめの)バックパスをするかしかなく、特に髙尾へのパスは完全に読まれていて、大宮の対面の泉が髙尾に寄せてくる。これだけで大宮はコンサの前進をかなりストップすることができていましたし、コンサは髙尾や宮澤、木戸、更には田中克幸といった選手が家泉からボールを引き取ろうとして次々と下がってくる。
  • 前には近藤とバカヨコが孤立した状態で、髙尾やキツめのバックパスを受けた小次郎が前にフィードして、バカヨコが潰れて誰かが拾えば大宮陣内でプレーできるけど…という単調な展開に終始します。

  • 前半コンサが大宮陣内でプレーできたのは、ほぼバカヨコが潰れて誰かが拾って、近藤が突撃して…という形でしたが、中央の選手がボールを引き取りに下がってくるので前線は孤立し、少ない人数でなんとかすることを強いられますので、近藤が味方の攻撃参加を待つというよりは、自分で最後まで完結しなくてはならない状況だったのは必然だったかと思います。

クリーンに前を向けていたのは大宮(バカヨコが空転し続けた理由):

  • という感じで、試合にログインするといつも通り後ろからボールを運んで前進することが困難だったコンサ。となると自分たちでボールを運ぶのではなく、相手が自陣でボールを持っているところをハイプレスで奪って敵陣から攻撃を仕掛ける…という志向の合理性が出てきます。
  • 岩政監督が「相手を圧倒するサッカー」と言っていましたが、ハイプレスで圧倒するとカッコいいからじゃなくて、ハイプレスをする(しないといけない)戦術的な理由が、ボールを運べないDFによって顕在化されているとも言えるでしょう。

  • コンサの選手の様子を見た感じだと、大宮が自陣でボールを持った時、コンサは大宮が1-3-4-2-1のシステムだと想定して↓のような準備をしていたと推察します。
  1. バカヨコが中央に立ってからサイドを決めさせつつCB市原とGKを見て、横パスを阻害
  2. サイドハーフが大宮の3バックの左右の選手からWBの選手へのパスを牽制しながら前に出て3バックの左右を見る
  3. 中央の小島と谷内田は克幸と木戸がマンツーマン気味に対応。
  4. 前5人の対応を突破されたら後ろの選手がスライドして捕まえる

  • しかし大宮が実際には↓のような仕組みだったので、コンサのプレッシングは前半空転し続けます。
  • まず中央にCB(市原)1人ではなく、市原が左、ガブリエウが右でこれまた4バック気味の配置をとり、そしてGK笠原も積極的にボールに関与するので、バカヨコと数的には1v3になってしまいます。
  • バカヨコはこの日、来日以来最高の献身性を発揮して精力的に相手選手を追いかけ回していましたが、それでも1v3で相手に制限をかけるのはかなり難しい、というかほぼ無理でしょう。
  • バカヨコは1人では無理だと早々に察知して、後ろの克幸や木戸に「ついてこい!」みたいな素振りを見せていましたが、この2人の役割をマンツーマンで決めていたため臨機応変にできなかったことと、おそらくこの2人と言語的な問題でコミュニケーションをとって試合中に対応を変えるということができないのが響きました。

  • ここから、たとえばバカヨコが外されてガブリエウが持った時に、コンサはスパチョークがガブリエウ(コンサの想定では3バックの右)→安光(コンサの想定では右WB)のコースを切りながら寄せていく。中央は克幸と木戸がマンツーマン気味に対応。これでガブリエウの近くで受け手となる選手は消したはずでしたが、
  • ↑のように安光が右SBくらい低い位置を取ると、ガブリエウと安光の間に立つスパチョークも中央というよりサイドに寄ったポジショニングになりがちで、中央が空いてしまう。
  • そこから、サイドに張っていたカプリーニが中央に出てくると、パスコースも空いているし受け手のカプリーニも捕まえられていない、という状態になる。大宮としてはカプリーニがほぼフリーで受けて難なく前を向き、クリーンに前進した状態になります。対義語であるクリーンじゃない前進の例は、コンサが放り込んでバカヨコが頑張って潰れて、セカンドボールをまた誰かが頑張って拾って近藤に渡るけど、近藤に渡った時に味方はサポートできていないし、受け手になれないし、近藤自身も相手選手に囲まれている…というようなものです。

