2024年5月20日月曜日

2024年5月19日(日)明治安田J1リーグ第15節 柏レイソルvs北海道コンサドーレ札幌 〜ジエゴ木花道〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 東京はこの週末から初夏の陽気を感じる気温で(といっても昨今の酷暑下ではこれぐらいでは初夏と言えないかもしれませんが)、Jリーグのキックオフ時間はまだ日中に設定されているカードも多いですが、16時キックオフは気温的にはちょうどいい時間帯でしょうか。
  • 柏は中盤センターで開幕スタメンだった高嶺と、左右のサイドハーフで出場していた山田雄士が離脱中。ただ全体としては、混迷を極めた前のシーズンよりは戦力アップに成功している印象で、右には島村、中央には白井、右SBには拓殖大学4年生の関根がそれぞれ重要なプレイヤーとなっており、昨年後半戦の立て直しに大きく貢献したCBの犬飼、スーパーエースのマテウスサヴィオも健在。1試合未消化で勝ち点18の12位につけていますが、細谷が前節湘南戦でようやく初ゴール&代表活動で離脱が多かったことを考慮してもまずまずの滑り出しではないでしょうか。
  • この日のメンバーは、大卒2年目の熊澤がトップに入り、2列目攻撃的MFにマテウスサヴィオと小屋松を併用、この位置での起用が多い戸嶋が久々に中盤センターに入るいつもと異なる布陣。この狙いについては後ほど考察します。

  • コンサは浅野が前節試合中の負傷(肉離れ)で離脱。前線はゴニとスパチョーク、駒井の並びになるので、ボールを持っていない時は駒井が下がってスパチョークは2トップの一角になります。宮澤と岡村は、宮澤が熊澤、岡村が細谷を担当するマンツーマンを徹底していて受け渡しはほぼ全くなしなので、左右は頻繁に入れ替わる関係性です。


普通に考えれば:

  • 昨年のこのカードは対照的な2試合で、柏での1戦目は4−5というスコアでコンサが勝利。
  • この時は、柏は高い位置からpressingをしようとしていましたが中途半端な対応に終始し、前で守るのか後ろで守るのか不明瞭なままコンサのWBへのフィードからDFがズレまくるという、前後分断でプレーするミシャシステム相手では最悪の対応をしてしまいました。ただコンサのザルさや特にボールを持っている際のリスク管理のひどさも中々で、柏がボールを引っ掛ければ簡単にロングカウンターできてしまうという状況も見られました。
  • 札幌ドームでの2戦目は1−2で柏が勝利。この時は、柏は前線からpressingというよりコンサのパスコースを切りつつボールを持たせる選択に転換し、コンサのウイングバックにはSBとSHの2枚で対応を徹底。マテウスサヴィオや細谷、小屋松といったカウンター向きな選手の能力を活かして2ゴールを奪い日立台でのリベンジを果たしました。
  • 普通に考えれば札幌ドームでの戦略…コンサにボールは持たせるけど、横幅を使った攻撃はケアして手詰まりにさせロングカウンターを狙う、を採用するだろうなと思っていましたが、実際は柏はそこまで横幅をケアしていなくて、コンサのサイドチェンジは頻繁に成功していましたしそこからお互いオープンに殴り合う展開が誘発していました。


2.試合展開

FW熊澤の妥当性と是非:

  • 試合はお互いに相手のGKまでにはプレスをかけない状態からスタート。
  • 厳密には、柏はコンサのSBがボールを持つのはOK、コンサは柏のSBに対しても前に出て自由に持たせないとする対応だったので、お互いの対応はほぼ同じ、とまでは言えなさそうですが、ただお互いに相手にボールを持たせた状態からプレッシャーをかけてハメて相手ゴールに迫りたい、そのためにはまず相手にボールを持たせて、蹴らせて回収したい、と考えていたのはおそらくコンサも柏も似たようなものだったと思います。

