2024年9月12日木曜日

2024年9月8日(日)JリーグYBCルヴァンカップ プライムラウンド 準々決勝第2戦 北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノス 〜工夫は評価すべきか?〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • F・マリノスの5点リードで折り返した1戦目から、コンサは髙尾、菅、駒井、馬場を引き続き起用し、メンバー外となった大﨑とベンチスタートのパクミンギュ以外はリーグ戦での起用が多い選手を送り込んできました。
  • F・マリノスも喜田以外はほぼベストメンバーと言ってよいでしょう。
  • これについては、コンサは敗退が濃厚だから主力を休ませるべき、とする主張もあるようですが、まずプロのチームとして公式戦や公式大会を”捨てる”という考え方は本来容認し難いものだと思いますし、加えて週1で選手はゲームを行うことを念頭において身体を作っているので、仮にコンサの主力選手がこの試合を見送っても試合の前後の日にトレーニングマッチ等で実戦に近い想定でのプレー機会を確保することになるでしょう。
  • それならば北海道の大学生やプロ未満のクラブと対戦するよりも、F・マリノスとの公式戦という機会を活かした方がリーグ戦を見据えたコンディション維持の観点でも有益ですし、練習場でのトレーニングや大学生とのトレーニングマッチでも故障のリスクはありますので(直近では長谷川の負傷は日大とのトレーニングマッチでした)、コンサの判断自体はおかしいことではないと私は考えます。

2.試合展開

青木 大忙し:

  • マッチアップ的には、F・マリノスがボールを持っている時は、ニュートラルな状態では↓のようにこのカードで何度も見た、各ポジションでマンツーマンというかコンサが同数で対応する構図になります。
  • 選手特性のところで特筆するとしたら、松原と永戸はボールを持っていない時は中央に頻繁に入ってプレーする。西村は天野のように下がらず前方向を向いてプレーする意識が強く、アンデルソンロペスや前線のウイングがキープしたボールを確保してからの仕掛けを狙っている。そしてアンデルソンロペスは植中以上にボールを収める意識が強く、時に低い位置まで下がってくる、といった特徴があります。

  • 一方で”ニュートラルな状態”以外になると事情が少し変わってきます。
  • 例えばF・マリノスが左サイドでボールを保持して何らか展開してくる(基本的には前のアタッカーにシンプルに蹴ってくる)シチュエーションだと、コンサは早い段階から中村桐耶がアンデルソンロペスにスライドして2v1を作っていて、中村桐耶が捨てたヤンマテウスは菅に預けるという対応が多かったです。
  • 一方で右サイドでは、髙尾と田中宏武のところで似た対応をすることは少なくて、宏武は前残り気味なのに対し、菅は激しく上下動するという非対称性がありました。ここは監督の指示というか、大﨑監督がいない中で何らか選手間で調整しているのではないかと推察します(後述)。
  • コンサで特に頑張っていたというか動く範囲が広かったと見えたのが、先述の菅と青木。中盤センターでは馬場がアンカーですが、馬場は動き回る西村についていきますし、特に西村の場合はほぼトップに並ぶこともあったので、中央にコンサは誰もいない状態になる。
  • こうした時に青木が気を利かせるというか、持ち前の危機察知能力を発揮するというか、中央のスペースに下がってカバーリングというかまずスペースを埋めていました。その青木は役割としては、山根をマンツーマンで守ることも怠ってはならないので、前で山根のケアをしながら下がってスペースを埋めるというタスクの両立は、必然と運動量が要求されることになったと思います。

  • F・マリノスの先制点の際も、やはりシンプルなロングボールからでしたが、この際も中村桐耶はヤンマテウスを守るよりは、F・マリノスのFW(のところに入れ替わっている西村)と馬場のマッチアップのカバーリングをするために中央に絞るべきかを気にしていたのでしょう。
  • なおこの失点については、中村桐耶よりもまず馬場の責任だと思います。コンサはこういう時に1v1で対応するのが大前提なので、馬場が後逸させたことが発端であるからです。

青木 大忙し その2:

  • 先ほどコンサのマンツーマンをやや崩した対応について「何らか選手間で話し合って決めているのではないか」と推察した理由は、ボールを持っている際にもこれまでのやり方を崩したような要素が試合の序盤から多かったこと、さらに言えば、それらはあまりチームとして機能しておらずチグハグさを感じたからです。
  • まずボールを持っている時に、立ち上がりからコンサは菅野が長いボールを蹴ることがこれまで以上に多かったです。コンサには武蔵がいますが、F・マリノスにもエドゥアルドと上島がいますので(いつぞやの武蔵v湘南の大岩のマッチアップのように)蹴るだけで押し込める状況ではありませんでしたが、菅野は意図的に蹴っていたと思います。
  • 普通に考えればF・マリノスのハイプレスを警戒してなのですが、5ゴールが必要な状況下においてはややリスク回避的な選択ではあったかもしれません。ともかくF・マリノスもコンサもロングボールを多用していたのもあって、序盤から人とボールが行ったり来たり(コンサでは特に菅と青木が)な展開ではあったと思います。

