2024年9月28日土曜日

2024年9月28日(土)明治安田J1リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vs京都サンガF.C. 〜運を引き寄せるための"何か"〜

ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • 前回サンガスタジアム by Kyoseraで対戦した18節時点では、2勝5分10敗で勝ち点11という状況だった京都。18節から31節は8勝3分2敗(29節のvs鹿島は順延)と脅威の巻き返しで残留争いでは他よりも1歩前に出た感があります。
  • 直近もセレッソ、FC東京、F・マリノスを下して3連勝を飾ったのち、5位ガンバには終了間際に追いつかれての引き分けと好調を維持していますが、いずれもボール支配率は35、40、49、40%と低水準であり(Football LAB参照)、ボールを捨てる戦い方に適した選手の補強、及びその組み合わせを見つけたことが浮上の要因と見てよいでしょう。
  • 選手では、原動力となっているのは前線ではいうまでもなく、ここまで508分出場で9ゴールのラファエルエリアスであり、21節から右サイドに回って6アシストのマルコトゥーリオ、左に回ってワイドストライカーかシャドーのような動きからゴール前に飛び出してくる原とのユニットは、マンツーマンでカバーリング役のいないコンサには特に脅威になるはずです。
  • また夏にDFの補強がありながらも、最終ライン中央では以前として宮本が奮闘しており、サイズ不足という明確な懸念がありながら前線のアタッカーが勝負できるまでチームを持ち堪えさせているのはGKクソンユンと彼の働きが大きいと見ています。
  • メンバーは左SBに佐藤響か三竿で後者としたのは、近藤のサイドに蓋をするという狙いでしょうか。アンカーは福岡、米本と選択肢がある中で金子がリーグ戦5試合ぶりのスタメン出場。

  • コンサは前節試合中に負傷交代した選手のうち、菅野はスタメンに名を連ねましたが、宮澤は第5肋骨骨折と外傷性気胸で離脱が発表されました。また試合にはフル出場していたスパチョークも右ハムストリング肉離れの怪我を負っていたとのことで1ヶ月程度は起用できないでしょう。
  • すでに離脱している髙尾や田中克幸、浅野も欠く中で、駒井と青木を前線に上げ、中央に出場停止明けの荒野と大﨑が復帰、左には菅という、このシーズンの定番的なメンバー構成となりました。


2.試合展開

オープンになりやすい構造と互いのDF(中央)の奮闘:

  • 互いの基本的なスタンスというか振る舞いは、コンサはボールを持っているときに一応フリーの選手を探そうとする意識は感じますが、京都はそうした意識が希薄で、とりあえず前に蹴ってセカンドボールを拾えばよい、とする雰囲気は感じました。
  • ですのでコンサがボールを持っているときに、京都がpressingでハメて高い位置から逆襲する…というシチュエーションは論じることができますが、これとは逆の、京都がボールを持って、コンサがpressingでハメる…みたいな局面は発生しづらい試合だったと思います。

  • コンサがボールを持っているときの京都の配置と仕組みは↓のようなもので、3トップがコンサのGKとCBをマンツーマン気味に見て、SBにはインサイドハーフが出てくるという構造。どちらサイドでプレーするかが決まれば京都のDFはボールサイドにスライドした反対サイドは捨ててきます。

  • コンサとしては京都が捨てている人やスペースにボールを送り込みたいところですが、この、サイドでボールを保持しているシチュエーションで、誰がフリーか、どこのスペースがあいているかを見る余裕はなさそうでした。
  • ですので基本的にはサイドでボールを保持したら裏のスペースに蹴って、武蔵や近藤がスペースに走る。京都のGKソンユンはあまり平面の守備範囲が広くなく飛び出しはやや遅れ気味ですが、それでもコンサがDF背後を強襲するにはもう少し精度が必要という状況でした。
  • 一応開始1分には、菅のスルーパスに青木が抜け出してネットを揺らす(オフサイドの判定)という場面もありましたが、この時はトランジションからでややイレギュラーなシチュエーション。京都の高めのDFライン背後を狙う意図があったかはわからないですが、仮に意図があったにしてはあまりデザインされていない感はありました。