  • この際に、コンサがマンマークでハメてくるというかGKのパスの出し手を消してくるのは、柏は想定していたがゆえのFW熊澤だったでしょう。柏はGK松本46、CBの古賀と犬飼から、詰まりそうになると無理せず熊澤にロングフィードを当て、熊澤のポストプレーが成功すれば2列目のマテウスサヴィオと小屋松が引き取って、手薄なコンサDFを強襲したいと考えていたと思います。


  • なんで熊澤なのか?というと後半の選手交代を見ればなんとなく察します。190cmのFW木下が61分に登場するのですが、この選手はDFを背負ってプレーするのがあまり上手くなくて、中村桐耶にも体を入れられてボールを失ってしまっていたし、木下と細谷の2トップになると前線で体を張って潰れ役になっていたのは細谷でした。
  • つまりこのユニットだと、細谷を本来のゴールに向かってプレーする役割に専念させることができないというか、木下も細谷同様にストライカーとして運用すべき選手で、潰れ役にはなれないのでしょう。マンツーマンでハメてくるコンサ相手にはロングフィードでの回避とそのボールの受け手、前線の潰れ役が不可欠なので熊澤にその役目を託したということです。

  • ただ熊澤は、潰れ役としてはプレーが全体的にややクリーンすぎる印象で、宮澤を背負ってプレーするのですが、宮澤に対して自分から身体をぶつけるとか、タイミングをずらして先に飛んでボールに触るとかそういう選択をあまりせず割と素直に宮澤と戦っていました。
  • 私は宮澤はCBとしては読みで勝負するタイプだと見ていて、肉体的にゴリゴリ来られて消耗すると終盤のパフォーマンス低下が顕著ですし足も速くない。だから熊澤はもっと宮澤を動かして消耗させるたほうが良さそう、と感じましたが、寧ろ、不慣れな役目であるからか、前半終了間際くらいには熊澤の方が消耗が激しそうでした。交代は予定通りだったと思いますが、宮澤を消耗させるというミッションはいまいちだったと思います。


柏の中央誘導にサイドチェンジで対抗:

  • コンサが自陣でボールを持っている時の柏の対応は、2トップがセンターサークルをやや超えたくらいに設定していて、コンサのDF(岡村、宮澤、馬場、菅)にはとりあえずボールは持たせていい、という対応でした。

  • 例によってアンカーの荒野にうまくボールを出し入れできないコンサが、サイドの馬場と菅(基本的にはいつも通り、馬場に偏重していた)に渡すと柏は守備のスイッチが起動されます。
  • 柏はサイドのMF(小屋松とサヴィオ)が対面のDFの縦を切って、基本的には中央方向に誘導し、中央でボールを引っ掛けてカウンターをしたかったのだと思います。この狙い通りに中央で回収して、小屋松、サヴィオ、そして戸嶋といった選手がボールを運べるのが柏のスカッドを俯瞰した時の強みであり、ボールを持っている時にリスクを考慮していないかのようなポジショニングが目立つコンサに対し、何度かナイフを突き立てる状況にありました。

  • 一方で柏の問題であり、コンサにとっての突破口であったのは、コンサはボールを運ぶのはあまり得意ではないけどサイドチェンジだけはそこそこできるという点。
  • これは井原監督としても1年前にサイドチェンジからボコボコにされたので(コンサもボコボコにされてたけど)、コンサにはそれがあるというのは絶対わかっているはずなのですが、柏の対応は①反対サイドは捨てる、②サイドチェンジされたらSBかSHが状況に応じ対応、ただし基本的に中盤の選手は最終ラインのスペースを埋めない、という感じで、かつ反対サイドを捨てている割には③馬場や菅、荒野がボールを持ってルックアップし(明らかに)反対サイドを探した時にもSHはそこまで寄せない、という感じで、総括すると反対サイドを捨てている割にはあまりケアしていない状態に感じました。