  • 菅野がボールをつなぐ選択を見せるようになると、こちらもマンツーマン気味のF・マリノスに対し、コンサはサイドに展開からのサイドチェンジというお馴染みの選択で突破口を探ります。
  • が、この試合はポジションと本来の役割を守らずに自由というかアナーキーな動きをしていた選手が何人かいました。具体的には中村桐耶、菅、駒井です。
  • 左サイドは中村桐耶が中に入ったり、菅が本来いる位置にまで進出して菅が中に入ったりとするポジションチェンジが頻繁に見られました。気になったのは、それらがいずれもコンサがボールを持った時に早いタイミングで行われていたことです。
  • たとえば菅が最初から中に入ってしまうと菅野や岡村、髙尾が左サイドに展開したい時に受け手に慣れなくなる。岡村や馬場が左から運びたい時に中村桐耶に預けることができなくなる、といった本来はチームに備わっている選択肢を消すことにもなっていたのと、その場合にコンサは「とりあえず前に蹴る」という速い(速すぎる)展開を招くプレー選択に終始するので、こうした中村や菅の振る舞いはチームを安定させることにはならなかったと思います。
  • ただ菅に関しては、先に述べたように、F・マリノスの攻撃に対して菅がアップダウンして左サイドのスペースを埋めることになっていたので、いずれにせよ菅がこの試合”定位置”を意識してプレーすることは難しかったかもしれません。



  • こうした左サイドの不安定さ、菅がアップダウンするタスクを抱えていて常に高い位置に張ることができない、そして青木、馬場、岡村と右利きが中央に並ぶこともあって、田中宏武のプレー機会は割と多く与えられることになりましたが、宏武からの仕掛けはいずれも前半不発に終わります。
  • これは1v1で勝負する能力の欠如というよりは、全体的に宏武と他の選手のスピードというかタイミングが合っていない、出し手(この場合は基本的に宏武)と受け手(武蔵やスパチョーク)のイメージが一致していない、といったユニットとして足りない部分をより感じました。
  • 右サイドだと宏武は常に右足でボールを持って、基本的にはどこかのタイミングで加速をしてDFと勝負し、最終的には右足クロスでフィニッシュを狙いますが、武蔵やスパチョークはそうしたクロスボールを想定している待ち方ができているように見えませんでしたし、またサイズがあり跳ね返す能力を備えるエドゥアルドと上島を越えるか、GKとDFの間にクロスボールか、といった狙い所がコンサにはよく見えませんでした。

青木 大忙し その3:

  • そしてF・マリノス陣内での宏武や他のアタッカーによる仕掛けの際も、コンサはよく言えば選手間でなんらか工夫してプレーしているのでしょうけど、悪く言えばポジショニングがバラバラというか崩れていて、ここも本来存在しうる選択肢をかえって打ち消すような状態になっていることがありました。
  • F・マリノスはほぼ6枚ブロックで4人が前残りというかなりルーズな状態が多く、この相手ならサイドアタッカーが大外に張って横幅を使った攻撃を仕掛ければ選手間が開いてスペースが生じたりスライドが間に合わなくなってどちらかのサイドが開いたりします。しかしコンサは駒井やスパチョーク、馬場が最初からボールサイドや中央(≒最後に使いたいスペース)にマークを引き連れて突っ込んできて、味方が仕掛けるスペースや後で使うスペースを打ち消していたことが、マリノスの6枚ブロックを攻略できなかった理由の一つだと思います。

  • そして↓のように、F・マリノス陣内でコンサがプレーしている時に、青木だけでなく馬場もゴール前に突っ込んでくる(というか、コンサはとりあえずゴール前の枚数確保の意識だけは強かった)と、コンサのDFと前線に張り付く選手との間にスペースが生じて、トランジションからF・マリノスの強力アタッカーによるカウンターが生じやすい構造になっていました。
  • 普通に考えればここは馬場がフィルター役で、青木がよりフリーマンというか前線で何らかゴール前の局面に絡む役割分担なのでしょうけど、むしろ激しく動く馬場を横目に青木がバランスを取ろうとしていたように見えました(バランスをとるといっても青木がF・マリノスのカウンターを止められるわけでもなく)。

適正はあるはずなので:

  • 後半頭からF・マリノスは西村→天野。勝ち抜けを考えると得点的には十分なので、アタッカータイプの西村よりはバランスを取れる選手に変えてきたというところでしょうか。
  • コンサは宏武→バカヨコ、中村桐耶→パクミンギュで、青木が左、菅がついに右に。


  • 後半開始早々にその菅のミドルシュートが永戸に当たってコースが入って決まり、 


  • お互いにオープンな展開から、F・マリノスの2度ほどの決定機を菅野のビッグセーブとクロスバーに救われて凌いだのちに、77分に菅の2点目で(この試合に関しては)逆転、という展開でした。 


  • サイドは変わりましたがどちらも得意なプレー。一方で青木のように相手と1v1の状態からスピードを調整しつつ、味方の動きに合わせてインスイングのクロスボールでフィニッシュ…のようなプレーは見られず、左でも右でも突っ込んでいくのは変わりませんでした。

雑感

  • 「青木と(今日いないけど)大﨑のチームだな」という感想です。後半コンサは前線に武蔵、バカヨコ、ジョルディ、スパチョーク、小林…といった選手を並べますが、武蔵、バカヨコ、ジョルディとゴール前にいる選手がいずれも9番タイプで丁寧なラストパスを必要とする選手。菅の右サイドからの2ゴールにどうしても目が行きますが、私は点を取るために青木を中央からより仕掛けられる位置に配置転換したことが功を奏したという見方をします。それでは皆さん、カップ戦のことは忘れ、また逢う日までごきげんよう。

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