  • 一方で、例えばコンサが↓のような形でボールを失ってトランジションになったとすると、

  • 京都は早いタイミングで反対サイドのオープンなスペースにDFの選手(図では三竿)が出てくることが多い。
  • ここで三竿が対面の近藤を置き去りにした一瞬をうまく使って京都がカウンターでワンパンできればいいのですが、京都はこうしたシチュエーションであまりプレーに全般に精度がなく、なかなかシュートまで繋がらなかったと思います。

  • すると今度は京都のサイドのDFが高い位置にいる状態で京都がボールロストするシチュエーションになる。近藤は背後を取られた状態ですが逆に背後をとっている状態で形成逆転します。
  • ですので京都はこのサイドのDFを上げるならもっと慎重にプレーしないといけなかったと思いますし、特に鳥栖、磐田といった元気のないチームを相手に右サイドで躍動している近藤のスペースを消すための三竿起用だったと思いますが、それにしては京都はイージーにプレーしすぎな印象でした。ただコンサもこうしたチャンスを活かせなかったので、この試合に関してはどっちもどっちなのですが。この辺は、お互いに何とも言えない試合運びだったと感じます。

前線へのサプライチェーンは未整備の京都(コンサもだけど):

  • 京都がボールを持っている時の選択は、先に書いたように前線へのロングフィードが主でした。そのターゲットはトップのラファエルエリアスで、岡村がいるにもかかわらず正攻法というか、例えば原と馬場のマッチップをサイドで狙うとか、そういった"工夫”もオプションとして考えられそうですが、毎回同じパターンだったと思います。

  • もっともそのラファエルエリアスは、サイズ以上に前線で体を張るとか味方に時間を作るプレーが巧みでした。このことに加え、京都は原がほとんどウイングとしてプレーすることはなくほぼ2トップの一角かシャドーのような振る舞いで、京都ボールの際は最初から中央に入ってきます。
  • そのため、コンサは大﨑がラファエルと岡村の背後のカバーリングと原のケアを兼ねる役割のようなイメージで、京都が放り込んでくる際にあらかじめ下がってプレーすることが多くなります(原が最初から中央にいるので大﨑も早めに中央で待っている必要がある)。

  • マッチアップ的には↑の図の通り、平戸が浮くことになり、京都のロングボール攻勢が前半わりと京都ボールになっていた気がしたのはこうした影響もあったかもしれません。

  • そんな感じで何らか前線にボール供給が成功することで、ようやく京都の好調な3トップがコンサゴール付近でアクションを仕掛けられる状況が到来しますが、京都の前線のキーマンは実はマルコトゥーリオで、少なくともこの日のような試合展開では、ゴール数が多いラファエルエリアスや原よりも重要な選手だと感じます。
  • ラファエルエリアスと原は基本的に中央で待っているフィニッシャーで、特に原はゴール前以外でほとんど仕事をしない。店舗だけ設置しても、生産拠点に原料や労働力を供給しないとそもそも製品を作れないのと一緒で、中央に原がいても彼を活かせるラストパスが必要になります。
  • ラファエルエリアスが岡村とマッチアップして潰れ役も兼ねる、しかも原とラファエルで中央でプレーエリアが重複しているとなると、比較的空いているサイドのスペースを使えるのはマルコトゥーリオだけになる。
  • 一応福田のオーバーラップもありますが、この日の京都のように後ろから長いボールを蹴るやり方だとDFがオーバーラップする時間を作れないので、コンサの枚数が揃う前にフィニッシュに持ち込みたいなら最初から前にいる選手で完結する必要があります。