  • このサイドチェンジが成功すると、コンサは多くの選手が柏陣内に侵入することになり、柏はゴール前で撤退守備に移行するのですが、柏のDFはサイズはあるけど、犬飼以外はあまり対空能力、クロス処理能力がなく、危うさを露呈していたと思います。

ジエゴ周辺のミスマッチ:

  • この試合を通じて最も”何か”が起こりそうだったシチュエーションを挙げるとするなら、柏の左SBジエゴの周囲にコンサの選手(駒井や近藤)が定位置となるポジショニングをとれている状況で、ジエゴ周辺にクロスボールや縦パスが入ったとき
  • まず柏はほぼ1-4-4-2の陣形を維持して守るので、コンサが前線に5枚を並べると、ジエゴは状況に応じて大外の近藤や馬場、シャドーの位置に入ってくる駒井や近藤(外にも中にも移動する)を見ることになります。これは柏の他のDFの選手も都度受け渡しながら対応するのは同じです。
  • この際①まず単純に1人で2人を見るのはかなり大変だという点。加えて②ジエゴの周囲の選手が駒井や近藤という小さくて小回りがきくタイプの選手で、選手特性的に捕まえるのが難しいという点。そして③中央のFWゴニを見る犬飼と古賀の受け渡しもあまりうまくいっていなかったので、ジエゴも中央に絞らざるを得ない場面が全般にみられた点、④ジエゴは大外を小屋松にカバーして欲しそうだったが、小屋松が下がって対応するのが遅れがちだった点(寧ろサヴィオの方が危機察知能力が高いというか、青木にボールが渡りそうになると戻る判断が早かった)…
  • など色々要因として感じるところはあるのですが、コンサが左からクロスをファーサイドに入れるとか、もしくは縦パスをFWのゴニに入れてゴニがジエゴの背後に流したりしてジエゴの周辺をアタックすると”何か”が起こりそうでした。
  • 20分過ぎに縦パスをおさめたゴニのフリックから、駒井がジエゴの背後に抜け出してGKと1対1でシュート…の場面はコンサにしては「あとは決めるだけ」だったかもしれません。
  • あとは、近藤は常に大外で、ジエゴの背後にへばりつくようなポジションを取っていて、それはウインガーとしての仕事は放棄している感じはするのですが、左サイドからのクロスボールが流れてくると近藤が背後でファー詰めできるところにいる、一方で自分の前には駒井かゴニがいる(しかもマークは曖昧)というシチュエーションはジエゴとしては嫌だったと思います。

互いにキープレイヤー交代からの半オープン化へ:

  • 得点経過は、20分に柏がCKから戸嶋のゴールで先制。

  • ストーン1人(ゴニ)以外はコンサはマンマーク。戸嶋が菅のマークを外して中央でフリーになり最後詰めましたが、ニアで近藤vs細谷、ファーで岡村vs犬飼のマッチアップでそれぞれ負けてしまって、特にニアで細谷が触ったのは意図するボールではなかったにせよ、今年のコンサで多い「ニアに速いボールを蹴られてクリアできずファーに流れて被弾」のパターンに入るものでしょう。

  • 後半開始早々にコンサが駒井のゴールで追いつきます。ゴニが古賀の前に飛び込んだことで潰れた格好となりジエゴのミスを誘いました。

  • この試合、コンサの枠内シュートのカウントはDAZNで6本、スポナビで4本。より厳密だと思われる後者を念頭に置くと、4本の内訳は先述の駒井の飛び出しと、このゴール、ATの原のシュートの他に、前半開始2分のゴニのボレーシュートがカウントされていると思います。
  • 柏は前後半とも立ち上がりにやや”寝ていた”傾向があったと言えるかもしれません。立ち上がりのプレーでコンサは長いボールを放り込んで押し込もうとする傾向があるのですが、このゴールも菅のシンプルな放り込みから、ゴニが犬飼の背後をとったところからでした。
  • もっとも裏を返せばコンサはこうした立ち上がりなど、柏の集中が切れている時にラッシュをかけるしか、なかなか決定機がなかったとも言えます。