列を越える:

  • 他にも大宮は中盤センターの谷内田と小島をフリーにして展開することにも数回成功していましたが、この時はコンサが克幸が前に出てバカヨコのサポートをしようとする。そうするとコンサはバカヨコと克幸、克幸と近藤が”列”を形成しますが、その列の間に谷内田と小島が細かくポジショニングを調整し、コンサの選手の”列”の間を縦パスで越えて、列を越えた状態でターンすることを徹底していました。
  • これはコンサの宮澤や木戸が、家泉を助けようとして下がってくることと対照的で、コンサの場合は下がりすぎて相手の列を越える意識が希薄になっている。
  • だから宮澤が家泉のほぼ隣くらい低い位置でボールを受けても、ボールはほとんど前に運ばれた状態ではないので相手ゴールに近づいてもおらず、それだけではあまり効果的だとは言えません。
  • 逆に大宮の小島が↑のように近藤と克幸の”列”を越えた状態で受けると、近藤、克幸、バカヨコ、スパチョーク、木戸といった選手を置き去りにした状態になるので、あとはコンサの残りの5選手のみを前線の選手で攻略すればよく、前線の選手が仕事をしやすい状態を作ることに成功しています。

  • 大宮は前半、左でやや高い位置を取っている泉にボールを渡して仕掛けることが多く、特に小島は泉の位置を見なくともまるでスクリプトのようにパスを出していたので、チームとして共通理解があることを感じさせます。
  • 泉の仕掛けに藤井、杉本(殆どビルドアップでは仕事がない)が中央で合わせようとしますが、前半はなんとか家泉や西野が身体を張りスコアレスで折り返します。

今日はきれいなタクマ:

  • 後半頭からコンサは木戸→荒野。意外にも?この荒野投入でコンサは戦術的な問題点を解決し試合展開を変えることに成功します。

  • 後半早々、コンサのDFがボールを持った時に、荒野はギリギリまで下がらずに我慢して大宮の”列”を越えることができるところで待ってボールを受けることに成功。荒野には「相手の1列目を意識したポジションで受けてくれ」みたいな明確な指示があったのだと推察します。
  • この試合を通じてコンサが初めて列を越えると、大宮は克幸に明確なマークをつけていないため、浮いている克幸にもようやくボールが入るようになります。

  • そしてコンサは大宮のbuild-upの陣形を見切って、後半はほぼ純粋なマンツーマンに変更。これだけで大宮はGK笠原から放り込む選択に変えますが、コンサがそこを跳ね返せば大宮が整っていない状態で速攻を仕掛ける余地が生じます。

  • たったこれだけで前半、コンサを振り回しまくった大宮の選択が変わるなら拍子抜けというか、前半のうちにマンツーマンに変えても良かった気がしますが、ここまで10試合17失点のコンサとしては慎重に試合に入ったということなのでしょう。
  • 大宮は左サイドの泉と杉本のところに放り込んできます。確かに杉本は大きいですが泉はそうでもないし、杉本があまり身体を張ってくれない嘆きはセレッソサポーターのお約束でした。つまり大宮はこのメンバーだと前線に明確なターゲットがいない。ラッソことファビアンゴンザレスがいたら別なのでしょうけど、大宮が放り込みを選択してからコンサの逆襲が始まります。

  • 52分、笠原から杉本へのフィードは家泉と競って大宮ボールのスローイン。泉に入ったところをマンツーマンを継続していた髙尾が奪って、足裏を使ったフットサルのようなヌルヌルドリブルで抜け出して右の近藤へスルーパス。近藤からバカヨコへのクロスは流れますが拾ったスパチョークが右足に持ち直してシュート。笠原の正面でしたが、この試合でコンサの初の枠内シュートかつボックス内からのシュートでした。
  • 56分にも笠原から左へのフィードを髙尾がインターセプト。近藤、バカヨコと渡って髙尾がボックス付近で再び受けると杉本のファウルを誘って好位置でFK(克幸のシュートは枠外)。60分には大宮の右からのスローインを拾ってからサイドチェンンジ。反対サイドの近藤がスピードに乗った状態で下口との1v1からシュート。ボール保持、非保持ともコンサは形が見え始めます。

得意のかき回す仕事:

  • 59分にコンサは宮澤→深井、62分に大宮はカプリーニ→豊川。宮澤は杉本とのマッチアップが多かったこともあり疲労考慮でしょう。
  • 大宮はそれまでは撤退時の守備は5バックでしたが、豊川が入ってからはほぼ完全な1-4-4-2にシフトします。


  • 豊川は投入直後から、トップに張るというよりは引いてスペースを探したりと”らしさ”を発揮しつつ、杉本とのユニットはほぼ純粋な2トップに近く左右の入れ替えも行うことで、ほぼ純粋なマンツーマンに切り替えたコンサを惑わせます。
  • そして67分、コンサがマンツーマンでセットした状態でGK笠原がフィード。それまでの時間帯はコンサが対処できていましたが、この時は(動画で見切れていますが)引いた豊川に行くか、杉本に行くかで西野と家泉が迷って、杉本がポストプレー成功。豊川が拾って運び、右クロスを一度は髙尾がクリアしましたが、下口が折り返したところを藤井がうまく合わせて大宮が先制。
  • コンサは最初の放り込みを跳ね返すことに失敗して、西野がサイドに釣り出されるなどして一気に崩れた状態に。下口のラストパスからの対応も難しいところですが、まずその前に何らか切っておけなかったのが響きました。

好き嫌いというよりも合理性がある:

  • 得点直後の68分に大宮は藤井→和田。交代する選手を杉本が毎回労っていて重鎮感を漂わせていました。和田が中央で谷内田が右に回ります。
  • コンサは72分に近藤・スパチョーク→長谷川・白井。

  • 大宮は徐々に豊川以外の前線の選手の運動量が落ちてきて、監視が緩くなった家泉もそれまでよりも自信を得たかのようにボールを持った時に縦方向へのパスを試みます。

  • ただ家泉はあまりボールをドリブル(conducción)で運ばないので、縦パスは結構レンジが長めのものになりがちで、それを通そうとすると球足がかなり速く受け手にはコントロールが難しいものになります。
  • 加えてコンサの場合、スタメンの両ワイドがスパチョークと近藤、交代で入った選手も白井と長谷川ということで、DFからの縦パスの受け手としてよりも、縦パスは他の選手に処理してもらってワイドに張ったり前線のスペースに抜け出したり浮いたり…と、味方のお膳立てをしてもらって輝く選手が並んでいる。
  • ですので縦パスの受け手は中央のバカヨコと克幸にほぼ限定され、バカヨコはガブリエウに密着されている状態。

  • 克幸は76分に、家泉の縦パスをうまくフリックして白井が抜け出し、またグラウンダークロスに後から入ってきた長谷川がダイレクトシュート…も枠外、という場面がありましたが、大宮が1-4-4-2で守るとして中盤センター2人の脇を狙うなら、コンサはワイドの選手が中央に絞って受け手になれるとより効果的だったかと思います。
  • コンサの場合、ワイドというか2列目がいずれもそうした似たタイプの選手であるとするなら、受け手となれる克幸を何らか前線に置いておきたいと考えるのも、岩政監督の好き嫌い以前に合理性のある話かと思います。
  • 最後はオープンになりチームとして機能しなくなる中で、それまで我慢していた荒野が大宮ベンチにボールを蹴るなど切れてしまった感というかいつもの顔を露見させるなどして、コントロール不能になって試合終了。

雑感

  • 戦術的には(またまた)後手を踏み、かつチームが目指しているはずのスタイルにアンマッチというかボトルネックになる選手が顕在化する、既視感というか負けパターンだった前半45分。なんとかスコアレスで乗り切り、後半に戦術変更を行って反転攻勢に出ることには成功しましたが、そこで決めきれませんでした。
  • 前半を乗り切っただけでもこれまでよりはマシ、向上しているのかもしれませんが、大宮の前線のパンチ力不足でもあるので惜しいゲームを落としたな、という感がします。11節を消化しだいたいの要素は見えてきたので、あとは選手の入れ替えがなければ、当面は似たような展開になりそうだと予想します。

  • あとは、かつて財前監督体制で宮澤が2列目の左、バルバリッチ監督体制で左のシャドーで起用されたことがありましたが、build-upがクリーンにできず受け手がマークを外せず潰されやすい状況なら、2列目にそうした潰されにくい選手が欲しいところです(もっとも今のチームでそうした選手が思いつきませんが)。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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