  • 前半2度ほど右にマルコトゥーリオが流れてクロスボール、という場面がありましたが、繰り返しになりますが原がウイングのプレーをしないので、京都はほぼこのパターンしかない状態でした。

  • こうした場面で決めていれば全然別の展開だったと思いますが、コンサが42分にセットプレーから岡村のゴールで先制します。京都のGKソンユンを脅かすプレーはそれまでほとんどありませんでした(9分に縦パスから宮本のミスを拾って駒井が1v1でシュートしてブロックされたものくらい)でしたが、おそらく当たった位置が幸運でもあったのでしょうけどスコアを動かします。


明らかな悪手かな:

  • 後半コンサは54分に荒野→深井。京都は67分に平戸・マルコトゥーリオ→米本・豊川。
  • まずこの20分ほどの間、基本的には両チームの振る舞いは同じで、京都はボールを捨てつつ、何らか前線に供給できるシチュエーションでは決まって右サイドから。
  • コンサで特筆するとしたら、京都の右、コンサの左からの攻撃に対し、20分ほどの間に菅が2度か3度、得意のプレスバックからのブロックで非常に直接的な方法でチームを救っていました。

  • 70分にコンサは武蔵・馬場→ジョルディ→バカヨコ。京都は直後71分に金子・宮本→ムリロコスタ・ルーカスオリヴェイラ。65分をすぎて両チームが立て続けに交代カードを切りましたが、ここでの選択は試合に大きく影響したと思います。


  • まずコンサがFWを2人入れたのは、あまりパワーもスピードも感じない京都のCBに対してどこかで強引に勝負することを元々考えていたのでしょう。京都も武蔵や駒井との勝負で消耗した宮本を下げたのはフィジカル的な側面が大きいと思います。なおルーカスオリヴェイラはおそらく左利きですが、そのまま右に入っていました。

  • 影響が大きかったのは京都の前線の変化と、それとマッチアップするコンサの後方の部分。京都はマルコトゥーリオを下げたことで、前線で常時4人が中央に密集する渋滞状態。かつ、ラファエルと原はストライカーで重複気味なのに加え、豊川も本来はシャドーというか中央の選手、後から入ってきたムリロコスタは、利き足は左で、実況曰く「スピードがある選手」ということでしたがそういう風には全く見えず、彼もまた途中から中央でボールを受けたがるようになり、真ん中でボールを要求する人は増えたけどデリバリーは余計雑になるという状態でした。


  • 対するコンサは、京都がとにかく中央に人を集めて放り込んでくる状態。荒野よりも動かない深井を早めに入れてボールを拾いつつあまり急がない展開にしたのもそうですが、馬場を下げて大﨑を右DFにした采配が当たりでした。
  • というのも、原が左ウイングとして振る舞わないので、元々右DFの馬場よりも大﨑が原を見ることがそれまでの時間帯でも多かったため、馬場を右DFとして残す必要性は薄く、その分を前線のパワーのあるFWの選手としたことで不安定な京都のDFに圧力をかけることに成功しました。
  • DFを削るという意味では、勇気のある采配ではありましたが同時にロジックも明確にありましたし、少なくとも同じ時間帯の交代策に関してはコンサが明確に京都を上回りました。最後カウンター合戦となってから何度目かのチャンスを決めたことも含め、一定の妥当性はあったと感じます。


雑感

  • 岡村のゴールなども含めコンサに運があったとは思います。一方、早々にマルコトゥーリオを下げた京都と、深井を入れ、大﨑を残して馬場を下げたコンサ。選手交代で明暗が分かれた部分もありますし、いくつかのアプローチによっては運を引き寄せることができたとも言えるでしょう。
  • あとは、そもそも交代策以前に京都のスカッドのいびつさ(3トップ採用なのにワイド適正の選手がいない)も問題ではあるでしょう。ベンチにドリブラータイプの選手がいないのもあってコンサとしては助かる展開ではありました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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