  • コンサにとって痛かったのは、58分に青木がもも裏を痛めて原と交代。
  • 61分には柏が3枚(熊澤→木下、小屋松→島村、戸嶋→土屋)、コンサが1枚(近藤→中村桐耶)のカードを切り、以下の布陣となります。

  • コンサは左で余っていた青木、柏は前線で身体を張っていた熊澤と、お互いに(チームの中では比較的)ボールを落ち着かせる役割を担っていた選手が交代し、代わりに中村桐耶、木下、島村、原といった、ボールが収まる、落ち着くというかは、前に出ていく能力に魅力のある選手がピッチ上に増えたこともあって、後半の早めの時間帯からややオープンな展開というか、お互いに奪ったらカウンターの応酬になっていったと思います。

  • どちらかというとサヴィオが疲れて、小屋松と戸嶋がピッチを去った柏の方がパフォーマンスが落ちていて、せっかく交代で入った、右で待つ島村にも殆どボールが供給されなかったと思います。
  • 逆にコンサは左SBの位置から中村桐耶が、かつてCavalloと呼ばれた長いストライドのドリブルで突撃したりと見せ場を作ってもいましたが、ATのジエゴのゴールはその中村のドリブルから大森に渡したところを犬飼がストップした展開から。
  • このゴールの前に、柏は関根→川口、サヴィオ→鵜木とそのままの位置に入る交代。コンサはスパチョーク→大森はいいとして、荒野→家泉で家泉が最終ライン、宮澤が中盤センターに上がるのかと思えば家泉がそのまま中盤センターに入るという予想外のカードでした。
  • コンサのベンチとしては、オープンな展開になっていることへの懸念で、中央で放り込みを跳ね返してくれる家泉だったのでしょうけど(ただ最終ラインに置くのが怖かったのか?)、北海道新聞のコメントなどによると、そこで混乱がなくはなかったようです。
  • ただ、(中村が悪いという話ではないのですが)選手起用というより全体に縦に急ぎすぎる、攻撃参加の厚みがあるのはいいけど本来のポジションから乖離する(DFのドリブル突撃やオーバーラップなど)がコンサの場合はあまりに多いので、結局そうしてバランスが崩れると誰かがカバーする、では最低限の秩序を維持できないですし、最後はジエゴがフリーでしたが原でなくともあそこは止めるのが難しいシチュエーションだったかなと思います。

雑感

  • まず柏はもう少しファーサイドの対応、コンサのサイドチェンジをケアしてくると思っていましたが意外とルーズで、特にジエゴのところは昨年起用されていた片山がうまく対処していただけに、左利きでサイズがあるという点しか片山を差し置いて試合に出る理由がなさそうなジエゴに任せておくのはコンサにはチャンスだな、と見ていました。
  • そんなジエゴに最後は豪快に決められるのですが…(自陣では簡単に目測を誤るし20cm小さい駒井に競り負けるし、で、あんな結末は想像していませんでした)。繰り返しですが、原の守備がどうとかではなく、オープンな展開で打ち合うなら点を取らないとダメでしょう。
  • あとは、右の近藤が仕掛けないで我慢するという原則?約束事?狙い?が固まりつつあり、左の青木が絶好調かつ自由なポジショニングからミドルシュートにクロスにサイドチェンジにスルーパスにと躍動し、味方の信頼も厚いようで、だんだんと(左シャドーにチャナティップがいた時ぶりに)左サイドアタックのチームにまた戻っていると感じますが、その青木が負傷でおそらく離脱となりそうです。
  • 青木と浅野抜きで鹿島、6月のヴェルディ、中断を挟んで京都と続きますが、特に(監督が変わりそうな)目下最下位の京都戦で浅野が戻ってきてくれるといいのですが…。彼らが起用できないなら、失点しないことの重要性はより大きくなりますが、(選手も監督も変わらない前提なら)これといって打つ手が思い浮かばないのが現状です。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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